PLAY39 国境の村の激闘Ⅱ(私が動かないでどうするんだ) ④
「っ!」
ぐっと、ヘルナイトさんが立ち上がろうとした。
いつもの強い面影はない。というか……『封魔石』のせいで力が出ないんだ。
まるでどこかの子供向け番組のようなそれだけど……、リアルにはっきりと言える。
これは絶体絶命だと……。
ヘルナイトさんはそれでも立ち上がろうとしている。
力が出ない状況でも立ち上がろうとしているヘルナイトさん。それを見た私は――
「――待ってっ!」
私はぐっと、ヘルナイトさんの肩を下に押し付けて――それ以上立たないでという止め方をした。
自分でも驚いてしまうほど私はヘルナイトさんに対して無意識にその行動をして、ヘルナイトさんの動きを、行動を止めていた。
本当に今でも驚いてしまいそうな行動だった。必死に、動かないでと言う気持ちが体に出たかのように……、正直に、無我夢中で――
それを受けたヘルナイトさんははっとして――私を見上げながら……。
「は、ハンナ……。なぜ……っ!」
「今は動かないでください……っ! お願いだから動かないで……っ!」
ぎゅっと押し付けて、私は嘆願する様に言う。
それを聞いたヘルナイトさんは私の肩に手を置き――安心させるような言葉を、凛とした音色で苦しそうにしながら吐いた。
「大丈夫だ……っ! 私ならこのくらいの訓練はしていた……っ! 多少は」
「――あんた達は下がっててっ!」
「「っ!?」」
シェーラちゃんの怒声が私達に向かって飛んできた。
それを聞いて私とヘルナイトさんはぎょっとして驚いて、背後を見ると (ヘルナイトさんは前を向いて)その光景を見て、私は言葉を失いながら顔を不安に歪ませた。
シェーラちゃん達は風を纏ったリョクシュに戦いを挑みながら、攻防を続けていた。
アキにぃは遠距離の戦法を投げ捨て、『ホークス』を手に持ちながら接近戦をしながら乱射をしている。
キョウヤさんとシェーラちゃんに当たらないように、細心の注意を払いながら。
シェーラちゃんは剣を使って、キョウヤさんは槍の刃を向けながら――二人で交互に攻撃を繰り出そうとする。
リョクシュはそれを見て、鎖に繋がれた斧を振り回しながら、その攻撃を未然に防ぐように、ぐるんぐるんと――体をふんだんに使いながら、己も回って振り回す。
それを見て、シェーラちゃんは驚いて海老反りになって避けようとした。
でも――
ぶわりと、斧を中心に風が爆発した。
それを受けてシェーラちゃんは「わっ!」と吹き飛ばされるけど、すぐに地面に向けてたたきつけられる。
――だんっ! と、背中から受けて……。
「あぅっ!」
シェーラちゃんは衝撃で咳込む。それを見た私はすぐに手をかざして――
「『
と叫ぶと――ふわりと青い光がシェーラちゃんを包んで、傷を癒す。それを感じたシェーラちゃんはすくっと起き上がりながら私の方を見て――
「ありがと! でも今はヘルナイトと一緒にいなさいっ!」と、慌てた様子ですぐに駆け出す。
それを見て、私はその光景を見てしまう。
リョクシュはそのままぐるんぐるんっと回していたそれを止めて、その勢いを殺さないで――キョウヤさんに向けてその斧を切りつけようとした。
それを見たキョウヤさんは、リョクシュに近付きながら、槍の棒を使ってそれを止める。
ごぉんっ! と、音が鳴るような衝撃と共に、それを止める。
それを見たリョクシュは「ひゅぅ!」と口笛を吹きながら、キョウヤさんに一気に近付いて、口からずるりと短剣を吐き出す。
そしてそれを鎖を掴んでいた手を離して、それを掴んでから――ぐわりとキョウヤさんの顔……、目にそれを突き刺そうとしていた。
それを見たキョウヤさんははっとしてそれを見ていたけど、私が手をかざして『
張ってからならいいけど、もう至近距離。
これでは意味がないっ!
そう思った瞬間――
「キョウヤ行くよっ!」
アキにぃに声が聞こえたと思った瞬間――
ばぁんっ! となる音。そして同時に聞こえたぎぃんっという反響音。
そのあとすぐにリョクシュのナイフを持っていた手が、少し横にずれる。刃に当たった弾のせいで、軌道がずれたんだ。
それを見たキョウヤさんは、すかさずそのナイフの刃を歯でがぶりと齧り付いて、そのあとそれを無理矢理ひったくる。
「んんんんっ!」
唸るような声を上げるキョウヤさん。
そして掴んでいたせいで、そのままキョウヤさんに向かって前のめりになりそうになるリョクシュ。
キョウヤさんはそのままナイフを奪って――柄の方をかじってから、リョクシュの目元にそれを向ける。
刺す気なのだろう……。きっと……。私は怖いから見れないけど……。
「っ! ふんっ!」
それに気付いたリョクシュははっとして、そのまま片手に持っていた斧の鎖を手に巻き付けて、そのまま斧をがっしりと掴んでから――その斧をキョウヤさんに向けて叩きつけるように斬りつけようとしていた。
一旦槍から離してから、顔に――顔面に向けてそれを叩きつけて真っ二つにしようとしていた。
「っち!」
キョウヤさんはそれを見て、舌打ちをした後――しゅるんっと尻尾をしならせて……。
ばしぃんっ! と、上に向かって跳躍した。
それを見てリョクシュは上を見上げた。刹那――
倒れていたシェーラちゃんが駆け出して、その胴体に向けて――冷気を放っている刀身を向けて……、刺突の体制になりながら、至近距離でそれを繰り出す。
「
ひゅぉっと、冷気が一気に噴出する刺突の剣。それを両方の剣で繰り出そうとするシェーラちゃん。それを見たリョクシュはそれを見て、すっと目を閉じた瞬間――角が光りだして……。
さっきと同じように、ぶわりと体中からその風を吐き出して……、防御を発動した。
「ちょっ! ったくぅ!」
それを受けて、シェーラちゃんはちらりと足元を見た後、その二本の剣を地面に突き刺す。
すると――パキパキと地面が凍り付く。
それでも風の勢いは収まらない。
それを見て、シェーラちゃんはそのまま剣を引き抜いて、その風に乗るように飛んで、そして木に向かって飛ばされながら、その枝に向かって突っ込みながら、両手でその枝にしがみつく。
くるんっと回りながら、その枝に足を乗せて見下ろすシェーラちゃん。
「――あぶな……。え?」
それを見たリョクシュは、ふわんふわんっと回っている風に命令するかのように――くいっと右手首を捻らせ、ぐっと握ると――
ごおおおおっと斧にまとわりつく風の膜。で、いいのかな……?
その風が纏われた斧の鎖を掴んで、そのままぐるんっと――シェーラちゃんがいるその木に向かって振り回す。木を切るように振り回す。
「――ちょっっとぉっ!」
それを見たシェーラちゃんは、すぐにその木から降りた。
でも……。
ばぎんっという音と共に、木を切ってしまった斧。でもその木に斧が当たった瞬間……、ばらばらと、木がいくつもの枝切れと化してしまう。
斧に纏われた風が刃の役割を果たしていたのか、木が切り刻まれて無数の、尖った木の枝を作り上げていく。
簡素な木の矢のように。
そのまま木の矢は斧を纏っていた風に乗って飛び回り、それを見てリョクシュはぐっとそれを振り回した。
ぐるんぐるんっと、木を巻き込むように――壊しては加工して……。
それを見たアキにぃとキョウヤさんはその斧に纏わりつく風――ではない。もうすでに木の矢の塊となってしまったそれを見て、地面に降り立ったシェーラちゃんを見て……、キョウヤさんは叫ぶ。
「早く来いっ! 来るぞっ!」
「わかっているわよっ!」
と言って、シェーラちゃんはだっと駆け出してアキにぃ達のところに向かう。それを見てリョクシュは、その進行を妨害しようとその鉄球をシェーラちゃんに……。
「っ! 『
私はすぐに手をかざして――リョクシュに向かってそれを発動させる。すると――彼の足場から白い光の柱が出現して、それを受けたリョクシュは――
「――ぅ! ~~~~~っっっ!」
歯を食いしばりながら、その痛みに耐えるように前屈みになる。木の枝もボロボロと落ちて、元の鎖につけられた斧と化してしまう。
それを見て、私はシェーラちゃん達を見る。そして言う。
「だ、大丈夫ですか……っ!?」
「サンキュハンナッ!」
キョウヤさんが手を上げて礼を述べると、続けてキョウヤさんは言った。
「でも――正直やべーわっ! これ!」
「キョウヤが言うんだったら、普通の俺はもっとやべーってっ!」
キョウヤさんに続くようにアキにぃはだだだだだっと発砲をしながら、項垂れて痛みに耐えているリョクシュに向けると、リョクシュはそれを見て、激痛に耐えている人の動きではない……、素早い動きでゴロンッと横に転がって、斧を手に持って、そのまま三人に向かってかけだす。
私とヘルナイトさんを無視して――
それを見たシェーラちゃんは……、両手にあるそれを鞭に変えて――
「ったくぅ! しつこいわ――よっ!」
シェーラちゃんはその鞭を地面に向けて叩きつけると――ぐぅんっとその振動に驚いたかのように、湾曲を描きながらリョクシュに向かって突っ込む。
それを見たリョクシュは、再度目を瞑って角を光らせたかと思うと、また風を起こしてその攻撃を防いでしまう。
ふにゃりと――鞭の勢いが殺されてしまった。
それを見たシェーラちゃんは――にっと微笑んでいた。
「っ! っ!?」
それを見たリョクシュは、そんなシェーラちゃんを見てどうしたんだという顔をしていたけど、視界の死角――左右から同時に来るその二人に、遅まきながら気づいた。
私はそれを見て、これは何とかなるのでは……? と思っていた。
リョクシュの左からキョウヤさんが槍を持って――
右からアキにぃが二丁の拳銃を持って走ってきたのだから、それを左右同時に確認することはできない。それを見て、リョクシュはきょろきょろと見てしまい、最後にキョウヤさんのほうを見たので、アキにぃの方をおろそかにした。アキにぃは拳銃を構えながら走り込み――
「っ! よし――」
アキにぃはそのまま銃口をリョクシュに向けていた。
でも――リョクシュは斧を持っていない手をぐっと握りしめ、そのまま己の胴体に向けてボディーフックをした。
ぎゅりっと、腹部を抉る様に――
それを見たキョウヤさんは、驚きながらそれを見て、シェーラちゃんもそれを見て驚いていた。
リョクシュはその腹部の圧迫に呆気なく負けて、頬を膨らませたかと思うと、そのまま――
「うぇ」
と、口から黄色い瘴輝石を出した。
それを手にもって――アキにぃに向けた瞬間……。
「マナ・エクリション――『稲光の銃弾』」
――ぴゅっ!
――どしゅっ!
「いっつっ!」
「アキにぃっ!」
私は叫んでしまう。アキにぃはリョクシュに向かって走った瞬間――リョクシュは黄色い瘴輝石を使って、空中に黄色くて小さな弾丸をばちりと作り出して、それをアキにぃに向けて放った。
発砲したといったほうがいいのかもしれない。
それを、足で受けてしまったアキにぃは、痛みを訴えて、ずささっと地面に突っ伏してしまう。
それを見た私は、すぐに手をかざして――
「あ、は。き、『
慌てて、そして押し寄せてくる不安をかき消すように叫ぶと、ふわりとアキにぃの体を覆う青い靄。それを受けたアキにぃは、すっと立ち上がって「ハンナありがとう!」と、私を見ないでお礼を言うと――
「はははは!」
リョクシュは私を見て笑った。けらけらと笑った。
それを聞いた私は、「え……?」と、呆けた声を出して驚いてしまった。
何を笑っているの? なんで私を見て笑っているの? そんな疑問が私の頭の中を行き交う。それを聞いていたシェーラちゃんが、剣を突き付けて――
「何がおかしいのっ!?」と言い、続けてこう聞いた。
「あんた……、さっきから私達三人しか狙っていないわよね? どういうことなの? 厄介者が消えたとたんに私たちを狙うって……。それは――私達が弱いから片付けられると思っての余裕の表れなのかしら?」
その言葉を聞いたリョクシュは――にっと狂気の笑みを浮かべながら……彼はこう言った。
なぜだろう。あの笑みを見ると……、『六芒星』のザッドを思い出してしまう……。
それを見た私は、きゅっと己の体を抱きしめてしまう。
リョクシュはそれを見て、にっと狂気に笑みを浮かべながらこう言った。
「いいや。これは精神攻撃だ」
「精神……?」
アキにぃが聞くと、リョクシュは「ああ」と言って――私を見ながらこう言った。
「そこにいる女を――完全戦意喪失させるための精神攻撃だ」
私はその言葉を聞いて、びくりと体を震わせてしまう。リョクシュはそのままべろんっと、また口から瘴輝石を取り出して――それを手にもってこう唱える。
「マナ・エクリション――『影蜘蛛の糸』」
すると――三人の影から黒い糸が出てきて、己の影の糸で拘束されてしまう三人。手足ともども拘束されて、キョウヤさんとシェーラちゃんはそのまま立っていたけど――バランスを崩して……。
「うおいって!」
「きゃぅ!」
ずてんずてんっと転んでしまった。
アキにぃは立っていたけど、結局前のめりに倒れてしまい……。
「おぶっ!」と、顔から地面に突っ込んでしまった。
「ちょっと……っ! 取れないっ!」
「くっそ! 尻尾までも絡まってて……っ! って、あ! おい待てっ!」
「うううううううう……っ!」
三人が地面に転がりながら、私に近付いて来るリョクシュに向かって叫ぶ。私はそれを見て、震える体で己を抱きしめていたけど……、その手をそっとほどいて、ぐっと握り拳を作る。
今私だけなんだ……。
私しかいないんだ。
戦える人は――私しかいないんだ。
奮い立たせないと……、戦えるスキルがなくても……、戦わないと。
そう思い、顔を上げた瞬間だった……。
じゃらりと――首元に巻き付いたそれ。
「っ!」
私はそれを見て、すぐにそれがリョクシュが持っていたそれと認識し、はっと息を呑んで驚いた顔をしてそれをほどこうとした瞬間……。
――ぎりぃっ!
「はぐ……っ!」
突然鎖を左右に引っ張られて――首を絞められてしまう。
ぎりぎりと、首から聞こえる締め付ける音。それを聞いて、どんどん呼吸が困難になって、顔が熱くなってくるのを感じた。
私の首を絞めているのは――リョクシュ……。
このままだと……、まずい。そう直感した。
「は、ハンナッ!」
「まずい! おいシスコン! 早く起きろって!」
「むごごごごごっ!」
「手足ねーと起き上がれねーのかよぉ! 腹筋鍛えろっ!」
「今そんなことをしている場合じゃないでしょうがっ!」
三人の声が聞こえる。でも首がきつくなって、息ができなくなってきた私は、目の前で狂気の笑みを浮かべているリョクシュを見る。
リョクシュは左右に引っ張りながら、斧の鎖を使って私の首を絞めている。その状態で彼はこう言った。
「苦しいだろう?」
「あ……、か……、ひ……」
「こんな風に苦しんでいたら、後ろにいる鬼士様が、お前のようなお姫様を助けてくれたからなぁ」
「……っひぃ……っ!」
どうしよう……。苦しくなって、意識がもうろうとしてきた……。
そんなことを思っていると……、ぼやける景色と意識の中、リョクシュはこう言った。私の眼を見て、嘲笑うような狂喜の笑みで彼は言った。
フィルターがかかったその音色で、彼はこう言った。
「恵まれているよなぁ。お前は。お前は何もしなくても――誰かが助けてくれるんだからな。なああああんもしなくても、お前は後ろで隠れていれば、お前は無傷で終わる。お前はいいよなぁ――役立たずで。でももう安心しろ……。ここでお前の旅は、終わりだ」
それを聞いて、私は思った。
私は――回復しかできない。
そして、なんでか知らないけど、回復しかできない私が浄化の力を授かって、そして、ここまで来た。
私だけの力じゃない。みんなの力があって、ここまでこれた。
私は――助けられてばかりだ。
みんなになんの恩も返していない。何もしていない。回復しかできない役立たずなのに、私は甘えていたのかもしれない。
アキにぃにも、シェーラちゃんにも、キョウヤさんにも――何も、何も……。返していない。
ヘルナイトさんにも、甘えてばかりで――何も恩を返していない。
それでいい? 否――ノーだ。
恩も何も返していないのに、ここで死ぬのも、殺されるのも嫌だ。
ちゃんと――私も……、みんなの役に立てるように……。
一人でも……戦わないと……っ!
私が戦わないで――私が動かないで、どうするんだ……っ!
そう思った私は、ぎりぎりと締め付けられるその鎖を掴んで――リョクシュを見ながら、私は、つっかえつっかえだけど、こう言った……。
「お、おわり……っ、じゃ、ないっ!」
「あぁ?」
それを聞いていたリョクシュはそれを聞いて首を傾げていると、私はすっと下を見る。リョクシュの足元を見て――できると思った。幸い――ぶら下がっていないから、足は使えた。
本当はこんなことをしたくないけど……、みんなを守るためだ。
そう思った私は、薄れる意識の中、ぐっと両足を上げて……、そのまま、リョクシュの右ひざに向ける。それに気付いたリョクシュは、疑問の声を上げて、私はぎゅっと目を閉じて、そのまま目いっぱい、その膝小僧に向けて――足をぐんっと伸ばして、両足でそれを踏みつけて……。
バキンッ!
と――リョクシュの右足を折った。
「っだああああああっっっ!」
リョクシュは叫ぶ。それと同時に鎖がほどける。
私はそのままストンっと地面に落ちて、すぐにヘルナイトさんとアキにぃ達を覆う『
それを見てリョクシュは唸りながら蹲り、折れた足を掴んでぎろっと私の方を見て――
「こんの屑女がぁああああああああああああああ……っ!」
と苛立った音色で私に向けて、私を睨みながら吐く。私はそれを聞いていたけど、見ていたけど、臆することなくその場にいた。
いつも――ヘルナイトさんが私を背中に隠して守ってくれているように。
今は――私はみんなを……、ヘルナイトさんを守るんだ。
今の私には、その攻撃を防ぐことしかできないけど……、それでも……、私はヘルナイトさんを、みんなを守りたい。
その意思だけは本物で――ずっと変わらない。
私の決意だ。
「ハンナ……」
「お前……、どうした?」
「おごごごごっ!?」
シェーラちゃん、キョウヤさん、アキにぃが、驚きながら私を見て――
リョクシュが私を見た瞬間、ぞっと顔を青ざめていた。いったいどうしたのだろうと思っていたけど、そんなの関係ない。
私はヘルナイトさんを背に隠しながら――私は言った。
「あなたの言う通り――私は恵まれていました。誰かに守られて、背中に隠れていたかもしれません。回復しかできないっていう理由で……、私はみんなに甘えていたのかもしれません。でも、私だって心を鬼にすれば――戦えます。あなたの足を折ることもできます。みんなを守るために、自ら盾になって前に出ることだってできます」
私はそっと立ち上がって――リョクシュを見上げて、こう告げる。
自分でも驚くような……、大きな声でこう言った。
「――だから……、これ以上みんなを傷つけないでくださいっ! 傷つけるなら……」
バッと両手を広げて、私は言う。
いつも……、あなたがしてくれる。大きくて、頼りになる背中ではないけど、私は手を広げて、あなたを守る。それしか――今の私にできないことで……。
今のあなたに唯一してあげることができることだから。
私は言った。肩にナヴィちゃんが乗った感触を覚えながら私は言った。
「私が――全部受け止めます! かかってきてくださいっ!!」
張り上げた声を聞いて、三人はそれを聞いて唖然として私を見て――
リョクシュは苛立った顔をして、手に持っていた斧に力を入れていた。
背後で驚きながら私を見ているヘルナイトさんに気付かず、私はリョクシュから目を離さないで『きっ』と見つめた。
今度は――私が守ります。
あなたがしてくれたことを、私がします。
今だけ、今だけでもいいから――私の頼りない背中だけど……、そこで私の雄姿を見ててください。
私はみんなのために、あなたのために守り――戦いますから。
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