PLAY39 国境の村の激闘Ⅱ(私が動かないでどうするんだ) ③
色んな音が聞こえる中……、その音を聞いて私は村の方を見た。
……さっきから轟音や怒声が響いている。
激しい戦いが繰り広げられている音だと私はこの旅を通して学んだ。
というか嫌でも慣れてしまう音。
それを聞きながら私は思った……。
みゅんみゅんちゃんやロフィーゼさん達、大丈夫なのかな……。
村を見渡せる山の方を見て、私はヨミちゃんやベルゼブブさんのことを思い浮かべながら二人のことを心配しつつ、今目の前で繰り広げられている光景を見ていた。
あれから私達は――ネクロマンサーのリョクシュと相対していた。
私はいつも通りヘルナイトさんの背後にいて、シェーラちゃんとキョウヤさんが交互に戦いながら剣と槍をふるっている。
後方ではアキにぃが銃を発砲しながら応戦している。
ヘルナイトさんも隙あらばと言う感じで大剣を振るって戦っていた。
でもリョクシュは手に持っていた鎖がついた斧を振り回しては近付けないようにして、更には鎖を使ってアキにぃの攻撃を防いでいた。
流れるように、落ち着きながら攻防を繰り返している。
そしてヘルナイトさんも――戦闘が始まってから頭が痛いのか……、何かを思い出しそうなのか……、うっと唸っては攻撃を防御して避けていた。
ぐるぅんっと鎖がついた斧を振り回して、それを私達に向けて投げるリョクシュ。
それを見たキョウヤさんは「うぉっとっ!」と言いながらその攻撃を避けて、シェーラちゃんもそれを見て後方に跳び退きながら避ける。
リョクシュはヘルナイトさんに向けてその斧を上に振り上げて、そのまま一気に叩き落すように振り下ろす。
それを見たヘルナイトさんは息を殺すような声を上げた後上を向いて、大剣の腹でそれを受ける。
がぁんっと響く金属音。
それを聞いた私はきゅっと耳を塞ぐ。
耳に響くその音に驚いたからだけど、私はそっと目を上げてヘルナイトさんを見る。
私の目の前に広がる大きな背中。その背中は今までとは違い……、苦しいもしゃもしゃが溢れているそれだった。
私はそんなヘルナイトさんを見上げ――小さく不安そうに名前を呼ぶ。
きっとこの言葉一つで……無理をしてしまうのではないか。そんなわがままなことをしてしまった私は、一瞬罪悪感を覚えた。しかし――
「ヘルナイト――ハンナをっ!」
「!」
「っ?」
アキにぃの声が聞こえたと同時に、ヘルナイトさんはぐっとリョクシュのその斧の鎖を掴んでぐいっと引っ張る。それを受けたリョクシュははっとして前のめりに転びそうになった。
それを見て、ヘルナイトさんはすぐに鎖から手を離し、私の方を向いて、そのまま私を横抱きにしてだんっと――前に跳び退く。私からしてみれば――後ろだけど……。
それと入れ違いに――すれ違うように、『ばぁんっ!』と言う銃声が飛び、そのままその銃弾はリョクシュに向かって飛んでいく。前のめりになって、無防備のそのリョクシュに――
シェーラちゃんとキョウヤさんもそれを見てよしっ! と勝利を確信した目で見ていたけど……。
リョクシュは冷静な、ううん。この場合は冷静で隠された死んでいるのにそれでも更に冷たい目をして……、負けを確信していない目で私を見てから――
ばしゅぅっと、体から風を放出させるように防御を繰り出す。
それを受けて、シェーラちゃんとキョウヤさんは顔を隠して受け身を取りながら――
「あーもうっ! またこれなのっ!?」
「もう何度目だっ!? キリがねぇっ!」
苛立った音色で言った。その風はリョクシュを守るように吹き上げられ、まるで小さな竜巻が起こっているかのようなそれを巻き起こして、リョクシュの周りをぐるんぐるんっと回る。
アキにぃの銃弾も、その風に乗っていき――軌道をずらしてしまい、リョクシュの頬を掠めるほどの微妙な距離で、顔の横を通り過ぎてしまう。
「くそっ!」
アキにぃはそれを見て苛立ちと舌打ちを出す。
ヘルナイトさんもそれを見て、すたんっと私を抱えながら地面に着地するけど……。
まただ……。頭が痛いかのように唸りだすヘルナイトさん。
私はヘルナイトさんを見上げて――ヘルナイトさんの腕の中でこう言った。
「だ、大丈夫……ですか?」
その言葉を聞いてか、ヘルナイトさんは私を見下ろし、凛とした音色でこう言った。
「――心配ない。大丈夫だ」
音色は強い……、けど苦しそう……。
私はそれを見て、そっと丸くしていた手を伸ばした瞬間……。
「――思い出せそうなのだな? 『12鬼士』の鬼神、否――武神……と言った方がいいのかな?」
「――っ!」
リョクシュは私達を見て言う。
それを聞いて、ヘルナイトさんは片手で私を横抱きにしたまま大剣を抜刀して構える。
リョクシュを見て、三人も武器を構えながら身構えているとけど――リョクシュはそれを見ながら……、ふぅっと首を振って、私達のことを嘲笑うように見てから……、ちがう。学習能力がないものを見下しているような目で……、彼は言った。
「この戦力で『八神』を三体も、しかも短期間で浄化……、いいや、武神と――その腕の中にいる愚神サリアフィアと瓜二つの女の功績と言った方がいいだろうな」
リョクシュは続ける。
ヘルナイトさんはサリアフィア様のことを聞いた瞬間、ぐっと大剣を握る力を込めて、ぐっと顎を引く。
怒りを抑えているようなもしゃもしゃを出しながら……。
私はそれを見て、ヘルナイトさんを見上げる。何もできないけど、今の私にはそれしかできない……。そう思っていると、リョクシュは――
「だがな……、それを穴埋めしようと奮起しても、結局お前達の愚行は変わることはない」
と言いながら――リョクシュは鎖を掴んでいた手を離して、その指をヘルナイトさんに向ける。ずしゃっと、地面がめり込むような音を立てて、群青色の斧が落ちる。
リョクシュは言った。
「――お前達の力不足で……、アズールが変わった。変わってしまった。お前達のせいで……世界が変わった。お前達のやっていることは――己の後始末をしているだけだ。そんなのは――自己満足でしかない」
そうはっきりと言ったリョクシュ。それを聞いたヘルナイトさんは、「……っ!」と、歯を食いしばるかのように、その言葉を聞いていた。でも――
「所狭しと……、あんた達のせいあんた達のせいって。そう言うあんたは何かをしたのかしら?」
シェーラちゃんが言った。
話を聞いていたのか、シェーラちゃんは器用に、剣を持ったまま腰に手を当てて、彼女はツンッとした顔をしてリョクシュを見てこう言った。
「国のために、命を懸けて戦った人に対して――その言葉はないんじゃないのって言いたいの。普通は命を懸けた人を崇め、そして生還したのなら「よく帰ってきた」とか。「ありがとう」とか、「国を守ってくれてありがとう」とか……、そう言った労いの言葉はないの? そんな言葉しか投げ掛けることができないの? どんだけ自分主義なのよ」
「…………お前達異国の者達には」
「わかんねーって言いてえのかよ」
その言葉に、キョウヤさんが遮るようにしてこう言った。
槍を持っている手に、力がこもっていた。
そんな状態で、尻尾をばしんばしんっと地面に叩きつけながら……、キョウヤさんは苛立った顔をしてリョクシュに向かってこう言った。
「確かに、ここのことはあまり知らねーよ。でも……、ヘルナイトは一回負けても、もう一回立ち向かって戦うほど、この国やその女神さまのことを大切に思っているんだ。他の『12鬼士』だって、戦おうとしているんだ。一回負けたとしても、もう一回挑めば勝てるって思っているからこそ、諦めないで立ち向かえる。そう強く思っている。その意思を折るような言葉、オレは嫌いだし、めちゃくちゃ――」
と言った瞬間――ばしんっっ! と、一際大きなしなりと叩きつけを見せるキョウヤさん。
それを見てリョクシュははっと息を呑んで、しかめた顔をしてキョウヤさんを見ると、キョウヤさんはそんなリョクシュを見てこう言った。
「――気に食わねぇ」
低く言ったその言葉に、リョクシュははぁっと溜息を吐きながら――
「冒険者に言っても分からないようだな。そんなことはわかっていたが……再度改めて認識した。お前達にも分かるように言うと……」
と言った瞬間、ぎろりと――閻魔様が睨むような眼でキョウヤさんたちを見て、そしてリョクシュは、静かに怒りを吐き出すような音色でこう言った。
「この世界は結果論だ」
「……結果論って……。結果こそがすべてってことか……?」
ブラックな会社のセリフかよ……。そうアキにぃが「ははっ」と呆れたように鼻で笑いながら言うと、それを聞いてリョクシュは私達に言うように、ヘルナイトさんと私を睨みつけるようにして――こう言った。
始まってから休まず戦ったからか、ここで体力を温存しようという算段なのかはわからない。
でも……、リョクシュはどろどろと零れだす苦労もしゃもしゃと青いもしゃもしゃを、地面にぼとぼとと落とすようにして、彼はその意思を口から、声にして吐き出した。
「そうだ――結果こそがすべてなんだ。どんな偉業を成し遂げたとしても、どんな成果をもぎ取ったにしても、それは結果と言うもので形に残る。いい偉業も、悪い偉業もそれだ。悪い偉業を成し遂げたものは結果として――蔑まれる運命。たった一回の失敗でも結果として残る。『守れなかったからお前はだめだ』。『お前は一回国を守れなかっただろう』。『一度負けた奴の言うことなんぞ、聞く耳もない』。その失敗で人生が滅茶苦茶になってしまう。結局――誰も人格なんて見ていない。できるかできないかで見ているんだ。誰も力しか見てない。結果しか見ていないんだ。人望なんて、そんな人格なんて――二の次さんの次だ。お前達成功しまくりの者達には――わからないものだろうな。そこにいる――『12鬼士』の苦しさを!」
お前達がやすやす語るような――軽いものではない。
世界を狂わせた――怠惰の鬼士なのだからな。
その言葉を聞いて、私はぎゅっと胸の辺りを握りしめる。
リョクシュが言っていること――結果こそすべての世界にとって、よくある話だ。
成功と失敗は――信頼の天秤。
成功すれば信頼を得る。
失敗すれば――嘘を吐けば信頼も減る。
それを繰り返す人生。それは――おじいちゃんやおばあちゃんの仕事を見てきた私や、輝夜にぃはよく知っている。
……、でも……。今リョクシュの言葉を聞いて、私ははっとした。現実を突き付けられたとかそいうものじゃなくて……、ただ、私は思った。
記憶がないヘルナイトさん。
でもヘルナイトさんは優しくて強い。
そしていつもみんなのことを助けて、私との約束を果たそうとしている。
だから、だからこそ――考えていなかった。
押し付けていた。
私は――苦しさをわかっていなかった。
記憶がない。馬鹿にされている。苦しんでいたのに私は……、ヘルナイトさんのことを――わかっていなかった。自分の不安を、他人に押し付けて、慰めてもらおうとしていた。
ヘルナイトさんの苦しさを――一ミリも受け入れていなかった。
ヘルナイトさんを見上げると……、あの時に怒りの表情は消えて、ぐっとリョクシュを睨みながら大剣を構えている。そして小さく……。
「――思い出した……」と言った。
「え……?」
私はそれを聞いて、腕の中で首を傾げていると、ヘルナイトさんは目の前にいるリョクシュを見て、こう聞いた。
「お前は……。あの鬼族の者だろう……? アノウンの山脈に住んでいる鬼族の村の……」
それを聞いて、シェーラちゃんたちが首を傾げながら「「「鬼?」」」というけど、私はそれを聞いて、はっとしながらリョクシュを見る。
リョクシュの頭には縦一文字に傷ができている。
その傷は――あのイェーガー王子と同じ傷で、この人はネクロマンサーだけど、鬼族の一人だった。それを聞いた私は身を乗り出すようにして――リョクシュに向かってこう聞いた。
「あ、あの……っ! あなた」と私が言った瞬間――
リョクシュはごそりと懐に手を突っ込んで、素早くそれを取り出したかと思うと、それを私に向けて――私に向かって、ヘルナイトさんに向かって――こう言った。
怒りを押し殺したような、閻魔のような睨みで――
「だから――その苦しさから解放してやる。その方が――『
と言った瞬間――ぶんっと音が出るくらいの腕の振りで――投げた。
私に向かって急加速で迫ってくる白い何か。
それを見たアキにぃが銃を構えて撃ち落とそうとしていたのだろう――『ばぁんっ!』、『ばぁんっ!』と言う発砲音が聞こえた。
でも――
その銃弾がその白い何かに当たったにも関わらず――白い何かの方が銃弾より強かったらしく、そのまま跳ね返ってしまう。それを見て――
「はぁっ!?」
「うそでしょっ!?」
キョウヤさんとシェーラちゃんが驚きの声を上げる。アキにぃは背後で舌打ちをしながら再度銃弾を装填する音が聞こえた。
その間に、私に向かって、私の顔目掛けて飛んできたそれは――あと少しで私の眼に直撃しそうになる。
それを見た私は、ぐっと目を閉じて耐えようとした時――
――がちんっ!
「?」
でも、その鈍痛が来ない。一向に来ない。それを感じた私は、そっと目を開けると――いつもの光景のそれを見て、私ははっとして、名を呼ぶ。
「……ヘル、ナイト……さ」
そう、ヘルナイトさんが、私の顔の前に手を出して、その白い何かを手で防いだのだ。
防いだ――それはたぶん違うと思う。それはちょうど、ヘルナイトさんの手首にしっかりと嵌められている――私達と同じバングルのようなそれがつけられていた。
白い鉱物と、白いフォルムのそれがつけられてて、それを見ていたアキにぃは、私達に駆け寄りながら「大丈夫……って、バングル?」と、ヘルナイトさんにつけられたそれを見て、首を傾げながら素っ頓狂な声を上げる。
キョウヤさんとシェーラちゃんも、ほっと安堵の息を吐きながらそれを見ると――リョクシュに武器を突き付けながら、二人は優勢の笑みを浮かべてこう言った。
「何をしたかと思えば……、ただの拘束のもの? しかも不完成品みたいね」
「いったい何がしたかったんだ……? お前」
シェーラちゃんとキョウヤさんがそれを言うと――リョクシュは私たちを指さして、冷静にこう言った。
「すぐにわかる」
冷静に……、すぐにわかる。の――わかるといった瞬間……、ぐわんっと、視界が回った。違う――これは……、バランスが崩れた、よろけた。
私じゃない。私を抱えていた――ヘルナイトさんが、ふらついたのだ。
「わ、あ……」
「っ!」
「「「えぇっ!?」」」
私はそのふらつき……、違う、倒れそうなそれを体で感じながら、驚きの声を上げ、ヘルナイトさんはふらついたまま、前に倒れこもうとして、アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃんがそれを見て、ぎょっとした目でその光景を見て――リョクシュは……。
にぃっ――と、悪魔のような笑みを浮かべて、狂喜的に微笑んでいた。
計画通り。そんな顔をしているようにも見えた。
そんな顔を見ながら私は、倒れていくその感覚を、光景を、体中で感じとり、そして――
だんっ! と――ヘルナイトさんは前のめりになりながら地面に膝をついた。そして大剣を地面に突きつけて――私を抱えたまま荒い息を吐きながら、その姿を保っていた。
「へ、ヘルナイトさんっ……!」
私がヘルナイトさんの腕から降りて、ヘルナイトさんを見る。どこにも体の異常はない。でも苦しそうだ……。まるで――風邪でも、インフルエンザにでもかかったような……、そんな苦しそうな息遣いと体の震え。
「ヘルナイトさん……っ! ヘルナ」
私はすぐに屈んで、ヘルナイトさんの安否を気にかけて顔を覗き込むと――
「っ!」
ヘルナイトさんは何かに気付いたのか……、大剣を地面から引き抜いて、それを私の背を守るように、地面に差すと――
――ごぉんっ!
「っ!」
「……………っ!」
突然の金属音。そして大きな反響音。
私は思わず耳を塞いでしまった。
ヘルナイトさんはそれでも、体の不調を出しながらも私を守ってくれた。
私はその嬉しさを、心に一旦しまいながら、そっと顔を上げると――ヘルナイトさんは私を見ないで……、目の前にいる人物を睨みつけていた。
それを見て、私も振り向こうとした時――
「すごいな。老いぼれ達の入れ知恵は」
リョクシュが鎖で繋がった斧を振り上げて、自分の方に戻しながら、驚くようにヘルナイトさんを見ていた。リョクシュは言う。
「まさか『封魔石』でここまで弱るとは……」
「…………ふ、封魔、石……」
それを聞いた私は、思い出す。
それは――アルテットミアで、魔王族の亜人になってしまったモナさんに、アルテットミア王はとあるものを渡していた。それは――魔王族の力を抑え込んで、人間として生活できるようにすることができる『封魔石』
それが何で、今になって……?
そう思っていると――じゃきんっという音が聞こえた。私はその音がした方向を見ると……、驚いて目を見開いた。
当たり前というか、今回は珍しい光景が移っていたから……、驚いてしまっただけの話なのだけど……。説明すると……、リョクシュの周りを取り囲むように、至近距離でアキにぃ達が武器を突き付けていた。
アキにぃはリョクシュの頭を。
シェーラちゃんは首元に。
キョウヤさんは背後にいるのだろう――項にそれを突き付けていた。刃を向けて――
それを見ていたリョクシュは――肩を竦めながら「なんの冗談だ?」と聞くと……、それを聞いていたキョウヤさんが、低く、そして怒りを露にした音色でこう言った。
「それはこっちのセリフだ」
「あんた……、あの鈍感騎士に何したのよ……?」
「お前……、ハンナに攻撃しようとしただろう……っ!? でもその前に……、お前――何したんだ……っ!」
そしてそのあと、シェーラちゃんとアキにぃが言った後、リョクシュははぁっと溜息を吐きながら、呆れたような音色と表情でこう言った。
「言ったとおりだ。魔王族の力を抑える『封魔石』をつけた。それだけだ」
「魔王族の力を……抑える……?」
アキにぃの言葉を聞いて、リョクシュはじろりと私を睨む。私はそれを見て、びくっと肩を震わせてしまった。怖いと――思ってしまったからだ。
今まで怖い思いはしてきたけど……、久し振りに感じるこの恐怖……。
がくがくと震えてしまう私を睨んで――リョクシュは言った。
「簡潔に言うと、それは魔王族の暴走を抑える石だ。鬼の里でよく採掘できたからな。使わせてもらった。それをつけられた亜人は、人間になれる。しかし純血の魔王族がつけると――力が出ない状態になる」
それを聞いた私はぶわりと来た危機感を覚え、アキにぃ達はそれを聞いて疑うような目でリョクシュを見た。
そしてシェーラちゃんがその言葉に対して反論する。
「それがあの白いバングルね。なら破壊して」
「無理だ。それは壊せない。どんな武器で壊そうとしても、壊せない。この私の
「物騒な武器の名前……っ! じゃねぇっ! ってことは今ヘルナイトは……っ!」
キョウヤさんは最初に突っ込みを入れたけど、すぐにヘルナイトさんを見る。シェーラちゃんもアキにぃも見て……、緊張感が走る表情をした。
私もそれを聞いて、確信してしまう。
ヘルナイトさんは今――動けない。戦えない。
ヘルナイトさんの方を振り向く。ヘルナイトさんはよろける体に鞭を打ち付けるようにして、立ち上がろうとしていた。それを見て、私はすぐにヘルナイトさんの肩を掴んで立ち上がりながら、慌てて――
「ま、待って……っ! 立たないでくださいっ!」
「しかし……、このままではだめだ……っ! このままでは……っ! 三人が――」
蹂躙される。
そう言った瞬間だった。
ぶわりと来た風。
それは突風のようなすごい風で、それを受けた私は「ひっ!」と、上ずった声を上げる。そして――
「うおっ!」
「っとぉ!」
「きゃぁ!」
アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃんの声が聞こえ、私はすぐに背後を見て回復をしようとした時……、私はその光景を見て――目を疑った。
アキにぃは尻餅をついて転んでいた。
キョウヤさんはそのまま着地して、飛んできたシェーラちゃんを抱えていた。
そこまではいい――問題は……、リョクシュだ。
リョクシュは目を閉じて、空を見上げながら――その風の中心に立って何かを言っていた。
「風の聖霊。風の魔祖よ――私に力を貸せ。私と共に……、踊り狂おう」
と言った瞬間、ごおおおっと台風のように渦巻いていた風が勢いを増してリョクシュを取り囲んでいく。すると――額にあった縦一文字の傷が光り出し、そこから緑と白が混ざったような細長い何かがぞぞぞっと生えてきた。
まるで鬼の角の様に伸びて、大体十センチと言うところで止まった瞬間、風を纏いながらリョクシュはにっと獣のような笑みを浮かべて、彼は「っは――」と鼻で笑い……、私達に向かってこう言った。
「最高の気分だ――私と一緒に、踊り狂おう」
それを聞いたキョウヤさんは、小さく「キャラ変わってね……?」と。引き攣ったような笑みを浮かべて言った。私はそれを見てリョクシュから感じる赤と黄色……、そう……。
殺しを楽しもうとしているリョクシュを見て、ぎゅっと胸の辺りに握り拳を作りながら、私は委縮してその光景を見てしまった。
ヘルナイトさんの肩を、震える手で握りながら――
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