PLAY39 国境の村の激闘Ⅱ(私が動かないでどうするんだ) ②
「かふ」
ヨミは口から吐血する。
吐かれた瞬間――彼女の衣服に『べちゃっ!』、『びちゃり』と、赤い果実を噛んだ瞬間に果汁が噴き出したかのような付着で彼女のことを紅く、不格好に汚していく。
ベルゼブブはヨミよりも重傷の胴体を貫通した激痛と鉄の味、体中を駆け巡る熱に耐え、ゆらりとよろけながら飛ぶ。
ふらりふらりと――猟銃によって撃たれた鳥の様に、振子のような動きで飛行と言う名の蛇行をし、ベルゼブブはヨミのことを落とさないように抱えながら飛行していた。
ぼたりぼたりと……、焼け地に赤い二つの混合のそれを零して……。
それを見て、みゅんみゅんは叫んだ。
「ヨミッッッ! ベルゼブブッ!」
みゅんみゅんが叫ぶと同時に――グリーフォは、もう一度あの攻撃を繰り出す。
ひゅぅん! となる火の玉――否。火の弾丸。
その弾丸がまるで意思を持っているかのようにベルゼブブの羽の向かって飛び、貫通する。
受けてしまったベルゼブブはぐっと唇を噛みしめ、よろけながら落ちていき……、それを見たみゅんみゅんは駆け出そうとした時――がしりと掴まれてしまう肩。
みゅんみゅんはがくんっとバランスを崩すが、それでも体制を整えて見上げると――そこにいたのは……。
「みゅんちゃん待って下さいっ!」
ミリィだった。彼女らしくもあり、彼女らしくもない慌てた様子でみゅんみゅんの肩を掴んでいたのだ。
そんな彼女のことを見上げたみゅんみゅんは、その肩を掴んでいる手を引きはがそうとしながら暴れ、体を乱暴に揺らしながら叫んだ。
「は、離してよっ! このままじゃ……」
「みゅんちゃんでは止められませんよーっ! 私達が出たとして……、今の私達万策尽きていますー!」
何もできませんよー!
暴れながらその言葉を聞いたみゅんみゅんは歯を食いしばりながら歪ませ――
――勝手にそんなこと決めないでよっ! 何諦めてんのよっ!
――確かにケビンズは使えないけど……。
――それでもここには回復要因のハンナ……。
と思ったところで、みゅんみゅんは――はっと気付く。否――遅すぎる気付きだ。
この襲撃が起こる前、アキとシェーラはハンナ達を呼びに行った。
走って向かっていたにも関わらず、戻ってこない。
この轟音を聞いたら、誰だって駆けつけるはずだ。
ハンナならすぐに向かってくるはずなのに――来ない。
それを思ったみゅんみゅんは……、ぐるんぐるんっと思考を巡らせながらこう確信した。
――なんでここにネクロマンサーが来ているのか。それはきっとここにいるヨミのことを聞いていだろう。
――『浄化』の魔女のことを知ってきて、襲撃した。
――ネクロマンサーは死体。浄化スキルを使われると大ダメージが与えられる。
――ヨミは魔物を落ち着かせる感情の浄化しかできない。
もし、それをハンナ達が使う浄化と誤認知して襲い掛かってきたのなら?
その厄介なヨミを殺しにここに来たのなら?
それを思った瞬間、真っ先に足止めをしなければいけない存在がいる。
それは――『蘇生』を使うハンナ。
人間を生き返らせるようなことができるのは、そのスキルを持っているハンナだけ (みゅんみゅんが知っている限り)。
そのハンナを閉じ込め、そして少数にするためにロフィーゼ達を遠ざけたのにも頷ける。シイナがネクロマンサーだと大きな声で叫んでいた。
そしてグリーフォの登場で気付けばよかった。
この襲撃は一人のものではない。共犯がいる。最低三人。
ハンナを足止めする人物一。シイナ達を遠ざける人物一。自分達と村人、そしてヨミを殺す証拠隠滅一。これで最低三人。
「あぁっ!」
「っ!」
ミリィの叫びを聞いて、みゅんみゅんははっと現実に戻って、上を見上げると――ベルゼブブは羽を消しながら、ヨミを抱えて落ちていたのだ。
それを見たケビンズは黒い穴に手を差し入れながら「どこだっ! どこだっ!?」と、何かを探している。
きっとヨミ達を助けるための道具を探しているのだろう。慌てながら探して手をごそごそとして漁っている。
ごぶごぶさんはそれを見て、ぐっと起き上がりながら立ち上がろうとするが、予想以上にダメージが大きかったのだろう……、両足がへし折れて使い物にならない。
ごぶごぶさんはそれを見て、感じて――
――両足が部位破壊されやした……っ! これじゃぁ……っ!
と思いながら、何とか手だけで立ち上がろうとするが、どんどんベルゼブブ達は地面に向かって落ちていく。
みゅんみゅんはミリィの手を払い除けながら駆け出し――ミリィの静止の声を聞かずに走って……。
手を伸ばそうとした時……、みゅんみゅんの右横から駆け出す銀色のそれが、ベルゼブブ達の真下に向かって駆け出して、その場で止まる。
刹那――
どしぃんっと――ベルゼブブはそれを下敷きにするように落ちてきた。
みゅんみゅんはそれを見て、すぐに首を振りながら現実に戻って、「っ! ちょっとっ!」と言いながら駆け出す。土煙が立ち込めるその場所に向かって――
しかしそんな再会を許すほど、『狂暴状態』になったグリーフォではなかった。
また指を突き立てて、デコピンでもするかのようにぐっと指を丸めて――みゅんみゅん事その攻撃を繰り出そうとした時……。
「っ! 召喚:『
ごぶごぶさんは動ける腕を使い、己を持ったまま天に向けてそれを掲げる。
すると――彼の背後に出てくる黒い穴。そしてその穴から出てきた――『
服装は『
ごぶごぶさんより劣る存在だが、それでもグリーフォの足止めはできる魔物――それが……『
グリーフォはその魔物を認識して――その魔物に向けて小さな火の玉を向けると、それを見た『
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!」
と叫びながらグリーフォに一太刀入れようとする『
それを見て、グリーフォはその場からとんっと跳びながら避けていく。
それを見ながら、ごぶごぶさんはケビンズを見て言った。
「今のうちでっせ! 早くヨミ嬢をっ!」
「だ、だけどぼくは……」
「戦力外と思っているんでしたら――あっしのポケットに手を突っ込んでくだせぇっ!」
「? 一体」
「早くしてくだせぇっ! 急がないと――手遅れになってしやいやすっ! ヨミ嬢の気持ちとは違う運命になっちやいやすぜ!」
それを聞いたケビンズは、ぐぅううっと顔を顰めながらぎゅっと顔を歪ませて――ごぶごぶさんの言う通りにごぶごぶさんの服のポケットに手を突っ込み……、そして、はっと息を呑んでごぶごぶさんを見ると、ごぶごぶさんは頷きながら――
「ここはあっしが何とかしやす。行ってやってくだせぇっ!」
「グッジョブッ!」
と、ケビンズはポケットに手を突っ込んでいたそれを引っこ抜き、それを手の中に収めながら、彼は反対の手でグーサインを出しながら、彼はごぶごぶさんを見下ろしながら、爽やかに笑みを作って立ち上がっていうと、そのままそれを手に持ったまま駆け出す。
それを見たごぶごぶさんは――ぎっとグリーフォを睨みつけて……、にっと、武者震いのような笑みを浮かべて――このチームで最年長のごぶごぶさんは言った。
挑発的に――柄にもないことをと思いながらも、彼は挑発的な笑みを浮かべてこう言った。
「――時間、稼ぎやすぜ」
そして――
「ヨミッ! ベルゼブブッ! ザンシューントッ!」
と叫びながら駆け出したみゅんみゅんは、三人がいる場所まで近付いた時、すざぁっとスライディングの様に地面を滑るように座り込みながら、彼女は駆け寄る。
ミリィとケビンズもその場で足を止めて見下ろす。
「ザンシューントさんー。大丈夫ですかー?」
ミリィは聞く。ヨミを抱えて、何とかヨミを下にしないように落ちてきたベルゼブブの下敷きになって、クッションの役目を果たしたザンシューントを見て――彼女は聞く。
それを聞いたザンシューントは『う』と、苦しそうに唸りながら――
『心配するならば私ではなく――彼らをっ!』と、怒りの言葉を吐く。
それを聞いたミリィははっとして、ベルゼブブとヨミを見下ろしながら……。
「ヨミさんーっ! 大丈夫ですかーっ!?」と、抱えられている彼女をそっと抱き上げながら、その場に座り込みながらミリィはヨミを膝の上に乗せる。さながら膝枕だ。ミリィは聞く。ケビンズはベルゼブブを見下ろしながら――
「君は……、って、大丈夫だったか」
と言いながら、ケビンズはベルゼブブを見る。
ベルゼブブはすっとザンシューントから降りて、穴が開いてしまった服を見ながら目を細めていた。
穴が開いたところは服だけで、体の方には何の異常はなかった。
何の異常と言うか――ただ肉体が再生して塞がっただけなのだが……。ゆえに彼らに対して小さな傷など何の支障もないのだ。
悪魔族にとって――しかし……人間は例外だ。
ベルゼブブはばっとヨミの方を振り向き、そのヨミの顔を覗き込むようにして見ると――ミリィはそれを見て、「待って下さいー!」と、ベルゼブブの顔の前に手をつきだして制止をかけた。それを見たベルゼブブは顔を顰めながら、ミリィを睨む。
「心配なのはわかりますけどー、私は死滅魔法の時間操作の方は覚えていませーん。ゆえに今は止血しかできませんのでー……」と言いながら、彼女はぐっと黒いコートを脱いで、そのままヨミの体の止血を施す。それを見ていたザンシューントは『お手伝いしますっ!』と名乗り出て、ミリィに駆け寄る。
止血するその光景を見ながら、ベルゼブブはヨミを見下ろす。
苦しそうに、っはっは……。と息を吐いている。
必死に生きようとしているヨミ。あの時のような、殺されることを望んでいる彼女とは大違いだ。
当たり前だ。彼女はベルゼブブに殺されたいのだ。他の人に殺されたくないのだ。こんなことでは死にたくない。そ思って彼女も必死に生きようとしている。どくどくと……、心臓を裂けて撃たれた箇所から、血を流して……。
それを見て――みゅんみゅんは連想してしまう。
あの時と同じ光景を……。
あの時と同じ――悪夢を……。
――どくん。
思い出されたのは……、ヴェルゴラによってログアウトになったロン。
――ドクン。
そのロンが、夜な夜な悪夢として甦り、彼女に言うのだ。
――どくん。どくん。
なんで見ているだけだった? なんでお前をかばったのに援軍を呼ばなかった? なんでお前だけ逃げた? 戦わなかった?
――ドクン。ドクン。
お前は俺を殺した。見殺しにした。
「ちがう……」
自然と口から言葉が零れたみゅんみゅん。だが悪夢は夜ではないのに、彼女の背後から、べっとりとした感覚を残して這いずり、そして彼女の心を蝕む。
――どくん。どくん。どくん。どくん。
あんなに威勢のいいことを言っておいて――守れ? 自分のことしか守れなかった。己の可愛さゆえに……、お前は戦いから逃げた。お前は結局ヴェルゴラさんの言う通り。断罪されるべき存在だったんだ。
「ちがう……。ちがう……」
みんなが異変に気付いた時、みゅんみゅんは焦点が合ってない目で、がくがくと震えながら彼女は呟く。
己を苦しめている悪夢と――対話しながら……。
今目の前にいる女も――お前のせいで死にかけている。お前がもっと早くログアウト……いいや、死よりも屈辱的な死を迎えれば……、誰もこうならなかったんだ。
お前は疫病神だ。お前は――あの場で死ぬべきだったんだ。
「私は……、ただ……、みんなのために――戦いたいって、みんなのために……、恩返ししたくて……」
お前に恩を着せたせいで、こうなってしまったんだ。お前はこの場で――
「私のせいで……? こうなったの……? 私がこの場に」
もう支離滅裂。
だが――これがみゅんみゅんがだれも信用できなかった理由でもあった。
夜な夜な、ロンの亡霊らしきものが現れ、彼女に囁くのだ。
お前のせいでこうなった。お前のせいで俺は死んだ。俺はログアウトになった。
お前がいたからこうなった。お前のせいで不運が蔓延んだ。
お前はヴェルゴラさんに殺されるべきだった。
お前はここで生きてはいけない。すぐにログアウトになるべきなんだ。
……誰もそんなことを言ってない。しかしこれは――みゅんみゅんの被害妄想なのかもしれない。
ヴェルゴラに対する恐怖が彼女のトラウマとなり――彼女を苦しめている。
心の傷は時に重く、深いもの。
それが精神にも影響し、被害妄想として苦しめる。そして最終的には――人格が崩壊してしまう。
みゅんみゅんはそのせいで、引き籠ってしまった。
誰かを巻き込みたくないという優しさもしかりだが……、近くにヴェルゴラがいるような不安が、彼女を引き籠らせていた。
たった一人――自分にしか聞こえない妄言を聞きながら……、彼女は耐えていたのだ……。
だが――ヨミのその姿を見て、今まで薄れていたそれが再発してしまっている。妄言が四方八方に聞こえてくる。そんな状態でみゅんみゅんはくらくらしてきた視界の中で、まどろみの中に飲まれようとした時――
――ぺしんっ!
「あてっ!」
突然だった。
みゅんみゅんの頭をはたく何か。それを感じたおかげもあって、みゅんみゅんはふと顔を上げて、頭に手を添えると――彼女の上にいたのは……。
ベルゼブブだった。
ベルゼブブは彼女を見下ろしながら、ぐっと両頬をぐっと持ち上げて、無理矢理笑みを作る。苛立った顔をしながら――彼はみゅんみゅんの頬を掴んで、無理矢理笑顔を作らせる。
それを感じていたみゅんみゅんは、「ちょ……」と言いながら、そのベルゼブブの行動をやめさせようとした。それを見てケビンズはやれやれと言わんばかりに――みゅんみゅんを見ながらこう言った。
「さっきから変なことを言っているから、ベルくんはきっと――ヨミちゃんを心配させまいとして、あとみゅんみゅんちゃんのことを思いながらそうしてるんだよ」
不器用なものだ。
ケビンズは呆れながら言う。
それを聞いたみゅんみゅんは驚いた眼をしてベルゼブブを見上げて、そしてヨミたちを見ると――
「みゅんちゃん」
ヨミはゆっくりと起き上がりながら言う。それを聞いたベルゼブブは、はっとして彼女を見てからみゅんみゅんの顔から手を離して駆け寄る。
みゅんみゅんは頬を掌で撫でながら――ヨミの名を呼ぶと、彼女は血の気が少しない顔で、どこにいるのかと周りを見ながら、彼女はこう言う。
「みゅんちゃん――さっきから何を言っているのかよくわからなかったけど……。すごく苦しくて、悲しいって思いが伝わってきたよ。どうしたの?」
「そ、それは……」
自分の身が大変な時でも、ヨミはみゅんみゅんのことを心配する。そして心配させまいとして、気丈に振る舞いながら彼女は聞いた。それを聞いて、見て――みゅんみゅんはそんなヨミから目を逸らす。
まるで――誰かと重ねて……、ロンやヴェルゴラではない。とある二人と重ねて。
ヨミは言った。遠くで轟音が鳴り響いても、彼女はみゅんみゅんがいる方向を聞いて見て――彼女は言った。
「さっき聞こえたよ。『私のせいでこうなったの』って――それ私のセリフだよ。きっと。わかんないけど」
「…………………………」
「でもね――はっきりと言えるよ。こうなったのは私と、後ベルちゃんの不注意だもん」
それを聞いたベルゼブブは、頬を指で掻きながら、申し訳なさそうに頭を垂らす。それを見ていたケビンズは溜息を吐きながら――
「こうなったのは自分のせいって僻んでいても何も始まらないでしょ? 今は目の前のことに集中って、君口癖のように言っていたじゃないか。君時折被害妄想すぎるよ? 被虐的な」
と言うと、それを聞いていたザンシューントとミリィも頷く。
しかしザンシューントは『あなただけです。その被虐は』と冷静に突っ込む。
みゅんみゅんはそれでも目を逸らしながら口を開こうとしたが……。それを言葉で制したのは――ヨミだった。
ヨミはみゅんみゅんがいるであろうその方向を見ながら――にこっと微笑んで、こう言った。
「私は大丈夫。痛いけど大丈夫だよ。死んでいないよ。立ってまだ死ねないもん。ベルちゃんに殺してもらわないといけないんだから、こんなわけもわからず死にたくない。ベルちゃんのために、村のために――ベルちゃんに殺してもらいたいの。あんな化け物に殺されたくないもん」
わがままかな……? 私。と言いながら、ヨミはあははっと笑いながら頭を掻いて言うと、それを聞いていたケビンズはそっとヨミに駆け寄って――その膝下に置かれる緑色の液体が入った小瓶。
それを見たヨミは首を傾げていたが、ベルゼブブはそれを見てはっと息を呑んで――ミリィとザンシューントはそれを見て「『あ!』」と声を上げて驚きの声を上げて――
「回復薬っ!」
『お金ないって言っていましたよねっ!?』
二人はケビンズを見て驚くと、それを聞いていたケビンズは「ふふふ」とくつくつ笑いを堪えながら――手に持っていた少しお金が入ったそれを見せつけながらこう言った。
「ごぶごぶさんが持っていたエメラルドだよ。この近くの洞窟で偶然見つけて――後で職人さん達に見せて加工してもらおうとしていたらしいんだけど、忘れていたっぽくて――で、今緊急事態だからぼくに渡して換金しろって言っていたんだ。おかげでなんとかなったよ」
それを聞いていた二人は、ぽかんっとしながらいまだに戦っているごぶごぶさんを見ると、劣勢となっている『
それを横目で見て、ケビンズはみゅんみゅんを見てこう言った。
「君が一体どんなことがあってここに来たのかは聞かないよ。でも――そうやって一人で抱えるのは辛いし、ぼくだって妹がいなかったらきっとここまでこれなかったもん。それにぼく等はコークフォルス。仲間だ。少しはぼく等を頼ってもいいんじゃない?」
と、肩を竦めて、爽やかに言うケビンズ。
それを聞いたみゅんみゅんは、むっとしながら「頼るって」と、何を言っているんだと言いながら顔を背けると……、それを見ていたケビンズは「まぁ、少しずつでもいいから話そう。あとからね――」と言ってベルゼブブを見る。
ケビンズの視線を見て、ベルゼブブはどうしたんだろうと思いながら首を傾げていると――
「ベルちゃん。みゅんちゃんに力を貸してあげて」
と、ヨミが言った。
それを聞いたベルゼブブは、ぎょっとしながらヨミを見ると――ヨミは手に持っていたからに小瓶をきゅっと握りしめて、彼女はこう言った。にこっと笑みを刻みながら――少し痛みが和らいだ顔で、彼女は言った。
「ベルちゃんなら――あんな魔物、食べられるでしょ?」
その言葉を聞いたベルゼブブは、背後にいるグリーフォを一瞥し、そしてヨミの様を振り向いてから、彼は頷いた。それをみてミリィはにこやかに微笑みながら――
「できるって言っていますー」と言う。それを聞いて、ヨミはほっとしながら、みゅんみゅんの方を見る。そしてこう言った。
「わがままな私で、ごめんね? でも、これだけ言わせて、このわがままだけ聞いて――」
ヨミは――優しくも、己のためではない。他人のための我儘を、みゅんみゅんたちに対してこう言った。
「――この村を、守って……。あんな魔物の好き勝手にさせないで」
それを聞いた誰もが――イエスと答えた。何の迷いもなく――イエスと答えて……。みゅんみゅんはその光景を見ながら、呆気にとられたかのように、ぽかんとしてその光景を見ていると――ケビンズはそれを見て、みゅんみゅんを見ながら――
「僕はもっぱらサポート。ザンシューントとミリィはヨミの守り。切り札はベルくんで、君はごぶごぶさんと一緒に――敵をいたぶりまくる作戦」
何回も練習しただろ? 胸を張れ。
その言葉を聞いて、みゅんみゅんはくっと、顎を引く。
感化されたわけではないが、なんだか胸の奥がこそばゆい。簡単に言うと、みんなの言葉を聞いていると、目の奥が熱くなった。潤んだ気がした。
なんとなくだが、己のトラウマを取り除いてくれそうな言葉を聞いて、みゅんみゅんは重かった心が軽くなった気がした。
ただの気休めではあるかもしれない。でも――それでも、ロンの亡霊がなくなった気がした。
少しだけ前向きになれそうだ。そう思いながら――みゅんみゅんはケビンズの言葉を聞いて……。
「――言われなくても」と言って、背後にある帽子を見るみゅんみゅん。その目は先ほどの黒く染まってしまった目ではない。いつもの――強気の眼だ。
それを見て、ケビンズはうんうんっと頷きながら、彼は黒い穴に手を突っ込んで――とあるものを取り出す。それをごぶごぶさんに向けて――
「ごぶごぶさーんっっ!」
「!?」
叫ぶと同時に彼はそのとあるものを――ごぶごぶさんに向けて……、投擲した。
「これぇ!」
ぶんっと音が鳴ると同時に――くるくると回りながら放物線を描いて飛んで落ちていくそれ。
それを手に取ったごぶごぶさんは、それが何なのか視認する。そして目を見開いた。
黄色い液体が入った小瓶……。
『
それをみたごぶごぶさんはケビンズの方を振り向くと――彼は指を揺らしながら、さわやかにこう言った。
「高価だったけど買い取れました。でもこれですっからかんだから――ごぶごぶさんお願いねー!」
「なんですかい、それ……」
と、呆れながら言うごぶごぶさん。彼は言われるがままその瓶の中身を一気飲みして――そしてその小瓶を投げ捨てると。
どがぁっと爆破音が聞こえた。
と同時に――『
それを見て、次にごぶごぶさんを見るグリーフォ。ごぶごぶさんは治った足で立ち上がり、そして彼は対格差がありすぎるグリーフォを見上げながら、彼は言う。
「お願いって言うことは……、何か策があるんでしょうね……。まぁいいですけどね。あっしはあっしなりに、時間を」
と言った瞬間、ぐっと握り拳を作った瞬間――ぼんっと膨れ上がる両腕、次に膨れ上がったのは両足。
その手足も細いながら筋肉をつけているそれで、ぼこんっ! ぼこんっ! と体中からその音を出しながら、ごぶごぶさんは体を作り替える――否……。元の体に戻っていく。
魔獣族としての――ゴブリンロード……、小鬼帝王として!
羽織っていた布が色を変えて、黒く質がいいそれに変わり、体の変動と共に装備していたそれも変わる。己だけは変わらず、その手に収まるような斧となって、グリーフォ以上に大きくなったその体格で、ごぶごぶさんは言う。
「――稼ぎやすかねっ!」
刹那――振り上げた斧を、グリーフォの脳天をかち割るように、一気に振り下ろした!
だがそれを見切っていたかのように、グリーフォは横に跳び退く。跳び退いた瞬間――
ばがんっ! と、地面に亀裂が入る。それも――五メートルの長さで、そして深く深く亀裂をつくる。
ごぶごぶさんはそのまま横に避けたグリーフォを逃さんばかりに、己による攻撃を繰り出す。グリーフォも手に炎を纏い、その攻撃を防ぎながら攻撃を繰り出そうとしていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!」
各々が叫びながら、ががががっ! と、まるでバトル漫画のようなバトルの応酬を繰り出す。
それを見ていたケビンズは、あららーと言いながら、引きつった笑みを浮かべて――
「さすがは猛者の中の猛者ゴブリン……」
「マドギワゾクではないんですかー?」
『ミリィ様、それは言ってはいけません』
「?」
ケビンズの言葉を聞いて、ミリィは首を傾げてきくと、ザンシューントはしぃーっと静止の言葉をかける。しかしミリィは空気を読まない人。なぜなのかと言う顔をしながら首を傾げていた。
ケビンズはそれを見て――前にいるみゅんみゅんに向かって――
「アーユーレディ?」と、発音よく聞くと、彼女はそれに応じるように――
「イエス」と、はっきりと、力強く言った。
みゅんみゅんはそのまま前に向かって歩みを進め、三人はその光景を見守っていた。目が見えないヨミを守りながら、みゅんみゅんのことを信じて――
みゅんみゅんは歩みながら――
「火、氷、風、土、雷、水、光、闇の聖霊よ。我の思いを聞き入れよ。我の願いを聞き給え」
彼女は歩みながら、ふわりと光りだす八つの光と共に、グリーフォに向かって歩みを進める。
「我思う……、そなた達は我々と共にあるべきもの。共にあるべきものであり、強大な力を持ちし者」
彼女がその詠唱を唱えている間――少しずつ、本当に少しずつ大きくなっていく八つの光。その光は赤や青。そして黒や緑などと、八つの色で彩られている。さながら、先ほど言った魔祖の色を表しているかのように……。
「我願う……、その強大な力を我に捧げよ。目の前にいる――凶悪な闇を、撃ち払う力を……、我に捧げ、我らに、勝利の光を与えよっ!」
そう言った瞬間――ばりぃっと、八つの光を繋いだかのような銀色の電流。みゅんみゅんはそのまま鞭を振るい上げて、その時を待つ。
その鞭の振るいに応えるかのように――ぐるんぐるんと回りながら大きくなってくる八つの光。
それも……、バリバリと混ざり合うように、それは一つの強大な光となっていく。
白と銀色が混ざった光となった瞬間――みゅんみゅんは、ぶんっと鞭をグリーフォに向けて叫ぶ!
「――『
あらんかぎり叫んだと同時に――待ってましたと言わんばかりに、その光はごあっとグリーフォに向かって突っ込んでいく。地面をえぐりながら突き進む。ものすごいスピードで突き進んでいく!
それを見たグリーフォは、はっとしてその光の方向を向いて――ごぶごぶさんが避けたと同時に……。
がぁああああんっと、両手でその攻撃を止める。
「ぬうううあああああああああああああっっっっ!」
あらんかぎり叫びながら、じゅうっと焼けるような感覚を覚えながらも、グリーフォはその攻撃を受ける。否――止める!
それを見て、ミリィは不安そうな顔をして……「大丈夫でしょうかねぇ……」と言うと、それを聞いていたケビンズははっきりとこう言った。
「いいや――大丈夫さ」
ミリィはそれを見て、もう一度みゅんみゅんを見ると――みゅんみゅんはぐっと足を踏む力を、hん張りを強くさせながら、彼女は言っていた。
「バカみたい……。なに亡霊じゃない何かにおびえてんのか……。これじゃああの三人に馬鹿にされる……っ! それに、ハンナだって戦っているはずだ……っ! あいつが動いてて」
みゅんみゅんはグリーフォに向かって――あらんかぎりの声を張り上げて叫んだ。
「私が動かないでどうするんだぁあああああああああああああっっっっ!!」
「ううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
それと張り合うように声を上げるグリーフォ。しかしそれはただの受け止めに対するそれで、ずずっと、その勢いに押されているのは確かだ。足元の地面は盛り上がっている。
それを見て、みゅんみゅんは叫ぶ。
「ちょむちょむっっ! ゴーッッ!」
突然、何の個体名なのかわからないような声を上げた瞬間――
みゅんみゅんの帽子の中から出てきた、青緑色の小さな蛇。その蛇はみゅんみゅんの帽子の中から飛び出して、そのままみゅんみゅんの前に出てきたかと思うと……、ぐっと体に力を入れて、かっと光りだした。
光ったと同時に現れたのは――青い翼竜の翼を生やした大きな、リヴァイアサンより小さいが大きい大蛇。
その大蛇は「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」と威嚇しながら、みゅんみゅんの言葉通りに、前に向かって突き進む。
ちょうど、みゅんみゅんの詠唱を放ったその方向に向かって――ぐあっと大きな口を開けながら突っ込んでいく。その詠唱と、グリーフォを丸呑みする様に突き進む!
そして、がぶりとみゅんみゅんが放った詠唱を噛み、そのままぐぅーんっと、上に向かって飛んでいく。グリーフォを道ずれにして――
「いけええええええええええええええっっっ!」
みゅんみゅんは叫ぶ。
「ベルゼブブゥウウウウウウッッッ!」
上空に向かって飛んでいく蛇とグルーフォの前にいる、ベルゼブブに向かって。
ベルゼブブは頷き、そして額にあるひし形の宝石に触れる。すると――かっと光りだしたと同時に、彼の顔が黒い触手のようなもので覆われ、真っ黒い顔面となる。口裂け女のような口元に、牙がついたそれとなり、ベルゼブブはがばぁっと――村を覆うような大きな口を開ける。
それを見た蛇は――ぐっと口に力を入れて、ぼっ! と吐き出す。
背中に受けてしまう急激な風圧と、背後にいたベルゼブブを見たグリーフォはまるでこの世の終わりのような叫びを上げて、その口に中に詠唱共々入っていき――ばぐんっと飲み込まれてしまう。
ベルゼブブはそのままもぐもぐと咀嚼して――ごくりと飲み込む。
それを見てケビンズ達は歓喜の声を上げた。勝利を確信した歓喜を上げる。
ベルゼブブは顔を戻し、ヨミがいる方向を見下ろしてぺろりと上唇を舐めとる。
これが――暴食のベル・ゼ・ブブの力……。
なんでも食べてしまう魔の力。
『魔食』である……。
◆ ◆
コークフォルス対グリーフォ。コークフォルスの勝利。
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