PLAY39 国境の村の激闘Ⅱ(私が動かないでどうするんだ) ①

「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!」




 グリーフォの雄叫びは、国境の村を中心に広がっていく。


 その雄叫びは村人達、ごぶごぶさんを最初に――


 近くにいたハンナ達も耳を塞いでしまい。


 仲間である緑守も、怪訝そうな顔をして顔を顰めて舌打ちをし。


 遠くでさくら丸を追っていたジルバ、セイント、キクリも耳を塞ぐ。


 しかしロフィーゼ達には聞こえなかった。


 捕まえたランディの聞き込み (という名の拷問) をしていたので、その声と重なってしまったこと、そして遠かったからという理由もあって聞こえなかった……。


 ヨミとベルゼブブは山からその光景を見て、言葉を失ったかのように顔を染めていた。


 ヨミは震える声でその音と熱を感じながら、ただならぬものが来たことを感じていた。


 目が見えない分、彼女は視覚以外の感覚が敏感だ。人間には五感と言うものが備わっており――視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触角と言う感覚器官があるのは誰もが知っていることだ。


 ヨミはその五感の視覚が無いため、それ以外の帰還が常人よりも発達している。


 いいや、補っていると言った方が正しいが、ゆえにわかったのだ。


 今村に来ている輩は――やばい存在だと……。


「べ、ベルちゃんっ!」


 ヨミはベルゼブブの手をぎゅっと握り、村がある方向を目が見えないそれで凝視しながら彼女は普段の笑みを消し、慌てながら彼女は彼に言った。荒げた。


「は、早く……っ! みんなのところに! 村のみんなを……」


 がくがくと震え、ひゅーっ! ひゅーっ! と、荒い息を吐いては吸う行為をしているヨミ。


 そんなヨミを見たベルゼブブはぎゅっと手を握り、彼女の膝裏と背中に手を差し込んだ後ぐっと持ち上げて――横抱きにする。


「わっ!」


 見えない世界の中で、急に己の体が浮いたことにより、ヨミは驚きの声を上げる。


 それを見て、ベルゼブブは口を開いた――


「――、――、――……」


 しかし声が全くでない。喉笛を潰されたかのような空気が「ひゅーっ。ひゅーっ」と漏れる音しか出なかった。


 それを聞いたヨミは、首を傾げながら辺りを見回す。


 ベルゼブブはぐっと口を閉じて――ぎゅっと彼女の横抱きを強くして、前を見据える。


 そして――


 ぞぞぞぞぞぞっと……。ベルゼブブは背中から黒い羽根を出した。


 それは蝙蝠のような羽で、その羽をばさりと羽ばたかせながら、ふわりと地面から足を離す。


「あ、わ……」


 ヨミはベルゼブブにしがみつきながら震える。


 それを見たベルゼブブは、ぐっと彼女を抱き寄せながら、村に向かって飛ぶ。


 安全運転を心掛け、そして――


 ヨミのために……。ベルゼブブは飛んだ。



 ◆     ◆



 ――なにこれ……、どうなってんのっ!?


 みゅんみゅんは困惑していた、困惑と混乱の連続で、頭がおかしくなりそうになっていた。


 だが――事態が急変したことはしっかりと分かっていた。


 ごあっと来た光と熱を持った突風。


 その熱は『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に守られながらも、その熱はみゅんみゅん達に届いていた。


「ううううぐうううあああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!」


 グリーフォは先ほどのような人語を話せるような雰囲気ではない。


 否――人語を話していた魔物が、元の魔物になったといった方がいいだろうか……。


「っ!」


 その咆哮と熱風を感じていたみゅんみゅんは、目を瞑りながら帽子を抱えて『鮮血の花嫁エルティリーゼ』の腕の中で耐えていた。


 コークフォルスの面々と一緒に……。


「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!」


 しかし、雄叫びを上げながらどんどん熱風を放つグリーフォ。


 それを聞きながらケビンズは「あ!」と、間の抜けた声を上げて思い出す仕草をした。


 ミリィはそれを聞きながら、「あ、あにさま……?」と、耳を塞ぎながら耐えていると、ケビンズは先ほどの加虐ドSの顔から、青ざめた顔をして――彼は言った。


「思い出した……。あのモンスター……、炎系最強と言われている火の化身『フレイムヒューム』だ……っ!」


 その言葉を聞いていたミリィとみゅんみゅんは、首を傾げながら「「『フレイムヒューム』?」」と、首を傾げながら九官鳥の様に言葉を返す。


 しかしザンシューントはそれを聞いて、はっと唸りながらこう言った。


『そのモンスターのこと、聞いたことがあります。ENPCのヘルナイトよりは劣りますが……、それでもよくイベントで出てきた宝を守るモンスターNPCです』

「……なんでそんなことを知っているのよ……?」


 みゅんみゅんがじろりと、なんで言わなかったといわんばかりに睨むと、ザンシューントはおっと驚きながら、彼はわふわふと唸りながら慌ててこう言う。


『いえ……、その、ネットでですね……』

「ネットの口コミ、恐ろしいですねー」


 と言い、ミリィはケビンズを見て首を傾げながら……。


「しかしあにさま。それと今とどういう関係があるんですかー? よく理解できませんー」


 その言葉を聞いたケビンズは、ぐっと顔を伏せながら……、神妙そうにこう言った。


 未だにその熱風は解けない。ゆえに今は情報の提供を優先にしているケビンズ。


 彼のその珍しい顔を見ながら、三人は息を呑む


 ケビンズは言った。


「い、いやね……。思い出したのはその……あのモンスターの行動パターンっていうかなんというか……」

「「『?』」」


 もにょもにょと口元を動かすケビンズ。


 ――さっきの気迫はどうしたんだよ。この似非ドS。


 そうみゅんみゅんは内心苛立ちながら突っ込むと、それを聞いていたのか――そのことについて意外な人物が答えた。


「フレイムヒュームは、最初こそは水系のスキルで倒せる雰囲気を出しやす。しかし体力が減った時が勝負なんでさぁ」

「あ」

『ごぶごぶさん様っ!』


 ミリィとザンシューントは、村の入り口方面から来たもう一人の仲間――ごぶごぶさんを見て安堵と歓喜の声を上げる。


 みゅんみゅんも彼を見ながら「無事だったんだね」と言うと、ごぶごぶさんはそれを聞きながらひたひたと近付いて――


「いやぁ……、あの大声を聞いたら誰だって慌てて駆け付けやすって」と言って、その音の元凶であるグリーフォを見上げると……。


「ありゃ……、結構やばいでっせ」と言い――


「とある攻略サイトで見たんですがねぇ……。ああなってしまうと、攻撃力が二倍。そして防御力や素早さ。あろうことか強力な技を出してきやす。そうなって、ゲームオーバーになった輩がわんさかいるって噂で……、勝った人――未だにゼロでっせ。とあるゲーマーがあの形態を……『狂暴形態』って言ってやした」


 あーあと言いながらごちると、それを聞いていたみゅんみゅんは、青ざめなあら――その『狂暴形態』となっているグリーフォを見る。


 死霊族特有の眼が赤くなって、体中から赤と白の炎を出し、熱気を放出させて、頭の髪の毛と言う名の炎が青く変色している。黒い肌も、更に黒くなっている。


 叫びは既に収まっているが……、みゅんみゅんたちを視認し、グリーフォは「ふぅうううううううっっっ!」と唸って、魔物本来の姿で、本来の人格で彼らを敵と認識し、左手を上に――点に向けて掲げた。


 それを見たみゅんみゅんは何をするのだろう……と思いながら見上げていると……。


 ぼわぁっ! と出た丸い青い炎。


 それを見たケビンズははっとして――すぐにみゅんみゅん達に告げた。


「みんな避けた方がいいっ! あれは危険な炎だっ!」

「?」


 見たことがない慌てようを見たミリィは首を傾げて「何が」と言おうとした時――


『危険認知。自動思考モード継続。対処します』


 突然だった。


鮮血の花嫁エルティリーゼ』はすっと立ち上がり、ウエディングドレスが黒焦げ、体中から黒い煙を出して立ち上がる。ぎぎぎぎぎっと、体の中から聞こえる軋む音。それを聞いたザンシューントははっとして――


『まずいです! かなりのダメージが』と、静止の言葉をかけようとしたが、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は聞く耳を持たないかのように立ち上がり、グリーフォに体を向ける。そしてこう言った。


『否――損傷七十五パーセント。完全損壊はしていません。戦闘可能です。引き付けている間に――回避を』


 と、機械的な音色と共に、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は剣を持ったまま駆け出す。


「『鮮血の花嫁エルティリーゼ』ッ!」


 ミリィの言葉を聞かず、静止せずに駆け出した『鮮血の花嫁エルティリーゼ』。それを見て――グリーフォは先ほどの規格とは打って変わって、冷静に、機械の様にその青い炎を投げる。


 ――『蒼炎雨ソウエンウ』――


 一塊で放たれた青い炎はその手から離れた瞬間、いくつもの小さな炎――矢の先端に火が灯ったかのようなそれに変わり、一斉に放たれる。『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に向かって!


 それを見た『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はステップを踏むようによけながら近付き、離れながら近付きを繰り返す。


 炎の雨は地面に当たったと同時に、ぼぉっとその場所を火種として燃え続ける。


 その光景はさながら火の玉の様だ。


 そうみゅんみゅんは思った。


鮮血の花嫁エルティリーゼ』はグリーフォの近くについた瞬間、その場で跳躍し、仁王立ちになっているグリーフォに向けて、その剣を向ける。


 グリーフォの首を狩るように、横から切り込むように――!


鮮血の花嫁エルティリーゼ』は剣を大きく振るった。ぶぅんっ! と、空気でさえも、あわよくば炎でさえも切る勢いをつけて! そして……。




 ――、斬った。




 否――


『――っ!』


鮮血の花嫁エルティリーゼ』は感じた。


 手応えがないと――


 そしてグリーフォを見ると……、近くでも痛く感じてしまう熱気。それを感じながら――『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はふるった剣の先を見た――そして……。こう分析した。


 ――不可能。と……。


 なぜそう思ったか? それはグリーフォを切った時に、すでに発覚していただろう……。普通なら、すぱぁっと切れる音が聞こえる。肉を絶つ音が聞こえるだろう……。更に言えば手応えもあるだろう。


 しかしない。どころか――


鮮血の花嫁エルティリーゼ』が持っていた剣が……、ケビンズが買い取った五万六千八百二十Lの剣が――


 それはまるで――コウガがサラマンダーを切った時と同じような現象。


 刀身すべてが熔けてなくなるその光景を見て、じりじりと迫りくる熱気を感じた『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は――刀身をなくしたその武器を使って、なんとか時間稼ぎをしようとする。


 だが――ケビンズ達は逃げなかった。


 否――逃げることができなかった。


 誰もが、その光景を見て絶句し、驚愕し、青ざめ――勝てないという確信をもって、力が入らなくなっていたのだ。


 それを見ないで『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は動く。少しでも時間稼ぎをするために!


 その刀身がなくなった使い物にならないそれを、グリーフォの眼に向けて打ち付けようとする。


 が――


 打ち付けようと触れた瞬間……、どろりとその柄でさえも、鍔でさえも熔解してしまうグリーフォの熱気。


 そしてグリーフォは『鮮血の花嫁エルティリーゼ』の手を掴んで――


「ううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!」


 叫ぶと同時に、その熱気を爆発させるように――拡散させる。


 ぶわりと、地面に会った小石が吹き飛ぶくらい、家屋が、作業場が倒壊するくらいの威力の――熱気の突風を繰り出した。


 それを受けていたみゅんみゅんたちは、その熱風に圧倒されて、そのまま――


「うわっ!」

「ちょ!」

『むぉ!』

「おおおっ!」

「ひゃぁんっ!」 


 ケビンズ、みゅんみゅん、ザンシューント、ごぶごぶさん、ミリィが吹き飛ばされてしまう。


 それを聞いた『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は、一瞬の不意を突かれ背後を見てしまう。その瞬間――がしりと後頭部を掴まれて、身動きが取れなくなってしまう。


『っ! 回避……、不能』


 ぎぎぎぎっと、機械のような音と声を出しながら、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は後ろにいる。後頭部を掴んでいるグリーフォを見ようとした瞬間……。


 後頭部に感じた高熱。


 それを認識した瞬間――目の前が赤と白の世界となり……。彼女はその世界の中で、この言葉を残す。


『そ、損傷――百パーセント。か、かんゼンはカイ。キノウテイシ……………』


 その言葉を言い終えた瞬間、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はどろりと黒い液体に戻り――ミリィの体に戻っていってしまった。


 みゅんみゅんはそれを見て、青ざめながらそれを見た。


 みゅんみゅん達のパーティーの中で最も重要な戦力だった『鮮血の花嫁エルティリーゼ』が消えた。倒されてしまった。後頭部を掴まれた瞬間、その手から出てきた高熱の炎に焼かれて……。


 ミリィの影の中に戻ってしまった。


 ――やばい。


 どくりと、彼女の心臓が嫌な音を立てる。


 ――やばすぎる。


 そう思いながらケビンズを見ると……、ケビンズは青ざめながらも引き攣った笑みを浮かべて……。


「ちょっと……、いじめ過ぎたいかな……?」と、先ほどの戦闘で、加虐の意思に従うがまま罵ったことが災いしたか……、そんなことを持っている顔で、彼は呟くと、それを聞いていたごぶごぶさんは呆れながら――


「やっぱりそうでしたか。なんとなく察してやしたけど……。そのせいも相まって、ああなってしまったんでしょうね。これはひとえにリーダーの過小評価が生んだんでしょうね」


 冷静だが、どこか棘のある言い方をして言うと、それを聞いていたケビンズはぎょっとしながら頬を染め上げ――


「的確にして精神的にくる言葉……っ! ごぶごぶさんはぼくのことそんな風に見ていたのっ!? 今は緊急事態なんだっ! ぼくをへっぽこにしないでほしいっ!」

「でしたらその性癖直してくだせぇ、あんたのせいなんですからね。根本的にきっと……」

「んんんんぐぅううううっっっ!」


 ごぶごぶさんの棘のあるようなゆったりとした言葉を聞いて、ケビンズは体を震わせながら唸る。顔を桃色の染め上げて……。


 みゅんみゅんはそれを見ながら――


 ――マジでSとM両方なんだ。てか切り替え早すぎ。と、内心突っ込んでいたが、今はそれでどころではない。


 ミリィははっとしてグリーフォの方を見た瞬間、はっとして指をさしながら――


「みなさまっ!」と、声を荒げた。


 それを聞いてみんながその光景を見た瞬間……、顔に浮かび上がる光。それを見て絶句するみゅんみゅん達。ケビンズはそれを見ながら「まってまって……」と、嗜虐ドM加虐ドSもなくなった顔をして、黒い穴の中に大量のLを入れた大きな袋を入れて漁る。


 慌てるのも無理はないだろう。


 グリーフォは片手に掲げたそれを大きく、大きく――己よりも、それ以上――否、この村を埋め尽くすかもしれない大きな火の玉を出しながら構えていた。


 みゅんみゅんはそれを見て、まずいと直感して、鞭に括り付けていたそれを――力いっぱい投擲し、その日の弾に向けて投げ込んだ。


 その鞭の先に括り付けられていた青い鉄筒は、その火の玉には当たらず――それを持っていたグリーフォの肩に当たる。


 みゅんみゅんはそれを見てちっと舌打ちをしたが……、それでもよかった。本体に当たったのなら、そのまま本体を叩けばいいのだから――


 ――このまま倒れろっ!


 そう思った瞬間、みゅんみゅんは叫ぶ。あらんかぎり叫んで――


属性剣技魔法エレメントウェポン・スペル――『激流手榴弾ウォタガ・グレネード』ッ!」


 己の魔力を使い切るような大量の水を爆発させ、それをグリーフォに落とす。


 どばぁッという音とともに、その水はグリーフォを覆って、ばしゃぁっと地面を濡らす。


 それを見てケビンズ達はほっと安堵の息を吐いた。みゅんみゅんもそれを見て「――よし」と言いながらしゅるんっとその鞭を自分のところに戻した。


 ――あいつは火属性。つまり水には弱い!


 ――さっきだってそれでせめて勝てそうだった!


 ――落ち着いて、冷静に動け………。


 が……。


「え?」


 みゅんみゅんは目の前に広がった光景を見て……、言葉を失った。


 ケビンズも、ミリィも、ザンシューントも、ごぶごぶさんもそれを見て――希望から絶望に叩き落されたかのような絶句と諦め、そして愕然としたその表情で、それを見た。


 グリーフォは先ほどのようなことになっていない。むしろ――。戻っていた。じゅうじゅうっ音を立てて。


 戻った。その言葉は不適切だろう……。


 グリーフォはただ――体から放出される高熱を使い、水が当たる瞬間、その水を水蒸気に変えて蒸発させたのだ。


 これが――討伐者ゼロの真実。


 水攻撃が急に効かなくなり、その魔物によって蹂躙されてしまう。一言で云うところの――くそゲーなのだ。


 ――ダメージゼロって……っ!


 ――何なのよあれ! チートじゃないっ!


 ――水の攻撃が突然無効になるとか……っ! 何考えてんのよ運営はっ!


 みゅんみゅんは怒りのままに歯を食いしばると……、グリーフォはその大きな火の玉を手首のスナップを使い、ふっと――球を投げるように降ろすと、その上空にあったその大きな火の玉が、みゅんみゅん達に向かって振り下ろされる。


 ゆっくりと、肌が焼けるような熱を放出させながら――彼らを覆い尽くすように襲い掛かる。


「「『っ!』」」


 みゅんみゅん、ミリィ、ザンシューントは息を呑み、死を覚悟してしまった。


 しかしケビンズは黒い穴から五つの黒い宝石が埋め込まれたネックレスを取り出し、ごぶごぶさんは持っていた斧を点に向けて掲げて――


「召喚:『小鬼戦士ゴブリン・ウォーリアー』ッ!」


 ごぶごぶさんの呼びかけに反応したのか、彼の背後から黒穴が出現して、その穴から出てきたのは……腰巻に、長い鼻。そして手には大きな棍棒を握っている、筋骨隆々姿の長身ゴブリン。


 それはブラドとコウガが倒したゴブリンと同系のものだった。


 ごぶごぶさんは『小鬼戦士ゴブリン・ウォーリアー』に向かって命令する。


「あっしらを守ってくだせぇ!」


 その言葉に反応し、『小鬼戦士ゴブリン・ウォーリアー』はみゅんみゅん達を抱きしめて背中で攻撃を受けるように丸くなった。そしてその大きな火の玉が『小鬼戦士ゴブリン・ウォーリアー』に当たり――


 かっと、光が辺りを包み込む。


 と同時に――その場所を中心に大きな大爆発が発生した。


 ゴブリンに守られている村の人達は、それを見て唖然として、言葉を失い……。


 ハンナ達、そしてジルバ達、ロフィーゼ達もそれを聞いて、何が起こったのかと思いながらその方向を見て。


 緑守だけは――内心舌打ちをしながら……。


 ――役立たずめ。と毒を吐いた。


 しかし、そんな言葉とは裏腹に、グリーフォは自我を失いながらも――みゅんみゅんたちを圧倒していた。圧倒して、蹂躙していた。


「うぅ……っ!」

「あ、つ……っ!」

『ぐるぅ……』

「あいててて……」

「熱いけど……、これは好きじゃない痛みだぁ……っ!」


 みゅんみゅん、ミリィ、ザンシューント、ごぶごぶさん、ケビンズは生きていた。

 あの大爆発では死ぬこと確定なのだが、ケビンズが慌てて買い取った『オブディジアン・ネックレス』の効果もあって、みんな無事に死ぬことはなかった。しかし『小鬼戦士ゴブリン・ウォーリアー』は消滅し、残ったのはその時に発生した風圧。それでもかなりのダメージがあった。


 それを受けた一同は――ところどころに飛び散って、地面に突っ伏して倒れていた。


 ぐっと起き上がって――ケビンズは体中に来る激痛を覚えながら、快感に飲まれそうになっていたが、それでも彼は思った。


 この状況のやばさを直感して、青ざめながら――


 ――攻撃を防いでいなければ……、ぼくら死んでいた……っ! てかログアウト確定だった……っ! 


 ――まずいまずい! 痛みでおかしくなりそう! ドM的なそれじゃなくて、マジでまずいっ!


 と思っていると、ミリィはよろりと座り込みながら、ケビンズを見てこう叫ぶ。


「あ、あにさま……っ! 回復を、回復薬を……っ!」


 それを聞いて、ケビンズはぎくりと体を強張らせる。みゅんみゅんはミリィの言葉を聞いて、よろけながら顔を上げる。そして――


「あ、あんた商人でしょが……っ! は、早く……っ!」と言った瞬間、ケビンズははっきりと――




「むり」




 絶望の言葉を吐いた。


 それを聞いた女二人は、言葉を失いながら、開いた口が塞がらずに茫然としていると、それを聞いていたザンシューントははっと息を呑みながら……『まさか……』と言うと、その言葉と共に、ケビンズは懐からちゃりんっとなるそれを取り出した。


 そして――彼はその掌に収まっている三枚の銀のコインを見せて――


……っ!」と言った。


 それを聞い三人は、言葉を失いながら絶句し、ごぶごぶさんはそれを聞いて……。


「万策尽きやしたか……っ!?」と、珍しい慌てた顔をして言う。


 ケビンが言うことは、商人にとって大きな痛手だ。


 お金がある=商品が買える。戦える。


 しかし逆に……、お金がない。


 =


 商品が買えない。戦えない。戦力外で無力。


 役立たずと言う、無駄に罵倒できるような事態になってしまうのだ。


 みゅんみゅんは魔力が底をつきそうになっている。


 ミリィは『鮮血の花嫁エルティリーゼ』が出せない。


 魔獣族である二人は戦力になるかならないか微妙なところ……。


 ケビンズは戦力外にして役立たずと化してしまう。


 最悪の状況。


 そんな状況でも、グリーフォの攻撃が止むという慈悲はない。


 グリーフォはもう一度手に集める火の塊。ぼぼぼっっ! と燃え盛る炎。


 それを見て……、五人はそれを見て、死を覚悟した。走馬灯は見えなかったが、それでも死を覚悟してしまった。


 それを見て、何を思っているのかわからないが……、グリーフォはそれをもう一度――



「みんなぁっ!」



「「「「『!』」」」」


 声がした。上空から。


 みゅんみゅん達はその上から聞こえた声を聞いて顔を上げると――黒と赤の空の世界に見えた一つの影。それを見たザンシューントがその影を見てこう叫んだ。


『ベルゼブブ様っ! ヨミ様っ!』


 そう。


 ヨミを横抱きにして、黒い羽根を羽ばたかせて来たベルゼブブ。


 それを見たみゅんみゅん達は、強力な助っ人を目にして、気を緩めてしまった。


 それが誤りであり、ともつゆ知らず……。


 グリーフォはそれを視認した瞬間、大きく燃え盛っていた火の塊を消し、人差し指を突き立てる。


 ぐっと指の中にいれて、そのままデコピンでもするかのように……。


 ピンッと――何か光るものを飛ばしたグリーフォ。


 それは空に向い、飛んでいるベルゼブブ達に向かっていくと……、目にも止まらない速さで不規則に軌道を変えて曲がりくねりながら……。





 ――どしゅっ!





 と。


 ――


 弾丸の様にそれは二人を貫き……、みゅんみゅん達はそれを目の当たりにして――言葉を失った。


 嘲笑うグリーフォを見ずに……。

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