PLAY38 国境の村の激闘Ⅰ(受け入れる暴走と初陣)⑤

 ぼわぁっっっ! と、迫り来る炎。


 それを見てもケビンズは避けない。仁王立ちのままだ。


 グリーフォは怒りに従うがままその攻撃をしたが、違和感を覚えた。


 ――なぜ避けないっ!?


 ――俺が見てきた人間はこの炎を見た途端に逃げだす。なんとも滑稽な光景であった。


 ――冒険者も然り。非常に滑稽、その後も更なる滑稽を見せてくれるからよく覚えている。


 ――だがこの男は避けない。


 どんどん迫って来たとしても、ケビンズは避けなかった。


 にこにこと爽やかな笑みを浮かべながら――彼はその場から離れなかった。


 グリーフォはそれを見て思った。


 何かを企てている。そう思った瞬間だった。


 ふっと――視界の端に映った青い何か。しかもそれは細長いものだ。


 それを見たグリーフォは『なんだあれは』という顔をしながら顔を顰めた瞬間――


『鮮血の花嫁エルティリーゼ』ッ! 戦闘開始レッツダンスッ!」

『了解』


 ミリィと『鮮血の花嫁エルティリーゼ』が言った瞬間――コークフォルスの戦闘が始まった。


 だんっと、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』が助走をつけずに、急加速の走りをグリーフォに向けて駆け出すと同時に……。<PBR>

属性剣技魔法エレメントウェポン・スペル――『激流手榴弾ウォタガ・グレネード』ッ!」


 刹那――


 ケビンズを襲おうとした火と重なり合うように――ドバァァッッッ! と、大量の水がその火を飲み込むように襲い掛かり、その襲い掛かりと同時に『じゅうっ』と火が消える音が聞こえ、白い煙が辺りを包み込んだ。


 さながら水が入った風船のように、大きな音を立てて。


「っ!? 水かっ!」


 グリーフォは叫ぶ。と同時に、ばしゃぁっと音を立てて地面を濡らし染み込んでいく水。大きく発生した白い煙も少しずつではあるが勢いと濃さをどんどんと失い、空気と同化して透明になって消えていく。


 それを見ながらケビンズはずぶ濡れになりながら仁王立ちになっていた。ずぶ濡れであるが故恰好は悪いが、それでも彼は仁王立ちで、格好良く立っている。


 グリーフォはそんなずぶ濡れのケビンズの顔を見て、ぎりっと歯軋りをしながらびきびきと苛立ちを募らせていた。


 ケビンズはそんな顔を見て、嘲笑うようにキメ顔をしているようだが……、それを見ていたザンシューントが――


『全然決めておりませんよっ! 格好悪いですってっ!』


 と、叫びながらも、みゅんみゅんを背に乗せて駆け出している。それと息を合わせるように『鮮血の花嫁エルティリーゼ』も走り出して、お互い交互にクロスするように走りながらグリーフォに向かって突き進む。


『みゅんみゅん様っ! しっかり掴まっててくださいっ!』

「わかっている。ザンシューントは回避とか移動に専念してて。私が攻撃をするから」

『了解しましたっ!』


 ザンシューントはみゅんみゅんに走りながら言うと、それを聞いていたみゅんみゅんはぐっと鞭を握る力を入れて、きっとグリーフォを睨みつける。


 ――絶対に勝つ。あいつだけは……許さない。


 己の満足でこの村を壊そうとしたグリーフォに怒りを覚えながら、みゅんみゅんは久し振りとなる戦闘を体感する。


 それを見ていたケビンズは、ふぅっと息を吐きながら、被っていた帽子のつばをくいっと下げて、そして彼はにっと微笑みながら――


「ぼくはこのコークフォルスのリーダー。からその任を引き継いだ……、さながら二代目。その任、を祝し――派手にやっちゃいましょうかねっ!」


 と言った瞬間――彼は左右に手を伸ばしてこう叫ぶ。


「『売買開始バイセル・スタート』ッ!」


 瞬間。


 彼の左右に出た大きな黒い穴。


 それを見て、ミリィは『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に向かって、踊りながら叫んだ。


「あにさまが行動に移しました! ザンシューントさんと一緒に戦ってくださいっ!」

『了解』


 それを聞いた『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は、ザンシューントとクロスする様に走って――グリーフォにいち早く近付いた彼女は、だんっと跳躍して、グリーフォに覆い被さるように両手を広げる。


 それを見たグリーフォはちっと舌打ちをしながら――ぐっと胸を張るように体に力を入れ……。


 ぼぼぼぼぼっと黒い体を赤く変色させ――否、


 ぐぐぐぐっと、まるでえび反りをするかのように体を曲げて、彼はこう言い放つ。


 魔物としての技を――ここで使う。



「『フレイム・バースト』ッ!」



 ばしゅぅっっ! と、高熱の熱気と炎が、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に襲い掛かる。


鮮血の花嫁エルティリーゼ』はそれを見たとしても、そのままグリーフォに向かって突っ込んでいくと、ふっと――何かが『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に向かって投擲され、それを見たミリィがくるりと周りながら――だっと駆け出して、それを掴む。


 そして――


「『鮮血の花嫁エルティリーゼ』ッ! 交代タッチッ!」

『了解』


 その言葉を聞き入れたかのように、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はその場から後退し、ミリィと入れ替わるようにケビンズの近くまで飛び退いた。


 ミリィを見たグリーフォは「んなぁっ!?」と声を荒げて驚きながら、彼女を見た。


 彼女は一直線に向かってその高熱の熱気と炎に向かって突き進む。走ってくる。


 グリーフォはそれを見て、にっと勝ちを確信したかのような笑みを浮かべた。


 ――間抜けだこの女はっ!


 ――この熱と炎は千度を超える高温の技。


 ――触れたりしたら丸焦げの即死技だぞ! 突っ込むなどなんて間抜けな女だっ!


 グリーフォは狂気に笑みを刻みながら、彼はミリィに向かってこう叫ぶ。


「情けなく死に晒せぇっ!」


 ミリィは手に持っていた――を前に突き出しながら駆け出すミリィ。止まることを知らないかのように、イノシシの様に駆け出す。


 その炎がミリィに当たった瞬間――じゅぅっという音が聞こえた瞬間……。


 ぱきんっと――何かが壊れる音が聞こえた。


 その音を聞いて、火の中に飲まれたミリィを見て――グリーフォは小さく「はは」と笑う。


 ――まず一人。そう心に刻みながら……。


 しかし――


「まだ私達が!」

『残っていますっ!』


 だっと犬がサークルを飛び越えるように駆け出してきたザンシューントと背中に乗っているみゅんみゅん。


 彼らはグリーフォの周りを駆け回りながら、攻撃の隙を伺っている。それを見たグリーフォは「はははは!」と笑いながら――


「『まだ私達が残っている』? そうだな! お前達は一人を犠牲にして生き残った屑だ! 今ので重要な戦力が消えてしまった。惜しかったなぁ」


 と、グリーフォはぼぉっ! と右手の掌に炎を出しながら言う。それを顔に近付けて、恐怖心を煽る様にして彼は言った。


「あの女と、その女が操る影は強かった。お前達のアタッカーなんだろうな。だが己の過信で命を絶った。自殺したようなものだ。これでお前達の勝率はかなり」




――』




 機械質の声が背後から聞こえた。


 グリーフォはそれを聞いて、聞いたことがあり、そしてあってはならな声を聞いて、グリーフォはすぐに背後を振り向いた瞬間――


 がしりと――背後から羽交い絞めをした『鮮血の花嫁エルティリーゼ』。そして彼女は冷静に――


『勝率はこちらの方が優勢です。変動はありません』と、機械のような言葉を放つ『鮮血の花嫁エルティリーゼ


 それを見て、聞いたのちに――驚愕の顔に染めたグリーフォ。


「な、なぜだ……っ!」


 グリーフォは背後から羽交い絞めをした『鮮血の花嫁エルティリーゼ』を見て彼は叫ぶ。


 ありえない。ありえない。ありえないだろう!


 その言葉が頭の中を支配する中、彼は疑問の声を荒げながら口にした。


「お前っ! あの女の影だろうっ!?」

『肯定――ワタシは主人マスターであるミリィ様の影です。不都合な点はありません』

「そうではないっ! そんなことありえないだろうっ!」

「なぜです? 疑問を提示――』

「~~~~~っ!」


 だめだ。話がかみ合わないっ! そう思ったグリーフォは、轟々と燃えているその場所を見て、己の目で確認しようとした時……、彼は自分の眼を疑った。


 ごうごうと燃え盛るところに――焦げているはずの、否……、厳密には見ていないが、それでもあの直撃だ。あってのおかしくないはずの黒い影が……、なかったのだ。


 グリーフォはそれを見て辺りを見回しながら……。


 どこだっ! どこに隠れたっ!? 替え玉かっ!? いいや違うっ! あれは正真正銘の本物だっ! この影を操っていた! しっかり見た! なのになぜここにいないっ!? まさかあの女……、冒険者だが二つの所属を持っているのかっ!? くそ! くそ! どこに――!


 頭の中でぐちゃぐちゃと混ぜ合わせになって、文字のハンバーグになってしまうグリーフォの思考の世界。


 悶々と考えている間でも、時間は止まらない。戦闘は止まらない――!


「よそ見は――」


 そんなことを思っていると、今まさに聞きたい声が聞こえ――否、聞きたくない声が聞こえたグリーフォ。その声が聞こえたのは……、まさに炎の向こうからだ。


 めらめらと燃えるその場所から……。


「――禁物でーっすっ!」と――


 ぶわぁっ! と、。しかしその体は水に入ったかのように濡れていた。ずぶ濡れだ。


 それを見たグリーフォは、うっと唸り、すぐに拘束から逃れようとしたが、すさまじい力を有しているのか、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は彼を離さない。というか……。


『否――放しません』と、彼女は機械的な音色で言う。


 がぎぎぎっ! がぎぎぎっぎぎっぎっ! 


 と、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』から聞こえる軋む音。


 その音はまるで人形のような音だ。その音を聞きながらもグリーフォは絶対に抜け出せるという確証を持ちながら力を振り絞る。


 しかしミリィは駆け出す足を止めず、手をかざして叫ぶ。『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に向かって。


拘束ホールドッ!」

『了解』


 その掛け声とともに、ミリィはグリーフォの胴体に、ひたりと触れる。そして――


死滅魔法エクリスター・スペル――『超浄化ガ・プィリフィー』ッ!」


 ばしゅぅっっ! と放たれたのは――閃光弾……、否――それ以上の光と威力を持ったスキル。


 前にメィサが使っていたあのスキルとは大違いの高威力の浄化スキル。


 それを直で受けてしまったグリーフォは――


「ううううぐうううあああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!」


 体がまるで高温にさらされ、吸血鬼が日に当たり激痛と枯渇に苦しむように……、声が嗄れるくらいまで叫ぶ。あらんかぎり叫んだ。


 それを聞いてミリィはたんっと足を上げ、そのグリーフォの胴体に足をつけて、どんっとグリーフォの胴体を地面にして跳んでその場から離れる。


 ミリィのその行動を見ながら、みゅんみゅんはとある大道芸の血を引いているのかと思ってしまったが……、すぐにその思考回路を遮断し、先頭に集中する。


 鞭に括り付けた青い鉄筒を構えて、グリーフォを見る。


 じゅうじゅうっと、体から黒い煙を出して苦しむグリーフォ。


「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ぜぇっ! ぜぇっ! う、ぐがああああああ……っっ!」


 体中がずくずくと痛む。そして体中から漂う人肉が焦げた臭い。


 それを痛覚で、嗅覚で感じたグリーフォは、ぎっとにらみを利かせながら、ミリィとその場から離れた『鮮血の花嫁エルティリーゼ』を見た。


 二人は無傷だ。


 それを見て――グリーフォは……、小さく、しかし張りのある音色で……。


「な、なにを……っ!」


 しかし――そんな言葉を口にする行為を隙と見たみゅんみゅんたちが、グリーフォに向かって駆け出し、走るザンシューントの上に乗って、ひゅんひゅんっと空気を切る音を出しながら、さながらカウボーイの様に、青い鉄筒をつけた鞭を回しながら、彼女はその鞭をぐぅんっと振り上げ、そしてそれを一気に、下に向けて振るうっ!


 ひゅぅん!


 と、鞭が鳴る。そして放物線を描くように、下から上へ、上から下へと落ちていく鞭の先にある――青い鉄筒。


 その筒はグリーフォに向かって落ちていき、グリーフォは顔を覆いながら、その痛みに耐えていたが、すぐにその筒が視界の端に映り、それを見ようと顔を上げた瞬間、その筒は『とんっ』と――グリーフォの右肩に当たる。


 そして――


属性剣技魔法エレメントウェポン・スペル――『激流手榴弾ウォタガ・グレネード』ッ!」


 みゅんみゅんがそう言う最中、その範囲を想定してかザンシューントはざっと回っていたそれを後退に転換して遠ざかっていく。


 そして――


 ばじゃぁっ! と、グリーフォを覆うような大量の水が、彼を襲う。


「ぐかああああああああああああああっっっっ!」


 再度叫びを上げて、激痛と、今度は体中の熱が奪われるような痛みに襲われる、その最中――体中から『じゅううううううっ!』と、焼け石に水と言う言葉が正しいかのように、熱で温められた石に水がかかった時のような水蒸気が、体中から吹き出て行く。


 グリーフォは痛みとどんどん使い物にならなくなっていく体の感覚を覚えながら、コークフォルスを見る。


 ――どうなっているんだ……!?


 そして思った。


 周りを駆け回るザンシューントとみゅんみゅん。


 そして即死の攻撃を受けても死なないミリィ達を見て……、彼は思考をめぐらせた。今まで使ったことがない頭をフル回転させて、彼は思った。


 ――こいつら初陣なんだろうっ!?


 ――初戦闘なんだろうっ!?


 ――なぜこんなに連携が取れるっ!?


 ――それになぜあのエクリスターの女は生きているんだっ!?


 ――直撃しただろうっ!?


 ――即死のはずだ!


 ――何回もその光景を見た。嘲笑った! こんな事初めてだ!


 ――どこかにタネがあるはずだ! 即死しなかった……。


「――っ!」


 グリーフォは息を呑んだ。あったからだ。そのミリィが死ななかったタネらしきことがあった。思い出したのだ。


 グリーフォはすぐにその人物を見ると……、その人物は黒い穴に手を突っ込んで、その中をごそごそと探りながら「あ、あった」と陽気に答える。そしてその穴から手を出すと……。


 青い小瓶が、ケビンズの手に収まっていた。その小瓶には『ETHERエーテル』と書かれているもので、ケビンズはそれをみゅんみゅんに向けて――


「みゅんみゅーんっ! エーテルだぁよぉ!」


 陽気に言いながらそれを投げた。くるんくるんと回りながらそれはちゃんとみゅんみゅんの方に――というよりも、ザンシューントがその場所に向かって走ってきて、みゅんみゅんが取りやすいように動いているだけで、ファインプレーはザンシューントだろう。


 みゅんみゅんはそれを『ぱしり!』という音が聞こえそうな受け取り方をして――


「さんきゅ!」と、急いで言いながら、それをぐっと一気飲みする。


 それを聞きながらケビンズは「いいえいいえ」と言い、懐から取り出した小さい袋をその穴の中にいれる。『ちゃりん』とコインの音が聞こえた。


 それを聞いたグリーフォは、目を見開きながらケビン時を見て――


「ま、まさか……っ!」


 と愕然としながら、震える体で立ち上がると――その周りを回る様に、ザンシューントと『鮮血の花嫁エルティリーゼ』が駆け回る。ミリィは踊りながらケビンズの近くで待機する。


 それを見ながら、「ぐうっ!」と唸るグリーフォ。


 ケビンズは言った。にっと、サディストの笑みを浮かべて――


「その通りですよ。ぼくは商人」


 と言いながら、彼は黒い穴に突っ込んでいた手を引き抜く。


 その手に持っていたのは――大きめの瓶に入った水。


 それを見せつけながら、彼は言った。


「ぼくはお金で攻撃もできます。しかしそれではあまりに一八芸でしょう? ただお金を投げて攻撃するだけだもの。ですのでぼくはこの使えないと揶揄されている『売買スキル』を底上げしまくりました。結果――いつでもどこでも売買ができるオーバースキル――『売買開始』を習得しました」


 その言葉を聞いたグリーフォの表情が曇りだし、驚愕と共にそれが曝け出される。


 ここで捕捉しておこう。



 オーバースキル。



 それはその所属がそのスキルをレベル10に達した時に使えるスキルで――ハンナの『蘇生リザレクション』がそれである。


 つまるところ――レベル10に到達しないとオーバースキルなんて習得できない。


 ましてやバランス型だと不可能というデメリットもある。そしてそれにSPを詰め込み過ぎて、後悔した人も多数いたとか……。


 閑話休題。


 ケビンズは言う。その大きな瓶を掌の上でくるくると回しながら――彼は言う。


「その習得の甲斐もあって、今では戦闘しながらショッピングを楽しめる。更にはこうして――」


 と言いながら、彼はその瓶をグリーフォに向けて投擲する。


 くるんくるんと周りそれを見て、グリーフォはぎりっと歯軋りをした後、手をかざしてぼぼぉっと炎を出しながら――


「――死霊族をなめ」


 と言いかけた時……、


 それを受けた瞬間――みゅんみゅんは叫ぶ。


属性剣技魔法エレメントウェポン・スペル――『激流手榴弾ウォタガ・グレネード』ッ!」


 叫んだ瞬間――どばぁっと背中に直撃した大量の水。


 火を司るグリーフォにとって、これは大きな痛手。そして大ダメージだ。


「ぐぎぃえっっっ!」


 背中の衝撃と激痛を受けながら、グリーフォはかふっと咳込むと同時に、ばりぃんと、顔に走る衝撃。そして、じゅううっという蒸発した激痛。


「あああああああああっっっ!」


 顔を覆い隠しながら、彼は痛みに耐えてうなる。


 それ見てみゅんみゅんは「よし!」と言いながらガッツポーズとして――


「うまくいってるね!」

『えぇ。――勝てますね』


 と、言ったザンシューント。


 それを聞いたグリーフォは、はっと息を呑みながら、ケビンズを驚愕の眼でとらえながら見て、そして彼は、震える音色でこう言った。


「な、なんだ……と?」


 そんなグリーフォを嘲笑うかのように、ケビンズはにっと、サディストの笑みを浮かべながら――


「何変なことを思っちゃったの? 当たり前じゃない。ぼくら結構戦闘経験していますぅー」


 と、唇を尖らせながら小ばかにするように言ったケビンズ。


 そして畳みかけるようにして――タネを明かす。手を広げながら、彼はサディスティックな笑みと共に、こう叫んだ。


「最初に言っていた初陣っていうのは――で、魔物との戦闘は結構していますよぉ! そしてミリィが何で死んでいないのか――それはぼくが低下二万五千Lで買った『オブディジアン・ネックレス』! これは受けた攻撃を身代わりとして受けて壊れてしまうので、ミリィにそれを持たせて攻撃をわざと受けた後で、あなたを油断させました! 結果として――まんまと引っかかったってことです! ハイ残念! 言葉遊びて言うのはこう言った心理戦にも使えるんですー! 覚えておいてねぇっっ!!」


「ぐ、う、うううううううううううっっっ!」


 それを聞いたグリーフォは、ぎっと食いしばっていた歯が、ばきりと罅割れる。


 ケビンズは言いながら、両手に持った袋に入ったお金を、その黒い穴に入れながらこう言う。


「ぼくらを侮ったからこうなったんだよ。ネクロマンサー君。そして君に聞いていいかな? 今激痛がいているんでしょ? 痛いんでしょ? ならその痛みに耐えなよ。痛みっていうのは生きた証なんだから――その生きた証を大切にしてこそ、君は更に向こうへと強くなれるんだら、ぼく達には感謝した方がいいよぉ?」


 それを聞いたグリーフォは、ぐあっと犬歯が見える歯を剥き出しにして――こう吠える。


「お前……っ! 悪魔かっ!」

「いやあなたでしょうがっ! あはは! ぼくはただの商人。ドMの商人にして……ドSの商人だよっ!」


 だが、そのような咆哮にも恐れないのか……、サディスティックな笑みと共に、その柄を掴みながら引っこ抜くケビンズ。


 そんな笑みを見ながら、ミリィは「まぁ!」と言いながら――


「あにさま――かっこいいですぅ!」と褒めながら踊っていた。


 その光景を見て、みゅんみゅんは目を細めて――半ば驚きながらこう小さく突っ込んだ。


「いや――今のあんたが敵だから。っていうかあいつ……、戦いになると興奮して、Sになるよね……?」

『SとMなんです。リーダーは』

「それ危ないから。『と』を抜いたら危ないから。てかなんであんなに性格が変わるのよ……」

『さぁ……、ですがああなってしまったとか……。しかし今は』

「……そうだった。今は戦闘に集中」


 と言った瞬間、サディストと化したケビンズは、その黒い穴から大きめの剣を『ずるり』と取り出し、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』に向かって叫んだ。


『鮮血の花嫁エルティリーゼ』! これぇ!」

『了解』


 ケビンズの言葉に頷いた『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は、とんっと後ろに向かって跳躍しながら、はためくスカートを靡かせて、くるんっと空中で一回転する。


 その光景はまるで戦場を駆け巡る鮮血に染めた花嫁の様に、強かだが美しさも備わっているその動きで跳び退き、その剣を掴んだ。


 そしてしゅるっと引き抜くと、その剣はちょうど『鮮血の花嫁エルティリーゼ』が持つに相応しい――赤い薔薇のレリーフが印象的な細身の剣。


 それを手にした瞬間――ミリィは叫ぶ。


「『攻撃ステップ』ッ!」

『了解』


『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はその命令に従い駆け出す。


 グリーフォに向かって駆け出し――剣を構えながら駆け出す。その喉笛にその剣を突き刺そうとした瞬間……。





 ――





 それを見て、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はどっと来たその感覚に不快感を覚える。


 そして『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は、その攻撃にストップをかけるように、ずささささっ! と地面に足を力いっぱい踏みつけてブレーキをかける。


 そのおかげで、グリーフォに向けられた剣は彼の喉笛の近くで止まる。


 それを見たケビンズとミリィは首を傾げながらそれを見て、ミリィは「『鮮血の花嫁エルティリーゼ』?」と首を傾げると――


『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は言った。


『命令強制破棄――自動思考に移行』


 と言った瞬間、彼女はミリィの命令なしに走り回っていたザンシューントとみゅんみゅんを抱え――そのまま後ろに後退した後……。


 ケビンズとミリィと一緒に四人を覆うように抱きしめて屈む。


 刹那――




「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!」




 グリーフォの魂の咆哮が、国境の村周辺に広がり、その雄叫びと共に眩い光が彼らを包んだ。

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