PLAY01 サヨナラリアル ③

 そして落ち着いた後……。


 噴水の所に腰かけて、私達はしょーちゃんとメグちゃんの上級所属の取得を見守っていた。


 見守るというよりも……、再度見る習得の光景をもう一度目に焼き付けようとする方が大きいのかもしれない。


 あ、でもしょーちゃんの場合はそうかもしれない。しょーちゃんは一瞬でも目を離してしまうと、すごいことをしてしまうから。


 そんなことを考えていると、どうやらメグちゃんとしょーちゃんは習得しようと行動に移す行動に出た。


「よし――ウィンドウを出して……」


 最初に動いたのはメグちゃん。


 メグちゃんは意気揚々とした面持ちでとんっと空間を指で小突く。


 するとメグちゃんの目の前に『ヴォンッ!』と出てきたのは――半透明なウィンドウ。これはその人にしか扱えないウィンドウで、メグちゃん曰くゲームのメニュー画面だという。


 正式名称は『カーソル・ウィンドウ』と言う。


 私も最初はやり方に手こずっていたけど、だんだん使い慣れてきた。


 メグちゃんは手慣れた手つきでとんとんっと、スマホを操作するように、素早くスワイプ、素早くフリック、そして素早くタップをしていき……、十秒も経たない内に所属レベルアップ……『上級所属選択画面』にジャンプした。


 すごい速さでの操作だったので、その光景を見ていた私達三人は驚きながらメグちゃんのことを見ていた。お年寄り臭いけど、高校生の操作ではない。完全なるギャルのタップ操作だと……、そんなことを思いながら……。


 ……なお、このゲームのレベルアップはモンスターを倒すことで経験値を取得し、それが溜まるとレベルが一アップする。でもレベルが上がっただけでは話にならない。


 レベルが上がるとスキルを取得するために必要なポイント――スキルポイント(通称SPポイント)がレベル一上がるごとに二ポイント手に入る。


 最初のレベル一でも、ポイントは三ポイントあり、それを使ってカーソル・ウィンドウのアバター育成画面でそのポイントを振り分けることができる。これもメグちゃんから聞いたことで、私もこのことに関して理解するのに時間を要したのは、今でも覚えている。


 怒られながらだったから、それはもう鮮明に……。うん。


 そのことに関して激怒しながら説明をしていたメグちゃんは、鼻歌を歌いながらカーソル・ウィンドウを操作して、つーちゃんがそれを覗き見ながら……。


「メグは、やっぱりだよね……?」


 と、ちらっとメグちゃんを見て言うと、メグちゃんはふんっと鼻息を荒くして――


「もっちのロンよ!」


 と、彼女はすっと指を空に向けて上げて――そのまま勢いよくタァンッと、そのボタンをタップした。


 その光景はさながら勢いのある押し方で、メグちゃんはその項目の『はい』というボタンに向けてタップをしたのだ。


「これだぁ!」と大声で叫びながら……。


 すると――カーソル・ウィンドウから『ピコンッ!』という可愛らしい機械音が聞こえた。


 その音が出た後すぐ――文字と音声が流れた。



『登録承認しました。アバター:メグ様。本日付でトリカルディーバに昇格。おめでとうございます。引き続き――MCOをお楽しみください』



 メグちゃんはそれを見ながら聞いて、ぶるぶると体を震わせると、そのあとすぐ――


「いやったぁ! やっと元のトリカルディーバァー! いやったいやった! いぇい!」


 ぴょんぴょん跳ねて(いると思う)、メグちゃんは大喜びではしゃいでいた。


 それを見ていたつーちゃんは、頬杖を突きながら――


「よかったねー」

「ほんとよかったねー」


 と、みゅんみゅんちゃんと一緒に棒読みで拍手をしていた。顔からでもわかる相当興味ないオーラを出しながら、二人は大喜びしているメグちゃんのことを見ながら言う。


「なにそれっ! そんな風に拍手しないでよっ! もっと喜んでよ!」

「この構ってちゃんが」

「あんた少しは頭冷やしなさいよ」


 メグちゃんがそれを見て怒ったのか、二人を見て怒鳴る。でも二人も負けていない。二人は冷たい眼差しでメグちゃんを見て、最後に――溜息を吐く。


 心底どうでもいい。それが顔に色濃く残る様に書かれたかのような顔をして……、本当にすごくどうでもいいという顔をしている……。


 本当にどうでもいいんだ……。怖い。


「何その溜息! 嫌味? 嫌味でやらないでよーっっ! やめてったらー!」


 メグちゃんは腕をぶんぶん振りながら頬を膨らませて怒った。でも、二人は本気でやってないから大丈夫だよ。きっと。うん。絶対……、大丈夫、だよね……?


 まるで不穏のような空気 (?)が漂い始めた中、私はその光景から目を逸らしつつ、隣にいたしょーちゃんのカーソル・ウィンドウを見ていた。


 しょーちゃんはカーソル・ウィンドウとにらめっこをして、きょろきょろと何かを探していた。ちょこちょことウィンドウを触っている指を急かしなく動かしながら……。


 一体何を探しているんだろう……?


 そう思った私は、そっとしょーちゃんのそれを覗き見る。


 ウィンドウには剣スキルと、槍スキルが光っていて、それはそのスキルは使えますという印なのだ。でも、しょーちゃんは首を傾げながらそれを見ている。顔を顰めながら……。


 私は思い切って、しょーちゃんに聞いた。


「何になろうとしているの?」


 するとしょーちゃんは、私に気付いたのか、ぎょっと驚いた顔をして、「へ? あ、えーっと……」と、少し半音高い声を上げて、カーソル・ウィンドウに指を添えて、彼は言った。


「実はさ……。俺持っている武器って、刀じゃん」

「うん」

「刀を持っていた理由は、俺、武士になりたくて……、それにしたんだ」

「……………、うん」

「でも武士の上級所属欄がない。あるのはソードマスターに、ランサーだけ……。なんで……?」


 しょーちゃんは真顔で指で指しているその場所――『武士』の場所を指の先で指さしながらそれを言う。すごくわからないという神妙な顔で、だ。


 私は衛生士なので、たったひとつのそれだったけど……、私はふと、とあるところを見て、しょーちゃんの話を聞いていたので、そのしょーちゃんの疑問をいち早く解決することが出来た。というか、謎が解けた。


 しょーちゃんにとって難問の謎を、私は五秒でわかってしまった。


「……しょーちゃん」

「? なに――はなっぺ」


 私はそっと、とあるところを指差す。


 カーソル・ウィンドウはその人が出したウィンドウに、他人が触れても何も機能しない。触ったところで間違って押した何てことはないのだ。


 私は指差したところは――刀スキル。


「この刀スキルって、あるでしょ?」

「うん」

「メグちゃんから聞いてない? それぞれの上級所属になりたい人は、その所属にあったスキルを手に入れないといけないの」

「………………………うん?」

「えっとね……。例えば、私は回復スキル。メグちゃんは殴鐘スキル。つーちゃんは召喚スキル。みゅんみゅんちゃんは魔法剣士スキル。だからね……、しょーちゃんは剣と槍のスキルを持っているから、ソードマスター。ランサーだけなんだよ……」



「…………………………………………え?」



 ここでしょーちゃんは、驚愕の真実を知ったと言わんばかりの顔をして、青ざめながら彼は言った。小さい、小さい声で……。消え入りそうな声でしょーちゃんは驚きの声を零すと、しょーちゃんは私のことを見てこう言ってきた。


「つまり……、最初から、この刀スキルを持っていれば、武士に、なれ、た……?」

「うん」

「俺は、大損したってこと……?」

「………………………………………………………。うん」


 溜めに溜めて、一体どう言えばいいだろうと模索したけど、結局正直に言おうと、私は頷いた。こくりと……ゆっくりと……。


 その頷きと同時にしょーちゃんはすっと、噴水の椅子から立ち上がって……、ふらっと傾いたと思ったら、膝から大胆に崩れ落ちた。


 ずしゃあっと、大きな音を立てて。


「「「え!? なにっ!?」」」


 三人もそんなしょーちゃんを見て驚いた顔をしてびくっとしていた。一体何事っ!? そんな顔をしているみんなに私はさっきまで起きていた経緯を話すと――三人は納得したかのように頷いて……。


「「「それはよくあるよね((でしょ))?」」」と、声を揃えて言ってきた。


 さっきまでの驚きが嘘のように消え去り、平然と言う顔が三人の顔に現れていた。そんなの当たり前だ。と言わんばかりの顔で……。


 言葉にできず、結局は自分の所為でなれなかった (自業自得に似たもの)しょーちゃんは落ち込みながらも、ウィンドウに指をトンッと力なくタップして……。


『登録承認しました。アバター:ショーマ様。本日付でソードマスターに昇格。おめでとうございます。引き続き――MCOをお楽しみください』


「…………………………ぅぐぅっ!」


 しょーちゃんはやむなくと言う感じで唸った。それを見た私は、しょーちゃんの頭をそっと撫でた。


 その時だった。





                ブーッ! 





 突然ブザー音が聞こえた。


 ブザー音を聞いた私達は、顔を上げて、空を見上げる。よくMCOの放送が流れるのは空からなので、みんなこの音を聞いたら、すぐに空を見上げるようにしているのだ。


 夜空の世界を見ながら――と言うか放送を聞き洩らさないように上を見上げながら耳を澄ましていると……。


『間もなく、大型アップデートが始まります。プレイしている皆さま……、その場で待機を』


 ………………………………。


 …………………………


「いやったぁ! やっとこさ来たぁ! 大型アップデート!」

「なんだか緊張して来たな……」


 メグちゃんがテンションを上げて天に手を上げて早く早くと急かす。つーちゃんははーっと息を吐いて緊張を解きほぐしてる。しょーちゃんはゆっくりと立ち上がって、震える声で……。


「……何があろうと……、俺は、ソードマスターで切り抜けてやるっ!」

「それ死亡フラグ。主人公じゃないんだから」

「うるせぇ! デレなし女! 俺今傷心中ぅ!」

「おまえがうるせぇ」


 ……………………なんだろう……。


 このは……。


 しょーちゃんとみゅんみゅんちゃん、みんなが大喜びでそのアップデートを楽しみにしているのに、私だけは正反対に……。不安が駆け巡っていた……。


 ずくずくと、心臓が危険信号を大音量で伝えているような、そんな爆音。


 笑みを作ることができないくらい……、不安に駆られる。不安に押しつぶされる。


「? ハンナ?」


 みゅんみゅんちゃんが私に気付いて声をかけてくれたけど、私は自分の胸元で、ぎゅっと握り拳を作ることしかできない。返事ができない。


 不安に駆られている理由。それは思い出したから。


 この前――来栖先生がカウンセリングの終わりに、こんなことを言っていたことを思い出したから……。


『実は最近ねぇ……。VRゲームのアップデートで、自分のアバターが壊れたって言うニュースが凄くてさぁ。でもそれって、その管理局がちゃんと伝えてないからそうなっただけで、本当は当事者の所為って知ってた? アップロードはプログラム模様替え。僕達からすると書き換えなんだけど……、それには時間がめっさかかる。だからプレイヤーがいたら、その模様替えに巻き込まれて破損するってこと。最悪アカウントも破壊だし。そんな時、管理局はすぐに『速やかにログアウトしてくださーい』って感じで、液晶さんらしく云う事が決まって、原則としてそれが規則となったってことっ! 華ちゃんもその放送を聞いたら、すぐにログアウトしてねぇ!』


 ……、あの時、先生はそんなことを言っていた。でも、放送は真逆。


 その場で待機。ログアウトなんて言っていない。


 更には、さっきの放送……、あれは機械音声の女の人の声じゃなくて……、男の人の声。


 トップページの更新情報からして、なんだが違和感があったけど……、それが段々パズルのピースの様に、パチパチとはまる。


 アップデートに参加した人達に、一万Lを贈呈して、あろうことか団体様には一万五千Lも一人ずつ贈呈。課金のそれなのに、一人一人にそのような額を渡すことは……、変だ。


 みんなLに眼がくらんでよく考えていないみたいだけど……。


 団体様を異様に押すこの状況……。



 明らかに、おかしい……。



「あ」


 私はやっと声を発することが出来たけど、バツンッと来たどこかでブレーカーが落ちる音とともに、世界は真っ暗な世界になった。夜空も、なにもかもがない世界に……。


「え? ええ?」


 メグちゃんの困惑の声。


「何これ?」


 冷静に見るみゅんみゅんちゃんの声。


「うぎゃあああああああああああっ! 停電だぁ!?」


 しょーちゃんの叫び声。


「落ち着けってショーマ……、って! うわぁ! 何か踏んだぁ!?」


 つーちゃんの冷静な声からの驚きの声。


「あいでででっ! それ俺の足ぃ!」


 しょーちゃんが痛がっている。そして――


「あ、ごめん」

「両足痛いと思ったらツグミとみゅんみゅんかぁっっ!」


 ………………。


 みんなが驚きながらざわざわと慌てふためく。暗闇は晴れていない。どころか……。


「え? どゆこと?」

「なんでこんなところに?」

「今俺達、カフェエリアにいたよな……?」

「なんだここ!」

「えー? なにこれー?」

「暗いなぁ。明かり付けてくれよぉ」


 あれ? なんで人が集まっているの? ううん。違う。


 ようやく目が暗闇に慣れて、私は辺りを目を凝らしてみる。すると――周りには無数の人がいた。それも数えきれないくらいの大勢。


 この人達は……、みんなプレイヤー。


 みんなざわざわと混乱しながら、辺りを見回している。


 遊んでいた人達が一斉にここに……? この場所に……?


 そう思っていると……、上から突然声が聞こえた。



『お集まりの皆さま――』



 上から、横から、下から響く声。野太い男の声だ。


 ばっと辺りが明るくなったけど、地面や背景は黒いまま。周りにいた大勢のプレイヤーは、私達は他の人達を見て、「え? どういうこと?」ときょろきょろと周りを見回して、状況を理解しようと頭を捻る。


 それを遮るように上から巨大モニターが現れた。半透明の電子モニターだ。誰もがそれを見て、なんだ? と首を傾げた。


 突然私から見て斜め上に、大型モニターの様に吊るされながら現れ、画面が突然光り出して、画像が出てきた。


 ううん。これは――ライブ映像。


 写っていた人物は、彫が深い笑みを作って、現れた。


 顎髭を蓄えて、彫が深い皺に狩り上げた白髪交じりの黒髪。高価そうなスーツとネクタイをして現れた……、當間市の創始者……。


「あ、理事長じゃん!」と、一人のプレイヤーが言う。


 それを聞いた誰もが、映像を見て――


「あ、本当だ」

「なんでCEOがここに?」


 そう言って、目の前に写っている人物――當間純一郎を見て、歓喜の声が辺りを包み込む。


「理事長ということは……、これは凄いアップデートじゃね?」

「どうかそうであってほしいっ!」

「なんで拝むの二人とも」

「ダブルバカ」


 メグちゃん達も歓喜の声につられて、テンションを上げて言う二人。つーちゃんとみゅんみゅんちゃんは、少し離れたところで、冷めた目で見ているだけだった……。きっと、友達を思われたくないと思っての自主防衛なのだろう……。


 そう思って、私は理事長を見た。


 理事長はにこっとさらに彫りを深くした笑みを作り――


 両手を大きく広げた。


『この度は、我が社のゲーム……MCOの大型アップデートにご参加くださいまして、誠にありがとうございます』


 深く、深く頭を上げる理事長。


 それを見た誰かが、いえいえと、小さくふざけて言った声が聞こえた。その声が聞こえた周辺では、小さな笑いが起こる。


 理事長は顔を上げて――大きな声で、言った。


『それでは、大型アップデートの詳細を、私――當間純一郎が直々にご説明いたしましょう!』


「「「おおおおおおおおぉぉぉーっっっ!」」」


 理事長の言葉に更にギャラリーの熱は上がり加速する。


 それを聞いた私は大きい声に驚いて耳を塞ぐ。フィルターがかかったような声が聞こえた。ちらっとみゅんみゅんちゃん達を見ると……。


 あ、しょーちゃんとメグちゃんもつられて……、つーちゃんとみゅんみゅんちゃんも耳を塞いでいる。


 理事長は静止をかけるかのように、掌を見せるように手を前に出して『ドウドウ』と宥めるような動作をする。


 一瞬にして静まり返った私達を見て、理事長は言う。



『単刀直入に言います。このゲームの大型アップデート。それはすなわち……大冒険です!』



 その言葉に、誰もがざわりと騒めく。


 そして生唾を呑む音が聞こえた。


 私は未だに拭いきれない不安を抱え、理事長の話を静かに聞くことにする。


 この後起こる事態に、みんなが別の意味でざわつくなど……今は知らなかった。

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