PLAY37 それぞれの覚悟と実行 ④

 それから少し時を遡る。


 今後のことについて考えていたロフィーゼ、シイナ、ブラドは、考えに考えたことを一旦リセットするため、一旦外に出て村の中を歩きながら話をしていた。


「はぁ……、どうしましょぉ……」


 ロフィーゼは妖艶に溜息を吐きながら言った。


 それに対してブラドは頭を垂らし、ぶらんぶらんっと手を振って「だよなぁ……」と沈下してしまったテンションのまま歩みを進めていた。


 シイナはそれを見ながら……、手、危ない。と思ってしまった。


 しかしシイナも同じ心境であろう。


 シイナは思い出す。それは昨日の夜に遡ることになるだろう。


 ハンナが倒れ、安静を強要されたハンナを寝かせて、その後でシイナ達は村を散歩がてらヨミの案内の元観光をしていた。


 決して仲間外れではない。


 することがないのとヨミに誘われて――仕方なくである。


 もう一度言おう。仲間外れではない。


 閑話休題。


 夜になり、暇になったみゅんみゅんが報酬を渡してくれたのだ。


 八十万リンズと詠唱結合書。


 最初こそブラドは大喜びし、ロフィーゼもみゅんみゅんにお礼を言いながら喜んだが、シイナはその詠唱結合書を見て――「ん?」と、目を点にした。


 そして――


「あの、お二人共……」

「「ん?」」


 シイナは詠唱結合書を持っているブラドをシイナが指をさした。引き攣った笑みを浮かべて。


 それを見た二人は詠唱を見る。それはもう穴が開きそうなくらいじっと見る。じぃーっと見て……。


「「あ」」


 と、さっきまでの有頂天が嘘のようなどん底に引きずり降ろされる。


 それもそうだろう。



 詠唱結合書の紐は――誰がどう見ても、だったから。



 その人物が使える詠唱の紐は


 つまりは使える。覚えられる。


 しかし黒い紐は紐を解いたとしてもただの紙切れ。紙同然。つまり――




 ――………使えない詠唱かよ。




 三人は、その時、同時に三人が同じことを思った……。そして同じ落ち込み方をして、同じ動作をするほど、三人はショックを受けてしまう。同じ行動をしてしまうくらい、三人は荷物になるしかない詠唱結合書を取り囲み、膝から崩れ落ちてしまったというのが――事の顛末。


 結局――報酬の八十万Lだけが報酬と言う形で残ってしまい、使えなかった詠唱を返すということはしたくないので、仕方なく持つことにした三人。そしてこれからのことだが――


「なんでノープランで来ちゃったのよぉ……。ここに来てもぉ、クエストがあるギルドもないこと、知っていたでしょぉ?」


 ロフィーゼはぷんすこと怒りながら頬を膨らませ、腕を組みながらブラドをじとーっと睨んでいた。


 それを見て「うぐ」と言いながら驚いて、ブラドはロフィーゼに向かって指をさしながら――


「うるせぇ! ロフィこそ最初乗り気だったじゃねえかっ! 手か全部全部俺のせいにされると、俺はストライキを起こすぞ!」

「ストってぇ……、ブラック企業ではできなかったことでしょぉ?」

「人のリアル事情を晒そうとするな! まぁそうなんだけど!」

「否定してよぉ」


 とまぁ……。


 普段とあまり変わらないその会話を見て、シイナはいつも通りの通常運転だ。そう思ったシイナはほっとしながら二人にこう提案した。


「ふ、二人共……、今はジルバさんにこのことを、は、話しませんか? もうメンバーなんですし……」


 それを聞いた二人は「ん?」とシイナの方を向いて会話を止めた。そして最初に声を上げたのは――ブラドだった。


「――まぁ、そうだな……」


 と言い、ブラドは頬を掻きながら、一番年下のシイナを見て恥ずかしそうに言って、ロフィーゼもそれを見て頬に手を添えて、妖艶に溜息を吐きながら――


「なんだかぁ……。シイナ君が一番大人みたぁい。シイナ君は二十歳でしょぉ? 私は二十四でブラドはぁ」

「え?」

「なに?」

「イイエ、ナンデモアリマセン」

「ブラドさんがコーフィンさん化した……」


 ロフィーゼがシイナの年齢を言って、己の年齢を言った瞬間、ブラドは真剣で驚愕の、影が濃くなった顔をした。


 それを見てロフィーゼは、黒く無表情に聞くとブラドはぞわりと身の危険を察知したのか、カチコチになりながらロボットダンスのようにカクカクと動いて謝った。


 それを聞いたロフィーゼはクスリと微笑みながら、いつもの表情に戻る。


 シイナはそれを見て、驚きにあまりに今はいないコーフィンを思い出しながら言った。


 シイナは心から教訓した。


 女の人に年齢のことを深く追求、もしくは聞かないことにしよう。当たり前な話だけど、本当にしないようにしよう……。未来が最悪のものとなってしまう……。


 そうシイナは誓った。深く誓った……。


「それじゃぁ、行きま」と言った時だった。シイナはふと、無意識に空に目を移した時、視界に何かが移った。


「?」


 シイナはその視界に映った何かをもう一度確認するために、太陽が出ているその方向を見た。ちょうど彼の真正面にあった太陽。その太陽の中心にできた黒い点。


 黒点ではない。それは、横長に広がっている。それもだんだんと大きくなっていく。


「……?」


 目を凝らして見ると、動いた。


 それも、手を上下にばたつかせるように――


 鳥のようなそれは、どんどん村に向かってくる。


「? なにあれぇ」

「鳥……、にしては、大きいな……」


 ロフィーゼもブラドもその光景を見ながら、どんどん大きくなっていく影を見て、足を止めて見てしまう。


 村の人達もそれを見て「鳥か?」や、「怪鳥の魔物か?」や。「怪鳥の羽の武具は高く売れそうだ」とか、更には「よし! 捕る準備でもするか」などと……、職人魂が見えるような会話をしていたが……、一人の武器職人の老人がその空を見て、ふと疑問の声を上げた。


「ん? なんだ? なんか空が……、というか……」


 と言って、老人は森と村の間に建てられてある、簡素な柵があるところの空中を見て、その場所に手を伸ばしながら――こう呟いた。



「ここだけなんだが、赤いガラスの壁が……」



 刹那。


 ばさりと、太陽の方角から飛んできたそれは、どんどん加速しながらシイナたちに向かって飛んできてる。


 それを見たブラドは驚きながら「あ、おい! なんかあの魔物こっちに来るぜ……っ!?」と言いながら、背に背負っていた大剣を持とうとした時――ロフィーゼはそれを見て、首を傾げながら「なんか、あれ……どこかでぇ」と、思い出そうと首を傾げていると、シイナはそれを見て、不思議と思い出す。


 あの日――ロフィーゼたちと出会い、そして自分が変わるきっかけとなったあの出来事。


 満月をバックにして現れた、あの怪鳥を連れてきたあの鳥の……。


 と思った瞬間、シイナは近づいてくるその大きな鳥――否。鳥なのか、それとも鳥ではないのかわからない何かが、シイナたちに向かって突っ込もうとしていた。


 体とは不釣り合いな、大きな大きな山吹色の鋭い鱗をつけた恐竜のような羽を羽ばたかせて、それはシイナたちに向かってくる。


「わっ!」

「ちょ……っ!」

「えぇっ!?」


 シイナ、ロフィーゼ、ブラドは驚く。しかしその驚いている隙に――


 ばしんっと、村人が見る中――途中から来たアキとシェーラ、そして戻ってきたケビンズたちの目の前で――ロフィーゼたちはその大きな怪鳥の手によって、捕まえられて連れていかれてしまった。


「えぇっ!?」

「ちょっと……っ!」


 アキとシェーラは驚きながら駆け出し、そのまま飛んでいくそれを見ながら――シェーラは叫ぶ。


「ロフィーゼェ! シイナァ! 大丈夫っ!?」


 腹部から声を出すように叫ぶと、帰ってきたのは……。


「俺は無視かよぉーっ!」

「あんたじゃないわよっ! ボケないでっ!」

「そのセリフそっくりそのまま返してやるぅ!」


 ブラドは普段と変わりない声を張り上げて、シェーラに向かって突っ込んだ。


 シェーラはその言葉を聞いてむっとしながら逆切れ気味に突っ込みを入れたがそれを聞いたブラドはそっくりそのまま切れて言葉を返した。


 アキはそれを見てシェーラを宥めつつ、銃を構えてから彼は「とりあえず、今はあの怪鳥をどうにかしよう」と言って、彼は銃をその怪鳥に向ける。


 そのころ、ブラド達は風を切るように怪鳥の手――というよりも、鋭い足によって胴体を掴まれ、餌のように吊るされ身動きが取れないでいた。


 ブラドとロフィーゼは一緒に掴まれているので、身動きが取れない。しかしシイナは一人であったが故、一体どうなっているのだろうと上を見た瞬間――目を見開いて……。


「お、……っ!」


 シイナはその怪鳥を見て、驚愕の声と青ざめた顔で、怪鳥を見上げていた。


 ロフィーゼとブラドもそれを見て、どうしたのだろうと思い、シイナと同じように怪鳥を見上げると……、言葉を失ったかのように、ゾンビでも見たかのように青ざめ、驚愕に顔を染めながら見上げていた。


 すると――



……?」



 怪鳥は――否。


 シイナはそれを見て、すぐに行動に移した。


 みんなにいち早く伝えるために、この窮地を何とか伝えるために。


 シイナは大きく息を吸い――そして……。


 自分達を連れてどこかへ行こうとしている……、怪鳥の正体を伝えるために。


 怪鳥が赤いガラスの様な壁を通り過ぎた瞬間だった。


 シイナは叫んだ。





「――ネクロマンサーだぁぁぁぁっっっっっ!!」





 シイナの叫びを聞いた村人は驚愕の顔を染め。


 それを聞いていたケビンズ達は、初めて聞く言葉に首を傾げ。


 偶然聞いていたジルバとセイント、空を飛んでいたキクリにも聞こえ、走っているみゅんみゅんにも聞こえて。


 唯一関わりがあるアキとシェーラは、驚愕に顔を染め上げ、すぐに行動に出た。


「少しの間、ここをお願いっ!」

「すぐにあの三人を連れて行く!」


 シェーラとアキは駆けだす。


 それを見ていたザンシューントはわんっと吠えながら『どうしたのですかっ!?』と驚きながら言うが、二人はそれを無視して、急いでそれの浄化ができるハンナのところに向かおうと、彼女が向かった方向に走り出す。


 シェーラを筆頭に走り出す。


 それを見たケビンズが珍しく (本当にこの光景は珍しい) 彼は二人の手を伸ばして制止の声を上げようとした。しかし――


 シェーラ、そしてアキがそのヨミがいつも行く場所に向かって、その場所を突っ切った瞬間、アキの足を遮るように、その道を塞ぐように――



 ぼおおおおおおおおおっっっ!



 と、横から導火線があるかのように、スピードを持った炎が、村を覆うように歪な円を描いていく。


 その高熱のそれを受けたケビンズは、内心気持ちよさそうにしていたが、すぐに顔を切り替えて――


「これは……っ!」

「炎……っ! 山火事……っ! いや有り得やせんぜ! こんな突然炎がっ! これは――」

『人為的! ですね!』

「あにさまっ!」

「っ!?」


 ごぶごぶさん、ザンシューントが言う中、ミリィはとある方向を指さした。その声を聞いて、ケビンズはその方向を見ると、その炎の向こうから来る一つの影。


 その影は「ガハハハハッ」と笑いながら近付いて来る。


 髪の毛を炎のように燃やしている……というか完全に膝の裏側まである髪の毛は、炎だ。その炎を纏いながら、黒い布を腰に巻いて、手足には少し太めの手錠と足錠。鎖はついていない。そして細く引き締まった体だが、黒人なのかというくらい濃い肌を持った、体中と顔中に白い刺青を入れた百八十センチほどの男……、否。彼は魔物。と言った方がいいだろうか。その魔物は豪快に、あろうことか人語を話しながら笑ってこう言った。


「あっけないな。本当に呆気ない。リョクシュも用心深くしなくとも、この俺の力をもってすればこの通り――」


 その魔物はすっと簡素な柵に手を伸ばすと、じりっと手のひらから出てくる湯気と黒い粉。


 その黒い粉が簡素な柵にゆらりと触れた瞬間――


 ぼわっ! と――まるで自然発火のように、否――マジックショーのように、何もないところから火を出して、簡素な柵をいとも簡単に燃やし、ぼろぼろと消し炭になったあと、魔物はずんずんと村に堂々と侵入する。


 それを見たケビンズは察した。否――直感した。


 やばいと。


 己の被虐の精神なんて二のに次にしないといけないくらいの……、異常な敵。


 それを見て、ケビンズはどうにかしないとと思いながら模索していると……。


「みんなっ!」


 背後から聞こえた聞き覚えがある声。


 その声がした方向を振り向くと、そこにいたのは、向こうからこっちに向かって走ってきたのは――


「お嬢っ!」

「みゅんちゃんっ!」


 ごぶごぶさんとミリィが安堵の声を上げる。その背後見ると、みゅんみゅんが慌ててケビンズたちに向かって走ってきたのだ。


 それを見たケビンズは驚きながらも「どうしたんだい? ヨミちゃんたちのところに」と聞こうとした時……。


「今はそれどころじゃないでしょうがっ! 今は――」


 と、みゅんみゅんが怒りの表情と罵倒のような言葉を投げかけて、その方向を見た瞬間、彼女は顔を絶望に染めながら、その光景を見ていた。


 ケビンズ達はそれを見て、再度真正面を見た瞬間――


 みゅんみゅんと同じように……絶望の眼に変えた。


 柵を燃やした魔物は――逃げ遅れてしまった一人の老人の前に立って、腰を抜かして立てない老人を見ながら、王道の悪人のような笑みを浮かべて、彼はぶるぶると震えている老人に向けて、掌を差し向けた。


 そして――


 老人に向けていた手を、そのまま方向を変えて、家が三軒建っている場所に向けて――


「邪魔だな。あれは」


 と言いながら、彼はその掌から、先ほどとは比べ物にならない炎を、手から出す。まるで火の魔獣が口から火を噴くように、その炎は大きく。どんどんその家に向かっていき、そして――


 その家に当たった瞬間――ぼわぁっと、三軒建っていた家が……火の餌食となってしまう。


 ごうごうと、めらめらと――


 それを見ていたみゅんみゅんは、小さい声で……。


「あの中に……、人」


 と、零したが……、その声は熱気と共に空気に溶けて、その熱気に負けるように燃えて消える。


 その光景を見て、老人はがくがくと震えながら、目から、鼻から液体を零して、「あぁああああああああ」と入れ歯が取れそうな声を上げる。


 それを見た魔物は、人間と同じように「ガハハハハハッ!」と笑いながら――


「滑稽だな! まさかこんな呆気ない死に方をするんだからな! もっとましな死に方をしたかったよな! もう先がない命! 自分が望む死に方をしたかっただろうなぁ!?」

「――やめてよ」


 か細く、みゅんみゅんが小さく唸った。彼女は震える指先で、青い鉄の筒に触れようとしていた。


 ごぶごぶさんも斧を持ちながら、ぐっと身構える。


「だがな、お前は――この村の者達はいい死に方をする! なぜって?」

「やめて」


 あと一センチ。みゅんみゅんの指先が青い鉄筒に触れようとしている。


 ザンシューントはそれを見て、ぐるぅ、と唸り、ぐっと前足に力を入れる。



「お前達は『浄化』の魔女のせいで死ぬのではなく……、俺のおかげで死ねるんだ! ありがたく思えっっ!」



「――っ!」


 がっと、みゅんみゅんはその青い鉄筒を掴んで、それを振り上げて、思いっきりその魔物に向けて投げようとした時――



 ――



 ――



「あ」


 魔物の右頬に当たった――水の入った小瓶。


 それが魔物の頬に当たったと同時に、熱によって破裂して顔にその液体が付着するが、すぐに熱気によって、ジュウウッ、と言いながら乾いていく。


 魔物はその小瓶を投げた人物を見る。じろりと、殺意を込めた眼で。


「…………なんだ?」


 と、魔物が聞くと、その小瓶を投げた人物は、不敵な笑みを浮かべて、熱気によって汗をたらりと流し、投げた体制から立ち上がって――投げた手を人差し指を突き立てるように変えてから、左右に揺らす。


 そして――


「お水ですよ? 定価三十五L。ですが今回は無料タダにしておきます」


 と言った瞬間だった。



『鮮血の花嫁エルティリーゼ』!」



 彼の背後から女の声が聞こえた。それを聞いた魔物はふと、その男の背後を見た。


 ずずずずっと黒い液体が形を成し、そして形成されたのは――


 血が付着したウェディングドレスとヴェールを被り、無表情の冷たい仮面をかぶった乙女だった。その乙女は水を投げつけた男よりも大きい乙女。それを見た魔物は「ちっ」と舌打ちをしながら――


 ――冒険者。しかも暗殺者か……。


 ――エクリスターでなければ問題ないが……。と、魔物は人間のような思考でふっと後ろに跳び退きながら距離を取ろうとした。


 だが――


 ぴりっと――その背後から感じる気配。


 魔物は背後を横目で見て、真正面からくる影に備えて、魔物は横目で見た。だが……、遅かった。


 その背後にいたのは小鬼――ゴブリン。


 ゴブリンはそのまま炎を纏った魔物の足を掴み、拘束する様に全身を使って止めた。


「っ! この小鬼がっ!」

「――っ!」


 魔物は足を拘束しているゴブリンを燃やそうと手をかざした。簡素な柵を燃やしたように、湯気と黒い粉をまき散らそうとしたが、その目を離した隙に――


 ぶわりと――まるで舞うように、踊るように現れた血濡れの花嫁――『鮮血の花嫁エルティリーゼ


 その影がさしかかったところを見て、魔物ははっと息をのんだ。


 そして――


 ミリィはくるんっと回りながら――叫ぶ!


「『攻撃ステップ』!」

『了解』


 その声を合図に、『鮮血の花嫁エルティリーゼ』は動く。


 ぐるんっと彼女と同じように、空中で回りながら、その形を成した足を使って、回し蹴りを繰り出す。


「――っ!」


 ボッとくる膝の蹴り。


 それを見た瞬間、まものの顔がめぎゅりと歪み――そしてその威力に負けるように……、吹き飛ぶ。ゴブリンと一緒に吹き飛んでしまう。


 がんっ! どぉんっ! だぁんっ! と転がって飛ばされながら、赤いガラスの壁に強打する様にぶつかってしまう。


 足にいたゴブリンは消え、そして『鮮血の花嫁エルティリーゼ』はふわりと着地しながら――優雅に頭を下げる。ミリィも同じように頭を下げてからケビンズは言った。


「流石はぼくの妹――惚れ惚れしてしまう」と、手に持っていた色とりどりの小瓶を持ち、腰を抜かしている老人に飲ませていた。近くには別のゴブリンが。


 老人は飲み終え、『ぷはぁ』と息を吐いた後、ケビンズはそれを見て「うんうん」と頷き――


「これで動けますね? そのゴブリンは味方ですから安心して、そのゴブリンと一緒に安全なところに――」

「し、しかしあの家の……」

「あぁ」


 老人が燃え盛っている場所を指さしたのを見たケビンズは、爽やかに笑いながらこう言った。背後を指さして、その人物たちを指さすと――彼は爽やかな笑みを浮かべてこう言った。


「あなたはまだ購入していませんでしたね? 今ならお得の『ワープボトル』! これを地面に一滴零すだけで、瞬時に移動可能のお品です! ただし使う時には、マーキングしてからご使用くださいね。おひとついかがですか? 今なら割引の二千五百L!」


「っ!?」


 そんな場違いなケビンズの言葉を聞いて、魔物とみゅんみゅんはその背後を見ると……、燃やされてしまった家屋の住人が、驚きながら己の家と作業場が燃えている光景を見て、ぽかんっと、口を開けて驚いていた。


 その手に持っていたのは……、緑色の小瓶。その小瓶には『WARP』の文字が……。


 魔物はそれを見て、ぎりりっと歯を食いしばって睨みつける。


 みゅんみゅんはそれを見て、驚いた顔をして、そのまま投げる態勢になっていたが……、彼女の前にザンシューントが立ち、彼女の顔を見て彼は言った。


『お乗りください! 戦いましょう! 避難誘導はごぶごぶさん様に!』


 それを聞いたみゅんみゅんは、ぐっと唇を噛みしめ、そして頷く。


「――わかったっ!」


 みゅんみゅんは意を決して、ザンシューントに跨り、そしてぐっとフワフワした毛を掴みながら、鞭にその鉄の筒――手榴弾を括り付ける。


「お前ら……っ! 許さんぞっ!」


 魔物は立ち上がり……、さながら邪神の様な激昂の表情をむき出しにし、ゆらりと立ち上がりながらケビンズ達を見る。そして――彼は叫んだ。


「俺の邪魔を……っ! そして絶好の見せ場を……っ! 殺す! 殺してやるっ!」

「できる?」


 しかし、魔物の言葉に対してケビンズは言った。否、反論をした。


 背後にいるミリィ。みゅんみゅん。ザンシューント。そして今はいないがごぶごぶさんに『鮮血の花嫁エルティリーゼ』。己の――現リーダーとしての仲間の顔を見て、ケビンズはにっと微笑みながらこう言った。


「ぼく達――強いと思うよ?」



 ◆     ◆



 その頃、鳥の死霊族に捕まってしまったシイナ達。


 丁度川に沿うように飛んでいたシイナは、川の下を見る。すると――はっと目を見開いた。


 もう少し向こうに行けば、ジルバとセイントがいる。彼等は赤い壁と化しているその場所を見ながら、驚きの表情でその光景を凝視していた。


 それを見て、シイナは思い出す。


 そう――あの時、セイントとジルバがどこかに行った時……、誰かが付いて行くと言って出て行った。


 その人物を思い出し、シイナは――


「ロフィさんっ!」

「っ!?」


 ロフィーゼはシイナの声を聞いて、ふと下を向くと、彼女も気付いて、ブラドもその光景を見て下を見て――


「お前ら……、一体何を……」


 そう怪鳥が言った瞬間――ふと、目の前に影が差しかかる。


 怪鳥は「?」と、目の前を見た。ありえないからだ。ここは地面すれすれのところではない。ここは――上空。それも気などない、影などできない場所。


 なのになぜ――影ができる?


 考えられるのは――一つ。


 何かが目の前を通ったから。そして……その目の前にいたのは――鳥ではない。




 人――魔王――『12鬼士』!




「っ!?」


 怪鳥は驚きのあまりにぎょっと後ろに後ずさった。だが、目の前にいた『12鬼士』――キクリは逃さない。


 扇子を持ったまま、ぐるんっと空中で回り――その扇子から炎を出して、踊り狂うように……、彼女は怪鳥に一閃を入れるように、攻撃を繰り出した!


「――『火達磨ひだるま』っ!」


 じゃきんっ!


 と、扇子で怪鳥の体に切り傷を深く入れると同時に――ぼわぁっと燃え盛る怪鳥の体。


「あああああがああああああああっっっ!」


 ばさりばさりと羽ばたきながら、燃える体をどうにかしようと暴れる。その際、足に力を抜いてしまったせいで、三人を離してしまう。


「わ」

「きゃ」

「げ」


 シイナ、ロフィーゼ、ブラドが叫ぶ。それを見たキクリははっとして、すぐに手を伸ばして掴もうとしたが――


「キクリはそのままジルバ達と合流してくれぇ!」

「っ?」


 ブラドの言葉を聞いて、キクリはその伸ばした手を止めてしまう。その間にも、三人は真下の皮に向かって、真っ逆さまに落ちていく。


 滝から飛び降りるバンジーはこんな感じかな……っ!?


 ブラドは内心怖がりながらも、大剣を引き抜き――シイナに向かって。


「シイナ! 風!」と叫ぶ。


 その間に、キクリはジルバ達に方向に向かって飛び……、シイナは頷きながら杖を地面――川に向けて。


「え、えっと……『ザン』ッ!」と叫ぶと――


 ばしゅぅっと出る風。


 ララティラほどの威力と比べれば、扇風機ほどの威力だ。しかしそれを見たブラドは、剣を上段で振り上げて、振り下ろすようにして――彼は叫ぶ。


「チェインスラッシュ:『ザン』ッ!」


 そのスキルを放った瞬間――ぶぅんっと彼は、敵がいないのに、その川に向かって剣を振り下ろした。


 風がぼふりと川に当たった瞬間、ブラドの大剣がその風に当たるように振り下ろされ……。


 ぶわぁっ! と――


 風のクッションを形成した。


「「「っ!」」」


 三人は驚きながらも、風のクッションを受けながらふわりふわりと飛ぶ。そして風が止んだ瞬間、ばちゃんっと川に足を入れる。


「もぉ……、あぶなぁい」


 ロフィーゼはブラドを見ながら言うが、まんざらでもない顔だ。


 それを見てブラドは「へへんっ」と笑いながら――


「俺だってやる時はやるんだっ!」


 と、自慢げに言った。それを聞いたロフィーゼはにこっと笑いながら……。


「本当にやる時はね」


 と言った。


 真剣な音色で――それを聞いたブラドは引き攣りながら「え?」と声を漏らす。シイナはそれを見て、ジルバ達がシイナ達に向かって来るのが見えた。


 だが――



 じゃぼんっ!



「「「!」」」

「「?」」

「っ!」


 シイナ達はその音を聞いて、すぐに武器を構えながら振り向く。ジルバ達はそれを見て移動したんだろうと思いつつ、キクリはすぐに臨戦態勢になりながら――


「構えて二人共――あの鳥は死霊族よ」


 その言葉を聞いて、真剣な音色を聞いた二人は内心納得したかのように、何も言わずに武器を手に取る。


 ぜーっ! ぜーっ! と、息を切らしながら立ち上がった怪鳥はシイナ達を怨恨の眼で睨みつけると……、ぐわりと狂気の笑みを浮かべてこう言った。



 ◆     ◆



「死霊族が一人にして、炎系最強と言われている火魔祖の化身『フレイムヒューム』。『消し炭にして使うマグマボルケーノ・ネクロユード』のグリーフォ様だっ!」

「ぼく等はコークフォルスだよ。覚えておいてね。今回が初めての初陣なんだ」


 今回初の初陣となるコークフォルス対魔物――グリーフォの決戦。


「死霊族――『鳥と共に戦うバード・フレンディア・ネクロユード』改め……『壊れ鳥として戦うブレイグバーディア・ネクロユード』ランディ! この恨み……、お前達の命で発散させるっ!」

「……リターンマッチィ? 逆恨みなら――かっこ悪いわ」

「……っ!」

「なんだかわからないけど、参加するヨ」


 カオスティカ対怪鳥――ランディの決戦。


 そして――ハンナ達リヴァイヴ対リョクシュの決戦。


 とある国境の村で巻き起こる三つの戦いが今――幕を開ける。

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