PLAY37 それぞれの覚悟と実行 ③
そしてハンナ達の時間に戻る……。
□ □
帰り道……。
ヨミちゃんの話を聞いて、私達は重い足取りでその場所を後にしてアキにぃ達がいる所に向かおうとしていた。
前を歩くのはヘルナイトさん。その後ろを追うように私とキョウヤさんが横並びに歩きながら歩みを無理に進めていた。
ヨミちゃんから聞いた誓いは、あまりにも残酷だった。
自分のことを傷つけるような近いだけで、まるで……。
自分勝手のような言葉にも聞こえて……。
「なぁハンナ」
「!」
隣で歩いていたキョウヤさんが私を呼んだ。
私は顔を上げてキョウヤさんを見上げると――キョウヤさんはすごく浮かない顔をして、何もできなかったという悔しさと悲しさを噛みしめたような顔をしてキョウヤさんは私に聞いた。
「あのヨミの言葉……、どう思った?」
って言っても……、きっとオレと同じそれだったと思うな。
そうキョウヤさんは頭を掻きながら、聞いたところで意味はないような顔をして俯いてしまった。それを聞いた私はキョウヤさんを見上げたまま……。
「きっと、キョウヤさんと同じで……、悲しいって思いました」
控えめの微笑ん……でないと思う。
だってあんな悲しいことがあったんだもの。笑うことは無理だと思うから、きっと私の顔はぎこちないものだったと思う。いや、思うじゃなくて、そうだった。自分でもそれは分かっていた。
だって自分の顔だし、体は石とは正反対で正直者だから……、ぎこちなく出てしまった。それが事実。
それを見てか、キョウヤさんは頭を上げて、私の顔を覗き込みながらそっと左手を上げて。
ぼすんっと頭に手を置いたキョウヤさん。
「?」
私は驚きながらその手を見上げていると、キョウヤさんは頭をガシガシと撫でながら、「あー」と言い……。
「確かに悲しいって思った。オレだって聞いてて苦しかったよ。それに……。何が村のためだっつうの……。結局あれは……」
と言った時、ヘルナイトさんは足を止めた。
それを見て、私達も足を止めて、ヘルナイトさんの背中を見ると……、ヘルナイトさんはふっと私達の方を振り向いて、そして――
「……人の覚悟に首を突っ込むことは、あまり快く思わない」と言った。
それを聞いてか、キョウヤさんはぐっと唇を噛みしめ、私を見下ろして、そして再度ヘルナイトさんを見るキョウヤさん。そしてこう言った。
「なんだよその言い方……。そんなに人の覚悟に首を突っ込みたくないのかよ」
「……あのお方も」
「?」
ヘルナイトさんは、頭を抱えて、思い出すような仕草をしてから……、思い出したくなかったかのように、苦しい音色で私達にこう告げた。
「あのお方も……、私達を巻き込まないように、自らの命を懸けて……、『終焉の瘴気』を抑え込んでいる。今こうして暮らしていられるのも……、あのお方が命を賭して戦っているからだ……」
「あ……」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて、私は思い出す。
そうだった……、ダンゲルさんの話にも出ていた。
サリアフィア様は自らの命を使って『終焉の瘴気』を止めている。
だから今でもこんな平和な時間を過ごせる。
きっと、ヘルナイトさんはそのことを思い出したんだ……。
ヘルナイトさんは、重い口を開けるように、ふぅっと一回深呼吸をしてからこう言った。
「私達は、あの化け物に負けた。私の詠唱をもってしても、不十分だったが故に……、負けてしまった……。絶望そのものだった。だがあのお方は、最後の力を使って――私達やアズールの民達を守ろうとした。命を懸けて」
止めようと……、ううん。止めた。
と、ヘルナイトさんは、ぐっと頭を抱えている手に力を入れながら、続けてこう言う。
「だがあのお方の覚悟を……、踏みにじることはできなかった」
何もできなかったのならば尚更だ……。
そうヘルナイトさんは言った。それを聞いた私はそっと目を伏せて、さっきのヨミちゃんの言葉を聞いて、思った。
ヘルナイトさんはサリアフィア様のその命がけの意思を最初は断った。でもサリアフィア様の意思は確固たるもので、固いもので……、そしてみんなのことを思っての自己犠牲だった。
優しくて、悲しいそれ。
ヘルナイトさんはそれを聞いて、苦渋の決断でもしたんだと思う。ううん。したんだ……。
今思うと……、ヨミちゃんとサリアフィア様のその決断は、近いものだ。
ヨミちゃんは村のために、ベルゼブブさんのために――死のうとしている。
サリアフィア様は、アズールのために命を懸けている。
自ら危険な道に向かうような自殺行為。ヨミちゃんは自殺に近いと思うけど……、二人の同じところは……。
どちらも――人のことを思っての自傷だ。
人のために、自ら命を懸けている。
私は、それを思ってヘルナイトさんを見る。ヘルナイトさんは頭を抱えたまま動かない。ヘルナイトさんだって悲しかったはず。なのにそれを受け入れようとした。無理に受け入れて……、記憶を失って、今思い出して……、悲しさを押し殺している。
もっと……、いい方法があった。と思う……。
いい方法があれば、みんなが幸せになれるような……、そんな世界ができるのでは?
今私が考えていることは……、傲慢なことだと自覚している。でもこんなのは、サリアフィア様のこともしかり、ヨミちゃんのことに対しても、こんな悲しい結果しか待っていない誓いは……、あまりにも苦しいことだ。
「だから……、か? ヨミの意思を汲み取って、このまま見ないふりでもしろってか?」
「……酷な、選択になるかもしれないがな」
「………はぁ」
キョウヤさんは溜息を吐きながら、頭をフルっと振って、そして私を見下ろしながらこう言った。
頭に置いた手をわしわしと撫でながら、キョウヤさんは言う。
「でも――何かいい選択があるなら、オレはそっちの方に進みたいって思うぜ? それしかねぇって……、苦痛でしかねえだろうが。一択しかねえのかでの死って……、オレならその運命を足掻いてでも――生きてぇ」
それを聞いて、私はキョウヤさんのもしゃもしゃを感じる。
真っ直ぐで、本当にその道が間違っているとは思っていないけど、そんな悲しい道に行くなら抗ってでも変えたい。そんな気持ちでいる。
真っ直ぐすぎる優しさを持っていた。
「それでも――変えたくねえんだったら……、まぁ……、うん……」
「多分あの二人の意思は変わらない。今も、そしてこれからもだ……。それに……」
これは――私達が手を出してはいけないことだ。
はっきりと、ヘルナイトさんは凛とした音色で、無理に受け入れるように言った。
手を出してはいけない。それは介入してはいけないことだろうか……。そう思っていると、キョウヤさんははぁっと溜息を吐いて、小さく「わかったよ……」と言った。
その表情にはあまり納得がいかないものを感じるけど、これは私達が解決すべき問題ではない。
それを胸に……、私もヨミちゃんの意思を、誓いを汚さないように、ぐっと胸をくくって……、違うな。腹を括って、受け入れる。
するとキョウヤさんはふと私を見て……、そして一回上を見上げてから――唐突にこう聞いた。話題を変えるかのような話の振り方で……、私に聞いた。
「ハンナ――お前オレに何か言いたいこととかあるのか?」
「っ!?」
唐突なことを聞かれ、というかなんだか昨日……、じゃない。気絶しちゃったから一昨日の私の心境を読んでいたかのような言葉に、私は肩から何かが出そうな驚き方をして、目を点にしながら「きょ、キョウヤさん……っ。もしかして、読心術使えるんですか……?」と聞くと、それに対してキョウヤさんは冷静に――
「いやいや。オレそんなスキル取得していねーし。そんでもって現実でもそんな人の心なんて読めねーよ」
と、呆れながら突っ込んで――キョウヤさんは言った。
「ちげーよ。シェーラが言っていたんだよ。お前がオレのことを見て物思いにふけっていたって。何かあったのか?」
……シェーラちゃんに、ばれていた……。
それを知って、私は少しショックを受けていたけど、キョウヤさんの質問に答えるため、すぐ立ち直って説明した。
私が話したこと……。それは――
キョウヤさんは友達を探すために、私達と一緒に行動している。
でも友達と再会したら……、キョウヤさんはその友達のところに行くのだろうか……。
長い付き合いだから離れたくないなんて、そんなのわがままだ。
そのことで、キョウヤさんの言葉を聞きたいと言うと――キョウヤさんは……。
「あー……、てか、そんな重く考えたのは何でだ?」と、逆に質問されてしまい、ヘルナイトさんも聞くことになってしまったので、私はえっとっと言いながらこう答える。
「実は……、アクアロイアでシェーラちゃんとの約束を思い出して……。それで」
「あ、言っていたな。アクアロイアまでの徒党って。てかあいつ一人だったけど」
と言いながら、ヘルナイトさんは私を見て、私の肩にポンッと手を置いて――
「そこまで心配だったのか? シェーラと別れることが」と聞いてきた。
それを聞いた私はうっと唸り……、そしておずおずと頷きながら……。
「長い間、一緒で……、これからも続くのかなって思っていたとき、ふと思い出して、急に不安になってしまって……」
と言うと、キョウヤさんはそれを見てか、私を見下ろして、腰に手を当てながらにっと笑いって――
「シェーラのことがあって、ナーバスになっているってことか」と、ははっと笑いながら言った。
それを聞いた私ははっとして、手を振りながら「わ、笑い事じゃないです……っ」と勇気を振り絞りながら反論した。
こっちは真剣に考えているのに……。
ヘルナイトさんはその話を聞いてキョウヤさんを見ながら「『なーばす』とは……、なんだ?」と聞いてきて、キョウヤさんは笑いながら「神経質になっているってこと」と言いながら、よっとっと言いながらキョウヤさんは私の前にしゃがんで、再度私の頭に手を置きながらキョウヤさんは言った。
「確かに……、ハクとレンを見つけたら、オレも二人のところに戻ろうと思っていた」
「ハク……? レン……?」
オレの連れっていうか、友達の名前。
と言って、キョウヤさんは話を続ける。
「でもお前達を見て、オレは確信した。オレはリヴァイヴに残ろうって」
「っ? でもお友達は……」
私は驚いて、キョウヤさんに詰め寄るように言った。
なんで私達を見てそう決心したのか、なんで友達のところに戻らないのか……、ただただ疑問しか残らない状況で私はキョウヤさんに聞くと、キョウヤさんは俯きながら小さい声で……。
「俺が抜けると……、あのシスコンが暴走しかねないから……。多分、俺かシェーラ……、は、PKしそうな雰囲気だし……、俺しか宥めることができねぇって確信しての決断だ……っ!」
アキにぃのために……、だったんだ。なんかごめんなさい。
そう思いながら私はキョウヤさんの話を聞いていると、キョウヤさんは「っていうのもあるけど」と言って、顔を上げながらキョウヤさんは揺るがないような真っ直ぐなもしゃもしゃで、私を見てこう言った。
「ここまで来て『いーちぬけた』なんてできねえって。もう四体目の浄化の旅なんだ。最初から浄化に携わったオレだし……、ここまで来たら最後までやろうってのが普通だろ?」
だから残る。あの二人だって理由を話せば理解してくれる。
そうキョウヤさんははっきりと言った。
そして私の頭をわしわしと撫でながら――
「だからナーバスになんな。神経質ってかなり疲れるみたいだし」と言った。
私はキョウヤさんの言葉を聞いて、くすっと微笑みながら――キョウヤさんとヘルナイトさんの顔を見てから……。
「――はいっ」
と、返事をした。
それを聞いたキョウヤさんはわしわしと撫でながら「よし」と言って――すっと立ち上がると……。キョウヤさんはヘルナイトさんを見上げて……。
「アキ達のところに戻るか。あいつのことだから発狂していてもおかしくない……っ」
と、陽気に言っていたけど、最後だけは神妙そうに、思いつめるような音色で言うと、ヘルナイトさんはそれを聞いて、首を傾げながら「発狂はないだろう」と言った瞬間、キョウヤさんはヘルナイトさんに指をさしながら、声を荒げて「お前はあいつの本性を知らないからそんなことが言えるんだってっ!」と言った。
私はそれを聞いて、なんだかおもしろくなって――くすりと口元に手を当てて笑っていると……。
「?」
私はキョウヤさんの背景――つまりは村の向こうを見て……、首を傾げた。
その向こうを見て、私は目を細めて見る。
やっぱり……、変だ。普通の空じゃない。
そう思っていると、キョウヤさんとヘルナイトさんも私の行動を見て首を傾げて、私と同じ方向を見て、同じように首を傾げて、じっとその方向を凝視した。
「なんだあれ……?」
「なんでしょう……、あれ」
キョウヤさんと私が疑問の声を上げると……、ヘルナイトさんはそれを見て、ぼそりと――こう言った。
「赤い、壁……?」
「ハンナッ! ヘルナイト! キョウヤァ!」
「「「!」」」
すると……、村の方から走ってきたアキにぃとシェーラちゃん。
二人は慌てながらこっちに走ってきて、アキにぃは私の安否を見てほっと息をついていると……、キョウヤさんたちを見上げてこう言った。
「そっちは大丈夫だった?」と――
それを聞いたキョウヤさんは「はぁ?」と首を傾げながら、アキにぃを見て「いや何言って」と言った瞬間、シェーラちゃんは声を荒げながら私達に向かってこう叫んだ。
「敵襲よっ! 『BLACK COMPANY』でも、『六芒星』でもない……、ネクロマンサーの襲撃よっ!」
その言葉を聞いて、私達はぶわりと先ほどまでの穏やかな空気が一気にかき消されて、緊張感が駆り出された。私はシェーラちゃんに駆け寄りながらこう聞いた。
「村の人たちは……っ?」
「コークフォルス達が何とかしている。でもロフィーゼ達が鳥の化け物に襲われて、連れ去らわれた」
「っ!」
ロフィーゼさん達が……っ!?
そう思っていると、ヘルナイトさんは私の名前を呼ぶ。私とシェーラちゃんはヘルナイトさんを見上げて、キョウヤさんとアキにぃも見ると……、ヘルナイトさんは凛とした音色でこう言った。
「ヨミ達が心配だ。今はあの二人にも伝えに」
「その必要はない」
「「「「「っ!?」」」」」
突然だった。ヘルナイトさんの言葉を遮るように、村の方角から声が聞こえた。
その方向を見て、みんなが武器を構えて、ナヴィちゃんも私の肩の上で「ふーっ!」と毛を逆立たせて威嚇していた。
目の前にいた男は……、ぱさりと靡く白銀の長髪。それは頭の上で一つに縛られているけど、それでも腰まである長髪の髪の毛だ……。縛っているところに黒い鉱物をつけた髪飾りに、ほんのり褐色の肌に、額にある数字の一の痕が残っている……。整った顔立ちに左の目元にあるなきほくろが印象的な、黒い瞳孔をもって、黒い忍装束に身を包んでその手に持っている忍びが持たないような、黒い鎖がついて、その先に大きな群青色の斧がついている武器を持って、仁王立ちの状態で私達の前に立っていた。
「お前は……?」
ヘルナイトさんが聞くと、その人は私達の目の前でこう答えた。<PBR>
「
手に持っていた鎖につけられた斧をじゃらりと握って、ネクロマンサー――リョクシュは、口をかぱっと開けた。
口を開けて、その人はその口腔内に入っているそれを、私達に見せた。
口腔内にあるのは……、小さな赤い石。固形のガムくらいで大きさで、目を凝らさないといけないくらい小さいそれだった。それを舌を使ってころころと弄んでいる。
それを見た私達はうっと唸り、シェーラちゃんに至っては気持ち悪いという顔をしてその光景を見ていたけど、ヘルナイトさんははっとしてそれを見た瞬間「っ! まさか――っ!」と叫んだ。
けど――もう遅かった。
その声を聞いて、私達が驚いている隙に、その人は――
ぷっと何かを吐き出す音を出した。
それを聞いて、私はそっと目の端でそれを見る。するとその人は――口から出したその小さな欠片を手にもって、そのままぐっと鎖から手を離した手で握ると――
「マナ・イグニッション――『
刹那。
さっき見えていた赤い壁がどんどん空に向かって伸びていき……、私達や村を包み込むように、どんどんと、どんどんと……、上に向かって伸びていく。
まるで轟々と燃える火柱のように、それは長く長く、私達を閉じ込めるように、赤くて透明な壁を作り上げていく。
「これって……っ!」
「まさか……っ!」
シェーラちゃんとアキにぃが驚く中、キョウヤさんはリョクシュに向かって――
「お前――何したっ!」と怒鳴ると、リョクシュは再度それを口に中にいれて『ごくり』と飲み込んだ後……、リョクシュは言う。
「お前達応える言葉などない。覚えていても無駄だからだ」と言って、続けて言った。
悪人がよく言う王道のセリフを――リョクシュは吐いた。
村の方から叫び声とぼぉっと燃え盛る炎――戦火の炎を背景に……、彼は言った。
冷たい音色で、彼は言った。
「――お前達は、ここで死ぬ。私の手によってな」
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