PLAY51 対面と再会と脱出 ②



「――『風喰ザン・イート』」



 その言葉と共に、オグトはぐぱぁっと大きな口を開ける。


 その口を開けた状態で彼は両手にある武器を手放さず、ただ自分に迫り来る風でできた鷹と同じ視線になるように足を大きく肩幅くらいまで広げて、相撲取りがするような腰の落とし方をしてから――その風の鷹に向けて大きく開けた口を向ける。


 その時のヘルナイトさん達は、一体何をする気なのだろうと思って見ていただろう。


 でも私は、それを見て、まさかとまたも最悪のケースを想定してしまう。


 さっき見せた邪悪な笑みと、さっき感じたオグトのもしゃもしゃ。


 あのもしゃもしゃは異常だった。


 赤と黒の他に見えた……、マリアンダが醸し出していた欲望のもしゃもしゃ。


 その欲望は主に、『何かが欲しい』とか『あれがいいなー』と言う、純粋なものではない。


 オグトから感じられたそれは……、黒や紫とか、黒に近い色で塗り潰された欲望のもしゃもしゃ。


 あの行動とそのもしゃもしゃを感じた私は、見たことがないそのもしゃもしゃを見て……、直感的にこんなことを思ってしまったのだ。


 それは――全ての食べれるものを、食べ尽くしたい。という感情なのではないか? と……。


 そう思った瞬間だった。


 オグトは迫り来るその風の鷹をじっと見て、マリアンダのその勝ちを確信したその笑みを見ながらオグトは何の恐怖心もなく――その風の鷹を……。



 ばくんっっ!!



 と、食べてしまったのだ。


 唐突で、一体何が起こったのか一瞬理解できないような光景を見た私達は、目を点にして、呆けた顔をしたままもぐもぐとおいしそうに咀嚼音を出して、口の外で暴れて羽をばたつかせてる風の鷹を食べているオグトを見た。


 本物ではないのに、オグトは風でできたその鷹を、バリバリと、もぐもぐと――おいしそうに食べていたのだ。


 あの時――アルテットミアで自分の部下の体の一部を食べた時のように、しょーちゃんの足を食べた時のように。


 彼は――食事をしていた。


 大きな咀嚼音を立てながら食べていた。


 マリアンダもその光景を見て、自分の奥の手のように豪語していた風の鷹が、いとも簡単に倒され……、ううん。食べられてしまった光景を見て……。


「へ?」


 素っ頓狂な声を上げながら、顔をざぁっと真っ青に染めて、脂汗がどろどろと出しているにも関わらず、その汗を拭わずに、そのまま彼女はぺたんっと尻餅をついてしまった。


 今まで痺れていた体だ。きっとどこかでそのしびれが残っていたのだろう。気力で立っていたそれも無意味とみなしてしまったのか、彼女は失意の表情を浮かべながら、座り込んでしまった。


 そんなマリアンダとは対照的に、オグトはそのバタバタと暴れている風の鷹を『もしゃもしゃ』という咀嚼音を立てながら、拍子抜けのような音色で――


「まずい」と言いながら、オグトはそのままぐぱりと口を開ける。その際――頭がなくなってしまった風の鷹は、つるされた糸がなくなった人形のように、ずるりとオグトの口からずり落ちる。


 けど、オグトはその落下を許さなかったのか……、オグトはその風の鷹にめがけて――片手に持っていたこん棒を上に振り上げて、それを一気に降ろして……。



 ――めしゃりっっ!



 と、その鷹を棍棒で叩き潰す。


 誰もがその光景を見て、ううん。最初の食べるところで、すでに頭が真っ白になっていたにも関わらず、オグトはその驚愕に拍車をかけるように、彼はそのままマリアンダの奥の手を棍棒で叩き潰したのだ。


 まるで――絶望を与えているかのような行動だ。


 オグトはそんな私達を無視して、未だに尻餅をついてへたり込んでしまっているマリアンダを視界に入れながら、彼はぐにっと、犬歯が見えるその口を邪悪な笑みでよく見えるように、口角を上げながら、彼は何かいいことを思いついたかのようにこう言ったのだ。


「お前――さっき瘴輝石使ったな?」


 その言葉を聞いたマリアンダは、びくりと体を震わせて、「へぁ?」と、半音高い音色で返事をすると、オグトはそんなマリアンダの返答を待たずに、彼は叩きつけた棍棒を上に上げて、そのまま肩に乗せながら、彼は言った。


 私達にとって、マリアンダにとって――衝撃ともいえるようなその言葉を。



「それ――オデが貰う」



「…………………………え?」


 マリアンダの『一体何を言っているんだ?』と言うようなその表情をした瞬間、オグトはもう片方の手に持っていた肉切り包丁を上に振り上げて、それをブーメランのように、ぶぅんっという風を繰る音と共に、その肉切り包丁をマリアンダに向けて投擲――ううん。手裏剣のように投げたのだ。


 ぶんぶんっという回転音を出しながら、オグトが持っていた肉切り包丁は剛速球とまではいかずとも、すごい速さでへたり込んでいるマリアンダに向かっていく。


 私はそれを見て、その投げられた肉切り包丁が向かう先を目で追い、突き刺さるその場所を予測した後、私はすぐにヘルナイトさんの腕の中で手をかざし――


「『強固シェル


 と、私はスキルを放とうとした瞬間だった。


 放とうと口を開けた瞬間……、突然視界が揺らいだ。その原因を作ったのは――ヘルナイトさん。


 ヘルナイトさんは視界の端で何かを見たのか、慌てた様子で私を抱えたまま、マリアンダに近付くような跳躍をして、何かから逃げたから、私の視界が突然揺らいだのだ。


「っ!?」

「きゅぅ!」


 当然――スキルを言う前に視界が揺らいで、驚いて口を塞いでしまったので、スキルは発動できない。私は目をぎゅっと閉じながらヘルナイトさんの腕の中でその動きが止まるのを待った。


 ざざっ! と、地面を擦る音が聞こえた。


 その音と共に、その揺れも消えて、消えたと同時に大きな破壊音と――


「ぎゃぁ!」と叫ぶ――マリアンダの声を耳が拾った。


 私はその声を聞いた途端、閉じていた目をすぐに開けて、ヘルナイトさんの腕肩身を乗り出すように、一瞬閉じてしまい、変わった世界を目にした。


 変わった世界と言っても、世界が変わったわけじゃない。さっきとは違う景色を見ただけで……、私の予想の斜め上を行くような光景が視界に広がっていたのだ。


 最初に見たのは、私たちがいた場所。その場所には、オグトが持っていた棍棒が、地面に深く突き刺さっており、もしあの場所にいたらきっと――私とヘルナイトさんは、終わっていただろう……。


 そんな最悪の未来を創造した私は、ぞくりと背筋を這う悪寒を感じながら、青ざめた顔をして己の肩を抱きしめる。ぎゅっと、抱きしめる。


 抱きしめながら私は、次に虎次郎さんとジュウゴさんを見る。虎次郎さんとジュウゴさんは――無傷で無事だ。虎次郎さんがジュウゴさんの服を掴んで、一緒に逃げていたおかげもあって、二人はその場所からいち早く、そして遠くに逃げていた。


 私はそれを見て、ほっと一瞬の安堵の息を吐く。でも、その安堵もすぐに消えてしまった。


 なぜ? そんなの――簡単な話だ……。ううん。簡単じゃない。


 言葉で言うのであれば簡単かもしれないけど、それを見ている私にとってすれば、その簡単なそれは――


 ――地獄の幕開けに等しかった。絶望の始まりに等しかったのだ。


「あ、ぐぅ! うく! ひぃ!」


 呻くような声を上げていたのはマリアンダ。


 マリアンダは今まで尻餅をついていたにも関わらず、彼女は彼女の前に急接近してきたオグトの手によって、無理矢理首根っこを掴まれて立たされて……、ううん。首吊りのように持ち上げられている状態で、うまく空気を取り入れることができない状態で、彼女は掠れた声を上げていた。


 彼女がへたり込んでいたその近くには――肉切り包丁が地面に突き刺さっており、最悪のケースは免れた。けど……、まだその絶望が終わったわけではない。


 マリアンダは自分の首を掴んでいるオグトの武骨な手を掴んで、必死に引きはがそうとしながら――ぶらぶらと振るって、オグトの胴体に向けて弱々しい蹴りを入れながら、彼女は足掻いていた。


 でも、弱々しいその蹴りは、今なおマリアンダの首を掴みながら、下劣な笑みを浮かべて「うわはは」と笑っているオグトには効いておらず、マリアンダは無駄と分かっていても、その蹴りをやめることはなかった。むしろ、嘲笑いながらオグトはマリアンダを見ていた……。


 私はそれを見て、オグトの性格の悪さに内心苛立ちを覚えた半面、自分の失態に自責の念を込めながら、ぎゅっと自分の肩を強く抱きしめて、俯いてしまう。


 そんな私の姿を見て、ナヴィちゃんは心配そうな声を上げて鳴くと、ヘルナイトさんはそんな私を見下ろしながら小さな声で申し訳なさそうな謝罪をした。



 ――。と、私にしか聞こえない声で、彼は謝っていた。



 でも、そんな失念も、すぐにもみ消されてしまう。いつまでも後悔している私達に追い打ちをかけるように、現実に引き戻すように、オグトはマリアンダを見ながら――


「お前――よくよく見たら、いっぱい持っているな」


 と、オグトはマリアンダの頭のてっぺんからつま先までを、まるで品定めする様に見て言う。


 それを聞いていたマリアンダは、息ができないような声を上げて、震える目でオグトを見ると、オグトはそんな彼女を見ながら、ぎにぃっと、さっきよりも邪悪そうな笑みで、彼は突然――




――」と言ってきたのだ。




 その言葉を聞いたマリアンダは、首が掴まれている状態で、オグトを見ながら「え? え?」と、半音高い疑念の声を上げて言うと同時に、オグトはその返答を待たずに――彼女の首を掴んでいた手とは反対の手で、彼女の頭をがしりと掴んで……、そのまま――


「ハンナッ!」

「っ!」


 突然ヘルナイトさんは、私の耳をその大きくて温かい手で覆い隠してきたのだ。


 私の顔をぐっと胸板に押し付けるようにして、その光景を見せる隙など与えないような行動をしてきたヘルナイトさん。


 視覚と聴覚が遮られた状態になってしまう私。


 そのおかげなのか、そのせいでと言えばいいのか、視界は真っ暗になって、何も見えない、かすかに聞こえる黒一色の世界となってしまったのだ。


「え? あの……、えぇ?」


 私は慌てながら鎧特有の冷たさを持っているその胸板に手を押し付けて、重いっきり押し出そうとする私。でも、男と女の力の差と言うか、それ以前に子供と大人の力では、断然大人で男のほうが強いに決まっている。びくともしない。


 びくともしないけど、私は必死に引きはがそうとしていた私だったけど、ヘルナイトさんはそのまま私の視界と聴覚を塞いだまま――


「……………っ!」


 と、苦しく、そして何かに後悔しているようなそのフィルターがかった音色で、私に向かって言ったヘルナイトさん。それを聞いた私は、首を傾げながら「え?」と、頭上にいるであろうヘルナイトさんに向かってどういうことなのかと聞こうとした瞬間だった。


 オグトは言ったのだ。何も見えないけど、オグトは言ったのだ。


 何を言ったのかわからない。声がくぐもっていて何を言っているのかわからなかったけど……、そのあと聞いた音で、私は察してしまう。


 その音とは……。




 ――ばくんっっっ!




 と、何かを食べる音が、フィルター越しでもわかる様な音を耳は拾った。


 その音を聞いてしまった私は、押し出していた手を止めて、体を強直させてしまった。思考も、それを拾う行為も放棄した。


 ばくん。


 それは――口を開けて、口に入れるその食べ物を含むときに出す効果音。でも、その音と共に聞こえた……、咀嚼音。


 マリアンダの声が聞こえない。


 何も聞こえない。


 聞こえているかもしれないけど、私はそれ以前にその行為を放棄したせいで、うまく描写はできない。


 ううん。したくないという意思が勝ってしまった。


 だからうまく描写なんてできない。


 そもそも視界と聴覚が塞がれているのだ。見えないのなら、聞こえないのなら――それはそれでよかったのかもしれない。でも――完全に聞こえないわけじゃない。かすかに聞こえる音。


 食べている音が、私に耳を通って、心を殺しにかかってきた。


 だからだったのだろうか……、私は震える手つきで、押し出していたその手を自分の耳元にもっていき、ヘルナイトさんの手の間に滑り込ませるようにして、自分の耳を自分の手で塞いで、ぎゅっと目をきつく閉じた。


 生まれて初めて――私はその恐怖から逃げようとしてしまった。


「…………………………っ!」

「ぬ…………………っ!」

「うわぁ……、うえっ」


 ヘルナイトさん、虎次郎さん、ジュウゴさんの声がフィルターがかって聞こえるけど、それ以前に私は、今起こっているこの状況が夢であってほしいと願ってしまった。


 こんな見ない悪夢も、こんな聞こえてしまう悪夢も、すべてが夢であってほしい。


 幻であってほしいと願ってしまうほどの――驚愕、怒り、嫌悪感、そして……。



 絶望。



 私は、また一人の人を救うことが、救けることができない……。何もできない。そんな現実が私の心を傷つけて、向き合わせて、突きつけていく……。


 現実は甘くない。そう言い聞かせているような暗い現実だった……。


 私の震える声に反応したのか、ヘルナイトさんは私の視界と聴覚を塞いでいるその手と一緒に、私を抱えている手に力を入れてぎゅっと私を抱き寄せた。


 逃げないように、行かないように、そして……。悲しませないようにという……、使命感と優しさと後悔が混ざってしまった気持ちが、行動に出ていた。


 さっき言っていたヘルナイトさんの――『すまない』と『見るな』、『聞くな』は……、私に対しての配慮でもあった。


 見るな、聞くな――それは私の心の破壊を阻止するための優しさ。


 すまない――それは今言ってしまえば、きっと私は食べられてしまうことを恐れて、それを阻止したこと。そして……、私の気持ちを、約束を破ってしまったことに対しての……、謝罪。


 たったの一分程度の時間が、長く長く感じられた。オグトにとってすれば、その時間は短すぎただろう。長いようで短いような時間の中、突然――こつんっと何かが地面に落ちる。耳を塞いでてもよく聞こえてしまったその音。


 その音が鳴ったと同時に……、ヘルナイトさんはそっと、震える手で私の耳からその手をどかした。私はその光景を見ようと、すぐに目を上げると――視界が暗闇になれてしまったのか、光が大きく輝いているような景色が視界を支配した。


 よくある太陽を見たら眩しいと思うようなそれである。


 でもその現象はすぐに消えて、視界が光に慣れた瞬間――私はその光景を見て……、言葉を失ってしまった。


 オグトはぐっと口元を腕で乱暴に拭いながら、足元に転がっているヒールや服の切れ端を大きなその足でぐしゃりと踏みつけていた。マリアンダはいない。ううん。


 マリアンダは……、私が見えなかった世界で、彼女は……、オグトの餌食になってしまった……。


 血だまりはない。エディレスが傷ついたとき、血が出なかったときと同じ。その場所には大量の血痕なんてなかったけど、オグトが踏みつけているそのヒールと服の切れ端が、彼女の存在の抹消を証拠となってしまう。


 信じたくないけど……、信じたくないけど………っ!


 マリアンダは――死んでしまったんだ……。私の目の前で、救えるはずだったその命を、救うことができなかった……っ。


 救うという行為を、初めて放棄した瞬間だった……っ!


「………………………~~~~~っっ!」


 突然の悲劇を垣間見た私は、ぎゅっと自分を抱く力を強く籠める。ナヴィちゃんもそれを見て、「ぎーっ! ぎーっ! ぎーっっ!」と、今まで聞いたことがないような声で威嚇するようオグトに向かって叫ぶ。


 ヘルナイトさんはその光景を見て、そっと私をその腕から降ろす。


「…………?」


 私はそれを感じて、青ざめた顔のまま私とナヴィちゃんを降ろしたヘルナイトさんを見上げると、ヘルナイトさんは私を見下ろしながら、申し訳なさそうに大剣を持っていない手を上げて――そして……。


 そのまま私の頭に手を置きながら、ヘルナイトさんは――


「ここからは、私が戦う。君はここにいてくれ。それから………約束を破ってしまった。すまない」と、心の底から後悔するような音色で、私に向かって言った。


 それを聞いた私は、ヘルナイトさんを見上げたまま「大丈夫」と言おうとしたけど……、ヘルナイトさんはそのままその手を離して――未だに口元を拭いているオグトを見る。


 純粋な赤のもしゃもしゃを出しながら、ヘルナイトさんはぎりっと、大剣を握る力を強める。


 そのままヘルナイトさんは――オグトを睨みつけながら……。


「貴様のような外道に、慈悲などない……。このまま貴様を倒すっ!」


 大剣を構えながら、ヘルナイトさんは感情的な声で荒げた。こんな風に荒げたのは、リョクシュの時以来だ……。そう思いながら、腕の中で未だに威嚇をしているナヴィちゃんに抱きながら、私はその光景を見て、ヘルナイトさんの勝利を心から願う。


 マリアンダは、確かに嫌な人だった。でも――死んでいい人ではなかったはずだ。


 ううん。みんながみんな――死んでもいい存在ではない。


 そう思っているからこそオグトのした行動に、心の奥底から湧き上がってきた怒りが、後悔と悲しさを飲み込んでいく。青い海のそれから赤いマグマに変えていく。


「――っ!」


 ぐっと、口元をぎゅうっと噤んで、怒りを精一杯押さえつけながら、私はヘルナイトさんの勝利を願う。


 威嚇を続けているナヴィちゃんを抱きしめながら、私は勝利を願った。


 ヘルナイトさんの言葉を聞いていたオグトは、さっきまでの怒りが嘘のような、余裕のある邪悪な笑みで彼はヘルナイトさんを見ながらこう言った。


「オデを倒す……? それ本気で言っているのか?」


 忘れていないだろうな? と言いながら、オグトは続けてこう言った、自分を指さしながら……。


「オデの魔祖――知っているよな? オデの魔祖は『食』だ」


 と言うと、それを聞いていたジュウゴさんは顎に手を当てながら何かを考えるようなしぐさをして顔を顰める。


 それを見ていた私は、どうしたのだろうと思いながら見ていると――ヘルナイトさんは凛とした音色で「知っている」と言って……。


「食べることによって力と回復を得る魔法。だろう……? アルテットミアで貴様はそのことを豪語していた」


 それが今何の関係があるんだ? 


 ヘルナイトさんは言うと、それを聞いていたオグトは、ぐにぃっと邪悪な笑みをさらに邪悪に染めて口角を上げながら――彼は黒とオレンジ、そして赤のもしゃもしゃを出しながら、ヘルナイトさんに向かって、彼は自分の膨れ上がったお腹をばぁんっ! と叩きながらこう言った。


「そうだ! オデは力を得て、そして回復することができる! 食べて回復することができる! 人間やオデ達は、生きるために食べて栄養を得るのと同じで、|っ!」


「………………石の力……? …………っ! まさかっ!」


 ヘルナイトさんはオグトの言葉を聞いて、驚愕のそれに染めながら驚きと焦りを混ぜたそれで言う。


 私はいまだにどういうことなのかと思いながら首を傾げて、顔を顰めていると……。


「――すまぬ!」

「え?」


 虎次郎さんの声が、背後から聞こえた。その声を聞いた私は、驚きながらその背後を見ようとした時、すでに私の視界は横に動いてて、足も空中を彷徨って、浮いているような感覚に陥っていた。


 簡単な話――背後に回っていた虎次郎さんが私に脇腹に手を差し込んで、抱えながらその場から素早く距離をとったのだ。


 私はその光景を見て、私を抱えている虎次郎さんを見上げながら――


「あ、あの……っ! 待って! 下ろしてくださいっ!」と言うと、虎次郎さんは首を横に振りながら、少し早口で――


「すまぬ! 今は許せ!」と、短く答えた。


 それを聞いていた私はその慌てようを見て、一体どうしたのだろうと思って見上げていると、もう片方の手によって担がれていたジュウゴさんが私の方を見て――


「今は逃げた方がいいっ! あいつ、っ!」と慌てた様子で叫んだ。


 それを聞いた私は、一体何を言っているのだろうと、疑念と疑念が掛け合わさってしまい、理解に苦しんでジュウゴさんを見て首を傾げていると……。


 その理由が、その時起こったのだ。


「これで腹は膨れた! この後はその膨れた腹を元に戻すために――体を動かすかぁ!」


 と言うオグト。


 オグトはぐっと背中を反らせて腹部に力を入れて、次に手足に力を入れながら、「うおおおおおおおおおおおおおおおおお…………っ!」と雄叫びを上げる。


 それを見ていた私は、一体何をするのだろうと思いながら見ていると、ジュウゴさんはそれを見て、「やっぱり!」と、苦々しく言う。


 それを聞いた私と虎次郎さんは、一体何を吐き出すのだろうと思いながら、ジュウゴさんを見た瞬間……、オグトはぼこんっと腹を大きく風船のように膨らませてから、彼は叫ぶ――




「――『聖霊爆マナ・インパクト』ッッ!」




 と言った瞬間……、その空間が白くなり始める。オグトを中心に、薄暗い世界がどんどん光を帯び始める。


 私はそれを見てヘルナイトさんに向けて手を伸ばしたけど、その手の伸ばしも空しく……、虎次郎さんが私を引っ張り、自分の背後に隠すように虎次郎さんは私とジュウゴさんの前に立って――


「『ふろんとがーど』っっ!」


 と叫ぶと、虎次郎さんは背中に背負っていた盾を前に出して自分もその盾に隠れながら私達を守る。


 と同時に――白い世界に大きな大きな衝撃音が、響き渡った。

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