PLAY51 対面と再会と脱出 ①

 その声を例えるのならば……怪獣。


 怪獣のような雄叫びを上げながらその声の持ち主はあらんかぎり、声が嗄れるくらいまで叫んだのだろう。誰に届いてほしいという嘆願のそれではない。ただ、ただ、ただただ。


 己の内に秘めている感情を吐く出すかのように、その声が下水道――『奈落迷宮』中に広がった。




「ううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!」




 ぶわりと来た声の風圧。


 同時に来るつんざくような大声。


「「「っ!」」」


 私達はそれを聞いて、驚いたと同時に反射で耳を塞いでしまう。


 ヘルナイトさんはそのままその大声に耐えながらぐっと顎を引いて、虎次郎さんもそれを聞いて驚いた顔をしたままその声を聞いていた。


 ジュウゴさんもそれを聞いて、肩をびくりと震わせながら煙管に入った薬品を吐くことをやめて、私達――ううん。その先の背後を見る。


 マリアンダはぶるぶると震えながらその声を余すことなく、耳と体で聞いて「ひ、ぎぃ……、うぅ」と唸る。


 倒れているつぎはぎの人達は微動だにしない。と言うか、気絶しているせいか未だに再起動しない。


 私はその光景を見て、さっきから鼓膜を破きそうな大声を聞きながら、私はあるを覚えた。


 その違和感は――懐かしいという感情というか、様な……、そんな違和感だった。


 この声を聞いて、私は内心、あれ? と思ってしまったのだ。


 ――この声、どこかで聞いたことがある様なそれだ……。


 ――どこだっけ……? どこでこの声を……。


 ――この野太くて、怒り任せに叫ぶこの声……、どこかで……。


 と思ったその瞬間だった。


「「っ!」」

「え?」

「きゅきゃ?」


 ヘルナイトさんと虎次郎さんは、はっと息を呑むような声を上げて、私達の背後を見据えてすぐにその場から離れるように、ジュウゴさんのところに向かって後退して跳躍する。


 その行動を見ていた私は驚いた顔をして呆けた声を出し、ナヴィちゃんも首を傾げながら可愛らしく鳴いた。その瞬間だった。




 ――バガァンッッ!




 と、マリアンダが壊したところとは正反対の、私達が入ってきたところが盛大……と言うか、外側から破壊された。破壊。そう、人為的に壊れたのだ。


 それを見て一体何が起こったのかという混乱の中、ガラガラと崩れ落ちる瓦礫を弾幕として姿を現したのは――私とヘルナイトさんは一回見たことがある存在で、虎次郎さんとジュウゴさんはきっと、初めて見る人。マリアンダはわからないけど……。


 でもその人は、ずんっと、大きな足を一歩前に出して、ふぅーっと興奮したような荒い息を吐き、その人は私達を見降ろして……、低く、そして怒り任せの言葉を吐いた。


「やはり……っ! が知っている奴ら……っ! オデをこんな風にしたやつら! 弱いくせにオデをこうした奴らっ!」


 大きな男は言う。


 顔がデカく、頭の髪はないけど、大きくとがった鼻にぼうぼうに生やした手入れをしていない顎鬚。口元には黒い液体がべとべとと付いている。その顔よりも大きな膨らんだお腹に強靭そうな筋肉がついた両手と両足。腰には獣の皮で作られた腰巻しかついていない。手には大きな大きな赤黒く変色している棍棒と黒い何かがこびりついている肉切り包丁を持っている魔物の男。


「な、なんで……っ!?」

「………………っ!」


 こんなところで意外な再会をした私は、その魔物を見ながらあの時起こったことが頭の中でフラッシュバックする中、ヘルナイトさんの腕の中で私は、その魔物を凝視して目を見開いてしまう。


 ヘルナイトさんは私をぐっと強く抱き寄せながら、片手に持っている大剣を手に身構える。


 虎次郎さんはその魔物を見て、首を傾げながら「誰じゃおぬしは?」と、大して変わらない余裕のあるその声でその魔物に聞く。


 ジュウゴさんと、マリアンダはその魔物を見て、驚愕のそれでその魔物を捉えて……、愕然とした顔で見てから――


「…………っ! おいおいおい……。マジで勘弁だって……っ!」


 と、ジュウゴさんは引き攣った笑みを浮かべながら、たらりと汗を流してその魔物を見て――


「あ、う、ぐうぅ。いひぃ……っ! ま、て……っ! な、で……っ!?」


 と、マリアンダはぶるぶると震えながら、黒い瞳孔からぼろりと、感情的な涙を流して、突っ伏しながらその魔物を見上げる。どうやら少しだけど、痺れが取れたようだ。


 二人ともその魔物を見て、さっきの光景が嘘のように、虎次郎さん以外の誰もがその人物を見て、青ざめながらその魔物を見る。


 そして――魔物はそんな私達を見て、「ウウウウウウッ!」と唸りながら、こう言う。


「オデのことを虚仮にした弱い魔王族と、オデを弄んだ天族のクソガキ……ッ! 許せんっ! 許せん……っ! オデは、お前たちのことを許さんぞぉぉぉっっ!」


 魔物の男は、両手に持っている武器を一回上に振り上げて、そのまま黒い液体を落とすように、ぶぅんっという大きな音と共に、棍棒と肉切り包丁を振るう。


 そして――その魔物は、言った。口にこびりついて、そして白い歯や歯茎についたそれを拭わずに、彼はこう言った。



「オデは『六芒星』が元・一角――人食鬼族オーガ『人食鬼英雄オーガ・チャンピョン』オグト! オデ、お前達のこと許さないっ! 喰ってやるっっ!」



 ……、さっきの言葉を切り取るのならば、ジュウゴさんは命を張る魔女だけど、私達の目の前に現れた敵を喰らう魔女――ガザドラさんと同じだった『六芒星』が一角……、って、今は元って言っていたから、元だね。元一角の――『食』の魔女オグトは、私達の目の前に現れて、殺意をむき出しにしながらそう宣言した。


「お、オグト……っ! なんでここに……っ!?」


 私はオグトを見て、震える音色で私は聞いた。


 ヘルナイトさんもそれを聞いて、ぐっと私を抱き寄せながら、オグトに対して警戒を強めているようだ。


 ナヴィちゃんに至ってはフワフワの毛を逆立てて「フーッッ!」と威嚇しながら、ナヴィちゃんは初めて会うオグトに対して、危険信号を出していた。


 オグトはそんな私達をじろりと、血走った目で睨みながら、こん棒を持った手で私達を指さしながら――彼は言う。


 ううん、怒りのままに言った。


っ! お前たちのせいで、オデはここに配置された! 全部、全部お前達のせいだっ!」

「…………………え? わ、私達の……?」


 オグトの言葉を聞いて、私は驚いた目をぱちくりとさせながら、私はオグトを見て言う。


 ヘルナイトさんもその言葉を聞いて首を傾げながら話を聞いている。


 ジュウゴさんはその話を静かに聞いているのか、何も言葉を発してない。


 そして虎次郎さんは……。


「?」


 初めて見るオグトを見ながら腕を組んで首を傾げていた。まるで――何かを忘れててそれを思い出そうとしているようだ。


 それを横目で見た私は、虎次郎さんを見てどうしたんだろうと思って見ていると……。オグトは突然大声を上げた。



「おおおがあああああああああああっっっ! 覚えていないのかぁあああっっ! オデをこんな風にしたくせに、覚えていないのかあああああああああああああああああああああああっっっ!」



「わっ」

「!」

「おぉ!」

「きゅっ!」


 オグトは叫ぶ。


 私達に向かって大きな声で、人食い鬼――オーガなのだけど、そのオーガの顔に鬼を混ぜたかのような怒りの形相で、私とヘルナイトさんを睨みながら、ふーっ! ふーっ! と荒い深呼吸をしながら、オグトは言う。


「お前ら――魔王族と天族の女ぁ! アルテットミアでオデにしたことを忘れたわけじゃないだろうな……っ!?」

「……………………ああ」


 ヘルナイトさんは頷き、私をそっと自分の胸に抱き寄せながらヘルナイトさんはこう言う。


 その行為はきっと、私を守るためにしている行動なのだろう。


 でもそれを体感している私にとってすれば、もう慣れてしまっているけど、少し恥ずかしさがある……。今でも、まだ慣れないのが事実だ。うぅ……。


 ヘルナイトさんはそんな私のことなど気付いていないようで、オグトを見ながらこう言ったのだ。


「お前のしたことは最も重い罪だ。何の関係もない住人を襲い、仲間を食った。忘れるわけがない」


 ヘルナイトさんが言うと、それを聞いてか、オグトはぎりりっと犬歯が鋭く生えているその歯を食いしばりながら、その歯茎から出る微量の血を、口の端から零しながら、彼は怨恨の念を込めたその目でヘルナイトさんと私を捉えながら、オグトは言う。


「忘れていないのなら……っ! オデが何でここにいるのか、わかるはずだっ! 弱くても、オデが何でここにいるのか、お前等の小さな脳味噌なら、わかるはずだ……っ!」


 オグトの言葉に、私とヘルナイトさんは内心こう思った。ヘルナイトさんはどう思ったかはわからないけど、私はそれを聞いて、思った……。


 ……そう言われても、なんでここにオグトがいるのかわからないし、それに私達は超能力者でも、探偵でもないんだから、すぐすぐわかるわけない。


 きっと、誰もがそう思うだろう。


 一体なんでこんなところにいるのかを話さないで、私達に対して異常な怨恨を抱いているオグトに対して、私はその経緯について聞こうと、口を開いた。


 けど――


「『六芒星』ねぇ……。これはまた意外な用心棒を」


 と、ジュウゴさんが突然声を上げた。


 私は後ろにいるジュウゴさんの方を振り向く。ヘルナイトさんも、虎次郎さんもだ。ジュウゴさんはその光景を見ながら、困ったような表情を浮かべて頭をがりがりと掻くと、下でぶるぶると痙攣しているマリアンダを見降ろしながら、彼は狐の顔で冷たい目つきで見降ろしながら――


「そこまで俺の体――魔力がない俺の体が欲しかったのか?」と、低く、囁くように言うジュウゴさん。音色からわかる通り、彼は静かに怒りを表しているようで、その怒りをマリアンダにぶつけながら彼は言う。


 私はそんなジュウゴさんのゆらゆら揺れる赤いもしゃもしゃを感じながら、私は思った。


 ジュウゴさんは確かに、魔女ではないけど医療に対する腕は確かなものだ。特異体質ということもあって、彼は今自分にぞの病原菌を打ち込んでそれに見合った特効薬を作っている人だ。


 いうなれば命を懸けている。その病気で苦しんでいる人達のために、自ら命を懸けて――命を張ってその生成に力を注いでいる。


 だからジュウゴさんは駐屯医療所を作って、色んな国を転々としながら治療に勤しんでいるんだ。人を見た目で判断してはいけない。私はこの時教訓した……。


 ……最初の時、ジュウゴさんのことを疑ってしまってごめんなさい。


 そんなジュウゴさんだけど、さっき聞いていた言葉で引っかかりを感じた。その引っ掛かりとは――ジュウゴさんが言っていたこの言葉である。


 


 ジュウゴさんは確かに、マリアンダを見降ろしながらそんなことを言っていた。


 まるで――マリアンダのような性格をした人を何回も見ているかのような、うんざりして、そして内心苛立った感情をその人に抱いているようなそんな音色ともしゃもしゃで、彼はマリアンダに向かって言って、何かをしようとした時――オグトが来て現在に至っているけど……。


 ジュウゴさんが言っているその人とは、一体どんな人なのだろうか……。


 私はそんなことを頭の片隅で思いながら、ジュウゴさんのほうを見て、話しを振られたマリアンダを見降ろすと、マリアンダはぶるぶると痙攣しているその体をゆっくりと動かして起き上がると、彼女はえび反りになった状態で、震える口で一生懸命言葉を紡ぐ。


「ち」

「あ?」

「ち、が、う……っ! し、らな、い……っ!」

「……………………知らない? 違う? どういうことだ?」


 ジュウゴさんはマリアンダの意外な言葉を聞いて、疑念と苛立ちが混ざったような顔で彼女を見降ろし、そしてさらに問い詰める。


 私やヘルナイトさんも、それを聞いて首を捻ってしまう。虎次郎さんは、さっきから腕を組んだまま言葉を発していない。話を聞くことに徹しているのだろう……。


 その光景を見ていたのか――ジュウゴさんのほうを向いていた私達の背後で……、ずたんっ! と、大きく地団駄を踏む音が聞こえた。


 その音を聞いて、私達はぎょっとしながらオグトのほうを向くと、オグトはビキビキと顔にたくあんの青筋を立てながら、私達のことを睨みつけて――


「お前ら……っ! オデを無視するのか……っ!? 弱い種族のくせにいい度胸だ……っ!」


 と言うと、オグトは倒れているマリアンダを指さしながら、彼は怒りを矛先を私達からマリアンダに変えて、明らかなる八つ当たり交じりなその言葉をマリアンダにぶつけながら、オグトは言った。


「特に死体もどきの死霊族っ! 何回もオデのを荒らしている奴! オデはお前のことも許せない! みんなみんな許せないっ! オデがこうなったのは――オデが『六芒星』の一角から降ろされたのは――そこにいる弱い魔王族と浄化の力を持った天族の小娘っ! そしてオデのことを見限ったザッドも許せないっ! オーヴェンも、ラージェンラも、ロゼロも、そしてガザドラも許せないっ! オデは『六芒星』の一角の中でも強い力を持っているのに! どいつもこいつも……、弱いくせにオデのことをバカにしやがってええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっ!!」


「ひ、ぎぃ……っ! ぐ、うぅ……っ!」


 その言葉を聞いてか、マリアンダはびくりと痺れる体を震わせながら、どうにかして逃げようと体をもぞもぞと動かす。びりびり痺れている体に鞭を撃つように、びくんっ! びくんっ! と、体をびくつかせながら……。


 怯えているマリアンダ。そして話が全く見えていないジュウゴさんや虎次郎さんとは対照的に、私はオグトのとある言葉を耳にして、私はオグトを見ながら、ヘルナイトさんの腕の中でこう聞く。


「あの……、配属場所って……、どういう?」と聞くと、オグトは私の言葉……、と言うか、声ですら気に障るのか、びきりといっぱいある青筋のもう一個の青筋が追加され、ビキビキとなっているその顔で、オグトは私を睨みつけながら――


「お前……、オデを弄んでいるのか……っ!? バカにして、楽しんでいるのかぁっ!?」と言いながら、今度は大きな肉切り包丁をぶんっと振り上げて、それを地面に向けて、渾身の力を入れて叩きつけたのだ。


 バガァン! と、大きな音を立てて叩いた地面に大きな亀裂ができる。


 小さな地面の岩の破片が辺りに散らばり、オグトはその地面に叩きつけた肉切り包丁を持ち上げながら、その肉切り包丁を指に見立てて――私にそれを向けながら……。


 オグトは言ったのだ。


「オデは、ザッドに見限られたんだ! 『『六芒星』は弱いものを一角にしてはいけない』だの、『お前の行動には気品がない。品格がない』とか抜かして、オデを『六芒星』の一角から降ろして、挙句の果てにはこんなだだっ広くて調査する必要もないこんなダンジョンに飛ばされた! オデは事実上戦力外とみなされた! つまりは見限られた! オデを追い出すためにこんなところに飛ばしたんだ! ザッドの奴は、オデを見捨てたんだ! こうなってしまったのも、全部全部お前たちのせいだ! お前たちに関わったせいで、オデはこうなってしまった! 許せないっ! 許せないぞ! 弱い種族の分際で……っ! この落とし前――必ずつけてやるっっ!」


 えっと……。


 私はオグトの言葉を聞いて、だんだんと血の気が引いて行くのを感じながら、私は今の言葉を簡単にまとめてみた。


 頭の中で、まとめてみた。


 えっと……。簡単に言うと、オグトはあの時、アルテットミアで私達を相手にして負けた後、『六芒星』の一角、つまりは幹部降格を宣言されてしまい、今となってはガザドラさんよりも下の、部下達と同じ分類……。


 そして彼はその降格と同時に――このアズール一広くて大きいダンジョン……『奈落迷宮』の調査を言い渡された。


 詳細はわからないけど、きっとこの調査はいらないものなのだろう……。その調査を言い渡されてから彼は……、オグトはずっとこのダンジョンに居座っているってことになる……。


 重ねてそしてだけど……、彼はきっと、自分がこうなってしまった理由があるとすれば……、自分を負かした私達にあると言っているのだ。


 ……確かに、組織的に負けたらそうなるのはあるかもしれないけど……、それで全部私達のせいということにはならないのでは……? あとオグトの行為も行為で……、だと思う。


 そう私はオグトの話を理解しながら、内心呆れと焦りが混じったそれでオグトを見て、うーんっと唸りながら首を捻った。


 その話を聞いていたヘルナイトさんは――私を抱えたままオグトを見て、凛とした音色で……。


「……さっきから聞いているが、それはお前のせいだろう。私達がお前に勝ったせいでこうなった? ザッドに見限られたのも私達のせいとでもいうのか? 冗談を言うのならもっとましな冗談を言え。そうなったのは全部自分のせいだ。負けたことも、そして見限られたのも、全部貴様のせいだろう。仲間を喰う行為こそ、信頼する者に対してしてはいけない行為であろう」


 と、もっともな意見を述べて反論するヘルナイトさん。


 それを聞いたオグトは、ぎりりっと歯を食いしばり、どろりと口の端から赤いそれを多く零しながら「う、ぐぅ……っ!」と唸ってヘルナイトさんを睨みつける。


 そんな顔を見たとしても、ヘルナイトさんは臆することなく、ちゃんと小黒を見据えながら彼はこう言った。


「――これは、自業自得だ。そうとしか言いようがない」

「ぐ! うぎぃ! き、貴様ああああああっっっ!」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いて、納得いかない。そんなことないと思っているのか、オグトはぶちりと、額に浮かんでいたそれを引きちぎりながら、己の感情の思うが儘怒りをヘルナイトさんにぶちまける。


 怒りを露にしながらオグトは棍棒を手に持って、それを振り上げながら攻撃を開始しようとした――その時だった。


「っ!? ウガ?」


 オグトは呆けた声を上げながら私達――ううん。私達ではない。と言うか、私達もその時、真正面から違和感を感じたのだ。


 風が来たのだ。


 ふわりと――私達に向かって追い風が舞い込んで……。ううん。ううん。違う。これは――それだ。


「っ!? これは……っ!」

「風……。いや……、こんな地下に風が……、さっきまでだった場所にかっ!?」


 ありえんぞっ! と、突然の異常な気象に驚いて、辺りを見回して風が来る場所を探していた虎次郎さん。風が吹いたということに関して、大概の人はきっと外に通じる穴が開いたと言って希望を抱くだろうけど、今の私達にはそんな希望は後回し。今はオグトやマリアンダを何とかしないといけないのだ。そしてここは地下なので、そんなことはあり得ない。


 私はその風が吸い込まれている方向に顔を向ける。その方向はちょうど――真後ろ。ジュウゴさんがいる場所でもあるけど、私はその方向を向きながら、何度目になるのかわからない振り向きをすると、私やヘルナイトさん。そして虎次郎さんは驚いた目をしてその光景を目の当たりにし、近くにいたであろうジュウゴさんはその場から素早く私達がいるところに逃げていた。


 なぜジュウゴさんが逃げたのか――それは今私達が見ている光景と関係していた。


 ジュウゴさんはそれを見て、大きく舌打ちをしながら――


「――やっぱ……っ! 効き目が薄かったか……っ! 思ったより早いな……」と言って、今起きている空気の吸収を見て言う。忌々しく見て言うジュウゴさんは、さっきまで自分がいた場所を見ながら言うと、かつんっと、弱々しいヒールの音が響いた。


 そのヒールの音と共に、ふらつきながらその音を出した人物は――ううん。ここは簡潔に言おう。


 今まで倒れて痺れていたマリアンダは、震える体で無理に立ち上がりながら、手に持っていた薄緑色の瘴輝石を手に持って、げらげらと顔中から脂汗を出しながら、苦しそうに笑いながら、彼女は言った。


 彼女の右背後に出てきている、辺りにある空気を吸収して、ふわりふわりととあるところに集合する様に、小さな竜巻や風が一か所に集合してできた大きな鳥を出しながら、彼女は言う。


「お、おほほほっ! どうですかっ!? この風の瘴輝石『風鷹ウィンディ・ホーク』のすごさを! 辺りにある空気や風を吸収し、風の多寡を作り出すこの力! どの風系統の瘴輝石の中でも攻撃力は群を抜いていますわっ!」


 その風で出来た大きな鷹を見ながらヘルナイトさんは驚愕の音色で「まさか……っ!」と言い、虎次郎さんもその光景を見て「しぶとい奴じゃのぉ……」と、逆に感心するような音色で言う。


 ジュウゴさんはそれを見ながらまた大きく舌打ちをして、頭をがりがりと掻きながら――


「あー……、厄介なことこの上ないってこう言うことなのかなぁ……っ!?」と言っていた。


 マリアンダはそんな驚きと悔しさの雰囲気に包まれている私たちに向かって――ううん。もう私達のことなど眼中にないのか、今までジュウゴさんを狙っていたのに、ジュウゴさんのことを無視するかのように、マリアンダはオグトのことを睨みつけながら、彼女はこう言ったのだ。


 野心に満ち溢れた、欲望に満ち溢れてしまったその目で、彼女は見た。


「オグトと言いましたわね……っ! 『六芒星』の一角ということは、あなたは正真正銘の――魔女。ということのになりますわよねっ!?」

「………それがどうした……」


 マリアンダの言葉に、オグトは怒りが収まっていないその顔で、目を細めながら聞くと、マリアンダは、はんっと鼻で笑うような笑みを浮かべながら、彼女は私達を無視して、オグトに向かってこう言ったのだ。


「ワタクシはベガやハンザブロウ、マキュリのような魔力を持った死霊族になりたいのですの! 本当に、魔力を持った人間なりたいのですの! そして瘴輝石の力も欲しい! 全部ほしい! ほしくてほしくてほしくてほしくてほしくてたまりませんのっ! この際体のことなどもう捨てますわっ! 魔力があればそれでいいっ!」


 マリアンダはそう言いながら、右背後にいる風でできた鷹に向かって、彼女はこう命令する。


「『風鷹ウィンディ・ホーク』ッ! 命令ですわっ! あの人食い鬼を始末なさいなっ!」


 その命令に応じるように、風でできた鷹はばさりと、両方の手に生えているその翼を羽ばたかせながら、ぐぅんっ! と一気に急降下でスピードを上げて、オグトに向かって飛んでいく。


 私達の間を通り過ぎ、強い風を巻き上げながら飛んでいく風の鷹。


 オグトはそれを見て、さっきまでの猛威が嘘のような冷静な顔をして、その鷹を見ている。


 マリアンダはそんなオグトを見て、価値を確信したかのような顔をして彼女は高笑いを浮かべながら、胸を張ってこう言い放った。


「これであの魔力を持った肉体は――ワタクシのものになる……っ! これでワタクシも、幹部入間違いなしですわ……っ! おほほ! おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!!」


 彼女は勝ちを確信して、その先の未来を妄想しているのかすでに勝負が決した勝利の微笑みを浮かべて、高笑いを上げる。


 そんな彼女の高笑いと共に、風でできた鷹はどんどん加速してオグトに向かっていく。けど――私は見てしまった。


 オグトはその光景を見ながら、にっと邪悪な笑みを浮かべていることに……。


「っ! あ」


 私は声を上げて、マリアンダに向かって攻撃をやめるように言おうとした。


 それを見ていたヘルナイトさんと虎次郎さん。そしてジュウゴさんは私の行動に驚きながら首を傾げているけど、これが正解の行動だ。


 なぜならオグトは……、負けていない。むしろ負けてしまったのは……。だったから。


 オグトはその大きな大きな口を『がぱり』と開けて、喉の奥が視えそうなその口で彼は風でできた鷹に向かって――



「『風喰ザン・イート』」と言った。



 刹那――



 ばくんっっっ!! と、何かを食べる音が私達がいる空間に木霊した。


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