PLAY47 ティズとクルーザァー ①

 それと同時刻……。


 居住区の近くをうろついていたクルーザァーは、一人悶々と立証に勤しんでいた。


 グルグルと円を描くように、顎に手を添えて考えながら……。


 彼は悶々と、ただ無言になって仮説を立てていた。


 ――こちらの情報が洩れていることはなんとなくだがわかっていた。


 ――あの帝国の兵士の行動……、こちらの情報なしに配置を考えないとできない所業だ。


 ――しかも俺が行く場所を変えながら向かったとしても、その裏の裏を裏をかくように先回りされてしまう。


 そう。


 今までの経路を話さないでいたが……、クルーザァーは念には念を入れて、少し遠回りになるようなルートを通りながら『デノス』に向かっていたのだ。


 しかしそんな思考でさえも読まれているかのように、帝国の刺客は彼らの前に姿を現す。


 悪い言い方になってしまうが、まるでストーカーの様だ。


 否――裏切者にして内通者が帝国や『バロックワーズ』、そして『BLACK COMPANY』に情報を提供している可能性が高い。


 その仮説を元に彼が一番最初に導き出した答え。



 それが――仲間内の裏切りである。



 しかもクルーザァーの手の内を読んでいるところから見て、内通者はクルーザァーのことをよく知っている人物で……、同僚か上司の可能性が高いのだ。


「ふぅ」


 クルーザァーは一旦冷静になるために、足を止めてからゆっくりと息を吐く。


 そしてもう一回吸い……、吐く。


 それを三回繰り返す。


 クルーザァーは深呼吸をした後、再度足を進めて、円を描くように歩きながら――再度思案する。


 今度は組み立てパズルのように、立証して答えを導きだす。


 ――裏切り者。それが誰なのか。


 ――まずはそれを立証しなければならない。


 ――少ない情報だが、俺のことをよく知っている人物となると、かなり絞られる。


 そう思いながら彼は脳内でその人物を描き、その立証を開始する。


 さながら――探偵の様に、推理をする人物の様に……、彼は思案する。模索してから彼は……、その真実となる過程もとい仮説を立証するのだ。


 クルーザァーは考える。 


 ――まず。裏切者のことについて考えよう。


 ――その裏切者はきっと……、『BLACK COMPANY』か『バロックワーズ』に服従しているひとりか、それとも重鎮なのか。それはまだ立証せざるを得ない。が、おそらくこの二つのパーティーのどれかに属している存在。


 ――且つ……。


 ――俺のことをよく知っている仕事仲間。生憎俺は自分で言うのもなんだが、合理的な男だ。本当に自分で言うのもなんだが、プライベートは人との関係を持とうとしない。親でも親戚でも、俺は高校卒業後は一人暮らしをしていた身だ。


 ――そして俺の親も親戚も、俺がどんな仕事をしているのか、どんなところに住んでいるのか、所在は話していない。


 ――仕事の関係上……、他言無用な職場ゆえのことでもあるが、俺の素性は他人に明かされてしまえば……、何をされるわからない。そして……。


 ――ここで死ぬわけにはいかない。


「………脱線したな。不合理なことを考えてしまった」


 クルーザァーはもう一回冷静になって、合理的に立証しながら思案する。


 ――それで、ここにログインしたのも仕事がらみ。


 ――そのことを知っているのはきっと……、俺の上司と年上の先輩に、後輩のスナッティもとい砂田一子すなだいちこ


 ――そしてカルバノグのボルドもといボルドラ・グレイニー。ダディエルもとい暗殺一家の末裔――ダディエル・ブラッカス。ギンロもとい何かを運んでいたという前科を持っている――ギルディロ・ロスパニウス。紅もとい元不良女子にして多数の余罪を抱えているホームレス――清水紅音しみずあかね。自分の出自がわからないリンドー。


 ――俺のことを知っている事故のゲームにログイン調査をしている人物はこれくらい。そしてそれから俺の上司と先輩を引き抜いて……。


 ――俺とガルーラ、メウラヴダー、ティズとあのへんてこな五人 (ハンナ達のこと) を抜いて……裏切者と仮定する人物は六人と言う結果になる。


 ――しかしボルドは例外。あいつは嘘がすごく下手すぎる。ゆえにあいつは除外だ。きっと顔に出て俺に頭を下げる。


 と、クルーザァーはボルドの行動を頭の中で思い浮かべ、その筐体で土下座をする姿が目に浮かんで、それを思い浮かべながらボルドを除外する。


 その除外もあって、クルーザァーはボルドとハンナに裏切者を炙り出すように協力 (という名の要求)を申し出たのだ。


 ボルド自身、あまり気乗りしていないところを見るに、彼はこの裏切者の炙り出しに協力的ではない。


 積極的ではないことは、クルーザァー自身わかっていた。ゆえに戦力外と位置付ける。


 ハンナに至っては――言わずもがな。


 クルーザァーはそのことを踏まえて、残り五人となった人物について思案する。


 ――さてここで立証を組み立てよう。


 ――今仮説として立てたこの五人だが……、ダディエルは違うだろう。


 そうクルーザァーは考えて、そしてすでにこの場にはいない人物のことを考えながら、クルーザァーは思う。


 ――ボルドの部下にして副リーダーの位置にいた月詠明日香つきよみあすかとは、言い仲だった。


 ――聞いた話だと、彼女はアクロマの手によって、裏技で殺された。


 ――普通に考えて見ると、己の想い人を殺した人物に、手を貸すか。俺ならしない。大切なものを壊した人物の配下になることなどまずはない。人間の心理上――それはないだろう。


 ゆえにダディエルも除外。


 そう思い、クルーザァーは次にギンロを思い浮かべる。


 ――ギンロは怪しい……。グレーだな。


 ――あいつはいろいろと何かをしたことがあるからな。金に困っていたことと……、両親も蒸発していたことから、危ない橋を渡った。今もなお金に困っているのは事実。と言うか浪費癖が激しい。


 ――そんなギンロだからこそ、金に目が眩んで俺達の情報を相手に売って、その代償に大金を手に入れる。それを条件に裏切者をしているのかもしれない。


 ギンロはグレー。裏切者なのか、そうでないのかは定かではないという意味を込めて――一時保留としたクルーザァー。


 そして次に紅に至っては、すぐに答えが出たので、彼女に至ってはすぐに除外にする。


 なぜすぐに除外したのか。それは簡単な話だ。


 クルーザァーは紅のことを思い浮かべながらこう考えた。


 ――あいつに至ってはないな。


 ――あいつの家族はおろか、親戚でさえもあいつの味方をしない。一応天涯孤独のような日々を送り、前に聞いたが彼女は順風満帆な日々を送って、あまり不満など抱いていない。


 ――仕事場で寝泊まりして生活をしているんだ。何より女性と言うスキルを備えていないぐーだらな女が、どのような動機で裏切りをするのか……。


「………考えても何も思い浮かばないな」


 ――紅こそ白だな。


 と思いながら、クルーザァーはうんうんっと頷いて紅を除外する。


 ……このような思考の言葉を紅が聞いていたのならば、クルーザァーはきっと紅の餌食にされていたかもしれない。なにせ……、紅と言う女性のことを淡々とした口調で罵ったのだから、ここに紅がいなかったことを幸運の思った方がいいだろう……。


 閑話休題。


 クルーザァーは最後に、リンドーとスナッティのことを思い浮かべて、彼は「うむ……」と唸りながら頭をひねらせる。


 ――あの二人も白に近いな……。


 ――スナッティは後輩贔屓とかそういうものではなく、リンドーは笑顔のままで考えていることが理解できないとかそんな甘い理由ではない。


 クルーザァーは思う。


 ただ裏切る動機が見当たらないのだ。


 スナッティは案外自分のことをあまり話さない。リンドーは自分のルーツをあまり知らないことと、紅と同様に仕事場を家として生活しているので、リンドーに至ってはすぐに白と断定できる。


 ゆえに――この二人も白と言う結果になり……。


「はぁ」


 クルーザァーは考えに考えた結果に呆れながら、頭を掻きながら彼は、思ったことを口にする。嘘だろうという驚きと、自分の考えは間違っていたのかという混乱が混ざった顔を手で隠しながら彼は――


「……結局、裏切者はここにはいないのか?」


 首を傾げながら一人ごちるクルーザァー。


 誰も答える人などいないその場所で、クルーザァーは首を軽く横に振りながら『それはない』と心の中で言い聞かせて、たらりと噴き出てきた汗を頭を抱えていない手の甲でぐっと拭いながら、彼は言い聞かせるように独り言を呟く。


「いや……、いる。いるはずだ。俺達の経路を知っていなければ待ち伏せできない。そして感づいてその経路からそれた場所に向かった日も、的確にその場所に待ち伏せしていた……」


 ぶつぶつ。ぶつぶつと呟くクルーザァー。


「その的確な待ち伏せは、誰かの情報提供がないとできないようなことだ……。だがどのような場面でも、誰かがその場所を離れて、一人になるようなことは――夜しかない。その時に裏切者はどちらかに情報を提供し、帝国に報告した」


 それしかないだろう。そうクルーザァーは言う。


 そして彼はそのまま頭から手を離し、ふぅっと息を吐きながら一回頭も心もクールダウンしてから一旦冷静になり、もう一回深呼吸してから――


「――よし」と言って、彼は冷静な思考でこう思った。


 ――確かに……。考えているだけでは裏切者がいなうような展開になる。


 そう思いながら、ハンナ達が思い至ったことを切り捨てるように、彼は円を描いていた足取りをびしっと、敬礼をするように止めて、そしてぎっと空を見上げる。空だった空に、灰色の雲がどんどん覆っていくその光景を睨むように見ながら――彼はこう思う。


 ――今はまだ情報が足りなさすぎるだけだ。


 ――確固たる証拠がないとだけだ。


 ――今は白と断定する人物が特定できた。今の時点で白はボルドとダディエル。そして紅。


 残りは三人。


 確実な白でない限り、疑うことはやめないでおこう。その方が安全だろう。


 そう思いながらクルーザァーは「よし……」と言いながら、止めていた足を前に進めて、そのままとあるところに向かっていく。


 彼が向かう先は――ティズがいる遊戯区である。


「となれば――今はすぐにティズと合流だな。ティティと一緒なのはわかるとしてでも……、あの二人のことだ。きっと幼稚園児の様に迷子になっているに違いない」


 毒のあるような言葉を吐き捨てながら、彼はすたすたとティズがいるであろうその遊戯区に向かって、惨状と化している遊戯区に向かって足を進める。


「――早く向かわねばな」


 言葉通りの気持ちを顔に出しつつ、クルーザァーはたっと軽く駆け出しながら、急いでその場所に向かう。


 脳内に映し出されるティズと、そして何人もいる子供たちを重ね合わせながら、彼はぐっと顔を不安に歪ませて、軽く走っていたそれを、少し本気で走るように、駆け出そうとした時……。



「――クルーザァー殿っっ!」

「クルーザァー!」



「……っ!?」


 クルーザァーは動かしていた足を止める。背後から聞こえてきた二つの大きな声に驚いて、ぎょっとしながらもその足をびしっと止めて、クルーザァーは背後を見ながら――


「……なんだ?」と、彼は苛立つ顔を露見させて、背後から走ってきたガザドラとグレー対象であるギンロを見た。


 二人は慌てながらクルーザァーに駆け寄り、そして急いできたのだろう……、ぜぇぜぇと息を整えてから、ギンロはクルーザァーに向かって――


「やべぇぞっ!」と言った。しかし――


「『やべぇ』で理解できる内容ではない。具体的に何がやばいのかを述べるべきだと俺は」

「だああああああああああああああっっっ! なんでこんな時でも合理性を求めるんだてめぇはっ! つーか今の言葉でまずいって思って来いっつーのっっ!」


 …………たった三文字の言葉で「はいそうですか」と付いて行くほど、クルーザァーは甘くなかった。というかその三文字だけで行くほど単純ではなかった。


 具体的に何が危ないのか、何がやばいのか――それを具体的に追求するクルーザァー。


 そんな彼の堅物さを垣間見て、今更ながら苛立つように頭をがりがりと掻きながら、彼は苛立つ声をクルーザァーに向けて吐き捨てる。それを見ていたガザドラは、呆れた目をしながら頬をぽりっと掻く。


 そしてクルーザァーに向かって、彼は具体的ではないが、一言で危機だと認識できるような言葉を――ガザドラは吐いた。



「クルーザァー殿よ……。緊急事態だ。



 その言葉を聞いた瞬間、クルーザァーは進めていた足の向きを真後ろに変えて、そのまま急いできた道に向かって逆走する。戻るのだ。


 自分達はブラウーンドと出会った場所に戻る。そこは案外周りがよく見えて広いところでもあった。彼らが来て佇むのならばあそこしかない。


 ――予想外だが、これはいい機会だ。


 そう思いながら背後から聞こえるギンロの怒鳴り声を無視し、クルーザァーは急いで帝国がいるであろうその場所へと向かう。


 心なしか、自分の仮説の証明ができるかもしれないという期待も胸に抱いて……。


 ――今の状況で裏切者など不要な存在で、最も敵視しなければいけない存在。その芽を早く摘むことができる。そして帝国のものを一掃できる機会かもしれない。


 ――早く向かおう。


 ――きっと、みんなも向かっているはずだ。


 そう思い、クルーザァーは早足でその場所へと急いで向かう。


 向かって、向かって――。ギンロ達も後から付いて行くように走ってきて、その足音を背後で聞きながら、クルーザァーは急ぎ足をさらに急かして進める。


 そして急いで向かって、そのおかげで早くついて……。


 ……絶句するような光景が、クルーザァーのゴーグル越しに映った。



 ◆     ◆



 クルーザァーがテントの影から見た光景は、まさに異常ともいえるような光景だった。


 テント側にはブラウーンドと数人の白衣の人物たち。皆がニコニコしながら後ろに腕を組んで佇んでいる。その背後にあるのは黒くて、頑丈に見える……、大体五メートル四方の正方形の箱が、彼らの背後でじっと佇んでいる。


 そしてそんな彼らの前に立っているのは――バトラヴィア帝国の幹部にして……『アイアン・ミート』の最古参……。つるりとした丸坊主の頭に白い顎髭を生やし、両目には機械で作られた眼鏡をかけている。マントで体を覆い隠した腰を曲げた小柄な老人が、にやにやしながらブラウーンドを見て、背後に数人の兵士と、四人の白いバングルをつけた人物たちを侍らせていた。そんな彼らの背後には、帝国で作られた秘器――巨大駆動輪ギガント・ダンパーの背後に、大きな荷台に積まれた大量の木箱や鉄の箱が積み立てられていた。


 その四人は、クルーザァー達視点で見れば一目でわかるような人物だ。


 そう――彼らはプレイヤーであり、どちらかのパーティーに属している人達だろう。


 一人は屈強ば体つきで筋肉の付き具合もプロレスラーと同等のそれだ。しかし服装はラフで、黒いポロシャツに黒いズボン。靴も普通の初期のそれを履いているが、顔の方が特にインパクトがある。カラフルな骸骨模様のフルフェイスマスクに紺色のバンダナを頭に巻き付けている大男。


 一人は両手が隠れるくらい袖が長い白衣を着た赤紫色のセミロングヘアーの童顔の女性。上半身は何も着ていないのか、白衣から覗く素肌が妖艶に男を魅了する。両足には包帯がぐるぐる巻かれており、包帯がまるでブーツの様に、足には何も履いていない。いうなれば素足に近いようなそれだ。口元からは鋭くとがっている犬歯に黒くくすんでいるような目元をした魔人の女性だ。


 一人は褐色の肌の女性だが、女性と言うよりはアスリートのような姿をした女性だった。褐色の肌に女性とは思えない筋肉の付き具合。タンクトップからでもわかる様な腹部の割れ具合が、彼女の勇ましさを見せつける。黒いウェーブかかったロングヘアーに黒いサングラス。迷彩柄のズボンに黒い編み上げブーツ。背には大きな銃を背負っているアーミーな女性だった。


 そして最後の一人は――紫のカットシャツに黒いスーツズボン。そして腰には刀を差していて、黒髪の長髪を後ろで縛って、前髪を左右均等に分けたような髪型をしている顔面を包帯でぐるぐる巻きにして苛立つような息遣いをして、血走った目でブラウーンド達を睨んでいる男が、刀の柄を掴んで苛立ちを更に募らせていた。


 まるで――その顔を見せたくないような雰囲気を出しながら。


 それを見ていたクルーザァーは、首を傾げながらこう思った。


 ――彼らは、ブレイヤーか……?


 ――武器を見ればわかることだが、あの迷彩服の女はスナイパー。そして刀を持っている男は、ソードマスターか、それともキラーだな……。あとの二人は情報がなさすぎる。


 ――が……。と思いながら、クルーザァーはふと、そんな彼らの傍らで行動している兵士に目を移した。


 兵士たちは物々交換の様に、帝国から持ってきた大きな木箱や鉄の箱を、二人一組になってせかせかと運びながら地面に置いて、そして次の荷物を運ぶために、急いで運ぶ行為を、何人もの兵士たちで流れるようにしながらその行動を繰り返してる。


 それを見ていたクルーザァーは首を傾げながら……。


 ――あれは一体何を……? と思った。そんなことを考えていると、背後からギンロが慌てて駆け寄って、そんな彼の背後には――ティズとティティ。そしてガザドラとヘルナイト、ハンナ以外のみんなが慌てて駆け寄って――


「何があったの? 帝国が来たとか聞いたけど」と、シェーラが慌てながら来た。


 それを聞いて、後ろを振り向きながら、クルーザァーは頷き――そしてみんなを見ながらこう言う。


「ああ、来てはいるが」

「だったら大問題だろうがっ!」

「早く隠れないとっ!」

「いやいや。逆っすよそれ……」


 クルーザァーの言葉を聞いたキョウヤは、すぐさま槍を構えようと背中に背負っている槍を掴んだが、それを聞いたボルドは慌てながらわたわたと辺りを見回し、どこかに隠れようとしてする。しかしそれを見ていたスナッティは呆れながら乾いた笑みを浮かべて突っ込みを入れる。


 しかしそれを聞いていたゴトは……。


「……なんでこんなところに帝国の野郎がいるんだ……?」と、言葉を零す。ありえないような口調で彼が言う。それを聞いていたダディエルは、彼の言葉を聞いて、さらに追及する様にこう聞く。


「ん? っていうことは、ここには全然帝国なんて来なかったって言うのか?」


 こんなに近い場所にあるのに。と、ダディエルは付け加えて言うと、それを聞いていたゴトは、驚いた表情で「あ、ああ……」と言い……。


「来なかったぜ。ここのキャラバンのリーダーが魔女で、その魔女の力を恐れているのか、誰も近寄ることができないとか、ブラウーンドのおっさんが言っていたな」

「……魔女、か……。ん?」


 クルーザァーは首を傾げて、とある疑問を抱いた。


 ゴトの言葉が正しいのなら、その魔女の力を恐れている帝国は、その力の犠牲になりたくないが故、敵に回したくないが故、このキャラバンの存在を見過ごしている。好き勝手ではないが、それでも厳重な警戒網の中で堂々とこのテントをいくつも立てているのだ。


 見過ごされていることが奇跡に近いのだ。


 だが、そんな奇跡が容易に砕かれた。理由はここにいる帝国の人たちの存在。そして


 簡単に言うと……、


 しかもニコニコと、まるで顔見知りであるような……、警戒心などこれっぽっちもないそれである。


 それを見たクルーザァーは首を捻り、ボルドを見上げながら――


「ボルド――あいつらの感情を」と言ったが、ボルドはそれを聞いて慌てながら手を振って……。


「えっ!? ご、ごめんよクルーザァーくん……。僕のこれは、本当に性能が良くないんだよ。見たい時見れないのもそうだし、それに僕は湯気で、近くで見ないとどうなのかは」

「――っち。使えない」

「ちょっ! 今舌打ちしたっ!? そして本音漏れたっ!?」


 と言ったが、クルーザァーはその言葉を聞きながら、内心役立たずと思って大きく舌打ちを鳴らす。更に本音が口から零れる。それを聞いたボルドは、泣きながら項垂れてしまう。それを見ていたキョウヤは、呆れながら乾いた笑みを浮かべて……、小さくこう言う。


「……あんたも大変だな」と……。


 それを聞いていたリンドーは、ふとアキの方を見て、笑みを浮かべたまま青ざめて、クルーザァーに向かって小さく声を上げて呼ぶ。それを聞いてクルーザァーは苛立ちを更に募らせて、じろりとリンドーの方を向きながら、彼は「なんだ……?」と聞くと、リンドーはアキの方を指さして、あわあわしながら青ざめている。


 それを見て、キョウヤ、シェーラ以外の誰もが、それを見て驚くように目をひん剥かせる。


 まぁ、キョウヤ達に至ってすれば当たり前な光景ではあるが、初めて見る人にとってすれば、これは理解しようのないそれである。


 簡潔に言うと――アキは怒りで我を忘れたかのように、般若になって負のオーラを吹き出していたのだ。


 それを見た紅は、驚いた目をして、無言でいるアキを見ながらシェーラに――


「あ。あれってどうなってんのっ!? てか何が起こったのさあれっ!」

「シスコン症候群。ああなってしまうと妹であるハンナを認識するまではあのまま」

「すでにホラーじゃねえかっ! 『振り向いちゃえばあなた』的なそれが更に怖いっ! というかシスコン症候群って……っ!」


 と聞くと、シェーラは呆れたかのように目を座らせて言う。それを近くで聞いていたメウラヴダーは、驚いた顔をしてシェーラを見下ろして突っ込みを入れる。


 それを聞いていたガルーラは内心、驚いた顔をしてこう思った。


 ――シスコンって、ああなるやつがいるんだな……。あたしは姉が三人いたけど、ああはならなかったな……。と……。


 しかしクルーザァーはそれを聞いて、とある喪失感に気付いて、辺りを見回す。そして周りにその人物がいないことを認識した瞬間、クルーザァーはキョウヤに向かって、少し荒げた音色で彼に詰め寄りながらこう聞いた。


「おい! あの小娘はっ?」


 それを聞いたキョウヤは、驚いた顔をして「うぉ」と言いながらクルーザァーを見て、彼は困ったように肩を竦めて、表情を変えながらこう言う。


「いや……、そんなのオレ達が知りてえって、さっきヘルナイトとブラウーンドさんと一緒に、医療区に入って、それっきりで……」

「ブラウーンド……? あいつならそこでニコニコとしているが……?」

「は……? え? あれ?」


 と、クルーザァーの言葉を聞いて、驚いた顔をしてクルーザァー越しにいるブラウーンドを見て、キョウヤとシェーラは今にも殺しにかかりそうな般若のアキを止めながら、驚いた顔をして――


「なんでこんなところにいるんだよ」

「となるとあの二人は今どこに……?」


 と、平然とアキを止めながら言う二人。それを見ていたダディエルは、青ざめながら口元をぐっときつく閉じて、彼は思った。


 ――お前ら考えて行動してねえよな……? すでに体があの小僧の行動を覚えて、勝手に動いて止めている……。オートモードかよ……。


 しかし……、その言葉と、そして今まで気付かなかったことに叱咤しながら、クルーザァーは思った。


 ――くそっ! なんでこんな時にあの二人がいないんだっ!? 要なんだろうっ!? だったら不用意に動くな馬鹿がっ! それに……、ティズとティティがいないっ!


 ――あの二人は今どこに……っ!? そう思いながらクルーザァーは周りを見回しながら探していると……。


「っほっほっほっほっほっほっほ」と、声がした。その声は老人の声で、クルーザァーはその方向を見て、みんなもその方向――バトラヴィア帝国の幹部らしき老人を見る。


 老人はブラウーンドを見ながら、くつくつとしわくちゃな顔で笑みを浮かべながらこう言った。


「これでこちらの交換の品――


 それを聞いたブラウーンドは、「はいはい」と頷いて、微笑みながら背後にあるその箱の表面を撫でながら、彼はニコニコとしてこう言う。それを聞いて、老人はすっとその大きな黒い箱を指さしながらこう言った。


「そちらもさっさと交換の品を出してもらおうかのぉ」

「はいはい。大切にしてきたそれらですので、かなりの上物ですよ。これで帝国の戦力が大きくなるでしょうね」


 と言いながら彼は傍らにあるのか、箱の側面にあるとあるボタンを押す。


 すると――ばしゅぅっと、黒い箱から白い蒸気が噴き出る。それを受けた瞬間、白衣がはためいて、ごごごっっと鈍い音を立てながら黒い箱に亀裂が入り、まるで正門の様に音を立てて扉が開く。


 そのドアを見て、数人の白衣の人達は力一杯それを押し出して中身の全容を見せる。


 黒い箱の中身を見た老人は、にっとしわしわの口元をゆるりと弧を描いて微笑むと、歓喜の声を上げる。


 その中を影から覗いてみていたクルーザァーは、みんなは……、目を疑うようなその光景を見て絶句した。


 その黒い箱は――いうなれば。いったい何が入っていたのか……。


 簡潔に言うと、その中身は――



 。奥に見えるそれが何なのかはわからないが、それでもそこで行われている状況を見たクルーザァーは言葉を失いながらその光景を見て、本当に頭の中から文字と言うそれを壊してしまった……。


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