PLAY46 急転と裏切者 ⑥
「お話……、ですか?」
ブラウーンドさんに言われて、私は首を傾げながら言葉を返した。
それを聞いていたアキにぃはすっとそびえ立つように挙手をして――
「俺もいいですか?」と、真剣な顔で、はっきりとした音色で聞いてきた。
それを聞いていたキョウヤさんは呆れた顔をして何かぼそぼそと言っていたけど、何を言っているのかさっぱりわからなかった。
でも近くにいたシェーラちゃんは理解というかわかったらしく……、うんうん頷きながらアキにぃを見て呆れていた。
しかし……。
「申し訳ございません。お二人に御用があるので時間は割きません。三人でお話がしたいのです」
やんわりと困ったような笑みを浮かべて、ブラウーンドさんは言う。
それを聞いたキョウヤさんは、少しだけ疑念を抱いた顔をして腕を組みながらブラウーンドさんに向かって――
「三人って……。ハンナとヘルナイトと……、あとは」
「私です」
「オレ達は?」
「御三方は引き続き見て回っていただいても結構です」
「オレ達も仲間なんで聞いてもいいんじゃ」
「いいえ。これは三人で話したいことなんで」
なんだろうか……。
キョウヤさんとブラウーンドさんの雰囲気がなんだかドロドロとしている。
それになんだか……、ブラウーンドさんの雰囲気、さっきと違って。
黒くなっている……?
そう思っていると――ブラウーンドさんは私の背に手を添えて、そのまま私の背を押すようにしてニコニコとしながら医療区のテントに向かって歩みを進める。
「さぁさ。それではこちらへ」
「え? あ、あの……」
背中を押されているからなのか、逃げようにも押されて動けない。
というかされるがまま。
それを感じながら歩みを進め、後ろから聞こえるシェーラちゃんやキョウヤさん、アキにぃが何かを言っているけど、どんどん遠くなってくるそれを聞きとりながら私は何とかこの状況から逃げようとして模索した。
でも、でも……。
「さぁさぁ。こちらです」
黒く、そして悪そびれもしないブラウーンドさんの笑みを見て、私はぞくりと……、背筋を這う何かを感じた。それは悪寒に近いそれだったけど……、その時私は直感した。
もしかして――まずいのでは……?
そう思っていると――
背中の圧迫と言うか、押されている感覚が急になくなった。ふっと……、急に消えてなくなったのだ。
それを感じて、私はすぐに背後を見ると、さっきまで感じていた悪寒が一気に消え失せて、安堵のそれを感じてしまう。
簡単な理由だ。
ブラウーンドさんの手を掴んで、止めているヘルナイトさんが、ブラウーンドさんの顔を見ながら、凛とした音色でこう言ったのだ。
「私もなのだろう?」
その言葉を聞いて、ブラウーンドさんは気に食わない顔をして、顰めた顔でヘルナイトさんを睨む。
ヘルナイトさんは掴んでいた手を離して、そのまま私に向かって歩みを進めて、背後に回りながら、そのまま私の背を支えるようにして立ってから――こう言う。
「無理に連れて行くことは、あまり好まなしくない。三人で話したいのなら、私も一緒でいいのだろう? そうでないのなら、話の辻褄が合わない。気がするがな」
その言葉を聞きながら、ブラウーンドさんは眉のしわを寄せて、ぐっと口を噛みしめてから――
「そうですね。いやはや急かし過ぎました」
と、しわも、黒いそれもなかったかのように消して、ブラウーンドさんはにこりと笑みを浮かべて私達を見た。
私はそれを見て、一体何がどうなっているのやら。と思いながらブラウーンドさんを見る。
さっきからなんだか強引で、異様なもしゃもしゃを出したり、あろうことか笑みから恨みを抱いているその顔に変えたりしている。
それを見た私は、ふとブラウーンドさんに、疑念を抱く。というか……、なんだか……。その異様なもしゃもしゃなんだけど……。
色の判別ができないくらいぐちゃぐちゃしてて……、どんな感情を抱いているのかがさっぱりわからない。
そう思いながら、私はヘルナイトさんの背中に隠れながらブラウーンドさんを見ると、ブラウーンドさんは申し訳なさそうな顔をして微笑みながら――
「すみません……。実は今研究している病気のワクチンが難航していまして……、少々手荒になってしまいました」
「…………そ、そう、なんですか?」
そう私が聞くと、ブラウーンドさんは「はい」と頷く。
未だにもしゃもしゃはぐちゃぐちゃしてて、何を考えているかはわからないけど……、ヘルナイトさんはそんな会話を聞きながら、私の頭に手を添えて――ブラウーンドさんを見ながらこう言った。
「その話だが、私がそれを請け負うというのはだめなのか?」
どうにも嫌な予感がする。そうヘルナイトさんは言った。それを聞いて、ブラウーンドが笑みを浮かべたままぴくりと……、眉を顰めた。
ヘルナイトさんはそんなブラウーンドさんを見たまま続けてこう言った。
「もしだめなら、その話は」
「ああああ。待って下さい。待って下さい」
でも、ヘルナイトさんの話を遮って、ブラウーンドさんは慌てながら手を振って――そして焦るような笑みを浮かべながら……。
「わ、わかりました……。私の焦りのせいでもありますね。丁重に、三人でお話ししましょう」
と言った。
それを聞いていたアキにぃはぎりっと歯を食いしばる顔をしてから――「まだ諦めないんかい……っ!」と、少しキャラが崩壊したかのような苛立ったそれを吐き捨てる……。
それを聞いて、ヘルナイトさんは私を見下ろしながら――心配そうな音色でこう聞く。
「ハンナ……、ここは君の選択に任せる」
「え…………?」
私は驚いてヘルナイトさんを見上げる。するとヘルナイトさんは私を見下ろして――続けてこう言う。
「あの医師はきっと、君に用があって言ってきたのだろう。メディックの君にしか話せないことか、あるいはそれ以外のことかはわからない。それを考えるのであれば、ここは君の選択次第で決まる。話さなくてもいい。話してもいい。それを決めるのは――私ではない。君だ」
――どうする?
それを聞いて、私は少し考えてから、アキにぃ達がいるところを見る。
アキにいとキョウヤさん、そしてシェーラちゃんは首を横に振りながら私に向かって、口を動かしている。それを見ていた私は、その空気言葉を見て、何を言っているのかがよくわかった。
――やめておけ、断れ。――
と言っているに違いない。というかそうだ。
でも……、と思って、今度はブラウーンドさんを見る。
ブラウーンドさんはさっき、ワクチンがどうのこうのって言っていた。そしてそのワクチン製作がなんだか難航しているとも言ってて、何かと頭を抱えているようだ。
……何か、力になれればいいのだけど。
それを聞いて、そして少しの間自分で考えて、いつものような答えにたどり着いた私は――よしっと頷いて……、ヘルナイトさんを見上げる。そしてこう告げた。
「――話を、聞きます。ヘルナイトさんと一緒に……」
ブラウーンドさんの言葉通り、三人になって話を聞くことにした。
それを聞いたアキにぃはがくんっと、地面に手をつけて落ち込んで、キョウヤさんとシェーラちゃんは、呆れて私を見てから、仕方がないような顔をして項垂れる。
ブラウーンドさんはそれを聞いて、ほっと胸を撫で下ろし、ヘルナイトさんはそれを聞いて驚いた顔をして――「……いいのか?」と聞いてきた。
それを聞いた私はこくりと頷いて……。
「さっきだって何もされていないんですし……、ヘルナイトさんが一緒にいてくれるなら、安心できます。更に言うと……、ワクチンの製作に困っているって言っていましたから、少しだ助力できればいいかなと思って……。メディックにしかできないことかもしれませんし……」
と言った。
それを聞いたヘルナイトさんは、驚いた顔をして私を見下ろして、そしてふっと微笑みながら……、ゆるりと頭を撫でて、その頭から手を離す……。
……なんだか、アキにぃ――エビそりになって頭を抱えながら体で丸の形を作っている……。背中、大丈夫かなぁ……? そう思いながら、呆れているキョウヤさんとシェーラちゃん、そして先生を見て私は――
「みんなー」と声をかける。
それを聞いたキョウヤさんはシェーラちゃんは、「ん?」と首を傾げるように私の方を見る。先生も見てきょとんっとした顔をして見ていた。
私はそんな三人に向かって――大きな声でこう伝えた。
「私少し席を外しますのでー。先に回っててくださぁい! 先生――後で案内よろしくお願いしますぅ!」
それを聞いて、シェーラちゃんは呆れた顔をして……。
「早く戻って来なさいよー。アキのためにも」と言って。
キョウヤさんも、何かをぶつぶつと唱えているアキにぃを担ぎながら――
「なるべく早くなー! こいつもうおかしくなっているから」
と言い、先生はぶんぶんっと手を振りながら――
「何もないと思うが、気をつけろよ」と言う。
それを聞いて私はこくんっと頷いて、ブラウーンドさんを見る。
ブラウーンドさんはにこりと笑みを浮かべながら――医療区のテントに向かって歩みを進め、そのテントの幕を掴みながらこう言う。
「いやぁ、何とか話が通ってよかったです……。そして先ほどの非礼、深くお詫び申し上げます。何分こちらも焦っていましたので」と言って……。
ばさりと――その幕を上げるブラウーンドさん。
その奥から放たれる消毒液の臭いや、薬品の臭いが更に強くなって、鼻腔内どころか、口腔内でもその味がわかるような臭いを嗅いで、私はうっと唸りながら口元と鼻を押さえて、少しでもその臭いが入らないようにし精一杯抑える。
「
ブラウーンドさんは申し訳なさそうにして言う。
それを聞いた私は、首を横に振りながら「いえいえ」とジェスチャーをする。でも正直
ヘルナイトさんもそれを感じたのか、うっと唸ってから……、ブラウーンドさんを見てこう聞く。
「……いったい何の研究をしているんだ?」
「あぁ――それは守秘義務で」と言って、ブラウーンドさんは外にいるアキにぃ達に向かって――こう言った。
「皆様……、それではしばし」と、ふっとテントの幕を下ろすブラウーンドさん。
途端に、外の世界の光で照らされていたのに、テントの中はあまりに暗い。暗すぎる。
「………暗い」
「いや……。暗すぎる」
ヘルナイトさんの言葉に、みんなが話しながらこの場から離れる音と声が聞こえる。それを聞いた私は、辺りを見回しながら、どこなのだろうと思って、ヘルナイトさんの背中からそっと姿を現す。と同時に――防止の中にいたナヴィちゃんも顔を出して、その消毒液の臭いを嗅いだのか、「ぐぎゃッッ!」と、潰れてしまったような声を上げて、また帽子の中に隠れてしまう。普段のナヴィちゃんは寝ていることもあって静かなのだが、頭の上でもそもそとしながら動いていることを感じた私は……。
あ、臭いをかき消そうとしていると思いながらふらっとしていると……。
どんっ。
ぴちゃ。
「?」
足に感じた違和感と、液体の音。
それを聞いて、私は薄暗い世界で、右足に当たったそれを見ようと、ぐっと目を狭めて見る。最初こそ暗くてよく見えなかったけど……、暗さに目が慣れたのか、それがだんだんと見えてくる。
私はその慣れた目で、足に当たったものを認識しようと、視線を下におろした瞬間――
「――っっ!!」
はっと息を呑んで、口に手を当てて、叫ぶことを拒んでしまう。ううん……、あまりの衝撃的なそれを見て、言葉が出なかったのだ。
本来なら「きゃぁ!」と叫んでもおかしくないようなそれなのだけど……、それが出来なかった。
なぜなら――その場所にあってはならないものがあったからだ。
「ハンナ?」
ヘルナイトさんの声が聞こえる。
でも返事できない。
どくどくと、不安と言う心音が私の体を振るえさせ、思考回路に異常をきたす。
足元を見たのが間違いだったというのはこのことだろう……。私の足元にあるそれを見て、私は口を押えたまま、それを見て――そして、震える口で……。
「これって……、まさか……」
私は……、小さい声で言った。
暗い世界で、背後からくるそれに気付かないで……、私は言った……。
足元にある――手のパーツと、その辺りに広がっている赤い血を見て……。
「人の――」
と最後まで言う前に……、私の薄暗い視界がぐらりと、前のめりになる。
背中から来た衝撃と共に、私は前にのめりこんでしまい、そのまま地面に向かって――
「――?」
あれ? なんだろう……。と、私は疑問を抱いた。
倒れる瞬間、世界が回るような感覚に襲われて、背後にいたヘルナイトさんを見ると、ヘルナイトさんは私に手を伸ばしながら掴もうと必死になっている。
まるでそれは仲間の誰かが崖に落ちていく姿を見て、慌てて手を伸ばして掴もうとするそのシュチュエーションだ。
私はそれを見て、ただ転ぶだけなのに、なんであんなに慌てているんだろうと思いながらヘルナイトさんを見ると……、視界の端に映りこむその影を見て――私は……。
「え?」と、声を漏らした。
入り込んだ影は歪な円を描いていて、その円の中に吸い込まれるように私の視界からどんどんその円の存在が露になって、小さくなっていく。
ううん。こんな風に表現して、逃避するのはやめよう。
現実的な言葉があるはずだ。
簡潔に言うと――私は……。
薄暗くて気付かなかった、そして私の目の前にあったそれに、私は――落ちている。
そう……。
私は現在進行形で、大きな穴に突き落とされ、落ちているのだ。よくあるスローモーションのように……、落ちている。
「――っっ!」
ヘルナイトさんはそのままぐっと手を伸ばして、空中を彷徨わせていたその手をがしりと掴んで引っ張り上げようとした。でも――
――どんっ!
「っ!」
「あ……っ!」
ヘルナイトさんも誰かに突き飛ばされたらしく、そのまま足元をグラつかせ、私と同じように大きな穴へと落ちようとしている。
ヘルナイトさんはその背後を横目で見て、はっと息を呑んだ後、ヘルナイトさんは私の手を掴んだ手を一気に引いて――
そのまま私を抱きしめながら暗い暗い闇へと一直線に落ちていく。
私の頭と体を手で守って、落ちた衝撃を自分に向けるようにして落ちる。私も一緒に落ちて、ヘルナイトさんの行動に驚きながら、訳も分からないまま……。
一直線に、暗い世界へと落ちていく……。
そして――
――暗転。
◆ ◆
ハンナとヘルナイトを突き落とした人物は、その光景を見降ろしながら、頬を指先で人撫でして、こう言った。ひどく冷静な音色で、その人物は言った。
「――二回目となると、さすがに後悔なんてしないな……」
その人物は言う。まるで子の行動を前にもしたかのようなことをしゃべり、そしてふぅっと息を吐いた後、その人物は踵を返しながら……。
にこり。
と、異常な行為をした人間とは想像がつかないような顔、表情をして――
ハンナ達を突き落としたブラウーンドは、にこやかな笑みと共にこう言った。
「そろそろ――時間か」
と言って、彼はそのまま、医療区のテントの幕をたくし上げて、そのまま外へと足を踏み入れ、ばさりと、テントの幕を下ろした。
それと同時刻。
キャラバンの遊戯区では……。
「っ! くぅ……っ! うぅ……」
「ティティ……っ! ティティッ!」
今の今まで楽しそうに遊んでいた風景が、一瞬にして地獄のような一風景と化してしまった。一人の男の登場によって。
その時間を少し遡ること……、一分前。
男――Zはティズの前に現れて、とある言葉を言った瞬間、突然彼の胴体に拳を打ち付ける。さながらボディーブローだ。
それを受けたティズは、喉から咳込む声を出して、そのままごろりと転がったと思ったら、口から吐瀉物をべちゃべちゃ。びちゃびちゃと吐き出す。朝食べて消化されていたそれが口から零れ出る。
それを見た一人の子供が悲鳴を上げた。
他の子供達もそれを聞いて、叫んだ子供が見ている方向を見て、ティズを認識して青ざめ、そして冷たい目つきでティズを見下ろして睨んでいるZを見た瞬間――
子供達は叫んだ。
叫んで、泣いて……、さっきまでの楽しい時間が嘘のようなどんでん返しのそれを見て、子供たちはZから離れるようにしてバタバタと逃げる。
ティティはその光景を見て、そしてティズの姿を認識した瞬間……。
ぎろりと、Zを睨んで、彼女は叫ぶ――
「おおおおおおおおまあああああああああああああえええええええええええええええええええっっっっ!!」
あらんかぎりの怒号。あらんかぎりの激昂。
それを聞いて、Zはふっとティティを一瞥し、そしてすっと目を細めた後、彼は何の興味もないような目でティティを見て、こう言った。
「うるせ。ヒステリばばぁ」
と言った瞬間だった。ティティは頭にある角に意識を集中させて、バリバリと音を鳴らしながら、彼女は叫ぶ。
「雷の聖霊っ! 雷の魔祖よ――私に力を貸せ! 私と共に……、怒り暴れようっっ!」
と言った瞬間、彼女の頭から生えている角が黄色く変色し、それがどんどん大きく伸びて雷を帯びていき、体中に電気を帯びて、彼女はぎりっとZを睨みつける。そしてティティは腰に差していた鉈を抜刀し、それを横に薙ぐように手に持ったまま駆け出す。
「ううううううううおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!」
駆け出しながら叫んで、怒りのままに叫びながら彼女は、Zの首を刎ねようとする。
それを見たZは、すぐにティズの首根っこを掴んで、そのまま自分の前にもっていく。
それを見たティティは、はっと息を呑んで、まずいと思いながら、急加速で走っていたそれに急ブレーキをかける。
きききぃっ! という音と共に、ティティはその進行を止めて、Zに向かってこう叫ぶ。
「何をする気だっ!」
その言葉にZは当たり前の様にこう言う。
「何って――サンドバックで防御」
「サンドバック……? 盾ってことですか……? ティズが盾ってことですが」
「さっきからそう言っている。こいつは俺のサンドバック兼盾なんだよ」
「そんな理不尽な言い分、聞いて納得すると思うんですかっ!? いいから今すぐティズを離せっっっ!」
「ティズティズうっせぇな。ていうかこいつ痛みとか感じないんだから、別に俺がどうしたっていいことじゃねえか。痛み感じないんだから、人間じゃなくて物だろうが」
「……言っている意味が理解できませんっ! 今すぐティズを」
と、ティティが再度前に出ようとした瞬間……。
――ガォンッッッ! と、胴体と顔、下半身に感じる鈍痛に交じった激痛。
それはまるで――大きな拳に寄って殴られたかのような痛み。きしむ音に折れる音。それを聞いたティティは驚いた顔のまま、地面に叩きつけられる。
それを見たティズは、驚きの顔をしてティティの名を呼ぶ。それを見ていたZは呆れた顔をしながらティズから手を離して、腰から出ている、武骨で繊細な動きができる二本の機械の手を見ながら、Zは言った。
呆れながら、舌打ちをしてから彼はこう言った。
「英雄って男が主流だろうが。女とかマジ草。笑えるというか、失笑だな」
と言って、現在に至る。
ティズはティティを見て、慌てながら駆け寄って、彼女の体を揺さぶる。
Zはそんなティズを見ながら、無表情に彼はこう思った。
――きめぇ。と……。
何に対して気持ち悪いのかはわからない。しかしZはそんなティズの人間らしい顔を見て、虫唾が走ったのだ。
Zはそのまま腰につけているベルト型の剛腕の武器を使って、ティズを殺そうとしたその時――
「あらあらぁ――Zさん」
と、一人のキャラバンの看護師が遊戯区に入ってきたのだ。Zを見てにっこりと微笑みながら……。
子供たちはその人物を見て、ぱぁっと明るく泣きながら安堵の息を吐いて――
「リーム先生っ!」
「リーム先生っ!」
と看護師――リームを見て歓喜の声を上げる。
リームは遊戯区担当の子供達の先生のような存在だ。そんなリームはZを見ながらニコニコとして……。
「――今日は早いですね。もう時間なんですか?」と、初めて会うZに向かって言う。
それを見た子供達は、希望の笑みから疑念の歪みに表情を変えて、一人の子供がリームを呼ぶと、リームはニコニコとした顔で子供達を見た後、Zを手で指さしながらこう言った。
にんまりと口裂け女のような笑みで、不気味に笑いながらこう言った。
「みんなぁ。実は今日ね……、このキャラバンを卒業して、新しいところで暮らすことになるのよぉ。この人があなた達の先生になるZ先生。今日でこのキャラバンともさようならだけど、新しいおうち――帝国で強くなって暮らしてねぇ」
その言葉を聞いた子供達は唖然としてリームを見て、ティズもそれを聞いて……。
「え?」と声を漏らす。
そんな急転の展開に頭がついていけない彼らをしり目に、またもや急転するような事態が舞い込んできた。
「あーあ。ティズ君ここにいたんだ」
「――っ!? え、えぇっっ?」
突如――リームの背後から現れた存在を見て、ティズは驚いた顔でその人物を見た。
その人物はけらけら笑いながらティズを嘲笑うようにしてこう言う。
「へぇ――君もそんな顔するんだ。いつもいつも無表情だから、感情のない機械人間かと思った」
「………なんで」
「なんでって――なに? ティズ……、じゃないな。痛覚なしの気持ち悪いクソガキは、仲間の、いいや、元仲間のこの姿を見て、どう思っているのかな……?」
それを聞いてティズは震える口で、驚愕のその光景を見て――
その人物を――自分がよく知っている人物を見て、彼は叫ぶ。
「なんで――俺達を騙したのっ!? ●●●っっっ!!」
彼が言うその人物は――自分がよく知っている人物で、仲間でもある存在だった。
結局のところ……、クルーザァーの言う通り裏切者はいた。
ハンナ達の近くに、ひっそりと潜んでいた。
そしてその裏切者は――今と言う好機を狙って、化けの皮を剥いで、彼らの前に立ち塞がる……。
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