PLAY50 命を張る魔女と…… ③
「それは……、敵を引き付けるような、それですか?」
ジュウゴさんの言葉に私は自分が察知したことを言うと、ジュウゴさんはにかっと狐の顔で笑みを作りながら「オーケー! そう、わかってるじゃん姫さん」と、けらけらと笑いながら言う。
それを聞いていた私はヘルナイトさんの腕の中でジュウゴさんの話を聞きながら、褒められた気がしないと心の中で唱えながらジュウゴさんの話を聞く。
ヘルナイトさんはそんなジュウゴさんを見て――ちらりと横目でマリアンダを一瞥しながら聞く。
「引き付ける……。で、いいのか?」
「ん。注意を引き付けて、俺をノーマークにしてほしいってこと」
「……なぜノーマークにこだわる」
その話を聞いていたヘルナイトさんは、話をしたジュウゴさんを見る。
すっとその狐の細い目をそっと開けて、吊り上がっている細い目でヘルナイトさんを見ようとした瞬間――
事態は急変した。
と言うか、こんな時に悠長に話をしている私達が変なのかもしれない。
今は戦っている最中。虎次郎さんも四人のつぎはぎの男達を目の前にして戦っている。
話すことなんてできない。普通はそうだ。漫画の様に相手がその会話に時間を与えるなんてことはない。絶対にない。
だから――
「よそ見とはいい度胸ですわぁっっっ!」
マリアンダはドレスのスカートについている赤と黄色の瘴輝石をぶちりともぎ取り、それを青い瘴輝石を持っている手とは反対の手でぎゅううっと握りしめて、手の中にある石から『カチャッ』という音が響いたと同時に彼女は叫んだ。
「マナ・イグニッション――『
それと同時に彼女の周りに出てくる円柱の電撃の檻と、大きく燃える炎の矢。
弓はなく、炎の矢しかないそれは弓と言うそれが無いにも関わらず、弾丸のようなスピードで私達目掛けて放たれたのだ。しかも何本も、さっきの氷のナイフと同じ数だろう……。
まるで戦国時代の火責めのようなそれである。
「っ!」
「あ」
上に向かって放たれて行き、そのまま放物線を描きながら落ちていく――無数の炎の矢。
最初は氷のナイフだったのに、今度は炎の矢。炎の矢の軍勢が、どんどん私達に向かって降り注いてくる。
ヘルナイトさんはそれを見て、私を抱えたまま横にずれながら駆け出す。
ジュウゴさんはと言うと、その軌道から逸れるように、たたたっと素早く駆け出して、噴水の近くにある隠れ場所に静かに隠れて、その場から顔を出すように、私達の姿を狐顔特有の笑みで見てから――
「そんじゃま。俺はちょっと用意があるから――がんばれオーケー?」と言った。
それを聞いて、ヘルナイトさんは「っく!」と、放たれていく焔の矢から横に跳ぶようにして避ける。
ナヴィちゃんはそんなジュウゴさんを見て、毛を逆立てながら「ぎぎぎぎゃーっっ!」と、威嚇する様にふーっと言いながら叫んでいた。相当怒っているような目で……言っていた。
それを見て、私はヘルナイトさんの腕の中でナヴィちゃんを宥めていると、ヘルナイトさんは私達に細心の注意を払っているようで、その場で体制を整えながら――ヘルナイトさんは言う。
電流の檻に入っているマリアンダを見て――ヘルナイトさんは言った。
「……『注意を引きつけろ』。それはきっと……、時間を稼げ。ということだろうが……、これは容易ではないぞ」
「?」
容易ではない=簡単ではない……、同じ言葉で言うと、難しいと、ヘルナイトさんはマリアンダを見ながら言う。
それを聞いていた私は、未だに怒ってぷんぷんしているナヴィちゃんを宥めながら、私はヘルナイトさんの横顔を見て (不覚にも、顔が近いと思って、小さく胸が高鳴った気がした)、私は聞く。
「どうしてですか?」
その質問に対して、ヘルナイトさんは迫りくる炎の矢を走って避けながら、彼は言う。冷静な音色で言う。
「ハンナ――さっきと今の光景を見たな?」
「光景……と言うと?」
「あの死霊族の服や装飾品は、すべてアークティクファクト。ハンナのような防具だけのそれではなく、アキのような武器につけれるそれでもなく、あの死霊族は、身に着けているものすべてをアークティクファクトのそれにして、瘴輝石を大量につけている。見えているだけでも……、その数は五十を超えるだろう。しかもどんな瘴輝石を持っているのかがわからない以上。その力も未知数ということだ。うかつに魔力を消費することは無謀に等しい」
ヘルナイトさんはマシンガンのように放たれる炎の矢をよけながら私に言う。
それを聞いていた私は、前にリョクシュやクロズクメ、エディレスのことを思い出しながら、私は未だに避けて、大剣を使って炎の矢を跳ね返しているヘルナイトさんに向かって――提案した。
多分誰もが想像つくようなことだけど、私はヘルナイトさんに提案したのだ。
「あの……、今回も私が近付いて『
「ダメだ」
と、ヘルナイトさんははっきりとした音色で、まるで怒るような音色で言ったのだ。私はその声を聞いた途端、びくりと体を震わせながら言葉を詰まらせる。
そんな私を横目で見て、ヘルナイトさんは私の目の前に来た炎の矢を大剣で『バキィッ!』と叩き落すように破壊してから――ヘルナイトさんは私を見ないで……。
「すまない」と、謝る。
それを聞いた私は、呆けた顔をしたまま「え?」と、言おうとしたけど、そんな言葉の発声を遮るように、ヘルナイトさんは私を見ないで、今もなお降り注ぐ炎の矢を大剣で叩き落としながら、彼は言う。
「……前にその作戦を立てて実行した結果、ハンナが深く傷を負った。それでは約束の意味がない。ハンナは緊急時の時の防御に徹してほしい。あの死霊族の相手は、私がする」
「約束」
ヘルナイトさんが言う約束。
その約束は、きっと私とヘルナイトさんしか知らないことでもある。その内容は、ヘルナイトさんが得をしないようなそれで、ヘルナイトさんは前にこう言っていた。これは――約束ではなく、誓いでもあった。
私の愛する人を守って、私を守る。そして――私を一人にさせない。
と言うもので、ヘルナイトさんが言っている約束と言うものは、きっとこれのことだろう。
そのことを思い出しながら、私はヘルナイトさんを見る。ヘルナイトさんは未だに残り少なくなっている炎の矢を大剣で壊して落としながら――凛とした音色で言う。
「――約束は約束で、これは私の誓いでもあるんだ。もう腐敗樹のような、国境の村のようなことを、二度と繰り返さないために……、失態を重ねてはいけないんだ」
なぜだろう……。私は思った。ヘルナイトさんの言葉を聞いて、ヘルナイトさんのその焦る様なその表情を見て、私は思った。
ヘルナイトさんの言葉を聞きながら、思った。
「あの時――君は最強と言われても、失敗することがあると言ってくれただろ? あの時は本当に嬉しかった。しかし世間はそうとはいかないんだ。マリアンダの言葉も一理あるところがある。私は最強という肩書を持っていた。しかしその名を穢すような惨敗をしてしまった」
「…………………………」
「国を守る騎士が国を守れなかった。そんな大失態は初めてだった。ゆえにもう二度と過ちを繰り返したくない。そう私は思ったからこそ、浄化をしようと思った」
「…………………………」
「誰にもこの気持ちを理解してもらおうとは思ってなかった。誰も理解しないだろうと、諦めていたのかもしれない」
「…………………………」
「だから、だからこそ――ハンナの言葉が、嬉しかった。それは事実だ。しかしその事実と今は別だ。ここは、私が何とかする。君は私が注意を引き付けているうちに、遠くへ逃げてくれ。ハンナ――君は、虎次郎殿とジュウゴ殿を守ってやってほしい」
それが、私の願いだ。
そうヘルナイトさんは言った。
なんだろう……。ヘルナイトさんの話を聞いていくうちに、私の胸の奥が、きゅうっと締め付けられる。
その締め付けはあまりに苦しくて、一瞬でも緩めてしまうと、悲しい気持ちが溢れてしまいそうな……、そんな気持ちにさせてしまう……。
今は戦っている最中なのに、なぜか悲しくなってくる。
今までこんなこと、なかった……。ううん。今までこんなことがなかったのは――私が、ヘルナイトさんのことをよく聞いていなかったから、よく知ろうとしなかったから……。
私だけ――ヘルナイトさんに私の気持ちを、押し付けていたから、知ることなんてなかった。
私のわがままを押し付けていたから、ヘルナイトさんのその苦しい気持ちの上辺だけを知って、知っているという自惚れで、私はここまで来たんだ。
私はまだ――内面を知っていない。
ヘルナイトさんの、気持ちを……。その心に秘めている感情を知り尽くしてはいない。
私はヘルナイトさんを見て――黙ってしまう。ヘルナイトさんは対照的に、すべての炎の矢をはたいて落としたことを確認してから、目の前で電流の檻に閉じこもっているマリアンダを見る。
凛とした面持ちで、睨みつけている。
それを見たマリアンダは、うっと唸るような声を上げて、冷や汗を流しながら彼女は『カツンッ』と、後ろに後退して――
「な、なんですの今のっ! さっきの『
マリアンダは震える顔と音色で、きれいにセットされている髪を、両手で『ぐしゃり』と潰しながら、彼女はぶるぶる震える体で、何かに怯えているようなその表情で、彼女は俯きながらぶつぶつとこう呟く。
「そんなのありえませんわ……っ! ワタクシはアルテットミアで大きな権力を持ったミルディミリム家の正当後継者……っ! 違うっ! ワタクシは死霊族のマリアンダ……っ! ええ! そうですわ……。ワタクシは生まれながらにして勝ちと言う名がふさわしい勝ち組の一員……っ! そんじょそこらに平民とは違う……っ! そんじょそこらの死霊族とは違うのです……っ! そうですわ……っ! ワタクシは生まれながらの勝ち組! すべてにおいてワタクシに平伏さないといけませんのよ……っ! ほしいものがあれば、必ず手に入れる! 簡単でしょうに。金さえあれば、全部が丸く収まって、すべての欲しいものがワタクシのものになる……っ! そうですわ……っ! そうですわ……っ! だからこんなのありえないのよっ! これは何かの間違いなのよマリアンダッ!」
マリアンダは、自分に言い聞かせるようにしてぶつぶつと言葉を続ける。
その言葉を聞きながら、私はヘルナイトさんを見上げて、ヘルナイトさんの腕の中で私は――ヘルナイトさんの名前を呼ぶ。
ヘルナイトさんはそっと私のほうを見降ろして、「どうした?」と聞くと――私はヘルナイトさんに聞いた。
「私……、前に言いましたよね? 恩返しがしたいって」
「? あ、ああ」
ヘルナイトさんはそれを聞いて、首を傾げていたけど――マリアンダが発狂じみた鬼の形相で、ドレスのスカートから一つのオレンジ色の瘴輝石を引きちぎって握りしめながら、何かをしようとしているとき、私は控えめに微笑みながら――ヘルナイトさんを見てこう言う。
まだまだ何もできていないから、言える私の気持ちを――
「未だに何も恩返しどころか、迷惑しかかけていないからこそ……、どんな小さなことでも、みんなの――ヘルナイトさんの役に立ちたいって思うんです。一人ではできないことでも、二人いれば何かが見いだせるかもしれない。『三人そろえば文殊の知恵』っていう言葉があるんです。三人揃って考えれば、解決の糸口が見つかるっていう、これが正解なのかはわかりませんけど、でも――一人よりも、今は力を合わせて、戦いたいんです」
私の言葉にヘルナイトさんは驚いた顔をして私を見ていた。でもその気持ちはわかるかもしれない。
私のゲーム上の所属は『メディック』。つまるところの戦闘要員ではない。回復要因。
戦うことなんてできない私だけど、みんなの戦う背中を見て、ヘルナイトさんの大きな大きな背中を見て――私は最初に抱かなかった気持ちは、膨れ上がってきたのだ。
誰かのために自分も戦いたい。
それがたとえ、防御しかできないそれでも、私は戦いたいと思ったのだ。
暴力は未だに嫌いだけど、守って時間を稼ぐことはできる。それでもいいと、被虐的なその思考はないけどそう思ったのだ。
いつも背中の向こうで守られていたからこそ――この感情が芽生えた。の方が正しい。
今までヘルナイトさんの優しさに触れてきたからこそ、私は逆の立場になりたいと、少しでもいいから、みんなの支えになりたいと、心の支えになりたいと、少しでも、戦いの力になりたいと思った。
だから今まで、空振りみたいなことをしてきたのかもしれない。全部失敗に終わったけど。
だからこそ――私もそうなりたいと思った。ヘルナイトさんみたいに守りたいと思った。
きっと、ヘルナイトさんも同じ気持ちで戦っていたんだ。今まで苦しい言葉を受けても、それでも好きな人達のために、戦ってきた。私も――同じ気持ちだ。
ヘルナイトさんが言っていた誓いと同じ、私も――みんなのために戦いたい。それは、その気持ちは、ヘルナイトさんと一緒の気持ちだ。
助けたいが――守りたいという二つで一つの気持ちになって、そして、私は言う。
「――だから私も戦います。この
その言葉を聞いたヘルナイトさんは、言葉を発しないで、驚いた目で私を見ていた。見て、黙って――
「――おしゃべりなんて、余裕なのですのねええええええっっ!」
と、マリアンダが導火線の紐が全焼したかのように大爆発を起こした怒りを見せ、彼女は手に握っていたオレンジ色の瘴輝石が『ベキッ』と言う音が鳴りそうなくらい、それを握りしめて、彼女は唱える。
「――マナ・イグニッション――『
と言った瞬間、彼女の手にあったオレンジ色の瘴輝石がまばゆく光りだし、そのあとすぐに輝きは消え失せてしまったけど、それと同時に私達の頭上に影が差し込んだ。
ううん。まあるい影が、私達を包み込む。突然暗くなってしまったその光景を見て、私とヘルナイトさんは驚きながら頭上を見上げる。ナヴィちゃんは頭上を見上げた瞬間、つぶらな瞳をコミカルな白目に変えて「きゅきゃっっ!?」と、毛を逆立てて素っ頓狂に驚く。
それもそうだろう……。
私達の頭上には――私達はおろか、戦っている虎次郎さんや、隠れて何かをしているジュウゴさんを押し潰しそうな、大きな丸い岩が頭上にいつの間にかぷかぷかと浮いていたのだ。それを見たマリアンダは――
にやりと――黒い狂喜の笑みを浮かべて、焦りが含まれたその顔で彼女は、オレンジ色の瘴輝石を握っているその手の人差し指を、その大岩に向けながら、彼女はその指を。
びゅっと、下に向け……。
「お死になさいな」と言うと……。
今まで重力に逆らって浮いていたその大岩が、今度は重力に従って、私達に向かって落ちてくる。ペっちゃんこにしてしまおうという気持ちが強く伝わってくる。
そんな大岩を目にした私だけど、不思議と……。
怖いという感情は芽生えなかった。
ナヴィちゃんはその光景を見ながら、あわあわと口元を震わせて、青ざめながら震えている。虎次郎さんも刀を持ちながらその大岩を見上げて、すぐに居合抜きで対応しようとして、ジュウゴさんはそれを見上げて「うげ」と、顔を歪ませて引きつらせている。それが普通の反応だろうけど、私はそんな反応しなかった。
理由なんて簡単だ。いつも感じているから、答えにたどり着くのに時間はかからなかった。
それは――ヘルナイトさんがいつもと同じように、臆することもないようなその凛々しい顔で、その大岩を見上げて、大剣を振るいながら――その大剣を握る手に力を入れて、彼は言う。
「――『地神の鉄槌』」
と言った瞬間、ヘルナイトさんが持っていた大剣に引き寄せられるように、辺りに散らばっていた瓦礫や岩がどんどん大剣にくっついて、そして大きなとあるものに形を作っていく。まるで大剣が磁石の様に、瓦礫がヘルナイトさんの大剣に向かって、引き寄せられて行く……。
それを見ていた私は、その形を見て、目を見開いて凝視した。ナヴィちゃんも驚いた顔をして口をぽかんっと開けて見て、電流の檻に入っているマリアンダも、それを見て言葉を失いながら、それを見て――震える口で、何とか言葉を口ずさむ……。
「な、な、な……っ!? なんですの……っ! そ、その……、大きな武器はっ!」
武器。それはヘルナイトさんが持っている武器で、大剣であって大剣ではない、岩で覆われているその武器のことを、マリアンダは指していたのだ。
ヘルナイトさんはその言葉に対して、何の返答も解答もせず、ただただ無言のまま――頭上にある大きくて、私達を虫のように潰そうとしているその大岩を見上げたまま、彼はその岩で覆われ、自分よりも大きく肥大したその大剣を……。
岩で作られた――大きな大槌を片手に、彼はそれを大きく振るい上げて、頭上から降ってくる大岩に向けて――
ぶぅんっっ! と、岩で覆われて大槌となったそれを、片手で振るったのだ。
「――っふ」
と、息を吐いて、彼はそのまま大槌を振るって……、マリアンダが作った大岩を――
――バカァンッッ!
と、破壊したのだ。
「――っ!?」
「「おぉ」」
「きゃ~……っ!」
誰もが、特にマリアンダが驚いただろう。
血の気が引いた (元から血などない体だけど、そう見えた)顔面蒼白なそれを見上げて、自分が作った大岩がいとも簡単に叩き壊されるその光景を見て、がらがらと岩雪崩が降る注ぐその光景を見ながら、マリアンダは言葉を失いながら、その光景を見て、ヘルナイトさんを、畏怖の眼で見ていた。
私は逆に、その光景を見ながら……。
――やっぱり、ヘルナイトさんは凄い。と、心の底からそう思ってしまった。
ヘルナイトさんはその攻撃を終えて、大剣に纏わりついていたその岩の大槌を解除したのか、ゴトゴトと音を立てて地面に落ちる瓦礫。
瓦礫が落ちたと同時に、元の大剣が姿を現した時――ヘルナイトさんは私を見ないで、私に向かって……。
「その気持ちは、誰もが抱くだろう」
「?」
と言い、それを聞いた私は、首を傾げていたけど、ヘルナイトさんは私を見ないで、こう言う。
「誰もが他のために戦いたい。ハンナもその気持ちを抱いていたのなら……、きっと君は、今まで気付かないで戦っていたのかもな」
「………………? どういう……」
「ハンナ――先ほどの言葉、訂正する」
ヘルナイトさんは私の言葉を遮って、私を見下ろして、腕の中にいる私を見ながら、凛とした音色でこう言う。
「共に戦いたい。その気持ちを汲み取ったうえでだが……、力を貸してくれ。ハンナ。どうにも私一人では、まだジュウゴ殿の時間を稼ぐことはできない。だから、君のその浄化の力を貸してくれ。合図をしたら、『
その言葉を聞いて、私は再度、胸の奥から込み上げてくる温かいもしゃもしゃを感じながら……、私はきゅっと唇を噤んで、熱くなる頬の温もりを感じながら、私は頷く。
なぜだろうか……、目じりが熱くなる。
それを見たヘルナイトさんは「よし」と頷いて――きっと睨みつけた瞬間、上ずった声を上げて狼狽しているマリアンダを睨みつけながら…、ヘルナイトさんは言う。
「――行くぞ」
その言葉に、私は頷いて答える。はい。と――
ジュウゴさんと虎次郎さんの形勢逆転したかのような笑みを見ないで、私は頷く。マリアンダの畏怖を垣間見た――委縮したその顔を見て……。
私は頷く。
守られているだけじゃない。今度は、私もみんなと一緒に戦う。そう決意して……。
□ □
でも、この時の私達は気付かなかった。
誰も気付かなかった。
激しい戦闘の音で気付かなかったのかもしれない。
もしかしたら気配を消すことに長けていたのかもしれないけど、私達は気付くことが遅すぎた。
ネクロマンサー達も気付かなかった。
この場所に――とある人物が向かっていることに、気付くことなんてできなかったのだ……。
その後悔は……あと少しで開花することも知らないまま、地下の戦いは第一幕を終えようとしていた。
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