PLAY50 命を張る魔女と…… ②

 マリアンダの声を合図に、五人のつぎはぎの男達は駆け出す。それぞれ虹の一色の輝くを放っている瘴輝石を埋め込んだ短剣を手に――



「「「「「マナ・イグニッション――」」」」」



 各々がその言葉を唱え――短剣を短剣ではない別の何かに変える。



「――『海陀の矢銃シャークスネーク・クロスボウ』」



 水の蛇が短剣を包み込み、その短剣をクロスボウのそれに変えて水で出来た矢を装填する――青い短剣を持った男。



「――『電撃の鉄拳ライジング・ボクサー』」



 短剣だったそれをうねうねと軟体動物のように変化させて、それを手に纏わせる。まるで機械のようなグローブを形成して、電流を纏った大きな両手の拳を構えながらバチバチと音を鳴らして構える――黄色の短剣を持った男。



「――『新緑の独鈷リーフストーム・ヴァジュラァ』」



 短剣が盾に真っ二つに割れて、左右の頭と頭がガチンッと合わさったと同時に、まるでブーメランの先に刃がついたかのような形の武器を片手で持って駆け出す――緑色の短剣を持った男。



「――『暗底の鉤爪ブラックダウン・クロゥ』」



 電撃のそれとは違うけど、紫の短剣をうねうねと変化させながら同じようにそれを手に纏わせ、爪先を鋭くさせた黒い手にして、まるで獣の爪の様に研ぎ澄ませる――紫の短剣を持った男。



「――『雪原手裏剣スノー・ダストスター』」



 ヘルナイトさんの『鎌鼬』の様に、短剣を水色に輝かせてたと同時に、ぱぁんっと爆ぜて散布してしまう短剣……、の、欠片? なのかな……。欠片となってしまったそれは、最初は小さい欠片だったものがどんどん大きく形を形成し、よく忍者が使うような手裏剣の形となって、その人の周りを飛び交って、その場で止まりながら私達を見ている――水色の短剣を持った男。


 全てのつぎはぎの人にアークティクファクトの武器を持たせているマリアンダを見て、私は驚きを胸の奥に隠しながら見据える。


 表面上はあまり驚いていないだろう。


 でも相手は二人拘束したとはいえ、五人――マリアンダを入れて六人だ。


 その六人に比べて、私達はたったの四人。私は戦えない。ナヴィちゃんもきっと大きくなれないので戦力外。ジュウゴさんは戦えるのか戦えないのかわからないので、結局のところ保留。


 見た限り戦えるのは――二人しかいない。


 ヘルナイトさんと虎次郎さん。


 二人共近距離の大剣と刀しか持っていない。


 これでは戦力不足だ。そう私は思う。


 ここに遠距離が得意なアキにぃや、近距離遠距離が得意でリーチが長いキョウヤさんや、接近遠距離どちらでも戦えるシェーラちゃんがいれば……、きっと心強かったかもしれない。


 決してヘルナイトさん達を信用していないということでが決してない。


 ただ――こんな人数相手に、ネクロマンサー相手に勝てるか、少し……、不安を抱いていた。


 拭っても、拭っても……、拭いきれない不安と言う名の汗。なぜこんなに不安になってしまうのかよくわからない。


 でも、何だろう……。勘が働いているのか……、私の直感が囁いたのだ。




 このままでは危ないと……。




 何がこのままでは危ないのか。それは理解できないけど、今は目の前にいるマリアンダの部下たちを何とかしないといけない。


 氷柱の拘束に捕まっている二人の人物達も、武器を手に向かってくる人物達も――みんなが無表情で、まるでロボットのような感情のない顔をしたまま私達に武器を向けたり、そしてその拘束から何とか逃げようとしている。


 その光景を見て、無表情に、マリアンダの命令に従っているその七人を見て、私は一種の気味悪さを抱いて己の体を抱く。


 ぎゅっと自分を抱きしめながら思った。


 ――この人達は……、なんて冷たい目をしているのだろう……。


 ――まるで、本当にかのような感情のない顔と心。


 ――ただマリアンダの命令に従って動いているだけの、だ。


 そう思いながら私は、ぎゅっと唇を噤みながら、何の関係もない人を巻き込んだマリアンダに、再度不安定な怒りを覚えながら、己を抱きしめることをやめて手をかざした。


 すると――そんな私の眼を見て気に食わなかったのか、マリアンダは「っは!」と、鼻で笑いながら彼女は、けらけらと、今度は笑いながら、彼女は高らかに自慢する様にして、こう言ったのだ。


「おほほほほっっ! どうですぅっ!? この大勢相手のこの攻撃! ワタクシのことを守る王子騎士達は、いついかなる時も、ワタクシのことを優先にして戦ってくれる、ワタクシだけの騎士なのですっ! そして各々が持っているイグニッションクラスの瘴輝石っ! あなた方で戦える人物は、たったの二人っ! ワタクシ達の方はすでに二人行動不能ですが、それでも六人いますわっ!」


 彼女は光っている指輪を上に掲げながら、彼女は叫ぶ。


 背後で形を形成している――目で数えても、きっと五十本以上……ううん。それの二乗くらいはある氷のナイフを空中に浮遊させながら、マリアンダは高らかな音色で言う。


「そして! ワタクシが使うこのイグニッションクラス――『氷結水晶斬雨アイスクリスタル・カットレイン』からは逃れられませんわ……っ! たった三人……、いいえ。ワタクシはそこにいる魔女と相対しましたが、あなたのモルグの武力はたったの1! つまるところの戦力外! 何が弱くないですの? 全っ然弱すぎではありませんかっ! ワタクシにも、モルグを見るだけの瘴輝石を持っているのですの。となると……、まともに戦えるのはたったのお二人ですわねっ! あらまぁ! なんてついていないのでしょうか、その運の悪さにはひどく哀れに思えますわぁ……っ! うふふふふ! おーっほほほほほほほほほほほっ!」


 高らかに勝ち誇った笑いを上げるマリアンダ。


 その言葉を聞いて、ジュウゴさんは頭を掻きながら余裕そうな笑みを浮かべて――


「確かに――俺の力は戦闘向きじゃない。強いて言うなら、俺は戦闘系じゃなくて、サポート系で強いなんで」


 と言いながら、ジュウゴさんはたたっと陽気に、白衣のポケットに手を突っ込みながら、私に向かって駆け出してくる。焦ってはいない。私が見た時と変わらない狐の笑みを浮かべながら。


 その光景を見たところで、私はそんなジュウゴさんの顔を見ながら、ふと――誰かに似ていると首を傾げてしまう。


 何だろうか……。前にジュウゴさんのような、狐の顔の笑みを浮かべた人を、私は前に見たことがある。ここ最近ではないけど、記憶に新しいその顔を思い出そうとした時――


「となると――」


 虎次郎さんの声を聞いた私は、はっと思い出そうとしていたその思考を一旦シャットダウンして、現実に戻りながら私は虎次郎さんの方を見る。


 虎次郎さんは刀を構えたまま――パラディンでもあるはずなのに盾を持たないで、虎次郎さんは、迫りくる五人のつぎはぎの男達を見ながら――マリアンダに向かって言葉を発していた。


 それを見た私は、驚いた目をして「こ、虎次郎さん……っ! 何を……っ!?」と聞くと、それを見ながら私の近くに来たジュウゴさんは、狐のような笑みを浮かべて私を見ながらなのか、陽気な音色でこう言う。


「あー。もしかして心配? オーケーオーケー。その気持ち、俺もあったし、まぁ冒険者の所属――パラディンのくせになんで刀持って、そして攻撃しようとしているの? って思うよね?」

「…………はい」


 その言葉に、私は図星を突かれたかのような胸の痛みを感じながら、正直に頷く。それを聞いてジュウゴさんはけらけらとまた笑いながら――


「だよねー。俺もそう思っていた。それだと武士になったほうがいいんじゃないの? って思ったよ。でも

あの人は武士でもパラディンでも――きっと。そう確信してしまったんだよ」

「?」


 そんなジュウゴさんの意味深な言葉を聞いた私は、首を傾げながらジュウゴさんを見上げると――ジュウゴさんはにこりと、狐のような顔で微笑んで、私の頭に手を置きながら、わしゃわしゃと髪の毛が乱れるような、少し乱暴な撫で方をして――彼は陽気な音色でこう言う。


「まぁ――見ていな」


 それを聞いた私は、ジュウゴさんの言葉に従うように、手をかざしたまま虎次郎さんの背中を、傷一つない筋肉質のその背中を見ながら、私は虎次郎さんの戦う姿を目に焼き付けようとする。


 虎次郎さんは迫りくる五人を見ながら――低い音色でこう言う。


「……こやつらの始末は、儂がしようではないか」


 ちょいとした肩慣らしじゃて。温める程度の相手ならいいのじゃがな。


 と、虎次郎さんは、焦ることもなく……、それでいて落ち着いた音色で言う。


 そんな虎次郎さんの言葉を聞いていたマリアンダは、苛立った表情を浮かべながら、顔の目じりのところから何か白い粉を落として、彼女は苛立った表情と音色で――こう叫んだ。


 虎次郎さんに向かって。


「あらあらあらぁっっ!? そんな年老いた体で何ができるというのですのっ!? 老体の体は労わらないと罰が当たりますし、お分かりなのかしら? ワタクシは死霊族! あなたとは違った種族! 死を恐れない種族なのですの! それを唯の一介の冒険者。しかも弱小の人間族に何ができるというのかしら?」

「そのとうものが何なのか、儂には想像できん。しかしのぉ……」


 と言いながら、虎次郎さんは目の前から迫りくる五人のつぎはぎの男達を一瞥しながら、未だに低い音色……、ううん。更にその音色を低くさせて、虎次郎さんはこう言った。


 五人を見ながら――ではない。マリアンダを見ながら、虎次郎さんは言ったのだ。



「――死を冒涜するものに、労われる筋合いは無し。その台詞をそっくりそのまま、お前達に返そうと思う」



 と言った瞬間だった。


 緑色の両刃のそれを持った男が、虎次郎さんに向かってその刃を頭から突き刺そうと高く高く跳躍して、その落下の威力を利用して、無表情の顔で高い威力を保持したまま、攻撃しようとした。


 その時だった。


「やれやれ。若者とはせっかちが多すぎじゃな」と、虎次郎さんは今まで手を離さなかった刀を鞘から引き抜いて――




 ――っっっ!!




 と、


「?」

「きゅ?」

「――っふ」


 私とナヴィちゃんは、その音がどこから聞こえたのかと思いながら、辺りを見回したけど、どこにもその音がするところを見つけることができなかった。


 ヘルナイトさんも大剣を持ったまま構えた状態で動かないでいるし、ジュウゴさんはなんだかにっと狐の顔で微笑みながら虎次郎さんを見ているし、虎次郎さんは攻撃しようとしていたのに、


「? ??」


 なんで虎次郎さんは攻撃していないんだろう……。さっきまで攻撃するような雰囲気だったはずなのに……、攻撃もしないで、なんで止まったままなんだろう……。


 そう思っていると、マリアンダはそれを見て、けらけらと笑いながら――


「おっほほほほほほほほっっっ! とんだ拍子抜けですわっ! まさかワタクシを嘘で言いくるめようとしていましたわねっ!? やはり老いぼれにはきつい戦いだったのでしょうね! 年齢を重ねすぎた老いぼれには退場してもらいますわ――永遠にっ!」


 マリアンダは指をさしながら高らかに言う。


 その言葉を合図に、緑色の短剣を持っていた男の人は、無表情の顔のまま「畏まりました」と言って、落下しながら攻撃を続行した。


 それを見た私は、すぐに手をかざして『強固盾シェルガ』を出そうとした瞬間――


「まぁまぁ落ち着いてよく見なよ? オーケー?」と、ジュウゴさんは私のかざした手を掴みながら、優しく陽気な音色で言う。それを聞いた私は、ぎょっと驚きながらジュウゴさんを見上げて――慌てた音色で私はこう反論する。


「え? なんで止めるんですか……っ? このままだと虎次郎さんは……っ!」

「ああ、確かに終わる。――終わるな」

「?」


 なんだか意味深な言葉を言うジュウゴさんは、口に咥えていた煙草を指で挟めて、ふぅーっと、口に含んでいた煙草の煙を吐き出す。


 そして私を見下ろして、私達が知らないようなことを知っている笑みを浮かべながら――


「見ていなって。あの爺さんの力をさ」と言った。


 それを聞いた瞬間、私は首を傾げて……、そして……。




 ――




「っ!?」

「きゅきゃっっ?」


 何かが切れるような音がした方向から、音が聞こえた。ううん。音なんて言う曖昧なものでは答えたくない。これは破壊音。金属が破壊されるような、そんな音が、この空間に広がった。


 私は驚いて音がした方向を見る。ナヴィちゃんとヘルナイトさんは、その光景を見ながら驚いていたけど、私もその驚きにつられるように、その光景を見て驚いて目を見開いた。


 私が視た――ヘルナイトさんとナヴィちゃんが見た光景。それは――


 虎次郎さんの頭上に向けて攻撃を仕掛けようとした緑色の短剣を持っていた人の武器が……、


 壊れたと同時に、つぎはぎの顔に赤い線がすぅーっと浮き出てきて……、そのまま……。『すぱぁんっっ!』と、顔に縦一文字の切り傷が姿を現し、その人の顔を傷つける。


「っ!」


 その攻撃に驚きながら、緑の短剣を持っていた人は壊れた武器を見て、そして未だに武器を抜刀しない虎次郎さんを見て、驚きの顔のまま落下していく。


 それを見ていた虎次郎さんは――ふぅっと息を吐きながら……。


「やれやれ。良い業物を持ったとしても、所詮は素人が使う武器。何の恐怖もない。あの時に比べれば、貴様らの行動はお遊戯じゃな。これぞ――」


 宝の持ち腐れ。


 と言って、落下してくるその人に向けて虎次郎さんは刀の鞘を持ちながら、刀を納めた状態で、ぐんっと勢いをつけた状態で、手にしていた刀を上に向けて突く。


 頭を槍の刃に見立てて――緑色の短剣を持っていた人の胴体……腹部に向けて、それを……。


 どごっ! という鈍い音が出るくらいの勢いと衝撃で、突く。


「――っ!」


 緑色の短剣を持っていた人は、そのままげふっと咳き込んで、そのまま横にずれながら、地面に落ちて突っ伏してしまう。


 それを見ていたマリアンダと他の四人。そして私達は驚いた顔で虎次郎さんを見た。


 虎次郎さんはコキコキと、肩の骨を鳴らしながらマリアンダの前にいる四人を見据えて――もう一度刀をもとの位置に戻して構える。


 腰を低く、そして目の前の敵を見据えるように――落ち着いた面持ちで構える。


 それを見ていたヘルナイトさんは、小さな声で――


「…………か」と言った。


 私はそれを聞いて、再度虎次郎さんを見る。


 虎次郎さんは鞘にその刀を納めたまま、相手をただただ見据えて、構えているだけ。でもその構えに――隙など一切ない。ピリピリとした空気が虎次郎さんから出てきて、マリアンダ達のその余裕のそれを打ち壊して、包み込んでいるかのようなそれを出していた。


 その光景を見ながら、私は確信する。


 虎次郎さんはあの時、。攻撃していたけど、私達にはそれが見えていなかったのだ。


 速すぎて、――相手ですら気付かないほどの速度で、刀を抜刀して、そのまま緑色の短剣を持っていた人の武器を切って、そのあとで顔も切ってしまったのだ。そして何事もなかったかのように、剣を鞘に納める。


 あまりに速すぎる抜刀。


 これでは、誰も気付かないで攻撃を続けるだろう。すでに攻撃されたことも知らずに……。


 ヘルナイトさんの『居合・氷室』よりも早かったような……、気がする。ヘルナイトさんも驚いていたから、きっとヘルナイトさん以上の速さだったのだろう……。


 そう思って見ていると――


「武神のお方よ!」

「っ!」


 虎次郎さんはヘルナイトさんに向かって、ヘルナイトさんを見ないで――彼は言った。


 ううん。頼んだのだ。


「この四人は儂が何とかする! 見るからに異常なのは確かじゃ。ゆえに大物はお前さんに任せる! よいかっ!?」


 それを聞いていたヘルナイトさんは、少し驚いた顔をしていたけど、すぐにマリアンダを見て、そしてきっと彼女を睨みつけながら――ヘルナイトさんは虎次郎さんを見て――凛とした音色で言葉を返す。


「……その四人を倒すという自信があるのか?」


 その言葉に対して虎次郎さんは刀から手を離さないまま、ちゃきり……。とゆっくりとした動作で、ほんの少しの抜刀をしながら……「なぁに」と言って――


「肩の温めにはちょうどいい相手じゃ」と、はっきりとした音色で言う。


 それを聞いたヘルナイトさんは、大剣を持ったまま私の方を振り向いて――私に駆け寄りながら、私の膝裏に大剣を持っていない腕を通して、そのまま持ち上げる。


 まるで――片手でお姫様抱っこをするように。


「ひゃぁ」


 私は声を上げてしまう。


 その声と同時に、ヘルナイトさんは「すまない」と、申し訳なさそうに謝ってくる。と同時に、ヘルナイトさんはそのまま私を抱えたまま立ち上がり、ナヴィちゃんも私の肩に乗っかりながら「きゅぅ!」と、鼻息をふかしながら鳴く。


 ヘルナイトさんは私を見下ろし、そして虎次郎さんの背中を見ながら――


「その言葉に甘えるが、無理はしないでくれ。すぐに片付けて」と言った瞬間だった。


「なぁあああにが――すぐに片付けるですってぇえええええええっっっ!」と、マリアンダは怒りが最高潮に達してしまったのか、まるで赤鬼の様に顔を鬼の形相に変えて、血の気がない顔を真っ赤にさせながら、彼女は背後に浮かばせていた氷のナイフを――私達に向けて飛ばす。


 バシュシュシュシュシュシュシュッ! と、意志を持って動いて、飛んでくるかのように――無数の氷のナイフは私たちに向かって来る。


 私はそれを見て、すぐに手をかざしてスキルを発動しようとした時……、ヘルナイトさんはそのまま手に持っていた大剣を、轟々と燃え、黒い焔を纏った大剣を構えて、その氷の刃の横殴りの雨を見据える。


 ヘルナイトさんはがちっと持っていた大剣を、私の足を切らないように細心の注意を払いながら……内側に振って、そして――自分に向かってくるそれから目を離さないように、彼は言ったのだ。


 あの時――アルテットミアでシャイナちゃんの影を一撃で倒したあの技を出したのだ。



「――『極焔の一閃』」



 ブンッと振るった直後、まるで衝撃波のように飛ぶ炎を纏った斬撃。一回見たことがあるそれを見ながら、私はぎょっとしながら、頬に感じるその熱気と、そして――


 じゅううううううっっっ! と、氷でできたナイフが次々と熔けていく光景を目にしながら、目を点にしてみる。


 ばたばたと下水道の地面を濡らし、溶けて消えていく氷のナイフたち。それとは対照的に――炎の斬撃はそのまま勢いと力を落とさず、マリアンダに向かって突き進んでいく。轟々と燃えながら、斬撃の形を保ちながら突き進んでいく。


「っ! ちぃっ!」


 マリアンダはそれを見ながら、彼女はドレスのスカートの所狭しとついている瘴輝石の中から、青い瘴輝石をぶちりと引きちぎって、それをぎゅうっと掴んだ右手で握りしめながら――彼女は叫ぶ。



「マナ・イグニッション――『大海原絶壁オーシャンズ・ウォール』ッ!」



 その言葉と共に、握りしめていたその青い瘴輝石からごぼごぼと水が噴き出して、その水はひとりでに、意志を持っているかのように彼女の周りに厚く、そして真っ青な海の壁を作りあげる。


 それに向かって、ヘルナイトさんが放った『極焔の一閃』が突っ込んでいき……、そのまま。


 ばしゅぅうううううううっっっ! と――辺りに水蒸気を巻き散らして視界を白く染めていく。私はそれを見て、驚きながらその白い煙の蒸気の熱気を肌で感じながら、私はうっと唸って手で顔を守る。ナヴィちゃんも「きゃぁ~っ!」と言いながら……、って、いたたたたたっ。髪の毛を噛んで飛ばされないようにしないで……っ! 引っこ抜けちゃう……っ!


「相殺されたか」


 ヘルナイトさんはマリアンダの攻撃を見ながら小さく呟く。


 それを聞いてナヴィちゃんを腕の中に納めていた私はすぐにマリアンダの方を見ると、水蒸気がどんどん晴れていき、景色が明るくなっていくと、目の前にいたマリアンダは無傷のまま仁王立ちになって立っていた。


 手に持っていた瘴輝石をぎゅううっと握りしめ、余裕なんてないような引き攣った笑みを浮かべながら、彼女は私達を睨みつけていた。


 ヘルナイトさんはその光景を見ながら、私を抱えたまま私に向かって――


「……、あの四人は、虎次郎殿に任せよう。ハンナ――少しだけ、私に力を貸してくれ」と、ヘルナイトさんは言う。


 それを聞いた私は、不謹慎ながらその言葉に対して嬉しさを噛みしめながら、私は頷いて「はい……っ!」と言う。


 私の言葉を聞いて、ヘルナイトさんは「よし――」と凛とした音色で、余裕のないマリアンダを見据えた。


「それじゃ――俺は数が多い方に加勢しますか」と、ジュウゴさんはなぜかこっちに来て、タバコを吸いながら余裕の狐の笑みで言う。


 ヘルナイトさんはそれを見て――


「虎次郎殿の加勢はしないのか?」


 と聞くと、ジュウゴさんはいやいやと手を横に振りながら否定のそれを示して――


「あのおっさん一人で十分でしょうが。俺が入った時点で巻き添え決定だし、それにリーダー格を倒せばあとは楽じゃね? そこんとこオーケ?」


 と、ジュウゴさんは言う。


 それを聞いて、ヘルナイトさんは少し考えた後――ちらりと、怒りの笑みを浮かべているマリアンダを一瞥しながらジュウゴさんに聞く。


「――何か策があるのか?」と聞くと、ジュウゴさんはそれを聞いてすぐに頷いてから――


「うん。完璧に相手の出鼻をくじく方法ならある」


 と、はっきりとした音色で言ったのだ。


 そしてジュウゴさんは私とヘルナイトさんに向かって――


「その出鼻をくじくために、ちょっとばかし手を貸してくれよ。武神様に、お姫さん。いうことはたった一つ――あの女の注意を長く、長く引き付けておいてほしい」


 と、にやりと、何かを企んでいるような笑みを浮かべて、咥えていたそれを私達に突きつけるようにして言ったジュウゴさん。


 それを聞いた私は、一体何をするのだろうと思いながらジュウゴさんを見て、ヘルナイトさんはそれを聞きながら、返答を一幕おいた。



 □     □



 虎次郎さん対四人のつぎはぎの男達。


 私達とジュウゴさん対マリアンダ。


 この戦いが繰り広げられている時――『奈落迷宮』の地下深くで、


 大きな足を地面につけて、亡骸を踏みつけながらその人物は言う。


 嗅覚を働かせながら言ったのだ。


「ううぅぅぅ……っ! この臭い……! 知っているぞっっ!」


 この地下下水道の激闘は長く続く。そう誰かが囁いた気がした……。

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