PLAY50 命を張る魔女と…… ①
「ネクロ……、マンサー……ッ!」
突然の登場に、私は驚きすぎて茫然と立ち尽くしてしまう。
いつも思うけど、ネクロマンサーは神出鬼没なのかな? と思ってしまうくらい、彼等の登場は唐突だ。
エディレスとクロズクメの時も……、ベガさんの時も、あとはリョクシュの時も、ハンザブロウの時も唐突で、ネクロマンサーと言う人達は――全員が唐突に出てくることが常識になっているのか……。
そんなことを考えながら私は、目の前に現れたマリアンダを見て思った。
マリアンダは自分の背後から出てきた数人のつぎはぎの集団を後ろを向いて一瞥しながら――うっとりとした顔をして、くすくすと微笑んでこう言う。
「うふふふ。いつでもどこでもどの角度から見ても、ワタクシのことを守る騎士達は、なんとも美しくて、そして勇敢なのでしょう……っ。何度も何度も何度も見ても、惚れ惚れしてしまいそうな品格ですこと……」
その言葉と共に彼女の背後にいたつぎはぎの体にタキシードを着ている男性達はそっと彼女の背後で膝をついて、彼女に頭を下げながら彼ら七人は機械のような音色でこう言った。
「「「「「「「お嬢様様。ご命令を」」」」」」」
一人一人が顔を上げて、マリアンダを見上げる。
どの人も整った顔をしていて、パッと見たそれで言うとイケメンと言われてもおかしくないのだけど、顔中にできているつぎはぎのせいでその恰好よさが台無しだ。そして生気のない目も相まって、彼女が言う品格など全然見受けられない。
ヘルナイトさんもその光景を見ながら、鎧の甲冑越しで顔を顰めているようだ。
さっきから声を発していない。
きっと――不愉快と思いながら見ているんだろう……。
虎次郎さんもその光景を見て、顔を不快なそれに歪ませながら、低く腰を落として刀に手を添えて構えている。
ジュウゴさんは呆れながらがりがりと頭を掻いて、その光景を見ていた。
大きな大きな、長い溜息を吐いて……。
「いつ見ても――悪趣味なそれだな……」と、小さく呟きながら言うジュウゴさん。
するとマリアンダはその声を聞きとってしまったのか、苛立った顔をしながらジュウゴさん――強いて言うならば私達の方をじろりと睨みつけながら、彼女はむっとした表情でつぎはぎの馬から飛び降りようとした。
するとそれを見ていた二人のつぎはぎの男性達は、流れるような動作で低い姿勢で駆け出して、マリアンダが飛び降りようとしているところに膝をつきながら受け止める態勢になる。
それぞれ左右で受け止める態勢になって。
マリアンダはその光景を見ながら、くすりと優雅に微笑んで、そしてドレスの端を掴んで、ほんの少し持ち上げてから、そのまま――
とんっと、馬から飛び降りる。
馬の降り方とは全然違う――まるでお城の塀から飛び降りるようなお嬢様のそれで、彼女は微笑みながら、馬から飛び降りた。
それを見ていた二人のタキシードの男達は、マリアンダが落ちるであろうその場所に手を伸ばして、そして彼女の体を受け止めて、ふわりという音が出そうな衝撃吸収の仕方をした。
それを見ていた私とヘルナイトさん、そして虎次郎さんは……、一体何をしているのだろうという目でマリアンダを見ながら首を傾げることしかできない。と言うか、あれは一体どういうことなのだろうか。全く理解ができないのだ。
なんだか、演技が入っているようなそれで……。
馬から飛び降りなくても、そのまま降りればいい話なのに……。
そう思いながら私はマリアンダを見て、顔を疑念に変えて、首をひねりにひねって、一体彼女は何をするつもりだったのだろう……。と思いながら、ただただその光景を目に焼き付けていた……。
マリアンダは自分を抱えた一人のタキシードの男の手を取りながら、気品溢れる立ち方をして、私達を見ながら彼女は「おほほっ!」と笑いながらこう言った。
「やはり……、貴族と言うものは、いついかなる時も、優雅にして絢爛豪華な振る舞いでないといけませんわ。そうでないと……、示しがつきませんわ。うふふふ!」
それを見て、私はマリアンダが一体何をしたいのかと思いながら……、首を捻っていた。
捻りすぎて、肩が凝りそうなほど捻った。
するとその光景を見ていたジュウゴさんは、呆れた顔でマリアンダを見ながら、彼はこう言う。
「相も変わらずの豪遊と言うか、豪快と言うか、ぶっ飛んだ力の使い方をしますねー……。セレブな死霊族さん」
その言葉を聞いてか、マリアンダはぴくりと眉を顰め、そして自分より下の位置にいるジュウゴさんを、じろりと見下しながら、彼女は「あらぁ……」と、今までの明るい声とは全然違う――低く、そしてごみを見るような見下しの目線で、彼女はこう言った。
大きく舌打ちをしてから……、こう言った。
「何を言い出すのかと思えば……、元々魔力などというものを備わっている人間に言われたくない言葉ですわね」
その言葉に、ジュウゴさんは黙ったまま、狐の顔を無表情にしながら、彼はマリアンダを見る。私達も、マリアンダを見る。
マリアンダはそんな私達を見下しながら、ガラガラと落ちて崩れてしまった、凸凹とした瓦礫の道を、カツンっと、ヒールの音を立てながら、私達に近付きながら歩みを進めて行く。
その後ろを、七人のつぎはぎの男たちが執事の様に付いて行く。無表情のまま付いて行く。
それでも、マリアンダは言った。その姿はまるで――王女のようなそれだった。マリアンダはくすくすと優雅に笑いながら、彼女は瓦礫の道をレッドカーペットのように歩みながら――
「ワタクシは、死霊族のマリアンダ! 遊撃隊の一人にして最も瘴輝石を所有する実力者ですわ! 特攻隊などと言う逸れ者と同じにしてもらってはいけませんわね。遊撃隊こそ、死霊族の攻撃の要なのですわっ!」
「……遊撃隊」
ヘルナイトさんは、その言葉を聞いてぐっと、大剣を握る力を強める。
それを見てもなお、マリアンダはカツン、カツン、と……、ヒールの音を立てながら歩み寄って、そして優雅な笑みを浮かべながら、彼女は続けてこう言った。
「そう――ワタクシはその遊撃隊の中でも大火力を持っている存在なのですの。あなたのような役立たずとは違いますのよ。この世界を守れなかった……。非力で何もできない、何も守れなかった魔王の騎士。お初にお目にかかりますわ」
びしりと――ヘルナイトさんに向けてマリアンダは指をさす。
ヘルナイトさんはそれを聞いて、大剣を持ったまま顔を上げる。私も顔を上げて、マリアンダの顔を見た。何だろうか……、そんなことを言われた瞬間、私は心の奥から沸騰するような感覚を覚えた。
それも、どんどん温度が上昇しているような……。
その感情を感じていると……、マリアンダはそんな私とヘルナイトさんの顔を見て、くすりと、優雅だけど、その優雅と言う顔に隠れた狂気の笑みのもしゃもしゃを出しながら、彼女は言う。
ヘルナイトさんに向かって――まるで心を揺さぶるように、彼女は言った。
「あなた様はこのアズール最強の鬼士。己の力を表すモルグ100という文句なしの鬼士っ! 誰もが憧れ、誰もがあなたのような強者を目標にして努力するのに……、今となっては、そのようなことは夢の時代……。最強と言う存在でも、道の存在でもある『終焉の瘴気』にはかなわなかった。否――惨敗……でしたわね?」
「っ」
マリアンダの言葉を聞いて、ヘルナイトさんはぐっと顎を引いて、そして握っている大剣の力をさらに強めた。
その握り拳に感じる……、怒りではない。後悔のそれをもしゃもしゃを感じながら、私はヘルナイトさんに手を伸ばすけど、それを遮るように、マリアンダはこう言った。
「あーあ。最強と謳われた男が、あのような恥ずかしいお姿で惨敗するとは思っても見ませんでしたわぁ! 最強の魔王族の精鋭十二人が泥をかぶって、服を破かれて、地面にキスをするように這いつくばってしまうお姿……、いつも脳内で再生すると……、お腹を抱えてしまうほど面白い見世物でしたわぁ! おーっほほほほほほほほほほほっ!」
げらげらげら。きゃはきゃはきゃは。
マリアンダはけらけらと大笑いながら言う。ヘルナイトさんに向かって言う。
その大笑いを見ていると、私は心の奥底から湧き上がる赤くてどろどろとしてて、熱い何かを感じて、ぎゅうっと握り拳を反対の手で覆って、その手を握り潰してしまうほど握ってしまう。祈っている手の形ではないそれで、私は自分の手を自分で握ってしまう。
この感情はたぶん……、私が今まで出したことがない様なそれだ。
それが体が信号を出しているんだ。それはきっと――爆発寸前。ということを示しているのかもしれない。
そう思いながらも、私はそれに耐えて、マリアンダを見る。
効果音で言うところの……、きっ。という目つきで。
それに気付いたのか、マリアンダは私に目をつけて、そして怪訝そうな眼付きで私を見下ろしながら――彼女は「あらぁ?」と、疑念の声を上げながら言う。
「あなたは……、天族、しかもこの地では希有な存在の……、衛生士、いいえ。メディックですわね。こんな小さいお嬢さんが、まさかのメディックですの? 相当生まれがいいのですわね。厭らしいものですわ」
「……………………」
「あらあらぁ? ワタクシに対してそんな目で睨みつけるとは……、あなた、意外と度胸だけは大きいのですわね? せっかくですわ。お名前は?」
マリアンダは私を見て聞いた。それを聞いた私は、ぎゅっと握り拳を握る力を入れながら、どくどくなる心音を押さえつけながら、私は静かに、口を開いた。
「――ハンナ」
あえて、敬語なんていらない。そんな気持ちで私は言う。
するとそれを聞いていたマリアンダは、むっとした顔をして私を見下ろしながら睨みつけて――
「ハンナ? あらまぁ……、貧相なお名前で。ですが……、まぁその顔と度胸に免じましょう」と言ってから、マリアンダは私を見下ろしたまま……。
カツンッ!
と、瓦礫のレッドカーペットから降りて、彼女と、彼女の背後にいた七人のつぎはぎの男たちは、地面に落ち立つ。そしてマリアンダは私から目を離さないで、そのまま彼女は私に向かってこう聞いた。
「それで? あなたはなぜ、ワタクシのことをそんな風に目の敵にして? ワタクシとあなたは――初対面ですことよ? あなたに恨まれるようなこと、ワタクシはしていませんことよ?」
そうだ。
私はあなたは、初対面だ。初対面でこんなことになるなんて思っても見なかっただろう。私も、マリアンダも。
でも、私は初対面であろうと、あなたのことを一目見て、少し見て――こう思ってしまう。
――あなたとはきっと、理解し合えない。
そう思いながら、私はマリアンダを見ながら、こう言った。告げた。のほうが正しいかな……?
「……確かに、私はあなたとは、初対面です。虎次郎さんも、ヘルナイトさんとも、初対面です」
「ええ。そこにいる老いぼれも初対面ですわね。ですが、鬼神基武神のお方は、誰もが知っている存在ですわ。強くて勇ましい、いついかなる時も負けたことがない最強の存在。それがなぜ、『終焉の瘴気』の時に負けてしまったのか。とんだ恥さらしですわね。最強の名がおいおいと泣いてしまいそうですわ」
「ちがうっ」
「っ?」
私は声を荒げて、マリアンダの言葉を遮った。
精一杯遮った。
リョクシュのような何とかしようという気持ちで、私は言葉を発していなかった。別の感情を抱いて、私は言葉を発した。
ただ、この時の私は頭に血が上っていたのかもしれない。
みんなが、大切な人が傷つけられて怒りに狂っている時と同じように、私もこの時だけは……。
マグマのように熱い何かが頭の細胞の隅々まで駆け巡って、そして頭の上から噴火するような感情を抱きながら、ガザドラさんに言われていたことがこれなのだと、私は今更ながら自覚した。
そう――これは、怒りだ。
ヘルナイトさんのことを馬鹿にするように言ったマリアンダに対して、ヘルナイトさんの苦悩を知らない、苦しみを知らない、最強だから勝つのは当然、負けるなんてありえないと言い張っているマリアンダに対して……、私は心の底から湧き立つ怒りを覚えたのだ。
初対面でも言って良いことと悪いことがある。そんな感情を抱きながら、私は言う。
ううん。私は――声を荒げる。
「最強だからって……、絶対に負けていいっていうルールが、この世にあるんですか? 漫画でよく見る強い人が負けていないのと同じように、絶対に負けてはいけないっていう、暗黙の了解があるんですか? 暗黙のルールが存在するんですか? 最強だから、負けてはいけないっていうルールが、この世に存在するんですかっ?」
マリアンダはそれを聞いてうっと唸って顔を顰める。その顔を見ていた一人のつぎはぎの男が、彼女の前に現れて、守るように出てから彼はこう言う。
「失礼ながら――お嬢様のことを愚弄することはお辞めになっていただきたい。お嬢様のいうことは正しいのです。そう。間違っているのは――あなたなのです」
「――っ!」
違う。違う違う。
私は首を横にぶんぶんっと振りながら、虎次郎さんやジュウゴさんの驚きの顔を見ないで、ヘルナイトさんの顔を見ないで、私は面と向かって、言う。
マリアンダに向かって――荒げた声で言う。
「間違いとかそんなことを言っているんじゃない。ただ私が言いたいのは――いくら最強だからと言って、負けてはいけないなんて言うことはおかしい。負けることがおかしいと言っていることがおかしい。そう言っているんです」
「ハンナ」
ヘルナイトさんの声が聞こえるけど、私はその声を無視――ううん。多分頭に血が上って聞こえていなかったのかもしれない。そのまま私は、マリアンダしか見ていない目でこう言った。
「強くても弱くても、悪人でも強くても弱くても――人間です。失敗だってします。負けることだってあります。みんなそうです。みんな負けます。勝ちたいけど、勝てない時だってある。最強と言う人だって、いつかは負けるようなことが起きます」
「っは! 何を言っているのやら、あなたは戦うことが全くできないからそんなことを言うのですわね。いいですわねぇ。あなたはいつでもどこでも、後ろでただ観戦しているだけなのですから……」
「――確かに、私は、戦うことができません。術を持っていないから戦えない。アキにぃやキョウヤさん、シェーラちゃんの様に、武器を持って戦えればよかった。でもできないって、何もできないって心の底から悔しいって、思っていました。でも……、武器を持っていない人より、武器を持っている人のほうが、もっともっと苦しいんです。戦う術を持っている人のほうが、すごく苦しいんです。助けられなかったときの悔しさや、救える命があったのに、救えなかった後悔も、私のような戦えない人よりも……、ずっとずっと重く傷ついているんです……っ!」
「はは」
なんだろうか、ジュウゴさんの乾いた笑みが聞こえた気がしたけど、私はそれを無視して、目の前で怒りの頂点に達しているマリアンダを見ながら、私は言う。
どくどくと心音が激しいそれを感じながら……、私は言う。荒げる。
自分の、怒りを――感じながら……。
不完全燃焼の怒りを感じながら……、その怒りをマリアンダにぶつけた。
「なにも知らないくせに……、何もしていないのに、わかりきったことを……、言わないでください……っ!」
その言葉と共に、あたりに静寂が走る。
私はぎゅうっと、自分の両手で自分の胸のあたりを握りしめながら、荒くなった息を吐いては吸ってを繰り返し、ゆっくりとした深呼吸を繰り返す。
それを見ていたヘルナイトさんは、私を見ながらぽかんっとした雰囲気で私を見下ろしていた。
本当なら、ここはヘルナイトさんが怒る展開だろう。誰もがそう思うだろう。
でも私は怒った。先に怒った……。の方がいいかな……? 私自身、怒った理由はなんとなくとしかわからなかった。マリアンダの言葉を聞いて、許せないと、心が叫んでいた。
無性に、叫ばないとと思ってしまった。
どうしてなのかはわからない。自分の心なのに、おかしいと思う。思うけど、悔いはない。後悔もしていない。むしろ言ってやった。と思ってしまった。
するとそれを聞いてか……。
「っぷ! あっはははははははっっ!」
ジュウゴさんは、頭に手を抱えて、顔を覆い隠しながら彼は――大きな声を上げて笑い出した。頭を抱えている手とは反対の手は、おなかを抱えて、げらげら笑いながら彼は言う。
驚いて見ている私達をしり目に――彼は言う。
「いやー! まいったなぁ! まさか一見おっとりとしてておどおどとしてて、何も言わないお姫さんが、本当はずばずば言ってしまう正直者の気持ちを持ったお姫さんだったとはねぇ! オーケーオーケー! お姫さんの見解は、一理あるよ」
ジュウゴさんはふぅーっと息を吐きながら、ゆっくりと深呼吸をしてマリアンダを見る。
ジュウゴさんが視たと同時に、マリアンダさんの背後にいた七人のつぎはぎの男達は即座に彼女の前に現れて、守るように立ち塞がる。
そして――
「「「「「「「おさがりを。お嬢様」」」」」」」
腰に差していた短剣を引き抜く。それぞれ虹の色と同じ――剣の刀身に埋め込まれた赤、青、黄、緑、橙、緑、水色、紫の瘴輝石の色と同じ短剣を持ちながら彼らは構える。
それを見てもなお、ジュウゴさんはくつくつと笑いながら――
「一理ある。それは何もしてないのに、誰もそのことをよく理解しようとしないこと。こんな言葉がある。『人間は大概見た目で判断してしまう。割合とすれば、見た目が九割、その他が一割』だとね……。確かに、人間は見た目で判断するものが多い。そして噂を鵜呑みにして、いい噂が多ければ多いほど、いい噂のほうを信じてしまい、逆も然り。すべての人間は単純で――それでいて複雑な生き物だ」
と言う。
それを聞いていたマリアンダと私、そしてヘルナイトさんと虎次郎さんはジュウゴさんの話を聞きながら、構えた状態で聞く。
ジュウゴさんは続けてこう言った。
「その見た目だけで、『あーこの人は何でもできる。だから何をしても何でもできる』って思って、そして一回の敗退でぼろくそ言う。完璧な人間って、この世にいないんだから、そんなこと言わなくてもいいんじゃねーの? 帝国とあんたは、そこまでぼろくそ言わないと気が済まないのかい? 負けることなんて許さない。だから前は勝って買って勝ちまくれだなんて……。それは単なる――傲慢な要求だ。そんなことができるとすれば、運命を司る神様しかいない」
オーケー? と、同意を求めるような言葉で言うジュウゴさん。
それを聞いていたマリアンダは、ぎりっと歯を食いしばりながら、彼女はこう叫ぶ。怒りのままに、叫んだ。
「何を言うのかと思えば……っ! このセレブであるワタクシに、説教ですのっ? 何と無礼なことを……っ! やはり魔女なんて、魔力を持った人間なんて、己の力を驕っている愚か者っ!」
と言いながら、マリアンダは右手の人差し指にはまっている指輪を掲げると、その指輪がぴかりと――薄水色に輝きだして、彼女の背後にぱきぱきと――冷気と共に氷が発生した。
それを見た私は、驚きながらそれを見て、すぐに手をかざしてスキルを言おうとした瞬間――マリアンダはそれを見越してなのか――近くにいた赤と橙の短剣を持ったつぎはぎの男たちを見て、くいっと顎で指示を仰ぐ。
それはまるで――『行け』と言っているようなそれだった。
二人の男はダッと、ジュウゴさん――ではなく、背後にいる私に向かって駆け出して、短剣の刀身に触れながら、二人の男は言う。
「マナ・イグニッション――『
「マナ・イグニッション――『
赤い短剣を持った人は、自分が持っているそれを――ヘルナイトさんがよく『断罪の晩餐』をするときに使うような、赤く光る聖剣に変えて。
橙の短剣を持った人は、自分が持っているその剣を幅も、大きさも変えながら、ブラドさんが持っている大剣に変えて、振り回す。
各々がジュウゴさんの間をすり抜けて、私に向かって攻撃を仕掛けようとしている。
それを見た私ははっと息を呑みながら手をかざして――『浄化』をしようとしたけど、その二人の素早さが早すぎる。あっという間に私に近付いて来て、私のスキルを言う暇を与えない。
「っ!」
私はそのまま後ろによろけて、転びそうになった瞬間……、ふと、腰を支える大きな手に私は驚いてしまう。そして――
「――『
ヘルナイトさんの言葉と同時に、炎の剣と土の大剣を持ったつぎはぎの男たちの頭上に――パキパキと氷の氷柱が、いくつも出現する。
それを見た私は、砂の国に入った時のことを、シェーラちゃんがそれを食べて喉を潤していたそれを見て、私は「わ」と、小さく声を漏らすと……。
「ハンナ――私の分まで怒ってくれて、ありがとう」
耳元に囁くように聞こえたその凛とした声。その声を聞いた私は、自分のことを支えてくれた人を横目で見て、そして――胸の奥から溢れてくるそれを感じながら、私は控えめに微笑んだ。
と同時に――
――ズガガガガガガガガガガガガガッッッ!!
と、降り注ぐ氷柱の大雨。
それを受けて、つぎはぎの男二人は、その氷柱の刃を受けて、倒れてしまう。
ううん。この場合は受けてはいない。ただその氷柱の刃に、服が巻き込まれてしまい、そのまま地面に突っ伏するような形で倒れていたのだ。いうなれば――氷の拘束。とでも言っておこう。
それを見て、私は声にならないような驚きの声を上げて、そしてヘルナイトさんを横目で見る。ヘルナイトさんは私の脇を抱えたまま、私を守るように屈んで大剣を構えている。
虎次郎さんも居合抜きでもするかのように構えたまま動かない。しかしその目だけは、じっと、まるで獲物を狩る様な獣の様に、マリアンダを睨みつけている。
マリアンダは倒れてしまい、うごうごと動こうとしているその二人を、驚愕のそれで見た後、ジュウゴさんや私達の方を見た後、大きく大きく、声で「っちっっ!」と舌打ちをして、残りの五人の命令する。
「命令ですわっ! ワタクシを守りなさいな――
「「「「「了解しました。お嬢様」」」」」
その言葉に応えるかのように、残りの五人が短剣を構えながら前に躍り出る。
マリアンダはそのまま背後に浮かんでいる氷の
「ハンナ――君は下がって」
「サポート、させてください」
私はヘルナイトさんの言葉を遮って、言葉を発した。
それを聞いたヘルナイトさんは私がいる背後を振り向き、少し考える仕草をしてから――「ああ。お願いする」と、穏やかな音色でヘルナイトさんは言い、前を向いて大剣を再度構える。
それを見て、その大きくて、安心する背中を見た私は、くすりと微笑みながら、なんだか満足していると直感してしまうような気持ちを心にしまいながら、そっと手をかざす。
虎次郎さんは刀を手に持ちながら――「ほほぅ。腕が鳴るのぉ。これぞ、血沸く。と言うものか」と、ちゃきりと刀を抜刀しようとして、ジュウゴさんもそんな戦闘態勢の五人を見てから――にっと、狐の笑みの顔を浮かべ、はっきりとした音色でこう言った。
「あー。ノーノーだね。俺はそこまで、弱くないから」と、ジュウゴさんは懐から煙草を出しながら、それを口に咥えて言った。挑発する様に彼は言った。
それを見たマリアンダはビキビキと顔中に青筋を立てながら――びしりと指を突き出して。
「早くおやりなさいっっっ!!」
と言うと同時に、五人のつぎはぎの男達は駆け出す。それを合図に、私達の、地下での戦いが始まった。
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