PLAY49 巨大な迷宮 ⑥

 この世界に閉じ込められてから、私は色んな人と出会ってきた。


 まだまだ半分以下の世界しか見ていないけど、それでも見てきた。と思う。


 色んないい人や、色んな悪い人。


 まだ一握りで、これからもっともっと出会うと思う。


 色んないい人や色んな悪い人。そして……、色んなものを抱えて生きている人にも出会う。


 そう思っている。


 その中でも魔女と言う存在は、私にとってすればいい人分類に入っている。


 そしてとても悲しい境遇をもって、辛い運命を抱えている人だと認知している。


 他人である私が言うのもなんだけど……、きっとこの世界の魔女達はとても苦しい人生を送っている。そう私は思った。


 マースさんやダンゲルさん。マティリーナさんを見て思ったこと……。この人達は強い。と思った。


 クルク君を見た時、こんな小さな子供も魔女なのかと、驚いた。


 ウェーブラさんを見た時、すごく人達に信頼されている。威厳を隠し持った人だと思った。


 そして……。


 マドゥードナで利用されてしまったクルク君のお母さんの『八神の御魂』や、蜥蜴人リザードマンの集落で出会ったザンバードさん、国境の村で出会ったヨミちゃん、エルフの里で出会ったオヴィリィさんを見て……、この砂の国に来てから私の心境は大きく変わってしまった。


 魔女は強い力を持った存在でもあるけど、反面力を持たない人達にとってすれば畏怖。


 そして畏怖はやがて物欲の対象となり、その餌食となってしまう。


 ヨミちゃんを狙った魔女狩りもその一つだ。


 この地に入ってから、私達はおろか……、魔女や色んな他種族は苦しい運命を、人生を送っている。


 そんなの、許したくない。変えたい。苦しい運命から解放したい。こんな悲しい運命は誰も望んでいないから。


 望んでいないのに、他人がそうさせる。その運命に手を伸ばしてしまう。


 そう私は、この砂の国に入って、そう思えてきた。


 つまるところ、何が言いたいのか。それを簡潔にして言うと……。


 今まで出会ってきた魔女達は、全員が全員、辛い運命を辿ってきたわけではないけど、それでも私達の様に、自分の道を進みながら、精一杯生きている。


 みんながみんな自分らしい生き方をしている。みんながみんな――輝いて見えた。そう私は、今まで思ってきた。


 見えた。思ってきた……。のだけど……、それが今、折れかけようとしている。


 そう言った気持ちは、とある場面を見た瞬間簡単に崩れるようなものだ。


 それは今まさに。


 魔女――ジュウゴさんとの出会いで、この人が魔女? と、疑念を抱いてしまうような姿を見て、マースさん達とは違った風格や威厳が全くないジュウゴさんを見て……。


 今まで見てきた魔女のイメージが、崩れかけようとしていた瞬間だった……。



 □     □



「ま、魔女……」


 目の前にいるジュウゴさんを見て、私は固まった顔と目でジュウゴさんを見ると、ジュウゴさんは「あはは~」と、銀色の髪が生えた後頭部をがりがりと掻きながら締まりのない笑みで、彼はこう言った。


「いや~。確かにこんな格好じゃ、今までお姫さんが出会ってきた魔女とかけ離れてしまうかもしれないな。オケオケ。それでいいよ。俺は俺で好きなように生きる自由奔放な大人なのよ」


 私とヘルナイトさん、そしてナヴィちゃんも驚いた顔をして、ジュウゴさんを凝視してしまう。それを見ていた虎次郎さんは、首を傾げながら私達、ジュウゴさんを交互に見ながら――


「うぅむ。やはり儂の見解が正しいようだな。儂も正直……、のぉ」

「オーケーオーケー。みんなして俺のことを『なんか魔女っぽくない』とか言うんだろ? それもう聞き飽きたし全然心に響かないからダイジョブ」


 虎次郎さんの言葉を聞きながら、ジュウゴさんはけらけら笑いながらひらりひらりと手を振る。


 そして私達を見ながら、くるりと踵を返すようにして、来た道を逆走する様に足を向けたジュウゴさん。


 私達はそれを見て、首を傾げながらジュウゴさんの背中を見ると、ジュウゴさんは私達の顔を横目で見ながら――にっと笑みを崩さない顔でこう言った。


「ここだと何だし……、でゆったりとまったりと――雑談でもしましょうか」


 虎次郎さんを手招きしながらジュウゴさんは言う。


 それを見て虎次郎さんは、ふぅっと息を吐きながら、ジュウゴさんのところに向かって早足で駆け出し、そして自分が先頭になるように前に出た。


 それを見ていたヘルナイトさんは、ジュウゴさんに向かって、少々警戒しているような音色で……。


「……いいのか? 見ず知らずの人物を招いても」


 と聞くと、それを聞いていたジュウゴさんはけらけらと笑いながら顔に手を当てて、けらけらと笑っていたそれをくつくつと堪えるようなそれに変えて、彼はこう言う。


 陽気な音色と共に――こう言った。


「オケオケー。言いたいことと聞きたいことはわかるけど……、見ず知らずじゃないじゃん。あんたの武勇伝っつーの? そう言ったことは誰もがよく知っているし、誰もあんたを知らない人とみなして見捨てるなんてことはしないって。そんなことをする輩なんて――ここじゃぁ帝国とつながりがある人だけだって。それに……、そうやって小さなお姫さんを守ろうとする人を見なかったことにするほど……俺はそんな外道じゃない」


 付いて来なって。と言いながら、ジュウゴさんはにっと狐のお面のような笑みを浮かべて、私達に向かって言う。


 それを聞いて、ヘルナイトさんはそのままジュウゴさん達を見つめていたけど、私はわかっていた。


 ジュウゴさんから感じるもしゃもしゃに、嘘のようなそれは一切なかった。


 ジュウゴさんは本心でそう言っている。そして――ヘルナイトさんと私達に対して、敵意など一切ない。


 警戒も何もしていないジュウゴさんのもしゃもしゃを見て……、私はヘルナイトさんのマントを握って、再度くいくいっと引っ張る。


 それを感じたヘルナイトさんは私の方を向きながら首を傾げている。


 私はそんなヘルナイトさんを見上げながら、控えめに微笑みながらこう言った。


「付いて行きませんか? 今の私達じゃ、情報も少なすぎますし……、魔女ならアクロイア王のクエストの件でも……」と言うと、ヘルナイトさんは私を見下ろして、そして向こうにいる虎次郎さんとジュウゴさんを一瞥してから、一旦間を置くように口を閉ざす。


 私はそんなヘルナイトさんを見上げて、返答を待つ。どくどくとなる心音を感じながら、緊張しながら待つ。なぜ緊張するのかはわからないけど……、この時の私はなぜか緊張していた。


 ヘルナイトさんの返答に対して、緊張していた。


 ナヴィちゃんもおろおろとしながら、私とヘルナイトさんを見ている。


 ヘルナイトさんは少しの間考えて、そして私の顔を見降ろしてから、大剣を掴んでいた手をそっと離して……、そのまま掴んでいた手を私の頭に向けて――


 ぽふり。と――


 私の頭にその大きくて温かい手を置く。


 ヘルナイトさんは言った。凛とした音色で……。


「確かに、ハンナの感情を読む力は鋭い。ならば私は、その言葉を信じようと思う。だが、ここが最も危険なダンジョンであることに変わりはない。警戒は継続しておくが……、それでいいか?」


 と聞いてきた。


 それを聞いた私は、ヘルナイトさんの言葉を聞いて、こう思った。


 ヘルナイトさんは、私のことを信じている。


 きっと、相手に敵意がないことも重々承知の上だろうけど、ここは最も危険なダンジョンの中。つまりは気を抜いてしまえば死に直結することが起きるかもしれない。魔物もどこかに隠れているかもしれない。ゆえに警戒だけはして付いて行く。


 と言いたいのだろう。


 私はその気持ちと、私のことを信じている。その気持ちに対してこそばゆい嬉しさを感じながら、私は「はい」と頷く。


 嬉しいという感情を、うまく隠しきれているのかはわからないけど、控えめな微笑みでそれを隠しながら頷く私。それを見てヘルナイトさんははたっと驚いた顔をして、ふっと微笑みながら、私の頭に乗せていた手を引いて、私の目の前に手を伸ばすように差し出して――


「なら行こう。離れないように――」と、凛としているけど、優しさが詰まっているその音色で言ったヘルナイトさん。


 私は頷いて、控えめに微笑みながらその手を取る。


 きゅっと、私の手を握るその手は大きくて、温かい。


 今まで感じているその温もりは、今までとは少し違うような温かさが出ていて、いつも以上に安心してしまいそうなその温もりを感じていた……。


 そのぬくもりを感じながら、私はまた違和感を覚えた。


 突然感じたその違和感はまるで――既視感。デジャヴのようなもの。それを感じたのだ。


 度々だけど、私はヘルナイトさんと接していくうちに、なんだかどこかで見たことがある様な、どこかで感じたことがある様な、そんな違和感を何度か感じていた。そしてさっきの記憶……。



 ヘルナイトさんと酷似し過ぎている人の記憶。



 声も、行動も似すぎているその人を思い出し、そしてこの手の感触を感じながら、私は思った。




 ――やっぱり、。と……。




 ヘルナイトさんに優しく手を引かれながら、私はそんなことを思い、虎次郎さんとジュウゴさん達が向かった先に歩みを進めながら、どこかで感じたことがあるそれを、必死に思い出そうとしていた……。


 そして――



 □     □



 下水道のダンジョン――『奈落迷宮』


 ダンジョンと言うものだから、魔物が通る様な危険な道しかないものと思っていた私は、その光景を見て口をあんぐりと開けてしまった。


「………………え?」


 追加で、素っ頓狂な声を上げながら――その光景を見てしまった。


 それを聞いていた虎次郎さんは、くつくつ笑いをこらえて、肩を震わせながら小さく「……き、気持ちは、わかるな……、くくっ」と、呟いていた。


 そしてヘルナイトさんは頭を抱えながら、申し訳なさそうにして私から目を逸らす。それとは対照的に、ジュウゴさんはその空間を背にして、手を広げながら彼はこう言う。


「そんじゃま……、この空間で一休みしてから、再度出る方法でも探しましょうかね」


 この空間。


 空間と言っても本当に空間なのだ。ダンジョンにはなさそうな開けている空間。でも魔物が一匹もいない。強いて言うなら、ここだけ整備されているかのような、でも下水道と言うことを忘れさせないような雰囲気を持っている空間だ。


 その空間の広さは大体私が通っていた高校の体育館と同じくらいの広さで、中央には透明な水が噴き出している噴水がある。


 周りには枯れたような観葉植物がいくつも置かれていて、腐りかけたベンチも置かれている。あろうことか街頭や、下水道の天井には電気がつく電柱みたいなものまであった。


 この空間だけ生活感というか……、何というか、昔人が住んでいたという雰囲気があった。


 その雰囲気だけ。


 今では魔物が住んでいるような危ないところだけど……。


「ここは……?」私はその空間を見ながら茫然として聞くと、ジュウゴさんは「?」と、頭の上に疑問符が出そうなきょとんっとした顔をして私の顔を見てから、その空間を見上げて「あー」と言ってから、彼は私を見ないで、知らない私に対して説明をした。


「異国の人は知らないだろうな。ここって昔、魔物が大量発生したときに使われた避難所。今は全然使われていないし、それに今となっては冒険者や魔女がいるから――この避難所も必要なくなったってところ」


 いうなればもぬけの殻的な場所。


 と、ジュウゴさんは言う。


 それを聞いた私は、「ここが……」と言いながら、物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回す。ジュウゴさんが言うこの場所は、現代で言うところのシェルターだ。緊急事態の時に避難する場所でもあるこの空間を見回しながら、私はジュウゴさんを見て、ふとした疑問を投げかけた。


「でもここって、魔物がいますよね? ここにいても結局は危ないだけじゃ……」と聞くと、それを聞いていた虎次郎さんはうんうんっと頷いて――


「そこは儂も疑問じゃったが、答えを聞いた瞬間すぐに納得したわい」と、思い出すように懐かしみながら言う。と言うか……、そんな昔に聞いたかのような動作を見て、私は虎次郎さんを見ながら……、一体この人はいつからここにいるんだろう……。と思ってしまった。


 そんな私の疑問を聞いて、ジュウゴさんはさも平然としながら――


「え? いやここには来ないよ。ここには魔物が嫌う香料が織り交ぜられた石工材を――壁、天井、柱を組み込んで作られた――言うなれば透明な壁で守られている場所だから、大型の魔物がここに来たとしても、絶対にこの空間には入らないからダイジョブ」


 と、狐顔でにっと笑いながら言うジュウゴさん。


 それを聞いて、私はほっと胸を撫で下ろしたと同時に、ここに魔物が入らないことを聞いて、虎次郎さんの言った通り、納得してしまう。


 メグちゃんから聞いたことがあることだけど……。


 長い長いダンジョンの中には、体力を回復させるポイントがいくつか存在している。その数は限られているけど、長く続くダンジョンにはその回復と休憩ポイントが絶対に存在していると、そのダンジョンのことを……、全クリア後に挑戦できるようになるダンジョン――『エクストラダンジョン』と言うらしい。彼女は胸を張りながらそう言っていた。


 前にしょーちゃんとつーちゃんがやっていた古いゲームには、その回復ポイントなんて一切なかったけど、メグちゃんはそれに関して……、こう言っていた。


 ――古いから。だそうだ……。


 今にして思うと、ここはその回復と休憩ができる唯一のポイントなのかもしれない。


 魔物が近寄らない。それは私達冒険者にとってすれば、唯一肩の力が抜ける憩いの場でもあるのだ。魔物に襲われることなく、ここで回復や休憩、そして雑談をして作戦会議をしながら時間を有意義に過ごせる。


 そう思いながら私は、ジュウゴさんを見て「そうなんですか……。ならよかった……」と、胸を撫で下ろして言う。それを見て、そして頭を抱えていたヘルナイトさんも、思い出したかのようにはっと息を呑んで、そして私の方を見降ろしながら……。


「す、すまない……。どうやら――」と、申し訳なさそうにして謝ろうとしていたヘルナイトさん。それを聞いて、私はくすりと微笑みながら――


「大丈夫ですよ。私は怒っていません。それに……、ゆっくりでもいいですから、思い出していきましょう?」


 ね? と、こてりと首を傾げながら言う私。


 それを聞いて、ヘルナイトさんは「む」と、不意を突かれたかのような声を上げて、再度頭を抱えながら、申し訳なさそうにして……。


「そうだな……」と言った。


 ……そんな申し訳なさそうにしなくてもいいのに……。そう思いながら、私はヘルナイトさんを見上げながら微笑む。


 すると――


「それじゃぁ――ここで心置きなく話でもしましょうか」と、ジュウゴさんは含み笑いを浮かべながら言う。それを聞いて、私とヘルナイトさんはジュウゴさんを見て、ヘルナイトさんはそんなジュウゴさんを見ながら、こんなことを聞いた。


「……、一つ、聞きたいことがある」

「?」

「ジュウゴ殿、と言ったな……。なぜそこまで、初めて出会った私達のことをそこまで信用する? ハンナの言う通り、敵意がないにしても初めて出会った人に対してここまでするのはおかしい話だ。ハンナのことは信用している。が、何が目的で」

「目的と言えば――それはんじゃね? オーケー? それ」


 ヘルナイトさんの言葉を遮るように、ジュウゴさんはヘルナイトさんを見て、そして私の方に視線を移しながら、彼はこう言った。


「風の噂でね……。国境の村の魔女が死んだこと、そしてあんた達が砂の国にいる魔女を探していることを聞いたんだよ。噂っていうのはおひれはひれがついて、拡散していくのが常識なんだけど、武神と、浄化の力を持ったお姫さんの噂はどれもこれも同じ。そしてもう三人、じゃないな……。悪魔族の六人を合わせたら八人が承諾したということになる。それも噂で聞いた。ここまでオーケー? んで、ここからが本題。その噂を聞いた俺はあんた達に対して……」


 と言って、ジュウゴさんは息を吸って、一幕おいてから、私達を再度見て、にっと狐のような特有の笑みを浮かべながら――彼はこう言った。



「その話を聞いたのち、をしたいかなーって思って誘ったってこと」



「………………お願い?」


 その言葉に、私は首を傾げながら言葉を返す。まるでオウムの様に聞く。


 虎次郎さんはそれを聞いて、はたっと驚いた顔をして私達を見ながら……。


「ほほぅ。お前さん達が噂のか。いやはや。ここに閉じ込められて、からのぉ……。地上がどうなっているのか気になっておった。是非とも外の世界の話を聞かせてもらいたい」


 と、陽気に笑いながら言った虎次郎さん……。


 でも、なんだろう……。今平然とすごいことを言っていたような気がする……。初日ってまさか……?


 と思いながら私は青ざめた顔をして虎次郎さんを見ていると、ジュウゴさんは「おほん」と咳込む。それを聞いた私は、はっとしてジュウゴさんを見ると、ジュウゴさんは私達に向かって手をひらひらと振りながら――笑みを浮かべてこう言った。


「とにかく、ここで出会ったのは何かの縁。何かの運命。お互い同じ境遇者同士。出られなくなった者同士――今は落ち着いて話をしましょうってこと」


 オーケー? と、ジュウゴさんは陽気な音色で、その陽気さで隠されている何かを漏らしながら、何かを考えているような含んだ笑みで言う。それを聞いて、私はヘルナイトさんを見上げる。それは心配と言うそれではなくて、どうするか。と言う意思表示のそれである。


 それを見降ろして、ヘルナイトさんは頷く。私もその頷きを肯定と見て、控えめに微笑みながら頷くと、ヘルナイトさんはそれを見て、目の前にいるジュウゴさんを見ながら――凛とした音色で……。


「分かった」と言った。



 □     □



 それからすぐに、私達は円を描くように、互いの顔が見えるように座っていた。


 ナヴィちゃんは噴水に入りながら、やっと自分の体にこびりついているそれを洗い落としていた。汚れが取れて嬉しいのか、鼻歌を歌いながらぷかぷかと浮いている。よっぽど嬉しかったのだろう。体が洗えることに……


 そう言えば、私……、この下水道に入って、臭いとか服にこびりついてないよね……? 後で確認しよう。ここだとあまり感じないけど、もしかしたら……。


 うぅ、ここから出たらすぐに臭い確認だ。うんっ!


 そう思っていると、ジュウゴさんは、私が渡したアクアロイア王からの書状を見て、じっとその書面とにらめっこをしたまま黙ってしまっている。


 ヘルナイトさんと一緒のそれを見て、そして虎次郎さんんも胡坐をかいたまま腕を組んで、意外なものを見たかのような目をして虎次郎さんは……。


「なるほどな……。その王から頼まれた任務を遂行するために、そしてあの理事長が言っていた『八神』の浄化をするために、この地を治めている神……『土の』の浄化を……」


 ふむふむっと頷きながら、虎次郎さんは興味津々で私達の話に対して頷いて、私達に目を移した後、虎次郎さんは私達に向かって――


「お前さん達も、長い長い旅をしておるのだな。そして、閉じ込められている皆のために頑張ったのだな。えらいぞ」と、うんうんっと頷きながら笑みを浮かべて言う。


 それを聞いて、私は心の底に疼く何かをこそばゆく感じながら「ははは……」と、照れて笑う。そして私は、その照れを隠すように、虎次郎さんを見ながら、さっきの話について聞いて見た。


「あ。あの……、虎次郎さんはなんでここに落ちてしまったのですか……?」

「ん? ああ、そのことについてか」


 と、言いながら、虎次郎さんは腕を組みながら思い出すかのように唸って、そして私達に言う。


 ここにきてから、虎次郎さんは何をしていたのか……。


「さっきも言ったが、儂はここにきて冒険者免許を手に入れてから、共に戦う仲間を探そうと砂の国と言う地に出たのじゃが、その時うっかり流砂に巻き込まれて、こうなってしまったのじゃ」


 不覚不覚。と、頭を掻きながら照れるように言う虎次郎さん。


 それを聞いていた私は、目を点にして虎次郎さんを見てから、心の中で――


 きっと、ここにキョウヤさんがいたら、即座に突っ込みを入れるだろうな……。と、虎次郎さんの運の悪さに驚きながら口を閉ざす。


 ヘルナイトさんも驚いた目をして虎次郎さんを見てから……。


「よく生きていたな……」と、驚いた顔をして言うヘルナイトさん。何だろう……、ここにキョウヤさんがいたら……、きっとこう言う。



『違うっ! かける言葉が違うっ!』



 ………うん、言う。絶対に言う。


 そう思いながら、私は頷く。


 虎次郎さんはそんなヘルナイトさんの言葉を聞いてか、「はっはっは!」と豪快に笑って――


「いやなんの。ただ砂の中にいた奇天烈な化け物を斬り捨て、そのまま大穴に吸い込まれるようにして落ちて言った結果、こうなっただけの話じゃ。それにと言うものは必ずしも出口がある。ゆえにそれを探せばいいだけの話じゃて」


 と、なんとも後悔なんてしてないような雰囲気で言う虎次郎さん……。


 それを聞いて、私はたらりと冷や汗を流し……、すごいポジティブと思いながら、虎次郎さんを見ていた……。


 すると――


「ふぅん。なるほど……オーケーオーケー。理解した」


 ジュウゴさんは書状を白衣のポケットにしまいながら、彼は私達の方を見て、狐のような笑みを浮かべながら「大体のことはわかった」と言った。


 それを聞いた私とヘルナイトさんは、ジュウゴさんの方を向きながら、返答を待つ。


 今にして思ったけど、ジュウゴさんってなんだか……、誰かに似ているような気がする。そう思っていると、ジュウゴさんはそんな私達を見ながら、困ったような笑みを浮かべて――


「おいおいおい。そんな威嚇するような顔をすんなって。俺は他の奴らと違って、この件に関しては結構友好的なのよ?」と言う。


 それを聞いて、ヘルナイトさんは「……友好的?」と聞く。


 ジュウゴさんはそれを聞いて、未だにその何かを企てているような笑みを浮かべたまま、彼は私達に向かって話を切り出した。


「そ。俺はこの魔女のギルドに関して承諾しようと思っている。つまりはオーケーってこと。他の人達って、村のことや守るべき人達のことを考えて、その要件を簡単に呑んでくれなかっただろ? でも、俺にはそんなものないから、簡単に承諾できるってこと。しかしそのためには、がある」


「条件……、ですか?」


 私はその言葉に対して繰り返し聞き返すと、ジュウゴさんは「そ」と頷いて――続けてこう言う。笑みを浮かべながら言う。


「今はここからの脱出が優先だけど、その後のことについて、ギルド長になるための条件がある」


 その言葉を聞きながら私達はごくりと生唾を呑んで、ジュウゴさんの言葉に耳を傾けた。


 ジュウゴさんはそんな私達を見て面白そうに笑みを浮かべた後、彼はそっと――口を開いた。


 ――刹那。





            ドガァァァァァッッ!!





「「「「っ!?」」」」

「きゃきゃっっ!」


 誰もが、水浴びをしていたナヴィちゃんが、今まで壁だった場所から大きな轟音と騒音、そして壁だったそれがただの石と化して、地面に落ちていく光景を、大きな穴ができたその光景を見ながら唐突な緊急事態に驚きを隠せずにいた。


 ヘルナイトさん、虎次郎さんが、武器を構えながら立ち上がって、臨戦態勢をとる。


 虎次郎さんはそれを見ながら、困ったような笑みを浮かべて、その大穴から出てきた人物を見ながら「あらま」と声を零す。冷や汗を流しながら……。


 私はそれを見て、驚いた顔をしてその大穴から出てきた人物を凝視しながら、その人物の姿と言葉を目と耳に焼き付けて記憶した。


 その人物はあまりに奇抜で、あまりに異常な姿をしている人だった。


 優雅な顔立ちになきほくろが印象的な人で、その人は黒と青を基準としたところどころに色んな宝石をちりばめられたドレスを身に纏い、イヤリングやネックレス、髪の毛についている髪留めやブレスレット、指輪にも色々な宝石がついた装飾品を身に着けている。紺色の手袋と白いハイヒールを履いた状態でつぎはぎだらけの馬に優雅に跨りながら、金色の縦ロールの女性は背後にいるつぎはぎの体とは対照的な、パリッとしているタキシードを着た男性達を侍らせながら――高らかにこう叫んだ。



「おほほほほほほほっ! 見つけましたわぁ! ワタクシのことを小馬鹿にした魔力持ちの男っ! これでもう逃げられませんわ……。ワタクシから逃れようと思ってもそうはいきません。なぜって? ワタクシは……『ほしい』と思ったものがあれば、どんな手を使ってでも手に入れる女――死霊族『贅沢に使うセレブリティ・ネクロユード』、マリアンダからは、逃れられませんわ……っ。うふふふっ!」



 私達の目の前に突然現れたネクロマンサー――マリアンダは、貴族のお嬢様が笑うような仕草をして、驚いて固まっている私達を見降ろして嘲笑いながら名乗ったのだった。

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