『HELL KNIGHT Ж《最強騎士と回復チートの浄化冒険禄》Ж』

ヨシオカ フヨウ

序章

PROLOGUE ①

 私はある日――すごく不思議な夢を見た。


 その夢は……、温かい気持ちでいっぱいなはずなのに、すごく悲しい……、胸の奥が張り裂けそうな痛みが体中を巡っているような、そんな痛み。


 それでも私は夢の中で、誰だかわからないその人物に何かを言っている夢。


 何を言っているのかわからない。すべてがフィルターがかかったかのような声。


 目の前の視界は水に落ちたかのように、歪んで、歪みまくって……。


 胸が痛いのに、胸を押さえて痛みを堪えているのに、それでも夢の世界の私はやめない。言い続けている。


 苦しいのなら、やめたらいいと、この夢を見ている私は思った。でも、夢の私はやめない。


 言い終わったところで、夢の世界の私は我慢が出来なかったのか……、顔を手で覆い隠して、伏せて泣いてしまった。


 今この夢を見ている私にはその真意がわからないのに……、なぜだか、夢の世界の私と、感情が共有されているかのように……、苦しさ、悲しさ、そしてもどかしい何かを感じていたようだ。


 胸の奥が、じくじくと痛い……。痛いって、叫んでいる。


 胸が苦しくなって、私は胸の辺りをぎゅっと握りしめる。


 痛みで苦しくなり……、息ができない。呼吸がままならない。


 そう思った時――


 ふわっと。頭に優しく何かが置かれた。


 夢でも鮮明にわかるぬくもり。これは、私の頭を誰かが撫でている。そう夢の世界の私ははっとして、今見ている私も、その感触を確かめる。


 ゆるりと――撫でられた。大きくて、それでいて温かい……。なんだろう、すごく、安心する。


 それを感じた私と、夢の私は――顔を上げた……。



 □     □



 PPPPPPPPPPPPPPPPPPP!


「…………………………………」


 手を天井に向けて、何かを掴もうと伸ばしたのだろう。


 私は内心もしかり表情も『ぽけーん』っとしていただろう……。そんな状態で、私は「うぅ……ん」と睡魔と闘いながら、サイドテーブルに置かれた白いスマホを手探りで探して、それを手に取る。


 画面を見ると、時計のマークと一緒にベルマークが急かしなく動いている動画。


 アラームアプリだ。


 それをじっと見て、ベッドのすぐそばにある窓を見た。


 窓は白いカーテンによって日差しが遮られている。でも強い日差しなのだろう。カーテンの隙間から差し込む光は、薄暗い部屋を少し明るくしている。その光を見て、私は――


「……もう朝なんだ……」


 そんな当たり前で、そんなこと普通だろうという言葉をこぼす。


 未だに鳴り続けているスマホのアラーム。それをまたじっと見ると……、画面にはゴシック体の文字で朝の六時の時間記号が表示されている。


「……六時なら、起きなきゃ……、朝練ないけど……」


 と、少し寝ぼけが薄れた私は、スマホの画面に指をトンッとタップし、そのまま流れるようにベルマークをすいっと右に流すようにスワイプして、消した。


 当然アラーム音は消えて、私の部屋は静寂に包まれる。


 あ、静寂じゃない。私がもぞもぞとベットから出る音で、雑音はある。


 ぼーっとした視界と思考の中で、さっき見た夢が、ふと思い出された。


 その夢は夢のような夢で、夢じゃないような、そんな変な夢……。


「……正夢……、なのかな……?」


 そう私は呟く。


 なぜそう思うのかはわからない。自分の部屋を見回してみる私。


 勉強机は薄い桃色で、部屋の中央に置かれた白い丸テーブル。白い戸棚にクローゼット。ほとんどが白と薄桃色を基準とした……、ロイヤルとは違うけどシンプルな部屋。サイドテーブルも白い。私の好きな白と薄桃色を基準とした色で統一された自分の部屋をざっと、何も考えずに見渡すと……。


「! あ」


 私はふと――視界に入ったとあるところに視線を移す。


 それは、机に置かれた白いノートパソコン。と、傍に置かれた白いフレームのゴーグル。


 そのゴーグルを見て、私は小さく溜息を吐きながら小さく言葉を零した……。


「……少し、控えた方がいいかな……? はぁ……」


 その言葉を零しながら、私は昨日の疲れが今日の朝になって出てしまったのか、目が痒くなり、そこを少しこすって言う。


 かゆくはないのだけど、なんだか目がぴくぴくしているような、そんな感触を覚えたので、私はとりあえず目をこすり、あとで目薬をしようと思った後、私はサイドテーブルに置かれた手鏡を手に取り、自分の顔を見る。


「…………………………」


 映ったのは――今起きたばかりといわれても反論できない私の顔に、跳ねに跳ねた黒いセミロングの髪。特に後ろがひどい……。くしゃくしゃで、ヘアーアイロンだけではできない……。一回濡らさないといけないくらいの跳ね具合だ……。


 こんな跳ね方……、今まで見たことがない……、と思う。見た瞬間に一気に髪の毛の手入れが大変そうだなと言う倦怠感が私の思考を襲い、そして再度再度ため息を吐きながら言う。


「……ひどい跳ね方……」


 そう私は言いつつ、そんなこと思っている暇なんてないなんて思いながらベッドから出て、眠気のせいで弛んでいる体に鞭を打ち付けて、自室のドアに手をかける。


 ドアを開けると、目の前には二つのドア。右と左に一つずつ。


 右のドアノブには、何かがかけられている。そこにはメッセージ付きのドアかけがかけられていた。しかも丁寧な文字……。


『今日は遅くなります。お土産、楽しみにしててね』


 そう書かれたメッセージを見て、私ははっと思い出す。


 今日は大事なインタビューの日か……。そう言えばそんなことを言っていたな……。うっかりしていた……。


 そう思い、ふっと左のドアを見る。何を思ったわけでもない。普通に、ふとその場所に向けて視線を向けるように視線を向けるけど……、そこには、人の気配が全然ないもう一つの部屋。ドアプレートもなければ人がいる様な気配もないようなポツンっとあるそれを見つめた。


 三年前から、そこはすでに誰もいない部屋となっているから……、当たり前なんだけど……、それでもやっぱり三年たっても喪失感と言うのかな……、今でもふとその部屋のドアに向けてしまう。


 何度も見ても、戻ってくることはないのだけど……。


「………………………」


 それを見て、私は重い足取りで階段を下りる。とたとたという足音が私の耳に入ってくる。木製なのにほんのりと冷たく感じる足の裏で階段を降りていく。


 降りた後、起きたばかりの頭の所為なのかあまり思考が回らない。そのせいなのか、ぼーっとした目で階段を下りてすぐ右の部屋を見つめる。


 右の部屋はリビング。


 右を見た後で反対の左の方向に視線を向けると、襖で閉ざされた寝室と、その隣に木製のドアで視界が阻まれた洗面所がある。


 洗面所に足を運んだ私。


 洗面所は白を基準とした部屋で、顔を洗う洗面所に隣には洗濯機、六畳のふろ場に、あと部屋干しができる物干し台もあって、あとはパジャマを入れる小さな黄色い箪笥がある。ごく普通の清潔感溢れる洗面所。


 その清潔感溢れる蛇口をひねって、温水と冷水を混ぜた水を少しだし、手で桶のように溜めてから、前かがみになってぱしゃりと顔にかける。


 ……っ! うぅ……、冷たいっ。冷水多すぎた……っ。


 顔にキィーンと来た冷たさ。ぶるっと来た寒気。


 これでは目を覚ますどころか顔が冷たくなってしまう……!


 私はすぐに冷水の蛇口をきゅっと捻って、温水の水を多くした。再度顔にかけると、ちょうどいい温かさになり、私は顔を洗い、傍に置いてあったタオルで顔を拭いて、髪を少し濡らしてから――ドライヤーで乾かす。


 ゴアァァーッ! と、ドライヤーの轟音と共に髪の毛にかかる熱風。その熱風の力で髪の毛を乾かしつつ、少しでも渇くように濡れてしまった髪の毛をぱさぱさとばらけるように手櫛で乱していく。


 乱しながら後少しで渇くぞ。という時、ふとまた思い出されたあの夢。


 そう――今日夢に出たあの夢。


 あの夢……、いったいなんだったんだろう……。


 夢にしてはすごく鮮明で、感情も流れているかのように、なんだろう、こう……、心がもしゃもしゃしたような。そんな夢。


 うまく表現できないそんな夢を思い出し、そして六時半となっている現在でも、はっきりと覚えているそれを思い出して……、私は思った。


 本来……、記憶に残る夢や、印象に残る夢は――正夢になるといわれている。本当かどうかはわからないけど、私はそれを人に話して、正夢にしないようにする人間だ。


 簡潔に言うと、私は正夢を信じる方。


 話したいのは山々なんだけど……、その夢を見た原因が明白で、話そうか、話さないかと悩んでいるところなのだ。ちょっと、恥ずかしいという思春期さながらの感情もあって……。


 ……、でも。話した方がいいかな? 


「うーん……、どうしよう……?」と、独り言を言った時だった。



「華ちゃん」



「!」


 突然声がした。私はびくっと肩を震わせて後ろを振り向くと、洗面所の前でニコニコ微笑んでいる人がいた。


 腰を曲げている、柔らかく微笑んでいる。私よりも小さい――大好きな、おばあちゃんがいた。


「おばあちゃん。どうしたの?」


 私はおばあちゃんに聞く。するとおばあちゃんは私を見て、柔らかかった微笑みが少し消え、心配なそれに変えて私を見て言った。


「どうしたんだい……? なにか、学校であったのかい?」


 心配そうに聞いてくるおばあちゃん。


 ……おばあちゃんは私のことやのことを一番に考えてくれる。おばあちゃんは優しい。だから心配をかけたくない。もう年だからこれ以上の心配で体調を崩してほしくない。できれば、そのまま元気に過ごしてほしいと思っていたから、私は先ほどまで考えていたことに決着を透けると同時に、お祖母ちゃんのことを見た。


 二年前から決めていること。それを変えることは絶対にないので、私は首を横に振って――


「何もないよ。学校も楽しいし、友達ともうまくやっているよ」と、にこっと微笑んで言った。


 それを聞いたおばあちゃんは、曇りが晴れない顔をしていたけど……。


「……、そうかい……。あ、朝ご飯できてるよ。今日は親戚からもらったアジの開きを焼いたのよ。冷めないうちに、しっかりと食べるんだよ」

「うん。わかった――あ。そうだ。輝夜かぐやにぃ今日も仕事なの?」


 と言って、おばあちゃんは私に向けて微笑みかけながら言ってきた。そんな顔を見て、私は申し訳ないことをした反面、おばあちゃんに心配かけないようにしなければという決意を込めながら頷いた後、私はお兄ちゃんのこと――輝夜にぃのことについておばあちゃんに聞いた。


 輝夜にぃとは私の兄で、右の部屋にいるノンフィクション作家……の、駆け出し。


 いつも経験値取得(という名のインタビュー)をしながら、日々先輩作家の元で一流のノンフィクション作家になるために奮闘している……。新人だからなのか、すごく多忙な毎日らしい。


 それを聞いたおばあちゃんは少し不安な顔をして……。


「そうなんだよ……。今日は泊りだって言っていたねぇ……。この家も少し、さびしくなるね……」

「でも、輝夜にぃも夢のために頑張っているんだから、応援しないと」

「うふふ……。そうだねぇ。あの子、仕事の時がすごく目をキラキラさせているからねぇ」


 と言って、最初に行った不安な顔からほほほっと微笑みのそれに変えて言って笑うおばあちゃん。それを聞いた私も、つられてフフッとこぼしてしまう。


 輝夜にぃの、その眼をキラキラさせる顔を想像して、面白いと感じてしまったから……。


 すると、おばあちゃんは時計を見てはっと慌てた顔をして――


「あらっ! もうこんな時間っ。ごめんね華ちゃん。長話しちゃって」

「? あ」


 と、おばあちゃんが突然謝ってきたので、時計を見ると……、時計の針はすでに六時四十五分になっていた……。


 やばい……、もうこんな時間だ……。


 話している間にこんなに時間がかかっているとは、思ってもみなかった。それはお祖母ちゃんも同じらしく……。


「本当にごめんねぇ、華ちゃん……」と、申し訳なさそうに、急ぎ足で台所に向かうおばあちゃん。


 それを見送った私は「大丈夫だよ~……」というけど、おばあちゃんは慌てていたのか、私の声など聞こえていないかのように台所に行ってしまった。うぅ……、本当に申し訳ないです……っ。


 それを見送り、私は気持ちを切り替えて――自室に戻って制服に着替え、すぐにリビングへと向かった。


 リビングは少し大きいけど、少し低い食卓テーブルとイス、台所はダイニングキッチンではなく、普通の台所。台所から出てきたおばあちゃんは食卓テーブルにコトッと二人分のお茶碗を置く。


 お茶碗にはほかほかの白米は盛り付けられて、ご飯の湯気が食欲をそそる。


 すでに置かれていたであろうアジの開きと豆腐の味噌汁。煎茶も置かれているテーブル。


 私は最初に、バックを置いてある場所に向かう。


 そこは――仏壇が置いてある畳部屋。その部屋で、私は正座をして、それを見た。


 仏壇や木魚、お鈴などが置かれている中で、その中央に置かれたブラック缶コーヒーと一緒に、一枚の写真が写真立てに収められていた。


 写っているのは――厳しそうな顔をして腕を組んでいる白髪の老人。


「………………おじいちゃん。行ってきます」


 お鈴をたたく。チーンっという音が聞こえ、手を合わせて拝む。


 お鈴の音が響く中……、私はただ、おじいちゃんに向かって拝んだだけ。だからだろうか、いつも、おじいちゃんがいつも空から見守っているような感覚を覚える……。


 一通り拝み終えて、私はリビングの食卓テーブルに向かい、椅子に座る。低い椅子やテーブルは、おばあちゃんのためのバリアフリー素材でできている。でも私が使いづらいなんて言うことはない。ちゃんと使えるので、おばあちゃんの負担にならない。私も使えるので、本当にありがたい。


「「いただきます」」


 二人声を揃えて、手を合わせて言う。そして箸を手にとって、お茶碗を持ち、ほかほかの白米を口に入れようとした時――


 いつも点けているテレビのニュースの声が聞こえた。


『続いてのニュースです。昨夜深夜遅く、當間市とうましにて、強盗事件がありました。事件現場となった場所は……當間市港区のコンビニエンスストアで、警察は近くの住人に警戒を呼び掛けています。尚、當間市にお住いの方々も、十分警戒をしてください』


 ……當間市。


 この地域、しかも……、港区はここから徒歩で行けるところ……。


「あら……、物騒だね。港区で強盗事件なんて……、最近こういった事件が多いわねぇ……」


 おばあちゃんが心配そうに頬に手を添えて言う。それをきいた私は、おばあちゃんを見て、おばあちゃんに言った。


 さっきは、おばあちゃんが私のこと心配してくれたのに……。今度は真逆になった。


「おばあちゃん……。おばあちゃんも気を付けてね……? 最近ひどい事件も多いし、ここは安全っていう確証もないから……」


 私がそう言うと、おばあちゃんはふふっと微笑んでから、そっとテーブルに身を乗り出し、手を伸ばして、私の頭に手をすとんっと置いた。そしてゆるゆると撫でる。そして優しい声で、優しい笑顔で――


「ありがとうね。華ちゃん。華ちゃんはいつも優しいねぇ」


 と、私の頭を撫でながら言った。


 それを聞いて、感じた私はおばあちゃんが私の頭を撫でる感触をこそばゆく感じながら「うん」と頷く。でも――夢のあの撫で方と重ねると……、少し違う。


 そう思った時、おばあちゃんは私の頭から手をそっと離して――


「でも、華ちゃん」

「?」


 おばあちゃんは私に向かって言った。


「おばあちゃんは、そんな優しい華ちゃんも好きだけど……、もう少し華ちゃんは自分に対して我儘になった方がいいと思うの。華ちゃん……、いつも自分よりも他人の方を優先にするでしょう?」


 おばあちゃんは微笑みながら言う。


 それを聞いた私はおばあちゃんはきっと私のことを心配して……、将来のことを考えて言っているのだと思い、私はこくりと頷いて……。


「うん……。気を付けるね。おばあちゃんも、気を付けてね……?」と言い、すぐにいいことを思いついた私は、話を変えるようにこう言った。


「そうだ。今日の帰りに防犯ブザー買ってこようか?」


 その言葉におばあちゃんはおほほっと笑って……。


「華ちゃんも、私と似て心配性だねぇ……」と言った。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る