PLAY46 急変と裏切者 ④

「そんなことがあったのか……」

「てかそこまではっきりと疑うものなのかよ」

「ハンナッ。なんでそんな大事なことを兄である俺に話さなかったのさっ! 俺だって妹のためならその裏切者を打ちのめすことだってできるのに……っ! なんであのゴーグルくそ野郎がハンナを苦しめるようなことしかできないんだ……っ! だったら自分で」

「「その辺にしておけシスコン」」


 と言う感じで、シェーラちゃんはヘルナイトさん達がいるところに駆け寄って、私が話したことを小声で説明した。


 きっとクルーザァーさん達のことを考えて、大声で話すと混乱する妥当と言う配慮だろう。


 シェーラちゃんはみんなに包み隠さず私が話したことを説明した。


 それを聞いて――


 ヘルナイトさんは頷きながら腕を組んで私を心配そうに見降ろし、キョウヤさんはクルーザァーさんのことを思い出しているのか、ピリピリした雰囲気を出しながら怒りを露にして腕を組んでいると、アキにぃは私の背丈に合わせるように腰を下ろして『がしり』と私の肩を掴みながらゆさゆさと揺らして、泣きそうな顔を合わせながら言う。


 それを聞いていると、だんだんアキにぃから黒いもしゃもしゃを感じ、これはまずいと思った私は慌ててその言葉に対して弁解しようとした時……、シェーラちゃんとキョウヤさんは唇裂しんれつな言葉をアキにぃに浴びせて強制停止させた……。


 アキにぃはそれを聞いて、少し傷ついた顔をして唇を尖らせながらシェーラちゃんに聞く。


「で……? その話が本当なら、どうするっていうのさ……。話したところで俺達に疑いの目が向けられるのは避けたい。何せあの人、心のないようなことを平然とするような人だと思うし……、正直いけ好かない」


 それを聞いていたシェーラちゃんは腕を組みながら考える仕草をして、みんなを見渡しながらシェーラちゃんはこう言った。


「ハンナ――あんたが言っている話だと、私達がゆく先々で帝国の追手が待ち伏せしているかのようにいるんでしょ? それもここに来るまでの間」

「え……? うん……」


 シェーラちゃんに突然聞かれて私はこくりとその言葉に対して頷くと、それを聞いていたシェーラちゃんはその話を聞いて頷いてからヘルナイトさん達を見ながら……。


「そうなると、クルーザァーの言う通り裏切者が紛れててもおかしいと思うの。だってあの日――ハンナとボルドは嘘つくのが下手すぎるから除外として」

「お前も案外ひどい言い方をするな……」


 シェーラちゃんの言葉を遮るように、キョウヤさんは汗をタラリと流しながら言う。


 その言葉を聞いてシェーラちゃんはむっとしてキョウヤさんを睨む。


 その光景を見ながらヘルナイトさんはシェーラちゃんに向かって「続きを聞かせてくれ」と、凛とした音色で言うと、ヘルナイトさんの言葉を聞いてシェーラちゃんはコホンッと咳込んでから――続けてこう言った。


「キョウヤとアキも覚えているでしょ? まずさで記憶が混濁しているけど……。あの時一時期だけど、


 あ、もしかして紅さんの料理のこと……? まずさって……。


 ヘルナイトさんは食べた時の記憶が消失してしまったけど、シェーラちゃんの場合は混濁してしまっていたんだ……。私はそんな混濁はなかったけど……。


 そんなことを思いながら紅さんの料理の味を思い出して、うっと青ざめながら口に手を当てていると、シェーラちゃんは話した。


 私がいない間に起こったことを――誰がいなくなったのかを。話してくれた。


「あの後あんたがいなくなって、アキは慌ててあんたを探しに行こうとしていたわ。でもそれを止めてキョウヤが羽交い絞めにして、体格のいいガルーラにお願いしたの。『アキを押さえつけておいて』って。それを聞いてガルーラはアキを押し潰したけど、その時からすでにいない人物がいたわ」

「………誰が?」


 私はそれを聞いて、まるで推理小説のような展開にドキドキしながらシェーラちゃんの話を聞く。


 するとシェーラちゃんはそっと口を開けて――こう言った。




「いなかったのはたしか――




「そう言えばいなかったな。ティティもその時いなかったから、ティズのことに関してはティティが見ている。っていうか……、べったりだから除外じゃね?」


 キョウヤさんは思い出しながら言葉を発する。そしてティズ君はないだろうという意見をシェーラちゃんに向けて言うと、それを聞いていたシェーラちゃんは首を縦に振りながら「そうよね」と言い……。


「何よりティズは元々いなかった。更に言うとあいつは十四歳の少年。脅しを食らっていたらわかるかもしれないけど、そんな誰かを騙すような芸当――あのティズにできるとは思えない」


 と言いながら、シェーラちゃんはうーんっと腕を組みながら考える。それを聞いていたヘルナイトさんは少し気に食わないというか……、あまり納得していないような表情と声で――


「……信じたくないが……、そうなると……」と、言葉を濁すヘルナイトさん。


 私も信じたくないけど、シェーラちゃんは嘘をつくような人ではないし、もしゃもしゃも出していない。それが指す意味――それは……、本当と言うこと。


 キョウヤさんは腕を組んで溜息を吐きながら――



「消去法で――ダディエルが裏切りっていう可能性が」

「待って」



 私は声を張り上げてみんなに向かって言う。


 それを聞いた誰もが驚いた目をして私を見ていたけど、アキにぃはそっとしゃがんで私の顔を覗き込みながら――「ハンナ……?」と、心配そうな顔をして見ていた。


 私はそっと顔を上げて、みんなの顔を見ながら――ダディエルさんは裏切者じゃない。その理由があることを話した。


 ダディエルさんには恋人がいたことを。


 その恋人は『BLACK COMPANY』のアクロマによって殺されたことを。


 帝国と繋がっている『BLACK COMPANY』に協力することはない。このことを包み隠さず話すと (ボルドさんごめんなさい)、それを聞いていたヘルナイトさんは――私の頭をそっと撫でながら……。


「そんな話をしていたんだな……」と、少し申し訳ないような音色でヘルナイトさんは言う。


 それを聞いて私は首を横に振りながら「えっと、大丈夫ですよ……? それは私が聞いた話で、ボルドさんからも口止めされていたんで……」と言って、弁解した。


 アキにぃは「ぐぎぎぎ」と唸りながら、ヘルナイトさんを睨みつけてぶるぶる震えながら、震える口でアキにぃはこう言った……。目から血のそれを流して……。


「つ、つまり……っ! ダディエルさんが……、裏切者じゃないっていうはっきりした根拠がそれってこと……っ!?」

「う……、うん」

「ハンナマジビビりじゃねえか。やめとけ馬鹿」


 アキにぃのその鬼気迫りその表情を見た私は、驚きながらヘルナイトさんの背中に隠れてしまう。そんな光景を見て、キョウヤさんはアキにぃの肩を叩きながらどうどうっと言って宥める。


 そしてキョウヤさんはそれを聞いて、疲れたかのようにため息を吐きながら――


「てか、結局これってよぉ……。クルーザァーの考えすぎじゃねえか」と言った。


 それを聞いて、私は首を傾げながらキョウヤさんをヘルナイトさんの背中越しで見ると、キョウヤさんは私達を見て「だってよぉ」と言いながら、続けてこう言葉を繋げる。


「こうして話し合って、よくよく考えてそれはないっていうか、現実的に考えた結果――裏切った奴なんていねえってことが分かったじゃねえか。ハンナがやっていた行為は骨折り損ってことだな」


 と言って、にひっと笑みを浮かべるキョウヤさん


 それを聞いて、私は今までの話を振り返りながら考えると――確かに……、と思って、冷静に私なりに分析してみると……、あの時殆どの人がその場から離れなかったんだ。ティズ君はティティさんがいるから例外。ダディエルさんは論外となると……、裏切者の可能性がゼロ。ということになってしまうのだ。


 ボルドさんは言わずもがな。


 私達リヴァイヴが出した結論は――




 クルーザァーさんの考えすぎ。ということで決まった。




 ……と言うより、私はまたみんなに心配をかけてしまったのかな……? そう思うとすごい罪悪感が頭をよぎる。


 裏切者や内通者のことでみんなを疑いたくないなどと考えて悶々としながら過ごしていたから、なんだか気持ちがブルーになっていたのかもしれない。


 そう思うと余計に申し訳ない。


 そう思った私は謝ろうと口を開けようとした時――シェーラちゃんは私を見てびじっと、私の口元に指を添えながらむっとした顔で――


「謝ることは誤った行いよ。ここはすっきりした顔をして行きなさい」と言って――はんっと鼻で笑いながら、シェーラちゃんはこう言う。


「あんたがそんなことを一人でうじうじ考えてても、結局は負のスパイラルってことなのよ」

「うぐ……」


 と、私はシェーラちゃんのまっとうな意見を聞いて、恥ずかしさと後悔で顔を赤く染めながら唸ると、それを見ていたシェーラちゃんはくすっと微笑みながら私を見て言う。


「だから今は――ここで張り詰めていた気持ちをリラックスさせて、英気を養いなさい」

「う、うん」


 私はそれを聞いて、確かに最近疲れていたことや、色々考えすぎて、少しナーバス……。ナーバスって、意味あっているかな……? そんなことを頭の片隅で思いながら、私はシェーラちゃんの意見を汲み取って、ここで少しの間リラックスすることを決めて、頷く。


 それを聞いてキョウヤさんも頷きながら――


「旅は戦うことの大事だけど、休むことだって大事だ。オレも長旅で疲れたし……、休むなら今の内だぜ」


 と言って、ぐっと腕を空に向けて伸ばして、ぐぐぐぐっと、体を震わせながら体を伸ばすキョウヤさん。確かに、みんなここに来るまでいろんな戦いをしてきた。疲れだって溜まっているんだ……。


 私だけではない。みんな疲れている。


 一時期だけど、休むことだって大事。


 ゲームの時だって、やりすぎて体を壊した人だっていたくらいだ……。私が見た中では、メグちゃんやしょーちゃんだけだけど……。


 ここはキョウヤさん達の言う通り、先の戦いの備えて休もう。


 そう思った私は「……そうですね。私も少し休みます」と言って、控えめに微笑む。


 それを聞いたキョウヤさんとシェーラちゃんは、にっと微笑みながら……、腰に手を当てて気持ちを切り替えるようにしてこう言った。


「それじゃぁ――気を取り直して、ここにいる魔女を探しましょうか」

「……………………………………」

「…………あんた。まさか、忘れていたとか……、言わないわよね?」

「………えっと」

「本来の目的、忘れないで――っよっっ!」



 ――ぺしんっ!



「にゃっ!」


 シェーラちゃんに言われるまで、今まで裏切者のことを考えていた私は、すっかり本来の目的 (浄化は覚えていた) でもある魔女のことについてすっかり頭から抜け落ちていた。


 そんな私の表情を見たシェーラちゃんは、呆れながらずんずんっとヘルナイトさん――と言うか、背後にいる私に近付きながら、シェーラちゃんは私をじっと黒い笑みで見つめながら、そっと両手を上げて、そのまま私の両頬に、べしんっと挟むように、叩いた。


 本日二回目の頬のはたき。


 それを受けた私は変な声を上げてびっくりしてしまう。


「お前何してんだこらぁ! ハンナの頬が腫れたらどうするんだてめぇ!」

「いいのよこれくらい。それで腫れた人間なんていないから」

「うぅ~……」


 アキにぃはそれを見て、シェーラちゃんに向かって怒声を浴びせていたけど、シェーラちゃんはそれを無視して、私の頬を掴み上げて、ぐにぐにと形を変えながら私の頬から手を離さなかった。


 そんな光景を見て、呆れているキョウヤさんと、穏やかな笑みを浮かべているヘルナイトさんを見ることができず、私は十分間の間、シェーラちゃんの頬掴みの餌食となっていた……。



 □     □



 それから、やっとシェーラちゃんのその頬の挟みから解放された私は、息抜きとして駐屯医療所を回りながら久し振りの五人で行動していた。


 この砂の国に来てからはボルドさん達やクルーザァーさんと一緒にいることが多くて、五人で一緒に行動することが少なかったから、今となってはこの風景は久しいような感覚だ。


 それを感じながらテントの周りを歩いていると――色鮮やかなテントの前にいたライオン姿……、先生を見つけて私は手を振りながら――


「先生」と、声をかけた。


 それを聞いた先生は「お?」と声を上げて振り返ると、私を認識したのか、驚きと笑顔を合わせた顔で手を上げて――


「おぉ! は……っ! じゃなかったな。お前ここでは何て呼ばれているんだ?」


 そういえば先生にはハンドルネーム教えてないような……。と思いながら、私は先生に「ハンナです」と言った。


 それを聞いた先生は、へぇっと納得するような音色で頷いた後、先生は私と、そしてアキにぃ達を見回して――


「ハンナか! ならここではそう呼んでおくか!」と言って、私の肩を叩きながら先生は言う。それを聞いた私は頷いて「はい」と言う。


「……他のみんなは?」と、ヘルナイトさんが首を傾げながら聞いて、それを聞いていた先生が肩を竦めて、当たり前だろうというような言動で――


「おいおい。あいつらなら別々に行動してどっかに行っちまったぜ? ティズっていうガキとティティって言う女は遊戯区に向かって、俺もこれから向かうところだ」

「遊戯って、子供が遊ぶ場所なんでしょ? もしかして……遠い?」


 ………完全にシェーラちゃんは、距離に関してすごい敏感になっているのか、先生をジト目で見ながら質問をする。それを聞いたアキにぃとキョウヤさんは、ぴくり。と眉を顰めながら先生の言葉を待った。私はそれを見て……、みんな敏感になりすぎている。でも仕方がないかな……? と思いながら、先生の言葉を待った。


 すると先生は――


「かなり遠いな。でも全部を見て回るならそう遠くは感じないだろう。一緒に行って見て回るか」


 先生らしい言葉を言って、先生は腰に手を当てて、ぎっと太い牙を見せるようにして笑みを浮かべる。一瞬のその笑みが怖いと感じてしまったけど、私はそれを聞いて、「――見たいです」と言った。


 アキにぃ達もそれに対しては同意の意見で、先生の言葉に甘えてお願いをした。


 先生はそれを聞いてにっと笑いながら――


「よし! それじゃぁ――最初は居住区だな!」と言って、私達が今いるところにある、横のテントを指さして、先生は言った。


 先生はそのテントの幕をたくし上げて、その中を指さしながら見ろとレクチャーをする。


 私達はそっとその中を覗いて見ると……。そのテントの中は案外広く、仕切りの壁でみんながぎゅうぎゅうになることなく、まるで下宿の様に区切られていた。それを見たシェーラちゃんが呆気にとられながらも驚いた音色で「もっと狭いと思っていた」と言う。それを聞いて先生も自分を指さしながらにっと笑みを浮かべて――


「俺もそう思った」と言って、近くのドアに向かって歩みを進める。


 私達もそのあとに続いて行くと、そのドアの前にはプレートが立てかけられているけど、何も書かれていない。それを見てアキにぃは首を傾げながら指をさして――


「これは?」と聞くと、それを聞いて先生はこう返した。


「このプレートにはこの部屋に住んでいる人の名前を書くんだ」と言いながら、先生は何も書かれていない、つまりは空き部屋のドアをそっと開けて――私達にその部屋の内装を見せてくれた。


 中は意外と質素で、二段式のベッドが四つで、その間に小さなテーブルが置かれているだけの部屋だった。真正面には大きな窓があり、緑色のカーテンが備え付けられていた。


 先生はその部屋を見ながら言う。


「居住区はルームシェア制で、一部屋四人で寝泊まりするって言う決まりだ」

「シェアハウスみたいだな」

「まぁそんな感じだ。ここは避難民の居住区で、他にもキャラバン隊の居住区や子供たち専用の居住区って言う感じで分けられているんだ。子供達の方は親と一緒に寝られるようにな」

「配慮がいい」


 キョウヤさんとアキにぃはほうほうっと頷きながら同意していると、ヘルナイトさんは私の肩を叩きながら、こそっとこんなことを聞いてきた……。


「………シェアハウスとは、なんだ?」

「………ふふ。みんなで一緒に住める家のことですよ」


 その言葉を聞いて、私はなんだかおもしろくなってクスッと微笑むと、そのことについてくすくすとほくそ笑みながら、私はヘルナイトさんにシェアハウスのことについて説明をした。ヘルナイトさんはそんな私の顔を見ながら、更に首を捻っていた。


「グガガガガガガガガガガガッ!」

「まてまてまてまて! 撃つな撃つなっ! ヒットノーだアキ!」

「…………あいつ、大丈夫なのか?」

「心配しないで、いつもの発作的なものよ」


 ……半狂乱しているアキにぃを止めているキョウヤさんと、それを見て不安げな目で見ている先生の肩を叩いて心配しないでと促すシェーラちゃんを見ないで、私はヘルナイトさんを見てクスッと微笑んでいた……。


 ――次に。


「ここは備蓄区のテントだ」


 先生は背後にある一際大きなテントを指さしながら言う。それを見ていたキョウヤさんは腕を組みながら――


「備蓄ってことは……、色んな食材とか、あとは生活必需品とかもあるってことだよな?」と聞くと、それを聞いていた先生は「あー……」と言って、頬を掻きながら申し訳なさそうにしてこう言った。

「実はな……。備蓄区と医療区のことに関して言うと、俺はなんも知らねえんだ」

「えぇっ!? ここで用心棒をしているのにっ!? ここで用心棒をしているのにっ!?」

「二回言うなっ!」


 アキにぃの言葉に先生は慌てながら突っ込みを入れて、先生は頭をがりがりと掻きながらこう言った。


「いやな……、俺も最初はここの見張りをしようと名乗り出たんだが、ブラウーンドのおっさんが頑なにここの警備はしなくてもいいって言ってな。結局折れちまったんだよ」

「折れるな百獣の王が」

「そういうなマーメイドの嬢ちゃん。俺も最初は疑問を抱いたが、備蓄区の中にはいろんな機材のストックもいれているらしくてな、容易に触られると困るって言われたから、結局折れたって話だ」

「………それってよぉ」


 先生の話を聞いていたキョウヤさんは、先生のことを見て、腕を組みながら、真剣な目で、悲しそうな目をしてこう言う。


「――壊されると思われているってことじゃねえか……。悲しくねえのか?」

「………少し悲しかったな」


 キョウヤさんの言葉を聞いて、先生は項垂れながら小さい声で呟くように言う。


 それを聞いた私やみんなはそれ以上の言葉をかけないでおいた……。


 でも――と思い、私はそっと備蓄区のテントを見上げながら思う。


 本当に――この備蓄区のテントには一体、何が入っているのだろう……。


 そんな興味もあったけど、先生は気持ちを切り替えながら――次のテントに向かって歩みを進めて、「早く来い!」と言いながら私達を急かしたので、みんなと一緒に、私も先生の後について行く。


 ――次。


「こ、ここが……調理区だ……っ」


 先生はだらだらと汗を流しながら、そのテントを指さす。それを見ていたヘルナイトさんは、心配そうな声を上げて先生に向かってこう聞く。


「……どうした? 何かあったのか?」

「い、いやな……、ここはあまり入りたくねぇ場所なんだよ……」


 先生の言葉を聞いた私は、その言葉の意味を察知して、高校でもたまにあったことを思い出しながら、私はみんなに向かって先生のことをこう言う。


「あの……、実は先生、火が大の苦手で……、近くでめらめらと燃えるものを見ただけでも失神してしまうくらい怖いらしいです」


 そのことを聞いたキョウヤさんとシェーラちゃんは驚いた顔をして先生を凝視しながら――


「「マジかっ!」」と、素っ頓狂な声を上げて、それを聞いていたアキにぃは驚いたままの顔で先生を見る。ヘルナイトさんは顎に手を当てて考える仕草をしてから、思い出したかのように、頭を抱えながら――


「しかし……、トワイライトライオンは、火と光には強いはずだが……」と言うと、それを聞いていた先生は、カッと顔を赤くして、黄色い体毛をオレンジの体毛に染めて先生は、ぐわっと大きな口を開けながらこう叫んだ。


「――っっっしっかたがねえだろうがっ! 俺だってこうなりたくなかったし、嫌いなもんは嫌いだし、苦手なもんは苦手だっ! 火系統のスキルだって未だに無理だし、お前らだって嫌いなもんとかあるだろうがっ! それと同じだっっ!」

「まぁそうだよな……、G嫌いにG触れって言っても、発狂して半殺しにされるくらいだもんな。その気持ちわかるぜ。オレ」

「……なんだが、たとえ話ではなくて、体験談のような雰囲気を醸し出していたけど?」


 先生の言葉を聞いて、キョウヤさんは共感したかのようにうんうん頷きながら答える。それを見てアキにぃは、ん? と一瞬首を傾げて、キョウヤさんを見ながら、恐る恐るどういうことなのかと言う感じで質問していた……。


 私とシェーラちゃんはそれを見て、私はふととある疑問を抱いたので、ヘルナイトさんを呼ぶ。


 ヘルナイトさんが「どうした?」と首を傾げながら聞いてきたので、私は今頭に浮かんだ疑問をヘルナイトさんに聞いてみた。


 ちょっとした好奇心を乗せて……。


「あの……、ヘルナイトさんの嫌いなものって、何ですか?」

「………光属性だな。あまり得意ではない」




 そうじゃないよっ。




 そう私は心の中で始めて突っ込みを入れた。シェーラちゃんも呆れながら小さい声で「ソウジャナイヨ……」と、コミカルな白目になりながら突っ込みを入れていた。


 ……次。と言うか……、遊戯区の前にある……。


「んで、ここがこのキャラバンの要の医療区だ」


 先生は自分の自慢の様に、胸を張って自慢げに言う。


 そのテントは異常に大きくて、中からなんだか消毒液のような臭いがしてきて、鼻腔内をさす。


 それを感じて、キョウヤさんは鼻をつまみながら先生を見て聞く。


「てか……、何だこの薬品のにおい……。鼻がひん曲がりそうだ……っ!」

「あ? 俺も鼻は良い方だからな。あまり嗅ぎすぎるなよ。鼻イカレるから」

「はよ言えっっっ!」


 キョウヤさんは先生の言葉を聞いて、突っ込みを入れる。その言葉を聞いて、私はふとした疑問を先生に投げ掛けた。


「あの……、先生。そう言えばみんなは?」

「! そう言えば見かけなかったわね」


 シェーラちゃんもそのことに気付いたらしく、辺りを見回しながら先生に聞くと、先生は「お?」と思い出したかのような表情をして――


「それはな」と言おうとした時……。


 ばさりと、テントの幕がはためいた。


 それを見た私達は一時会話を中断してそのテントから出てきた人を見る。


 するとテントの中から出てきたのは、カルテらしきバインダーを持ったブラウーンドさんがそのカルテを凝視しながら眉を顰めてうーんっと唸るような声を出していた。


 きっと――病気に関することで何かあったのかな……? そう思って見ていると、ブラウーンドはん? と前を見て、私たちがいることに気付いたのか、ブラウーンドさんはにこっと、さっきの険しい顔が嘘のような表情で微笑んで私達を見ながら――


「おや。テント内の観光でしょうか?」と言って、付け加えるように『何もないキャンプ場ですが、楽しんでいただけましたかな?」と聞いてきたので、それを聞いていたシェーラちゃんはこのテントの向こうにあるテントを指さしながら――


「まだあのテントは見ていないわ」


 と言った。


「そうですか。あれは共同区のテントですね。その先に遊戯区のテントがあります。が……」


 と言って、ブラウーンドさんはそっと私とヘルナイトさんを一瞥し、品定めするような目つきでじっと見た後――ブラウーンドさんは私達に向かって――こんな言葉を投げかけた。


「あの……、少々お時間をいただけますか? あなたと、武神卿に少し、お聞きしたいことがありまして……」

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