PLAY36 国境の村の魔女 ①
「……どうしたんだ――? リョクシュ――」
あまりの豹変ぶりに、流石のクロズクメは引き攣りながら緑守を見て言った。
それを聞いたランディは緑守の言葉に苛立ちながら……、手が使えない代わりに足を使って『げしり』と緑守の胴体に蹴りを入れた。
それを受けた緑守は「うぐ」と唸りながらよろけ、掴んでいた手を離してしまった。
ランディは緑守を見て言う。
「君がどれだけ才能があるかは知らは知らないけどね……、僕は一人でその犬野郎達を殺そうと思っているんだよ……っ!? 君みたいな何もしていないペーペーみたいな奴の力を借りなくても僕は戦えるんだ。戦えるから……、心配だから付いて行くなんて言う気持ちで言うなよ……」
ランディは凄んだ音色で言った。
それを聞いた緑守はぐっと顔を歪ませながら焦った。
(まずい……、このままではいけない……っ!)
(せっかくザッド様に貢献できるチャンスを、ザッド様や『六芒星』の明るい未来のために貢献できないっ!)
(何とかしないと……っ!)
そう思い、どのような話術を出そうかと模索していると、唐突にダグディラットは言った。
「まぁ、その気持ちはわかりかねんがな」
ダグディラットはそう言うと、小さい足で歩きながら薬などをテーブルの上に置く。
それを聞いたランディは「あぁっ!?」と、まるでヤクザの様な苛立った音色と睨みでダグディラットのことをぎろりと振り向きざまに睨むと、声を荒げてこう言った。
「なんだよその言い方! それだと……、僕がまるで役に立たない鶏のようだと言っているように聞こえるが……、僕のどこが鶏なんだこのオ」
と、鶏=役立たずもとい食用と言う認識でいるランディは、ざっざっとダグディラットに向かって歩みを進めながら彼は、その老人の体を背後から蹴ろうとした。
その時――
「なんだ? またランディが壊したのか?」
豪快な声で「ガハハハッ」と言う笑い声をあげて入ってきた髪の毛を炎のように燃やしている……というよりも完全に膝の裏側まである髪の毛は、炎だ。その炎を纏いながら、黒い布を腰に巻いて、手足には少し太めの手錠と足錠。鎖はついていない。そして細く引き締まった体だが、黒人なのかというくらい濃い肌を持った、体中と顔中に白い刺青を入れた百八十センチほどの男……、否。彼は魔物。と言った方がいいだろうか。その魔物は豪快に、あろうことか人語を話しながら笑ってこう言った。
「怒りのは無理ないな――お前は一回失敗して戦力外を言い渡されてしまったのだからな!」
がはははは! と笑いながら、魔物は腰に手を当てて天を仰ぎながら笑っていた。
それを見ていたランディは、嘴を噛みしめると『ぎりっ』と、口腔内で嘴が欠ける感触を覚えた。
しかしそんなこと関係なく……、ランディはだんっと地団駄を踏んで、魔物に向かって怒鳴りつけた。
「うるさいぞグリーフォッ! お前も同じようなものだっ! あいつの気に障って、誰も来ないダンジョンの見張りをされているだろうがっ!」
「っがははははっ! 確かに、前まではそうだったな!」
魔物もといグリーフォはまた豪快に笑いながら言うと、「しかしだな」と言いながら、近くにいたクロズクメを見、そして緑守とダグディラットを見て、グリーフォはにっと、牙が生えた歯を見せつけながら笑い、彼はこう言った。
高らかにこう言ったのだ。ぼわりと、髪の毛の炎が勢いを増して燃えたのは、気のせいではなかった。
グリーフォは言った。
「今日――あのお方からの特例をいただいた」
それを聞いた緑守とクロズクメ、そしてランディは目を見開いて驚きを隠せずにいた。ダグディラットは、はぁっと溜息を吐いて薬品の整理をしていた。
「特例……、なんでお前のような奴に……、特例が」
ランディはぶるぶる震えるように、口を震わせて言うと、それを聞いていたグリーフォは、ふんっと腰に手を当てて、鼻息をふかしながら自慢げにこう言う。
「まぁ実力だろうな。俺はあのお方の偉大なる思考に応えることができた――異例の魔物の死霊族だ。人間の自我がある。そして魔物の力を有している俺は、瘴輝石の力も使える。更に言うと、俺はあの炎系最強と言われている火魔祖の化身『フレイムヒューム』なのだぞ? そんじょそこらの鳥人族と一緒にされては困る」
「お前……、オスなのかメスなのかわからない魔物の分際でぇぇぇ……っ!」
グリーフォの言葉に、ランディは苛立った音色を放ちながら、負の感情も吐き出す。
それを聞いていたクロズクメは内心こう思っていた。
――ただ人語を話せる鳥と魔物が……、ぎゃんぎゃんわんわんっと騒いでいるだけ――……。
そう言われてしまうと、そう見えてしまうかもしれない。
クロズクメはそう思いながら見て、ふとした疑問をグリーフォに聞いてみた。
「ところで――、特例とはなんだ――?」
そう聞くと、グリーフォはランディから目を離して、クロズクメを見ながら自慢げに腕を組んで、ふんっと鼻息を荒くしてこう言った。
「いいか? 心して聞けよっ!」
「――……、あぁ――……」
――なぜだろうか……、魔物なのに、自我があるだけでとても人間味を増しているような気がする……。
そうクロズクメは思った。
そんな彼の思考を遮るように、グリーフォはこう言った。
「砂の国の国境に、厄介な力を有している魔女がいると言っていた! そいつを排除しろとの命令だ!」
どうだ? うらやましいだろう?
そう言うグリーフォ。それを聞いていたクロズクメは「砂の国の国境――?」と言いながら、考える仕草をして、そしてランディを見た後、彼ははっと思い出すように声を呑み、そしてグリーフォに言った。
「その国境の村に――、ランディも行きたいと言っていた――。一緒に行けばいいんじゃないか?」
「なに?」
そのクロズクメの言葉に、グリーフォはピクリと眉を顰め、そしてクロズクメをじろりと睨みながら、低い音色で言った。
「なぜ俺がこんな役立たずと一緒に? これは、俺にしか与えられていない特例のはずだが……?」
その言葉に、クロズクメはうーんっと腕を組みながら考える仕草をすると、それを見ていた緑守がはっとして、そのグリーフォの前に立って、彼はこう言った。
「き、きっと……、前のような失敗を繰り返してはいけないと思って、言ったんじゃないのか?」
互いが互いの顔を見合わせる。
緑守はぐっと唇を噛みしめながら待っていると、グリーフォは緑守を見下ろして――一言。
「おまえ……、誰だ?」と、真顔でそう言った。
それを聞いた緑守は「あ」と呆けた声を出しながら内心しまったと思ってしまった。
それを聞いていたダグディラットは、薬品を見ながらグリーフォ達を見ないでこう言う。
「そ奴は死霊族に入りたいと言っていた流浪の死霊族だ。なんでもあの小僧のやり方に惚れたとか言っていたかのぉ。まぁ力はあまりないが、索敵に長けておる。ゆえに動向を探ったりと言う仕事をしておるんじゃよ。名はリョクシュじゃ。お前さんが四六時中誰も来ない門番をしておったから、知らんのも無理はない。それに、索敵だけがこいつのとりえではないのかもしれんからのぉ……、三人で言ってくればいいじゃろ。初めての任務で三人。その件に関しては、儂から言っておこう」
「…………そうです。よろしくお願いします。グリーフォさん」
そう言った緑守。
それを聞いたグリーフォはすっと目を細めて、そしてダグディラットの方を振り向きながら、彼はとあることを聞いた。
「ところで――三人とはいったいどういうことなんだ?」
その言葉を聞いて、緑守とランディはふっとダグディラットを見ると、ダグディラットは大きな冷蔵庫のような箱のドアを開けながら彼はこう言った。
「どういう経緯かは知らんが、あの小僧がお前のその任務を言い渡したのは、そこに向かっている儂らの心臓を浄化するものがいる。そのものの排除と、のちに厄介になると思われる魔女の排除をしろと言っておるのじゃろうな。なにせ、ランディの両腕を壊した奴がいる。グリーフォ。貴様では厄介じゃろうな。ゆえに今回は一人で行くことはさせん。三人で向かえ」
行きたかったのじゃろう? と、ダグディラットは言う。
それを聞いた緑守は、ダグディラットに顔を向けながらこくこくと頷き――「あ、はいっ!」と言うと、グリーフォはその言葉に対してこう反論した。
「俺はそんなものいらんぞ! 俺は『
「お前――、自分がなんで門番なんて言う意味のない仕事をさせられたかわかるか――? その力で町一つを消し飛ばすことはできても――、調子こいて仲間を何人か殺しただろう――? それが原因で門番をさせられていたんだぞ――?」
「弱いやつが悪いだろうがっ!」
「……すまないなリョクシュ――。こいつのストッパーを頼みたい――」
そのクロズクメの呆れた言葉を聞いて、緑守は頷いて「喜んで」と言った。内心(好都合にしてラッキー)だと思っていたので、喜んで受けるのは当たり前だった。
グリーフォはむっとしながら腕を組んで、めらめらと髪の毛を燃やしていた。
ランディはずかずかとダグディラットに近付きながら――
「三人って、僕もってことかい?」と聞くと、ダグディラットはとある白い布に包まれた大きなものを手術台の乗せながら、「そうじゃな」と言った。ランディはその大きなものを見て――目を疑うような表情をしてから、彼はダグディラットに向かってこう聞いた……。
「これは……?」
「これか? これはお前さんの新しい両腕だ」
と言って、ダグディラットは近くに置いてあった医療用のメスと針を手に取りながら、緑守とグリーフォに向かって――
「少しばかり時間を要する。今からこやつの両腕を接合するから出ていけ」と言った。
それを聞いた緑守は頭を下げながらその言葉に従い、その場を後にする。
クロズクメもその場を後にして、今なお納得がいかないような顔をしているグリーフォを掴んで引き摺りながらその場を後にすると……、ダグディラットはその布を取り払いながら彼はランディを見て言った。
手術台に乗せた――鳥の翼ではないそれを見せつけながら……。
「お前さんは腕を直せと言っておったな?」
「だ、だからって……これは……」
「なんじゃ? お前さんの意志にそぐわないとでも言いたいのか? なんならこの話は二人だけに」
「あ、まて……、待ってくれ……っ!」
と、ランディはすがるような音色を出して、彼はダグディラットを見ながらこう言った。決意を固めたような目を向けて、彼はこう言った……。
「わかった、やるよ。あの犬に復讐ができるならば……、僕はなんだってするさ。飛べればいいんだからね……」
彼は手術台に乗っているそれを見て、はっと鼻で笑いながら言った。
それを見て、ダグディラットは瘴輝石を手に持ち、ランディに歩み寄りながら彼はランディを見てこう言った。
初登場してからダグディラットは淡々と、まるでロボットのような無表情で、ランディにその石を向けて念を押すようにしてこう言った。
「そうか。手術後に使い方を教えてやるから――今はゆっくり休め。『マナ・エンチャント――『麻痺付加』」と言った瞬間、ランディの視界が感覚が痺れる様に
そして緑守はぐっと握り拳を作りながら――ほくそ笑みながらこう思っていた。こう、心を高鳴らせていた。
(これで――ザッド様や皆様のお役に立てるっ!)
そして……、そのようなことが起こっている最中――ハンナ達は……。
□ □
「すまなかったな。迷惑をかけた」
復興作業の材木が一通り揃った後、シャズラーンダさんは私達に向かって言った。私はあまり手伝ってない……、というか手伝えなかったけど (なぜかアキにぃに止められてしまった)。
そんなこともあったけど、辺りに積まれている材木を見たシャズラーンダさんは、私達を呼んで、最初の言葉を投げかけたのだ。
それを聞いていたシェーラちゃんは肩を竦めながら「筋トレになったと思うけど……、結構重労働だったわね」と言って、それを見ていたキョウヤさんはにっとニヒルに笑いながら――「もしかしたら筋骨隆々になっちまうかもな」と言うと、それを聞いていたシェーラちゃんは腕をぶんぶん回しながら、顔を赤くさせてキョウヤさんの尻尾に向けて殴りつけていた。
それを受けていたキョウヤさんは――尻尾が弱点なのかぎょっと驚きながら「あ、おいっ! やめなさいっ! ちょっとぎゃぁ!」と逃げるようにしてシェーラちゃんから逃げる。
それを顔を赤くさせながら追うシェーラちゃん。
その光景を見ながらアキにぃは溜息交じりに「ガキだな……」と言っていたけど……、私的には仲がいいなぁって和んだ。
すると――
「……俺は瀕死寸前……」
なぜだろうか、頭のコブがひどいことになって痩せこけているブラドさんを見ながら、私はびくっとしてヘルナイトさんの背後に隠れる。
それを見ていたヘルナイトさんは私の頭を撫でながら「大丈夫か?」と心配してくれたので、私は小さく「大丈夫です」と言った。
ロフィーゼさんがその光景を見て「あららぁ」と言いながら頬に手を添えて、顔を赤くさせながら「可愛いぃっ!」と言うと、ずんっと、私の前に来たザンバードさんは、私を見下ろしていた。
じっと、睨むように見て……。
私はそれを見て、ぎょっとしながらその光景を見ていると……。
ザンバードさんはすっと私に手を伸ばした。そして、掌を見せて、黙ってしまった。
それを見た私は首を傾げて見て、みんなもきょとんっとして見ていると、ザンバードさんはぬ。と唸りながら、私を見下ろして――
「何をしている……。アクアロイア王から貰ったものがあるだろう? それをよこせ」と言った。
それを聞いた私はぎょっと目を点にして、みんなも目を点にしてザンバードさんを見る。
アクアロイア王からもらったもの――それはきっと瘴輝石のことだろう。
でもザンバードさんは王からの要求を断るって言っていたのに……、それを思い返しながら固まっていると、ザンバードさんは私を見下ろしながらこう言った。
「――気が変わっただけだ」
「!」
「まぁ、兄者を助けてくれた恩もある。そして――あの『六芒星』の話を聞いて、確かに、国を変えるためには、動かないといけないことも大事だ。ここでただ守るだけではだめだということも、今回の襲撃でわかっただけだ。ギルド長になるという意見は賛成したわけではない。だが――」
話だけは聞こうと思った。
そう言ったザンバードさん。
それを聞いた私は、いそいそとウエストポーチから瘴輝石を取り出して、それをザンバードさんに手渡しながら「はい」と言って渡すと、ザンバードさんはその石を手に持って――私とみんなを見てこう言った。
「これから砂の国の魔女に会うんだろう? ならばこの先の国境付近の村に行け。そこに『浄化』の魔女がいるから、話をしろ。あいつのことだ。きっとすぐに承諾する」
それを聞いたみんなは、わっと互いの顔を見合わせながら喜びの表情を浮かべた。でもジルバさんとセイントさんだけは浮かない顔をしていた。
その顔を見ていなかった私は、ヘルナイトさんを見上げながら――
「――これで、一人目ですね」
控えめに微笑むと、ヘルナイトさんは頭を撫でながら「そうだな」と言う。
そんな話をしていると――ざっと言う音が聞こえた。
私はその向こうを見てみると――驚いて目を見開いてしまった。みんなも驚いていた。
簡単な話――シャズラーンダさんを筆頭に、ザンバードさんや集落の蜥蜴人、そして『六芒星』だった部下達が頭を下げながら膝をついていたのだ。
そして私達に向かって、シャズラーンダさんはこう言った。
「我ら蜥蜴の一族を救ってくれた。そして村を救ってくださった。『六芒星』であった者達もこうして、あなた様方のおかげで新たな一歩を踏み出しました。心より――感謝します」
そう言って、まるで忠誠を誓うかのように言ったシャズラーンダさん。
それを聞いた私はわたわたしながら「あ、頭を上げてください……っ!」と言うと――
いつの間にか戻って来ていたシェーラちゃんとキョウヤさん。キョウヤさんはぜーっ。ぜーっと息を吐きながらシャズラーンダさんに向かって普段通りのそれで話しかけてきた。
「そ、それはいいんだけどさ……、その国境の村って、ここからどのくらいなんだ……?」
それを聞いて、シャズラーンダさんは顔を上げてから――「そうだな……」と言って――
「歩いてすぐだろうな」
と、はっきりと言った。
それを聞いて私とキョウヤさん、シェーラちゃんは『んっ?』と首を傾げながら、何だろうか……デジャヴを感じた。
その言葉――前に何回か……。
そう思いながら私達は蜥蜴人の集落を後にして、その国境付近の村に向かい……少ししてから……。
「――っ全然もうすぐじゃねーっっ!!」
木々に止まっていた烏が跳び上がって飛んで逃げるような声が――ブラドさんの絶叫が森に反響した。
その時思い出したけど、あれ……、クルク君が前に何回もシェーラちゃんに言っていたセリフとだということに気付いたのは……、集落を離れて三十分経った後のことだった……。
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