PLAY36 国境の村の魔女 ④

「お、お前が魔女……?」


 キョウヤさんは素っ頓狂な声を上げながらヨミちゃんのことを見て言うと、ヨミちゃんは首を傾げながらきょろきょろと辺りを見回している。


 まるで何かを探しているような、そんな見回し方で。


 そんな彼女のことを見ながらみゅんみゅんちゃんは溜息を吐きながら『とんとんっ』とヨミちゃんの肩を叩いて――


「あんたの前にいる。少し離れているけど……、私達と同じ冒険者だよ」と言った。


 それを聞いたヨミちゃんは目を閉じているにも関わらず、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべながら「そうなのっ!?」と言って、私達の方を向きながら駆け出そうとした時――


 ――ごん。


「あ」


 私はヨミちゃんの足元にあった少し大きめの石に蹴躓くところを見てしまい、すぐに手を伸ばしたけど……、時すでに遅し――


 ――べちゃ。


「あ」


 今度はみゅんみゅんちゃんが呆れながらそれを見て、ここに来て何度目かになる溜息を吐いた。


 顔を抑えながら痛がっているヨミちゃんの肩を掴みながら――みゅんみゅんちゃんは「ほら、私が誘導するから立って」と言って立ち上がらせた。


 それを見ていたアキにぃは、その光景を見ながら――


「もしかして……、あれが探せなかった理由じゃないかな?」


 私に向かって小さな声で言った。


 それを聞いた私ははっとして、後ろにいたセイントさんを見ると……、セイントさんは小さく「む」と言いながら、みゅんみゅんちゃんから目を逸らすようにしていた。


「?」


 どうしたんだろう……。セイントさんからはもしゃもしゃが感じられないから、どんなことを思っているのかがわからない。


 このもしゃもしゃは常に見ているわけじゃないので、見たいと思うと、余計に見えなくなってしまう。


 だからセイントさんの感情を見ようとすればするほど見えなくなってしまうのだ。


 ……現実ではそんなことありえないんだけど……。うーん。


 そう思っていると……、アキにぃの話を聞いていたキョウヤさんはうーんっと唸りながら「そうだと思うんだけど……」と言いながら、村の周りを見回すキョウヤさん。


 それを見ていたシェーラちゃんは首を傾げながら「どうしたのよ」と聞くと、キョウヤさんはその光景を見ながら――疑問の口を開いた。


「この村の人達って、老人だらけだなーって思って」

「……? それがどういう……」


 シェーラちゃんが聞こうとした時、みゅんみゅんちゃんは私達に向かって「おーい。少し手伝ってー」と言いながら、ヨミちゃんの手を繋いでどこかへ行こうとしているみゅんみゅんちゃんを見た私は、はっとして「あ、みゅんみゅんちゃん?」と大声を張り上げた。


 するとみゅんみゅんちゃんは私達の方を振り向いてから――


「こっちに来て。その毛。収めるから」

「…………収める?」


 私はその言葉に首を傾げながら聞いていると、その言葉を聞いていたヘルナイトさんが私に歩み寄りながら、私の顔を覗き込むようにして見下ろすと――凛とした音色でこう言った。


「――行ってみればわかる。きっとハンナもみんなも、この村のことを知ればもっと驚くと思う」


 その言葉を聞いて、私は――





           ――ザザザッ!





「っ!」


 なんだろう……。今……。



 ――ザザザザザッ!



「うぅ……」

「ハンナ?」


 ヘルナイトさんが呼んでいる……、でも私……、今……。



 ――ザザザザザザザザッ!



 頭から、ノイズがひどくて……っ! テレビの、砂嵐の音が、ひどくて……っ! 頭を抱えても、痛いのが、止まらない……っ!


 こ、こんな……。



 ――ザザザザザザザザザザッ!



 こんなこと……、今まで、一度も……、なかった……っ!


 いたい……、いたいよぉ……っ!


 助けて、痛いよ……。


 みんなの、声が、き、聞こえる……のに、早く……、みんなのところに……、行かないと、行けないのに……っ!


 みゅんみゅんちゃん……っ! 呼んでいたのに……。



 ――ザザザザザザザザザザザザッ!



 ――ザアアアアアアアアアアアッッ。




 ――きっと、君も外の世界を知れば……もっと驚くと思うよ――




 ………………っ!


 だ、れ……の、こ、え……? どこ、か……で、き、い……た。




「華ちゃん――何しているの?」






 □     □



 …………ふと、私は目を開けた。


 周りは黒一色の世界。その世界を見ながら、私は思い出す。


 一体何があったのだろうと……、確かあの時、ヘルナイトさんの言葉を聞いて、そうだ。激痛が走って、それからノイズのような、砂嵐がうるさく響いて……。


 それから……、私はどうしたんだろう……。


 私の、私の体だけがはっきりと見えるその真っ暗な、黒一色の世界。その世界では地面の感覚がない。まるで浮いているみたいな……。そんな感覚。


 飛んでいる。


 そう思った時だった。



 ――ガチャンッ!



「っ!」


 びくりと、体が震えた。


 私は大きな音がした方向を見る。すると――暗い世界にポツンッ……。と、長方形の――テレビのような液晶画面が出ていた。しかも砂嵐が出ている。


 今の時代ではありえないそれだった。


 それを見た私は、その画面をじっと見つめた。


 なぜだかわからないけど……、見なければいけない。そう感じたから……。


 私はその画面に食い入るように見つける。すると――画面の砂嵐が突然消えて……、画面がぱっと光りだして、映る。その画面に映ったのは――


 にっこりと笑みを浮かべて、手には壊れたマグカップを持っている、私と顔が似ている女性だった。


 女性は白い液体をぽたぽたとこぼしているマグカップを持ったまま、にっこりとほほ笑んで、ずいっと近付きながら……、画面の外にいる私に向かってなのかな……? 目の前にいる誰かに向かってこう言った。


 にっこりしているのに……、なぜか冷たい音色と明るい笑みが混ざっている……、そんな不釣り合いな声を出しながら――女性は言った。


『何度言ったらわかるの……? ミルクを飲む時はお上品に飲まないといけないのよ』

『ふえ……』

「!」


 画面から聞こえた幼い女の子の声。


 それを聞いて、私は釘付けになるようにその画面を見る。でも誰もいない。


 女の子が言った瞬間、画面が揺れた。


 それが指すことは……、これは……、を私が見て……。


 誰の、記憶なんだろう……。


 そう思っていると……。女の人は女の子に向けて、ぐっと手を振り上げたと思った瞬間、黒く、まるで口裂け女のような笑みを浮かべて、その下で震えている幼い女の子に向けて……、こう囁くように言った。


『私が知っている『華ちゃん』は、もっとお上品なのよ? お母さんの言うことを聞きなさい』


 それを聞いた瞬間、掌を――その子に……、え? 今この人――私の、名前を……。


 思い出した。


 そうだ。この人は――私の……。




 お母さんだ。






 □     □



「………………ナ」

「……ン、ナ」

「――ハンナッ?」


 !


 声がしたと同時に、私ははっと意識を取り戻す。


 視界が鮮明になったところで……、目だけで辺りを見回す。


 私は今どこかで寝かされているみたいだけど……、最初に見えたのは天井。木で作られた天井だった。


 それを見て私は周りを見ると――


 私の顔を覗くように見ていたシェーラちゃん、ロフィーゼさん、そしてみゅんみゅんちゃんとヘルナイトさん。


 女三人と男一人と言う……、はたから見れば何といえばいいのかわからないような風景が見えた。


 それを見て、私はゆっくりと起き上がりながら――すこしはっきりしない音色で「ど、どうして……? ここは……?」と聞くと――


「あんた――何も覚えていないのね」と、シェーラちゃんは少しツンッとした表情で私の顔を見て、そっと背中を支えながらこう言った。


「あんたはこの村についてからすぐ、頭を抱えて倒れたのよ。それも……丸一日。ずっとうなされていた」

「…………倒れた」


 あぁ、そういうことだったんだ。だから途中から意識がもうろうとして……、そう思っているとシェーラちゃんはヘルナイトさんを見て、そしてため息交じりにこう言ったのだ。


「その時、ヘルナイトは凄く慌てていたわ。私も心配だったけど……、それ以上に、ヘルナイトはあんたのことを気にかけて、寝るところをに連れて行く時も、あんたを抱えたまま一睡もしないで見守っていた」

「!」


 それを聞いて私はヘルナイトさんを見る。


 ヘルナイトさんは安堵の息を吐きながら右手をそっと上げて私の頭に手を置くと、ゆるゆると撫でながら――


「――もう平気か?」と、安堵と心配の音色が混ざった言葉で聞かれた私は、「だ、大丈夫です」と言った。


 それを聞いたヘルナイトさんは小さく頷きながら、「そうか――だが、あまり無理はするな」と言って、またゆるゆると頭を撫でた。


 それを感じて私はふと思い出した。


 お母さんとの記憶の前に、とある言葉を思い出した。


 その言葉は私にかけてくれた言葉に聞こえるけど……、どことなくヘルナイトさんの声に似ている……。そう思った時――


「まぁ、結構うなされていたし……。怖くて握るのはわかるわ」


 みゅんみゅんちゃんはちらりと私の手があるところを見ていた。


 それを聞いて、私はふと、右手に違和感を感じてその右手を見て――ぎょっと目を疑った。


 私はヘルナイトさんの左手の薬指と小指を握っていたのだ。ぎゅっと――離さないように……。


 それを見た私ははっとして、すぐに手を離してから――


「ご、ごめんなさい……。なんでかはわかんないんですけど……、言い訳がましくなっちゃうんですけど……、えっと」


 と言いながら、私はわたわたと慌てながら言葉を紡ごうとした時……、ロフィーゼさんはその光景を見ながら、ふふっと頬に手を添えながら和むような笑みで私達を見た。そして――


「仲睦まじいわねぇ」

「っ!?」


 私はそれを聞いて、ぽふんっと頭から何かが出てきた。


 でもそれは空気と結合する様に消えていくけど、私はロフィーゼさんを見てあわわっと言いながら悶えていると……。


「ずっと握ってぇ、怖い夢を見ている女の子の傍を離れないぃ。心優しい聖騎士様とぉ、小さな女の子ぉ」


 と言って、ロフィーゼさんはくすりと妖艶だけどとても優しい笑みを浮かべながら、ほんの少し羨ましいという感情を少し出しながらこう言った。


「――本当に、妬けちゃうくらいの雰囲気だったわよ? ハンナちゃんを守るように、ずっと傍にいて……」


 それを聞いた私はヘルナイトさんを見上げる。するとヘルナイトさんは私の手をしっかりと握り直してから、凛とした音色でこう言った。


「当然だ。誓ったんだ。彼女を一人にさせないと。誓ったからな」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いて、なんだか心臓がむずがゆくなるのを感じた。みゅんみゅんちゃんがヘルナイトさんの言葉を聞いて驚いた眼をしていたことには気付かず、私はそれを聞いて『きゅっと』握っていない手で胸の辺りを握りしめた。


 それを見て聞いたロフィーゼさんは、くすっと微笑んで……。


「そう……、すごい意志ねぇ」と、ニコリと微笑みながら言った。


 すると……、シェーラちゃんと私の手を握ってきたロフィーゼさんは、すっと私達の間にしゃがんで、ヘルナイトさんを見ながらこう言った。


「でもぉ、ハンナちゃん起きたからぁ、この村のことを教えたいんだけどぉ、いいかしらぁ?」

「?」


 私はそれを聞いて首を傾げたけど、シェーラちゃんは私とヘルナイトさん、そしてみゅんみゅんちゃんの顔を見合わせて、ふんっと鼻で笑いながらこう言った。


「そうね。私達は昨日知ったことだけど、ハンナはまだ知らないんだったわ。私達が案内をするから、あんた達は話したいことがあるんでしょ? ゆっくり話しなさいな」

「? ??」


 それを聞いた私は、首を傾げながらシェーラちゃんを見ると、シェーラちゃんは私を見て「立てる?」と聞く。それを聞いた私は、「うん」と頷くと――


「わたし達女達で話したいことがあるしぃ、みゅんちゃん、あなたとお話したいことがあるみたいだからぁ……、二人っきりにさせるわぁ」


 今度はわたし達が独り占めする番。と、ロフィーゼさんは言うと、シェーラちゃんもうんうん頷きながら、みゅんみゅんちゃんを見て――


「ハンナのことを心配する気持ちはわかるわ。でも今はヘルナイトにはっきりさせたいことがあるんでしょう? その話が終わったら、すぐ後を追えばいいわ」と言った。


 そして二人は、私の手を掴んで、私を立ち上がらせる。乱暴ではなく、ゆっくりと立たせるように、それを受けて、そしてヘルナイトさんをちらりと一瞥すると……、ヘルナイトさんは私を見て――


「……大丈夫か?」と、少し不安な音色……、でもそれは、私のことを心配しての音色で聞いてきたので、私は頷きながら、控えめに微笑んでこう言った。


「二人がいます。それに優れなかったら、すぐに言いますから――大丈夫です」

「…………そうか」


 ヘルナイトさんは安心したかのように頷く。


 それを見て、ロフィーゼさんは私の手を引きながら「それではれっつらごー」と言って、先頭を歩きながらドアを開ける。私がその後ろを見るように付いて行き、シェーらちゃんが私の背後を歩くと、シェーラちゃんは家のドアをバタンっと閉めた。


 みゅんみゅんちゃんがヘルナイトさんに言いたいこと……。いったい何なんだろう……。


 そんなことを思いながら、私はロフィーゼさんとシェーラちゃんの案内の元、昨日できなかった国境の村の簡単な観光を楽しむことにした。



 ◆     ◆



 その頃……、みゅんみゅんとヘルナイトはお互い顔を見合わせたまま座り、そして最初に口を開いたのは――みゅんみゅんだった。


「約束……、覚えてくれたんだね」

「ああ」


 みゅんみゅんは思い出す。それは腐敗樹前のギルドで話したことだ。あの時は半ば強引なものであったが、ヘルナイトはそのことを覚え、そして己の誓いと共に、ハンナを守っていた。


 それを聞いたみゅんみゅんは――


「――なんだろうな……。そう言った絶大な強さ……、なんだか憧れを通り越して、自分が情けなく思った」

「……?」


 みゅんみゅんの言葉に、ヘルナイトは首を傾げる。それを見たみゅんみゅんは言った。真剣であるが、どことなく不安な恐怖、そして思い出される痛みのせいで、彼女はぐっと……、大きく傷跡として残っている方と脇をさすりながら……、彼女は俯きながら言う。


「こんな風に傷をつけられ、あろうことか心がズタボロになるような仕打ちを受けた。最初こそ……、諦めかけた。死んだら楽になるのかなって思うようなことが、私に襲い掛かってきた……」

「……、まさか、腐敗樹で……」

「うん……、ロンが、私の目の前で、殺された」


 その言葉を聞いてヘルナイトははっと息を呑みながら聞くと、みゅんみゅんは小さく、そして悲しそうに言葉を返した。


 それを聞いてヘルナイトはぐっと顎を引き、頭を少したらしながら――謝罪の言葉をかける。それを聞いたみゅんみゅんは首を横に振って――


「あんた達はあんた達で、大変だったんでしょ? わかるよ……。ハンナ、あの子……、腐敗樹で再会した時、ほんの少し感情が豊かになっていた。そして今回再会した時、それが大きくなっていた」


 色々あったんでしょ? 聞かないけどね……。


 と、みゅんみゅんは言う。


 そして――


「だから責めない。それに、私は心身共に負けただけ。だけなんだけど……、その心の修復ができなかった。川に落ちて、師匠に助けられて、いなくなってから私は、戦いに参加しなかった。あの時の記憶が甦って、武器ですら持てなかった。それくらい怖かった」


 そう話すみゅんみゅんの手が震えている。ヘルナイトはその震えを見て、彼女に近くに駆け寄り――みゅんみゅんの肩に触れようと、安心させようと思った時――



「――触らないで」



「っ!?」


 突然の拒絶。きつい言葉で返された防御。


 それを聞いたヘルナイトは、手を空中で彷徨わせる。みゅんみゅんは顔を伏せながら「ごめん」と言って――


「でもさ……。そう言うのはハンナにだけにした方がいいと思う。っていうかハンナ限定にして」

「? そう、なのか……?」

「そうなのっ」


 みゅんみゅんはそう言いながら、がばりと顔を上げて、ヘルナイトの顔を見て、その顔に指を突き付けながらこう言った。



「ハンナは、華は誰に対しても優しい反面、その苦しみを請け負っちゃう性格なの。誰かが苦しい。なら助けないと。そう言った行動原理で動いている。だから危ないの。心も体も……、傷つけてしまうかもしれない。だから――そのハンナの心の支えが必要なの。一人にさせないなら――死ぬ気で守って、ハンナを一人ぼっちにさせないでっ」



 まるで、マシンガンのような言葉。


 みゅんみゅん自身、ハンナのことが心配で言って、そして、今の現状でそのハンナを守ることができるのは――ヘルナイトしかいないと思って、彼女はヘルナイトに言った。


 守れ、命を懸けて。


 その願いを込めて――


 それを聞いて、受けたヘルナイトだったが……凛とした音色で「ああ」と頷き……。


「当り前だ。確かに、みゅんみゅんの言葉もあった。しかし今は私の意志でもある」


 と言いながら、彼は思い出す。聖霊の緒で起こったハンナの震え。そして……。


 ひとりにしないで。


 この言葉を思い出し、彼はくっと顎を引いた後――みゅんみゅんの顔を見て、凛とした音色でこう言った。



「一人にさせない。そして――ハンナが愛する者達を守り、ハンナを守る。今は……、これが新しい使命だ」



 それを聞いて、みゅんみゅんはうんっと頷きながら、納得したかのように――


「ならよし。ちゃんと――守ってよ」

「言われずともだ」


 その返事を聞いたみゅんみゅんは一旦口を閉じて、そして――意を決したかのように……、こう言った。


「ハンナを守るんだったら……、ヴェルゴラには気を付けて。あいつは……、殺人鬼で、私を殺そうとして、ロンを殺した……。あいつと出会ったら――ハンナを優先にして守って」


 あいつはやばい。


 それを聞いたヘルナイトは――ヴェルゴラのことを思い出し、すぐにハンナのことを思い出して……、彼はこくりと頷き言った。


「――言われずともだ」



 ◆     ◆



 その頃、村を一望できる崖にいる三つの影。


 そのうちに一人がこう言った。


「あれが国境の村……、あそこに『浄化』の魔女が……」

「どうでもいいよ……、早く行こうよ……っ! 僕もこの新しくなった手を使いたいんだ……っ!」


 ばさり、はざりと羽ばたく男の声を聞き、めらめらと燃える髪を靡かせていた魔物は――人の言葉でこう言った。喋った。


「そうだな、俺もこの力を久し振りに披露するのが……、楽しみだ」


 そう言いながら魔物は黒い瞳孔をぎらりと輝かせていた。獲物を狩る狩人のように、魔物はうずうずとしていた。それを見ていた白銀の髪の男は――静かに「待て」と言って――


「まだ行かない方がいい」


 その言葉に他の二人が怪訝そうに顔を歪ませると、白銀の男は冷静にこう言った。


「もしかしたら、『浄化』魔女が不在の可能性が高い。私が様子を見る。それまで待機していろ」


 彼はダッとその村に向かって、忍者のように駆け出した。

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