PLAY36 国境の村の魔女 ⑤

「おおおお……」


 私は今ロフィーゼさんとシェーラちゃんと一緒に国境の村の観光をしていた。


 周りを見てみると、煉瓦で作られた小屋で、熱で真っ赤になるまで温められ、触った瞬間大火傷をしそうな鉄をトンカチで打ち付ける。


 まるで鍛冶師がするようなこと――鉄を打ち付ける専用のトンカチと、鉄を掴む専用の器具を持って汗を流しながら打ち付けようとしている老人や、太い梁を手に持った状態で固い布と金属製の物を縫い合わせて鎧を作っている人など……様々なおじいさんやおばあさんがいた。


 それを見ながら私は「おー……」や、「おー?」と言いながら周りをきょろきょろと見回すと……、ロフィーゼさんはくすっと微笑みながら……。


「すごいでしょぉ? ここの人達、全員が超一流なんだってぇ」

「……超、一流?」


 私の呆けた言葉を聞いたロフィーゼさんは、その言葉に対して「ええ」と頷いて――



「この村ねぇ……、実は魔物の素材を使って防具や武器を作ったりしている。武器製造職人が集う村なんだってぇ」と言った。



「武器……、製造……」


 それを聞いた私ははっとしてさっき……、じゃない。昨日みゅんみゅんちゃんが刈り取ったあの毛のことを思い出して、まさかと思いながら私はシェーラちゃんを見る。


 シェーラちゃんは肩を竦めながら「思っていることが間違っていなければ……」と言って、シェーラちゃんは腰に手を当てながら私に向けてこう聞いて来た。


「あんた……、一年前に発売されたVRゲーム『BATTLE・QUARTET』知ってる……?」


 私はその言葉を聞いて、一旦考えてみた。


 思い出してみたけど……、思い出せなかったので首を傾げた。


 ここにメグちゃんがいれば……、きっと即答で答えると思うのだけど、生憎私はゲームはあまりやらない方だ。


 ゆえにそう言った知識は疎い。


 それを聞いたシェーラちゃんは、はぁっと溜息を吐いて……、やっぱり……。と言う雰囲気を出しながら、彼女は説明を続けた。


 なんか……、ごめんなさい……。


「『BATTLE・QUARTET』は、大きなモンスターを狩って、素材を獲得した後で、自分の防具や武器をその素材を使って加工する。自分だけの武器を作ることができるオンラインゲームのことよ。それと同じで、ここにいる人たちは魔物の素材を生かした武器や防具を作ることに長けている。なおかつどの国からも依頼が来るから毎日大変だって、ヨミが言っていたわ。昨日私たちもヨミの案内の元、見て回っていたんだけど……、言葉通り、すごい職人さんだらけよ」


「そうだったんだ……」

「ハンナちゃんってぇ、このMCOをやっているのに、それ知らなかったのぉ?」


 その話を聞いていたロフィーゼさんが、私達に間に割り込みながら指を立てて、自慢げにこう説明した。


「他にもゾンビ討伐を体感できる『BLOOD・KILLER』とかぁ、あとは日本の刀の修行や動作を体験できる『ジャパニーズ講座』なんてものもあったわぁ」

「あぁ、外国ではそう言った日本のゲームが多すぎるものね。従来の携帯ゲームやアプリもあったけど、VRの普及で廃止になってしまったから」


 二人の間で、ゲームをしている人なら当たり前に知っているような言葉が飛び交う。


 私はそれを聞きながら、ぐるぐると目を回してしまう……。このままだと、しょーちゃんのように頭がパンクして湯気が出そうだ……。本当に頭がパンクしそう……っ! 


 そう思った私は、シェーラちゃんに向かって、少し慌てながら――


「あ。あの……っ! あの『じゃれ猫』の毛はどうなったの……っ?」と聞くと、シェーラちゃんはあっと思い出したかのように、「その毛はね」と言いながら、すっと私を指さした。


 私はそれを見て、はっとしながら自分を指さすと、シェーラちゃんは私の左の方をくいくいっ。と指さす。その動作はそこを避けてと言うものだろう。


 私はそのまま避けて、そして私の背後にあったその建物を見る。


 その家は絵の具で黒く塗られている家で、その家の近くには一際大きいレンガの小屋があった。その近くにいた人達を見て、私ははっとして――


「あ、キョウヤさんにシイナさんっ!」と、声を上げて走った。


 私の声を聞いてか、シイナさんは赤黒い耳をぴくつかせて振り向く。


 そして私を視認した時――シイナさんはキョウヤさんの肩を叩いて私がいる方向を指さすと、キョウヤさんも振り向いて――


「お! ハンナ!」


 と、驚きと安堵の表情を浮かべて声をあげた。


 私はキョウヤさんとシイナさんに駆け寄って、そして二人に対して頭を下げて――


「あの、ご迷惑をおかけしました……っ!」と謝った。


 それを聞いてキョウヤさんは、頭を下げた私の頭に手を置いて、わしゃわしゃと撫でながら明るい音色で――


「いいって、気にすんな。それにしても頭痛は大丈夫だったか?」

「い、いきなり倒れて驚いたよ……。頭、う、打っていないよね……?」


 顔を上げて、キョウヤさんとシイナさんの顔を見ると、怒っていないけど、心配をかけてしまったようだ。


 シイナさんがすごく心配そうな顔をして、私の顔を見ている。


 私は何とか元気だということを示そうと、ぐっと握り拳を自分の前に持ってって――気合を入れるような顔をしてから「だ、大丈夫です……っ!」と言うと、キョウヤさんはきょろきょろと辺りを見回していた。誰かを探しているような、そんな顔で――


「?」


 私はそれを見てどうしたんだろうと思いながら、後から付いて来たシェーラちゃん達を見てこう聞く。


「どうしたんだろう……、キョウヤさん」


 それを聞いたシェーラちゃんは、一回首を傾げたけど、すぐにはっと、何かを思い出したかのように私を見て、そしてキョウヤさんを見上げて――


「キョウヤ、まだあいつは起きていないわ」と言った。


「あー……、そうか……」


 と、キョウヤさんは頭を掻きながら、やれやれと言わんばかりの顔をして呆れていた。


 シイナさんもそれを聞いて、後から来たロフィーゼさんに対して、おどおどとしながらもこう聞いた。


「ま、まだなんですね……」

「そうなのよぉ……、衝撃が強すぎたのねぇ」

「?」


 その話を聞きながら、私は首を傾げていると……。どこにいたのかわからなかったけど、ブラドさんがキョウヤさんの後ろから出てきて「お、起きたんだな」と言いながら、頭を下げて迷惑をかけたことに対して謝っている私に近づいて (ここまで近付けることができたことに、私は少し嬉しく思ったことは言わないでおこう) 、ブラドさんは私にこう耳打ちしてきた。


「実はな……、昨日の夜からアキ……、起きてねえんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は驚きのあまりにブラドさんに詰め寄りながら「あ、アキにぃが……っ!? でもみゅんみゅんちゃん達は何も……っ!」と聞くと、ブラドさんは『しゅんっ!』と空を切るような音を出して、キョウヤさんの背後に隠れながら「ちょっと! 不意打ちはだめだって! NG!」と、慌てて青ざめながら言った。


 それを聞いていた私は、申し訳なく思い、小さく謝った……。


 まだまだだったんですね……。あらら。


 ブラドさんのことを見て、呆れていたキョウヤさんは、私の疑問に関してこう言葉を返した。


「まぁ、アキは大丈夫だ。昨日の夜まで大丈夫だったけどよ……。ちょっと問題があって」

「問題……? 敵襲ですか?」


 私はその言葉を聞いて、今まであったことを思い返しながら、まさかと思い、その最悪のケースを聞くと、シェーラちゃんはむすっとした表情と音色で――


「違うわ」と言って、私のことを見ながら腕を組んで――本当にむすっと唇を尖らせながら、うねうねと黒いオーラを出しながらこう言った。


「あいつ、ハンナが倒れた後、ヘルナイトのように珍しい焦りじゃなくて……、とことんうざいという言葉が出そうな言動と八つ当たりがひどくて……」

「あろうことかハンナちゃんが寝ているところに入ろうとしたから――ねぇ」

「ロフィさん……、え、笑みが黒いです……」

「いや、二人が怒る理由っていうか、キクリでさえもあんなに怒っていたんだぜ……? 男の俺たちが横入りすれば、即死、確定だったな……。うん。殴りと蹴りと叩きによって……」

「ブラド、お前顔が死んでいるぞ」


 シェーラちゃんとロフィーゼさんが、なぜか黒い笑みを浮かべた状態でほくそ笑んでいると、それを見ていたシイナさんは驚きの目で二人を見ていたけど、そんなシイナさんの肩を叩きながら、なぜだろうか……、死んだ目をした状態で明後日の方向を見ながらブラドさんは言うと、それを見ていたキョウヤさんが腕を組みながら、冷や汗をかいて突っ込みを入れる。


 それを聞いていた私は、結局どうなったのかということをキョウヤさんに聞くと――



「あぁ……、あいつお前が寝込んでいる部屋に入り込もうとしたから、オレとシェーラの正拳で」



「あ……、ガーディさんのように……?」

「そうそう……。さすがにアキは気絶しちまった……」


 悪いことをしちまったな。


 そうキョウヤさんは頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。


 ……でも、ガーディさんのように殴ったら……、さすがにけが程度では済まされないような……。そう思っていると。


 ――しゅっ。しゅるん。


「?」


 突然、小屋の中から音が聞こえたので、その音がした小屋の中を覗くように、体を少し曲げて、キョウヤさん越しに見てみると……。


 白髪の髪を一纏めにした小柄なおばあさんが、丁寧に黒くてふわふわしたドレスを針と糸を使って、黒い毛を編み込むように丁寧に作業をしていた。


 その毛は昨日私達は持ってきたあの『じゃれ猫』の毛で、よくよく見たら小屋の壁にはいろんなドレスや鎖帷子、あとは普通の服や可愛らしい服がずらりと並んで立てかけられていた。


 いうなれば洋服屋さんみたいな風景だ。


 それを見て、私は――


「すごい……、可愛い。あ」


 と、私はとある服を見て声を上げる。私の視線の先にあった白くてかわいい服。それは私が着ていて、そしてガーディさんからもらった……。


「天使の羽衣だ」


「? あ、本当だ」と、キョウヤさんもそれを見て驚くと……。


「なんだい? 作業の邪魔だよっ!」


 作業をしていた一人の老婆さんが私達を睨みつけながら声を荒げて怒鳴った。それを聞いたキョウヤさんはぎょっと驚きながら「やっべ……」と、小さく言って――


「すいませんレディリムおばさん……」と、頭を垂らして謝ったキョウヤさん。


 それを聞いて、老婆――レディリムおばさんはふんっと鼻息を吹かせて「まったく」と言いながら、作業を一旦やめて、とてとてと、小さい足で歩み寄りながら、ぷんぷんっと怒りを露にしながら――


「まったく! 最近の若いもんはなんでこうも騒がしいんだろうねぇ! おかげで仕事がはかどらんよっ! 少しは静かに行動しなっ!」

「……ええ」


 っ!?


 シェーラちゃんが素直に頷いている……っ!? しかも申し訳なさそうにしている……っ!


 今私は、シェーラちゃんに対してひどいことを言ってしまったけど、そのくらいシェーラちゃんの行動と言葉に驚いてしまったのだ。


 いつものシェーラちゃんなら、一言多く言うことがあるから、そのことに対してキョウヤさんは何回か突っ込んだことがあった。しかもその言葉がすごいくらい棘があるようなもので……。


 でもシェーラちゃんは、レディリムおばさんの発言を聞いて、反論しないで頷いた……。


 きっと、怒らせると怖い人なのかな……。そう思っていると――


「? あぁ、あんたかい? 入ってすぐぶっ倒れた小娘は」

「あ、えっと……、すみません」

「何謝っているんだいっ、倒れるって言うことはちゃんと栄養管理していない証拠だよっ! 野菜やあんたは特に肉! お肉を食べなっ!」

「あ、えっと……」


 なんだろう……。


 おばあちゃんとは違ったぐいぐい来るレディリムおばさん。その気迫に圧倒されて、手を上げながらどうしようかとみんなの方を振り向くけど……。


 それを聞いていたロフィーゼさんがくすくすと笑いながら――


「ここにいる人達、殆どがおじいちゃんやおばあちゃんなんだけどぉ……、みんなすごく元気なのぉ。わたし達以上に元気かもぉ」と、わたわたしている私を見て言った。


 それを聞いて、私は思い出す。


 そう言えばこの村にはおじいちゃんとおばあちゃんしかいないような気がする……。子供はヨミちゃんがいて、でも大人の姿がどこにも……。


 と思った時――突然それは来た。


 どしんっと私の背後に覆いかぶさってきたそれは、体重をかけて私にのしかかってきたのだ。


「ひゃぁ」


 私は声を上げてずてんっと、その重い何かと共に転んでしまった。


 キョウヤさん達はそれを見て「あ」と声を上げて、シェーラちゃんが私の上に覆い被さっているそれに向かって……。


「あんたね――ちょくちょく思うけど、そうやって背後からのしかかりしないで、びっくりすると重いのよ」


 と、ツンッとした音色で腰に手を当てながら言った。私の上に圧し掛かっているそれに向かって――


 すると……。


『っは! 申し訳ございませんっ』と、私の上から声が聞こえてきた。


 それは私から離れて、すとんっと座る音を立てた。


 ん? 座る音?


 そう思いながら、私は病み上がりの体に鞭を打ち付けるように、そっと手をついて起き上がり、音がした方向を見ると……、わっと声を上げてしまった。


 ……驚くのも無理はないだろう……。


 私の目の前にいたのは――狼だった。しかも毛並みが銀色で、毛先がなんだかつんつんしていて、触ったら切れそうな毛並みを持っている狼だった。大きさも普通の狼より二回り大きい……。そしてその前足には白いバングル……。


 銀色の狼はふわふわの尻尾を揺らしながら――


『すみませんでした。何せ動物の性なのでしょうが、つい珍しい人を見ると跳びつきたくなってしまいまして……、っは! 重ね重ね申し訳ありませんでした』


 と、まるで思念を飛ばして話しているように、その狼は私に頭を下げながら礼儀正しく自分の自己紹介をした。


『初めましてですね。わたくしはとあるところの執事をしておりました。『シュリングウルフ』のザンシューントです。みゅんみゅん様達のお世話役をしております』

「! みゅんみゅんちゃん……っ! ということは……」


 と言って、私は立ち上がって銀色の狼――ザンシューントさんを見て、しゃがみながら頭を撫でてこう聞いた。


「もしかして……、パーティメンバーさんですか? あ、私はハンナです。よろしくお願いします」

『畏まりました。ハンナ様のことはみゅんみゅん様から聞いていますが……、あまり頭を撫でないでください。こそばゆいです』

「とか何とか言いながら嬉しそうだな」


 ブラドさんは冷静に突っ込む。確かに、ザンシューントさんは紫の尻尾をフリフリと振って、嬉しそうにしている。それを見て私は、少し申し訳ないけどそのままの状態で撫でていると……、ふと、ここにいないセイントさんとジルバさん、そしてキクリさんのことを思い出して――私はシェーラちゃんに聞いた。


 シェーラちゃんに聞いた理由としては……、ジルバさんと最も仲がいいという安直な理由でなんだけど……、ジルバさん達のことを聞くと、シェーラちゃんは思い出したかのように「あぁ」と言って――


「ジルバは朝早くからセイントと一緒にどっかに行っちゃったわ。キクリは二人の動向を探っている。私達に何も告げずにどこかへ行っちゃったから……、今どこにいるのかがわからい状況なのよ。まぁ、ジルバのことだから、すぐに戻ってくると思うけどね」

「……そう、なんだ……」


 シェーラちゃんは言っていたけど、あまり心配していないような雰囲気と音色で言って、私は何でいなくなったのかということを聞くことができなかった。


 深く追求しても、多分答えは一緒だと思ったからである。


『あの……、こそばゆいです……っ、離していただけると幸いなのですが……』

「あぁ……、ごめんなさい。ついモフモフしてて……」


 すると、ザンシューントさんは私を見ながら、なんだかやめてほしいような音色で言ってきたので (案外いたくなかった、どころかもふもふしていた……っ)、私ははっとして手を離すと、それを見ていたシイナさんがザンシューントさんに近付きながら――


「なんだか、気持ちわかります……。昨日もしでしたけど……」

『そうですね。昨日のあれはちょっと……』


 昨日のあれとは……、一体何なんだろう……。そう思いながらキョウヤさんを見上げると――キョウヤさんは私の肩に手を置いてから、静かに、悟らせるような音色でこう言った。


「――まぁ、いろいろあったんだ」


 一体、私が寝ている間に何が……っ!


 と思った時……。突然私の目の前、ザンシューントさんの背後から――


「おおっとぉ! 君起きたんだねぇええええっ!」と、私達ごと抱きしめるように来たその人は、まるでジェントルマンのような帽子に、刺青が彫られている胸元が少しはだけているスーツの着こなしをした、金色の髪の毛をなびかせているようなヘアースタイルで、整った顔の、右目のしたのは白い星マークの刺青が彫られているさわやかそうな青年が私達に向かって両手を広げていた。


 それを見た私は、ぎょっとしながらそれを見ていると……、ザンシューントさんがその人の方を振り向いて、何かを言おうとした時――



「何してんだい! この不審者っっ!」



 ――ごちんっ!


「――あふぅんっっ!」


 レディリムおばさんが、怒りながら地面に落ちていた石をその人に向けて投げつけると、その人の横顔に直撃して、その人は変な叫び声を上げてドサリと地面に突っ伏してしまった。


「まったく――年頃の女の子に抱き着くんじゃないよっ! そのうち警備兵にでも通報しておくかねっ!」

『グッジョブです』

「うわ……、痛そう……っ! 血も吹いていたし……っ!」


 レディリムおばさんはぷんすかと怒って倒れた人に対して説教をしていると、それを見ていたザンシューントさんは、ぐっと片足を上げてぎゅっと握った。それはきっと、サムズアップのそれなのだろう……。


 それを見た私は、あわあわっとその人の顔を見て、慌てながらすぐに駆け寄って――


「い、今回復を」と、その倒れている人に手を伸ばそうとした時だった。<PBR>

「あ、大丈夫ですよー」

「その人に回復をかけても無駄ですんで、やめておいた法がいいでっせ」

「?」


 今度は横から声が聞こえて、その人達を見てブラドさんは「あ」と声を漏らした。


 その人達も異質で、一人が小柄で、少し小汚い布を羽織っている――ゴブリンだった。左手に高価そうな腕輪をつけている、大きな大きな斧をもって、それを杖代わりにしている変わったゴブリンだった。その人は私を見るや否や――


「お、目ぇ覚めたんですね。よかったです」と、ひたひたと歩み寄りながら近づいてくるゴブリン。それを見た私は、倒れている人を庇うように前に出ると――キョウヤさんとシェーラちゃんが私を見ながら――


「大丈夫だって」

「そんな身なりと雰囲気で、危ないって言うことはわかるけど――プレイヤーよ。正真正銘の」

「手厳しい言い方でっせ」


 と、ゴブリンとシェーラちゃんは、なんだか楽しそうに話していた。それを聞いて、私はもう一度見る。すると――布で隠れてて見えなかったけど、そのゴブリンの手首にはバングルがつけられている。それを見た私は申し訳なさそうに――


「ご、ごめんなさい……。早とちりしちゃって……」と、頭を下げて、しゅんっとしながら謝った。それを聞いていたゴブリンさんは気さくに「いやいや……、そんな気にしないで」と言って――


「ゴブリンに選ばれちまったあっしが悪いんです。そう自分を責めないで。幸せが逃げちまいやすよ」と言った。


 するとそれを聞いて、「くす」と微笑むような音色が聞こえて、私はゴブリンさんの近くで立って、その光景を見ていた女性を見上げた。


 その人は片目が薄紫色のショートヘアーで隠れているけど、前髪のところを三つ編みにして、頭には小さな帽子をつけている。黒くて長いローブに薄水色のセーター。黒いミニスカートにロングブーツ。白いニーハイソックスを履いて、さっきの人と同じように整っている顔立ちで、それでいて耳が長い、きれいな人が私を見て一言――


「そんなにあにさまのことが好きなんですかー?」と聞いた。


 それを聞いた私は「へ?」と、素っ頓狂な声を上げて驚いていると……。


「そんなことないわよぉ……。少しは空気を呼んでよぉ」と、ロフィーゼさんが少しむすっと、珍しく怒りを露にしながら言うと、それを聞いていた女の人はロフィーゼさんを見て、にこっと微笑みながら――


「空気は読むのではなく――吸うんですよ?」


 そんなことも分からないんですね? と首を傾げながら悪気ゼロのような雰囲気で言うけど、ロフィーゼさんはむっとしながら腰に手を当てていた。何も言わなかった。


 それを見ていたシイナさんはロフィーゼさんに近付きながら「あ、あの……、怒らないで……、ください」と言って、何とかロフィーゼさんを宥めようとしていた。


 ブラドさんはそれを見て「お前今すぐ愛玩動物になれ」と、少し冷たい音色で言うと、それを聞いていたシイナさんが驚きながら「ペットですか……っ!?」と叫んでいた。


 キョウヤさんとシェーラちゃんが私に駆け寄りながら――


「あいつらよ。みゅんみゅんのパーティーメンバー」と、シェーラちゃんが肩を竦めながら呆れるように言った。それを聞いた私は「え?」という顔をして驚いていると、キョウヤさんはうんうんと頷きながら私の肩を叩いていた。


 レディリムおばさんはそんな人達を見ながら「なんだい――もう終わったのかい?」と驚きと喜びの顔を浮かべながら聞くと、女の人は困ったような顔と動作をしながらレディリムおばさんに近付いて――「それが今日は売れなかったんですー」と、しょぼくれながら言った。するとゴブリンさんはレディリムおばさんに向かって――


「また明日売りに行きやす。品は倉庫に入れておきやしょうかね?」と聞くと、レディリムおばさんはそれを聞いて「ああ、頼んだよ」と言った。


 ザンシューントさんはそんな光景を見ながら、私達の方を向いてこう言った。


『紹介が遅れました。僭越ながら――わたくしからご紹介を承ります』


 ぺこりと頭を下げて――ザンシューントさんはその二人がいる方向を見て――『お二方。少々よろしいでしょうか』と言うと、その二人はこっちに気付いてすぐに駆け寄ってきた。


 そして言う。


『改めまして……、自己紹介をします。わたくしザンシューントは最初に紹介しましたので……、まずはエルフにしてエクリスター所属。影『鮮血の花嫁エルティリーゼ』の使い手――ミリィ様』

「よろしくですー」


 エルフの女の人――ミリィさんは私に向かって手を振って笑みを浮かべていた。


『そしてゴブリンのような姿をしているお方は、魔獣族『ゴブリン・ロード』の……ごぶごぶ様』

「お見知りおきをでさぁ」

「ごぶごぶさん……っ! まんまな気がする……っ!」

「それオレも突っ込んだ」


 そしてゴブリンさんこと――ごぶごぶさんは頭を下げると、それを聞いていた私ははっとして思ったことを口すると、それを聞いていたキョウヤさんは私の頭を撫でながらやんわりと突っ込んだ。


 そしてシェーラちゃんはくくっと笑いを堪えながら明後日の方向を向いていた……。


『まだお仲間がいるのですが……、今は欠席しています。そして、みゅんみゅん様とそこに倒れているお方を加えて――わたくし達はパーティー名『コークフォルス』。この村を拠点に活動しているものです』


 三人は頭を下げて「「『よろしくお願いします/まーすー/やす』」」と、私達に向かって……、強いて言うなら私に向かって挨拶をしてきた。


 それを聞いた私は、みゅんみゅんちゃんなんだか楽しそうな人達と一緒にいるんだなぁ。と思いながら私も頭を下げて「よろしくお願いします。私はハンナです。メディックの天族です」と、自分の簡単な自己紹介を済ませた。


『そしてそこで倒れて、痛みを快感にして悶絶しているお方は……、人間族商人所属にして、このパーティーのリーダー様ケビンズ様です。ドMです』

「ど……っ!?」

「オレも驚いたけど……、ほれ、あれが証拠だ」


 倒れているケビンズさんを指さしながら、ザンシューントさんは言った。


 少し呆れているような音色だったけど……、キョウヤさんが指をさしながら冷たい目で頬を赤く染めて荒い息遣いで深呼吸をして、震えているケビンズさんを見て言う。


 それを見た私は、申し訳ないけど怖いと思いながらシェーラちゃんに抱き着いてしまった。


 それを見たシェーラちゃんは私の頭を撫でながら「怖いわよね。あの変態」と、同文と言わんばかりの言葉を吐いたのだった……。

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