PLAY36 国境の村の魔女 ⑥

「コークフォルス……」


 私はその言葉を口に出して言うと、それを聞いていたザンシューントさんはこくりと頷きながら『はい』と礼儀正しく言った。


 それを聞いてキョウヤさんはザンシューントさんに駆け寄りながらしゃがんで、『ぽすり』とザンシューントさんの頭に手を置きながら――


「お前礼儀正しいなぁ。昨日も思っていたけど……」

『お褒めに預かり光栄ですが……、少し顎はやめてください。くすぐったいです』

「とか何とか言いながら嬉しそうね。おなか出してリラックスしている」


 キョウヤさんはわしゃわしゃとザンシューントさんを撫でながら言うと、その撫で具合が心地よかったのか、ザンシューントさんは『くぅんっ』と鳴きながら寝そべってしまい、そのままリラックスする様に私達にお腹を見せていた。


 言葉はキリッとしているのに……、行動は正直だ。


 それを見てシェーラちゃんはお腹を撫でているキョウヤさんとは違って、顎をふわふわと撫でて言う。


 それでもザンシューントさんはキリリッとした音色で『ですからお辞めになってください。このままでは力が抜けてしまいます……っ』と、言葉と行動が一致しない音色で言った。


 それを見ていたごぶごぶさんは呆れながら――


「まぁ……犬の性ですかねぇ」


 と言うと、それに対してわんっと声を張り上げるようにザンシューントさんは『犬ではありませんっ! わたくしは執事ですっ!』と、対抗心を剥き出しにするような音色で怒鳴るけど……、キョウヤさんとシェーラちゃんがわしわしと撫でて、私も我慢ならなくなって頭を撫でているのでその威力は半減だと思う。


 そしてザンシューントさんの毛並み……、ナヴィちゃん並みにもさもさのふわふわ……。


 すごい毛並みがいい上に……、気持ちいい……。


 私は頭を触りながら、フワフワとしたその感触を堪能していた。


「犬っころは人気だねぇ。ほれ――さっき作った働きハムスターの炒めもの、食べるだろう?」

『犬ではありません! しかしその御厚意に甘えて、いただきます』

「ザンさんは正直ですねぇー」

『ミリィさん、見て和んでいないで助けてください』

「助けるって、危険ではないではありませんかー。ですので見ていまーす」

『わたくしの人間としての自覚が失われそうですので……っ』


 レディリムおばさんの言葉を聞いていたザンシューントさんは、はっとして吠えるけど、すぐにその御厚意に甘えるようにして頷くと、ミリィさんはそれを見てニコニコと微笑んで見ているだけだった。


 ザンシューントさんはそれを見て助けを乞いていたけど、危険ではないと認識してしまったのか、ミリィさんはそのまましゃがんで鑑賞をする体制になってしまった。


 それを見たザンシューントさんはぎょっとしながら驚きの声を上げると……。


 ずっと――地面をする音が聞こえ、その音を聞いた私はふとその方向を見て振り向いた時……、「あ」と声を漏らしてしまった。


 その声を聞いて、キョウヤさんやみんながその方向を見る。


 すると――


「うぅ……」


 唸るように起き上がったケビンズさん。フルフルと震えながら起き上がり、そして頬に激痛を感じたのか、その頬に手を当てている。


 私はそれを見て、やっぱり痛かったんだと思いながらそっと駆け寄る。


 みんなの制止の声を聞かずに駆け寄って――


「だ、大丈夫ですか……? 今回復を」


 と言った瞬間……、ううん。その人の眼を見た瞬間、顔を見た瞬間……、ぎょっと顔をひきつらせた。


 ケビンズさんの顔は赤くなって、興奮しているかのように頬を赤く染め上げ、そして目を潤ませながら、はぁはぁっと荒い息遣いを上げて頬に手を添えていた。


 しかも「いぃ……っ!」と、色のある音色で……。


 その時……。私は言葉を失って、一歩、下がってしまった。


 それを見てか――


「まぁ、最初に見たらそうなるな」

「あのヘルナイトでさえもぎょっとしていたくらいの……、ドMだものね……」

「「「あ、ドM」」」


 キョウヤさんとシェーラちゃん、あろうことかあのロフィーゼさん達も真剣な音色で突っ込むくらい……、冷めた目をしてケビンズさんを見ていた。


 私はそれを見て、そして距離を取りながら (なんとなく) ケビンズさんに聞いた。


「あの……、大丈夫ですか……?」


 そう聞くと、ケビンズさんはかっと目を見開きながら、高揚とした雰囲気と赤く染め上げた顔で私を見て――興奮冷め止まぬと言う顔をしながら、私にズイッと顔を近づけてはぁはぁっと荒い息遣いで、別の意味の恐怖を植え付けらるかのような攻め具合でこう言ってきた……。


 というか近い。近い近い……!


「もっちろん大丈夫っ! むしろもっとプリーズしてほしいよ! ぼくは大丈夫だから! むしろもっと欲しいくらいです。カモンペイン! ギブミーペイン! ギブミーペインッッ!!」


 なぜだろう……、私はケビンズさんに対して、うっと唸ってしまいそうになった……。


 それを見ていたキョウヤさんたちは、うげっと言う引き攣った顔をしながら口に手を当てていた。


 しかし……。


「ケビンズの旦那。お嬢ちゃん怖がっていやすぜ。やめておきやしょう強要は」


 ごぶごぶさんが私とケビンズさんの間に入り込みながら言うけど、ケビンズさんはくるっと真剣な目でごぶごぶさんを見ながら――真剣な音色で爽やかな笑みを浮かべながら……。


「何を言っているんだいごぶごぶさん」


 と言って、そのまますっと立ち上がり、そして天に向かって両手を広げながら、彼は爽やかに、高らかにこう言った。


 あ、小石が当たったところ……、結構腫れている……。整った顔が台無しだ……。


 でも、そんな状態でもケビンズさんは言う。


「痛みとは――生きている証なんだよ。生きているからこそ痛い。あぁ、こんな感覚があること自体が、ぼくにはご褒美みたいなもんなのさ。だからごぶごぶさん、常に痛みを知っている人にとってこれは異常かもしれない。けどね……」


 きりっとした目で私を見下ろし――そして、晴れた顔で美しさなんて吹き飛んでしまった顔で、私を見ながらこう言った。



「ぼくにとって――これは普通なのさ」



 それを聞いて、私はどう反応すればいいのか、理解できなかった。


 キョウヤさんとシェーラちゃん、シイナさんとロフィーゼさん、ブラドさんとあろうことかレディリムおばさんは、顔面蒼白になりながら気持ち悪いと言いそうな顔をして歪ませていると……、ミリィさんだけは拍手をしながらニコニコとして――


「さすがはあにさまですー! かっこいいですぅ!」と、褒めていた。


 それを聞いていたケビンズさんはふっと鼻で笑いながら――


「よしてくれ妹よ。そこは罵倒だろう……?」


 と、格好良く言った。格好いい事は言っているのだけど、はたから見れば格好悪いけど……。うん。


 それを聞いてキョウヤさんは真剣で低い音色で――苛立った音色で。


「じゃぁくたばれや」


 と、バッサリと言わんばかりに言うと、ケビンズさんはそれを聞いてか、ぐりんっとキョウヤさんの方を振り向きながら――


「もっと具体的な罵倒をっ!」


 と、まるで嘆願する様に、真剣な顔をして願い出た。それを聞いたブラドさんは珍しく突っ込みを入れる。


「もう末期じゃねえか。ドMの」と、鋭い音色で――だ。


 私はそれを聞いて固まっていると、ケビンズさんはまた私を見下ろす。ごぶごぶさんとザンシューントさんは、ケビンズさんを見上げながらわたわたとして「やめておけ」と言っているけど、それでもケビンズさんは挑戦的なのか、私に向かって、こう聞く。


「ところで君は……、エ」と言うところで……。遠くからだだだっとこっちに向かって駆け出してくる音が聞こえた。私はその音を聞いて、その音がする方向を見ようとした時……。



「「こんんのおおおおおおおおおおおおおおおっっっ! お前なにハンナを怖がらせとるんじゃあああああああああっっっ!!」」



 その方向から二つの影が迫ってきて、でもその声には聞き覚えがある。


 その声はだんっと跳躍しながらケビンズさんに向かって行き、そのままくるんっと空中で回ったと思ったら、それぞれの片足を突き出して――ケビンズさんの横顔にその蹴りを……。


 めごりっ! とめり込ませた。


 それを受けたケビンズさんはそれを受けて、その衝撃で吹き飛ばされながら「あぁぁぁ~!」と、甲高い断末魔 (?)のような声を上げて、地面をずささささっ! とスライディングするように飛ばされる。


 それを見ていた私はなんだかデジャヴを感じてしまったけど、その後二人はケビンズさんに近付いて、足を振り上げながらガスガスと蹴りながら――


「何してんのよあんた! 無差別にその性癖を押し付けないでよっ! 恥ずかしいったらありゃしないっ!」

「てめぇ俺の妹に手を出すなよっ! あと少しでお前を『必中の狙撃ブルズアイ・ショット』で撃ち殺すところだったぞ!」

「あ、アキにぃに……、みゅんみゅんちゃん……」


 そう。ケビンズさんに蹴りを入れてきたのはみゅんみゅんちゃんとアキにぃだった。


 アキにぃは気絶して起きていなかったらしいけど、起きたんだ……、よかった。そう思って安心した息を吐くと、そっと私に駆け寄ってきたのは――


「ハンナ――大丈夫か?」

「あ……」


 言わずと知れた――ヘルナイトさんだった。


 ヘルナイトさんは私の背を手で支えながら顔を覗き込むようにして、心配そうな音色で「けがはないか?」と聞いてきたので、私は大丈夫ですと言うと……。その話を見て聞いていたのか、ロフィーゼさんが腰に手を当てながら、むすくれた顔をしながら言う。


「おっそーいぃ。あと少しでぇ、ハンナちゃんが純粋じゃなくなるところだったわぁ」と言うと、それを聞いていたミリィさんははっとしながら口元に手を当てて――


「えー? なぜそうなるところだったのですかー? どこかに敵が潜んでいたんですかー?」と言うと、それを聞いていたキョウヤさんは真剣な音色で「お前……、お前の兄の行動をよーく思い出せ」と言った。


 ヘルナイトさんは未だにケビンズさんに対して蹴りを入れているアキにぃとみゅんみゅんを見て――少し驚いていたけど、すぐに凛とした音色で……。


「二人とも、もうハンナは大丈」

「黙れ天然団長っ!」

「こいつはとことん痛めつけるからっ! あと三発、いいえ四発っ!」


 でも、二人はゲシゲシと蹴りを入れながら絶叫を上げているケビンズさんに向けて蹴り続けていた。


 それを見て、私は近くにいたシェーラちゃんを見上げて――


「と、止めた方がいいんじゃ……」と、少し心配になりながら聞くと、シェーラちゃんは溜息交じりに「心配いらないわ」と言って、そしてケビンズさんを指さしながら――


「気持ちよさそうだし。それに」と言うと……、ケビンズさん震えながら手を上げて、サムズアップした後――「お構いなく! もっとしてっ!」と、懇願するような音色で言った……。


 それを見て聞いた私は、目を点にしながらその光景を、ただ黙って見ていることしかできなかった。シェーラちゃんも呆れながら腕を組んで――「ね?」と、私に向かって首を傾げていた……。


 すると、ちょうど四発目の蹴りを入れていたみゅんみゅんちゃんがはっとして、私達の方を向きながら――思い出したかのようにこう言った。


「そういえば――ヨミに用があるんでしょ? キョウヤさんから聞いた」

「!」


 そうだ、確かザンバードさんが言っていた。


 この国境の村には……、魔女がいる。


 それも、『浄化』の魔女が、ヨミちゃんがいるって聞いた。昨日私が倒れてしまったせいで、その書状を渡せずにいたんだった。


 うっかりだった……。


 そう思っていると、まだアキにぃは蹴りを入れているけど、それを無視してみゅんみゅんちゃんは駆け寄りながら、レディリムおばさんを見てこう聞く。


「おばさん。ヨミは?」

「あぁ、ヨミちゃんかい? 今日もいつものところで二人一緒にいるよ」

「またか……」


 その話をしている二人を見て、私は首を傾げていると……、みゅんみゅんちゃんはザンシューントさんを見下ろしながら――


「私、ハンナとヘルナイトと一緒に、ヨミのところに行く。きっとお師匠様達はその近くにいると思うし、少しここを離れるけど……」と言うと、それを聞いていたザンシューントさんはぴしっと座りながら『お任せ下さい』と言って――


『村の警備はわたくし達がします。遠慮なくゆっくりと話をしてください』

「あっしらがちゃんとしやすので」

「ごゆっくりー」


 と、ごぶごぶさんとミリィさんも頷きながら言った。それを見てみゅんみゅんちゃんは頷いて「頼むね」と言う。


 私はそれを見ながら仲がいいなぁ。と思ってみていると……。シイナさんが小さな声で……。


「ザンシューントさん。す、すごく嬉しそう……」と、ザンシューントさんの嬉しそうな鳴き声と尻尾を見て言っていたけど……、誰もそのことに対して突っ込みを入れる人はいなかった。


 みゅんみゅんちゃんは私達を見て、そして腰に手を当てながら「案内するよ。ヨミはいつもあいつと一緒にいて、日中はあそこにいるんだ」と言って、とあるところを指さした。


 その方向を見ると――みゅんみゅんちゃんが指をさしたところには、大きな一本の木がそびえたっていた。


 どの気よりも長くて、大きな木。


 その場所は村から少し遠いところにあって、山のてっぺんに生えている。よくある風景だけど、その場所を指さしながらみゅんみゅんちゃんは私を見下ろして――そして強気な笑みを浮かべてこう言った。


「ヨミに会うんでしょ? 私一回その場所に行ったことがあるから、行こう?」と、手を差し伸べる。


 それを見て、私は考えることもなく頷き、そして立ち上がる。


 ヘルナイトさんを見上げると――ヘルナイトさんは私を見下ろして頷く。そしてそれを見ていたロフィーゼさんは「えぇー」と駄々をこねるような音色を上げながら……。


「もう観光は終わりぃ? もっと一緒に回りたかったぁ」と、ぷすぅっと膨れながら私を見ていたけど、シイナさんはおどおどとしながらロフィーゼさんに近付いて「えっと……、クエスト、なんで……。邪魔しちゃいけないような……」と言って、何とか宥めている。


「ヘルナイトがいるとなると……、私もジルバを探したいから――一緒に行ってもいいかしら?」

「えぇーっ!? シェーラちゃんもぉ? 寂しぃっ!」

「さびしーいー」

「大の大人が駄々こねないでよ。っていうか関係のない人が紛れ込んできたわね」


 と、シェーラちゃんも一緒に行こうと私に向かって言うと、それを聞いていたロフィーゼさんと、関係ない上に笑みを浮かべたミリィさんが体をくねらせながら言うと、シェーラちゃんはむっとしながらその二人を見ていた。


 それを見て、ごぶごぶさんとブラドさんがその二人を宥めながら――


「ミリィさん。仕事をしやしょうぜ。兄さんはたぶん今日は使えやせんしね」

「ロフィも駄々こねるなって。ほれ、俺達は今後の会議でもするぞー」


 と言って、それぞれのところに向かって私達から離れていく。シイナさんはそれを見ながら、キョウヤさんと顔を合わせて、すぐに頭を下げてからその場を後にして行ってしまった。


「なんだかんだで……、大変なんだね」


 そう私が呟くと、それを聞いていたみゅんみゅんちゃんは――


「……まぁ、魔物がいっぱい来る場所に村を立てたんだから仕方ないけどね」と、少しだけ悲しそうな顔をして言う。


 それを聞いた私は「え?」と声を上げたけど、みゅんみゅんちゃんはキョウヤさんを見て――


「あんたも一緒に行かない? 女の子三人だと」

「あー、待ってくれ」


 と言って、キョウヤさんははっと何かに気付いたのか、みゅんみゅんちゃんの言葉を遮りながら、たたっととあるところに駆け寄りながら――キョウヤさんは言った。


 慌てながら、力を入れるような音色でこう言った……。


「オレはアキを止めとく……っ! マジでここで殺人を犯し……、いやっ! PKを起こしそうだっ!」

「グルルルルルルッ!」

「よし! どこからでも撃ってこぉいっ!」

「煽るな馬鹿っ! アキも止まれぇっ!」


 それを見て、キョウヤさんが必死になってアキにぃを羽交い絞めして止めているけど、ライフル銃を突き付けながら、もう正気になっていないアキにぃはケビンズさんにその銃口を額に打ち付けていた。


 でもケビンズさんはそれでさえでも興奮しているようで、まるで撃ってくださいと言わんばかりに両手を広げて、ボロボロになりながら膝をついていた。それを見てキョウヤさんは突っ込んで止めていたけど……。


 ……なんだか、キョウヤさんだけでは止められそうにない……。


 そう思ってみていると……。


「仕方ないわね。ジルバのことだから、すぐに戻ってくると思うから……、ハンナ。あんたはヘルナイトとキョウヤと一緒に行きなさい」

「?」


 シェーラちゃんは溜息交じりに言うと、そのままつかつかと歩み寄りながらキョウヤさんに向かって――


「キョウヤ。今回は私が止めるわ。あんたはハンナと一緒にヨミのところに行きなさい。そんな生易しい行動ではだめよ」


 と、はっきりとした音色で言った。しかも抜刀までして……。それを聞いて見て、私は慌ててレディリムおばさんを見ると、レディリムおばさんは腰に手を当てながら――


「作業場さえ壊さなければいいさ。好きにしな。ったく、最近の若いもんは血気盛んだね」


 と言いながら、作業場の鉄でできたドアをごんっという音を立てて閉めた。


 ……止める気は、ないんだ……。


 そう思って見ていると、みゅんみゅんちゃんはそれを見て「それじゃ頼むね」と、シェーラちゃんに向かっていうと、シェーラちゃんは「ん」と頷いて、キョウヤさんとバトンタッチをする。


 キョウヤさんはトトッとよろけながら離れると、みゅんみゅんちゃんはそれを見てすぐに私達三人に向かって――


「行くよー」と言って、ヨミちゃんがいるところに向かって歩みを進めた。


 それを見た私とヘルナイトさん、状況をなんとなく理解したキョウヤさんは、みゅんみゅんちゃんの後に続いて歩みを進めた。


 ……背後から聞こえる断末魔と、歓喜の絶叫を聞きながら……。



 □     □



 山と言っても、頂上へと続く道は簡単ながら整備されていた。


 歩くところには石が一つもなく、そして道の端には鉄の杭と紐で作られた手摺がある。それはまるで――目が見えないヨミちゃんのために作られたもののように見えた。


 それを見ながら歩みを進めて行くと……。


「――着いたよ」


 みゅんみゅんちゃんはその目の前を見て言った。


 私とヘルナイトさん、キョウヤさんがその風景を見ると……、一本の大きな木の下に二人の人物がいた。一人はヨミちゃんだけど、座りながら立っている人を見ているのか、見ていないのかわからないけど話している。


 そしてその彼女の顔を見下ろしながら、うんうんと頷いている――キョウヤさんより少し背が高い。赤いフードがついているけど、お腹のところが隠れていない、へそが出るような、胸部しかない赤い長袖の服。黒いズボンをはいているけど、足はなぜか鳥のような足。何かを抱いているような手の仕草をしていると……。


「?」


 ヘルナイトさんが頭を抑えながら唸った。


 それを見たキョウヤさんは「お」と驚きながら――「何か思い出したのか?」と聞くと、ヘルナイトさんはそれに対して、「あぁ」と言ってから――


「あいつは確か……」と言った時――


 赤い服装の人はこっちに気付いたのか――くるっと私達がいる方を振り向いた。それを見て、みゅんみゅんちゃんは「紹介するね」と言って、その人を指さしながら説明を始めた。


「あいつは悪魔族の『ベル・ゼ・ブブ』。私達は『ベルゼブブ』とか、『ベル』って呼んでいる。無口だけどヨミやみんなのことを一番に考えているいいやつ」


 みゅんみゅんちゃんが言うと、その人――ベルゼブブさんは私達を見る。


 ベルゼブブさんの顔は少しだけ厳しそうな顔をしていて、目の下には黒い刺青、額には紫色のひし形の石が埋め込まれてて、右の額には黒い角が生えていた。


 それを見て、私はふと、その人の腕の中にいるそのふわふわしたそれを見た瞬間……。


「あ、ナヴィちゃんっ!」


 と声を上げた。


 すると――ベルゼブブさんの腕の中にいたナヴィちゃんは――私を認識した瞬間、ぶわりとくりっとした目から涙を流して、その人の腕から飛び降りたかと思うと、そのままぴょんぴょんと跳ねて飛んできて、私の胸に向かって――


「きゅきゃーっ!」と、ダイブしてきた。


 それを見た私は、わぁっと声を上げながらなんとかキャッチして、泣いて私に甘えているナヴィちゃんの頭を撫でながら……。


「ごめんね……、心配させちゃって」と、申し訳なさそうに言った。


 それを聞いてナヴィちゃんはさらにすりすりしながら甘えていると、キョウヤさんはそれを見ながら「お前も甘えっ子だなぁ」とにっと笑いながら言った。


 その声が聞こえたのか――ヨミちゃんは首を傾げながら……。


「ベルちゃん。何があったの?」と聞いてきた。


 それを聞いてか、ベルゼブブさんはそっとヨミさんの前にしゃがみながら彼女の手を取ってぐっと握ると……、そのまま黙ってしまった。


 けど……。



「え? みゅんみゅんちゃんと、あの子起きたんだね」



 と、のに、誰かと話すようにヨミちゃんはベルゼブブさんを見上げてぱっと明るく言うと、ベルゼブブさんはこくりと頷く。


 ヨミちゃんは私達がいる方向を向いてから――


「よかったね。元気になって」と、笑顔で目を閉じた状態で言った。


 それを見ていたキョウヤさんは、その光景を見て摩訶不思議なものを見たかのように驚いて――


「一体何したんだ……?」と言って驚いていた。


 でも、ヘルナイトさんだけは……、その光景を見て俯いていた。


 一体どうしたんだろうと思って見ていると……。


 ふっと、私の目の前に現れたベルゼブブさん。音もなく現れたのでびっくりしていると――流れるような動作で私のウエストポーチに手を突っ込んで、その書状を取り出して、またすぐふっと消えてヨミちゃんのところに戻った。


「……なんだあれ……」


 キョウヤさんが驚きながら言うと――みゅんみゅんちゃんは呆れながら言う。


「無口だから仕方ないわよ……」


 呆れるように溜息を吐きながらみゅんみゅんちゃんが言った時――


「ハンナちゃん」

「!」


 ヨミちゃんの肩を支えてきたベルゼブブさん。


 ベルゼブブさんに支えられているヨミちゃんは私がいるところを向きながら私に向かってこう言った。


「書状のこと――聞いたよ」


 でもね。と――ヨミちゃんは申し訳なさそうに、悲しい笑みを浮かべながら告げた。


「無理」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る