PLAY42 カルバノグとワーベンド ②
「………壊滅?」
私はやっと口を開いて、言葉を発することができた。
誰もがそれを聞いて言葉を失ってしまうだろう。なにせ、唐突に聞こえたパーティーの壊滅宣言。
それは今まで私達はしたことがないことでもあり、MCOのルール上それは厳罰レベルのそれだったから。
驚くのは無理はない。そう思って唖然としていると……。
「お? なんだあの集団」
「見たことがない……、って、ああああああっ!?」
「っだーっ! うるさいっつーのぉ! なんであたしの耳元でそんな大声出すんだっ!」
どこからなのかはわからない。
でも遠くから声が聞こえてその方向を見ると、こっちに向かって歩んで……違う。一人だけタタタッと駆け出してきた人と、それを呆れた目で見ている二人の人物がいた。
「あ、偵察から帰ってきたんだ」
ボルドさんはすっと立ち上がって、その人達に向かって手を振りながら『こっちこっち』と手招きをした。
それを見て私は首を傾げて、リンドーさんを見てこう聞いた。
「あの人達は……?」
「あぁ。あの人達は『カルバノグ』のチームメイト。というかメンバーの一人です。ボルドさんとぼくと、あと一人いるんですけど……、その他の残り三人です」
と言いながら、指をさして言ったリンドーさん。
それを聞いてか、遠くからなんだか叫ぶ声が聞こえた……。
そして……。
「ほぉん……」
テンガロハットをかぶり、その下はカウボーイのような服装かと思ったらそれではない……、服装は黒くて少し生地が厚い長袖。腰には小さめの小物入れを腰回りにびっしりとつけ、そして革製の長い靴にベージュのズボンを履いた、少しほけが浮き彫りになっている刈上げの濃い茶色の髪と、少しだけ顎にざらざらした髭が生えている印象的な男性が顎を撫で、私を品定めするような顔をしてジトッと見ていた。
それを見て、私は少し怖いと思いながら身構えていると……。
「おいおいダディ。そんな怖そうな顔すんなって」
と、後ろから声が聞こえて、顔を見るために横目で見ると……。
「お前元からそんな怖い顔なのに、それを上乗せするような顔をして、更に怖がらせてどうするんだって。なぁ?」
「ギンロ。お前、今言っていることとやっていること、完全に噛み合ってねえぞ……」
そう……。
黒い布切れを身に纏って、黒いズボンと黒の編み上げのブーツ。一見してみればすごく地味そうな服装なんだけど、その布の中は半裸……。少し見えたからはっきりと言える。でも一見して地味そうなその服装だけど、背中に背負っている黒い包帯で何かを隠して包んでいるそれ。そして金色のとさかのような髪型と、顔にぴったりとくっつく近未来の眼鏡をかけた少し長身の男性――ギンロさんは、テンガロハットの人――ダディさんを見ながらニコニコと男らしい笑みを浮かべながら言う。
……アキにぃの肩を掴んで、そこからぎりぎりと音が鳴るくらい握りしめているけど……。
それを受けていたアキにぃは、スナッティさんの時と同じように黒い網を浮かべながら……。
「またお知り合いですかぁ……? 今日はお知り合いに会うことが多い日ですねぇ……っ!」
と言っていたけど、そんな黒いもしゃもしゃを見て、私はぎょっとしながらその光景を見ていた。
ダディさんははぁっと溜息を吐きながら頭を抱え、その光景を見ていたキョウヤさんはすぐに足を動かして……。
「アキストーップッッッ! 交流が険悪なそれになるから待てっ! おすわりっ! オスワリィ!」
慌ててアキにぃを羽交い絞めにしながら止めに入った。
それを見て、メウラヴダーさんは冷や汗を流しながら「何あれ」と、小さく突っ込みを入れていた……。
シェーラちゃんはそれを見ながら「アキは私たちの犬かペットか」と突っ込みを入れ、そしてギンロさんを見ながら「ごめんなさいね。あいつ、なんだか最近情緒不安定すぎるの。シスコンでも重症なのに」と、申し訳なさそうに (言葉はあまり申し訳なさそうんではないけど、表情はそうだったから) 彼女は言った。
するとそれを聞いていたリンドーさんは、「むむ」と声を上げながら……。
「何でしょうかねぇ……。すごく親近感が湧きます」
あ、やっぱり……。
そんな言葉が頭の片隅を行き交った後、突然――
「お前が……ねぇ」と、ダディさんの声が聞こえた。
私はその言葉を聞いてぎょっとしながら振り向くと、ダディさんはそんな私を見て、ふむ。と言いながらじっと私の頭のてっぺんから足のつま先まで見て……、はぁっと溜息を吐いた後……。
「――こんなガキが」
「?」
なんだろう……。
ダディさんは、私やシェーラちゃんを見るたび、青くて、大雨のもしゃもしゃを出している。
それにどんな理由があるのかはわからないけど……、それでも、ダディさんは私達を見ながら、何か思いふけっている。
そう思った時――
「っていうかさー。こんな可愛い子が鍵なの? 砂ちゃん」
「――きゃぁっ」
突然、赤い何かが私の顔にずいっと顔を近づけてきた。
至近距離だったからか、驚きのあまりに私は声を上げてしまう。
それを聞いた目の前にいる人は、私の顔を見ながら申し訳なさそうに、でもカラカラ笑いながら「あ、ごめんごめん……、驚かせちゃったね」と謝罪をして顔を離す。
私に顔に顔を近付けてきたのは――赤いショートヘアーの女性だった。
女性は赤い髪の毛でショートヘアーの動きやすい髪型。そして服装はかなり身軽で、白い着物の、足元の丈が久上のところまでしかないそれだけど、その下には黒いショートパンツに黒いハイソックスに下駄なんて履いていない素足。胸のところと手のところ、足には黒い胴当てと手甲、足甲を身に着け、腰には小太刀、背中には少し長めの刀を背負っている――忍者風に女の人が私の顔を興味津々に見ながら再度ドアップで見ながら「でも本当にこの子が……」と呟きながら言う。
私は、ぎょっと驚きながら後ろに下がる。
それを見たその女の人は、少しショックを受けたような顔をして「そんな怖がらなくても……」と、泣きそうな顔をした。
私はそれを見て、はっと気付いて、わたわたとしながら「ご、ごめんなさい……っ」と、謝ると、それを見て言らダディさんは舌打ちをしながらその人を見て……。
「紅。何してんだお前……。そうやってウソ泣きすんな」
と言うと、それを聞いていた赤髪の人――紅さんはむっとした顔をしてぎっとダディさんを睨みながら……。
「嘘泣き言うなっ! てかなんでそう思うんだこのちょび髭っ!」
「んがっ! 髭は関係ねえだろうがっ! てか話をしていたのはこっちだ! 早く離れろ乙女ゲーヲタクッ!」
「んだとこらぁーっ!」
「待って待って! ダディエルくんと紅ちゃん。ストップだよ」
ボルドさんがとうとう間に入り込んで静止をかける。
それを見て私は茫然としていると……、そっと私の背に手を添えたヘルナイトさん。
それを見て私ははっとして見上げる。
支えるようにして手を添えているそれを感じながら、ヘルナイトさんの優しさを感じていると……、ヘルナイトさんはボルドさんを見て――
「この三人は……?」と聞いた。
それを聞いてボルドさんははっとして、慌てながらこっちを向いて――ぎょっとしてしまった私。
おおぅ。振り向いた拍子に驚いてしまう。
リンドーさんの言った通り……、本当にB級ホラーを感じてしまう……。というかそうにしか見えない……。ひどいことを言ってしまったけど……。
ボルドさんは私達を見てこう言った。
「この三人はね、僕の仲間なんだ。ティズ君達だって仲間で、七人でいつも行動」
「――今は六人だ」
ボルドさんの言葉が言い終わる前に、びりっとした音色で言ったのは――ダディさんだった。
誰もがそのびりっとした音色を聞いて、驚きを隠せなかった。
突然――怒ったような音色で言うのだから、当たり前だろう……。そしてダディさんも、静かに、目を伏せながら怒っている。
それを聞いて、キョウヤさんはアキにぃを羽交い絞めにしながらも、驚きながらダディさんを見て――
「ど、どうした……?」
突然の豹変を見て、キョウヤさんは慎重に言葉を選んだ結果。その言葉を言った。それを聞いていたギンロさんは無理矢理からからと笑いながら――
「あ、あー! そうだったな! 今は六人だったなっ! リーダー一人多めに数えなくてもいいじゃねえかっ!」と言った。
それを聞いて、ボルドさんは頭を掻きながら慌てて――「そ、そうだったね」と言って……、ダディさんを見ながら。
「ごめんねダディエルくん。気に障ることを言っちゃって」
「いや……、俺も自棄になって悪かった」
と、テンガロハットを掴みながら、顔を隠すようにぐっと下げる。
私はそれを見て、ダディさんや『カルバノグ』の人達から感じる悲しいもしゃもしゃを感じて、こう思った。
――なんだろう……、このもしゃもしゃ、すごく粘っていて、離れそうにないもしゃもしゃだ……。
そう思いながら見ていると――ボルドさんは「それじゃ」と言いながら、ダディさんを指さしながら口を……、今思ったけど、あの包帯で巻かれた口で、どうやってご飯を食べるんだろう……。と思っていたけど、私はその疑問を頭を振って無理矢理消してから、ボルドさんの説明を聞いた。
「えっと、ここにいるテンガロハットの人はダディエルくん。みんなからはダディって呼ばれているけど、ダディエル君が本当のHNだから。エルフのウィザードだよ」
「間違えるなよ」
その言葉を聞いて、私は心の中で謝った。みんな、ダディさんダディさん言っていたから、それが本当の名前かと思っていたので……。
「ダディエルより、ダディの方が言いやすい」
「お! それあたしも同意見だ!」
「でしょ?」
……シェーラちゃんとガルーラさんの会話が聞こえたけど……、そこはあえて何も言わないでおこう……。
ボルドさんは次に赤髪の紅さんを手で指をさして――
「この人はシノビの紅ちゃんだよ。希少な鬼と人間の亜人。なんだけど……」と、ボルドさんは少し口ごもりながらえっとっと、頬を指で掻いて言葉を探っていた。それを見て私は首を傾げていると――
ひょっこりとリンドーさんが出てきて……、にこやかなスマイルで――
「紅さんは重度の乙女ゲームヲタクなんです。そしてそっち系のあれが含まれています」
「おおおぅ! お前何言っているんだおおおおいっっ!」
と言うと、紅さんは顔を真っ赤にして慌てながらリンドーさんの首元を掴もうと腕を伸ばした。けどリンドーさんはそれをよけながらけらけら笑って逃げていく。紅さんは「待てやこのぉッ!」と言いながらだだだっと駆け出して追っかけて行ってしまった。
それを見て、私はボルドさんを再度見ると、ボルドさんは溜息と共に――
「今のはリンドーくんの独自の見解だから、紅ちゃんは凄く男勝りで頼もしいよ。うん」と言った。
それを聞いた私は、「は、はい……」と頷く。
ヘルナイトさんはその言葉を聞いて、首を傾げながら……。
「おたく……? そっち」と言った瞬間、それを聞いていたキョウヤさんとクルーザァーさんははっとして――
「それはお前が知ってはいけないっ!」
「その言葉は異国の言葉として受け止めておけ。後々不合理なことになる」
と、念を押すように突っ込んだ。クルーザァーさんは冷静な顔をしていたけど、それを聞いたヘルナイトさんは「そ、そうか……」と、少し驚きながら、無理に納得した。
そして――
「最後に――あそこでいがみ合っているトサカの人は……、ギンロくんだよ。彼はスナイパーで人間族。僕等のムードメーカーさ」
「ガンオタだけどな」
メウラヴダーさんは小さく付け加えるように言うと、それを聞いたギンロさんはばっとボルドさんを見ながら――
「リーダー! なんでこんな野郎を連れてきたんすかっ!? なんで敵を連れてきたんすかっ!」
「えぇ? 僕じゃなくてリンドー君とスナッティちゃんに言ってよぉ……」
ボルドさんに対して怒りを露にしながらアキにぃを指さしたギンロさん。
それを見たボルドさんは驚きながらも紅さんに追われているリンドーさん。
そしてアキにぃの背後でアキにぃを睨んでいるスナッティさんを見て言うと、ギンロさんはじろっとスナッティさんを見て――
「おい砂っ! なんでお前この野郎を連れてきたんだぁ!」と言うと……。
スナッティさんは怒りを露にしながら『むがーっ!』という効果音が出そうなそれを出してこう言った。怒鳴った……、の方がいいだろう。
スナッティさんは怒鳴った。
「――仕方がないじゃないすかぁっ! あの子と一緒に行動しているみたいだし、それにねちっこいから連れてきたんすよぉ! あとからねちねち言われても嫌すしぃっ!」
「正論で感服するぜ……」
キョウヤさんはアキにぃを羽交い絞めにしながら驚きの声を上げる。
それを聞いていたアキにぃは、イラっとしたコミカルな顔をして、ギンロさんとスナッティさんを交互に見てこう叫んだ。
「何好きなように言っているんですかぁっ!」
「あ。切れた」
メウラヴダーさんは「お」と言いながら突っ込んだ。それでもアキにぃは続けてこう言う。
「大体ねちっこいってあんたたちの見解ですよねぇ!? 俺はそんなにねちっこくないです! ただの妹思いですってばぁ!」
「ねちっこいよりも気持ち悪い分類じゃない」
あ、シェーラちゃん、意外と厳しい突っ込みを入れている……。
それを聞いていたキョウヤさんは、アキにぃの拘束をほどいて、ふぅーっと額の汗を拭いながら、シェーラちゃんに向かってグーサインを出していた。
それは……、どういった合図ですか……?
そう私は心の中でなんとか突っ込みを入れる。
するとアキにぃは――
「ともかくぅ! あんたたちもねちっこいじゃないですかぁ! あの大会のことまだ寝に持っているんですか! しつこい! 正直しつこいっ!」
「んだとこらぁ! てめぇ背後から襲い掛かってきておいて、その言い草はねえだろうがっ! おかげでこっちは大恥をかいちまったんだぞ!」
「そうっすよ! あの大会であんたが降参したせいで、自分たちすごく恥ずかしい思いをしたんすよ! その責任どう取ってくれるんすかっ! あんなルール違反ぎりぎりのことを平気でするだなんて、恥ずかしいと思わないんすかぁ!?」
「PKをしている人なんて、背後襲いが基本でしょうがっ! っていうかもう二年前の話でしょうがっ! いい加減に忘れろっ!」
「忘れられるかっつーの! 俺達のこの怒りはなぁ、食べ物の恨みよりも深いもんなんだよぉっっ!」
「自分たちの得意分野踏みつけられて唾を吐かれたかのような、ぶっ壊された感じで嫌だったっすっ!」
「ゲームの勝ちを掴み取るコツは――課金と戦略、そして運でしょうがぁ! 努力なんて社会人にはできない所業だっつーのっ!」
「「んだとこらあああああああっっっ!」」
とうとう黒と赤のもしゃもしゃがぐちゃまぜになって、そしてビキビキと亀裂を大きくしていく……。
アキにぃ、スナッティさんとギンロさんは、お互い睨み合いながら歯ぎしりをしてドロドロと黒いもしゃもしゃを出していた。
その黒くてどろどろとしたもしゃもしゃは、キョウヤさんたちにも伝わっているらしく、青ざめながらそれを見ているみんな。クルーザァーさんはため息交じりに「不合理の最高潮の、くだらない言い争いだな」と言った。
それを見て、メウラヴダーさんは呆れながらその三人に近づきながら――
「おいおい。その辺にしろ。このままだと話が進まないぞ」と言うと……、三人はぎろりとメウラヴダーさんを睨んで、そして……。
「「「うるせぇっ! 名前がなんだか女の名前みたいなやつに止められたくねぇっっ!!」」」
「すっげぇ息合っているな……っ!」
キョウヤさんは驚きながら突っ込みを入れると、メウラヴダーさんはため息を吐きながら頭に手を当てて――首を横に振った。
手に負えない。そう言った感じの行動だと私は思った。なんか……、兄がごめんなさい。
そして本当に、二年前に何があったんだろう……。
そう思いながらアキにぃ達を見ていると、ヘルナイトさんはボルドさんを見て――こう聞く。
「……この二チームで、とあるギルドを壊滅させようとしているんだったな?」
「うん。すごくキャラが濃すぎてびっくりしたでしょ? でもみんないい人達だらけなんだ。悪い人じゃないよ」
「ああ、わかっている」
と言って、ヘルナイトさんは私を支えながら、スナッティさん達やリンドーさん達を見て、ふっと笑いながら、凛とした声でこう言った。
「この状況で、変わらない日常と同じように話して戦っている者達を、悪いと決めつけることは絶対にしない」
「…………そう言ってもらえると嬉しいよ」
ボルドさんは仄かに、嬉しそうに言った。
そしてダディさ……っ! じゃないっ。ダディエルさんはボルドさんを見上げて――すっと立ち上がりながらこう聞く。
「んで、リーダー。リンドーが連れてきたってことは……、例のことを話すんだろ?」
「……うん。そうだね」
「――後悔しないでくれよ? あの時のように」
「?」
あの時……? 何を話しているんだろう……。そう思っていると、ボルドさんは私とヘルナイトさんを見て、アキにぃ、キョウヤさん、そしてシェーラちゃんを見ながら――真剣な音色でこう言う。
「ちょっといいかい? 今から僕達がすることを詳しく説明するよ。きっと――君達も浄化したいなら、避けて通れないことだと思うから」
「避けて通れない?」
その言葉を聞いたキョウヤさんは疑問の声を上げながらボルドさんを見る。
それと同時にヘルナイトさんは頭を抱えながら何かを思いだしたかのように唸ると、私はそれを見て「大丈夫ですか……?」とヘルナイトさんを見上げながら聞く。
するとヘルナイトさんはそっと抱えていた手をどかして……、小さく……。
「確かに――今のままでは、通れない」と、言った。
「? ??」
今のまま……?
どういうことだろう……? そう思いながら私はボルドさんの話に耳を傾ける。キョウヤさんはボルドさんを見て聞いた。
「なんで避けて通れないとか言うんだよ。アムスノームのような入国許可みたいなもんがないと通れないとか? そんな感じか?」
そう聞くと、それを聞いらボルドさんは、腕を組みながらうーんっと唸って、そして私達に向かって――
「君達は……、『秘器』……、アーツを見たかい?」と聞いてきた。
それを聞いたキョウヤさんは首を傾げて思い出しながら、「あぁ」と言う。
シェーラちゃんはそれを聞いて、ボルドさんを見ながら腰に手を当てながらつんとした顔をしてこう言った。
「それってバトラヴィア帝国の武器でしょ? さっきも見たわ。でも結局のところ、あれって機械でしょ? ファンタジーの世界で機械とか、ありえないと私は思うわ」
「それ――製作者が聞いたら真っ先にブチ切れるパターンのあれだぞ」
シェーラちゃんの話を聞いていたメウラヴダーさんは、冷静にそう突っ込む。
それを聞いたボルドさんは、乾いた笑みを浮かべながら笑って――続けてこう言った。
「た、確かに……、君の言う通りかもしれないよ? でも、あれがないと、この国の人達と言うか、帝国の人達はあれがないと国を守ることができないんだ」
「守る……? あれ?」と、私はふととあることを思い出した。
それはアクアロイアに着いた瞬間のことだ。
その時、バトラヴィア帝国の人達がいたけど、この国に入った時とは違って重厚そうな服は着ていなかった。というかその鎧を着ていなかった。普通の鎧だった気がする……。そして『聖霊の緒』で出会ったあのガルディガルと言う人は、下半身そのものがキャタピラのような姿だった。
なんだろう……、すごい食い違いがあるような……。というか、ガルディガルと言う人は半分機械の様は姿だったし……。うーん……。
うううううう~ん……?
それを思い出した私は、ボルドさんを見て――
「あの……、今思い出したんですけど、私はあの人の他にも、下半身がキャタピラのような人と、あとそうでない、普通の兵士を見ました。その兵士さん達とその兵士さんは、何か違いがあるんですか?」
と聞くと、それを聞いていたボルドさんは、小さい声で「そうか……」と言い――
「見たんだね」と言って、私を見ながらボルドさんは悲しそうに言った。
それを聞いていたキョウヤさんとシェーラちゃん。そして喧嘩を一時中断したアキにぃはボルドさん見て首を傾げている。私はそれを聞いて、どうしたんだろうと思っていると、ヘルナイトさんは私の名前を言って、そして私を見下ろす。
見上げた私の顔を見たヘルナイトさんは――ぐっと、背中に添えていた手を、右肩に添えてぐっと掴んで、支えてからこう言った。
凛としているけど、その奥に潜んでいる苦しさを少し漏らしながら……、ヨミちゃんのことを話していた時と同じ音色で――こう告げる。
「――この先は、君にとって残酷なことだ。苦しかったら、私に縋れ」
「?」
一体……、ヘルナイトさんは何を言っているんだろう……。
それを聞いていた私だけど、意味を深く理解しないで頷く。そして……。
「何アレ……。なんだかあれの予感が……っ!」
「紅さーん。重いですぅ。また太りましたね」
「リンドー。あとで拳骨十発の刑に処す」
「できれば胴体でぇ」
紅さんとリンドーさんが何かを言っているけど、遠くてよく聞こえなかった……。
私はボルドさんを見て話を聞こうとした時、その話を聞いていたクルーザァーさんが前に躍り出て、私達を見ながら腕を組んでこう説明した。
「お前達が見た軽装の兵士は――きっと捨て駒兵士だろうな」
「………捨て、ゴマ?」
それを聞いた私は、思わず九官鳥のように繰り返して口にしてしまう。
捨て駒。そんなの誰が聞いても分かる言葉だ。
捨て駒は――使えない人をさす。囮にしても、盾にしてもいい存在……。
そして――役立たずの固い言葉。
「捨て駒……? なんでそうなるのよ」
シェーラちゃんは腕を組みながら、少し驚いた顔をしてクルーザァーさんに聞く。そして――
「バトラヴィアの兵士なんだから、当たり前の様にその秘密兵器を持ってもいいんじゃないの?」
「それが出来れば、アクアロイアの人達に拘束されないだろう」
「それは……、そうだけど。でもなんで」
そう聞くシェーラちゃんの疑問に対し、それに答えたのは――ダディエルさんだった。
ダディエルさんは面倒くさそうな顔をして私達を見ながら、クルーザァーさんの説明に繋げるようにこう言った。
「その
「……ひでぇな」
キョウヤさんは唸るように吐き捨てると、それを聞いていたガルーラさんは「っち」と舌打ちをしながら、苛立った顔をして腕を組みながら――
「気持ちわかるぜ。あたしがその立場だったら、そのお偉いさんをぶん殴っているところだ」
「真っ先にクビになるパターンだが、一理あるな」
と、ガルーラさんの言葉にメウラヴダーさんはうんうんっと頷いた。
それを聞いてスナッティさんはむっとした顔のまま私達にこう言った。
「んで、その適性の中でも、特に逸材として認められた人は、体を改造するんす。下半身とか、両腕とか、自分が見た中でも――特にグロかったのは口っすね。がちがちとしてて……、うげ」
と、舌を突き出しながら、気持ち悪いという顔をして言うスナッティさん。
アキにぃはその話を聞いて、「まさか」と声を零してボルドさんを見てから、言葉を口にした。
愕然とした顔をして、アキにぃは言った。
「まさか……、俺達が戦ったガルディガルって人は……っ!」
その言葉の最後を聞かずにボルドさんは言った。
「そう。その体を改造した人達は、帝王の側近にして騎士団団長。最もバトラヴィアで強い存在。通称『
「……それ、直訳すると鉄の肉……。肉盾のような言い方だな……」
「その言い方は間違ってないよ。だって、帝王の身代わり、盾になるためだけに結成されたものだからね」
「……それ聞いて更にむかついたわ……。こりゃ」
キョウヤさんの言葉にボルドさんは頷きながら言って、更にそれを聞いたキョウヤさんは苛立った顔をして、ばしんっと尻尾を砂地に叩きつけた。
それを見てギンロさんはまぁ――と、呆れながら腰に手を当てて……。
「その帝王のために死ねるなら、あいつらは本望と思って心置きなく死ぬと思うぜ」
「ギンロさん……っ!」
と、その言葉を聞いた私はきゅっと唇を噛み締めてしまう。
ヘルナイトさんはぐっと私の肩を優しく包み込むように掴んで、そしてぎゅっと膝の上で握っているその手を優しく包むヘルナイトさん。
それを感じて上を見上げようとした瞬間――
「おぉ! 何やら客人が来ているようだが……、って、んん?」
ふと、聞いたことがある声が聞こえ、その方向を見た私。キョウヤさんもアキにぃも、シェーラちゃんも、ヘルナイトさんもその声がした方向を見て、目を疑ってその人物を凝視した。
その人物はもう一人の人と一緒にこっちに向かっている。それを見たボルドさんは――その人を見てこう言った。
「あぁ! おかえりなさい! あっちはどうだった? ティティちゃん!」
ガザドラくん。
その言葉を聞いた瞬間――私とアキにぃ達は頭を真っ白にさせて……。
「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっっっ!」」」
アキにぃ、キョウヤさん、そしてシェーラちゃんは――あらんかぎりの叫びを上げてその人を――ガザドラさんを指さした。
ガザドラさんはそんな私達を見て、大きな口をあんぐりと開けながら、驚きの顔をしていた。
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