PLAY42 カルバノグとワーベンド ③

「おぉ! お前達はいつぞやの!」


 この前敵として出会ったガザドラさんは両手を広げながら近付いて来る。


 あの時とは違う……。


 胸には黒い胴当てのような鎧に黒い手甲がつけられて、腰にはいくつもの剣やナイフ、背中には槍と言った武器を携えながら私達を視認したガザドラさんは駆け寄ってきた。


「ガザドラ様――あの方達は?」 


 近くにいた白い布で体と顔を覆い隠した人は、ガザドラさんに向かって聞いている。


 声からして女の人だ。


 その人の言葉を聞いたガザドラさんは――


「さっき話した者達だ! ティティ殿! なに――悪者ではないのは、吾輩が保証しよう!」と言いながら、ガザドラさんは私達に手を振りながら駆け寄って……。


「おおぉーいっ! 久しいなぁ! まさかこんなところで運命の再会さいか


 と言った瞬間、それ以上の言葉が紡がれることはなかった。


 だっと駆け出したアキにぃは、そのままガザドラさんに向かって走っていく。


 それを見てガザドラさんはおぉ! と歓喜の声を上げながら両手を広げて――


 そのまま……。




 めしゃり!




 顔面にアキにぃの拳を受けて……。


「おぼおおおおおおおおっっっ!?」


 と、叫びながら後ろに向かって吹き飛ばされてしまったガザドラさん。


 そして砂地に『ぼすんっ!』と大きな煙を放ちながら、顔から突き刺さって足を出してしまっているガザドラさん。


 それを見て私は口を開けて茫然とし、みんながそれを見て茫然とし、ボルドさんとキョウヤさんは、それを見て……。


「ガザドラくううううううううんっっっ!!」

「何してんじゃお前ええええええええっっっ!!」


 同時に叫ぶように言い放ったキョウヤさんとボルドさん。


 それを聞いて、アキにぃはくるっと私達の方を見て、はっきりとした音色で――


「敵を倒しただけだよ」


 と、決まったというまんざらでもない顔をして、セリフを吐いた。


 それを聞いてキョウヤさんは苛立ったような顔をして――


「だからって不意打ちすんなっ!」

「あんた不意打ちして恥ずかしくないのっ!?」


 キョウヤさんが突っ込んだと同時に、シェーラちゃんも苛立ったような音色で怒声をアキにぃに浴びせた。


 それから。


「いやはや、久しい再会だったな! 天族の少女と鬼神卿……、いやさ! 武神卿よ!」


 ガザドラさんはさっきまですごい腫れた顔をしていたけど、私が何とか『中治癒ヒーリー』かけたおかげで顔の腫れは引いた。


 それを見てギンロさんはほへーっと驚きながら笑顔で「リーダーよりもすげえ回復力だ!」と驚きの声を上げていた。


 それを聞いていたボルドさんは泣きながら「もうそれ以上僕をいじめないでよぉっ!」と、くねくねしながら言っていた。


 それを見て、シェーラちゃんは一言……。


「キモイ」


 ばっさり切り捨てるように吐き捨てていた。


 ガザドラさんは私達を見てがははっと笑いながら腕を組んで、そして私の頭をぐりぐりと撫でながら――


「まさかこんなところで再会できるとは、思ってもみなかったぞっ!」と、私の頭を撫でて豪快に笑ったガザドラさん。


 それを受けていた私はふらんふらんと左右に揺すられながら、「あぅぅ」と唸ってそれを受けていた。


「てか、なんでこんなところにお前が?」


 すると、事情を知らないキョウヤさんはガザドラさんを指さしながら聞くと、ガザドラさんは「お?」と言いながら、私の頭を撫でることをやめて手を離した後――キョウヤさんを見ながら胸に手を当てて、胸を張りながらこう言った。


「実はな――吾輩はあの騒動の後……『六芒星』を抜けたのだ」

「「ええっ!?」」

「!」


 その衝撃的な言葉を聞いたキョウヤさん、シェーラちゃん、そしてヘルナイトさんが驚きながらガザドラさんを見た。そう言えば……、私話していなかったような、気がする……。


 あの時は復興で忙しくて、忘れていたわけではなかったのだけど……、正直――話して信じてもらえるか心配だった面もある。


 ガザドラさんの意思は本物だけど、それを話して、すぐに『はいそうですか』と信じてもらえるかわからない……。


 ガザドラさんがまだ『六芒星』と通じているかもしれないと、他の人は思うだろう……。


 そう思いながら復興をして……。結局……。




 忘れていた。




 ごめんなさい……。


 ガザドラさんの話を聞いていたシェーラちゃんは、ガザドラさんを睨みながら――


「とか言って、私達を騙そうとしているの……? 『六芒星』はそんな感じの輩が多いし、何より悪人の言うことは信用できない」とはっきりと言った。


「結構はっきりと言うタイプなんだな」


 それを聞いていたメウラヴダーさんは、驚きながらそう口にする。


 私はそんなシェーラちゃんの言葉を聞いて、「待って」と何とか会話に入って、私はシェーラちゃん達を見て、少し慌てながらも、本当のことを告げる。


「ガザドラさんは本当に『六芒星』を抜けたの。私はそれを聞いて、それで別れたの」

「じゃぁなんですぐに言わなかったのよ」

「えっと……。それはその……。忘れてて」

「忘れてはいけないことじゃねっ!?」


 シェーラちゃんに詰め寄られながら、私はおずっとしながらも、忘れていたことを話すと、キョウヤさんはそれに対して起こるように突っ込みを入れる。


 心なしか――背後にいるガザドラさんがショックを受けたような顔をしていたような気が……。


 気のせい――であってほしい気がする……。


 そう思いながら、シャーラちゃん達にガザドラさんは大丈夫だと告げていると……。


「だが――ボルド殿と一緒にいるということは……、『六芒星』を抜けたことは確かなのだろう」と、ヘルナイトさんはガザドラさんを見て、凛とした音色で聞く。


 それを聞いたガザドラさんははっとして――


「そうだっ! 吾輩はもう『六芒星』とは何ら関係もないっ! しかと脱退を宣言し、吾輩はただの竜蜥蜴族リザ・ドラゴンのガザドラと言う存在になり、今現在この者達と一緒に行動しているのだっ!」


 と、はっきりと言った。


 それを聞いていたアキにぃは「ふぅん……」と言って――


「でもその経緯っていうか……、なんでこんなところにいるの?」と、頬杖をつきながら聞くアキにぃ。座った目を見るからに、明らかに信用していない顔だ……。


 あの時、アキにぃもいたけど、あまり信用していないようだ。


 それを聞いていたボルドさんは「あのね」とおどおどと手を上げながら私たちに告げる。


「実はね……、彼が僕等のチームになったのはつい最近なんだよ。その時僕等は『アイアン・ミート』の奴らに苦戦を強いられて、正直もうだめだと思っていただけど……、その時に」


 ボルドさんはふとガザドラさんを見て、そして私たちに目線を戻しながらこう言った。


「彼が助けてくれたんだよ。すごい力でね」

「ほぉん」


 アキにぃは相槌を打ってうんうん頷いて、そしてガザドラさんを見てからアキにぃはふぅんっと相槌を打って、またボルドさんを見て「それでそのあとは?」と聞くと、ボルドさんはそのことに対して、こう言葉を繋げた。


「うん。そのあとは今の状況と同じように話して、そして意気投合してね……。ガザドラ君は本心で今ここにいるんだよ。行く宛てもないとか言って、僕等と一緒に行動するって言って来てね」

「不合理にもほどがある。行く宛てもないという時点でおかしい」


 クルーザァーさんははぁっと溜息交じりに腕を組みながら言うと、それを聞いていたメウラヴダーさんは、肩を叩きながらまぁまぁっとクルーザァーさんを宥める。


 それを聞いて、私はガザドラさんを見る。


 するとガザドラさんは腕を組みながら、胸を張ってふんっと鼻息をふかしながら――


「それでここにいるということだ! まだ信用できんかな?」と、アキにぃやシェーラちゃん、キョウヤさんを見下ろしながら言うガザドラさん。


 すごく自信満々に言っているそれを見て、アキにぃはぐっと顔を歪ませて唸る。それを見て、キョウヤさんはその雰囲気を察したのか――


「まぁ、言っていることは本当みたいだから、オレは信用するけどな」と、困ったように笑いながら腕を組んでいったキョウヤさん。シェーラちゃんも頷きながら……。


「あの時とは違う雰囲気だし、それに『六芒星』と通じていたら、こんなところでのんびりしている場合じゃないもの。すぐに囲まれてしまうし、信じてあげてもいいわ」と、シェーラちゃんも信じてくれたようだ。


 そして肝心にアキにぃは、まだ信用していないみたいで、じっとガザドラさんを見ていた。


 それを見て、私はアキにぃに向かって――


「アキにぃ。あの時一緒にいたでしょ? 信じてあげて、きっと本当だから」


 私が言うと、アキにぃは私を見てにこっと微笑みながら――




「――なら信じるよ」と、はっきりと言った。




 それを見て、スナッティさんとギンロさんはそれを見て、驚愕に顔を染めながら……。


「「即答っ! くそかよこいつっ!」」


 怒りを乗せたそれを吐き捨てた。


 ガザドラさんは内心ほっとして胸を撫で下ろしながら笑みを浮かべて「そうかそうか! 信じてくれたか! よかったよかった!」と、はははっと笑いながら腰に手を当てている。


 それを見ていたダディエルさんは「よかったな」と笑みを作ってガザドラさんに言う。


 それを見て、私は内心ほっとした。


 ガザドラさん――集落を出る前まで、すごくぐちゃまぜだったもしゃもしゃだったのに、今はすっかり落ち着いているもしゃもしゃになっている。まだ青いもしゃもしゃが残っているみたいだけど……、あれなら大丈夫だろう……。


 そう思い、私はクスリと微笑みながらガザドラさんを見た。


 すると――


「ところで――」と、キョウヤさんはちらりととあるところを見る。


 みんなもその方向を見て、シェーラちゃんが「そうね、気になっているのは私も同じよ……」と言って、その方向を見る。


 ボルドさん達やクルーザァーさん達は、それを見て「ああ。あれ?」と、なんだか慣れたような顔をしてその方向を見ているけど、私達は見慣れていないのと、僅かに感じた敵意を察知して、その人を見る。


 その人は――ガザドラさんと一緒にいた人で、白い布で体と顔を包んだ……。体のラインから見て女の人だろう。その人は岩の椅子に座りながら黙って地面と足の先を見ている。


 さっきからその調子で座って、一言もしゃべっていない。


 私はその人を見て――近くにいたダディエルさんにこう聞いた。


「あの、あの人は……?」


 すると、ダディエルさんはその人を見て「あぁ……、あれな」と、頭を掻きながら面倒くさそうにして唇を尖らせながらこう言った。


「あいつはちょっと変わっているんだよ。にしか舌は回らねえみたいだし」

「? 特定?」


 私はダディエルさんと話していると――


「っ! っ」


 ヘルナイトさんはまた頭を抱えながら唸りだす。


 それを見た私ははっとしてヘルナイトさんの名前を呼びながら駆け寄って、「大丈夫ですか?」と心配してヘルナイトさんの顔を覗き込む。


 するとヘルナイトさんは私の頭に手を置いて――


「いつものことだ……。大丈夫。思い出しただけだ」と、凛とした音色で言った。でも……、頭を抱えるたびに苦しそうだから、つい駆け寄ってしまう私も私だけど……、正直そうなるとすごく心配になってしまうのも事実だ。


 それを聞きながら私は大丈夫なのかな……。と、心配そうにヘルナイトさんを見上げる。


 ヘルナイトさんは私の頭をゆるゆると撫でながら「大丈夫だ」と、念を押すようにもう一度凛とした音色で言った。


「ねぇ……、あれっていつもあんな感じ?」

「多分ね。というかあの二人……、意外と鈍感なのよね」

「それって――要はってことっすかね……?」

「それはねえだろう。全然顔赤くねぇ」

「ちくしょーっ! あたしも画面上のそれじゃなくて、リアルのパートナー、ほーしーい!」


 なんだろう……。遠くで紅さん、シェーラちゃん、スナッティさん、ガルーラさんが何かを言っているような気がするんだけど……、よく聞こえないなぁ……。


 そう思っていると――


「あ、多くなっている」

「!」


 突然背後から声が聞こえて、その声がした方を振り向くと、みんなもその声がしたほうを見て――「おぉっ!」と、歓喜と驚きの声がばらばらに混ざった。


 私は安心したような音色で「よかった……」と声を漏らしたほうで、私はその声がした方向を見て、安心してしまった。


 その場所――廃墟から出てきたティズ君を見て安心したのだ。


 ボロボロの服のまま現れたティズ君の体にはいくつもの包帯が巻かれているけど、かなり適当な感じで巻かれている。あれではただ乗せただけでも巻きましたと言えるようなそれだ。でもティズ君はそれでも、体から血は流していない。


 それは傷が塞がったということだ。


 それを見たクルーザァーさんは……。


「また無茶な戦いをしたそうだな。少しは考えて行動しろ」と、ティズ君を見て叱るクルーザァーさん。


 それを聞いたティズ君は首を傾げながら無表情な顔で――


「考えたよ?」と言った。


「いや、そういうことでは……。っ! いや、いい」


 クルーザァーさんは声を荒げようとティズ君に向かって何かを言おうとしたけど、すぐに言葉を繋げることをやめて首を横に振りながら頭を抱える。


 それを見ていたメウラヴダーさんとガルーラさんは――首を横に振りながらため息を零す。


 キョウヤさんはそんなクルーザァーさんたちを見て、スナッティさんを見ながら……。


「大変なんだな……」

「いつものことっす。でもちいっとは学習してほしいっすよ」


 乾いた呆れの笑みを浮かべて二人は言う。


 ティズ君はそんな光景を見ながら、ふとガザドラさんを見て――「おーい」と手を振りながら無表情にこう言った。


 少し遠くに座っていた白い布を被った人を見ないで、ティズ君が出た瞬間、その人は凄い勢いでティズ君に向かって駆け出している。そのことにすら気づかないで、ティズ君はガザドラさんを見て……。


「戻ってきたんだ」と言った瞬間だった。


 その白い布を纏った人は――ばさりとその白い布を脱ぎ去って、そしてティズ君に向かって手を広げながら――泣きながら歓喜の笑みを浮かべて……。その人は言った。


 ティズ君もさすがに気付いたのか、はっとしてその人を見る。


 その人は頭から黄色い角を一本生やし、そして黒髪のミディアムカットに首には赤いリボンを巻いて結んでいる、赤を基準とした動きやすい着物に腰には二本の鉈。しかもその柄の先にはオレンジの紐がついている。黒いハイソックスに可愛らしい下駄を履いた―肌の色素が白い整った顔立ちの……。


 鬼族の女の人がティズ君に向かって手を広げて、そのまま――


「ティズッ!」と、幸せそうな笑顔を向けて、ティズ君に……。


「あ。うわぁ」と、ティズ君は驚いた声を上げたと同時にその人はティズ君に抱き着いて、そのまま……。


 どすんっと――一緒に倒れた。


 というか……、女の人がティズ君を押し倒して抱きしめていたといった方がいいのかな……?


 それを見た私達は言葉を失いながらその光景を見ていた。驚きのあまりに、頭に会った言葉が出なかったのだ、真っ白と言うか、あまりに唐突な展開に、驚いたの方がいいだろう……。


 その女の人は――あのリョクシュやイェーガー王子と同じ鬼の角を生やしている人で、その人は押し倒してしまったティズ君に気付いて、はっと声を上げて起き上がった後、ティズ君を押し倒した状態で慌てながら「ご、ごめんなさいティズ……っ! 私ったらつい……」と、なんだか謝っている声が聞こえた。


 ティズ君は無表情の顔をして――首を横に振りながら「いいよ」と言って……。



「いつものことだから」



「いやいつもなのかよ」


 ティズ君の言葉を聞いて、キョウヤさんは目を細めながら呆れたように突っ込みを入れると、それを見ていたリンドーさんは困ったような笑みを浮かべて「いつもと言うか、少し会わなかっただけであれですね」と言った。


 少しでも会えなかったら……、あれなんだ……。


 ティズ君、大変そう……。


 そう思いながら私はその女の人――ティティという女の人と、そして目をそっと下に逸らして……、ティズ君の腕の包帯を見て、じくりとくる胸の痛みに耐えながら、それを見ていた……。


「あの女は……」と、ヘルナイトさんはティティさんを見て、ポツリと言葉を零した。


 その声を聞いた私は、ヘルナイトさんを見上げる。ヘルナイトさんは未だにティズ君と話しているティティさんを見て、頭を抱えたけど、すぐにその手を離して……、こう言った。




か……」




「英雄?」


 その言葉に、アキにぃは首を傾げる。


 そしてそれを聞いていたガザドラさんは「おぉ!」と驚きの声を上げて――


「そうですぞ! 古の時代――この地に来た邪の王を倒したという鬼の英雄ですぞっ!」と、うんうんっと頷きながら、まるで自分のことの様に自慢しながら言うガザドラさん。


「お前じゃないだろう。倒したのは――」と、メウラヴダーさんは腕を組んで呆れながら言うと、それを聞いていたガザドラさんはむっと顔を顰めて、ティティさんを見てこう言った。


「倒したのは確かに吾輩ではない。しかしな。幾万とある英雄談、そして絵本の物語で――『鬼の戦士』はとくに有名であるぞ!」

「絵本……。アムスノームの絵本と同じ……?」

「だね」


 ガザドラさんの話を聞いて、私はふと思い出したアムスノームのことについて、近くにいたアキにぃに聞く。アキにぃは頷きながらティティさんを見る。そして……。


「でも――普通英雄って……、女じゃなくて、男じゃない?」と、肩を竦めて意外だという顔をして言った瞬間……。


 ティティさんは肩を震わせて、アキにぃをぎろっと睨んだ後――こっちに向かって駆け出して来た。


「え?」


 と、アキにぃが呆けた声を出した途端……。


 ティティさんはすっと腰に差していたその鉈を引き抜き、それをアキにぃの前で、至近距離でその鉈を首元に突きつけた。その鉈を突き付けたところは――まさしく頸動脈。


 それを見たアキにぃは、言葉を失いながら、くっと顎を少し上に上げながら、その鉈が首に当たらないように、頭と首を後ろに引いていく。


 でもティティさんはそんなアキにぃを逃さんばかりに、反対の手を腰に回して逃げれないようにしている。


 私は慌てながらアキにぃを呼んで、そしてティティさんを見ると、ティティさんはさっきまでの嬉しそうな顔とは裏腹に、冷たく、そして心がないような目でアキにぃを睨みながら――低い音色でこう言った。


「女だから……? 女だから英雄になってはいけないというルールがどこにあるのですか……?」

「え、いや」

「英雄とは、数多の地に幾万と存在するもの。それを、性別なんてもので限られても困ります。女でも邪の王は倒せます」

「ちょ」

「女だからと言って、差別しないでください。女だからと言って――軽蔑しないでください。虫唾が走りますので」


 慌てながらアキにぃは言葉を紡ごうとしているけど、ティティさんの気迫に押されて、言うことができない状態になっている。


 それを見た私は何とかして止めないとと思い、慌てながら止めに入ろうとした時――


「その辺にしてくれ」


 ヘルナイトさんはその間に入って、ティティさんの鉈の刃の方をぐっと掴んで――アキにぃの首元に突きつけられているそれを、引きはがすように離していく。


 それを見たティティさんは、ヘルナイトさんを認識して初めてはっと息を呑む。そして――


「あなたは……、『12鬼士』最強の……っ」と、驚きの声を零した。


 それを聞いたヘルナイトさんは、ティティさんを見て――一言こう言った。


「彼を殺さないでくれ。悲しむ人がいる」


 なんだろう……。ヘルナイトさんの言葉を聞いただけで、胸の奥が熱くなってくる。私の過剰反応かもしれないけど、なんだかヘルナイトさんの言葉一つ一つを聞いていると、胸の奥が熱くなって……。




 




 ん?


 懐かしい?


 なんでそう思うのだろう……。私とヘルナイトさんは、このゲームで出会っただけで、そこかで出会ったことは、一度もないはずなのに……。


 というか、ヘルナイトさんは、忘れがちになりそうだけど、ENPCなんだよね? なんで、懐かしいと思ってしまうんだろう……。うーん。


 それを聞いていたティティさんは、ヘルナイトさんを見た途端、さっきまで放っていた殺気を消して、そっとアキにぃから離れて鉈を腰に差す。アキにぃはほっと胸を撫で下ろしながら「サンキュ……、ヘルナイト」と、ヘルナイトさんに向かってお礼を言った。それを聞いたヘルナイトさんは首を横に振って「気にするな」と、凛とした声で言った。


 その光景を見ていたボルドさんと、そしてクルーザァーさんは。ヘルナイトさんに向かって、最初にボルドさんがヘルナイトさんを見てこう言う。


「こっちこそありがとうね。ティティちゃん、すごい男女差別とかに敏感だから」と言って――


「仲間の不躾に不合理な私怨――重ね重ねお詫びを申し上げる」と、クルーザァーさんは頭を下げながら言った。


 それを聞いていたヘルナイトさんは凛とした音色で――


「いや、私は私の思うが儘に止めて」と言って私を見下ろして、そっと私の頭に手を置いたヘルナイトさんは再度ボルドさんを見てこう言った。


「約束を守るために、そして彼女が悲しむと思って、そうしただけだ」


 なんだろう……。その言葉を聞いた瞬間、耳から離れなくなった音色を聞いて、声と言葉を聞いて、私は無意識に、胸の高鳴りを抑え込むように、きゅっと両の手でその胸の高鳴りを抑え込んでいた……。


 それを見たボルドさんは「うんうんっ」と頷いて――包帯の顔で微笑みながら……。


「そうだよね。男の子はやっぱり、女の子を守らないとねっ!」と、くっと握り拳を作った両手を前に向けて、可愛らしくガッツポーズをして言った。


 それを見たアキにぃは――


「やめてください」と、真剣で、黒い無表情をして言った。


 それを聞いたボルドさんは、アキにぃの声を聞いてガンッとショックを受けて泣きそうな顔をしていた……。


 そして少ししてから……。


「さて――全員揃って、かなり脱線してしまったけど……。話を続けるよ」


『えっと』と、何とか落ち着きを取り戻したボルドさんは顎に指を添え、さっきどこまで話していたのかを思い出していた。


 みんなで円になりながら、ティティさんはティズ君の背後で抱き着きながら話を聞いてガザドラさんはボルドさんの背後で立って腕を組んでいた。


 確かに、ガザドラさんやティティさんのことでかなり話が脱線したような感じがしたけど、本題はそこではないのだ。


 本題は――バトラヴィア帝国のことについて。


 私はそれを思い出しながら、ボルドさんに向かってこう言った。


「確か……、騎士団長のところまででしたよね……? 団長って、私二人くらい会ったんですけど」と言うと、それを聞いていたキョウヤさんは指をさしながらああっと思い出したかのような顔をして――


「そういえば! 確かエルフの偵察軍団団長のレズなんとかっていう……」

「レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッド」


 ティティさんはむっとしながらキョウヤさんの話に重ねるように、言葉を発した。


 それを聞いたキョウヤさんは『おおぉっ』と驚きながら引き攣った笑みを浮かべて「そ、そう。それな」と指をさしながら肯定した。


 ティズ君はそんなティティさんを見上げて首を傾げていると――ティティさんは大きく舌打ちをしながら私達から視線を逸らしてこう言う。怒声を含んだそれで……。


「屑帝国に媚を売った屑種族……っ! アズールのゴミ屑……っ! まだ媚を売らんと気が済まんのか……っ!」

「男女差別の他にも種族差別のような言葉を言っているけど……、アレ正常?」

「正常っつーか。あいつあんな感じだから。特にエルフとかには」


 シェーラちゃんはそんなティティさんを見て驚きながら指をさしてガルーラさんに聞くと、ガルーラさんは腕を組みながらその光景を見ていた。平然とした顔をして……。


 それを聞いて、ボルドさんは私達を見てこう言った。


「確かに、そのレズバルダはバトラヴィア帝国でも随一の剣士にして、《《帝王の恩赦を受けている種族》だからね」

「……恩赦? 種族?」


 それを聞いたアキにぃは、ボルドさんを見ながら疑念の表情を浮かべてこう聞いた。


「種族って、それってその人だけが特別ってこと? なんで?」


 それを聞いたボルドさんはちらりとクルーザァーさんを見た。クルーザァーさんはそんなボルドさんを見てこくりと頷いて、それを見たボルドさんは同じように頷いた後……、ボルドさんは言った。


 バトラヴィア帝国の一部と言える……、この国の姿について、ボルドさんは言った。




「この国は――バトラヴィア帝国は……。なんだ」



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