PLAY40 終わりの傷跡と道 ⑥

 胸を張るように自分達の名前を言ったと同時に、悪魔族五人はそっと地面に降り立った。


 各々が私達を見て、じっと見ているだけだった。


 まるで――品定めをしているかのような、そんな目だった。


 すると――リーダー格のベル・リード……。うーん……、この場合はベルリード? なのかな……。でもなんだかしっくりこないというか、えっと……。


 悶々とそんなことを思っていると、突然――


「あぁ。やっとお会いできましたわね。鬼神の鬼士様」

「お」

「っ!?」


 ベル・リデルと名乗っていた人の声を聞いて、私はすぐにその方向を見た瞬間、目を点にして、絶句して……。


 じくりと、胸が苦しくなった。


 ベル・リデルと言う人はヘルナイトさんの首元に手を回して抱き着きながら、妖艶に、そして色のある言葉と高揚とした赤い頬でヘルナイトさんに抱き着いていた。


 するりと――鎧の胴体を指で撫でながら……。


「あの瘴気に負けてから何百年経ったと思うのですか? わたくし、とてもとてもあなた様の安息を心より祈っておりましたわ。息災無いようでなによりです」

「あ、ああ……。あと近い気がするが」

「それはあなた様がわたくしをここまで心配させたからではありませんか……。あぁ。もっともっとあなた様のその勇ましいお姿を、この目に焼き付けたいです……。そして、あなた様にこの御心を捧げたいですわ」


 な、なんだろう……。


 す、すごく胸が苦しい。


 苦しいという言葉で言いくるめてもおかしいけど……、本当にヘルナイトさんとベル・リデルさんと言う人が話している光景を見て、私はずくずくしてくるその痛みを抑えながら、抑えていた。


 前にロフィーゼさんとヘルナイトさんとの光景を見て、私は失敗をしてしまったので、それを教訓にして我慢してみていたけど……。


 今回は違う……。


 もうずくずくが、喉の奥まで来ている……っ!


 そう思いながら私は「う……」と、唸りを声に出してしまい、それに気付いて口を抑えようとした時……。


「ちょっとそこの人魚さん」

「はーあーいぃ?」


 突然、ロフィーぜさんは背後から私を抱きしめながら、むすっとした顔をして、ベル・リデルを見た。


 ベル・リデル……。ベルを取ってリデルさんとしよう。リデルさんはロフィーゼさんと私を見て、妖艶に、くすり。と微笑みながら見た。


 ロフィーゼさんはそれを見てこう言った。


「話があって来たんでしょ? だったら場の空気を読んでほしいものだわ」

「あらぁ。確かに話をしに来ましたけどぉ……。わたくしは鬼神の鬼士様ともお話がしたいのですのよぉ? 愛しの君に会えた幸福を、逢瀬を堪能してもよろしいんでなくて?」

「さっさと離れろって言っているの。話が進まないでしょ?」

「あらあらぁ、出会って早々嫉妬されても困りますわぁ。適齢的なものを感じて焦っているのぉ? 大丈夫ですわぁ。あなた様にはそれ相応の相応しい人がいますからぁ」

「話聞いていないの? 耳聞こえないのかしら?」

「あなたこそさっきからわたくしを目の敵にしていますけど……、いい加減やめてほしいものですわ」

「………なんかあそこ、黒い火花を散らしていない……?」


 私とヘルナイトさんを間に入れて、ロフィーゼさんとリデルさんは笑みを浮かべながら話をしていた。


 でも、その笑みは黒く、そしてどんどんトゲトゲしていく会話。それを聞いてその光景を見ていたシェーラちゃんは、小さく突っ込みを入れてくれた。


 すると――


「おやめなさい。ベル・リデル」

「んうぅん?」


 ベル・リード……、リデルさんと同じようにリードさんにしておこう。


 リードさんは腕を組みながら、リデルさんをすっと細い目で一瞥してから――厳しい音色だけど、優雅さを保ったその言葉でこう言った。


「己が私情で、そのような不躾な言動をしてはいけません。今回はあなたのわがままで来たのではありませんよ。今回は――お話があって来たのです。いいですね?」


 すると、それを聞いたリデルさんは、むすっとしながらヘルナイトさんから離れて、つぅっと指で鎧の胴体をなぞりながら、唇に指を添えて――妖艶にこう言った。


「では――後ほど、ですわぁ」


 ずくり。 


「~~~~~っ」


 あぁ。また来た……っ。


 もう、何だろうこれ……。ヘルナイトさんと他の人があんな風にくっついている光景を見ただけで、こう、胸がざわつくというか……、変になってしまう。


 私は首を横にぶんぶんっと振りながらその思いと記憶を吹き飛ばそうとしていると――ロフィーゼさんはとんとんっと、私の背中を押した。


「? ??」


 私はそれに驚きながらロフィーゼさんを見上げていると、ロフィーゼさんはヘルナイトさんに向かって――


「ねぇ。ちょっといいかしらぁ?」と言った。


 それを聞いて、ヘルナイトさんは首を傾げながらも、少し驚いた顔を私達に見せて「どうした?」と聞いてきた。


 それを聞いて、ロフィーゼさんは私をヘルナイトさんの近くに寄せて、そしてヘルナイトさんを見上げて――妖艶に微笑みながら……。


「一緒にいてあげてね?」と、ぱちりとウィンクをしながら、その場を離れたロフィーゼさん。


 それを見て、ヘルナイトさんは首を傾げていたけど、私を見下ろしてそっと頭に手を添えながら、ゆるゆると撫でてくれた。


 それを感じて、私はヘルナイトさんを見上げ、さっきまであったそれがまるでなかったかの様に、その手の動きとぬくもりを感じて、リードさんの話を聞いた。


「さて――私のお仲間が不躾なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」


 と、リードさんは頭を深々と下げながら詫びを入れた。


 詫びの言葉を聞いて、アキにぃは何かを思い出したかのように、げっそりとしながら――


「いえいえ……、そんな」


 と言っていたけど、キョウヤさんはそれを見てはっとしてから……、「お前もか……? なんかデジャヴってたもんな」と、同意の声を上げた。


 シェーラちゃんはそれを聞いて首を傾げて、ブラドさんはジルバさんの背中に隠れながら、そっと顔を出して……、リードさんに向かって、恐る恐る聞いた。


「も、もしかして……、悪魔っていうくらいだから、ベルゼブブの様にまさか……」


 それを聞いて、面白かったのか――ベル・エクスタァ……。えっと、エクスタァさんでいいかな? エクスタァさんは「ひゃははははははははっ!」と笑いながらブラドさんを指さして……。


「なんじゃなんじゃ? ベル・リデルのあの姿を見て臆したのか? 軟弱なものよのぉ! のぉ! ヴェルフェよぉ!」


 上機嫌そうに上を見上げて叫ぶと、上を飛んでいたドラゴン……。というかあれも悪魔なんだよね……。そう思っていると――


『……ふあぁ。そんな大きな声を出すな。ベル・エクスタァよ。人の眠りを妨げることはいけんことじゃて』

「いや寝てたのかよっ! 飛びながら寝るって結構器用な寝方をするなっ!」

「キョウヤのその言葉に、誰もがうんうん頷いていたと思うよ」


 ……アキにぃの言う通り、ベル・ヴェルフェ……、ヴェルフェさん、でいいのかな? ヴェルフェさんのことを聞きながら私も驚きながら見上げて、すごいと思ってしまった。


 すると上を飛んでいたドラゴン基ヴェルフェさんは突然――


 しゅるんっと小さくなって、そのまま地面に向かって落ちていき、すとんっと、雑技団のような直立の着地をして、私達の前に現れた。


「ったくのぉ……。少しはお前さん達だけで話を進めろ」


 現れたその人を見て、私達は今回何度目かの驚きを顔に出してしまった。


 それもそうだろう。


 上を飛んでいたドラゴンもとい、悪魔族最古参の悪魔族……。想像していた人物と、かけ離れ過ぎていたのだ。


 最古っていうくらいだから、もっとお年寄りだと思っていたけど、真実は違う。


 私達の前に現れたのは――くせっけがひどい銀髪に、白い袖は少し長いワイシャツに黒ベスト。灰色の短パンに黒い靴を履いた――私よりも小さい子供が、ふあぁっと欠伸を掻きながら私達の前に現れたのだから、驚いても無理はない。


 それを見て、シイナさんが「こ、子供……?」と、驚きのあまりに正直なことを言って、それを見たミリィさんが「わぁ」と、驚きながら駆け寄って――


「子供ですかあなたー? すごくかわいいですねー」


 と、その人――ヴェルフェさんを抱き上げながら言った。


 ヴェルフェさんは「お?」と言いながらミリィさんを見て――そしてベルゼブブさんを見ながら「ベル坊よ」と言って、指をさしながらこう聞いた。


「こやつらはお前の友達か?」


 平坦で、そして表情が乏しいそれで、ヴェルフェさんはベルゼブブさんに聞いた。


 それを聞いて、ベルゼブブさんは少し間を置いてから、そっと顔を逸らして――小さく。


「お前達には、関係ないだろう……」と言った。


 それを聞いて、私はふと、その悪魔族の人達と、ベルゼブブさんの間にある、小さな亀裂のもしゃもしゃを感じた。


 そう言えば……、ベルゼブブさんはヨミさんの件でベル王の怒りを買ったって……。


 もしかして、それと関係しているのかな? あの亀裂は……。


 そう思っていると、それを聞いてベル・デル……、デルさん? うーん、ベルデルさんでもおかしいからデルさんだね。


 デルさんはけらけら笑いながらベルゼブブさんに近付いて、笑みを浮かべながらこう言う。


「関係ないって、それはねえだろうがベル坊。お前そんな堅物のくせに、女が絡んだ瞬間柔らかくなって、そういうのは俺の特権だろう? 何でもかんでも食べて蓄えるお前じゃなくて……、何でもかんでも奪って使う俺……、『強欲』の俺が、その立場なんじゃねえの?」


 ベルゼブブさんに近付いて、顔をぐっとベルゼブブさんに近付けながらニヒルな笑みを浮かべて、ギザギザの犬歯が見えるその笑みで――デルさんは言った。囁いた……、の方がいいかな……?


 デルさんは言った。


「いくらベル王の慈悲を受けているからって、ベル・ゼ・ブブという偉大な名を継いで、いい気になっているのかは知らないけど……、正直なところ、今回の件はいい気味だったと思うぜ? だってお前のその顔に泥をまた塗ることができるんだからさ」


「っ」


 それを聞いて私はむっとしてしまった。みんなもむっとしてデルさんを見ていた。


 今回の件――それはきっとヨミちゃんの件だ。ここまで来るのにすごく険しいものだったはずだ、すごく苦しい道のりだったはずだ。それをいい気味として見て、そして馬鹿にすることは――聞いているこっちが腹正しくなるというものだ。


 それを聞いて、セイントさんが前に出ようとした時――



 ――べしんっ!



「いでっ!」

「!」

『お!』


 突然だった。突然デルさんの頭を叩いた黒い靄のような手。


 それを見た誰もが驚いて、近くにいたベルゼブブさんがそれを見て、驚きを隠せなかった。


 デルさんの後頭部を叩いた張本人――ベル・イサラ……、これは簡単だ。イサラさんはぷんぷん怒りながら、頭を抱えてうなっている (というか、あの靄は固いものなのかな……?) デルさんを見て、腰に手を当てながら怒った顔をして、頬を膨らませながらこう言った。


「ほれほれ! リードの話を折らない! 今はリードがベルゼブブに話すところでしょ? デルデルはこっちでしょうがっ!」と、怒りながらデルさんを引きずって行くイサラさん。


 それを受けながら、腰から砂煙を出してじたばたと暴れながら「おいてめぇっ! ちょっと放せ! まだ話が!」と言っているデルさんだけど、その話を聞かずにイサラさんはさらりと無視しながら「リード! お話いいよー!」とリードさんを見て言う。それを聞いてリードさんは頭を少し下げながら「ありがとうございます」と言った。


 そんな光景を見て……。誰もが口を割るタイミングを逃していた。


 私のその一人で……、なんだか独特な空気を持っている人達だなーっと思いながら見てた。


 ……リデルさんは複雑だけど……。


「なんかよ……。マイペースじーさんにお気楽爺さん。ヘルナイト溺愛に嫌味を言うトラブルメーカー。それを止めるストッパーにリーダーって……」

「キャラが濃いよね……。誰もが……」

「それは俺も思っていたヨ」

『キャラと言うよりも、これは個性でしょうね。個性が濃すぎて付いて行ける気がしません』

「ザンシューントさんは意外とはっきりと言いやすね」


 キョウヤさんとアキにぃ、ジルバさんにザンシューントさん、ごぶごぶさんのこそこそとした会話を聞き耳に入れながら、私はその光景を見る。リードさんは今まで頭を下げていた村の人たちを見て、優雅に優しい音色で――「頭を上げてください。自由にしていいです」と言うと、村の人達はそっと顔を上げながら、それでも緊張した面持ちで立っていた。


 それを見て、リードさんはすたすたとベルゼブブさんに歩み寄りながら――


「息災ないようで何よりです。ベル・ゼ・ブブ」と、手を広げて言った。それを聞いて、ベルゼブブさんは小さく、そして目をそらしながら「そうだな」と言うと――リードさんはそれを聞いてふむっと、顎に手を当てながら……。


「声が戻っている。王の言う通り……、呪いは解けた。と思ってよろしいのですね?」

「ああ」

「でしたら、勘当の件は解かれました。王もあなたを快く迎え入れます。さぁ、早く」

「すまない。リード」

「?」


 と、ベルゼブブさんに手を伸ばして差し伸べたリードさんだったけど、ベルゼブブさんは首を横に振りながらリードさんを見てこう言った。




「その勘当の件だが、継続という形で、とどめてほしい」




 それを聞いたリードさんと、他の悪魔族の人はそれを聞いて、目を点にして驚きを隠せずにいたけど……、一人、じゃない。二人ほどその意見を聞いて、怒りを露にしながら反論した。その人物とは……。


「ちょっ……、ちょっと待って! なんで勘当の取り消しを無駄にするのよっ! っていうかなんでそんなことを突然っ!?」

「おいベルやろう……っ! それはどういうことだ……。偉大なるベル王様の意思を無駄にして……っ! 何が目的なんだよ……っ? えぇ?」


 みゅんみゅんちゃんとデルさんだ。


 みゅんみゅんちゃんはきっとベルゼブブさんのことを聞いて、ベルゼブブさんのことを思って心配して怒りながら言っていると思うんだけど、デルさんだけは違う……。なんだが、私怨のようなもしゃもしゃを感じるような……、ぎりぎりと歯ぎしりをしながらベルゼブブさんを睨みつけていた。私はそれを見て、素直に怖いと思っていると――みゅんみゅんちゃんはキクリさんが。デルさんはイサラさんが止めて、話は進む。


「……継続と言いますと、理由を問いたい」


 リードさんが考える仕草をしながらそう聞くと、ベルゼブブさんは、ポツリ、ポツリと――こう話をした。


「この国は――脅威や瘴気に侵されている」

「ええ」

「皆が、力無き者達も一緒になって、戦っている。『終焉の瘴気』を、消すために」

「ええ。しかしですね――私たちにはできなかった。王も言っていたでしょう。私達は魔王族とは違い。対価なしでは動かない種族。対価なしにすることは、王への侮辱。王の貢ぎなしに恩赦をもらうのと同じ。大罪です」

「わかっている。俺は、対価をもらわずに、その人間の願いをかなえるために、罪を犯した」

「ええ。そうです。その時の王はかんかんでしたね」

「すまないと思っている。だから、その対価がないと動けない身であるのなら――俺は」


 と言って、ベルゼブブさんは空を見上げて――こう言った。


 その音色ともしゃもしゃは――決意のそれが見える、キラキラしたもので、ベルゼブブさんは、リードさんに向かってこう言った。




「対価なしに――勘当された身で、俺は……、ヨミが守りたかったこの村を、国を――アズールを、守りたい」




 そう――選択した。その道を選んだ。


 一人で――


 ベルゼブブさんの言葉を聞いて、みゅんみゅんちゃんをはじめ、コークフォルスのみんながおぉっと歓喜の声を上げながらベルゼブブさんを見て、喜びの顔を表す。


 私のその一人で――みんなも暗い雰囲気から緊張、そして今になって笑顔が綻んだ。


 ベルゼブブさんは、本当にヨミちゃんのことを想っていた。


 その思いを無駄にしないために、ベルゼブブさんは、勘当が解かれても、絶対に勘当を継続してでも、ヨミちゃんが愛した村を守りたかった。


 その一途な一心は、私達に心に届いた。だから今――こうして綻んでいる。


 嬉しいという気持ちもあるけど、でもヨミちゃんの件や、そして祖国に帰れないベルゼブブさんのことを思うと、素直に喜べないのが事実だ。


 すると――


「その気持ちは嬉しい。しかしそれでは……、お前は」と、ヘルナイトさんは、意を決したかのようにベルゼブブさんに聞くと、それを聞いたベルゼブブさんは首を横に振りながら――「大丈夫だ。長いかもしれないが、それでも」と言った時――


「そうですか」と、リードさんはため息を吐きながら、困った顔をして――


「それでは、


「………どいうことだ? あの場所に、王しかいない?」


 その言葉を聞いて、ベルゼブブさんが言うと、リードさんはクスリと笑いながら、理解できていない冒険者の私達や村の人を置き去りにして――リードさんはこう言った。手を広げて、高らかに――


「言ったとおりですよ? ここに来た理由として――私達はを申し出ようと王都に向かおうと思っていました」

「協力……?」


 セイントさんが小さく呟くと、それを聞いていたベルゼブブさんは、驚きながら「まさか……、だがそれでは」と言って、言葉を繋ごうとしたけど、リードさんはそれを制止するかのよう、手をつきだして止めた。


 そして続けてこう言う。


「対価はあります。協力と言っても、私達は特殊な力を持っている身。つまるところ、ここでは魔女のような力を有しています。なので――国が助けを乞い、そしてその場所を設けるのであれば、私達一同は、それ相応の働きをします。ギルド長としてね」

「結局……、ギブ&テイクね。国のために働くから、衣食住をくれということ」

「正解だけど、言い方がひでーぞ? もうちっとイイ言い方があったはずだ」


 シェーラちゃんが腕を組みながら納得したように言うと、キョウヤさんはやんわりとそれを突っ込んだ。


 リードさんの言葉を聞いて、ヘルナイトさんは驚いた表情をし、そしてキクリさんは驚きながらこう聞いた。


「対価の話はいいとして……、あのベル王が何でそんなことを? 人間のいざこざには関わらなかったあの王が」


 それを聞いてヴェルフェさんはミリィさんの懐から降りて、キクリさんの言葉に返答する様に、ふあぁっと欠伸を掻きながら――


「心あるものはいずれ、心を変える。心変わりと言うものじゃな。王も少しだけ、この状況に危機を感じていてのぉ。早急の対応として、儂らに下界で言うところの……『ギルド長』になれと命令しおった。ゆっくり寝れることはできんが、仕方がないしのぉ。緊急じゃ。緊急。これが終わったら、すぐにベル王のところに戻るがのぉ」


 ふあぁぁっと、またあくびを掻きながら言うヴェルフェさん。


「……なら」

「ええ」


 と、ベルゼブブさんの言葉を聞いて、リードさんは言った。にっと、優雅だけど、アキにぃはその笑みを見て「食えないやつ」と毒を吐いていたけど、そんな毒のある笑みではない優雅そうな笑みで――こう言った。


「ベル王からの言伝です。『必ず成し遂げろ。それまで帰ってくるな』だそうで。よかったですね。あなたの意思は、ベル王には筒抜けだったようです」


 それを聞いて、ベルゼブブさんはぐっと唇をきつく閉じて、そっと頭を下げながら……、ベルゼブブさんはこう言った。深く。深く――


「――感謝する」


 そうお礼の言葉を述べた。


 それを聞いて、私はほっとしながら、その亀裂も緩く綻びながら消えていくのを感じ、村で起こった出来事は、これで本当に終わったのだった。



 □     □



 それから――私達リヴァイヴは、国境の村から砂の大地の境目にいた。国境の村にはベルゼブブさんとみゅんみゅんちゃん、そしてシイナさんがいて、最後ではないけど、一時期のお別れをしていた。


 ヨミちゃんがいなくなった後も、村の人たちは村から離れないことを誓った。


 ヨミちゃんが命を懸けて守った村を簡単に見捨てることができない。そしてここで、生涯を終えるまで職人として生きる。それが村長さん達の願望であり、ヨミちゃんにできる。唯一の弔いだと、村長は言っていた。


 その村に残って、ジルバさん達はこれからのことを考えるそう。


 そしてみゅんみゅんちゃん達は――悪魔族の人達とセイントさん、そして新しく加わったベルゼブブさんと一緒に、アクアロイアに向かうらしい。


 それを聞いて、私は「道中は本当に険しいから、気を付けてね」と、控えめに微笑んだ。


「いい? 砂の国は危険だから、危ないって思ったらすぐに助けを求めなさい。ヘルナイトに」

「え、えっと……、うん」

「そこは兄である俺じゃなくて?」


 みゅんみゅんちゃんは真剣な目つきで、そしてかっしりと肩を掴まれながら、鬼気迫るその表情で言われた私は、おっかなびっくりになりながらみゅんみゅんちゃんの顔を見て頷いた。


 アキにぃはなんだか、みゅんみゅんちゃんの言葉に対して不満を抱いたようだけど……、誰もその言葉に返答しなかった……。


「き、気を付けてくださいね。シェーラちゃんも気を付けてね」

「子供扱いしないで。これでも強いのよ」

「シイナ。あまりシェーラを子供扱いするな。マジでこえーぞこいつ」

「…………そ、そうなんだ……、わ、わかった」


 キョウヤさんとシェーラちゃんも、シイナさんと楽しく会話をして、ベルゼブブさんはヘルナイトさんにお礼の言葉を投げかけながら頭を下げている。それを見て聞いたヘルナイトさんは気にすることじゃないと言って頭を上げるように言っていた。


 そして――


「そろそろ行かないと、日が暮れたら大変だ」


 ベルゼブブさんは空を見上げて言った。


 私も空を見上げると、太陽が日が沈む方向に向かって傾いていて、お昼が過ぎたことを認識させた。


 それを見て、アキにぃは慌てながら「だったら急ごう! それじゃ! お世話になりました! では!」と、せかせかと走りながら進もうとし、それを見ながらキョウヤさんとシェーラちゃんはシイナさん達に向かって手を振りながら「またな!」と、キョウヤさんが言い、シェーラちゃんも強気な笑みを浮かべて「どこかで会いましょう」と言って、アキにぃの後を追いながら走って行ってしまった。


 私はそれを見て、クスッと笑いながらみんなに付いて行こうとすると――


「魔女のこと――言っていなかったな」

「?」


 ベルゼブブさんに止められて、私はベルゼブブさんの方を見るために振り向くと、ベルゼブブさんは私を見下ろしてこう言った。


「この先にある――エルフの里に魔女がいる。ヨミが言っていた。『その魔女は』と」

「……未来」

「行ってみたらわかる。そして――村を救ってくれて、ありがとう」

「………いいえ、みんながいたから、ここまで来れたんです」


 そう控えめに言うと、ベルゼブブさんはふっと微笑みながら「謙遜だな」と言った。


 それを聞いた私は首を傾げたけど、遠くからヘルナイトさんの声を聞いて、私はベルゼブブさんとシイナさんに頭を下げながらお礼を述べて、みんなが向かった方向に走る。


 走ろうとした瞬間――


「ハンナー!」


 みゅんみゅんちゃんは大きな声で叫んで、そして手を振りながら、強気な笑顔で――


「気を付けなよー!」と、言った。


 それを聞いて私は頷きながら控えめに笑顔を向けて――


「うんっ! 行ってくるね!」と、手を振ってみゅんみゅんちゃんと一時別れを告げて行く。


 この先の――ガーディアンがいるであろう、広大な砂の大地に向かって……。


 そして、その十分後――




 私達は後悔することになる。



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