PLAY40 終わりの傷跡と道 ⑤

「え……?」


 私はそれを聞いて、言葉を失った。


 ううん。出たけど、あまりに唐突なことを聞いて頭が真っ白になって、それ以上の言葉が出なかったと言った方がいいだろう。


 みんなが真っ白になったに違いない。ううん……。それも違う。


 ヘルナイトさんとキクリさんは――やはりという顔をして、腑に落ちないけど、認めなければいけないという気持ちで……、私達と一緒に……。


 ベルゼブブさんの話を聞いていた。


 その話を簡単にすると……、本当に簡単にすると……。




 ベルゼブブさんはヨミちゃんを――食べた。




 村やみんなのため、そしてベルゼブブさんのために、ヨミちゃんは覚悟を決めたらしい……。


 でも……、でもしかしだ……。


 それが指すこと。


 それは……。


「それって、ヨミちゃんを殺したの?」


 なんで? 


 ロフィーゼさんはツンッとした顔をして、腕を組みながらベルゼブブさんに聞いた。


 そう、ロフィーゼさんの言う通り、ベルゼブブさんはヨミちゃんを食べた。


 殺したといっても過言ではない事実だった。


 それを聞いたベルゼブブさんは……。


「……そう、だ」


 と、申し訳なさそうに、そして悲しそうな顔をして言うと、それを聞いていたシェーラちゃんはロフィーゼさんと同じように腕を組みながら……。


「もっとマシな方法があったはずよ」


 と、怒りが含まれているような音色と視線で言って――続けてこう言う。


「私やアキは知らなかった。カオスティカだって知らなかった。でもわかることはたった一つだけある。なんで殺すことが幸せだという結果になるの? それは単純な理由で、自分がいなくなればそれでいいっていう思考回路……、理解できないわね。ヨミはもしかして、頭」


「てぇぃっ!」


 と言いかけた瞬間、キョウヤさんはベルゼブブさんの殺気を目の辺りにし、すぐにシェーラちゃんの口をばしんっ! という音を出すように塞いだ。


 それを受けたシェーラちゃんはぎょっとしながら驚き、「むごぉっ!?」と言う声を上げながらモガモガと暴れて、キョウヤさんの拘束から逃れようとしていた。


 それを見て、ジルバさんとアキにぃは隠れながらグーサインを出していたのに気付いていたのは、私だけだったのかもしれない……。


 キョウヤさんはシェーラちゃんを抑えながらこう聞いた。


「てか……、なんで今になって……?」


 ベルゼブブさんは、そっと背後にいたみゅんみゅんちゃん達を見て、そして良しと言う感じで頷きながら、「ん、んんっ!」と、喉を慣らすように唸った後、彼はこう言った。


 声が戻ったとしても、何年もの間声が出なかったんだ。それは慣れるのに時間がかかるだろう……。


 そう思いながら、私はベルゼブブさんの言葉を聞く。


「村の襲撃があったせいで……、ヨミはひどく心を痛めていた。今まで背負っていたそれが爆発して……」

「今に至ったってことか……? でもよー」


 と言いながら、ブラドさんは困ったように腕を組んで、ベルゼブブさんに向かってこう言った。


「もうちっといい方法があったはずだぜ……? そんな極端な選択肢よりもいい選択肢ってのがさ……」

「……ヨミは、魔女だ」

「うん……」


 ベルゼブブさんの言葉に、ブラドさんは頷く。そしてベルゼブブさんは続けてこう言う。


「魔女であるがゆえに……、ひどく心を痛めていた」

「うん……」

「村のこと、そして俺達のことを考えて……、ヨミはずっと、心を痛めていた」

「うん……」

「どうしたらいいのか、自分でも考えていた。俺も考えたが……、結局、いい案が思い浮かばなかった」

「どんどん雲行きが怪しくなってくるけど、まぁとりあえずうんって頷いておく」

「だから、そうするしか」

「はいやっぱりこうでしたっ! っていうかそれが極端だって言ってんだってっ!」


 ブラドさんは驚きながらも、怒りを含んだ声を上げて突っ込んだ。そしてベルゼブブさんに向かって指をさしながらこう言った。


「大体なんでそんな風に命を投げ出すんだよっ! ひょっとしたら病だって治せたかもしれねぇっ! 何より村の人達の意見も」



「もういいんだ」



「そうだもういい……、ううん?」


 ブラドさんは素っ頓狂な声を上げて、その声がした方向を見て、ぎょっと目を丸くした。私やみんなも、声がした方向を見ると、そこにいたのは――


「あ、村長さんに、おじいさん達……」


 私は驚きながら声を出すと、みんながその方向を見て驚きを隠せずに、目を点にしながらその光景を見ていた。


 その光景――それは村長さんをはじめ、村のおじいさんやおばあさん全員がその場所に集まって、俯きながら私達の前に現れたのだ。


 それを見た私は、少し躊躇いながら「ど、どうしたんですか……?」と聞くと、それを聞いて、最初に口を開いたのは――


「もう、いいんだ。これは――あの子が決めたことなんだ」


 村長だった。


 村長は私達に向かって、私達の驚きを見ながら、こうなることが分かっていたかのような顔をして、目を伏せながら言った。


 それを聞いていたアキにぃは「いやいや……」と首を振りながら、腰に手を当てて、そしてそのあと、低い音色で――


「それこそ意味わかんないって」と、理解できないし、怒りが収まらないような音色で言った。


 それを聞いていたシイナさんもむっとしながらも、おどおどとして――


「も、もういいって……、なんでそんな風に、軽く受け入れるんですか……? ヨミちゃんは、まだ十六歳ですよね? おれよりも年下で、きっとまだ生きたいって思っていたはずです。なのになんであんな風に、そして、なんで死ぬことでい幸せになれるんですか……?」


 もっと、別の方法があったんじゃないんですか……?


 シイナさんは静かな怒りを見せながら言った。


 それを聞いていた私とキョウヤさんも、ヨミちゃんが死にたがっていたことは知っていたとしても、その詳しい理由は知らない。


 ただ、村の人達のためとか言っていたけど……。


 それでさえも曖昧なものだった。


 私はキョウヤさんを見上げる。キョウヤさんは私を見下ろして、同じことを考えていたのだろう。こくりと頷いて、キョウヤさんはすっと手を上げながら「あのー」と言うと……。


「それってさ」


 唐突にジルバさんが声を上げて、すたすたと村長さんに歩み寄りながら、ジルバさんは飄々とした笑みを浮かべて、村長さんを見ながらこう言った。


 へらりと笑って――不謹慎な笑みを浮かべて……。




「もしかして……、?」




 それを聞いた村長やおじいちゃん達は、はっと息を呑んで一気に青ざめた。


 ぶるぶると震えるその体を抱きしめている人。かちかちと歯軋りをしている人。そして……、がくがくと体を震わせて、手と手を合わせながらぶつぶつと何かを唱えている人。様々だった。


 それを見て、私は慌てながら「ど、どうしたんですか……?」と聞くと、ジルバさんは肩を竦めながら、飄々としているけど、それでもそうであってほしくなかったという顔を表に出しながら「あぁ……、やっぱりネ」と、力なく言った。


 それを聞いていたセイントさんは、村長さんと顔見知りだったのか、村長さんを見て慌てながら「どういうことだ……っ? ケビンズは知っているのか?」と、ケビンズさんを見ると、ケビンズさんは首を横に振りながら否定のそれを見せた。


 みゅんみゅんちゃんたちも、ケビンズさんと同じように――


 それを見て、村長はすっと顔を上げて、観念したかのような顔をして、私達に話してくれた。


「この村は、確かに水と砂の国境と言われています。しかし厳密には、バトラヴィアの領地。すなわちバトラヴィアの法に従わないと……、国民は処刑されてしまうのです」

「処刑……? 法って、法律のことよね……? それと今と、何の関係があるのよ」


 シェーラちゃんが疑念の声を上げたけど、結局理解ができないような怒りの音色を張り上げながら村長さんに言うと、村長さんはその声に臆することなく、村長さんはこう言った。


「処刑の名は『魔女狩り』。その名の通り――魔女を帝都へと連れて帰って、絞首刑にするものだ。しかもその魔女を庇護、匿ったものも処刑。その場合は『魔女共謀罪』にて、火葬の刑にされてしまうのだ」

「…………それって、まさか……」


 私はそれを聞いて、ヨミちゃんが何であんなにベルゼブブさんに殺されたかったのか。なんとなくだけど、わかってきた。


 ベルゼブブさんのために、自らの命を捧げることが本命だったのかもしれない。でも今はその真意はわからないままだ。でも……。確信したことがあった。


 村のため。


 これはまさか……。


 私は震える口を開けて、村長さんを見て――こう言う。


「もしかして……、……?」


 その言葉を聞いたみんなは、はっとして村長さん達を見る。そして、納得した。ヨミちゃんの気持ちが分かった瞬間だった。


 村長さん達は、俯きながら肯定も、否定の素振りを見せなかった。でも――私達の世界には、こんな言葉がある。


「……無言は、肯定か」


 キョウヤさんが頭を垂らしながら、溜息交じりに言うと、それを聞いていたベルゼブブさんは、私達を見てこう言った。


「九年前の話だ。この村に、バトラヴィアの兵士が来た。そのたびにヨミを連れ去ろうとしたのを見て、俺は力を使って追い払ったことがあった。それ以来、この村に兵士が来ることはなかった」

「しかし――その前に何度か、バトラヴィアの兵士が来て、ヨミと、ヨミの母を連れ去ろうとした。しかしそれを止めようと、村の若い者が前に出て戦いを挑んだ。しかし……」


 ベルゼブブさんが言うと、村長さんはそれを聞いて首を横に振りながら言った。それを聞いて、ロフィーゼさんは頬に手を添えながら……。悲しそうにこう言った。


「結果……、老人だけの村となってしまった。って、ことね」


 こくりと、頷いた村長。


「その中には、村長の息子や、わしの孫もおった。だが魔女を匿ったという罪を着せられ、みなここ村の中央で――磔にされ、火にあぶられた。儂らの目の前で――しかもヨミの父親を攫ってのぉ……。だからあの子は――儂等のために自ら命を擲って、この村を、『魔女がいる村』ではなく、『ただの村』にしたかったのじゃ。魔女さえいなければ、この村を狙うことは、そうそうないからのぉ」


 その話を聞いて、レディリムおばさんがすたすたと私達に近づきながら、悲しそうに思い出しながら言う。それを聞いて……、私はここでも、胸の奥からくる苦しい感情を抱いた。


 アルテットミアではなかったことが、ここではいっぱいある。ありすぎる。


 亜人の郷や、この村は――悲しいもしゃもしゃで埋め尽くされている。


 クルク君のお母さんは、みんなを守るために――村に結界を張った。


 ヨミちゃんは――この村のために、自分が犠牲になって、この村を守ろうとしたんだ。


 私は間違っていた。


 苦しい誓いなんかじゃない。これは――優しすぎる誓いだ。


 村のため、ベルゼブブさんのために、ヨミちゃんは己の命を捧げた。


 自分を生贄にして救おうとしたんだ。


 みんなが俯きながらそれを聞いて、初めて聞いたような顔をしたケビンズさんは、村長さんを見て――


「で、でもヨミちゃんはそんなことぼく等には……っ!」と言うと、それを聞いていたレディリムおばさんは、ケビンズさんを見て「当り前じゃろうが」と言って――びしっと指をさしながらこう言った。


「あんた達は冒険者。いちいち村のことに首を突っ込んでも埒が明かないだろう? それに」


 レディリムおばさんは、ずばんっと、はっきりとした音色でこう言った。




「――?」




 それを聞いてケビンズさんはうっと唸るような顰めた顔をして、みゅんみゅんちゃん達はそれを聞いて、俯いたり、そして腑に落ちないような顔をしていたけど、反論できないような顔をしていた。


 私はそれを聞きながら、思い知らされてしまった。


 そう。この世界での私たちの立場は――冒険者。


 異国の冒険者にして――


 よくある他人の家事情に首を突っ込むなと言うそれで、ヨミちゃんも、ベルゼブブさんも、そして村の人達も、誰もみゅんみゅんちゃん達に伝えることがなかった。


 信頼していない。疑心しているわけではない。


 ただ、関係ないから言わなかっただけ。


 その言葉を聞いた誰もがが、熱くてかたい隔ての壁を感じるだろう……。私も、そうだ……。


 正論を言っていたのだろう、レディリムおばさんは首を傾げながら私達を見ていたけど……、それが普通だったのかもしれない。


 そう思いながらヘルナイトさんを見上げる私。


 ヘルナイトさんは私を見下ろして、そっと頭に手を置きながら――ゆるゆると撫でて、私を見下ろしながらこう言った。


「……言っただろう……? 酷だと」


 その言葉を聞いて、悪いことをした問う顔をしているヘルナイトさんを見て、私は首を横に振って、大丈夫という意思表示をした。


 キクリさんはジルバさん達の前に立ちながら――


「確かに、関係ないと思うわ。でも――」


 と言って、くるっと村長さん達の方を振り向きながら、キクリさんはこう言った。にっと笑うわけでもない。ただむっとして、真剣に怒っているような顔をして――こう言った。


「その関係ない人達に助けられたことは事実よ。この村があるのは――ヨミと、ここに偶然いた冒険者のおかげ。少しは言葉を選んでほしいわ」

「う……」


 レディリムおばさんは唸りながら驚いて、そして申し訳なさそうに小さく「……すまないね」と、私達を横目で見て謝った。


 ジルバさんは飄々と笑いながら「いえいえー」と、手を振りながら言うと……。




「おぉ。ここにいたのですね」




『!』


 それは、突然聞こえた。というか――突然上空から聞こえた声と、村を覆いつくすような黒い影を見て、私とアキにぃ達、村の人達はすぐに上を見上げた。<PBR>

 そして――言葉を失った。


 絶句した……、の法がいいだろう。


 だって――村の上空に青紫の鱗の魔物が、村を……、というか視野に入りきらないような大きなドラゴンが、村の上空を飛んでいた。鋭い鉤爪に、筋肉質の体。あとあるとすれば……、しょーちゃんのような黒い刺青。


 それを見て、誰もが言葉を失っていると……。


「っ! あれは……っ!」

「うそでしょぉ……っ!?」

「…………、なんで」


 ヘルナイトさん、キクリさん、そしてベルゼブブさんが驚きの声を上げながら、それを見上げていると、ドラゴンはぐるぅっと唸りながら私たちを見下ろして――


『ほほぉ……、九年ぶりの再会じゃなぁ。ベル坊よ』


 え? 喋った? 私は驚いてしまった。みんなが驚いてしまっただろう。口をあんぐりと開けながらそれを見て、そしてそれを見た村の人達は、わなわな震えながら地面に額をこすりつけるような頭の下げ方……、いうなれば土下座なのだけど、それをして「あああああああ」と、驚きと歓喜、そして委縮するような声を上げて、頭を下げていた。


 それを見て、ミリィさんは首を傾げながら「どーしたんですかー?」と聞くけど、誰も答えない。


 上空を飛んでいるドラゴンは言った。聞いた。


『声が戻っておったか。つまり王の命令を聞いたということか。やれやれ。少しは老いぼれを労われ。危うく百年の眠りにつきそうじゃった』

「聖剣の封印みたいな年月だなっ!」


 思わずキョウヤさんが突っ込みを入れて驚いていると――


「これっ! 無礼だぞっ! 早く頭を下げたほうがいいっ!」と、村長さんは慌てながら私達に向かって言った。それを聞いて、ごぶごぶさんは「はて?」と言いながら――


「いったい何の話ですかい?」と聞くと、村長さんはわたわたとしながら顔を少し上げて、私達に向かってこう言った。



「あのお方は――悪魔族の一人にして、最古の悪魔族……。怠惰のベル・ヴェルフェ様だぞ……っ!?」



 それを聞いて、誰もが目を点にして、そしてバッと上を見上げた瞬間――



『ええええええええええぇぇぇぇぇーっっっ!! 悪魔族ぅっ!? あのドラゴンかぁっ!?』



 と、叫んだ。


 私は叫ばないでそのドラゴンを見上げて、あれが悪魔族……、と思いながら、そのドラゴンを見上げていた。圧巻的なそれを見て、無意識にぶるりと身震いをしてしまった。


 それを見てか、ヘルナイトさんは私の頭に手を添えて、ぐっと自分の背中に私を隠した。


 ヘルナイトさんはそのドラゴンを見上げ、そして剣を持たないで、仁王立ちになっている。私はそれを見て、きゅっとヘルナイトさんのマントを掴んだ。怖いという理由ではないけど……、ただその時はその背中がなんだか懐かしく感じて、思わず握った。の方がいいのかな……?


 そんなことを考えていると――


「あ!」と、キョウヤさんが声を上げて、上空に向かって指をさすと――こう叫んだ。


「人が降り、違うな……。あれは……、飛んで落ちてきたっ!」と叫んだ。


 それを聞いた私達は、再度上を見上げると、本当にキョウヤさんの言う通り――ドラゴンの背中から出てきたかのように五つの影が村に向かって跳んで降りてきたのだ。


 ばさり、ばさりと黒い羽根を羽ばたかせながら……。


 ずっと上から降りてきたので、認識することが遅れたけど、だんだんその姿が鮮明になってきたところで――私は目を凝らしてそれを見ると、五人のうち一人が私達を見下ろしながらこう言った。


「悪魔族が一人――『強欲』の大罪。ベル・デル」


 袖が長すぎて、地面についてしまうのではないかと言うくらい長いそれを来て、チャイナ服の様な服と黒いズボンに、装甲のようなブーツを履いた、耳元にベルゼブブさんと同じ宝石をつけた、アキにぃと同じくらいの背丈の童顔の薄紫色のショートヘアーの男の人。


「悪魔族が一人――『嫉妬』の大罪。ベル・イサラ~」


 女の子のような顔つきで、黒髪のショーヘアー。黒い袖なしの服に、腹部に宝石をつけているけど、手首から下、そし下半身が黒い煤で覆われている少女。


「悪魔族が一人――『色欲』の大罪。ベル・リベル」


 妖艶で、下着のような薄水色の薄い服を着ている、片目を薄水色の髪で隠している、少しく癖毛がある長髪の女性。下半身はウェーブラさんのような魚の下半身で、黒いそれで覆われて見えなかったけど、薄水色の鱗がすごく綺麗に見えた気がする。でも……、なぜか高揚としながらヘルナイトさんを見ているような……。


「悪魔族が一人ぃ! 『憤怒』の大罪ぃ! ベル・エクスタァ!」


 ひゃはははっ! と、甲高い声を上げているのは、黒と灰色を混ぜたような、腕と足、そして胴体が妙に細くて長い鎧を着た、老人なのか、それとも初老なのかはわからないけど、私が出会ってきたどの人よりも年老いているような声色をした人だった。すごく体が細い。それが第一印象だった。その人は誰よりも長身で、右手の甲に宝石を埋め込んでいた。


 みんなが全員、黒い角を頭から生やしている人達だった。それを見て私はふと思った。そう言えばしょーちゃんも悪魔族だけど……、角、なかったような……。と思っていると……。


 最後の一人が優雅に飛んで降りてきながら、私達を見下ろしてこう言った。


「悪魔族が一人にして――事実上悪魔族の首領。『傲慢』の大罪――ベル・リードです。以後、よろしくお見知りおきを。そして、九年ぶりですね。我が同胞――ベル・ゼ・ブブ」


 白髪の髪に黒いタキシードのような服と十字架の詩集がしてあるネクタイ。足は鎧の装甲のようなそれを履いて、黒い手袋をし、首元にはあの宝石を首から下げていた整った顔立ちの人が私達を見下ろして、にこっと微笑みながらこう告げた。


 混乱している私達をよそに、その人は言った。


「突然の訪問失礼いたします。実は、お話したいことがありまして――ここに馳せ参じました。どうか――我々のお話に、耳をお貸しいただけると、幸いです」

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