PLAY43 とある男の災難な一日 ⑦

「っ!」


 カグヤは猛威とも云えるようなガルディガルの剛腕の攻撃を見ながら思った。


 ガルディガルはぎゅるんぎゅるんっと下半身のキャタビラを使い、その場で回りながらコノハや航一の攻撃を退けていた。


 否――拒んでいたの方が正しいのだろうか。


 見た限り――ガルディガルの秘器アーツは攻撃に向いていない。それは初めて見た時の分析通りの結果だ。


 カグヤはそれを見ながら『じゃらり』と鎖を握る力を強めて思った。


 ――見た限り、あれは轢き殺すことを前提にした武器だ。


 ――小回りも大回りも効くけど……盲点は……。


 と思いながらそっとガルディガルのキャタビラを見るカグヤ。そして今まであったことを思い出しながらとある仮説を立てた。


 ――急加速した後で、急ブレーキをかけることはできない。


 ――いうなれば猪と同じ。だからあんな名前なんだ。


 ――でも……、猪だったらまだよかったな。あれは小回りとか苦手みたいな印象あるし……、でもこれは、猪の特性を持ったキャタビラ……つまり。


 と思いながらひゅんひゅんっと鎖の玉を回し、音を出しながら回してそのままガルディガルに向かってそれを投擲する。


 さながら鉄球投げの様に、後ろの先をしっかり掴んで手放さないようにして攻撃を繰り出すカグヤ。


 しかし――


 ――がんっ!


「っ!」


 跳ね返ってしまった弾を見て、カグヤはぐっと顔を顰めてそれを見る。そしてその跳ね返ったその球を見ながら、鎖を引っ張って自分のところに引き戻す。


 その際、ごんっと地面に叩きつけてしまったが、仕方がない。


 そしてわかったのだ。


 あの攻撃では――入り込むスキが作れない。攻撃できないのだから当たり前なのだが……。


 それを見て、コノハと航一はだんっとカグヤの近くまで戻ってきて、戦闘態勢を解かないままコノハはカグヤを横目で見て――


「どうしようカグちゃんっ! あれじゃあ入れないよっ!」


 と、慌てながら言う。


 それを聞いたカグヤも、少しまずいという顔をしながらその光景を見て、「そう……だね」と、何とか言葉を繋げる。


 それを聞いて航一はそのぐるんぐるんっと回って防御態勢をとっているガルディガルを指さして――彼は平然としながらこう言った。


「投げても無理だったら、止まった瞬間に打ち込めばいいじゃねえか」


 航一の言葉を聞いたカグヤは、「っちゃー……っ!」と頭を抱えながら唸って、航一を見ないで内心彼は彼に対して「バカ」と思ってしまった。


 否――本当にバカと言った方がよかったのかもしれない。


 それを聞いていたガルディガルは、ぐるんぐるん回りながら、その状態で目を回していないらしく、航一の言葉を聞いて「ぐあははははははっっ!」と高笑いを浮かべ、彼は回りながらこう言った。


「その言葉を聞いてしまっては、こちらも対策をしなければいけないなっ!」


 ガルディガルは回りながら、とあるボタンを『ガチッ!』と押した。


 すると――


 彼が纏っている鎧から、そして先程出た牙が、さらにはティックディックの足を抉ったあの無数の刃が所狭しと出てきた。


 それを見た航一は、ぎょっと目を見開いて驚きを表し、コノハもそれを見て「えぇーっ!?」と声を上げて驚いたかと思うと、すぐに「ずるーいっ!」と指をさしながら怒りを露にする。


 カグヤはそれを見て頭を抱えて、はぁっと溜息を吐きながら――


 ――やっぱり。と思った。


 ――いや、ああやって回っても攻撃できない。それに秘器アーツって言われても、結局は機械。改造くらいはできるだろう。つまり――回った時の対策も、小回りも改造してできたんだ。


 回りながらでも攻撃できるように、無数の刃を使って攻撃する。


 まるで針車だ。否――だ。


 そうカグヤは思った。


 そんなカグヤ達の顔を見ながら、ガルディガルは「ぐあははははっ!」と高笑いを上げながら、回りながら嘲笑うようにこう言う。狂気の笑みを浮かべながら彼はこう言った。


「これで攻撃できまい! 吾輩はこの前の失態を発条にして、前以上に帝国に貢献した。前以上に帝王のために己の命を注ぎ、救済と確保に勤しんだ! そして隣国の侵略を阻止した! 吾輩は掃討軍団団長! 『アイアン・ミート』一人として、王のため、帝国のため――この命を燃やし尽くすまで、吾輩は貴様等の処刑を諦めたりはせんっ! 否ぁ! ここで処刑する! 必ず遂行するのだぁ!」

「執念と言うか、洗脳に近いような忠誠心だなぁ……」


 カグヤはガルディガルの言葉を聞いて思った。


 それを聞いたコノハは、首を傾げながら「なんで?」と聞くと、カグヤは鎖を手放さないで、ぎゅうっと鎖を握りしめながら、ガルディガルから目を離さないで、彼は真剣な目つきのままこう言った。


「いや……。洗脳って言葉は間違いかもしれない。でも、この人は国のために、そして王のために躊躇いもなく人を殺して、死を救済と謳いながら殺戮を繰り返す。これを洗脳と言ってしまえば軽いもの。これは――」


 カグヤはたらりと汗を流しながら、引きつっている微笑みを浮かべて、彼は言った。



「あれは――もう人ではないよ」



 その言葉を聞いた航一は、ぐっと刀を握る力を強くし、ぎゅりっと刀の柄をへし折るのではないか、そんな音を出しながら、俯いて無言を徹する。


 コノハはそれを聞いて、悲しいのか、イラついているのかわからないような――複雑な感情を抱きながらカグヤを見た。


 カグヤ自身、そう思いたくないのだが……。彼はそっと――ガルディガルの鎧部分を見る。


 鎧の、背中を見て、カグヤは思った。


 ――でも、聞いた話が本当なら……、恐怖心を掻き消す鎧を着ているのなら、勝算はある。


 ――鎧を破壊すれば、きっと戦意喪失するに違いない。


 ――でも……。こいつらの忠誠心めいた狂気は……、伊達じゃない。


 ――きっと、そのアイアン・ミートっていう肩書の元、絶対に僕らを殺すに違いない。


 ――恐怖心よりも、王に対する忠誠心が上なら……、勝算は薄れてしまう。


 ――なにせ僕等を処刑したいがために、虱潰しまでしてここまで来たんだ。侮れないぞ……。この忠誠心。


 そしてよく目を回さないで回れるな……。と、カグヤはそんなことを思いながらその光景を見て、勝利できる打算を組み立てる。


 どうしたら勝てるのか。どうやったら勝てるのか?


 結局……。


 勝算はこれしかなかった。


 秘器アーツを壊す。それしかない。


 そう思ったカグヤは、そっと鎖を握る力を強めて――彼は航一に向かって声をかけようとした。


 その時だった。


 ――ふっ。


「「「!」」」


 三人の間をすり抜けるように通り過ぎる何か。それを感じたカグヤは、前を向いて、目を見開いて――


「――ちょっ!」と声を上げて驚いてしまう。


 コノハも、航一もそれを見て驚きの目をして、コノハは口を手で押さえながら、驚愕の口を隠しながら彼女はこう言う。


「何しているの……っ!?」と言い、彼女は叫んだ。


 今もなお、無数の刃を出して回っている、言葉で表すのであれば、攻撃こそ最大の防御。防御こそ最大の攻撃と言っても過言ではない状態のガルディガルに向かって走るその人を見て……。



 コノハは叫んだ。



「――ズーッ!!」



 そう。


 回っているガルディガルに向かって、鎌を横に持って走り込むズー。


 ガルディガルもそれを見て驚きの目をしたが、すぐににっと狂気の笑みを浮かべる。好機と思ったからだ。


 ――なんと良き日か! なんたる偶然か!


 ガルディガルは射殺さんばかりの眼の色で、ガルディガルを睨みつけて迫ってくるズーを見て、回転の速度を速めながら思った。


 自ら死に向かってくる罪人を見て、彼はにっと笑みを浮かべながら、思った。


 ――まさか救済を求めてやってくるとは! 何たる日よ! なんたる幸運な日よ! これもバトラヴィア帝王のお導き! 恩恵があってこその光景っ! あぁ! あぁ! 吾輩は今――王のために、この罪深きものを救済しようとしている!


 ――そうだ! 救済だ!


 ――すべては……、バトラヴィアのために! すべては……、帝王のために!





 ――吾輩は――王のためならば、この命を失ってもいいっっっ!!――





 はたから見れば、気持ち悪い。なんでそんなにあのハゲの帝王に忠誠を誓えるの? と思うであろう。


 だが彼らは――その王に忠誠を使っている。


 己が命を投げ出すことでさえも厭わない……。絶対的な忠誠心を以て――彼らはその命を王のために捧げる。反逆したものの命も、国民の命を……。


 神である王に捧げることによって、彼らは満たされているのだ。


 神に捧げる貢物を対価に、その神の恩恵を、ありがたい言葉をいただくために、彼らはきっと、無意味な奴隷収集や殺戮を繰り返すだろう。


 非道ともいえる王のために……。


 ガルディガルはそう思いながら、ぐるんぐるんっと目が回りそうな回転をして、迫りくるズーを周りながら迎え撃とうとした。


 ただ、彼は回るだけ。


 攻撃をするのは――秘器アーツから出ている刃たちが勝手に攻撃してくれる。


 回って――斬って、斬って、斬って……斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って。


 切り刻んで殺すのだから。


 彼は回るだけでいい。ただ秘器アーツを操作するだけでいい。


 それだけで、人間は、冒険者は――死ぬ。救済される。救われるのだ。


 すべては――バトラヴィア帝王のために。


 が。


 ズーはそのまま、ガルディガルを真っ二つにするという動作をせず、地面すれすれに、平行になるように鎌を構えて、そのまま横にスイングする様に振り回した。


 ざざっと両足を肩幅くらいまで広げて、腰を捻るように振り回して、ズーはガルディガルの胴体――ではなく、下半身の秘器アーツに向かってその鎌を振りかぶった。


 それを見た三人は、驚きながらそれを見て止まってしまい、ガルディガルはそれを見て何をする気だと思いながら、それを見ていた。


 動きを止めるわけにはいかない。否――止めなくてもきっと、ズーは重傷を負うだろう。


 回転している中、無数の刃がズーの鎌を巻き込んで、そしてズーを切り刻むからだ。


 たとえ傷をつけられなくても、鎌を奪うこともできる。


 どちらにしても、ズーにとってすれば不利。


 そう思い、ガルディガルはそのままぐるんぐるんっと回りながらズーの攻撃を敢えて受けることを選択した。


 それを見たカグヤは、ズーに向かって「ズーッ! 早まるなっ!」と、大声を上げて叫び、そして止めに入ろうと足を踏み入れようとした瞬間、ズーの腰の辺りを見て、はっと息を呑んだ。


 そして――動くことをやめた。


 ズーはそのままぐぅんっと鎌を振り回して、ガルディガルの秘器を壊す勢いで、勢いをつけて鎌を振り回す。


 ガルディガルを狙わず、彼の武器となっている秘器アーツに向かって――




 ギャリィィィンッッッ!




 金属特有の破壊音と切削音。


 そして何かが『ベギンッ!』と壊れる音を聞いたズーは、その音を聞かないように、「………………っ!」と、顔を顰めてその音と光景、更には顔に飛び散る機械の部品や刃物の破片を受けて、顔に至るところに切り傷を作る。


 その間、ガルディガルの回転が遅くなる。それを見て、ズーはもっと腰に力を入れて、切り裂こうとした。秘器アーツを……、横一線に、真っ二つにするように……!


 が……



 バギィンッ! と……。



 


 それを見たズーは、ずりっと、鎌の柄を離し、そのままよろっと立ち眩みをする。


 その光景を見ていたカグヤは、目を疑いながらその光景を見て、コノハと航一はそれを見て、目を見開きながらその光景を見て、絶句していた。


 対照的に――


「ぐあははははははははっっっ!」


 ガルディガルはげらげら笑いながら、その光景を見ていた。


「何がしたかったのだ反逆者! 武器を失い、攻撃を失い、あろうことか傷をつけてまで吾輩を切ろうとしたのか!? いやさ! 吾輩の秘器アーツを切ろうとしたのか!? 何という滑稽な行動! 滑稽な自棄よ! 吾輩のこの状態に傷をつけることなどできんっ! とんだ無駄なあがきだったな! 魔物の小僧よっ! しかしその勇気――賞賛に値する。よって――!」


 と言って、ガルディガルは回転をやめて、その前に出ている牙だけを残して、ズーに狙いを定めながら、ギャギャギャギャッ! と音を鳴らしながら急発進の準備をするガルディガル。そして――


「――貴様を刺突刑に処す!」


 大きな声を上げて言った。


 一気に突っ込んで、牙を使ってズーを串刺しにするつもりだ。


 それを見たコノハは、だっと駆け出して止めようとしたが、カグヤがそれを手で制した。彼女の目の前に、その手を出して……。


 それを見たコノハははっとして、カグヤを見上げながら「なんでっ!? なんで止めるのっ!? 止めないで!」と声を荒げながら叫ぶコノハ。


 航一も前に出ようと刀を持って出ようとしたが、とあるところを見て目を見開いて、そっとその進行をやめる。カグヤはコノハを見下ろしてこう言った。


「いいや、大丈夫だよ」


 カグヤはコノハを見ながら、とあるところを指さして――はっきりとこう言った。


 安心を込めて、彼は言った。





 その言葉を聞いてコノハは首を傾げていたが、カグヤが指をさしている方向を見て、その方向に目をやると……。


「あ」


 コノハは口を開いて、驚きの声を上げた。


 カグヤはそんなコノハの表情を確認した後、カグヤは航一がいる方向に振り向く。航一はそれを見て頷いて――右手のグローブに手をやる。バングルに十分な配慮をして、そのグローブを取ろうとする。


 それを見たカグヤは、コノハを見て――


「この隙を無駄にはさせない。コノハは僕の詠唱が終わるまで拘束。オーケー?」

「お、オーケーッ!」


 コノハはびしっと手を上げながら元気よく返事をする。しかしその表情には焦りが含まれており、余裕ではないことが目に見えた。


 それでも返事はいい。気合も十分の様だ。


 それを見たカグヤは頷き、今まさにズーを殺そうとしているガルディガルを見て、そっと右の掌をかざした。


 ガルディガルはボロボロになったズーを見て、すでに急加速の準備と済ませているキャタビラにギアを動かして、『ギャギャギャギャギャギャッ!』と鳴っているそれを、すぐに加速に切り替えようとした時……。





 





「?」


 どこからか、火花が散る音が聞こえた。付け加えて言うのであれば……、少し焦げ臭いと言った方がいいだろう。


 その音と臭いを感じ、そして嗅いだガルディガルは、きょろきょろと頭を左右に振りながら、その根源を探す。


 今いいところだったのに。そんなことを思いながら彼はその異様な音を聞いて、どこにあるのかと探した。


 目の前にはズーしかいない。


 きょろりと左を見てもない。きょろりと後ろを見ても壁だけ。きょろりと右を見た瞬間……。


 視界に入った茶色い煙。


「っ!」


 それを見たガルディガルは、その煙が下から出ていることを見て……。


 ――まさか、故障かっ!? オーバーヒートかっ!? と思いながら、すっとすぐに右の下を見た瞬間……。


「っ!? ぬぅっ!?」


 と、驚きの顔をして――否、それ以上に、驚愕のそれを作り上げて、その右わきの近くにあるそれを見て、彼は声を上げた。


 ズーはそれを見て、にっと笑みを作りながら、すっと流れるように立ち上がって、そのままカグヤのところに向かって急いで走る。


 ガルディガルはそれを見て、驚愕と混乱が混ざった顔をして、あせあせとその右わきの……秘器アーツの上に置いてあるそれを見る。


 ガルディガルが、みんなが見たそれは……。


 じじじじじっ! と、短くなっていく導火線。その先にあるのは――爆発の根源……。




 だ。




 それを見たガルディガルは、もう導火線の紐があと一ミリと言うところで、それをガシッと掴んで投げようとした時――否、掴んだ瞬間と言った方がいいだろう……。


 導火線の紐が消え、それと同時に来たのは……。



 ボォオオオオオンッッッッ!



「あぎゅあっっ!」


 轟音ともいえるような爆発。そして爆発の熱気にその時発生した突風。


 それを受けて、カグヤ達は目を隠しながらその熱気と突風。そして爆発音とばらばらと散らばる小石。


 ダイナマイトの爆風とその余波を受けながら、カグヤ達はその一瞬の爆破が終わるのを待った。


 一瞬が少し長く感じられた。


 そんな気がした。


 そしてその余波も、何もかもがなくなり、焦げ臭いにおいだけが残ったことを感じながら、カグヤとズーはその光景を、腕を取り払って見た。


 見た瞬間――戦況はカグヤ達の方に傾いていた。優勢に――


「う……っ! うぐぅ……っ!」


 ガルディガルはボロボロになった体と焦げた肌、そして半壊してしまい、びりびりと青い電流が漏れ出してしまっている秘器アーツを見て、愕然としてそれを見ていた。


 ――ま、まさか……っ! そう思いながらガルディガルは先ほどのダイナマイトを思い出した。


 ――あのダイナマイト……、確かあの仮面の男が持っていた……っ!


 と、思いながらきょろきょろと、彼はティックディックを目で探す。


 すると――


 だっと駆け出してきたコノハ。


 それを見たガルディガルは、壊れて機能しない足のまま、動けずにコノハの接近を見ることしかできない状態でいた。


 しかしガルディガルも軍団団長。秘器アーツが使えないからと言って戦えないわけではない。


「う、う、ううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!」


 ガルディガルはあらんかぎり叫びながら、ぐわりと右こぶしを振り上げる。ただの殴りなのだが、コノハくらいの子供ならばこれで殺せる。そう思ったガルディガルは拳を振り上げて攻撃しようとした。


 しかしコノハは、それを見てたんっと跳躍して『豪血騎士ブラットゥ・ナイツ』と共にガルディガルに急接近して――


 ぶんっと、両手を広げたコノハ。


 それと同じことをするように、『豪血騎士ブラットゥ・ナイツ』もそのまま両手を広げ、二人同時にそのまま手をぶんっと――叩くように勢いをつけて、手を叩いたコノハ。


 ぱぁんっという音が出るのと同時に――


 がしりとガルディガルを掴んだ『豪血騎士ブラットゥ・ナイツ』。


 それを受けて、ガルディガルは更に驚きで顔を染めて、ぐっぐっと体をくねらせながらその拘束から逃れようとする。


 しかし下半身がキャタビラなので、抜けるということはまずできないだろう。


 コノハはそのままスタンッと、ガルディガルの近くに足をつけて着地し――後ろを振り向きながら彼女は叫んだ。


「カグちゃんっっっ!」


 その声を聞いて、ガルディガルははっとしてそのカグヤがいる方向を見ると、彼は仁王立ちになりながら、右手を突き出して、その手の平を見せながら立っていた。


 右手から光を出しながら――彼はかっと見開いて叫ぶ。



「――『白き楔の呪縛ホーリー・ジェイル』ッ!」



 刹那。


 カグヤの掌から、ばしゅっ! という音とともに出てきた、六本の白い鎖。


 勢いをつけてガルディガルに向かって跳んでいく白い鎖。それを見たコノハはすかさず『豪血騎士ブラットゥ・ナイツ』を消して、その場から離れる。


 ガルディガルは一瞬の自由を手にしたが、すぐに来た白い鎖の雁字搦めを受けてしまう。体に巻き付く白い鎖は、ある程度巻き付いた後にばしゅっと壁や地面に向かって突き進み、そのまま地面や壁に突き刺さってしまう。


 それを受けて、じゃらりと体を動かして拘束から逃れようとしたガルディガルだったが……。


「無駄ですよ」


 カグヤは冷静に、はっきりとした音色で言った。


 ガルディガルは見る。すっと手を下ろして、己をじっと見ているカグヤを見て――カグヤは言った。


「その詠唱――通常ですけど、かなりの拘束力はあります。ドラッカーが使うスタン系と思ってほしいです。それが巻き付いている間、あなたはすべての四肢がスタンされて、動けません。と言っても……」


 そんな足だから、逃げることなんでできませんよね?


 と、カグヤは言った。


 それを聞いたガルディガルは、ぎりっと歯を食いしばりながら、言葉にならないようないら立ちの声を上げて、カグヤを睨みつける。


 しかしカグヤは動じない。


 そんな彼を見て、すっと目を細めながらカグヤは、後ろにいる彼に向かって、こう言った。


「それじゃ――あとはお願い」


 と言って、カグヤは横にずれて、後ろにいる人物に後のことを譲った。


 コノハもその人を見て、少し不安そうな声を上げて「殺さないでねっ!」と念を押す。


 すると――そのカグヤの背後にいた航一は、目を閉じた状態で、すっと口を開いて……。


「わかっている」と、さっきまでの陽気そうな音色とは正反対の、凛々しい音色で彼は言った。


 それを見たガルディガルは、少しの間疑念を抱いたが、それはすぐに消え去る。


 航一は両手でその大きな刀を持って構え、そのまますぅっと上に上げ――息を吸う。そしてそっと目を開けた瞬間。


「っ!」


 ぞわりと、彼は青ざめて航一を見た。そして発覚した。さっきの疑念の正体は……、航一から放たれる魔力。さっきの近いものを感じたから、彼は変だと思ったのだ。


 その殺気もとい魔力は、先ほどの航一とのそれとは別格の、桁違いのそれを放っていたのだ。


 航一はすっと目を開くと――その目は、先ほどの眼ではなかった。


 その両の眼に浮き出たものは……。


 宝石アンタークチサイドのような白と銀色が混ざった目。そしてその瞳の中にあるひし形のマーク。それは――


 それを見たガルディガルは、ふっと――航一がそれを振り下ろす瞬間まで、彼は航一を見て、こう思った。


 ――ま、まさか……っ! 


 航一は思いっきり大きな刀を振り下ろす。


 ――この男……。まさかっ!


 振り下ろした刀は、地面を叩き割るように振り下ろされ……。


「――っはぁ!」と、航一が叫んだと同時に、ばがぁんっと、地面に叩きつけた刀により、地面は割れて、その裂け目に沿うように――ガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と、刀と一緒に出てきた衝撃波の道を作って、衝撃波はガルディガルに向かっていく。


 よくある――斬撃波のようなそれを、横穴の上をも切り裂くようなそれを出して!


「う、うううううううっ! うううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」


 ガルディガルは叫びながら拘束から逃れようとする。


 しかしほどけない。むしろきつくなった気がした。


 気がしたと思うと同時に目の前が斬撃波の光によって一瞬光ったと思った瞬間、ガルディガルははっとしてその方向を見て――


「ううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!」


 迫り来るその斬撃波を受けたかのように、すべて白く染まり呑まれていき――


 ――ドォオオオオオオオン!


 と、岩の山から地鳴りのような振動が起きたのだ。轟音とその振動のせいで、山の形が一夜にして変わったのは――言うまでもない……。


 それを見て、航一はそっと右手のグローブをつけて、ふぅっと息を吐いた。


 吐いたと同時に目の色も元に戻る。それを見たカグヤは汗を流しながら「お疲れ」と言った。航一は肩をぐるんぐるんっと回しながら少し嫌そうな顔をし、気絶しているガルディガルを見て――


「俺っちああなると、すげーシリアス顔になるから嫌なんだよ」と、陽気な音色で、むすくれた顔をして言う。それを聞いたカグヤは、乾いた笑みを浮かべてはははっと笑う。それを聞いてコノハは近くにいたズーを見て笑顔で「お疲れ!」と言って――


「でもよくダイナマイトなんて持っていたね! 買ったの?」と聞くと、ズーはそれを聞いて首を横に振りながら……。


「いいえ。あれはあの仮面の人からもらったんです」と言った。


「仮面って……、ティックディックさんのこと?」

「そうです」


 カグヤの言葉にズーは頷き、ティックディックがいるであろうその場所に顔を振り向きながら彼は言う。


「『これを使え』って言われたので、まぁ使ってみましたが――あれは………あれ?」


 と、ズーはきょとんっとしながらその場所を見た。三人もその場所を見ながら、疑問符を頭に浮かべて見回す。すると――


「「「あれ?」」」


 三人もその場所を見て――誰もいないその場所を見て、疑問の声を上げた。


 その場所にいたのは――カグヤ達四人とガルディガルのだけ。


 あとの一人は、すでにこの場所からいなくなっていた。



 ◆     ◆



 彼の名前はティックディック。


 エンチャンターにして、復讐出来なかった男。


 ティックディックにとって長くて、最悪な一日は、静かに幕を下ろした。


 ティックディックは轟音が出た岩の山を見ながら、砂嵐が吹き荒れる世界へと足を踏み入れ、そのまま砂に呑まれるかのように消えていく……。


 これは――ハンナ達の物語と並列に起きた物語。


 彼は一人――ただただ……、目的もなく、ただただ彷徨い続ける。


 たった一人で――この世界を……。

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