PLAY44 エルフの里の魔女 ①
そして――時は次に日に切り替わる。
その場所は砂の国の西方に位置する集落。砂の国と言う環境こそ最悪な状況の中、強かに生きるために生態系を変えた種族――
その場所は砂嵐が激しい地帯で誰も寄り付かない。だが彼等はその砂嵐の中でも歩ける目と足、そして五感を有している。
ゆえに砂嵐が起こったとしても彼等はその中を歩くことができる。それであるが故、集落の周りは常に砂嵐で覆われているのだ。
外敵から身を守る盾として、自然の盾を使って集落を守っているのだ。
その集落の門の前にいる数人の蜥蜴人。
その者達は黒い蠍に跨りながら数人の少数編成で門の前――砂嵐の向こうを見ている。
その一番先頭にいた一人の蜥蜴人は――その砂嵐を見て物思いに耽っていた。
薄黄色の鱗を持った姿でシャズラーンダとは対照的な痩せ細った体格。腕や足も細いが、その足の指の間には、砂地で生き抜くために培われた足かきがある。
手首足首にある宝石が埋め込まれた腕輪に足輪。腰には白い布が巻きつけられて、その長さは
オスはぐるんっと背後にいる簡素な鎧と長い槍を携えた……、鉄の首輪をつけている蜥蜴人達に向かって――こう叫んだ。
「諸君よ! 此度もあの場所に向かうぞ! 今日こそ我が悲願を達成するときであるっ!」
『おぉっ!』と、背後にいた蜥蜴人達は声を上げて頷く。
その声を聞いた顔を布で覆い隠した蜥蜴人は『うんうんっ』と頷きながら腰に手を当て、そして空を見上げるようにして……、否、殆どの日中は砂嵐で覆われているため、集落の空は黄色の砂嵐の空だ。
その空を見上げたせいか、ばさりと布が風で靡いてしまったが、そんなことお構いなしに――
黒い瞳孔のその蜥蜴人は……、その砂嵐空を見上げながら――思い出にふけるようにしてこう言う。
「今日こそ……、今日こそ……っ! 私のこの想い、届いてくれっ!」
ぐっと胸の辺りで握り拳を作りながら、苦しそうな音色と共に彼は言う。<PBR>
因みに……。
先ほど彼はこんなことを言っていた。『此度も』と――
つまるところ、今回もその場所に向かうと言っている。そして簡単に言うと、これを毎日、何回も繰り返しているのだ。
一人の蜥蜴兵士はその光景を見ながら――懲りないなー。と思った後……。
次にこう思いながら呆れて目を細めた。
――もうこれで千五百六十二回目か……。
そう思いながら、彼は手に持っていた紙と炭を使って、ごりっと今回の回数を入れて……、千五百六十三回目の記録をつけた。
そして蠍に括り付けていた手綱を手に持ち、ばしんっと叩きながら、先頭にいる蜥蜴人はその砂嵐の先を指さしてこう叫んだ。
高らかに叫んだ。
「行くぞ皆の者! 今日こそは――」
ざしゅっと、砂地を蹴る蠍の足。それと同時に、ザザザザザザッ! と、砂地を警戒に蹴って走りながら、先頭に続いてほかの蜥蜴人達も続いて行く。
そして、砂嵐の中に入る瞬間――先頭の蜥蜴人は再度高らかに叫ぶ。
「今日こそあの者の心を射止めるぞっっっ!!」
『お、おぉーっ!!』
………背後にいた蜥蜴達が、言葉を詰まらせたのも理解できる。
少人数だけど、今回の件でこんな大人数編成。しかも戦地に飛び込もうという雰囲気だったのが、まさかの告白をするために向かうだなんて……。
先ほど記録も、その回数であり、イコール振られた回数と言っても過言ではない。
その記録をした兵士は、そんな光景をすっと目を細めて冷めた目で見ながら……、こう思った。
――なんで告白をするだけなのに、こんな大人数で行かなければいけないんだろう。
――せめて一匹で行けって。バカ息子。
そんなことを思いながら、彼らはあれに荒れる砂嵐の中に入って行ってしまった……。
さて――そんなことになっているとも知らないハンナたちは……。
□ □
私達は一時期の徒党を組んだ後、私達の要件もあって、そしてその道の方が安全ルートということもあり、私達は情報収集もかねて……、エルフの里に向かって足を進めていた。
でも………。
「あ、あつぃ……っ!」
「この地に涼しいっていう言葉はないんすか……っ?」
「それがあったら天変地異ですよー……」
紅さん、スナッティさんにリンドーさんが、よろよろと歩きながら力なく言う。
それもそうだろう……。
今日も今日とて……、砂漠ということもあって……熱いのだ。
みんなしてよろよろと重い足取りで歩きながら進んでいるけど……、この暑さは異常だ。そう思いながら私はそっと腕で顎を伝っている汗をぬぐいながら思った。
「な。何なんだよこの暑さ……っ! あそこと比べたら異常じゃねえの……?」
「まるで北に行くにつれて、暑くなっていくような感覚だな」
ギンロさんと、ダディエルさんはよろよろと歩きながらそんな会話をして、それを聞いていたキョウヤさんも、「確かにな」と言い、ぐっと額の汗を腕で拭いながらこう言う。
「国境の村を出てからはあんまり暑くなかったけど……、だんだん歩いていくうちに暑くなっていやがる……、異常気象かよ……」
「あんた私達がいるところでそんな発言しないでむかつくし殴りたいのよ」
「おいおいおーい。そんな区切りもしない早口を、よく舌を噛まずに言えたなー。暑さのせいで頭がおかしくなっているのはわかるが、シェーラ……。少し口閉じててくれ」
シェーラちゃんの早口のような、区切りのない (『、』や『。』を指す) 言葉を勢いをつけて吐きだしを聞いたキョウヤさんは、背後にいるシェーラちゃんを見ないで突っ込みを入れる。
それを聞いていたメウラヴダーさんは、驚いた眼をしてキョウヤさんを見ていた。
「ティズ。お体に異変はありませんか?」
「うん。大丈夫」
「もし異変がありましたら、私に何でも言ってくださいね」
「うん。大丈夫」
後ろから声がするのでその方向を見てみると、その場所にいたのはティズ君とティティさん。ティティさんは至近距離でティズ君に話しかけながらわたわたとしていた。
それを見ていたティズ君は、無表情でティティさんを見上げて頷くだけ。でもそんな状態でも、ティティさんはわたわたと、汗を飛ばしながら言葉を交わしている。
そんな光景を見ながら、私はふと、昨日あったことを思い出した。
それは――ティズ君の包帯を巻いているとき、ティズ君はその時だけ、もしゃもしゃを……、感情を出していた。それも……、悲しいもしゃもしゃを、怖いという感情を出していたのだ。
肩を震わせるほど、怖いそれを出していた。
それを感じた私は、ティズ君を見てこう思った。
彼も何か心の傷を抱えている。そう思って、私はティズ君をあやすように、優しく声をかけた。
ティズ君はそのまま黙っていて、少ししたらすぐに肩の震えは止まった。それと同時にティズ君は私が持ていた包帯を手に取って、私の方を振り向きながら――
無表情の顔でこう言った。
「あとは自分でできるから――ゆっくり休んで」
「………わかった」
私はその場から立ち上がって、そして梯子があるところに足を進めて、すぐ近くのところで足を止めた私は、そっとティズ君がいる方向を振り向きながら、言う。
「……無理は、しないでね」と――
それを聞いたティズ君は、無表情の顔のまま私を横目で見て……。
「うん」と、何も考えていない顔で言った。無表情で言った。
それを見た私は、控えめに微笑みながら手を振って、梯子に足をかけて降りていき、そのまま横になって意識を手放した。
正直だけど……、ティズ君のその無表情の顔を見て、私は首を傾げるばかりだ。
だって、もしゃもしゃが全然見えないから。もしゃもしゃがない。それは感情を隠しているのか……、それともないのかどちらかだけど……。
ティズ君の場合は前者のような雰囲気が目立つ。と言うかそうだろう……。
だって、私と話しているとき――傷の話をしているとき、ティズ君は震えていた。怖くて震えていたのだから、きっとその恐怖を隠すために、無表情を貫いているのだろう。
そう思った私。
すると――
「ハンナ」
「!」
近くにいたヘルナイトさんは、私を見下ろしながら話しかけてきた。
ヘルナイトさんは鎧を着て熱そうかつムシムシしている格好なのに、音色は至って普通のそれだ。
私はヘルナイトさんを見るために、見上げながら「どうしたんですか?」と聞くと、ヘルナイトさんは私の顔を覗き込みながら――
「どうした? さっきから声をかけているのだが」
「!?」
え?
私は驚きのあまりに目を点にして、ヘルナイトさんを見上げていた。
そして足をつい止めてしまい、そしてヘルナイトさんを見ながらわたわたと手を振って、あろうことか首をも横に振りながら――
「ご、ごめんなさい……っ! あの、少し考え事を……っ!」
と、なんとも弁解しているような言葉を吐いてしまう私。
それを見ていたヘルナイトさんは首を傾げていたけど、凛とした音色で「そうか」と言いながら――背中にあるマントを手に取り、それを日傘の様に私の頭をと体を覆い隠すように私の上にもっていったあと――ヘルナイトさんは私を見てこう言った。
「いやな……。暑さに中てられていると思っただけだ。気にするな」
なんだろうか……。
ヘルナイトさんに言われて、そのマントの中で私は少しだけ火照ってしまった頬に手を添えながら、ふとこう思ってしまう。
最近ヘルナイトさんの言葉に対して、行動に対して……、胸の奥が熱くなってくるような気がする。
その胸の熱さは……、アクアロイアの、ユワコクのところからかな……?
それからどんどん。どんどんと……。胸の奥が熱くなって、苦しくなって、心臓の音もうるさくなっているような気がする。そしてそれとは対照的に……。
ヘルナイトさんは他の人とくっついていたりしてるところを見ると、胸の奥がじくじくと苦しみだして、痛みを伴う。
その波が激しいそれを感じながら――私はヘルナイトさんを見上げると……、ヘルナイトさんは「? どうした?」と首を傾げている。
それを見た私は、きゅっと胸の辺りを握りしめて、また来た熱さに耐えるように、ぎゅっと口を噤んだ瞬間……。
「ちょっとちょっとぉおおおおおお~っっ!」
「にぃえっ!?」
「む?」
突然私の背後から、と言うか、ヘルナイトさんのマントの奥からばさりと入ってきて、私の背後から抱き着くように現れた紅さん。
私は驚いて紅さんの頭がある左を見ると、紅さんは――泣いていた。
本当に泣いているそれじゃなくて、コミカルめいた泣き顔を見せて、「おいおいおい」と声を出して泣きながら、紅さんは私に抱き着きながら――
「なんで人がいるところでそんないちゃいちゃしてんのよぉっ! あたしだってリアルいちゃいちゃしたいのにぃ~! こんなのあんまりだぁ~っ!」
わ~んっっ! と、とうとう大泣きしてしまった紅さん。
それを見た私は目を点にして、きょとんっとしながら「え? えぇ? あの……」と言いながら辺りを見る。
ヘルナイトさんは驚きのあまりにマントから手を離しているので、背後もちゃんと見れた。
すると――私は頭に疑問符を浮かべて、首を傾げた。
アキにぃは熱さのせいでグロッキーになって、頭を左右に揺らしながら「あーあーあーあーあー……」と、声を出している。干からびた顔をして……。
キョウヤさんとシェーラちゃんはそれを見て、冷めた目をして見ているだけ。
リンドーさんとギンロさんは、にやにやしながら「「ひゅーひゅーっ!」」と、唇を尖らせながら何かを言っていたけど、それを見ていたクルーザァーさんは呆れながら「不合理だからやめろ」と注意していた。
スナッティさんは「ひゃーひゃーひゃーひゃーっ!」と声を上げながら、顔を手で覆い隠して汗を飛ばしているけど、それを見ていたティティさんはティズ君の眼を隠しながら、むすっとした顔をして……。
「お二方、そんな風に堂々と甘い空気を漂わせないでください。迷惑です」
「そのセリフ――そっくりそのままお前に返せるぞ?」
と言うと、それを聞いていたメウラヴダーさんは、腕を組みながら真剣な顔をして突っ込んだ。ガルーラさんはそんな私と紅さんを見て……。
「驚いただろう? たまにこいつ禁断症状の様にこうなっちまうんだよ。適齢的なあれでな」
「適齢的っ!? 禁断症状って! 完全に焦っているな……」
それを聞いていたキョウヤさんは驚きながらそれを聞いて、紅さんを見ながら悲しい人を見るような目でそう言った。
それを聞いていたメウラヴダーさんは、「焦りと言うか、そんな哀れんだ目はやめろ。更に可哀そさが増す」と汗を流しながら言った。
私はそれを聞き、一体何の話をしているのだろうと思いながら頭の疑問符がどんどん頭から出てきて地面に落ちていく。
するとその行動を見ていたボルドさんは慌てながら――
「わわわっ! 紅ちゃんっ! そうやってまた人に抱き着いて、それに泣き出しちゃったらだめだよっ! そうしたら婚期がまた」
「婚期って言うなあああああああああああっっっっ!」
紅さんは私の耳元で叫びながら、ぎゅうっと私にしがみついて泣き出してしまう。
それを見ていたガザドラさんは、腕を組みながら首を傾げて……。
「はて……? 紅殿はなぜそこまで『こんき』というものを気にしていらっしゃるのだろうか? そこで天使殿に抱き着いていることと関係があるのか?」と、ボルドさんを見て聞くガザドラさん。
それを聞いていたボルドさんは「えーっと……」と言いながら、腕を組んで考えてから、言葉を選んでこう言った。
「その、婚期っていうのは……、えっと、なんていうのかな……? お見合い的な? その、婚姻?」
「おぉっ!」と手を叩いて、ガザドラさんは陽気な笑みを浮かべながら――「祝の年のことですなっ!」と言った瞬間、紅さんはすぐに私の元から離れて、がばっとガザドラさんに抱き着くように肩を掴みながら紅さんはこう叫んだ。泣きながら――
「だからそのことをあたしの前で言うなっつううのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」
それを聞いていたキョウヤさんは、驚いた顔をして引きつっていた。声すら出ないような切羽詰まった顔なのだろう……。代わりにシェーラちゃんが青ざめた顔をしてふっと溜息を吐いてから、小さくこう言った。
「相当焦っているのね……」
それを聞いていたダディエルさんは、呆れながらガザドラさんの頭を揺さぶっている紅さんを見て――
「紅。お前ももう三十一歳だろう? いい加減乙女ゲームに現実逃避するんじゃねえって。いい年してゲームに逃げるって……、恥ずかしくねえのか?」
「だああああああっっっ! それ以上言うなああああああああっ!」
それを聞いていた私は、驚きのあまりに冷や汗を流しながらその光景を見ていた。
紅さんは恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にしてダディエルさんを睨んで、泣きながらダディエルさんに抗議している。
それを軽いフットワークで返すダディエルさんもダディエルさんだ……。
「……ハンナ。さっきから聞こえる聞いたことがない単語は何なんだ?」
「えっと……、多分異国に行かないとわからない言葉です……」
「そ、そうか……」
異国にはいろんなものがあるのだな……。と、ヘルナイトさんは私のごまかしの言葉を聞きながら、納得していた。それを聞いて私は、少し罪悪感を抱きながら、心の中でヘルナイトさんに頭を下げて謝った。
すると――
「こらこら! 二人ともこんなところで喧嘩しないでっ! これからエルフの里に行くんだよ? 僕達大人でしょう? そんな風にしたら大人としての示しがつかないじゃないかっ! ほら、二人とも大人らしいところを見せようっ! ね?」
ボルドさんはぷんぷんっと怒りながら、腕を振ってダディエルさんと紅さんの口論の間に入り込む。そして二人の肩をポンポンっと叩きながら、ボルドさんはその包帯が巻かれた顔でにこっと微笑みながら、首を傾げたけど……。
正直、それは怖い。
そう思った私は青ざめながらその光景を見ていた……。
よくよく見ると、アキにぃ達もそんな顔をしてて、それを見て言らガルーラさんはそれを見て「お前自分の顔鏡で見た方がいいんじゃね?」と、腕を組みながら真顔で言った。
ボルドさんはそれを聞いて、がんっとショックを受けたような顔をしてガルーラさんを見た。
そんな雑談をしていると、クルーザァーさんはむっとした顔をして私達を見ながら――
「ところで、こんな不合理な話をしている暇があるのなら、合理的にエルフの里に着かないといけないんじゃないのか?」
それを聞いて私ははっとしてクルーザァーさんを見ると、それを聞いていたギンロさんは苛立った顔をしてクルーザァーさんに近付きながら「お前もその言い方はねえんじゃねえのかぁ?」と、少し怖い顔をして睨みつけながら言うと、クルーザァーさんは臆することなくギンロさんを無視して――ティティさんを見てからこう聞く。
「ティティ。エルフの里まであとどのくらいだ?」
と聞くと、ギンロさんはそれを聞いて、驚きと怒りを混ぜた顔をしながら「無視すんなっ!」と、怒りの突っ込みをクルーザァーさんにいれていた。けどクルーザァーさんは聞こえていないかのようにティティさんに聞いている。
それを聞いていたティティさんは、ティズ君の眼を隠しながら――
「もうすぐですよ」と、淡々とした音色で言った。
キョウヤさんはそれを聞いて、肩を竦めながら「もうすぐって」と言ってから、言葉を詰まらせる。
その言葉に対して、アキにぃとシェーラちゃんも、浮かない顔をしながら俯きだす。それを見ていたリンドーさんは、首を傾げながら「どーしたんですかー?」と聞いているけど、誰も答えなかった。
私もその一人で、二回も経験しているからだ。
それは――もうすぐと言ったとしても、かなりの時間をかけないと付けない場所に、その場所がある。と言ったお約束のような展開のこと。
クルク君の時と、シャズラーンダさんの時がそれで、その時は何時間も歩いてやっと着いたのだ。
それを思い出した私は、内心どうなんだろうと、少し不安になってしまう。
それを見ていたヘルナイトさんは、私の頭を撫でながら私を見下ろしていた。
でも、そんな不安をかき消すように、はっと何かを思い出したシェーラちゃんは、私を見てこう声を荒げた。
「ハンナッ! あんた『ナビレット』持っているわよねっ?」
「? あ」
「「あ! そう言えばっ!」」
『?』
シェーラちゃんの言葉に、私ははっとそのことを思い出し、アキにぃとキョウヤさんもそれを聞いて思い出したかのような顔をして、手を『ぽんっ』と叩く。
ティズ君達はそれを聞いて首を傾げて――
「何それ」と、ティズ君はティティさんの手をどかしながら聞く。無表情の顔で。
それを聞いた私は、ポーチからそれを取り出しながらこう言った。
「砂の国では
「へぇー。そうなんだ…………、てかココあの
と、ギンロさんは怒りを露にしながら、うがーっ! と言って、頭を抱えながら叫ぶ。
それを聞いていたクルーザァーさんは、顎に手を当てて考える仕草をしてから……。
「そういえば、ここに入ってから使えなかったな」
「なんでそれ言わなかったっ?」
と、キョウヤさんはクルーザァーさんを見て、驚きながら突っ込みを入れていると、クルーザァーさんはキョウヤさんを見て真剣な目つきで一言――
「――教えても覚えないやつがいるから、不合理だと思ってやめておいた」と言った。
「せめてそこは合理的と踏んで教えておこうぜっ!?」
キョウヤさんはそれを聞いて、少し水を含んだ音色で突っ込む。
メウラヴダーさんは、呆れながらクルーザァーさんを見て、溜息交じりに「本当に合理的でないとダメなんだなぁ……」と、疲れた顔をして小さく呟く。
それを見ながら、私は「あはは……」と、控えめに乾いた笑みを浮かべて、ポーチからナビレットを取り出した瞬間……。
じりっ! と、赤いもしゃもしゃを感じた私。ボルドさんもはっとして辺りを見回していた。
誰もがその気配を感じて、和気藹々としていた空気が、一気に張り詰めたそれになったのだ。
するとヘルナイトさんは私の前に立って大剣を構えないで、私を背に隠して仁王立ちになる。
「っ」
私はそれを見て驚きを隠せないまま見上げてしまう。ヘルナイトさんの背中越しからその光景を見て、更に驚いてしまう。
簡単な話――
私達は――囲まれていたのだ。
私達を中央に入れるように、何の足音も出さないでその人達は私達を取り囲むように、自分達が円の壁となって私達に立ち負上がったのだ。
耳が長く、白い布で作られた簡素な服を着て――手には弓矢を持ってすでに矢を装填している。それを見た私は驚きながら……、「なんで……?」と声を上げてしまった。
なにせ――その人達は、今私達が向かおうとしていた住人であろう人達だったから……。
そう――エルフの人達が私達に矢を向けていたのだ。
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