PLAY43 とある男の災難な一日 ⑥
「なんでここが……っ!?」
驚愕の表情をしながらカグヤはこの場に突然来て、ピンポイントでこの場所を当てたガルディガルを見て彼は驚きの音色で聞いた。
それを聞いて――ティックディックは(確かにな)と思いながら……。
(この横穴に俺達がいること自体知らなかったと思うからな……。こいつ等の言う通り――出会って瘴輝石使って逃げても、この場所を嗅ぎつけられることはなかった)
(こいつらにとって絶好の隠れ家だったこの場所。そしてここは見た限りかなり入り組んだ道のりだった。そうそうここを嗅ぎつけることは不可能だろうな……)
(でも――)
と思いながらティックディックはふと上を見上げ、狂喜の笑みを浮かべているガルディガルを見上げる。
彼はそんなカグヤの言葉を聞いて、「あぁ……」と思い出したかのように彼は言った。
ここまで来た経緯を――簡単にして異常な答えを、口にしたのだ。
「簡単な話よ……。お前達がいなくなった後、急加速の荒い運転をしながら、村の隅々、そしてダンジョンの隅々、隠れられる場所を虱潰しに探しただけだ。砂の国を隅々まで、見落としがないくらい――よぉおおく見てな」
「っ!」
その言葉を聞いて、カグヤは驚きとブワリと噴き出た汗を流して、彼が驚きの表情をした。
聞いていたコノハもぎょっと驚きながら「すごい執念……っ!」と声を上げていた。
航一とズーはそっと武器を抜刀し、引き抜きながらガルディガルから目を離さないで見ていた。
ティックディックは――
(俺達を処刑したいがための行動……っ! てか、この砂の国を隅々まで探して俺達を見つけたってことか……っ!? 執念じゃこんなことできねぇ……。異常な執着心ってことだろうが……っ!)
と思った。
確かに――ガルディガルの行動は常軌を逸していた。
それはティックディックでも、頭の回転が鈍い航一でもわかるような常軌を逸した行動だ。
この砂の国バトラヴィア帝国は……、アクアロイアよりも広く、強いて言うのであればアルテットミア全土の領土を誇っている。
そんな広大に見える大地を、とある人物を見つけるために、隅々まで、村の隅々まで、ダンジョンの隅々まで探したガルディガル。
血眼で探していた彼の姿は、容易に想像できるとティックディックは思っていたが……、その姿を想像したと同時に――彼はとある言葉が頭に浮かんだ。
異常。
そうとしか言いようがなかった。
(そこまで俺達に固執する必要があるのか……? というかそんな処刑くらいで必死になるほどのことなのか……? ここでは……)
そう思いながら、ティックディックはそっとガルディガルを見ると……、ガルディガルはすっと、ティックディックを指さしながら、彼は言った。
「貴様やここにいる者達は、我が崇高なる帝国に仇名し、そして侮辱したことによる重罪人である! よって――本来なら村で処刑を執り行い、見せしめと救済として晒し者にすることが規則なのだが、貴様らに『村に来て処刑されろ』と言っても……」
「――うんとは頷かねえし、はいとも言わねぇ」
ティックディックはくいっとシルクハットのつばを掴みながら言うと、ガルディガルはそれを聞き、はっと鼻で笑うと「だろうな」と、こうなることを予測していたような音色で言うと、ガルディガルは手を下ろして、そして――
ガッと
『ギャギャギャギャギャッッッ!』と、下半身のキャタビラを急発進させるように、その場で土煙を吹き上げた。
それを見たカグヤははっとして、すぐに小さい球をつけた鎖を手にもって――
「構えて――!」と叫ぶ。すると……。
「もうしているぜ!」
航一は大きな刀を両手で持ち、少し冷や汗を流しているが笑みを浮かべて言い――
「コノハも負けないよ! ここでこいつを倒して、聞き出しちゃおうっ!」
コノハも両手を広げて、汗をたらりと流しながらも、それを大声でかき消すように言い――
「一石二鳥、ですよね? ニホンのコトワザでは。あれ? 本当はなんだったっけ……」
ズーは冷静に鎌を構えながら言った。
そして――
ズーはちらりとティックディックを見て、彼は冷静な顔つきで、冷たい音色をティックディックに向けながら、彼は言った。
「――《《あなたは関係ないでしょう》? 早くここから出て行ってください」
「っ!」
「正直――ここにいられると」
邪魔です。
そうズーははっきりと言った。
どすが聞いた声で、しかもティックディックを睨みつけるようにして言ったから質が悪い。否――いら立ちが募る募る。
それを見たティックディックは、ぎりっと仮面越しで歯を食いしばり……、そんなズーを見て、手を上げて自棄になったような手の振り方をして、彼は少し投げやりになった音色でこう言った。
「あーそうかいっ! そんならここで俺はお暇させてもら」
「うわけなかろうがぁっ!」
しかし……。そんな彼らの行動を見逃すようなガルディガルではない。ガルディガルは今の今までギアをフル回転させて待機していたキャタビラを、一気に開放する様に……。
ぎゅんっと、急加速で接近してきたのだ!
ばきばきと、岩の地面抉る様な加速。それを見てティックディックはぎょっと驚きながら後方に向かってとんとんっと、跳びながら逃げようとした。
「なんだぁっ!? そのまま一人だけ奥に逃げようという算段かっ!? 甘い……、砂砂糖の様に甘すぎる判断よっ! この吾輩――ガルディガルから逃れられると……」
ガルディガルは急発進のまま起動しているキャラビラを、更にフル稼働させてスピードを上げて、暗闇に向かって逃げようとするティックディックに向かって――
「――思っているのか異国民風情がぁっ!」
カグヤやズー達を後回しにするように、彼等の横を猛スピードで追い越しながら、ガルディガルはティックディックに狙いを定めて直進したのだ。
しかしティックディックは、そんなガルディガルを見ながら、焦りを殺して落ち着きを取り戻しながら、彼は思った。とん、とんっと――後ろに跳びながら、シルクハットのつばをつまんで、目の前から来るガルディガルを見ながら……。
(さぁさぁ来いよ巨漢戦車さん。こんな横穴でも、きっとどこかに繋がっているはず――そこを突いて出口に出て、戦車男をおびき寄せながら――崖になっているところにおびき寄せて……、落とす!)
我ながら名案! そう思いながら、彼はその暗い世界に向かって跳んで逃げて行く。
しかし――それを見たカグヤははっとして、ごぉっとティックディックに迫ってきているガルディガルを見て、そしてティックディックの策略を察したのか、カグヤは慌てながら叫んだ。
「――待って下さい!」
と叫んだと同時に、ティックディックは首を傾げながら (どうした? あんなに慌てて……)と思った瞬間……。
――どんっ!
「っ? っ!?」
背中に当たった衝撃。
冷たく、ごつごつしている服越しの感触。それを感じたティックディックは、ふとその背中のものを見て、仮面越しに驚愕の顔を浮かべた。
何のひねりもない。彼の背中に当たったものは――壁だ。岩の壁。
つまり――
「――この横穴は行き止まりなんです!」
カグヤは叫んだ。
それを聞いて、ティックディックは思わず「まじかよ……っ!」と声を上げた。そう――この横穴は行き止まりとなっている横穴だった。
大抵横穴があれば、どこかに繋がっていると思っても不思議ではないが、その逆も然りで――行き止まりだってある。
その対比は半々だろう……。その行き止まりに当たってしまっただけで、なんら支障はない。
そう――何事もなければ支障はないのだ。
目の前から来る、ティックディックを追ってきたガルディガルさえいなければ、このまま前に向かって戻ることもできた。しかし今はできない。
目の前から急接近してくるガルディガルを見て、ティックディックは舌打ちをしながらなんとか迫ってくるガルディガルを見て――
「
ふわりと――淡いミント色の靄を己に纏わせるティックディック。
更に――
「更に
今度は青い靄を纏って――彼はぐっと走る体制になった瞬間、すぐにガルディガルに向かって走り出す。真正面に向かって駆け出した。
それを見ていたガルディガルは「ぬぅ?」と、声を上げてティックディックの行動を見て、そして内心驚きながら彼は思った。
――またあの時と同じ、今度は複数の魔法かけか……。
――面白いことをする! 吾輩の
と思った。
ティックディック自身も、その横の攻撃を受けた身である。彼自身も馬鹿ではないので、そのまま横を通り過ぎることは死に直結する行為と認識している。
ゆえに――通り抜けるとすれば……。
ガルディガルの脇腹。
そこしか隙が無く、そして隙間がなかった。
(一か八かっ!)
そう思ったティックディックは、迫り来るガルディガルのキャタビラに向かって走り出し、その一歩手前のところで、とんっと小さく跳躍し、跳躍した方とは違う反対の足を上げて、そのまま駆け上がろうとした。
その足をつけた瞬間に、脇腹を縫って通り、窮地から脱しようという魂胆だったが――
――しかし。
ガルディガルはにやりと、ティックディックの行動を見て、狂喜の笑みを浮かべながら、彼は腰にある赤いボタンを左手の親指を使って、ぐっと力いっぱい押して……。
かちりと――そのボタンを押した。
刹那。
ガシュ! っと……、彼の下半身の機械から出てくる鋭く、太い湾曲の棘――否、これは牙をモデルにした棘と言ったほうがいいだろう。
それを見たティックディックは、ぎょっとしながら跳んで、そしてその牙が飛んだ足とは違う反対の足を狙っていることに気付いて、焦りを仮面越しに出す。
(やべ……っ! 跳んだから避けれねえじゃねえかっ!)
そんな彼の焦りを見たガルディガルは、「ぐあはははっ!」と笑いながら、彼はティックディックに向かって腕を上げて、そんな彼を頭上から叩きつけるような体制になりながら、彼は言った。
豪快に笑いながら――彼は言った。
「小さくも狡猾な奇策よっ! しかしそんな奇策なんぞ――この吾輩の
ティックディックの世界が――スローモーションになった。
それを感じているティックディックは、驚きながらも、スローモーションになっていないガルディガルの言葉を聞いて、非現実的なことを感じながら、ふとこんなことを思い出しながら……、ティックディックはガルディガルの言葉に耳を傾けていた。
傾けている状況ではないのだが……、それしかできないのも事実で……、ティックディックはこんな状況を感じて、彼はとあることを思い浮かんだ。
(まさか……、これって……)
「冒険者は確かにスキルを使って戦う術を持った。しかしそれは魔力があってこその術。吾輩達魔力を持たない者達は――それの代わりとなる瘴輝石。そして……、技術と体術、さらには頭脳を高めたのだっ! 貴様等のような生まれ持った才能を思う存分使っている恵ものとは違うのだ。そして――」
(マジかよ……。これって――)
「――偉大にして崇高なるバトラヴィア帝国王の名のもと……、死と言う救済を受けよっ! 反逆者よ!」
(これって――死ぬ前のスローモーション……?)
ガルディガルの言葉と共に、ティックディックはスローモーションの真実を知り、愕然として、己の足に迫ってきているその牙を見て、察したティックディック。
どんどんと、ゆっくりと――彼の足に向かって、きっと、内臓も傷つけるような突き刺しをするそれを見て――ティックディックは目を疑ったが、納得したかのように、こう思った。
(やべぇ……。俺死ぬ。わりぃなぁ――グレイシア。俺はまだ)
と思った瞬間だった。
「――っふ!」
「来てっ! 『
――ざしゅっ!
と、航一とコノハの声が聞こえたと同時に――ガルディガルの背後から……、否、背中から赤い液体がどばりと吹き出す。
と同時に――
「うぐぅ!」
ガルディガルは赤い液体が出たと同時に、がくんっと前のめりに体を倒して、そのままぶるぶると震えだす。
刹那――ティックディックに向かって来ていた湾曲の牙が突然、ティックディックの足の前で、寸でのところで、びたっと止まった。
それを見たティックディックは、ぽかんっとしながら「へあ?」と言いつつ、自分に襲い掛かってこないその牙を見下ろしながら、ふっとゆっくりと降下して、スタッと地面に降り立った。
何の支障も、けがもない状態で足をつけて、ティックディックはそれを見ながら驚きの顔を仮面越しで表していると――
「コノハ――今!」
「はぁい! 『
カグヤとコノハの声が聞こえ、その傍らに降り立った航一は、刀についたその赤い血を拭き取らずに、再度構える。真剣な目で、前のめりになって、痛みに耐えているガルディガルを見て――
コノハはすぐに、背中から出た己の影に向かって命令をした。
彼女の背中から出た影は――一言でいうのであれば、真っ赤な液体でできた鎧の騎士。西洋に出てきそうな鎧を身に纏った、両手だけが異様に大きい……。まるで血液でできた鎧の騎士が、彼女の背中の影から現れたのだ。
彼女の命令を聞いて、『
ガルディガルはそれに気付いてはいたが、航一に切られた背中の痛みで起き上がれずにいる。
それを見ながら、ティックディックはされるがまま、そっとズーの近くに下ろされて、へたり込んでしまう。
そんな彼を見ながら、カグヤは鎖を手に持ちながらこう言った。
「ここは僕達が何とかしますので――ここから逃げてください。そして」
巻き込んでしまい――すみませんでした。
そう真剣な音色で言うカグヤ。
ティックディックはそれを聞きながら、尻餅をついて頭を垂らしながら……。
(だったら俺を巻き込むなっつうの)と思ってはいたが、それを口に出さないで……、彼はそっと手を上げながら返事として返す。
それを見たカグヤは、少し苦の表情に顔を歪ませながら、すぐに気持ちを切り替えるように自分達の方を向いたカルディガルを見て、カグヤは叫んだ。
「作戦通りにいきます! コノハは影を使ってガンガン攻めて!」
「はぁい!」
『御意っ!』
カグヤの言葉にコノハは手を上げて元気よく返事をした。
そして『
更にカグヤは言う。
「航一は僕が拘束したら即効であれを使って!」
「おっけいっ!」
カグヤの言葉に航一はにっと剣士が見えるような笑みを浮かべ、ぐっとサムズアップをした。
そのあとカグヤはズーを見て、彼は言った。
「ズーはコノハの援護をしてほしい」
「了解です」
ズーはカグヤの言葉を聞いて、冷静にはっきりと言って頷く。
それを聞いたカグヤは、ぐっと口を噤んで、血走った怒りの目で自分たちを睨んで、ふーっ! ふーっ! と、まるで猪の様に下半身のキャタビラを稼働させているガルディガルを見て、ぎゅうっと、鎖を握る手に汗が滲むのを感じた。
まだその時ではないのだが、来てしまったのなら、背水の陣ならば――仕方がない。
――ここは、受けて立って、勝とう!
そう思ったカグヤは、すぅっと息を吸って――彼は叫ぶ。鼓舞する様に、叫ぶ。<PBR>
「――作戦開始っ!」
「「『おぉっ!』」」
カグヤの言葉をコング代わりにし、先にコノハと『
それを見たガルディガルは、『ギャギャギャギャッ!』とキャタビラをフル稼働させながら、彼は怒りの眼でこう叫んだ。
「――んんん舐める出ないわ小僧共があああああああああああああっっっ!」
そして――ガルディガルは迫りくるコノハに向かって、下半身のそれを使わないで、己の拳を使って応戦した。
それを見て――ティックディックは尻餅をつきながら……、声を零す。
「マジかよ……」
ティックディックは、驚きながらその光景を見る。
自分一人ではできなかったことだが (当たり前のことである) 、あの三人はあのガルディガルを相手に錯乱して、そして攻撃を繰り出している。
コノハの見た目にそぐわないパワー攻撃。
カグヤの鎖を使うテクニック。
航一の人間離れした攻撃力。
と言っても……、カグヤがガルディガルの隙を作るように鎖を使って混乱させているだけなのだが、ティックディックはそれを見て、ははっと、力なく笑いを上げながら、彼はひとりごとのようにこう呟いた。
「……なんつう熟練者だこと……」
と言いながら、彼はふとこう思った。
先ほど思い出したことを、再度思い出したのだ。
それは――満たされなかった達成感についてだ。
その答えを出した時、ティックディックは内心、自分は馬鹿なのかと罵ったくらい、簡単なことで当たり前だろうということになぜ気付かなかったのかと、疑問を抱いたくらい、簡単で、当たり前な答えだったことに気付いたのだ。
簡潔に言おう――
ここで殺したとしても、よくあるゲームで死んだら現実でも死んでしまうがない。
殺したか、『デス・カウンター』がゼロになったら、バングルを壊したら――
ログアウトになる。
つまりは死んでいない。
カイルへの復讐は、死んで初めて完遂されるものだ。
グレイシアを殺したのだ。それ相応の苦しみと痛み、そして死を味わってもらわないと気が済まない。にも関わらず、彼はバングルを壊すという怠慢を犯したのだ。
バングルを壊したとしても、結局カイルは死んでいないだろう。
RCに何かをされて、壊れてしまったとしても、己の手で殺さないとダメなのだ。
己の力でどうにかしないといけなかったのだ。なのに――それを怠った。
簡単だった。
こんなところで殺しても――何の意味がなかった。
現実で行ってこそ――意味があるのだ。
なのにそれを仮想世界で行った。その時点で大間違いなのだ。
達成感がない? 当たり前だ。結局己の怠慢を優先にして、復讐を手放したかったが故に、彼は仮想世界と言う世界で何の意味もない殺人……。否、カイルを一足先に現実に帰してしまう手助けをしてしまったのだ。
(結局……)と、ティックディックは思い、そしてぐっとシルクハットで顔を隠しながら、彼は小さく言う。悔しそうに――己の行いに対して苛立ちながら……、彼は言った。
「結局……、俺がしたことは、無駄だったのかよ……っ! 俺がしたことは……、何もしなくても同じことだったってことか……っ!」
すると――
「無駄だと思っているんですか? だからそんな風になんの行動もしないでただ途方に暮れて、一日を無駄に過ごしてきたんですか?」
「!」
突然だった。ティックディックはすぐにシルクハットをがぽっと被って、己に対して言葉を発したズーを見上げながら、ティックディックは仮面越しに苛立った顔を出して「……、なんだ?」と聞いた。
正直盗み聞くという行為を見て、彼は (勝手に聞くんじゃねえよ) と思いながら、ズーを見上げると、ズーはティックディックを見ないで、彼はこう言った。
冷静に、淡々とした音色で――こう言った。
「その気持ち――わかります」
「……はぁ?」
ティックディックは素っ頓狂な声を上げて、ズーを見上げながら (何言っているんだこいつ) と思って、ティックディックはズーに「なんだよその言い方。まるでお前も体験しているような言い草だな」と、大げさに肩をすくめながら言うと、ズーはすっと、ティックディックを細い目で見降ろして、彼は冷静な音色で、冷たくも、苦しくなるような音色でこう言った。
「僕もそうだったから。僕も……、親が殺されて、その親を殺した集団に教育されて、殺しをして、屑になっていきました」
「………………………」
「その間、僕はずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと…………、自分の汚さを見てきて、そして認めて、受け入れてきました」
「…………………………」
「あの時、僕は子供でした。小さくて非力な子供でした。だから親を助けられなかったのは当たり前だって、思っていたんです。あれは運命だって、受け入れてきたんです。何をしても何も変えることはできないって、思っていたんです」
「……………………………」
「あの時歯向かおうとした女の子や、その時来ていたニホンジンの二人のことを思い出して、『何もできないんだから、何もしないでその運命に従えばいいのに』と思っていました。でも」
「でも……、なんだ?」と、ティックディックの言葉を聞いて、ズーは冷静だが、その音色に含まれる温かみを出しながら、彼はこう言った。
「とある人に出会って、なんとなくですけど……、その考えは間違っていたのかなって思ったんです。完全に間違っていたという思考には至っていません。僕はこう見えて己忠実な人格です。ゆえにそうやすやすと性格を変えるなんてことはしません」
つい最近です。と、ズーは念を押すように言う。そして続ける。
「その人は正義感溢れる人で、所狭しと『正義』を連呼するうざい人でした。でもその人は大人なのに純粋で、僕が一人になろうとした時、その人は僕に聞いたんです」
『なんでお前は『ネルセス・シュローサ』にいたんだ? 憎かったのだろう?』と――
ズーは思い出しながら、語る……。あの時、リヴァイアサンを浄化した時のことを思い出しながら、彼は語る。
「僕はあの時『憎いと思ったとしても、僕は子供です。たとえ歯向かったとしても負けていたでしょう。それにあの人に逆らって、復讐心に駆られて殺そうとしても……、絶対に勝てない。そう言う運命だから』と、言うと――その人はすぐにこう返したんです」
と言って――ズーはその人物を思い出しながら彼は言った。
冷静に――そして自分を少しだけ前向きに変えてくれた言葉を思い出して……。
「『負けていたという運命だったとしても、運命とは神様が選ぶのではない。自分で決めるもの。もし、その時歯向かって勝つという運命に向かって進んでいたのなら、こうはならなかっただろう……。その考えが間違ってるなんて言わない。それは人の人生。その人生に首を突っ込むことなんてできない。だが今にして思うと、要は前向きに考えて、生きればいい。辛い事になったとしても、その辛さを乗り越えて前向きに歩む。人間と言うのは――そういう生き物であろう?』と――」
そして――ズーはティックディックを見下ろして、彼はこう言った。
「その時僕は思いました。僕はあの時、できないと思って行動しなかった。何もしないで屑だと罵倒して、それでおしまいという風に決めつけていたんです。何もしていないのにそうやって決めつける。そんなの――あなたの様に何もしていない人と同じになってしまうと思ったんです」
「っ! お前なぁ……っ!」
突然の罵倒にティックディックはぐっと握り拳を作り、そして立ち上がって怒りをぶつけようかと思ったが……、すぐに沈下してしまった。というかした。
理由など簡単だ。
自分は復讐を誓ったにも関わらず、その復讐に対して怠慢を行ってしまったのだ。結局のところ……。
何もしていなかったのだから、文句なんて言えない。
前のズーの様に、何もできないから何もしなかったというのと同じようなもの。
だからズーは、ティックディックに対して嫌悪感を抱いていたのだ。
前の自分と同じ、屑の自分と重ねていたのだ。
ズーはそのままティックディックを見下ろしてこう言う。
「だから――僕は思いました。考えました。何もしないで屑のままその人に従うのではなく、僕らしく抗って、そのあと無茶でもいいから行動してから冷静に考えようって。一回だけ行動しようと思っただけです」
要は自棄です。
ズーは言い、鎌を手に持ち、三人が食い止めているガルディガルを見て真剣な眼差しをティックディックに向けずにこう言った。
「一回自棄になった後で冷静に考えてやろうって思ったんです。あの時の僕は何もしないで決めつけていた。その正義おじさんの言葉に感化されたんじゃありません。僕はただ――自分の屑さを治したいだけです」
その言葉を聞いたティックディックは、そっと自分の手荷物にするりと手を入れる。
それに気付いていないズーは目の前で苦戦を強いられている仲間のもとに行こうと、ぐっと足に力を入れようとした時――
「ちょっと待て」と、ティックディックはズーを止めた。
その言葉を聞いて、ズーは驚きながら動かそうとした体をびきんっと金縛りになったかのような動作をしてからティックディックをぎっと睨みつけ――「なんですか?」と少し怒りを含んだ音色で言うズー。
それを見ないでティックディックは、そっとズーにとあるものを手渡してこう言った。
「大ダメージを与えたいのなら……これ使え」
「――っ!?」
それを見たズーは目を見開き、驚きを隠せずそれを凝視してしまった。
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