PLAY43 とある男の災難な一日 ⑤

 ひとまず――


 五人は横穴に入り、外の明かりを頼りに入り口近くのところに腰を下ろしてカグヤの話を聞いた。


 と言っても――事実上ティックディックしか知らないことなので、話を聞くのはティックディックだけだ。


 カグヤは尖った小石を持ち、地面にがりがりと書きながら説明を始める。


 さながら――地面黒板だ。


「えっとですね――」


 と言いながらカグヤはがりがりと地面に丸を書き、その中にバトラヴィア帝国と文字を書き入れる。


「この砂の大地を収めているバトラヴィア帝国は僕達が使っている機械生産している場所で、一時的だけど、瘴気を浄化した街そのものが巨大空気清浄機となっている『デノス』。そしてエルフの里や砂の蜥蜴人――砂丘蜥蜴人サンディランド・リザードマンの国でもあります」

「コノハそれ一回聞いて覚えたよ!」

「俺っちは初めてだ」

「僕はカグヤさんから聞いてですね。それまでは全然知らないことだらけでした」


(まぁ、誰だってそうだろうが)


 ティックディックはそう思いながらカグヤの話を聞いて「それで?」と、彼は聞いた。


「そんな大それた大地の中心であるバトラヴィアに、お前達は何の理由があっていこうとしているんだ? 行くんなら普通に正面から入ればいいだろう?」

「……それが出来れば苦労しません」

「はぁ?」


 彼はそのバトラヴィア帝国の丸の中に矢印を突き刺すように書いて、そしてその矢印の矢じりの先に丸を書いて、その中に『デノス』と書き入れながら彼は説明を続ける。


 しかし書いたそれを使わず、彼は再度バトラヴィア帝国のところをこつこつと小石で小突きながら――彼は説明をした。


「実はバトラヴィア帝国は鉄のドーム……、曰くですけど。『フウマセキ』というものを練りこんだ特注の壁を使って、帝国全体を覆い隠しています。というか、覆い守っています」

「覆い守る? 聞いたことがねえ上にどういう意味だって聞きたくなるような意味深な言葉だな」


 ティックディックは肩を竦めながら言う。それを聞いてカグヤはティックディックを見ながら――


「覆い守る。その言葉通り、何の捻りもありませんよ。フウマセキと言う現物は見たことがないんですけど、何をしても壊れない鉱物と聞きます。そしてその石は、とある種族の抑制剤としてでも使われているそうです」

「とある種族?」

「ENPC……『12鬼士』の、魔王族の力を抑制するための石ともいわれています」

「…………前のMCOではなかった設定だな」

「最近決まったんじゃねえか?」


 あまり深く考えていない航一はティックディックとカグヤの話を聞きながら、つまらない顔をして腕を組む。


 それを見ていたズーは「ちゃんと話を聞きましょう。おさらいとして」と、航一の肩を叩きながら聞くようにと促す。


 それを見ていたティックディックは――


(どっちが年上だよ)と、心の中で冷静に突っ込んだ。


 カグヤは話を続ける。


「最近かはわからないけど……、でもこの石が埋め込まれた壁は、魔王族と言うチートでも壊せない。ということは――」



「……



「そういうこと。だからあの壁の向こう――バトラヴィア帝国に入るには……、とあるものを使わないと入れない。それは村にいる元兵士の人が言っていました」


 ズーの言葉に、カグヤは頷く。そして先ほど書いた『デノス』のところを、小石の尖ったところでこつこつと突きながら――


「この『デノス』に、その扉を開けるカードキーがあるんです」

「カードキーの話は覚えている! でもよー。ファンタジーなのになんで機械が入っているのか、ここに来てからすげー気になっていたぜ」


 航一の意外だという言葉を聞いて、カグヤはうーんっと上を向いて考えながら、彼は航一を見て「確か、この国に蔓延している瘴気の浄化のために、異国からその技術を学んだことが原点らしい。空気清浄機はその技術で生まれた第一子的な存在でもあり、この国が歪んだ原因でもある」


 と言ったが――


(結局いい方向に進んでねえってことじゃねえか)


 心の中で突っ込みをいれながら、ティックディックはカグヤの言葉に再度耳を傾ける。


 カグヤは言った。


「街そのものを巨大場空気清浄機にしたその場所の研究施設に、カードキーが保管されているんです。それも何枚も」

「ならさっさとそこに向かって行けばいいじゃねえか」


 ティックディックは手を広げて肩を竦めながら言うと、それを聞いていたカグヤは浮かない顔をしながら首を横に振った。


 それを見たティックディックは「?」と、疑問の声を上げて首を傾げる。


 それを聞いてたコノハは「あのねあのね」とティックディックを見て声を上げる。ティックディックはそれを聞いて「なんだ?」と声を上げて聞くと――コノハは言った。


「実はそこにはね――コノハ達が探しているパーティーと組んでいるもう一つのパーティーが根城にしてて、簡単に入れないの」

「…………もう一つの……、パーティー? なんだそりゃ」


 ティックディックが首を傾げて聞くと、とある人物が答えを出すために口を開いた。



「――『BLACK COMPANY』」



 その声を聞いたティックディックは、九官鳥の様にそこの言葉を繰り返し疑問の声として唱えながら言う。


 ズーはそれを聞いてこくりと頷いて……。


「『BLACK COMPANY』は、リーダーであるアクロマが指揮する徒党を組んだパーティー集団なんです。徒党であり、一つのパーティーとして、申請したそうです」

「ほほぉ……。徒党ねぇ……」


 ティックディックはそれを聞きながら、内心 (珍しいこともあるもんだ) と思った。


 実際――MCOの時、徒党は一時的な協力体制。


 つまるところ……、一時的な商売仲間の手の取り合い、一時休戦して協力し合うと言った間柄。そう言ったものだ。


 大きなモンスター討伐クエストの時、普通のパーティーの人数は六人であるが故 (今の六人編成は普通ではない。しかしルール違反ではない。プレイヤー五人+ENPC一名であるだけで、ルール自体を破っているわけではない。だがプレイヤー六人ならば話は別)、倒せない相手だときついことがある。


 そこで使われるルールが徒党。


 五人でできなかったことでも、十人になれば戦力も大幅に上がり、倒せる確率が高くなる。


 しかしその場合は報酬の山分けが出てしまう。しかしそれも協力してくれたのであれば当然の報酬であろう。


 そんな高額な報酬を目当てに、長期の徒党を組んでいる人たちがいる。利用者が勝手に行っていることではあるが、運営はそのことに関してあまりとやかくは言っていない。


 ただ徒党を長続きにしているだけであるが故、問題ではないのだ。


 ゆえに――そう言った長期間の徒党を集団のことを……、プレイヤーたちの間ではこう呼ばれていたのだ。


 簡単に――『パーティー集団』と。


 閑話休題。


 ティックディックはその話を聞いて、ズーを見ながら彼は聞いた。


「それで? その集団の徒党がその『デノス』ってところで何をしているんだ?」


(無視かい)


 ズーはそっぽを向きがら、ティックディックの言葉を聞いているにも関わらず、目をそらしながら口を閉ざした。それを見てティックディックは仮面越しに苛立った顔をしていた。


 カグヤはそれを見て「うーん……」と、小石を持っていない手で頭を掻きながら、少し考えた後、彼は「えっとですね」と言って、話を無理矢理進めた。


 みんながカグヤが書いている地面の絵を見た。


「詳細はわかりません。第一そこに行かないとわからないことです。しかしわかることがあります。僕ら四人でも……、もし、もしもティックさんが入って五人で向かったとしても」


(もしもなんて永遠にねぇ)と、カグヤの言葉に苛立った音色を吐き捨てると、ティックディックはカグヤの話を聞く。カグヤは言った。


「彼ら『BLACK COMPANY』はそれ以上……。アクロマとその側近二人。そして周辺に散らばっている四人のプレイヤー。更には『デノス』を守っている複数の幹部達がいます。総計しても、十人以上と思ってほしいです」

「よくわかったことだな」


 へーっとティックディックはそこまでの情報をよく入手したことに対して、驚きの声を上げていると、それを聞いていたコノハは元気よく手を上げて――彼女は満面の笑みを浮かべてこう言った。


「コノハと航ちゃんが入手したの! カグちゃんに教えたのはコノハなんだよ!」

「こーちゃ……。かぐ……、あ、あぁ……。航一とカグヤだからそういうことね……」


 一瞬難の言葉なのか理解できなかったティックディックだったが。すぐに=が結びついたことで納得する。コノハは満面の笑みで、己の行なった行為に対して褒めてもらいたいのか、元気よく続けてこう言った。


「この前砂の国に一人のプレイヤーがいて、コノハが拘束してコーちゃんが『言えーっ!』て言ったらね、その人『BLACK COMPANY』のことについてすごいくらい吐いたんだよ! 確かその人……、って人だったはずだよ! お手柄だよね? ねぇ!」

「………俺は知らねえけど、はいはい」


 ティックディックは仕方がないなと言わんばかりにコノハの頭を撫でた。ワシワシ撫でられたおかげで、コノハは「うひゃーっ!」と言いながら喜んでいた。


 しかし――ズーはそれを見て、すっと目を細めていた。と同時に――ティックディックは違和感を覚えた。撫でている時、何か覚えているような、デジャヴっているような違和感を覚えたのだ。


(あれ……?)と思い、ティックディックはふと思い出された脳内の映像を見て……、彼は内心疑念を抱いた。


 その映像は己の恋人で会ったグレイシアとの会話。なのだが……。



 ……



 確かに目の前にいるのはグレイシアだが、彼は彼女の頭を撫でながら何かを言い、グレイシアはむすっとしながら頬を膨らませていた。


 その光景は、時間は、確かに愛おしい時間のそれだった。


 のだが……。




 




 彼はそう直感したのだ。


 目の前にいるのはグレイシアだ。しかし違う。そう直感が囁いている。



(俺は……、……?)



 そう思った瞬間だった。


「コノハが話した通り――」と、カグヤが言ったところで、ティックディックははっとして現実に戻ってきた。ティックディックはカグヤの話に耳を傾け、そして先ほどの映像を脳内にしまいながら、ティックディックはカグヤの話を聞く。


 カグヤは言った。


「そんな十人……いいえ。もしかしたら二十人いるかもしれない状況で、その研究施設に乗り込んでカードキーを奪うことは、死に行くようなもの。僕は窃盗のスキルレベル五です。しかし百パーセントの高確率で生還することは無理だと判断した結果、最も効率的で、この砂の国を徘徊している掃討軍団の団長さんにわざと目に入るようにして戦いながら、カードキーを奪おうとしているってことです」

「………………なるほど。それであのアフロ男の前でわざと目をつけるような行動をして、処刑対象になって、戦いながらカードキーを奪って脱兎のごとく帝国に向かうってことか」


 回りくどいがシンプル。わかりやすい。と、ぱんっと手を叩きながら言うティックディック。


 それを聞いていたカグヤは頭を下げながら、「ありがとうございます」と言った。


「おおぉ! その言い方の方が分かりやすいな! カグヤは全然難しい言葉ばっかで頭がこんがらがるんだもんなー!」

「こんがらがるのコノハも分かるっ!」


 航一とコノハは、お互いの顔を見ながら頷き合う。同意の意味を込めて、それを聞いていたカグヤはむっとしながら「その言い方やめて」と、少しきつい音色で言った。


 そんな光景を見ながら、ティックディックは頭に手を回しながら、「しっかしー」と言いながら、彼はカグヤ達に向かってこう言ったのだ。


 大変だ。それは大変だ。その気持ちを込めながら……。


「そんな怖いことをよくやるな。特にコノハちゃんだっけ? 怖くないの?」

「うーん」


 と、ティックディックに言われた言葉に対して、コノハは少し考える仕草をしてからすぐにティックディックを見て――


「最初は確かに怖かったよ」と言い――すぐにこう続けて言った。


「コノハは帝国にいるパーティーのリーダーに話が合って、コーちゃんもそのパーティーにいる人に話をつけたくて一緒に行動していたんだけど……、すぐにカグちゃんがメンバーに入って、ズー君も協力してくれるって言ってくれたから、今は怖くない。そんなに」


(ってことはちょびっとは怖いってことじゃねえの?)


 そう思ったが、敢えて口にしないでおくティックディック。


 コノハは言った。笑みを浮かべながら――彼女は十四歳らしい笑顔を出して言った。


「だから――今は怖くないよ。がくがく震えていないし、こんなことで震えていたら――あの子に面と向かって言えないもの」

「……あの子……ねぇ」


(友達ってことか……? まぁ、俺にはどうでもいい話だ)


 そう思いながらティックディックは「そうかい……」と言って、コノハの話を聞く。


 それと同時に、彼は思った。


(なんでこんな話を長々と聞いちまうんだろう)


(関係ねえのに、俺は赤の他人なのにな)


(カグヤってやつの言う通りにはならねえし、それにこいつら――馬鹿だろ)


 そう思いながら、コノハ、カグヤ、航一にズーを一瞥しながら、ティックディックは思う。


(そういうのは誰かにやってもらったほうがいいだろうが。俺も何もできねえし、お前らが頑張ったところで、クリアできるのかって聞かれたらできねえっていう一択だ)


(なんでそんな命を懸けるんだろうかね……)


(そんな命を懸けたとしても、殺されてログアウト……って)


 と思ったところで、ティックディックはふと、もう一つのことを思い出し、そして――


「あ」と、呆けた声を出した。


 それを聞いていたカグヤ達は、首を傾げながらティックディックを見てどうしたのかと聞く。


 ティックディックはそんな言葉さえ聞こえていないのか……。ぼぅっとした顔のまま、ふとこんなことを思った。否――気づいたのほうがいいだろう……。


 ティックディックは思った。


(そう言えばそうだった。てか、気づくの遅すぎた気がしたな)


(と言うか――ここで殺されたとしても、ログアウトになるだけだ)


(それは達成感ねえよなぁ)と思いながら、ティックディックは頭を掻きながら、とある結論に至ろうとした時……。




「――?」




「?」


 突然――ズーはティックディックに向かって聞いた。


 真剣で、少し冷たさが含まれている音色でズーはティックディックに聞いた。


 ズーの声を聞いた瞬間、ほんわかと穏やかな空気が、一瞬にして淀んだ世界の空気となった。


 ティックディックはズーを見ながらぎょっと仮面越しで驚き、「ど、どうしたんだ? 急に……」と聞くと、ズーはティックディックを見てこう言った。


「『そんな怖いことよくやるな』って言いますけど……。そう言う言葉を言う人は、大抵怖い思いをしていない人が、興味本位で聞く言葉なんです。怖い体験をしている人は、その気持ちを汲み取って聞かないのが普通だと、僕は思います」 


 その言葉を聞いて、カグヤ達はどんどん淀んでいく空気を感じながら (航一は首を傾げているだけ)ティックディックとズーを交互に見る。


 それを聞いたティックディックは、一体何か聞きたいのだろうと思いながらズーを見て――


「……、確かに、俺の聞き方も間違いだったかな? 機嫌を損ねたのなら謝っておこうか」

「いいえ、いいです。どうせなんて、誰の心にも届きません」

「言い方ってもんがあるぞ……? ガキ」


 ぴくり。と――


 ズーの言葉を聞いて、ティックディックは仮面越しに苛立ちを表して、声色を黒くする。それを聞いたカグヤははっとして――ズーを見て「ズー! やめておけ」と止めに入るが、それでもズーは止まらなかった。


 ズーは目を伏せた状態にして、怒りを表しながら、ティックディックを見てこう言う。


「あなたを見ていると……、なんだか無性にイラつくんです。『自分ではどうにもできない』。『他人がどうにかしてくれる』。『自分は無力だったからできなかったのは当たり前だ』。『』。『』と思っている」


「っ! おいガキぃ!」


 とうとうティックディックは苛立った音色を曝け出しながら立ち上がって、ズーを睨みつける。


 それを見たコノハは「ひゃっ!」と声を上げてカグヤの背後に回り込んでしまった。


 航一はぴくりと首を傾けながら怪訝そうな顔をしている。


 カグヤはそんな二人を見て慌てて立ち上がりながら、冷静に「二人共落ち着いて……っ!」と言うが――


 ティックディックの怒りが収まらず、彼はそのままズーに向かって指をさしながらこう声を荒げた。


「お前……、人の感情の逆撫でが得意だなぁ……っ! でもなぁ! 言っていいことと悪いことがあるって、親に教わらなかったのかっ!?」

「僕の親は殺されました。ゆえに教わっていないと思います」

「っ」

「なんとなくではありません。あなたを見ていると昔の僕を見ているようで、むかつくんです。何もできなかったから悪に従っていた屑の自分を見ているようで、心が無くなった自分を見ているようで苛立って仕方がなかったんです」

「あぁ……? なんだそりゃ、唐突なポエムってか?」

「ポエムじゃないです。これは僕が思ったことです。『ネルセス・シュローサ』にいた時の僕と同じなんですよ。あなたは――」


 と言って、ズーはすっと、ティックディックを指さして、はっきりとした音色でこう言った。




「あなたは何かをしたんですか? あなたは――動いたのですか?」




「………あぁ? 何言って」


 と言った瞬間だった。




「っ! !」




 と、今まで黙っていた航一が、慌てた顔をして叫んだ。


 それを見た誰もが「え?」と言う顔をして、声を出した。


 何を言っているのだろうと思うことであろう。


 しかし――そのあとすぐに、航一の言っていることが理解できた。


「――?」


 ティックディックは聞き耳を立てて、外から聞こえる異様な音を拾った。


 その音は生物が出す音ではない。声ではない。強いて言うなら……。


 、それがだんだんと大きくなってきて、地面を削る音と共にエンジン音まで聞こえてきて……。


 と言ったところで――


「――っ!!」


 ティックディックは仮面越しに顔を青ざめて、はっと息を呑んだ瞬間……。


 ザギャアアアアアアッッ! っと――


 横穴の入り口に来た


 それを見た瞬間、誰もがはっと息を呑んで立ち上がった瞬間……。


 その入れない入り口に向かってキャタビラを急発進させて、そのまま――


 バガァンッ! と、入り口を大きくさせて、破壊しながら入ってきたのだ。


 今までティックディックでギリギリの高さだった入り口が、突然来た人物によって大きく縦にも横にも広く開き、ガラガラと岩の破片が地面に落ち土煙を起こす。


 それを見て、言葉を失いながらその光景を見ているティックディック達。


 先ほどの怒りなど既に吹き飛んでいた。それくらい思わぬ事態に驚きを隠せなかったのだ。


 そんな彼らの驚きを嘲笑うように、『きゅるきゅる』と音を出しながらキャタビラを動かして進むその人物。


 地面に落ちていた岩を『パキッ』と潰し、その光景を見ながら――にたりと笑って……。


「こんなところにいたのか……」と言って……。


 バトラヴィア帝国掃討軍団団長――ガルディガルは血走った目で彼らを見ながら、前のめりになって次の言葉を吐いた。


 狂気と憤りを混ぜた、歪んだ狂喜のそれを浮かべて――


「処刑五名! 今ここで処刑を執行する! 覚悟しろ――反逆者共っ!」


 と、反響するその場所で、彼は叫んだ。


 ぐわんぐわんっと響くその横穴の世界で、鼓膜を壊しそうな勢いで来るその反響を耳で塞いで防御しながらティックディックは苛立ちながらこう思った。


 本日、何度目になるのかわからない言葉を――



(――今日はマジで最悪だなっ!)



 そう思いながら、仮面越しで細めた目でガルディガルを見たティックディックは苛立った表情を仮面で隠しながらズーを横目で一瞥し、先程のことを思い出しながらもう一度ガルディガルを見て――彼は思った。


(さぁって……、どう逃げようかな? 俺は関係ねえしな。とっとと逃げてしまおう)


 ティックディックの最悪の一日、佳境に入り――あと僅かで終わりを告げる。

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