PLAY46 急転と裏切者 ①

 それからは口頭で説明しよう。


 私達が向かうその駐屯医療所はエルフの里からすごく遠いらしく、強いて言うのであれば、その駐屯医療所は中間地点と言うことになるのだ。


 バトラヴィア帝国まで半分を切ったところと言う意味で――


 その最中――私達は砂地を歩き、その境目にあるダンジョン――『渦砂の沼』や『サバンナ迷宮』などを通り抜けてきた。


 でもネクロマンサーがいるとアクアロイア王から聞いていたけど、どこにもいなかったことに対して首を傾げていたことを、今でも覚えている。


 でもそれと同時に――幾度となくバトラヴィアの兵士達が私達の前に立ち塞がってきたのだ。何度も何度も……、毎日の頻度で現れたのだ。


 それは一日に何度も何度も、多くても五回はあった。


 私は何度も何度も回復のスキルを使って、みんながスキルを使って応戦して立ち向かったことを今でも覚えている。


 ダンジョンでも道すがらでも……。


 バトラヴィアの兵士達は、


 まるで私達の動向を知っているような行動をして、私達に前に立ち塞がった。


 でもそれを難なく返り討ちにしていたけど……、特にアキにぃが……。


 そんな日が続いたある日……、と言うか昨日である。


 あと少しと言うところでとあるところで野営をしていた時……、その風景が日常と化してきたその頃、クルーザァーさんが私達にこんなことを言いだした。


「…………これは――不合理なこと、いいや。これが非常に厄介だな」


 それを聞いていたボルドさんは首を傾げながら「どうしたんだい?」と聞くと、クルーザァーさんは顎に手を添えながら、するりと撫でてこう言う。


「何がっすか?」


 スナッティさんはそれを聞いて首を傾げながら弓矢の手入れをしている。


 それを見ながらクルーザァーさんは険しい表情のまま彼はこう言う。


「明らかに――

「……情報……? って」


 一瞬、何を言っているのだろうと思いながらアキにぃは首を傾げて、ギンロさんと同じように (でも一緒に手入れはしない) 銃の手入れをしていると、アキにぃははっとしてクルーザァーさんを見て、驚いた顔をしたかと思うとすぐに前のめりになりながらクルーザァーさんに聞いた。


「まさかそれって――帝国に情報が漏洩しているっ!? 誰かに尾行されているってことっ!?」


 その言葉に、誰もが驚いた顔をして辺りを見回す。


 ヘルナイトさんとガザドラさんもそれを聞いて辺りを目で見回す。


 ティティさんはティズ君にべったりくっついているので、そんなことはしなかったけど――


「いや――誰にも尾行はされてねえな」


 面倒くさそうに手をひらひらと振っていたのは――ダディエルさんだった。


 ダディエルさんは驚いて見ている私達を呆れながら見て、クルーザァーさんを見ながらこう言う。


「俺は稼業柄――どんな些細な気配も感じ取ることができる。職業病みたいなもんだな。だがそれでも、エルフの里から出てから全然背後からは気配を感じ取れなかった。真正面にしか感じなかったな」

「どんな職業病だよ……」


 ダディエルさんの言葉を聞きながら、キョウヤさんは呆れながら項垂れて言うと、私はその時、聞いてて思い出したことがある。


 そう――私はボルドさんから聞いているけど、みんなは知らないはず。


 ダディエルさんは暗殺者だと。


 と言うか、そう言った暗殺の稼業の人間ということを知らないはずだ。


 すると――それを聞いたダディエルさんは「お?」と声を上げて――


「言ってなかったな。俺の家って殺し屋の家系だから。って言っても、古いよな。今の時代殺しなんて、漫画の世界の話だもんな」


 ボルドさん達とクルーザァーさん達、そして私以外の三人が、その言葉を聞いて目を点にして、そして無言のまま首を傾げてから……。


 先に意識を取り戻したシェーラちゃんがダディエルさんを見てこう言った。信じられない。そんな目でダディエルさんを見て――


「それって――本当なの? 漫画とかでよく見るスパイ的なあれじゃなくて……、本物の殺し屋ってこと……?」


 その言葉に、ダディエルさんは頷きながら頭を掻いて――気怠そうに「おぅ」と答えた。


 それを聞いた瞬間――日本人出身のアキにぃとキョウヤさんは。



「「マジかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?」」



 と、大声を上げて叫んで、そしてそれを聞いたクルーザァーさんが怒りを露にしながら「大きいぞっ! 敵に気付かれたらどうする気なんだっ!」と、注意する。


 それを聞いたアキにぃとキョウヤさんは、はっと気付いて、申し訳なさそうにして口を閉ざして頭を垂らす。そして謝罪の言葉をかけると――それを聞いてクルーザァーさんはうんうんっと頷いて……。


「当り前なことを何でするのかわからないな。ちゃんと教育がなっているのか心配だ。不合理な行動に頭が痛くなる」

「一言一言イラッと来るなぁてめぇ」

「一瞬俺、ハンナ関係以外で撃ちたいって思ったよ」

「やめなさい勉強不足」


 クルーザァーさんの言葉を聞いて、キョウヤさんとアキにぃは低い音色でクルーザァーさんを見ながら、赤いもしゃもしゃを出しながら武器を持とうとした時、それを見ていたシェーラちゃんが呆れながら溜息交じりに制止をかけた。


 それを見ていた私は、やっぱり……。と、アキにぃ達の行動に同意しながらその光景を首を垂らして見ることしかできなかった……。


 するとそれを聞いて、クルーザァーさんはアキにぃ達のその視線を無視してダディエルさんに聞く。


「となると……、前ということは待ち伏せのパターンだろうな。しかも複数」

「複数って、なんで?」


 ガルーラさんは残っていた夕食のお肉 (食用にできる魔物の骨付き肉) を頬張りながら、くっちゃくっちゃっと咀嚼音を立てながら聞く。それを見て聞いていたメウラヴダーさんは、汗をたらりと流してその光景を呆れながら見て――メウラヴダーさんはガルーラさんに言う。


「音を立てて食べるな。あと食べながら話すな。食べかすが飛び散る」


 それを聞いたガルーラさんは「ふぉ」と頷きながらくっちゃくっちゃと咀嚼音を出しながら頷く。


 メウラヴダーさんは呆れながら頭を抱え、そしてそれを見ていたクルーザァーさんは首を横に振りながら呆れ、そして私達を見てこう言った。


「……よくあるパターンだが、一本道から三本道になるような場合があるだろう? その先で待ち伏せをする時、万が一のためにその三本道すべてに均等に兵士を配置するのは当然のシュミュレーションだ。今回もそうだ。その道に通る時、一体どの道を通るのかを考えるよりも、ありったけの兵力を使ってそれぞれ歩く可能性がある場所でそれぞれ待機させ、戦力を分散させて配置する。それが合理的な方法でもあるんだ」


「それで違う道に行くってなったらどうするんすか?」


 スナッティさんは手を上げてクルーザァーさんに聞くと、クルーザァーさんは「うむ」と言いながら……。


「その確率も考えて、帝国は用意周到に待ち伏せしているに違いない。手間暇がかかる不合理な頃だが、確実に仕留めるならばこれしかないだろう」と言った。


 そしてクルーザァーさんは続けてこう言う。


「その複数の待ち伏せのルートに関して、これは最終目的地もとい、所業だ」

「知ってって……、


 キョウヤさんは呆れて何を言っているんだろうという顔をしてクルーザァーさんを見ていると、それを聞いて、クルーザァーさんは考える仕草をして黙ってしまう。けど――


「?」


 クルーザァーさんは私をじっと見て、そしてボルドさんを見て――クルーザァーさんはすっと顔を上げてそのまま頭を下げてから……。


「すまない――どうやら俺の考えすぎの様だ」


 と言った。


 それを聞いたみんなは、ぽかんっとしてクルーザァーさんを見て、そしてすぐにそれを聞いていた紅さんがからからと笑いながら――


「そうだって! あたし等の中に何か隠している奴がいるって言いたいの?」

「そんなことがあったら裏切り者でクルーザァーの長時間説教の餌食だってっ!」

「いや――もしそんなことがあったら二千九百四十三発殴るか蹴るな」

「中途半端じゃ…………、ん? なんかその数字……、すごく嫌な語呂合わせになるけど……っ!? オレの気のせいだよな……っ? これ……」


 と言うと、それを聞いてギンロさんもがははっと笑いながらクルーザァーさんを見て言うと、それを聞いていたクルーザァーさんは真剣で真面目な表情をしてからきっぱりと言うと、それを聞いていたキョウヤさんは呆れながらいつものように突っ込もうとしたけど……、ふと何かに気付いたのか、青ざめながらおずおずとクルーザァーさんに聞こうとした時――


 クルーザァーさんはそっと立ち上がりながら――


「ボルド。そしてハンナだったか……? 少しばかり回復のスキルのことについて話がしたい」と言って、手招きをしながら少し離れたところに向かおうとしているクルーザァーさん。


 それを聞いた私とボルドさんは、自分達に指を向けながらクルーザァーさんの後に付いて行こうとする。


 するとシェーラちゃんはむすっとした顔を浮かべて――


「ここじゃダメなの?」と聞くと、それを聞いていたクルーザァーさんはシェーラちゃんの方を向きながら一言……。


「安心しろ。ただ確認がしたいだけだ」と言って、そのままみんなから離れるようにしてその場を後にしようとする。それを見て、私はクルーザァーさんのところに行こうとした時……。


「ハンナ」

「!」


 突然ヘルナイトさんの声を聞いたので、私はヘルナイトさんの方を向いた。


 彼はそっと立ち上がりながら「心配なら付いて行くが」と言っていたけど、私は首を横に振って、控えめに微笑みながら――


「大丈夫です。ただ確認するだけですから」と、言う。


 それを聞いたヘルナイトさんはむ……。と言う声を出して唸りながら、そのままそっと腰を下ろして――「そうか……」と、迷惑になってはいけないと思っているのか、渋々納得した様子で唸っているようにも見えた。


 それを見て、私はクスッと微笑みながら――心配させまいとひらひらと手を振る。


 その光景を見ながら、アキにぃはヘルナイトさんの肩を掴みながら何かを言っているようだけど、残念ながら遠くで何も聞こえないので、私はボルドさんと一緒にクルーザァーさんの後を付いて行く。


 クルーザァーさんは近くの岩陰に隠れていて、その姿を見たボルドさんは――


「あれ? クルーザァー君どうしたの? そんな怖い顔をして」と聞くと、それを聞いていたクルーザァーさんは、じとっとボルドさんを見て――そして私を一瞥しながら、再度ボルドさんを見て――指をびしっと指しながらこう言った。




「注意深く感じ取っていろ」




「「?」」


 クルーザァーさんは突然私達を見て言う。それを聞いて私とボルドさんは、意味を理解できずに首を傾げることしかできなかったけど、それを見ていたクルーザァーさんは、呆れながら頭を抱えて、そして溜息を吐きながらもう一度私達を見て――


「お前達は感情を見る力があるんだろう?」


 と聞いてきた。


 それを聞いた私は、すぐにそれがもしゃもしゃのことを言っているのだと思い、それに対して私は手を上げながら――


「えっと……、感情の感知と言うか、もしゃもしゃを感じとっているんですけど、その感情も時々しか感じられなくて」

「僕もなんだ」


 私が言い終わると同時に、ボルドさんも私の後に続いてこう言う。


「その感情っていうのは、その人が特に心に秘めているようなことで、そんな簡単に感情を読み取ることはできないんだ。と言うかなんでそんなことを?」

「決まっている――」


 ボルドさんの言葉に、クルーザァーさんは腕を組んで、きっと私達を睨みながらこう言った。





           「――俺達の中に、裏切者がいる」





 その言葉に、私は頭を真っ白にさせて、クルーザァーさんを見る。


 クルーザァーさんはそのまま私達を見ながら――みんながいる場所を指さしながらこう言った。冷静に、そして合理的な思考で動きながら……。


「聞いただろう? バトラヴィア帝国の動き。明らかに俺達の行動を予測しているかのように動いている。おかげで全てにおいて後手に回る始末だ。非常に不愉快で不合理な時間を食ってしまう。消去法と言うか、オーソドックスに、俺達の誰かが内通していることは間違いないだろう」

「……で、でもあの時、クルーザァーくんは考えすぎって自分から」

「あそこで馬鹿正直に話すと思うか? 不合理だ。あの場合は犯人を油断させておいて好きを突いて捕まえる方が手っ取り早いだろう。一応言っておくが――ハンナ達チームは最近ここに来たばかりで、この帝国の領土のことを知らない。ゆえに自然と消去される。残ったのは――だけだ。裏切ることができるのは――」

「そ、そんな唐突な……」


 ボルドさんは明らかに動揺しながらクルーザァーさんを見る。


 クルーザァーさんはそんなボルドさんを見て、呆れながらじろっと睨みつけて (見上げているのに、見降ろしているような鋭い目つき)……、彼はこう言った。


「なんだ? そんなに仲間を疑いたくないのか?」

「当たり前だよっ! それに僕の仲間がそんなひどいことをするわけ」

「っ」

「と言うか――そんな生ぬるい思考回路は俺には備わっていない。ゆえに俺はこうなった時はとことん疑う性質たちだ」

「そ……そんな……っ!」

「そんなもヘチマもない。裏切者がいる。それだけが真実であり事実であり――俺達の目的の弊害となってしまう障害となってしまうんだ」



 割り切れ。そして冷酷になれ。



 そうクルーザァーさんは冷徹に言う。


 それを聞いたボルドさんは、俯いて、ぎゅうっと握り拳を作りながら……。


 唸って――そして重い動きで頷く。


 クルーザァーさんはそれを見て頷いてから私を見下ろして、鋭い目つきでこう言う。


「お前も何か異様なものを察知したら――すぐに言え。一応言っておくが……、この件のことに関しては、他言無用で頼む。でないと……」


 


 と、クルーザァーさんは言って、そのまま私達を残してみんなのところに行ってしまった。


 それを見ながら振り向いて、そしてボルドさんを見上げながら、私はボルドさんを見てこう聞く。


「……大丈夫ですか?」

「………大丈夫」


 じゃないね。と、ボルドさんは言った。


 力なく言って、私を見下ろしながら、疲れたような顔をして彼は言う。


「いやだなぁ……。仲間を疑うって……。そんなの、まるで何も悪くない人を疑うのと同じだよ……」


 私は何も言わない。ううん。何も言えない。


 ただただ――今のボルドさんに慰めの言葉などをかけたら、逆に逆撫でしてしまうと思ったから私は何も言わなかった。ただ話を聞いているだけだった。


 でもボルドさんは、そんな私の顔を見て、力なく笑みを浮かべながら――


「でも……。これで裏切者がいなかったら、それはそれで笑い話になるか……。クルーザァー君の言う通り、今は注意深く感情を読み取ろう。みんなから出ている湯気を感じてね」

「……、ボルドさんは――湯気なんですね。私はもしゃもしゃなんです」

「へぇ――僕はね、沸騰する時の湯気の出方や色でその人がどんな気持ちでいるのかがなんとなくわかるんだ……、天族特有の力らしいけど……。正直これを犯人捜しのために使いたくないよね……」


 その言葉に私は頷きながら答える。


 それを見たボルドさんは向こうを見ながら指をさして……。こう言った。


「さ、早く戻ろう……、みんなが待っているから」


 と言って、ボルドさんは混乱しているかのように、ふらつきながら歩みを進めていた。


 私はそんなボルドさんの背をそっと押しながら歩みを進める。少しでも気を楽にさせてあげようとしての行動だけど、ボルドさんはそれを見て、頼りない笑みを浮かべて笑いながら――私を見てこう言う。


「ほんと……、僕は頼りないなぁ……」


 そう言いながら、よろめく足取りで、みんなの所に戻った私達。


 そして――クルーザァーさんに言われた通り……、今までカルバノグとワーベンドのもしゃもしゃに注意しながら過ごしてきた。


 そして――



 □     □



 私達は注意しながら、みんなのもしゃもしゃを見ていた。


 それは――裏切者が誰なのかと言う判断のために監視でもあった……。


 道中のみんなはいつも通りのそれだった。クルーザァーさんも普段通りに接している。


 それを見て、私は内心驚きながらクルーザァーさんを見て――


 ――すごい切り替え……。人格……、二つ持っているのかな……?


 と、驚いた目をしてクルーザァーさんを見る。


 すると――



「どうしたの?」



「!」


 突然だった。


 ティズ君が私の顔を覗き込むようにして私の顔を伺う。それを見た私は、驚きながらティズ君を見て――


「ど、どうしたの?」と驚いた顔をして聞くと、それを聞いていたティズ君はじとっと私の顔を見て、そして首を横に振りながらこう言った。


 というか……。近い近い……っ。


 近すぎるよティズ君……っ。ティズ君の背後でティティさんが頬袋を膨らませて羨ましそうに私達を見ているから……。近いよ……。ティズ君……。


 そんなことを思いながらティズ君の言葉を待っていると……。


 ティズ君はそっと私から離れて、そしてそのまま後ろ向きに歩きながら――


「ううん。話しかけただけ」と、無表情に言ってから……。私を見ながらこんなことを聞いてきた。


「いつも思うけど、その服装って熱くないの?」

「えっと、熱いけど……、これ一応防具で、大切なものだから」

「好きな人からもらったの?」

「違うよ。お知り合いからもらったもので、それでも大切なものなの。私防具一式とか、そういったものが売っていないくて」

「俺のはクルーザァーが選んでくれたんだ。確か『秋物コーデセット』着やすいし脱ぎやすいし動きやすいし戦いやすい」

「……ティズ君って戦っている時、あまり感情とか顔に出さないけど……、大丈夫? 無理していない?」

「……いつもあまり考えていないから、なんだか考えることが苦手で……。戦うときも見ながらって感じで戦っている」

「すごい親近感」

「しんきんかん?」

「えっと、親近感っていうのはね……」


 といった感じで、私とティズ君は仲良くなってきている。


 発端っと言ってもなんだけど、きっかけは初めて出会った時からだろう。


 あれから少しずつだけど、ティズ君は私に話しかけてはわからないことを聞いたり、まるで小さな子供のような好奇心で私に話しかけているのだ。


 私もそれに応えるために色々と話したりして交流を深めて、みんなとの交流を大切にしながらここまで来た。


 しかしティズ君と話している内に……、わかったことがある。


 まずティズ君の年齢 (現実年齢)は――十四歳ということが分かった。身長は百七十センチなのに……。しょーちゃんよりも大きい……。


 VRゲームができる年齢ではないけど、ティズ君は『ロスト・ペイン』の治療のため、特別に治療遊戯をしているらしい。


 治療遊戯と言っても、ただ遊んでいるわけではない。


 カウンセリングの先生がこんなことを言っていた。


 人間強要される時と自分から率先してやる時の違いは――継続できる期間でわかるらしい。


 強要となると他人から強いられて行っているので、嫌な事をしたくないその人は絶対にどこかで折れる。それは人間の性と言うものなのだろう……。と、先生は見解していた。


 でも好きなことをするときは、何時間でもしたいという欲求がある。ゆえに継続ができると言っていた。


 MCOはVRゲームと言う概念だけど、色んな精神病やリハビリにも使われている。


 ゲーム感覚ならば誰でもできる。ゆえに長く継続して治療ができるというコンセプトで、きっと理事長はこのゲームを作ったのだろうと、先生は言っていた。


 ティズ君は病気を抱えてるが故、その治療もこのMCOでしかできない。


 だから今現在も治療中ということだ。ログアウトできないけど……。


 そして道中色んな事を話した。好きな食べ物は何なのとか、趣味はとか……、いろいろ聞いていたけど……、時折だけど、ティズ君は不安そうな顔をするときがある。


 それは突然、ふと思い出した時なのだろう……。その時、無表情だった顔が突然不安そうな顔をして青ざめるのだ。


 私はそれを見て、首を傾げながらティズ君の安否を聞くとティズ君はぶるぶると震えて、青ざめながら震える口で「大丈夫」と言ってきた。


 でもあまりに大丈夫ではないそれを見て、私は本当に大丈夫なのかと聞くけど――


「あぁ。あれいつものことっす。大丈夫っすよ」


 と、スナッティさんが陽気に笑いかけながらティズ君を見て「ね?」と首を傾げると、それを聞いていたティズ君はこくこくと頷く。


 私はその光景を見て、本当に大丈夫なのかと言う不安を抱いたけど、シェーラちゃんがその光景を見て、溜息を吐きながら私の首根っこを掴んで――こう言ってきた。


「あんまり人の事情に入り込まないでよ。あんたはそう言う傾向あるから」と、注意されるように言われてしまったので、その言葉に私は納得していないけど渋々と頷いた記憶がある。


 それからティズ君は震えることも青ざめることもない。メウラヴダーさん曰く――いい兆候なのかもしれないとのこと……。


 それと同時に、私は確信した。


 ティズくんは何かを抱えている。それも……、心身共に壊れてしまいそうな壮絶な過去を抱えている。そう思った。


「あ」


 すると――最前列を歩いていたキョウヤさんが指をさしながら大きな声を上げた。


 それを聞いたクルーザァーさんは呆れた顔と苛立った顔を合わせたかのような顔をして、キョウヤさんを睨みながら「なんだ?」と聞くと、キョウヤさんはその前を指さしながら――私達の方を振り向いてこう聞いてきた。


「あれあれ――あのテント!」


 と言って、キョウヤさんは真正面の向こうを指さしながら叫ぶ。


 私達はその方向を見て目を凝らして見る。その方向を見たアキにぃが声を上げて「あ。あれって――まさかの目的地か……っ!?」と、向こうにある薄緑色のテントを見つけて言う。


 それを見て、ぱぁっと明るい笑みを浮かべてガルーラさんは胸を撫で下ろしながら――


「助かった……っ! もう腹がペコペコなんだよ……っ!」

「お前さっき肉頬張っていたよな? くっちゃくっちゃと」


 と言うと、それを聞いていたメウラヴダーさんは呆れた目をしてガルーラさんを見て言うと、それは突然起きた。


 ううん――キョウヤさんの目の前もとい背後に、


『っ!』


 誰もがその魔物を見て、驚いた表情を浮かべながらその魔物を見て、武器を手に持った。


 私もメグちゃんから聞いた話でしかあったことがないレアな魔物なので、誰もがそれを見て驚くのは無理もない。


 キョウヤさんもみんなの表情を見て何だろうと頭に疑問符を浮かべていたけど、すぐに真正面を――テントがある方向を見た瞬間、はっと息を呑んで見上げた。


 その魔物はまるで夕日のような色をした、二足歩行をしているような体つきをしている猫……。ううん。その魔物はライオンのような姿をした、鋭く太い牙が特徴的な……魔物。



 レアモンスター・トワイライトライオンだったのだ。



 トワイライトライオンは「ウグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」と声を上げて、近くにいるキョウヤさんに向かって、鋭い爪をギラリと輝かせて、攻撃を仕掛けようとした!

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