PLAY40 終わりの傷跡と道 ②

「此の世を統べし八百万の神々よ――我はこの世の厄災を浄化せし天の使い也。我思うは癒しの光。我願うはこの世の平和と光。この世を滅ぼさんとする黒き厄災の息吹を、天の伊吹を以て――浄化せん」


 私はハンザブロウから課せられた強制的な浄化を開始する。


 それを見守りながら、ヘルナイトさん達は武器を手に仁王立ちになっている。


 気絶してしまったアキにぃを抱えてきたキョウヤさんは、アキにぃをその場に座らせて、槍を構えている。


 ハンザブロウはリョクシュの前に立って、腕を組みながらその光景を見ていた。


 ふわりふわりと私の周りを舞う白い風。


 それを見て、ハンザブロウを見ながら私は集中して浄化に専念する。


 そして――唱えた。



「――『大天使の息吹』」



 フゥッと瘴気に侵された赤黒い瘴輝石に息を吹きかける。


 吹いた瞬間、その吐息が形を成して、私の周りを回りながら慈悲深い天使に姿を変えて私の周りを飛んで赤黒い瘴輝石に向けて手を添える。


 添えた後で赤黒い瘴輝石とそれを包むように持っている私の手を大きく、優しく包み込むようにした後、そっと唇を寄せる慈悲深い天使。


 前にもあった光景だ。


 それを見て、その石がどんどん赤黒いそれから薄水色のそれに変わっていく。


 慈悲深い天使はもう一度その石と一緒に、私の手を優しく握る様に包み込み、にっこりと微笑んでから空気に溶けてなくなっていった。


 その消える様子はまるで……、天使の羽の様にふわりふわりと消えてなくなっていくそれだった。


 それを見上げながら私は消えた天使様を見上げて……、そっと掌に残っているそれを見た。


 薄水色に光っている――綺麗な瘴輝石だった。


 その様子を見ていたハンザブロウは――


「パチパチパチ」


 と、ぱちぱちと拍手をしていた。しかも声を発しながら、わざとらしく……。


 なんだか周りから拍手喝采の音が聞こえた気がしたけど、そんな関係ないことを考えている暇はない。そう思って私は立ち上がって身構える。


 みんなも武器を構えると、ハンザブロウは肩を竦めながら「おいおい……そう威嚇せんでもいいじゃろうて」と、困ったように笑いながら……「最近の若者は血気盛んじゃのぉ」と言って、くるりと後ろを向いたかと思うとリョクシュの胴体を掴む。


 その胴体を持ち上げて「おっもっ!」と、驚きながら持ち上げてからハンザブロウはもう一度、私達の方を向いた。


 そして――にっと笑みを作ってから、こう言った。


「これで交渉は成立じゃろう? お前さんにその石を渡す。代わりにリョクシュと一緒に逃がす」


 そう言う条件じゃったろう?


 と、ハンザブロウはにっと笑いながら、余裕の笑みで言った。


 そして――


「もし、それを破ったら……。どうなるのか、わかっておろう……?」と言って、ちらりと――気絶しているアキにぃを一瞥して、再度にっと、口元に弧を描いた。


 それを聞いていたみんなは、ぐっと構えた武器を持ったまま、襲わなかった。


 破ったらどうなる? 簡単だ。ヘルナイトさんの言う通り……、言葉で簡単に人を屠ってしまう力を持っている人だ。


 その人は口一つでどうにかなってしまう。


 そんな人に対して、口先が得意な人に対して、言葉で先手を打たれてしまったら……。


 ――考えたくない……。


 そう思った私は、ぶんぶんっと首を横に振る。それを見ていたナヴィちゃんとさくら丸くんは、心配そうに鳴きながら私を見上げていた。


「そう、だな……」


 ヘルナイトさんはすっと背中に大剣を収めて、言った。


 理解しているけど、負に落ちないような音色で――こう言った。


「……すまない。今回は」

「わかっている」


 キョウヤさんは槍を背中に戻して、じっと睨むようにハンザブロウを見てから――キョウヤさんはこう言った。


 シェーラちゃんも剣を鞘に納めて、ふんっと納得できていないような腕組をして、そっぽを向いてしまったけど、キョウヤさんはこう言った。


「今回は――従おうぜ。このまま戦っても、なんだか勝てる気がしねぇ……」


 引き攣った笑みを浮かべて言うキョウヤさん。若干青ざめているその肌の色を見て、もしゃもしゃを見て、本音だと認識した私。


 シェーラちゃんもキョウヤさんと同じように――勝てないと自覚して、剣を収めたんだ。


 それを見て、私はハンザブロウを見る。


 みて……、ふと思った。ううん……。これは……。疑念を抱いた。


 なぜって? それは簡単な話……。


 ハンザブロウのもしゃもしゃがすぐに見えて――そしてその色が異様だったのだ……。




 白い。




 何もない白の世界。


 白だけで、何の色もない世界。真っ白な紙の世界が見えた。今まで見たことがなかった世界だった。


 今まではいろんな色が見えていたのに、なんだがハンザブロウの世界だけ……。


 色がなくなってしまったかのような世界と化していた。


 私はそのままハンザブロウを見て、ハンザブロウはそんな私を見て――「おやおやぁ?」と言いながら、けらけらと笑いながら私を見て、陽気に笑みを浮かべながらこう言った。


「なんじゃお嬢ちゃん。儂に惚れたか? いやぁ、遅まきのモテ期と言うものなのかのぉ。儂の時代なのかのぉ」

「……むかつくことしか言えないのなら、とっとと消えなさいよ……」


 シェーラちゃんはその行動を見て、苛立ったように言うと、それを聞いていたハンザブロウは大げさに驚きながら「うひゃぁ」と言って――


「コワイコワイ。そう怒っておると、おばあちゃんになった後目元のしわが増えるぞー。なんてな」と言いながら、彼は私達を見て――にっと笑いながら、狐の顔をして言う。真っ白な世界のまま、彼は言った。


「そんじゃま――これでお暇」





「す」





「はえ?」

「「「「!」」」」


 すると――


 持ち上げていたハンザブロウは、下を見て首を傾げた。私達はそれを聞いて、はっと息を呑んだ。


 そして……、私にだけ――襲い掛かってきた。


 ぶわりと、空間を埋め尽くすような真っ黒な世界。そして赤と……、血の色が混じった……、もしゃもしゃ。その中には――声が含まれていた……。


 黒い世界が私を覆いつくして、そして――耳元に向けて……リョクシュの声が、囁いてきた。



「殺す」



 そして……、四方八方。そして前後左右に響き渡ったリョクシュの怨念の声が、私に向かって襲い掛かってきた。言葉の攻撃。八つ当たり交じりの怨念を――怨言おんごんを……。


 ぶつけてきた。





「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」





「――っ! いやぁっ!」


 その耳をつんざくような、耳鳴りがしそうな声を聞いてしまい、リョクシュの怨言を聞いてしまったせいで、私はべたんっと尻餅をついて耳を塞いでしまい、そして叫んでしまった。甲高い声を上げてしまった。


 あまりに怖い音色と声色、そしてダイレクトに響いたもしゃもしゃを感じて、私は思わず目を閉じて、怖いと思って委縮してしまった。


「っっ! ハンナッ!」

「どうしたのっ!? 大丈夫っ?」


 ヘルナイトさんとシェーラちゃんが慌てた声を上げて駆け寄り、そして、ヘルナイトさんは私の両肩を背後から支えて、シェーラちゃんは私の前にしゃがんで心配そうに「ハンナ、どうしたの? 何かあったの?」と聞きながら、必死に声をかけてくれた。


 でも、耳に残るあの言葉が怖い。怖くて震えてしまい、声が出せない……。思っていることは出せるのに……、体が言うことを聞かない……っ。


 ガタガタと震えていると……、その前に現れたキョウヤさんが立って、ばしんっと尻尾を地面に叩きつけながら――


「お前……、何した……っ!?」と、怒りの音色で睨みつけた。


 ハンザブロウと、リョクシュに向かって――


 それを聞いたハンザブロウは、ぎょっと、これは本気で思っていたのか……、驚いた顔をして真剣な音色で――


「いや、儂は何も……」と言った瞬間だった。


 ハンザブロウに捕まれていたリョクシュが、足を使って、器用に立ち上がったと思ったら、そのままずんずんっと私達の方を向いて立ち、ハンザブロウの前に立って、ふーっ! ふーっ! と、血走った目で私たちを睨みながら……、ぐんっと背中を反らしてから――彼は私達に向けて、口から光線でも放つかのような顔と口の開き方で……。


「うがああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」


 と、叫んだ。


 それを聞いたキョウヤさん達は、ぎょっとしながらその威圧を、そしてそれと同時に放たれた風を受けながら、リョクシュのその怒りの言葉を受けてしまう。


 ヘルナイトさんは私とシェーラちゃんを守るように抱きしめた。


 リョクシュは叫んだ。


「お前らぁ! よくも俺をここまで虚仮にしたなあああっ! 俺を! ザッド様あのおかたを侮辱し、あろうことか俺の腕を斬りやがったっ! ザッド様あのおかたが頼もしいと言ってくれた俺の手をおおおっ! 俺の気高き気位を……、粉々にぶっ壊しやがってえええええええええええええっっっ! 殺す! 殺す! 殺す殺す殺すっ! どうせランディもグリーフォも死んだ! このままお前たちを道連れにぃいいいいっっ!」


 その感情をむき出しにしながら――リョクシュはだんっと、一歩前に進む。足を踏み込む。


 それを見て、キョウヤさんは背中にある槍を引き抜こうとした時……。


「『』」と、低い声が聞こえたと同時に――


 っ!


 と、リョクシュが前に出した足に、小さな穴が開いた。それは――銃弾が貫通したかのような穴で、空の弾の音は聞こえなかった。でも――



「『ばん』」



 もう一回声がしたと同時に、ばすんっと、今度は反対の足に空いた穴。それを受けたリョクシュは、唸りながら前のめりに倒れてしまった。


 それを見た私達は、驚きを隠せずにそれを見ていると、倒れたリョクシュにゆっくりと近付きながら、ハンザブロウは右手を銃の形にしたまま、彼は静かに、冷たい目でリョクシュを見下ろした。


 リョクシュはぶるぶる震える体でハンザブロウを見上げ……、血走った目と怒りの表情で、震える声で――


「な……、何を……っ!」と言うと、それを聞いていたハンザブロウは……。


「私怨で勝手に動くな馬鹿者が」と、威厳のある音色で言った。


 それを聞いてリョクシュはぎりっと歯軋りをしながら反論する。


「お前に何がわかるんだっ! 悔しくないのかっ!? 同胞が殺されていく様を見て」

「あぁ、それは確かに悲しいが、もう悲しすぎてよぉわからんのじゃよ。これが怒りなのか、悲しいのかがな」

「そ、そんなんで特攻隊を任せられるというのかっ!? ぶっ飛んだ末期だっ! 魔女である体だからあいつの恩赦を受けているのかもしれないっ! しかし私は違うっ! 同胞のために私は」

「……俺の次は私か……。ようようわからんくなってきたなぁ。お前さんには……」

「…………っ!? なにを」

「お前さんに対し、がそんなことを言うか? お前さんのことをそんなに優遇しとるか? 儂にはそうは見えん。なにせ――あの男にとって、儂らはただの駒。ちぇす……というのかのぉ……。その駒同然のものなのに……、お前さんだけを、人として見てくれたか?」


 は。


 そうハンザブロウが言うと、リョクシュはそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。


 それを見て、ハンザブロウは私達を見て、さっきまで作っていたその冷たいそれがなかったかのように、狐顔のそれに変えてニコリとほほ笑んだ後……。


「ちょいとばかし怖がらせてしまったのぉ。しかし大丈夫じゃ。これはこの気位が高い奴の癇癪みたいなものじゃ。ちょいとばかしお灸をすえれば、すぐに収まる」


 と言いながら、私に近付いて来るハンザブロウ。


 そして――シェーラちゃんの庇いを通り過ぎるように、そっと指を私の額にぴとっとつけて……。


「『ッフ』」と言った瞬間……。


 ふっと、私の震えが、恐怖が……、取り巻いていたそれが……、消えた。


「え?」


 私は自分の手を見て、そして膝に乗って慌てて駆け寄ってきたナヴィちゃんとさくら丸くんを見下ろす。二人は泣きそうな顔をしながら鳴いていて、それを見た私はナヴィちゃんとさくら丸くんの頭を撫でながら――


「ごめんね……、心配かけちゃった」


 と言って、シェーラちゃん、キョウヤさん、そしてヘルナイトさんにも謝りの言葉をかける。


 それを聞いてみんなが茫然として私を見ていると、ハンザブロウは私を見て、頭に手を置いてぽんぽんっと叩きながら――


「そうそう。その方がいい。恐怖よりも笑顔の方がずっといい顔じゃ」


 と言って立ち上がり、そのままとんっと後ろに跳びながらハンザブロウはリョクシュの近くに降り立ち――頭にかぶっているそれを手で押さえながら、彼は狐顔の笑みで――私達に向かってこう言った。


「不測の事態じゃったが、この阿呆にはきつく言っておく。そしてこの村のこともあ奴に言っておこう。もう危害を加えることはない。そして……、お前さん達のこと、同胞に伝えておくからの」


 と言いながら、ハンザブロウは「『ドロンッ』」と口走ると――地面から黒い液体が噴き出すかのように出てきて、そのままリョクシュとハンザブロウを覆い隠すように噴き出す。


 それを見て、私達はその光景を見ながら、驚きすぎて動くことができずにいると……、ハンザブロウは言った。


「そう言えば……。言伝を頼まれておったんじゃった。心して聞けよ浄化のお嬢ちゃん」



「『』」



「っ! それって……っ!」


 私が言う前に、黒いドロドロは突然噴出しを止めて、どぱんっとその場で崩れて広がった。


 どろどろと、零れ落ちたかのように広がり……ハンザブロウとリョクシュの姿を隠した……。ううん。消えた……。の方が、いいのかな……。


「…………何だったんだ? あれ……」

「知らないわ……」


 キョウヤさんとシェーラちゃんの言葉を聞きながら、私は背後にいるヘルナイトさんを見上げると、ヘルナイトさんは私を見下ろして、ほっとした音色と凛とした音色が混ざったそれで私を見て――


「――大丈夫か?」と聞いてきた。


 私はそれを聞いて、控えめに微笑みながら……。こくりと頷いた。


 青い空と、そしてヘルナイトさんを見上げながら……。


 ――長かったようで、短かった……。国境を舞台にした激闘は、幕を閉じた。


 傷跡を残して……。



 ◆     ◆



「おっせーな……。あの三人」

「もしかしてぇ……。迷っていたりぃ……?」

「おいロフィ、そんなフラグ立てんな」

「だってぇねぇ……、セイントって迷っていたって言っていたしぃ……」

「………………どこかでフラグが成立しそうだ……な」

「えぇ」


 ところ変わって――ブラド達は尋問 (という名の拷問)を終えて、というかできなくなってしまったので、ジルバ達の帰りを待っていると、ブラドは腰に手を当てながら首を捻り、ロフィーゼは頬に手を添えながらうーんっと唸りながら言った。


 それを聞いたブラドは慌てて訂正を提案するが、ロフィーゼのその言葉に、はっと気付いて思い出し、そして青ざめながら、三人の帰還を心から願っていた。


 ロフィーゼははぁっと妖艶の溜息を吐いて、曖昧な言葉を零す。


 それを見て、シイナはふと――己の足元にいたその人物に目を向けて……。


「だ、大丈夫、何ですか?」と、おずおずと聞いて見た。


 その人物とは――知っての通りランディで、ランディは下半身が切断された状態で、仰向けになりながら倒れている。しかも……、切れたところからさらさらと砂と化して、川に流れていた。


 下半身も、ちぎれてしまった手も。


 すべて砂と化して川の流れに乗って流れていた。


 それを見たシイナは、ふとランディを見て聞いた。それを聞いていたランディはそっけなく――


「大丈夫って、なにが?」


 僕はいたって正常だ。と、普通に話していた。


 シイナはそれを見て、ふと、先ほどあったことを思い出しながらランディを見下ろした。


 ジルバ達が去った後、ロフィーゼはランディに問い詰めていた。


 どこから来たのか。そして死霊族は何人いるのか、更には目的を教えろと、念入りに聞いたが、ランディは口を割ることはなかった。しかしロフィーゼも諦めずに尋問 (しつこいようだが、という名の拷問)をしていき、粘りに粘って聞いていたその時……。


 ランディは叫んだ。


 痛みによる叫びを上げながら、彼はじたばたと暴れだしたのだ。


 それを見たロフィーゼとブラドは、すぐにその場から離れて、シイナはスキルを出そうとした。


 しかし――すぐにそれは消えて、消えたと思った瞬間には……、体が少しずつ、崩れていた……。


 原因はわからない。しかしさくら丸がランディの心臓の代わりとなっている石を持ってどこかへ行ったのだ。誰かに渡してどうにかしたに違いないと踏んだロフィーゼは、急遽尋問をやめて、現在に至っているということだ。


 シイナはそれを思い出し、そしてランディを見下ろしながらこう聞いた。


「……、なんで砂になっているんですか……?」

「砂と化しているの方がいいんじゃないか? まぁ答えたくない気持ちはあるけど、そんな抵抗はないね。強いて言うなら、僕はもう天に召されているといったほうがいいのかな?」

「天って……、天国?」

「異国ではそうなんだ。こっちではね……サリアフィアの恩赦を受けて、転生が、天界で第二の人生を全うするっていう話なんだ。前世の記憶は引き継げないけど」

「……転生か……。すごくいい話ですね……。こっちだと、悪いことをしたら地獄っていうところに落とされるんです」

「そうなのかい? ジゴク……、聞くからに嫌な響きだ……。でもさ……」


 そう言いながら、そっと目を閉じて――ランディは穏やかな音色で、シイナを見ないで、シイナを見ながらこう言った。


「こっちはこっちで……、悪いことをしたら転生も、天界で第二の人生が送れない。その場所とは違うくらい世界『孤独の彼方』に連れて行かれてしまうんだ。永遠の世界を彷徨って、えんえんと歩きながら彷徨う。僕はどちらかと言うと……、後者だね」

「……舌を抜かれるよりも、怖いです」

「そっちの方が怖いじゃないか。てか、どっちもどっちだ」


 ははっと、力なく笑うランディ。そして――シイナを見ないで、シイナに向かって……、はぁっと溜息を吐いて、そして彼は言う。


 穏やかに、そして今までの怒りが嘘のようなそれで――彼は言った。


「なぁ……、一つ、いい情報をやるよ」

「?」


 ランディの言葉に、シイナは首を傾げて「あ、はい……どうぞ」と、頷きながらおどおどとして言うと、それを聞いていたランディは、小さくなり、震える口で、こう言った。


 どんどん砂と化して、下半身も、腕もなくなり、砂が水に溶けてなくなっていく中……、残っていた顔だけで、彼はこう言った。


 さらさらと流れるその水の水温を感じながら……。


 シイナに向かって――彼は言った。


「僕は、一人が大好きだ。一人なら――誰の指図を受けずに、生きれると思ったから、鎖に縛られずに生きていけると思ったから、僕は一人でいた。死霊族になってからもずっと……、一人でいた」

「………寂しく、なかったんですか?」

「寂しくはなかったね。でも、なんでお前達のことを執拗に追っていたのか、今わかった。羨ましいと思ったんだ。楽しく話しているお前達が羨ましくて、壊したいと思ったからこそ、ここまで来た。生きてきた」


 を見て、嫉妬したんだ。


 そう言って、ランディは続けて言う。


 最期の――言葉を……。言った。


「なんだろうな……、もう、おうのは、やめた……。やめた。いまは……きぶんがいい……、きもちよく……ね、む……」


 と言った瞬間、ざらぁっとランディは完全な砂と化して――消えた。


 それを見てシイナはぐっと口を噤み、ランディがいた場所を見ながら――胸の手を当てて追悼のそれをしてから言った。


「おやすみなさい――ランディさん」



 ◆     ◆



 こうして、大きな傷跡を残した戦いは一旦幕を閉じ、次の幕を開けた……。

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