PLAY40 終わりの傷跡と道 ①
「え……? 真っ暗……」
「何したんだ、ヘルナイトの野郎……。って、なんだこれ」
「ちょっと……、ボロボロをいいことになんで私の太股を触ってんのよ……アキ……ッ!」
「えぇっ!? 俺は触ってないよっ! 誤解誤解っ!」
「暗いことをいいことにラッキースケベをかました奴の言い分なんて聞きたくないわ。確かに触ったでしょうが」
「あ、それオレ。すまんシェーラ」
「え……、マジ……?」
「ほらぁっ!」
突然暗くなったせいで私達はなんとなく認識ができるくらいまでぎゅうぎゅうになって、暗闇の中でおしくらまんじゅうのようなことをしていた。
ヘルナイトさんは――突然私達をこの暗闇の閉じ込めて、リョクシュと相対しているに違いない。でも、声どころか……、小さな音も聞こえない。
この中にいる私達の声は聞こえるけど、外の世界の声は聞こえない。
それを聞きながら私は思った。
ヘルナイトさんは……、大丈夫なのか。
三人は暗闇の中ワイワイぎゃあぎゃあと何かを話している。
私はそんな会話に入れないまま……、ううん。入れないんじゃなくて、なんだか暗いと不安が押し寄せて、思うように口が開かなくなっているだけなのだけど……、なんだろう……。
この闇が――怖い。
ヘルナイトさんが放ったから怖いとかじゃない。
私は……、この暗い世界が、月の光すらない世界が……、怖いんだ。
そう直感した時……。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!
「「「「っ!?」」」」
雑談が消えるような轟音。
それを聞いた私達ははっと息を呑んでその音と、地面を伝う衝撃音を聞きながら、その音が消えるのを待っていた。
その音と衝撃はまるで地震のように広がっていて、グラグラと地面が揺れていた。
「ちょっと……っ! なんなのこの揺れっ!」
「自然……、なわけねえな……っ! まだ揺れているし、轟音もまだ響いているっ!」
「人為的……、しかもこれは……、攻撃の衝撃っ!?」
「きゅきゃぁ~!」
「わんっ! わんっ!」
「おおぅ! ナヴィにさくら丸すまねぇっ!」
グラグラ揺れる黒い世界の中、シェーラちゃんやアキにぃが驚いて辺りを見回しているけど、暗いせいで何も見えない。
キョウヤさんもそれを見て驚いていたけど、地面の手をつけたのか、『ぐにっ』と言う音が聞こえた時――ナヴィちゃんとさくら丸くんの唸り声が聞こえた。
それを聞いて、キョウヤさんは慌てて謝った。
私はそれを感じ、外にいるヘルナイトさんのことを思いながら、ぎゅっと胸の辺りで手を絡めて祈る。
無事でいて……。そう願いながら。
すると――
ぶわりと、黒い闇が空気に溶けてなくなった。それを見た私ははっと上を見上げ、そして正面を見た瞬間……。
言葉を失い、目を点にして、その光景を固まって見てしまった。
アキにぃとキョウヤさん、シェーラちゃんも、私と同じようにそれを見て……。
ナヴィちゃんとさくら丸君は、小さいコミカルな白目をむいて驚いて口をあんぐりと開けていた。さくら丸くんは咥えていたそれを、ころんっと落とすくらい……、大きな口を開けて……。
誰だってそうなるだろう……。
今まで戦っていた場所が、一変していたのだから……。
しかも……道だったその場所が、断崖のように真っ二つに割れて、道の中央に大きな裂け目を作っていたのだ。
しかもかなり遠くまで……。
その道の中央に、リョクシュは茫然としたまま、ざぁっと青ざめた顔をして立ち尽くしていた。顔面蒼白とはこのことなのかな……。顔色が真っ白に染まっている……。
彼の右すれすれに亀裂が入っていて、憶測だけど……彼の真横にそれが通り過ぎて、それを直に見てしまったことによる硬直と、失意を感じたのだろう……。だから蒼白なんだと認識した私。それを見て、大剣を背中の鞘に納めたヘルナイトさんは――一言。
「……、やはり、これは使いどころを見ないといけないな」と言って、私達の方を振り返りながら……、ヘルナイトさんはこう言った。
ふっと、微笑むような音色と共に――こう言ったのだ。
「終わった」
それを聞いて、キョウヤさんは一言ヘルナイトさんに向かって――真剣な音色で。
「お前――何した……?」
「?」
「いや……、『?』じゃなくて……」
しどろもどろになりながらも、キョウヤさんは言葉を紡ごうとしたけど、溜息を吐きながら頭を垂らし、そして指をさしていた指を、ふにゃんっと折り曲げて……。小さく……。
「いや、いいわ……。チートらしい戦いぶりだったと思うぜ……。見ていないけど」と、言った。
それを聞いて、首を傾げたヘルナイトさんだったけど、私を見てすぐに駆け寄りながら――ヘルナイトさんはしゃがみながら「大丈夫だったか?」と聞いてきた。
それを聞いた私はおどおどとしながら慌てて――
「あ、はい」と頷くと……、ヘルナイトさんは私の頭に手を置いて、そして――反対の手に持っていた薄黄緑色の石をぐっと握って……。
「マナ・エリクシル――『
と言った瞬間――
私の周りに出てきた透けて見える光った音符。そして琴の音色。何かを演奏しているかのような音だった。
べん、べべん。と聞こえるその音は、シェーラちゃん達にも聞こえていたらしく、その音を聞いて耳を澄ますように聞き耳を立てていた。
私も聞き耳を立てて聞いていると、頭やナイフが刺さっていた痛みが消えていく……。というか、刺さっていたナイフがどんどん透けて消えていき、そして傷口を塞いでいったのだ。
それを感じながら、音が消えたことを聞いて、そっと目を開けて傷口を見ると……。
「あ……、消えている……」
私はそれを見ながら、開いてしまった防具や服。そして血がついた服を見て驚きの声をあげた。小さく……。
すると――
「きゅきゃぁ!」
「ハンナァ!」
「お前は行くなシスコンッ!」
ナヴィちゃんが私に向かって跳んで体当たりしてきたので、私はそれを両手でしっかりと抱える。アキにぃもだっと駆け出して抱き着こうと泣きながら走る体制だったけど、キョウヤさんの尻尾によって阻まれてしまう。
シェーラちゃんも駆け寄りながら「大丈夫だったの?」と、心配そうな音色と表情で、私に聞いてきた。
それを聞いた私は頷きながら――
「うん。痛かったけど平気だったよ」と、控えめに微笑みながら言うと、シェーラちゃんはそれを聞いて、「そう」と言いながら腕を組んで、目を閉じた後……、すっと、リョクシュの方を見て、彼女はこう言った。
ぶるぶると震えながら、ヘルナイトさんを見ているリョクシュ。それを見たシェーラちゃんはじっと睨むように見てから……。
「――殺さなかったのね」と、ヘルナイトさんを見上げて聞いた。
それを聞いたヘルナイトさんは、「む」と驚いた声を上げて言うと、そのリョクシュを見てヘルナイトさんは考える仕草をした。
その光景を見ていたアキにぃは、はっとしてすぐにライフル銃を構えながら……。ずずずっと背後から黒い靄を出しながら、低い声でこう言いながらリョクシュに近付く。
「そうだった……、喜ぶ前にまずはあいつを……っ!」
「まてまてまてシスコン。お前は少し冷静な思考を習得しろ。獲得しろ」
しかしそれでさえも、アキにぃの胴体にその尻尾を使って拘束するキョウヤさん。顔はすでに呆れ顔だ。
それを聞いて、ヘルナイトさんは私を見下ろし、そしてリョクシュを見た後――彼はこう言った。
「確かに――シェーラ達の思うことは、私もよくわかっている。しかし……、私は鬼士だ。人を殺す戦士ではない。あいつとは違う」
「あいつ……?」
誰だ? と、キョウヤさんは私達が首を傾げるような言葉を吐いたヘルナイトさんに対し、代表としてその言葉に対して質問をした。アキにぃを拘束しながら。
それを聞いたヘルナイトさんは一瞬はっと息を呑んで、しまったという顔をしながら――首を横に振って……。
「いいや。忘れてくれ。これは――個人の問題だ」
「?」
私がその言葉を聞いて首を傾げていると、シェーラちゃんはそれを聞いて、肩を竦めながら、呆れた顔をして……、こう言った。
「つまり――あなたは騎士だから殺しなんてことはしない。とでも言いたいの?」
「そうだな……、それに――」
と言って、ヘルナイトさんはもう一度、リョクシュを見る。
リョクシュはいまだに震えながら、ヘルナイトさんを恐怖の対象のように見て立ち尽くしていた。両手がなくなったその腕で、足だけで立ちながら……。彼は震えていた。
それを見たヘルナイトさんは――彼を見ながらこう言う。凛とした音色でこう言った。
「――もう、私の自己満足の怒りを、受けたからな」
「確かに」
シェーラちゃんはその避けた地面を見ながら、引きつった笑みを浮かべて……。
「あれは当分立ち直れないわね」と、リョクシュを見て言ったシェーラちゃん。
キョウヤさんもそれを見て頷きながら、ご愁傷様と言って……。腰に手を当てながら……。
「オレだったら、多分無理だわ。あれ。見ていないけど、すげー騒音だった」
「…………すまない。あれは開けた場所でしか使えないものだったからな」
「だったらなんでこんな一本道で使ったっ?」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて、キョウヤさんはぎょっとしながら突っ込んでいた。
アキにぃは納得がいってない顔をしていたけど、それでも銃を下ろして、溜息を吐きながら小さく……「まぁ……、戦う意思と言うか、襲い掛かってこないなら、それでいいけど……」と言って、私を見下ろしながらアキにぃは心配そうな顔をしてこう言った。
「ハンナ――もう二度とあんな無茶なことはしないでほしい。みんな心配したんだからな……。その顔だって、現実だと傷物になっちゃうかもしれなかったんだからな」
「う」
それを聞いた私は、びくりと肩を震わせて、怒っているアキにぃを見上げながら唸って……、シェーラちゃんとキョウヤさんを見ると。二人も少し怒っている顔をして私を見ていた。
ヘルナイトさんを見ると、うんうんっと頷きながら私を見てて……。
最初は――そんなこと気にもしなかったけど、守らないとと思う気持ちが大きすぎたせいで、気付くことができなかった。
それは……、私がみんなに対してけがをしないでという気持ちと同じように……。
みんな――私が傷ついて、すごく心配して、そして怒ってくれていた。
私が今まで思っていたことを、みんなが思っていた。逆に立場になって、逆のことを思っていた。簡潔に言うと……。
迷惑をかけてしまったのだ。
私はしゅんっとして、そのまま頭を垂らしてから……。申し訳なさそうに……。
「ご、ごめんなさい……」と、謝ったけど……。
「そうね――あんたはとんでもなく大馬鹿ね」
「っ!」
シェーラちゃんの毒のような言葉、鶴の一声と言ってもいいような言葉を聞いて、私は頭上にごんっと、大きな石が降ってきたかのような衝撃を覚えて、顔を上げると……。
シェーラちゃんは私を見て、ツンッとした顔で腕を組みながらこう言った。
「『逃げろ』って言っても逃げないで、私達のために命を懸けたあんたは大馬鹿と思えたわ。役立たずと言われてむかついたのはわかる。でも大きな勘違いをしている。あんたは自覚なしだから、そう思わないでしょうけどね」
「?」
シェーラちゃんの言葉を聞いて、私は首を傾げて「どういうこと……?」と、シェーラちゃんに答えを聞こうとした。
でもシェーラちゃんはすんっとそっぽを向きながら、私の顔を見ないでこう言った。
「わからないんだったら、教えることはできないわ。自分で考えなさい」
「えぇー……っ?」
なんだろう……。シェーラちゃんの意図が、読めない……っ。
キョウヤさん達を見上げると、キョウヤさんとアキにぃは肩を竦めながらシェーラちゃんを見ているだけで……、私に助太刀してくれなさそうだった。
それを見て、私はシェーラちゃんを見て考える。
大きな勘違い……。
うーん……。
うううううううう~ん……?
長い長い間うんうん唸りながら考えていると……。
「わんっ! わんっ! わんっ!」
「!」
突然、私の足元から鳴いていたさくら丸くん。
私はそのまま足元にいるさくら丸くんを見下ろすと、さくら丸くんは口に咥えていた『屍魂』の瘴輝石を見せて、ふりふりと尻尾を振っていた。
それを見た私は、しゃがんでそれを手に取って――さくら丸くんを見て優しくこう聞いた。
「この石を、浄化してくれって言いたいの……?」
「わんっ!」
その言葉に、さくら丸くんは頷きながら鳴いて、ふりふりと尻尾を振っていた。
それを見たアキにぃは、感心しながら「主人に似て、正義感溢れる犬だこと」と、少し呆れていたけど、驚きが勝っているその音色と顔で言った。
私はそれを聞いてから、さくら丸くんの頭をそっと撫でて、控えめに微笑みながら「ありがとう」と言うと、さくら丸は「くぅ~ん」と唸りながらその手に甘えていた。
すると――すとんっという音が聞こえて、その音が聞こえた場所を見ると――
リョクシュは、私達を見ながら、腰を抜かしたかのように尻餅をついて、絶句と絶望。そして愕然とした表情で私達を見ていた。
それを見た私は――さくら丸くんが持ってきた石を手に持ちながら立ち上がって、リョクシュに視線を向けながら、私は言った。
「まだ……、やりますか?」
……この言葉は、いじめて言った言葉ではない。ただ単純に、まだ戦う気ですか? という質問だ。
もしイエスと答えた時、どうするか――
ノーと答えたらどうするか……。そんなことはわからない。どうしようかだなんて決めていない。できれば戦いたくないのだけど……、リョクシュはその質問に対し……。イエスでも、ノーでもない……。
ぶるぶると、私達を恐怖の対象としか見ていない目で見ているだけだった。
それを見たキョウヤさんは、小さく「ヘルナイト……、結構えぐいトラウマを植え付けたな……」と、ヘルナイトさんを見上げて言うと、ヘルナイトさんは首を傾げながら「?」と、一体何をしたのかという顔をしていた。
それを見たシェーラちゃんは呆れながら溜息を吐いて「無自覚だから仕方ないわね……」と、首を振って言った。
アキにぃはそんなリョクシュを一瞥してから、すぐに私を見て――
「話しても無駄だから、はやく済ませよう」と、一歩一歩、リョクシュに向かって歩みを進めるアキにぃ。そしてアキにぃはリョクシュに向かって、近付きながら聞く。
「さて――これ以上の抗いはやめてくれよ。さっそくだけど、お前のその」
と言いかけた瞬間だった……。
「ほいほい。ちぃっとばかし待ってくれんかのぉ」
「「「「「っ!?」」」」」
突然だった。
アキにぃにの目の前に現れ、アキにぃの肩に手を置き、にやにやした顔つきで堂々と宥めながら突然現れたその男の人。
服装は明治の服装にも見えるけど……、緑を基準とした着物に、中にはワイシャツのような服。袴に草履。頭には肌色のハンチングと言った独特な衣装を着ている少し跳ねた黒髪が印象的な散切り頭の狐顔の青年が、アキにぃの前に現れていたのだ。
唐突に、音もなく現れた。
それを見たキョウヤさん達はおろか、あのヘルナイトさんでさえも驚きながらその人を見た。
アキにぃはすぐに拳銃を取り出そうとして懐に手を入れると――その人はアキにぃをにやにやした目で見てから……、そっと口を開いて――
「『ふわん』」
?
今、なんて……。という疑問の感情が出てきた私は、一体何を言っているのだろうこの人はと思った瞬間……。
「あ、わぁ! えっ!?」
「はぁっ!?」
「うそ……っ!」
「…………っ!」
「アキにぃ!」
また突然だった。
アキにぃは何もない場所で、ふわりと頭から風船で吊るされたかのように、体が浮かんだのだ。
私達はそれを見て驚き、じたばたと暴れて慌てているアキにぃが一番驚いてて、そのままふわふわと宙に浮いていた。それを見た青年さんは「なははは」と笑いながら――
「滑稽滑稽。滑稽すぎるのぉ。っと、あまりの笑いものに忘れそうになった。最近物忘れが激しくなっとってのぉ……、年は取りたくないわい……、さてさて~、さ~っと。えっと……、お前さん方かな? あ奴が危険視している御一行様と言うのは」と、私達をじっと見て、その狐目のすっと細めで開けてから、その人は言った。
陽気で、余裕のある音色でその人は言った。
「ほほん。別嬪の魔人ちゃんに、槍使いの蜥蜴の亜人。銃使いのエルフに『12鬼士』武神卿かっ。いやはやなんとも、数日の間に巫女卿や誘卿とであるとは思いもしなかったっ! そして……」
と言った後、その人は口を開きながら――「『ッフ』」と言うと、フワフワ浮いていたアキにぃが、その言葉と共に地面に向かって落ちた。
べちゃっという、顔面から地面に叩きつけられた音を立てて、「あぎゃっ!」と間の抜けた声を出して落ちた。そしてそのまま気を失ってしまうアキにぃ。
それを見た私は、驚きながら「だ、大丈夫……?」と、アキにぃに声をかけた時……。
狐顔の人は私に向かって急加速で近付き、そしてその顔をじっと見ながら、ニタニタした目つきで、私の顎に指を添えて、つぅーっと輪郭を撫でた。
「っ! てめ」
「ちょっ! 何してんのよっ!」
「っ!」
三人が武器を抱えながらその人に向かって敵意を表すと、その人は「なぁに」と言いながら、陽気な顔をして、キョウヤさん達に向かってこう言った。
「ちょいとばかし――見たいと思ってのぉ」
と言いながら、ちらりと私を見下ろして、その人は私を見てからこう言った。
陽気だけど、少しだけ色が含まれているような低い音色でこう言った。
「嬢ちゃん。その石を、儂の目の前で浄化してくれんか?」
「?」
私は混乱した。というか困惑した。突然現れたその人は、突然私に向かってそう言って、仲間の魂でもあるその浄化を、自分の目の前でしてくれと頼んできた。
普通に聞くと、一体何を言っているのだろうと思う。ヘルナイトさん達を見ると、三人はその音場を聞きながら、疑念の表情を浮かべて固まっていた。
でも臨戦態勢は解かない。
それを見た私は――その人を見てこう聞く。
「なぜ……、ですか?」
それを聞いた狐の顔の人は陽気な表所を崩さずに「なにってのぉ……」と、頭を掻きながら彼はこう言った。
「簡単な話じゃ。必要なサンプルは入手した。あと儂の眼で、お前さんの詠唱を見ろとの通達じゃて」
「………?」
「とうとう訳が分からんくなってきたかのぉ……? 簡単な話じゃ。お前の詠唱を見て、役立たずのその石の魂を消せ。上からの通達と思ってくれ」
「っ!? それは」
私はその言葉を聞いて、意味が分からないを消して、なんでそんなひどいことをと思いながら、反論しようとした。
上とはきっと、リョクシュが言っていたあのお方に違いない。
でもその人のために戦ったのに、一回負けただけで消せだなんて……、そんな非道なことを簡単にする人を、私は無性に許せなかった。
だから反論しようとしたのだけど……、狐顔の人はすっと――私の口元に人差し指をつけながら、にっと笑いながらこう言った。
余裕の笑みで……、その人はこう言った。
「それ以上の言葉はなしで頼もうかのぉ。汚い言葉で言うと『いいから素直にやれ。出ないと――お仲間さんがどうなっても?』って感じかのぉ。それに儂はこう見えて――言葉一つで人を簡単に殺してしまう術を持っておる。ゆえに今は――聞いた方が、見せた方が賢明じゃて」
「ハンナ……、言うことを聞いた方が賢明だ」
「!」
ヘルナイトさんは、私を見て言った。その言葉を聞いたキョウヤさんは驚きながら「はぁっ!? なんで聞いた方が」と言うと、ヘルナイトさんは狐顔の人を見てこう言った。
「あの男は擬態音だけでアキを難なく宙に浮かせた。あの男はきっと魔女――の体を乗っ取った死霊族。つまり……」
「……擬態音だけで、人を簡単に殺せてしまうってことね……」
シェーラちゃんの言葉に、ヘルナイトさんは頷く。
それを聞いた私は、すっと狐顔の人を見る。その人はにやにやしながら私を見下ろしている。そしていつでも口を開く準備をして待機をしていた。
それを見て、ヘルナイトさんの言葉と、シェーラちゃんの言葉を聞いて、私はぞっと顔を青ざめた。
ヘルナイトさんの言っていることが本当なら……、というか私は見てしまった。
この人は――言葉一つでアキにぃを空中に浮かせて、そのまま落とした。
手など使わないで、口だけで、言葉だけで、擬態音だけでそれを難なく行使した。
言葉は刃。その言葉が正しいかのように、言葉一つで――人を簡単に殺してしまう術を持っている。
『ぐちゃ』と言えば……、素手でリンゴがぐちゃぐちゃになるかのように。
『ざしゅ』と言えば……、簡単に空気の斬撃を繰り出して、斬ってしまうだろう……。
それを思うだけで……、ぞっとした。
全身の血が冷たくなったかのような不安に陥った。
私はそれを聞いて、その人の顔を見上げながら口を開こうとした時、その人はすっと指をどかしてくれた。私は少し驚きはしたけど、その人の顔を見てこう聞いた。
「……もし、見せた後は……?」
「そのままその石はお前さん達のものじゃ。そして戦わないではい終了。このまま儂は引く。じゃが、条件がある。そこで茫然としてしもうたリョクシュを連れて帰りたい。それを守らなければ……、決裂。ということじゃ」
私はそれを聞いて少し考えた後――背後にいたヘルナイトさん達を見た。三人は納得がいかない顔をしていたけど頷いた。
私はそれを見て――狐の顔の人を見た後……。
「わかりました。でも、約束は守ってください」と言った。
それを聞いたその人はにやりと笑って――「決まりじゃな」と言った。そしてヘルナイトさんを見てから陽気に手をひらひらと振って……。
「しかしここで会ったのも何かの縁。自己紹介でもしておこうかのぉ」と、ヘルナイトさんを指さしながらその人はこう言った。
「まずはお前さんから」
それを聞いたヘルナイトさんは少し黙った後――慎重な音色でその人を見た後こう言った。
「……『12鬼士』が一人――地獄の武神。ヘルナイト」
それを聞いたその人は「ほうほう」と言いながら――
「ほんじゃま。儂も――お初にお目にかかります。武神卿。儂は死霊族――特攻隊隊長にして『
と、礼儀正しくお辞儀をしながら狐顔の人――ハンザブロウはにっと笑みを浮かべて自己紹介をし、私を見て微笑みかけながらこう言った。
「それではじゃ。お前さんが持っている『大天使の息吹』……見してちょ」
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