PLAY39 国境の村の激闘Ⅱ(私が動かないでどうするんだ) ⑥
「な、なぜだ……っ!?」
リョクシュはふらつきながらも立ち上がり、ヘルナイトさんを見ながら斧を掴むとボロボロの顔で彼はこう聞いた。
「なぜ立っていられる……っ!? 『封魔石』の力で……立つことすらやっとのはずなのに……っ!」
その言葉を聞いて、私はヘルナイトさんの手首を見る。
バングルがついた……、それも『封魔石』がついたその手を見ると……、私は目を見開き、ずくりと来た痛みに耐えながら私は驚いていた。
なかったからだ。
ヘルナイトさんの手首からバングルがなくなっていた。
まるで消えてしまったかのようになくなっていたから、私は驚きを隠せずにいた。
リョクシュの言葉を聞いていたヘルナイトさんは何も言わずに、そのバングルがつけられた手をすっと上げて、リョクシュに見せるようにして手を上げるとヘルナイトさんは言った。
「ああ、そのバングルなら……もうない」
「あ、はぁっ!?」
リョクシュは愕然とした表情で驚きを見せる。
ヘルナイトさんを見て、ふらりとよろけながらヘルナイトさんの手を震える手で指さすと、彼は口元を震わせ……、驚愕のそれでその手を見ながらこう言った。
「あ、なんでないんだ……っ! 『封魔石』は壊すことも、斬ることもできない……っ! 破壊不能の鉱物のはずだ……っ! それが何で……、こんなことに……っ!」
それを聞いて、ヘルナイトさんは「あぁ」と言って――
「確かに、『封魔石』は壊すこともできない。最も……、それだけを斬る詠唱があると聞いたが……、そんなものはない」
「だったらっ!」
「しかしな……」
と言いながら、ヘルナイトさんは反対の手に乗っているその子をリョクシュに見せた。
丁度ヘルナイトさんの手に収まるような大きさ。楕円形で、フワフワしているそれを見せた。それを見たリョクシュは……。
「は、はぁ……?」
素っ頓狂な声を上げてそれを見た。
私はそれを見て、「あ」と声を漏らした瞬間、そのふわふわしたそれが、モゾッと動き出して、そしてヘルナイトさんの手の上で――
「きゃぁ!」と、顔を出して鳴いた。
それを見たリョクシュはまた素っ頓狂な声を上げると、ヘルナイトさんはその子――ナヴィちゃんの頭を撫でながらこう言った。
「この魔物……違うな。ナヴィが『封魔石』を食べてくれたおかげで――動けるようになった」
そう言いながら、ヘルナイトさんはナヴィちゃんの頭を撫でる。そしてナヴィちゃんに向かってヘルナイトさんは、凛としているけど、優しい音色でこう言った。
「ナヴィ、ハンナのところに行ってくれ。後は私が何とかする」
そう言って、ヘルナイトさんはナヴィちゃんをゆっくりと地面に下ろした後、ナヴィちゃんはきょろきょろと私を探して辺りを見回していた。そして私を認識した後――
ぶわっと大粒に涙を零し――
「きゃあああああああ~っ!」
「わっ。わぷっ」
ナヴィちゃんはぴょんこぴょんこと飛び跳ねながら私に向かって、私の胸――と思ったら顔面に飛び込んできた。
私はそれを受けて、驚きながらナヴィちゃんを抱える。そしてナヴィちゃんを抱きしめながら――
「ご、ごめんね……。怖がらせちゃったかな……?」
と、胸の中にいるナヴィちゃんを撫でながら、私に胸に顔をこすらせて泣いているナヴィちゃんを宥めた。
「きゅきゃあ~っ!」
「あわわ、よしよし……」
なでなでと……、私はナヴィちゃんの頭を撫でながら慌てていると……。
ふっと、暗くなるその場所。それは夜になったからではなく……、その場所に人がいて、その人の影が私を覆っていただけ。
私はすぐに顔を上げて、手をかざそうとした時――そのかざそうとした手を、上げたところで止めてしまった。
かざすことができなかった。ううん……、しなくてもいいと認識したから……。
理由なんて――わかりきっているはずだ。
私は何度も経験している。それを見た私は、なんだかその背中が、今までよりも大きくて……、あぁ。私はいつもこの背中を見ていたんだと思ってしまった。
状況を説明すると――
私を守るためにヘルナイトさんが私の前に出て、斧を持っていたリョクシュの攻撃を素手で受け止めていたのだ。
それを見て、そしてあらんかぎりの力を入れながら――リョクシュは「ぐ……っ!」と唸りながらこう言った。
「な、そんなこと……、ありえないっ! 『封魔石』を食っただと……っ! 今までそんなこと、聞いたことがないっ! そんな都合のいいことがあっていいのかっ!?」
「だがな、現に私の目の前で、ナヴィは食べた。『封魔石』を。おかげで動くこともできた。そして……」
ヘルナイトさんは素手――ではないけど、グローブ越しで、掴んで受け止めている斧に、力を入れた。
指先に力を入れるように――ぎりっと音がするくらいその斧を指で掴むと……。
びきっと――
斧の刃に罅が入った。
「っ!」
それを見たリョクシュは、ぞっと顔を青ざめて、それを見て、すぐに鎖をほどこうとした。
掴んでいるように見えていたのは――斧と手を鎖で括り付けていたから、掴んで切ることもできたし、その遠心力を使って破壊することもできたから。
だからリョクシュは振り回さずに、手と斧を鎖で括り付けて戦っていた。
罅が入ったことにより、危機を感じたのだろ……。
ヘルナイトさんがその斧を指で壊したと同時に、鎖を掴んで、そのままリョクシュの腕を折るか、破片が手に刺さってしまうかもしれないという不安から、鎖を解こうとしていたのだろう……。
でも……、鎖を解こうとした時――
がしりと――ヘルナイトさんはリョクシュの顔を掴む。顔と言っても、頬を片手の五本の指でつまむように、口元を塞いでそれを止めたヘルナイトさん。
たったそれだけのことだけど……、リョクシュは驚愕の顔になりながら、ほどこうとした手を止めてしまう。
「う……っ! ぐぅ!」
塞がれた口で何かを言おうとしているリョクシュだけど、ヘルナイトさんはそんなリョクシュを見て――凛とした音色でこう言った。
ばきばきと、斧を掴んでいる手に力を入れながら……。
ヘルナイトさんは言った。
「痛いだろう? 怖いだろう? 生きとし生けるものはすべて……、何かに臆して生きている。痛みを抱えて生きている」
「そ、それがどうした……っ! そんなもの、ただ弱者の言い分だろうっ! 私に恐怖などないっ! 私には
「しかし……、なぜ恐怖などないお前は――最後にハンナをいたぶり殺そうとした?」
「そ、それは……っ!」
「恐怖心を煽らせるための奇策ということはわかった。しかしそれは、とある感情を隠すための策でもあった」
「っ!」
「最初に――私を無力化させたのは……、ハンナ、アキ、キョウヤ、シェーラに焦りを募らせることを目的としていた。そして次にアキとキョウヤ、シェーラを拘束し、ハンナだけを残して……、嬲ろうとした」
ここまではお前の計画通りの回答か?
その言葉に、リョクシュは引きはがそうとしたそれを止めて、ヘルナイトさんの話を、目を見開いて聞いていた。その表情を見て――ヘルナイトさんは小さく頷きながら……。
「正解……、だな」
と言うと、ヘルナイトさんは続けてこう言った。
「簡単は話だ――私さえいなければ、勝てると思って……、私達の前に立ち塞がったのだろう? 私を無力化できる術を持ち、そして三人を拘束する術をもって、ハンナを殺そうとした。しかしそれは――単純な理由から来たものだろう。お前は主のためにと言っていたが……、本心は違う。己でも気づいていないような、本当に単純明快なことだ」
そう言って、ヘルナイトさんは……、凛とした音色でこう言った。
「……誰来れ構わず、こう思われていたからな。私はこの地で最強の騎士。それは誰もが勝てない存在として君臨している存在であり、憧れでもあり、畏怖でもだった。お前はその後者……」
私に対して――恐怖していただろう?
そう聞くヘルナイトさんに、リョクシュは「むぐぐぐっ!」と、青ざめながら唸りだして、口元を掴んでいたその手首を、鎖をほどこうとした手で掴んで、引きはがそうとするけど、力の差は歴然で、引きはがすことすらできないリョクシュ。
それを見て、その表情を見て――ヘルナイトさんは続けてこう言う。
「自分でも理解していたが……、思い出して再度認識した。自分がどんなに強く、象徴とされていたか、恐れられたのか……。それを再度認識した。味方にとってすれば心強い仲間。悪にとってすれば、敵にとってすれば、敵に回したくない。動けなくしてから倒したいという輩が多い」
もう何度も体験し、耳にした。
その言葉を聞いて、私はふと、もしゃもしゃを感じてしまった。
そのもしゃもしゃは、赤と黒の中にひっそりと隠れている――青。
まっさらな青い世界が、黒と赤がうまく隠しているような世界。その世界を見た時――私ははっと思い出した。
ヘルナイトさんは――人間が大好きな人だ。
でも……、人はその人を見た目や強さで判断してしまう。
ゆえに……、ヘルナイトさんが人間が大好きだからと言って、ほかの人が全員好きというわけではない。
きっと、百人中何人かは、嫌いか、怖いか……、はたまたは憎いか、妬ましいという分類に入る。
ヘルナイトさんはきっとそんな人達を見て、戦いを挑まれて、戦って、勝って……、そして傷つけてしまったことを悔やむ。
そんな優しい人だ。ヘルナイトさんは――
だから、この戦いも……、本当は誰も犠牲なんて出さないで、浄化か逃げてくれればいいと、ヘルナイトさんはそう思っているんだ。
でも……、その青いもしゃもしゃを消して、さいど黒と赤のもしゃもしゃの世界を作り出した後……。
「だが……、お前を見て、私は許せなかった」
ヘルナイトさんは言う。
低く、そして怒りを抑えているけど、漏れ出してしまった怒りの声で、ヘルナイトさんは言った。
それを聞いて、リョクシュはびくりと肩を震わせながら「んぐぅっ!」と唸ると、ヘルナイトさんはそんなリョクシュを見下ろしながら、彼は凛として、そして怒りをふつふつと沸かしたその音色で――彼は言った。
「私だけならば、それでいいと思っていた。私だけを狙えば、それでいいと思っていた。しかし……、貴様は私の目の前で――二度、傷をつけた」
と言って、ヘルナイトさんは私がいる背後を振り返り、そして私を見下ろしながら、彼は――真剣な音色で、私を見下ろしながら、心配と苦しさが混じったその鎧越しの表情で、彼はこう言った。
「目の前で――大切な、守るべきものを傷つけた」
なんだろう……。ヘルナイトさんの言葉、一言一言が……、とくとくと心臓の鼓動を大きくする。
それを聞いた私は、きゅっと胸の辺りで手を絡めて、祈るような手を作ってしまう。なぜこのような手を作ってしまったのかはわからないけど……。
ヘルナイトさんはそんな私を見た後――リョクシュに目を戻して、リョクシュはそんなヘルナイトさんを見てびくりと、体をこわばらせて、ざぁっと青ざめた顔でヘルナイトさんを見た。
ヘルナイトさんは、そんなリョクシュを見ながら、ばきばきと斧の刃を握る力を強めて、彼は言った。
凛として、そして怒りを込めたその音色で――彼は言った。
「その報い……、ここで晴らす」
私達の――怒りをっ!
と、ヘルナイトさんは言った。けど……、私はそれを聞いて、疑念の動作をした。首を傾げて、あれっと思った。そして次に思ったことは……。
――私達?
リョクシュも思ったらしく、目を点にして、驚きながらヘルナイトさんを見ていると……。それは突然起きた。
――どしゅしゅっ!
「……っ!?」
「!」
突然の殺傷音。
というか、何かが突き刺さる音が、リョクシュから聞こえた。
私はそれを見て、はっと息を呑みながら、それを驚愕の眼で見て、一番驚いているリョクシュは、ふさがった口で言葉を発しようとしていた。
背中から胸に向かって突き刺さっている――貫通している二本の刃。白い刀身が、リョクシュの胴体から剣先をのぞかせて、きらりと輝いていた。心臓ではなく、二つある肺のところを突き刺すようにして出てきているそれ。
それを見て、ヘルナイトさんはそのまま、リョクシュの口を塞いでいた手を離し、そしてリョクシュの背後にいるその人に向かって――こう言った。
「すまない。私も少々怒っている。お前達も怒ってるのなら……手短で頼みたい」
と言って、リョクシュは「は……っ! が……っ!」と、血が出ない体で、ぶるぶると震えながら、背後にいるその人物を、目だけで見ようとした。
その人物を見て――リョクシュは……。
「お、お前……っ! 何故……っ!」と、驚愕に顔を染め上げ――
私はそれを見て、あまりの嬉しさと複雑な感情を乗せて笑いたいけど、笑えないような顔をしてしまう。でも発覚した。
そう……。自由の身になったのは――ヘルナイトさんだけではない。
リョクシュの背後にいた人物はヘルナイトさんの言葉を聞いて、低く、怒りを乗せた音色で……「わかっている……っ!」と言って……。
――じゃきりと装填音を出して……。
背後にいたアキにぃはリョクシュの背後から――
「――くたばれええええええええええええええええええええええええっっっ!」
ダンダンダンダンダンダンッッッ! と――
何発もの拳銃の発砲音を出しながら、アキにぃは鬼のような声を上げて、表情で怒りを表して、リョクシュの背後から銃撃を繰り出す。
剣先が出ているそこから、何発物の銃弾が出てきて、リョクシュの体を破壊する。
「あ、あ。ああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」
リョクシュは痛みと驚き、そして混乱が混ざった顔で、アキにぃの攻撃を背後から、しかも何の防御もできない状態の至近距離で放つ。
からんからんっと、弾丸の金属の筒が、地面に転がり落ちる。
それを見て、地面に転がっているその大量な量を見て、唖然としながらその光景を見てしまう。まだ銃の発砲をやめないアキにぃを見て、私はその光景を見ることしかできなかった。
アキにぃは確か……、あの黒い糸によって拘束されて、身動きが取れなかったはず……。
そう思っていると……、アキにぃは発砲をしながら――こう叫んでいた。
「お前ぇええええっっ! よくも妹を傷つけやがってえええええええっ!」
と言いながらも、銃の発砲をやめないアキにぃ。
だんだんっと、拳銃の弾がなくなるまで撃つことをやめないアキにぃ。それを見て、私はアキにぃに声をかけようとした。
もういいよ。私は大丈夫。と言おうとした時――
「止めるな。ハンナ」
「!」
ヘルナイトさんは、しゃがみながら私の行動を手で制した。通せんぼでもするかのように、私の目の前で、その手で踏切の棒の様にして降ろした後……、ヘルナイトさんは私を見てこう言った。
凛としているけど、静かに怒りを見せているその表情で――ヘルナイトさんは言った。
「君は、確かに優しい。誰に対しても、優しい言葉を投げかける。相手が敵であろうと、手を差し伸べてしまう――危うさを持っている」
そっと、ヘルナイトさんは静止の線を張っていた手を動かして、私の左の頭に手を添える。そして……、血が出ているところを手で押さえながら、ヘルナイトさんは言った。
「君は私たちを守りたいという一心で、ここまで傷をつけてしまった。君に重い荷を背負わせてしまった。動けない私たちのために……、君が傷ついてしまった」
それが不甲斐ない。それが――私達の怒りとなった。だから、止めないでくれ。
そうヘルナイトさんは言う。それを聞いて、私は傷を負って、そしてその傷口を抑えているその手に、手を重ねて、私は言う。
控えめに微笑みながら――私は言った。
「お気持ち、汲み取ります。何も言いません。でも……、みんな……、無事でよかったです。私も……、みんなの役に立てましたか?」
その言葉を聞いたヘルナイトさんは、ぐっと言葉を閉ざした後――彼は鎧越しに口を開けた。
刹那――
――どんっ!
「いってっっ!」
「「!」」
アキにぃの声と同時に聞こえた。ドテンッと尻餅をついた音。
それを聞いた私達は、はっとしてその方向を見ると――拳銃から出てきているナイフ……、あれは、ガーディさんが作った拳銃? どいう仕組みなんだろう、と頭の片隅で思いながら、アキにぃを見る私。アキにぃは両手に拳銃を持ったまま尻餅をついて――
「いって……っ! くそぉ……っ!」
と……、両足を赤く染めるような深い切り傷をつけられてしまっていた。
それを見た私は、すぐに手をかざして『
「っ!」と、ヘルナイトさんは私を抱きしめながら覆い被さってきた。
それを受けた私は驚きながら「わ」と言ってしまった。そんあ私たちのサンドイッチの具となってしまったナヴィちゃんは――「ぎゅぎぇっ!」と、潰れたカエルのような声を上げてしまった。
それを聞きながら、私はナヴィちゃんに心の中で謝りながら……、私の目の前、ヘルナイトさんの背後から来た――斧を持ったリョクシュを見た私。
リョクシュは胴体にいくつもの小さな穴を開けながらも、狂喜の笑みを浮き彫りにしながら、私とヘルナイトさんに攻撃を繰り出そうとして、手に持っていた斧の鎖を振り上げて、罅が入ってしまった斧を空中に向けて持ち上げた後――彼は狂喜の笑みのままこう言った。
「私がお前のことが怖い? そんなことありえないっ! 私は何にも臆することなどないっ! 私はどんな手を使ってでも、
そして、そのまま斧の鎖を振り下ろし、それと連動されるかのように、ぐんっと、空中にあった斧が、がくんっと引っ張られて、私たちに向かってくる。
大きな斧だけど、もう少しで壊れそうになっているそれだったけど、リョクシュは角を光らせながら風を纏い、そして斧の周りにもそれを纏わせて、振り下ろす。
それを見て、私は驚愕の眼で息を呑んで、ヘルナイトさんはそのまま私を抱き寄せて、守ってくれている。ナヴィちゃんを間に挟めながら……。
それを見たリョクシュは、ぎょろりと瞳孔を開いて、そのまま狂喜に顔を歪ませながら……、彼は叫んだ。
「――くたばれ邪魔者おおおおおおっ!」
と言った瞬間……。
――ザシュッ! ザシュッ! ぼとぼとっ!
「………………へあ?」
がぁんっ! バガァンッ! ごとごと……っ。
「はぁ?」
素っ頓狂な声は、全部リョクシュ。
彼は狂気の笑みのまま、その光景をみて、己に起こった状況を見て、声を上げたのだ。
私も、ヘルナイトさんもそれを見て――驚いて声が出なかった。私はヘルナイトさん以上に驚いていたと思う。二重の衝撃があったから。
二重。
一つは――斬撃音が聞こえたと同時に、リョクシュの両腕が音を立てて地面に落ちたから。リョクシュはそれを見て、驚いたまま固まってしまった。そんな固まってしまった彼の傍らにいたのは――
細身の剣を持っていた――シェーラちゃんとキョウヤさん。
二本の剣はよく見たらシェーラちゃんが持っていたもので、二人はそのシェーラちゃんの剣を持って、互いにリョクシュの腕に剣を向けて、そのまま勢いよく上段の構えから叩きつけるように斬ったのだ。肩からスパンっと――斬ったのだ。
シェーラちゃんが右手を――キョウヤさんが左手に剣を向けて……、茫然としているリョクシュに向かって――
「弱い者いじめ、そんなに楽しいのかしら?
「ネクロマンサーには常識ってもんがねえのか……? 女をいたぶってそんなに楽しいのかっ!? えぇっ!?」と、キョウヤさんも怒りの声を上げて、二人とも、リョクシュをぎろっと睨みつけながら――怒りを吐き捨てた。
そして音を立ててリョクシュの両腕が落ちた後……、襲い掛かってくる斧の方を見た二人。でも……攻撃したのは――キョウヤさんでも、シェーラちゃんでも、アキにぃでも、ヘルナイトさんでもなかった。
攻撃したのは――別の生物だった。
がさりと、私の背後の草むらから出てきて、そのままその斧の腹に向かって体当たりをして、破壊したのだ。
ヘルナイトさんが罅を入れていたから壊しやすかったのか……、斧は体当たりをしただけでばぎんっと、木材の様に壊れてしまった。
ごとごと、ごとんっっ! と落ちて崩れてしまった斧。
それと同時に、すたっと地面に降り立った生物を見て、私やヘルナイトさん、そしてシェーラちゃんやキョウヤさん、アキにぃと、リョクシュは――言葉を失いながらその生物を見た。
その生物は……。普通よりも大きめので、いかつい顔に鋭い牙。ところどころには赤い火の玉が浮かんでいた。その生物はリョクシュに向かって、「ぐるるるるっ」と唸り声を上げて威嚇している……、桃色の毛の――狼だった。
狼は牙を立てて、毛を逆立てながら唸って――リョクシュを睨んでいた。リョクシュはその狼を見て言葉を失いながら、絶句の表情で私達、そして狼を見る。
誰もが驚きのあまりに言えない中、狼はくるっと私達――強いて言うなら、私に視線を移して……。
ぽふんっと白い煙を出した。
その煙を見て、私は「わ」と声を上げて、ヘルナイトさんはそれをじっと見つめていた。
誰もがそれを見て驚く中、煙の中から小さな影が出てきて――私はそれを見て、また驚いてしまった。今度は声が出るような驚きだった。シェーラちゃんも、キョウヤさんも、アキにぃもそれを見て、驚きの声を上げて――名を呼んだ。
「「「「さくら丸っ!/くんっ!」」」」
そう呼んだ瞬間、狼の正体でもあったさくら丸君は、「わんっ!」と可愛らしく鳴きながら『とととっ』と私に近付いて、抱き寄せることをやめたヘルナイトさんと、座りこんでしまっている私の間に入り込んで、口に咥えているものを差し出した。
それを見た私は、さくら丸くんを見て、そしてその咥えている石を見て……、「これ……」と声を漏らすと、それを見たヘルナイトさんは驚きながらそれを見て――
「それは……、『屍魂』のっ!?」と、驚いた瞬間――
「はああああああああああああああああああああああああああっっっ!?」
リョクシュは、あらんかぎり叫ぶようにして、硬直から一気に覚醒した。そしてさくら丸くんが持ってきた石を見て、血走った目でそれを見て――彼は叫ぶ。
「なんでそんな子犬が瘴輝石を……っ! ちゃんと練って、作戦通りだったはずが……っ!」
「…………作戦通り、そしてその石を見るからに、共犯がいたってことね。しかも三人くらい」
と言いながら、シェーラちゃんはふと、村の方を見て、静かに怒りを乗せた音色で言った。
それを聞いていないリョクシュは、ぶつぶつと呟きながら……、わなわなと震えて言う。
「まさか……、ランディの奴……、あんなことを言っておいて負けるのか……っ!? とんだ噛ませ犬だ……っ! しかも石を奪われた……っ! あぁなんてことだ……。このままではだめだ……っ! くそっ! グリーフォの方から気配がしない……っ! あいつも負けた……っ! 残っているのは……、私、だけ……?」
「キョウヤ!」
「っ!?」
ぶつぶつ呟いているリョクシュを見て、ヘルナイトさんは立ち上がりながらキョウヤさんに向かって叫び――そして……。
「アキをハンナの近くに! みんなハンナの周りに集まってくれ!」
「…………? あ、ああっ!」
「よくわからないけど、オーケーよっ!」
ヘルナイトさんの言葉に私は「え……?」と声を漏らしてしまったけど、ヘルナイトさんは私を見ないで二人に向かって叫ぶと、それを聞いていたキョウヤさんとシェーラちゃんは、理解できないながらも頷いて、すぐに私のところに向かって走る。
キョウヤさんはアキにぃのところに向かって走ったけど……。
「俺はオーケーじゃないっ! 俺はまだ」
「いいから来い! 負傷シスコンッ!」
「いでででっ!」
アキにぃは立ち上がろうとしていたけど、それをすぐに制しながら、アキにぃを肩に担いだキョウヤさん。
そのままアキにぃを抱えて、私に向かって走ってきたキョウヤさんだったけど、その振動で痛みを訴えていたアキにぃ。
それを聞いてキョウヤさんは「うるせぇっ!」と、怒りの反論をして言葉を静止させた。
そしてそのまま私の近くに来て、ふぅっと息を吐いたキョウヤさん。
すると――
ずしゃりと、リョクシュの前に立ったヘルナイトさん。
それを見た私は慌ててヘルナイトさんの名前を呼ぶと、ヘルナイトさんはふっと――私達を見て、大剣を持っていない手を差し出して、その掌にある黒い球を――
ぽんっと――投げた。
そして――ヘルナイトさんは言った。凛としているけど優しい音色で彼はこう言った。
「すまないが――少しの間目隠しをする」
そう言って疑念の表情をした私達をしり目に、ヘルナイトさんはそのまま黒い球に向かって指をさして――
「…………――『
と言った瞬間――ふっと世界が真っ暗になり、そして――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!
と、地面が揺れるような衝撃と音が、私達を襲った。
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