PLAY40 終わりの傷跡と道 ③

「ぶっは」


 どぷっ! と――ハンザブロウは黒いドロドロの中から顔を出し、ぷはっと息を吐きながらドロドロの中から出る。


 ドロドロの世界から足を出し、そのまま地面に足をつけると、足や衣服についていたドロドロとした感覚が肌や衣服に同化していくように、気味悪く感じていたその感覚が一気に消え失せる様な気持ちになるハンザブロウ。


 あんなにもドロドロであったのに、すぐに消え去る嫌悪感に対しハンザブロウは思った。


 ――こんなにもドロドロして、気色悪い感覚で満ち溢れていたにも関わらず、すぐに同化して嫌悪が消え去る。この瘴輝石は不気味で都合がよく、便利でけったいな物じゃな。


 ――いんや。気味が悪いと言う言葉は、こんな死体の体の儂が言うことではないのかもしれん。


 ――死体を弄んでいる時点で、儂も気味が悪い異形もんなんじゃから。


 そんなことを思いつつ、己の体を見降ろした後――ハンザブロウは己の体に向けていた視線を別の場所に移す。


 リョクシュの足を掴んでいるその手を見て、ぶつぶつと呟いている彼を見下ろし、国境の村が見渡せる山脈からその村の光景を見る。


 ところどころ黒く焦げた場所。


 一際黒くなっている場所を見ると、その場所には複数の人達と、周りにはその村の住人であろう。


 老人達が周りを取り囲みながら、その中心にいる小さな魔女と悪魔を見て慌てていた。


 冒険者であろうその人達も慌てながら行動に移している。


 その光景を見て川の方を見ると――三人の冒険者が川を見下ろしながら立っており、そしてつい先程まで自分とリョクシュがいた場所には……、浄化が使える少女とその仲間。


 そして二人の冒険者と、アルテットミアで会った『12鬼士』が駆け寄ってきた。


 それを見てハンザブロウはリョクシュを見下ろし……、その後で視線を変えて村の姿を見て彼は思った。


 ――確かに、手を出さんと言ったのは事実。


 ――あの小娘は『大天使の息吹』のような浄化なんぞ持っておらん。


 ――ただ魔物の気を穏やかにするだけの力しか持っておらん。


 ――村の者達にとってすれば、魔物の素材を使って作る防具は生活の命綱。そしてそれを作っているのが……、あの『浄化』。


 ――いんや。昔の者がそれを誤認したから……、確か……。そうじゃ。『鎮静』の魔女の力があってあの村は成立する。


 ――しかしこれがあったなら……。あの小娘も、悪魔も、この村も……。


 そ思いながら、ハンザブロウは真っ新な青空を見上げ、そして彼は、このを想像していた。否――見出してしまい、そして思ったのだ。



 ――運命とは、残酷なものじゃ。



 と……。


「ハンザブロウ様――」

「およよ?」


 背後から声がした。


 それを聞いたハンザブロウは、狐の笑みを取り繕いながら振り向くと、彼はその人物達を見て「おーおーおー」と言いながら、笑顔で駆け寄ってその人物達を見てこう言った。


「クロっちにペペちゃんっ! 待機ご苦労さんじゃ」


 その言葉を聞いていたクロズクメとペペロペ。


 クロズクメはハンザブロウと、そしてリョクシュを見下ろしながら、彼はすっと目を細めて、ハンザブロウを見て、こう聞いた。


「それで――? ほかの二人は……――?」

「あぁ」


 ハンザブロウは肩を竦めながら言い、そして二人にこう言った。


「ランディは浄化。そんでグリーフォは食われてしもうた。あの悪魔によってな」


 そう言いながら、彼はちらりと、村の方を見た。


 それを見て、聞いたクロズクメは、一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻り、彼は少し俯いた後……、小さく「そうですか……――」と言った。


 ペペロペはぐりんぐりんっと体を回しながら「うぉおおおおおお~んっ! うおおおおおおおおぉぉぉぉおおお~んっ!」と、泣いていないのに泣いた声を出しながら、腰を使ってぐるんぐるんっと回る。


 相変わらずの奇行ぶり。しかし通常じゃな。


 ハンザブロウはそんなペペロペを見て、冷や汗を流しはしたが、安心した表情を浮かべる。


 ……ひどい言い分だが、正論でもあった……。


 ハンザブロウはそれを見ながら、二人に向かってこう言った。足元の転がって、ぶつぶつと呪文のような言葉を言っているリョクシュを見て――


「こいつだけが今回生き残ったが、近況報告はできそうもない。連れて帰ってちぃっとばかしお灸をすえんとな」と言った。


 それを聞いたペペロペは、泣いていたそれをけろりとなくして、彼は小さい子供が手を上げるように、大きな声で「はぁーいっ!」と、甲高い声で返事をした。


 それを聞いていたハンザブロウはうんうん頷きながら笑みを崩さず、その声と行動を見て――ちゃんということを聞くんじゃけど……、なんでここにたらい回しにされたんじゃろうか……。と思った。


 すると――


「あの――」

「?」

「ぽぽ?」


 クロズクメは声を上げた。


 それを聞いたハンザブロウは首を傾げ、そしてペペロペも首を傾げながらクロズクメを見た。


 クロズクメはハンザブロウを見て、こう聞いた。


「それで――。あの鬼神には会ったのですか――?」


 まさか、恐れをなして逃げましたか――? 


 少し冷たい目で言われてしまったハンザブロウ。クロズクメは元々真面目で、死霊族の中でもかなりモテる分類に入るが、些か毒舌なところと、くそ真面目なところは否めない。


 ハンザブロウはそんなことを聞きながら――


 ――儂はそんなにヘタレなのかぁ……? お前さんの脳内イメージとして……。儂ってそんなに頼りないの……?


 と、若干傷つきはした。しかしハンザブロウは狐の顔をして微笑みながら――彼は飄々と、陽気にこう答える。


「モチのロンじゃ。鬼神と一緒にいた女の子に、しかと伝えたぞ。しかしのぉ……。お前さんとあろうものが、そんな他人を思いやることがあったとはな。あの小僧に心酔していたから、てっきりあの小僧の様にきっぱりと忘れてしまうのかと思ったぞ。どしたんじゃ?」

「どしたんじゃ、どしたんじゃ?」


 ペペロペもその子と言ついて気になっているようで、梟の様にくりんくりんっと顔を動かして聞くと、クロズクメはすっと、青白い手を出して、その手を見ながらこう言った。


 しんみりと――思い出にふけるような顔をして、彼は言う。


「いえ――。忘れることはしません――。一時的なパートナーでしたが――、それでも同胞であったことは間違いありません――。それに……――、天の召された仲間を弔いことができないのであれば――、その浄化をしてくれたものに感謝をするのは……――、当然だと思います――」


 その言葉を聞いて、ハンザブロウは腕を組みながら口元を尖らせて……。<PBR>

「ほほぅ」と、頷いた。


 ペペロペはクロズクメの話を聞きながら、クロズクメの頭を帽子越しに撫でて――「いこいこ」と言いながら撫でていた。それを受けたクロズクメは、驚きながら照れもせず――


「お――。どうした――? 『いい子いい子』しなくてもいいんだが……――?」


 と言って、ペペロペの行動をやめるよう促していた。それを聞いていたハンザブロウは思った。半分驚きながら、半分和みながら……。


 ――変わったのぉ。堅物が。柔らかくなりおった。


 ――これはきっと、あの小娘が関わったせいか、それとも別の何かなのか……。


 そう思いながら、ハンザブロウは先ほど出会った――正真正銘の『浄化』の力を持っている少女を思い出して、彼は思った。


 ――あの子はあの神様の力を持った冒険者。


 ――一見してみれば弱い。その一言で片づけられそうな女。しかしどうしてだろうか。


 ――あの子から敵意と言うか、殺気と言うものを一切感じなかった。


 ――戦うことを望んでいない。否――あれはちょっとした概念じゃな。


 ――この世界を救うためだけに動いて、命を削る……、一種の脅迫概念じゃな。


 ――その概念を決意として動き、そして手を差し伸べるその様は、まるで天使。


 ――きっと、クロズクメもそれに中てられ……、考えからを改めた……?


 ――気のせいか。


 彼はそう結論を出して、リョクシュを見ながら彼は思った。


 ――だとしたら、こやつも中てられて改心してしまう。きっとまぐれじゃな。


「さてさて。ここにいては危ないからのぉ。とっととずらかろうぞ。クロっち。ペペちゃん」

「は――」

「おおおおおおううううううっ! イェィッッッ!」


 そうハンザブロウが言ったあと、二人は返事をして、ペペロペはリョクシュを担ぎ、クロズクメは黒い石を握りながらこう唱えた。


「マナ・エクリション――『影回廊』――」


 と言った瞬間、クロズクメの影がひとりでに動いて、ずるりと影がクロズクメの前に現れて、楕円形の黒い穴を出現させた。


 それを見たクロズクメは、その場からそっと離れて、手で促しながら「どうぞ――」と言った。それを見たハンザブロウは肩を竦めて――まだ真面目さはあるのぉ。と思いながら、困ったように笑みをこぼす。


 ペペロペは何やら音程がずれた歌を口ずさみながら、リョクシュを抱えてその穴に入っていく。それを見てハンザブロウも歩みを進めながら、独り言を口ずさんだ。



「――世の中は本当に奇妙にして、稀有にして……、いたずら好きの」


 残酷な世界だ。



 その言葉を聞いていたクロズクメは、疑念の表情をしてハンザブロウを見たが、すぐにハンザブロウはその影の中に入って行ってしまった。


 それを頭の片隅に残しながら彼もその中に入って行く。


 その場所から誰もいなくなった後、その影はひとりでに空気に溶けてなくなってしまった。


 ざぁっと、強めの風が――国境の村付近に吹いた。

 まるで――これから起こる過酷な戦いの調べを知らせているかのような、強く、寒い風だった……。



 □     □



 それからは説明だけの話となってしまう。そしてこれは、アキにぃに話したことだ。気絶してしまったアキにぃに対して状況報告をしただけなのだけど……。


 説明すると、こうだ。


 あの後ハンザブロウとリョクシュは消えてしまった。


 そんな光景をみて、私たちは茫然としていたけど、すぐにそれはかき消されてしまった。


 草むらから突然、ボロボロのセイントさんとジルバさん。そしてキクリさんが出てきたのだ。


 三人はさくら丸くんを追ってここまで来たらしいけど、セイントさんを筆頭に探していると、本当に迷ってしまったらしく、途方に暮れながら歩いていたところで、私たちを見つけたらしい。


 そう言えば……、セイントさん迷っていたって言っていたような……。


 そんなことを考えていると、キクリさんたちはその場所の現状を見て、驚きを隠さないで、「いったいなにが起こった?」と、声を荒げながら私たちに聞いていたけど、私達は知らないので、首を振ることしかできなかったけど、キクリさんはヘルナイトさんを見て――真剣な音色で……。


「まさか……、あれ?」と聞いた。


 それを聞いたヘルナイトさんは頷きながら、頬を指で掻いて、申し訳なさそうに――


「……すまない」と謝った。


 それを聞いていたキクリさんはぷんぷんと怒りながら、まるでお母さんの様に指差しをして――


「そう思うなら使わないでよ。あれって開けた場所限定で、空中でしか使えないんだから、使う場所限られているの覚えてないの? 団長さんは団長さんなんだから、ちょっとはそう言ったこと考えて行動してよね」


 と、ヘルナイトさんに対して説教をしていた。


 それを聞いてなのか、その話を聞いていたキョウヤさんは、ヘルナイトさんとキクリさんのほうを見て……。


「だから、何でそんなものをあんな一本道で使ったんだろうな。もっと別の方法があったはずだ。そんなに怒っていたのか……?」


 冷静に、そして青ざめながら突っ込みを入れていた。


 それを聞いていたジルバさんとセイントさんは、私やシェーラちゃんの姿を見て、驚きながら駆け寄ってきた。


 大丈夫だったのか? や、あとは怪我は大丈夫なのか? とか、そんなことを聞かれたけど、私は「大丈夫です」と言って、控えめに微笑むと――シェーラちゃんはそれを聞いて……。


「……首絞められたくせに」と、ぼそりと呟いた。


 それを聞いて、ジルバさんとセイントさん、キクリさんはそれを聞いて、セイントさんとキクリさんは慌てて駆け寄りながら「「本当に大丈夫なのかっ!?/なのっ!?」」と聞いてきて、ジルバさんは「あーあ……、やっちゃったネー……」と言いながら、頭に手を組んで呆れた顔をしていた。


 私はそんな二人の猛威に翻弄されながら、わたわたと弁解した。


 それがひと段落して、すぐに村に戻ると……。




 村は――半壊していた。




 あの蜥蜴人の集落と比べたら、この村の方が被害が大きい方だった。


 家は完全に崩壊してて、ところどころに焦げた跡が残っている。そして家や地面の傷跡から見て――そこでも戦いがあり、その戦いは激しいものだったことが目に見えていた。


 茫然としながらみんなでその村の全容を見ていると……、ふと目に留まったのだ。


 その村の中央に集まっている――おじいさんやおばあさん達が。


 それを見て、村の中央に集まっている人達を見て、私はすぐに駆け寄った。


 アキにぃを抱えていたキョウヤさんも、シェーラちゃんとヘルナイトさん。ジルバさんたちも駆け寄りながら近づくと、その中央にいたのは――


 胸の辺りに穴が開いた服を着て、ぐったりとしているヨミちゃんと、ヨミちゃんを抱えているベルゼブブさん。


 その近くにみゅんみゅんちゃんもいて、安堵の息を吐きながらそれを見ていた。私もほっとしてそれを見た。


 てっきり最悪のことが起こってしまったのかと思って、心臓がバクバクしていたことを覚えている。


 ジルバさんはその現状を見て――何があったのかとケビンズさんに聞くと、ケビンズさんはこう答えた。


「実はね……、村に炎を操るというか。炎の魔物のネクロマンサーが現れてね……。ヨミちゃんを殺しに来たらしいけど、それを食い止めようとして、まぁ――このありさまを見ればわかるよね?」


 と言いながら、ケビンズさんはふっと、村のところどころにある焦げた跡を見て、すっと悲しそうに目を細めながら――ジルバさんにこう言った。


「それだけのために、こんな風に村を壊す。たった一つの目的のために、私利私欲のために、人を殺そうとした。屑だったよ」


 ケビンスさんは爽やかなそれを無くして、黒い無表情のそれを出しながら言った。


 それを聞いた私はみゅんみゅんちゃんを見ると、みゅんみゅんちゃんは私を見て、力なく微笑んだ後――



「……今度は、行方不明にならなかったよ」



 それだけ言うと、みゅんみゅんちゃんは「はは」と、乾いた笑みを零した。


 それを見た私は、うんっと頷いて、控えめに微笑む。


 そんな話をしていると、村の離れから帰ってきたロフィーゼさん達は、村の惨状を見てぎょっとしながら驚きを隠せずにいた。


 ブラドさんとロフィーゼさんは、村の人達や私達に何があったのかと聞いていたけど……、シイナさんだけはどことなく、悲しそうな顔をしていた。


 それはまるで――お葬式を終えた後の顔だった。


 私はシイナさんに駆け寄ると、シイナさんは事の事情を説明した。


 シイナさん達もネクロマンサーと戦っていたらしく、ネクロマンサーは突然砂となって消えてしまったらしい。


 それを聞いた私は、はっと息を呑んだ。


 そうだ。きっとその消えた原因を作ったのは、私だ。さくら丸くんが持ってきた瘴輝石を浄化したせいで、その人は消えてしまった。浄化してしまった。天に、召されてしまった……。


 その時の私は、ぐっと懐に入れていたその石を握る。


 悪いことをしたという罪悪感と、何といえばいいのかわからない不安感を抱いて、シイナさんを見ると……、シイナさんはでも、と一言言って――


「すごく……、清々しい顔だった……。も、もう眠いって言って……、いなくなったよ」


 だから、君が悔やむことじゃないよ。


 そうシイナさんは言って、申し訳なさそうにぎこちなく微笑む。


 それを見た私は、ぐっとシイナさんのその言葉を聞いて、汲み取って、懐に入れていたその石を見せて――驚いた眼をしていたシイナさんに向かって、こう言った。


「でしたら、この石はシイナさんが使ってください。これ――さくら丸くんが持ってきた石なんです。これは私が使うんじゃなくて、シイナさんが使ってこそ、初めて意味を成すと思うんです。だから……、この石――受け取ってください」


 それを聞いたシイナさんは、うーんっと腕を組みながら考えて、少しの間黙って私を見下ろして、そしてすぐに、困ったようにはぁっと溜息を吐いてこう言った。


「わ、わかった……。そう説得されたのなら……、お、おれが使うよ。その石」


 私の手に収まっているその石を手に取って、照れながら「あ、ありがとう」と、お礼を述べたシイナさん。


 それを見た私は、控えめに微笑んだ。


 どの場所でも、激闘があった。


 私達はリョクシュを。


 みゅんみゅんちゃん達は炎の魔物のネクロマンサーを。


 そして……、ジルバさん達も戦っていた。


 結果として全勝した。でも……、全勝したけど、傷跡が深かった。


 村は半壊。結局私は、私達は――村を守ることができなかった。


 そのことについて、みゅんみゅんちゃんやザンシューントさん、シイナさん、ミリィさん、そして私がそのことについて後悔していると、「何落ち込んでいるんだい? こんの功労者が」と、レディリムおばさんは大きな声を上げて言った。


 それを聞いて振り向くと、その方向にいた村の人達は手にトンカチを持ちながら――代表の村長さんが私達の前に出て、お礼を述べながらこう言った。


「心配するな。こちとら何年も職人やっているんだ。建設にもかじりついているから、ある程度のことはできるんだぜ? 村なんてまた作ればいいんだ。命あってこその村なんだ。村の住人は全員無事。あんた達が必死に戦ってくれたから、全員生きているんだ。だから村が壊れたくらいでめそめそすんな。復興は儂らに任せて、あんた達とヨミ、ベルさんはゆっくり休んでくれ」


 任せろ! と言わんばかりに腕を上げるおじいちゃんとおばあちゃん達。


 それを見た私は驚きながらそれを見ていたけど、ヘルナイトさんは私の頭に手を置きながら、上を見上げた私を見下ろしてこう言った。


「……すべてを守るとなると、それは傲慢な選択となってしまう。村を守れなかったのは残念だが、みんなは、君は村の人達を守ったんだ。死霊族の手から――守り通したんだ」


 そこは、胸を入ってもいいと、私は思う。


 その言葉を聞いて、私は言ったん間を置いてからこくんと頷き、長老さんの言葉を汲み取って、復興は村の人達に任せて私達は少しの休息をとることにしたのだ。


 これが――アキにぃが寝ていた時に起こったことで、あと少ししたら出発する時に話したことである。


「………そんなことが……」


 アキにぃは気絶した後のことを聞きながら、呆気にとられながら荷物整理をしていた。


 それを聞いた私はうんっと頷いて――


「ブラドさん達、クエスト終わってからのことを決めたらしくて、しばらくここにいるみたい」

「そうなんだ……。騒がしい人がいなくなって寂しい気がするなぁ……」


 と、私が言うと、アキにぃはしんみりしながら家屋の天井を見上げる。


 それを見てキョウヤさんは腕を伸ばしながらアキにぃを見て――冷静な音色を出しながらこう言った。


「てか――お前気絶し過ぎじゃね?」

「確かにそうかもしれないわ。だって亜人の郷の時だって」

「ちょっとそこっ! 俺だって好きで気絶しているわけじゃないんだけどっ!? っていうかあの黒い糸の拘束だって俺が試行錯誤しなかったら、永遠にほどけなかったかもしれないだろうっ? 少しは感謝くらいしろってっ!」

「「気絶している奴が悪い。少しは努力しろ。あと遅すぎる」」

「くっそっ! 返す言葉がねぇっ!」


 シェーラちゃんも加わって、アキにぃに対して不満の声を上げるキョウヤさんとシェーラちゃん。


 それを聞いてアキにぃは指をさしながら顔を真っ赤にしてぶんぶんっと振って反論したけど、呆気なく論破されて頭を垂らしながら唸って吐き捨てるアキにぃ。


 それを見てキョウヤさんとシェーラちゃんはけけけっと犬歯が見えるような笑みを浮かべて、私はそれを見て面白いと思いながらクスッと微笑んでいた。


 ……、こんな和やかな時間を過ごしている私達とは正反対に、とあるところではとある決心をしている人達がいたことに私は気付きもしなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る