PLAY34 『六芒星』幹部・ガザドラ ③
倒れそうになりながらもシャズラーンダは思い出していた。
走馬灯ではないが、思い出したのだ……。
それは……、とある遠い記憶。
シャズラーンダはふと、集落にいたとある子供を見た。
その子は集落の子と遊ばず、一人で黙々と何かをしていた。
子供は竜族と蜥蜴人の間に生まれたハーフの子で、シャズラーンダは興味を抱いた。
些細な興味。
シャズラーンダはそのハーフの子供に近付いて聞いてみた。
「何をしているんだ?」
すると……、ハーフの子供はシャズラーンダを見上げ、ふいっと目を逸らし、すぐに手に持っていたそれをじっと見た。
手に持っていたものは――鉄でできた小さな鍋だ。
――無視か……。
シャズラーンダは内心傷ついた。
しかしその手に持っているそれを見て、なぜだろうか……、力んでいるようにも見える。
それを見て身近にいる魔女の人物をふと思い出したシャズラーンダは、そっとしゃがみながらこう聞いた。
「――それを使ってどうするつもりだ?」
「関係ない。わがはいは忙しいんだ」
――最近の子供はこんなにそっけないのか……? しかも吾輩とは……。
シャズラーンダは首を傾げながらハーフの子供の発言を聞いて思った。だがシャズラーンダはその手に持っている鍋を見て……。
「もしや……、鉄を使う魔法が使えるのか?」
そう聞いた瞬間、ハーフの少年は目を見開いて、シャズラーンダを警戒するように、鍋を盾のように持ってから彼は恐る恐る、こう聞く。
「……思念の魔法が使える魔女か?」
「生憎だが、儂は遺伝しなかったよ」
シャズラーンダは子供の発言に呆れ半分、込み上げてくる面白さ半分の表情でくつくつ笑いながら言う。それを聞いたハーフの子供はむっと表情を変えて――
「ほ、本当だぞこれは! 俺は父の意思を継いだ魔女だっ!」
その言葉を聞いたシャズラーンダは、少年の真剣さと素のそれが出たことで、堪えていた笑いを吹き出しながら「かかかかかっ!」と、腹部を抱えて笑ってしまった。大声で、心の思うがままに大笑いをしながら……。
それを見た少年は、顔を赤くして慌てながら「ななな、にゃにがおかしぃっ!?」と声を荒げてしまった。ついでに言うと舌も噛んだ。
それを聞いたシャズラーンダは更に「かかかかかっ!」と笑いながらお腹を抱えてしまった。
そして、シャズラーンダは「あー」っと深呼吸をしながら、その少年を見てこう言った。
「そうか、お前は魔女か……。だから一人で修業をしていたのだな」
「う……」
少年は唸る。
そしてすぐにしょぼんっと頭を垂らす。それを見るシャズラーンダは、内心こう思った。
――まだまだ制御ができとらんのか。弟とは大違いの差があるが……、その心意気はよしじゃな。
にっと笑みを浮かべ、シャズラーンダは少年に聞く。名前はなんだと。その言葉に少年は、疑問を抱いてはいたが、素直にこう答えた。
「が、ガザドラ……」
ガザドラ。
アズールのボロボ空中都市の、竜族にしか読めない古代文字にある言葉の中に『ガザドラ』と言う言葉がある。
それをアズールの言葉、日本の言葉に言い換えると……。
希望。
となる。
シャズラーンダはそれを思い出して、少年――ガザドラに向かってにっと笑いながらこう言った。
「ガザドラよ。お前は確かに弱い。今はまだ弱い。しかし経験と実践、そして己を鍛えることで、その強みは更に向こうへと向かう。どこまでも強くなる。お前はどんな魔女よりも、父よりも強くなれるだろう。魔女の弟を持っている儂が言うんじゃ。胸を張れ。そして――己が信じる道を突き進め」
その言葉を聞いてガザドラは自信を持ったのか、ぱぁっと子供特有の笑顔でシャズラーンダを見て、こくんっと頷くと「うんっ!」と言った。
それを聞いて、シャズラーンダは微笑ましくその顔を見て頷く。
これが……シャズラーンダとガザドラの出会い。
そして――再会した時には敵同士となって……。
◆ ◆
ガザドラ達の戦闘からハンナ達に場面を変えて……。避難を終えたハンナ達は……。
□ □
シャズラーンダさん、大丈夫かな……?
現在私たちは、蜥蜴人の人達を、近くの洞窟まで誘導していた。シャズラーンダさんが一人であの『六芒星』と戦っている。本当は急いで向かいたいけど、今は避難の方が優先だ。
ザンバードさんが言っていた洞窟は、もともと蜥蜴人の重鎮達が使っていた内緒の洞窟らしく、岩の厚さも十分で、これなら何かが来てもそうそう崩れることはないと、ザンバードさんは言っていた。
アキにぃもその洞窟を見た時……。
「確かに、あの泥炭窟と同じような構造で、それにこの石……、鉱物が練りこまれている。自然で作られた物じゃなくて、人工的に作られた洞窟だ。ザンバードさんの言う通り、この中にいれば安心だ」
と言った。
それを聞いていたキョウヤさんは、アキにぃをじっと見て……、目をぱちくりとさせながら、驚いた表情で彼は……。
「あ、アキがまともなことを言っている……っ!?」と、驚愕の音色でそう言った。それを聞いたアキにぃは、額に青筋を立てながら「……どういうこと?」と、低い声で質問した。
それを聞いていたジルバさんが、少しむっとした顔で二人を見て――
「話している暇ってあったっけー? 今は待たせているんだヨ。少しは気を引き締めてほしいなー」
その言葉を聞いて、二人はうっと唸った後……、申し訳なさそうに顔を伏せた。
私もそれを聞いて、ジルバさんの意見に頷いていた。
正直、こんなことをしている場合じゃない。シャズラーンダさんが私達を逃がして、今『六芒星』と戦っているんだ。
逃げる時間を、稼いでいるんだ……。
ならば、避難を終えたらすぐにでも行かないといけないんだ……。
そう思っていると……。
「あんた達っ!」
「っ!」
突然洞窟の中から出てきたシャズラーンダさんの奥さん。奥さんは手に持っている二つの紙筒を手に持ってきて、それを見せながら私達に慌てながらこう言った。
「これ――持って行きなっ!」
それを聞いた私だったけど、奥さんが手に持っていた紙筒を見て……、目を疑った。
それは私達が目にして、そして持っていない人がいれば喉から手が出そうなそれだった。言わなくても分かるそれを見て、隣にいたシェーラちゃんがぎょっと驚きながら奥さんに向かってこう聞いた。
「な、なんでこれを持って……っ!」
すると、それを聞いた奥さんは、キョウヤさんとブラドさんを見て、真剣な目をしてこう言った。
「実はね、あんた達が勝った証に、この詠唱結合書を蜥蜴人の血を引いているそこのお二人さんに渡せって、言われていたんだよ。勝負が終わったらこれを渡すはずだったんだけど、あんなことになっちまった。だから渡すタイミングを逃して、この有様だけどね……」
奥さんはキョウヤさんとブラドさんに、それをすっと手渡して――奥さんはキョウヤさんとブラドさんを見て、真剣な目と音色で――こう言い放った。
「あんた達は冒険者なんだろう? こんなことを言うなって旦那から言われているんだけど……、あたし達は無力の種族だ。力を持っている種族に勝つためには、あんた達に頼る他ないんだ。だからお願いだよ。旦那を助けてくれ」
それを聞いて、私はきゅっと胸の辺りに握り拳を作る。
奥さんから感じられたもしゃもしゃは本物で、本当にシャズラーンダさんを助けてくれと願っている。
疑っているわけではない……。その気持ちは大きくて、そしてその愛は……本物。そう言いたかったのだけど……。
それを聞いてか、セイントさんは前に出て奥さんの肩を掴みながら――
「その願い、請け負うよな……?」
と、なぜかブラドさんを見ながら、低く言うセイントさん。
それを見たブラドさんは、肩を震わせながらわたわたとして――
「な、なんで俺っ!? そんなに信用できないのかよぉ!」
と、慌てながら言った。でもブラドさんは溜息交じりにその紙筒を手に取りながら……。そっぽを向いて――
「てか、俺がいつ断るって言ったんだよ……。こんな高価なモンをもらえるんだったら、請け負う一択だろうがっ!」
と、顔を赤くしながらそれを手に取って、紐を解いた。
それを見ていたキョウヤさんは、私達を見ながら申し訳なさそうだけど、にっと笑いながら「いいかな……?」と合図を送る。
それを見ていた私は、即答するかのように頷いた。
シェーラちゃんはそんな私を見てか、なぜかふふっと笑って頷く。
アキにぃは「いいけど、俺は後方でね」と銃を構えながら言った。
ヘルナイトさんも私達を見て頷き――そして……。
「今はキョウヤの意思を尊重する」と言った。
それを聞いて、キョウヤは安心したような笑みを浮かべながら、キョウヤさんは奥さんの手に残っていたその詠唱結合書を手に取って、そして――
「あとはオレ達に任せてくれ」と言った。
それを聞いた奥さんは、ほっとして頷く。すると――
「奥方っ! 早く洞窟に!」
ザンバードさんは洞窟の前に何か円で描かれた文字を書いていた。それはよくファンタジーでも出るような魔法陣で、奥さんはその魔方陣を踏まないように洞窟の中に入って、それを見たザンバードさんは、「良し」と言いながら頷いて、その地面に書いた魔法陣に手をついて――
すっと目を閉じてこう言った。
「ル・イルフィディオル(錠のない空気の扉よ)」
それを聞いていたロフィーゼさん達は、首を傾げながら聞いて、私達は一度聞いたことがある言葉を聞いて、ザンバードさんのその呪文を聞いて待つことにする。
その呪文は、どことなくクルクくんが言っていた言葉と発音が同じだ……。
言葉はわからないけど、それでもザンバードさんは呪文を続ける。
「イディオラ・ルフェリズド(この錠のなき空間に、錠と言う名の縛りを与えよ)」
そう言った瞬間、ふわりと魔法陣が光だし、洞窟の入り口がどんどん消えていき……、光が消えた時には、その場所に入り口などなく、ただの岩の壁が私達の前にあった。
それを見ていた私は、ぽかんっと口を開けたままその光景を見ているだけだった。
他のみんなを見てみると、私と同じようにぽかんっと口を開けている。ヘルナイトさんとキクリさんだけは、お見事と言わんばかりに拍手をしている……。
ザンバードさんはその壁を見て、ふぅっと息を吐きながら私達の方を向いて――
「すぐに向かうんだろうっ!? さっさと行くぞ!」と、急かすように私達に言って……。
現在に至る。と言うことだ。
アキにぃは別行動で、遠くから狙撃できるように――草木に隠れながらガザドラに向かって銃口を突き付けていると思う。
近距離に特化しているキョウヤさん、シェーラちゃん、ジルバさんとブラドさん、そしてセイントさんは、足が覚束ないガザドラに向かって攻撃を仕掛けていた。
ガザドラは覚束ない足取りでも、手に持っていた鉄の盾を使って防御したりして何とか攻撃を退けていた。
私は尻餅をついているシャズラーンダさんを何とか支えると……。
「兄者っ!」
ザンバードさんがその背を支えながらシャズラーンダさんを見る。心配そうな目で見る。
それを見ていたシャズラーンダさんは、かかっと笑いながら――
「なんだその顔は……? まるで幽霊でも見たかのような顔をしておるな……」と、冗談交じりに、血を吐きながら笑っていた。それを見て、私はふと、シャズラーンダさんの胴体を見て、思わず口元を手で覆った。
シャズラーンダさんの胴体に突き刺さっている鉄の剣。
それはすでに胴体を貫通して、どくどくと傷口から、鉄の剣を伝って滴り落ちている。
すでに足元は真っ赤な血だまりを作っていて……、それを見た私はそっと手を伸ばす。
うまくいくのかわからないけど……、それでも……。
「待ったハンナちゃん」
「!」
ロフィーゼさんが真剣な音色で言って、ぐっと突き刺さっている剣の柄を掴んだ。
「シイナと団長さんは防御に徹して。私達でなんとかするわ」と、キクリさんもロフィーゼさんと一緒にその剣の柄を掴む。ヘルナイトさんとシイナさんは、それを聞いて頷くと――ロフィーゼさん達は私を見て、ロフィーゼさんが最初にこう言った。
「わたし達が力一杯引っこ抜くから」
「抜けた瞬間――あなたは『
いいわね? と、キクリさんは言う。それを聞いた私は、断ることも、聞くこともできずに、そのまま頷く。意を決した顔をして頷くと、二人は互いの顔を見て頷き――そしてザンバードさんを見て……。キクリさんは言った。
「――しっかり持っててよ。族長さん、痛いからぐっと歯を食いしばってて」
その言葉を聞いて、ザンバードさんは混乱しながらも頷く。シャズラーンダさんはかかっと力なく笑いながら、ぐっとサムズアップをする。
そして――
「「――っせーっの!」」と言った瞬間。
ずりゅっと引っこ抜かれた鉄の剣。
鉄の剣にはシャズラーンダさんの血がべっとりと付着していて、シャズラーンダさんは「――っぐぅ!」と唸り声を上げて、突き刺さっていたところから血がどくりと吹き出す。
それを見た私は、すぐに手をかざして――
「『
すると……、シャズラーンダさんを包み込むような黄色い靄。それを見ていたザンバードさんとシャズラーンダさん。シャズラーンダさんは特に驚いてて、どんどん傷口が塞がっていくその光景を見ながら、「おぉ……」と声を漏らして、その光景を目に焼き付けていた。弟のザンバードさんも同じ顔をして……。
そして――数秒した後……。
傷口は綺麗さっぱり消えてなくなった。
私はほっと胸を撫で下ろして、息を吐く。
キクリさんとロフィーゼさんはにっと、互いの顔を見合わせて笑い合うと……。
「助かった……、礼を言おう」と、シャズラーンダさんは私に向けて頭を垂らす。私は思わず手を振りながら「あ、いいえ……そんな」と言うと……、それを見てザンバードさんは「兄者」と言って……。
「なぜあのような無謀なことを」と聞いた。
それを聞いたシャズラーンダさんは、一瞬だけ口を閉じ、ふっと顔を伏せてから私達に、弟であるザンバードさんに向かって――口を開いた。
「……、オスの意地……、ではなく、未熟な重鎮の罪滅ぼしだ」
「? 罪?」
その言葉にロフィーゼさんが首を傾げると、その言葉にキクリさんとヘルナイトさんが頭を抱えていることに、私は気付くことができなかった。それはロフィーゼさんと、シイナさんも同じで……。
すると――
がぃいんっと――遠くから剣が交わる音が聞こえた。
その音を聞いた私達は、会話をやめてその方向を見ると……、キョウヤさん達の戦いがヒートアップしていることに、驚きを隠せなかった。
「――ぬぅっ!」
「っと」
ガザドラが持ってた鉄の盾を前に押し出すように構えて、たっと身軽に駆け出したジルバさんは仕込みのナイフをぐっと自分の方に向けて、横に薙ぐように振り回す。
盾と剣が鬩ぎ合い――ぎぃんっと鉄特有の音が響き渡った。
その最中――ガザドラの背後にいた部下達がガザドラに向けて武器を投げる。ぶんっと音が鳴るくらい、勢いをつけて、投げた武器は鉄板。少し錆付いた鉄板で、私の身長くらいの大きさで、正方形のそれだった。それを見たガザドラは上を見上げ、それが自分の向かってくるにも関わらず――部下達に向かってこう叫ぶ。
「すまない! しかしこれからは吾輩が何とかする! お前達は離れていろっ!」
しかし、それを聞いてた部下達は、驚きながらガザドラを見て、そして一人の大柄の部下がガザドラに向かって「し、しかし――」と反論の声を上げると……。
「――命令だっ!」
ガザドラは声を荒げた。
それを聞いた部下達はびくっと体を震わせ、そしてガザドラを見る。
ガザドラはジルバさんの剣に対抗しながらこう言った。少し早口で……、彼は言った。
「この者達はお前達では太刀打ちできんっ! 吾輩が何とかする! 命が惜しいものはこの場から離れろっ! いいな!」
それを聞いていた部下達は――
一歩も動かずに、その場にいて、武器を投げる態勢に入っていた。それを見たガザドラは、ぐっと顔を苦痛に歪めてから……。
「……、今だけでも、己の命を尊重しろ……っ!」と、小さく言っていたけど……、『今だけ』の後はよく聞こえなかったから、何を言っていたのかはよくわからなかった。
すると……、ガザドラはジルバさんの攻撃を押し出す。それを受けたジルバさんは、とんとんっと後ろに後退しながらくるくると回って着地する。
それを見ていたブラドさんは「すげー」と驚きの声を上けていたけど、ジルバさんはそんなブラドさんに向かって飄々としながら「油断は禁物」と言った。
瞬間だった。
「『
ガザドラは盾を上に掲げるように、そして地面に突き刺さった鉄板にも触れて、盾の表面を空に向けて上げた瞬間、どろりと盾の表面が、鉄板がスライムのように粘着性を帯びた銀色の液体となり、そのままじゃきんっと、ハリネズミのような固い棘をこれでもかと言うくらいいっぱい作り上げて――それを……。
ぎゅうぅんっ! っと――盾と鉄板からその棘がマシンガンのように放たれたわけではないけど、衝撃波のように伸びるように、その棘一本一本が、上に向かうと同時に放物線を描きながらみんながいるところに落ちていく。
それを見た私は、すぐに手を伸ばして――
「『
と言って――みんながいるところに半透明の半球体を発動させる。<PBR>
発動して、みんなを覆ったと同時に――どどどどどどどどどっ! と、土煙を出しながらその鉄の棘が、みんなのところに落ちていく。そしてばぎんっと壊れる音が聞こえた。
それは――私の『
それを見て、聞いたヘルナイトさんは私達とシャズラーンダさん達を守るように前に出る。大剣を構えながら、従来の騎士のように、身を挺して庇う。
でも……、来たのは土煙だけだったので、私達は無傷で事なきを得た。
ヘルナイトさんは向こうにいるシェーラちゃん達を見る。私とロフィーゼさん達もその光景を見てみる。土煙で何も見えないけど……、それでも人影でわかる。
たった一人の影。そして――固まっている影。
だんだんと、土煙が晴れていくと……、その全貌がはっきりとしていき、私は目を凝らして見た。すると……、土煙が晴れた瞬間……。
ほっと、私は胸を撫で下ろし、絶望の表情から安心と言う表情に変えて、それを顔に出てしまった。
それもそうだろう……。
ガザドラはその光景を、信じられないという顔でその光景を凝視していた。目を見開いて、そして開いた口が塞がらない状態で、それを見ていた。
ガザドラが見た光景――それは……。
「上からの奇襲……、それも……、ハンナのスキルを壊すほどの威力。ならば……」
と、シェーラちゃんが言う。そしてその周りにはジルバさんやブラドさん、キョウヤさんがそこにいて、その光景を凝視していた。
シェーラちゃんの周りには水でできたカーテンができていて、そのカーテンに弾かれたかのように、大きな穴が周りに広がっていた。
そう。シェーラちゃんは使ったんだ。詠唱を――
「出し惜しみなんてできないわ。さっそく使ったわよ――『
と言った瞬間、私達ははっとして辺りを見回す。そしてガザドラの方が私達より驚いていて、まさかと言う顔をして振り向いた瞬間……。
私達もその背後を見て――目を見開いて驚いた。
簡単な話だけど……。
攻撃の隙を突いて、セイントさんがガザドラの背後に回って、剣を突き刺そうとしていた。
「――本来なら、私は正義のために戦うものだ。ゆえにこんな卑怯卑劣な行為は好まない。許せ――」
と言い、セイントさんは剣先にぼわりと――火の玉を出す。
それはまるでララティラさんのスキル――『
「
と言った瞬間、剣先に込められた火のボールは、ガザドラの背後に向かって、バシュッと放たれて――ガザドラの背中に当たり、その場所から『ボォンッ!』と、大きな爆発が起きた。
「――っ! がっ!」
ガザドラはそれを背後から、それも無防備に近いところに直撃して、そのままぐらりとバランスを崩す。セイントさんはそれを見て言う。
「聖騎士は、魔法攻撃を放つ時、このような魔法の弾丸を放つことができる。ウィザードと比べれば、属性攻撃は微妙な攻撃だ。だがこの至近距離。好まない手法だが……、効果はあるはずだ」
それを聞いてか、キョウヤさんはぐっとセイントさんに向かってサムズアップした後――
「サンキュ」とにっと笑ってお礼を述べた。
それを聞いたセイントさんはむっとしているのか……。
「今回限りの奇襲だ。これ以上はない」
と、はっきりとした音色で言って、肩に乗っていたさくら丸くんが「わんっ!」と鳴いて尻尾を振っていた。
ロフィーゼさん達は、それを見てほっと胸を撫で下ろして、勝ったという実感を味わった。一瞬だけ、味わったけど……。
「「まだだ/よ」」
ヘルナイトさんとキクリさんが言う。それを聞いた私達はキクリさんとヘルナイトさんを見上げて首を傾げた。
すると……。
――ざりっ!
『っ!?』
「!」
ガザドラは直撃したにも関わらず、よろめていた足に力を入れて踏ん張り、そして腰を曲げて、ボロボロの体で震えながら気力だけで立ちながら……、ぜぇぜぇと痛々しい息を吐いて――彼は、徐に右手を上げた。
それを見たシャーラちゃん達は、どうしたんだろうと首を傾げている。セイントさんも首を傾げ、私達も首を傾げていたけど……、それを見たザンバードさんは……。
「――まずい……っ!」と言った瞬間……。はっと驚愕の顔に染まったシャズラーンダさんが、ガザドラに向かって――こう叫んだ。
「待てっ! それを使うなっ!」
「?」
それ? 使うな? 一体何を言っているのだろうか……。すると――
「シイナすまない。この場を頼む」
と、ヘルナイトさんとキクリさんが前に出て、ガザドラに向かって走り出した。それを見たシイナさんは「え? えぇ?」と驚きの声を上げて、一体どうしたのだろうとわたわたしながら周りを見ていた。
ロフィーゼさんは首を傾げて「なにかしらぁ?」と言っていたけど、私は薄々それを感じていた。
ガザドラから感じる……、赤や青のもしゃもしゃが……、どんどん無色になっていくのを……。
無色――それは感情がないことをさす。そして感情がない理由として挙げられるのは……、元々感情がない人。そして……。
これから起こることに事態に備えて心を無にし、感情を殺して――それをしようとしているということ……。それは……。
自分の体を、自分ので傷つける時!
「それは禁断の術だぁ!」と、ザンバードさんが叫んだ瞬間、ヘルナイトさんとキクリさんが、大剣と扇子を手に持ってガザドラを抑えようとした時――
もう遅かった。
「…………ラ・ヴェルヴィーゼ(魔力・体力引き換え暴走)」
と言った瞬間――ガザドラは上げていた手をくっと手首を使って自分に向けて、そのまま勢いよく……。
――どしゅっ! と……。
自分の手で、自分の貫手で……、自分の腹部に深く……深く……。
突き刺した。
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