PLAY41 ロスト・ペイン ②
「そういえばさ」
「?」
唐突な質問だった。
みゅんみゅんはふとした疑問をベルゼブブに向けて投げ掛けた。
彼らは今現在、アクアロイアに向かって道中をのんびりと歩いていた。
険しい分、ここは落ち着いて向かおう。
そうミリィの意見を汲み取っての行動でもあった。
ちなみに――悪魔族の面々はそれぞれが持っている悪魔の翼で飛んで行けるので先にアクアロイアに向かった。
みゅんみゅんはベルゼブブを見て聞く。
「あのベル・デルは、なんであんたに対してあんな敵意を剥き出しにしていたの?」
唐突な質問。
それを聞いていたミリィは明るい笑みと表情で――
「私も気になっていましたー。同じ種族でも、なんであんなに犬猿のような仲なんですかー?」
「犬猿って、どっちが犬で、どっちが猿なんですかい……? どちらかと言うと、どっちも猿みたいですかねぇ……」
ミリィの言葉にごぶごぶさんはうーんっと唸りながら腕を組む。
しかしながら自分自身も気になっていたことなのでベルゼブブに聞く。
「確かに、他の悪魔族はあんまり険悪していやせんでしたけど……、あのベル・デルだけは例外でしたね」
『何かあったのですか? 勘当される前に』
ザンシューントもそのことについて聞くと、ケビンズはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて、「やめておきなって」と仲裁に入るように声を上げる。
爽やかだが、困ったような顔をしてこう言った。
「ベル君だって話したいことがあっても、話したくないことだってあるんだ。そこはみんなも気持ちを考えて――」
「いや……、あいつらがギルド長になるんだ。きっとどこかで会う。理由がわからないことは一抹の恐怖だからな。いい機会だから話す」
「おやまー。ベル君くそまじめ」
あらまと、口を開けながら驚くケビンズ。予想外だったのだろう。ベルゼブブは歩きながらも、みゅんみゅん達の疑問に答えるように、腕を組んで説明した。
「俺の名前がベル・ゼ・ブブなのは、知っているだろう?」
「当たり前でしょ? 何よ突然」
みゅんみゅんはむっとしながら、馬鹿にしているのかという顔をして聞くと、ベルゼブブは続けてこう説明した。
「あいつが俺を目の敵にするのは――『名前』が関係しているんだ」
「名前……? あ」
ミリィは、はっと何かを思い出したかのように斜め上を見上げて言うと、次にベルゼブブの前まで駆け寄り、後ろ向きに歩きながら答え合わせをするかのような期待を寄せたそれでこう言う。
後ろ向きの進行は――危ないこの上ないが……。
ミリィは言った。
「それはもしや……、ベルさんの名前は別にあったということですか?」
「まぁ。その通りだ」
もう捨てた名前だが。と、ベルゼブブは言う。それを聞いてミリィはよしっ! とガッツポーズをしながら後ろ向きに歩いて進む。
本当に木に当たりそうになったら、止めないと……。そうザンシューントは思ったらしい……。
それを聞いたみゅんみゅんは顎に手を添えて考える仕草をしてから「別の名前?」と言うと、それを聞いてベルゼブブはこう言う。
「俺達悪魔は、生まれた時は己の名前を持っていた。ベル・ラフェーロや、ベル・イムスとか、色々」
「名前なんてなかったら、その人を呼ぶ時どう呼べばいいのさ? 名前がないと色々面倒くさいそうじゃないか、それとベル君とベル・デルの関係とどういった接点が?」
ケビンズは頭に手を組みながら唇を尖らせて聞くと、ベルゼブブは腕をほどき、己の胸に手を当てながら下を向いてこう言う。
「大罪の名は――襲名して初めて貰える……、至高なる御君――ベル王の恩赦をもらえる偉大なる名前なんだ」
「偉大なるって……、お恐れてやすね。たかが名前で」
「名前は――悪魔にとって偉大なことだ」
ごぶごぶさんの言葉に対して、ベルゼブブははっきりとそう言って、言葉を遮る。そして続けてこう言った。
「俺の名――ベル・ゼ・ブブは、先代のベル・ゼ・ブブから襲名した名だ。ベル・ヴェルフェだけは、最古参にして最初に悪魔みたいだから、襲名などはしたことがないらしい……」
「……あのドラゴンから名前を奪おうってのも、かなりの勇気がいるし、いた奴がいたら私は勇者って褒め称えるわ」
みゅんみゅんはベル・ヴェルフェのことを思い出しながら、それに戦いを挑む馬鹿はいないだろうと頭の片隅で思い、青ざめながら言うと、ザンシューントは『となると』と言いながらワンっと吠えて――
『ベル・ゼ・ブブの他にも、正式な七つの大罪の名があったということですか?』と聞いた。それを聞いて、ベルゼブブは頷き――
「俺とベル・ヴェルフェを抜いて――『強欲』はベル・マモン。『色欲』はベル・アスモ・デウス。『嫉妬』はベル・レビィ・アタ。『憤怒』はベル・サタン。そして『傲慢』がベル・シファーだ」
と言うと、それを聞いたケビンズは「ふーん」と唸りながら――
「ぼく達の世界や国で聞く……、七つの大罪の名と同じそれね……。でも、ベル君とあのドラゴンはそうであっても、他の五人は違う名前だよね?」
と、疑問の声を上げると、それを聞いてミリィも頷いて――
「確かに……。『傲慢』はベル・リード。『色欲』はベル・リデル。『嫉妬』はベル・イサラ。えっと……、『憤怒』がベル・エクスタァに、『強欲』がベル・デルでしたよねー?」
と、指折りに数えながら言うミリィ。それを聞いて、ケビンズも頷いて「なんでその五人だけは違いのかねー」と、顎を撫でながら考えていると、その疑問にベルゼブブは少し俯いてから、すぐに顔を上げてこう言った。神妙そうな顔をしてこう言ったのだ。
「俺は……、瘴気が来る前に、襲名して、ベル・デルは瘴気が来た時に襲名しよとしたが、結局……、襲名どころではなく、たった七人になってしまったんだ」
「あ」
それを聞いたみゅんみゅんははっとして、口に手を当てて驚くと、それに気付いたごぶごぶさんやザンシューント。ケビンスも珍しくその思い言葉を受け取り、重い空気を出してしまう。
……一人だけ、その空気を読まずに……。
「あー! みんな死んでしまったから襲名できなかったんですね! 運悪かったですねーベル・デルさん」
「ちょっと口閉じて、お口チャックして」
ミリィのその陽気な声を聞いて、みゅんみゅんは睨みながら低い音色で突っ込みを入れた。
そんな空気を読んでいないミリィは首を傾げながら疑念の表情を出す。
ケビンズは汗を流しながら「おほんっ!」と咳込んで――ベルゼブブを見てこう言った。
「な、なるほど……、そ、そんなことがあったんだね……?」と、上ずった声を出しながら言うと、ベルゼブブは頷きながら――
「だから、先に襲名した俺のこと妬み、恩赦を貰っている俺のことが気に食わないんだろう……。王は名を受け継いだものと、ベル・リードにだけ心を許しているようだしな」
『よくある格差というものでしょうかね……? ベルゼブブさんの優遇を妬んでいるということでしょうか……』
「嫉妬の大罪の名を継げばよかったんじゃないでしょうかねぇ……」
ザンシューントとごぶごぶさんはその話を聞きながら、ベル・デルの肩書と性格を思い浮かべながらそう思って、言葉にした。
ベルゼブブは話し終えたかのように、息を吐きながら言う。
「これがベル・デルが俺を目の敵にしている理由だ。ベル・デルは、王に心酔している。ベル・リード以上に心酔し、王の病を気にして躍起になっていたらしい。だからいち早く襲名しようとした矢先に――」
「……『終焉の瘴気』が襲い掛かり、悪魔族を壊滅に追い込んだ。ってことか……」
ケビンズはふむっと言いながら唸ると、それを聞いてミリィははっと思い出して、「そういえばー」と言いながら、彼女はケビンズを見てこう聞く。
「兄さま――お病気大丈夫ですか? どこか違和感とかありませんか?」
「唐突だね妹よ。ああ、ぼくは大丈夫だよ」
ミリィの唐突な言葉に戸惑いながらも、ケビンズは爽やかな笑みを浮かべて答える。それを聞いて、ベルゼブブはケビンズを見ながら、目を点にして、みゅんみゅんたちも目を点にしながら――
「お前、病気を患っているのか……?」
「そういえばそんなこと言っていたわね。全然そんな雰囲気じゃなかったけど」
「仮病かと思っていやした」
『まさか騙されたと思っていました。ケビンズ様のその雰囲気を見て、正直、半信半疑なところがありまして……、性癖的にも』
「まさかの疑心……っ! くぅっ! 精神的に来るのも……、また、イィッ!」
ベルゼブブは心配そうな顔をして、みゅんみゅんたち三人はあれ本当だったんだ。という顔をして驚いて、ケビンズを見て罵倒交じりの驚きを吐くと、ケビンズはぶるぶる震えながら高揚とした笑みを浮かべて、己を抱きしめる。
「もぉ! なんで信じていなかったんですかっ! 兄さまは本当に病気なんですっ!」と、大きな声を張り上げて言った。
それを聞いて、みゅんみゅんはジト目をしてケビンズを見て――腕を組みながら……。
「いや、だってそんな雰囲気ないし」と、まだ疑念のそれでケビンズを見ていた。
ケビンズはそんな目を見ただけで、刺激を受けているのか、ぶるっと震えて己を抱きしめながら、荒い息遣いでみゅんみゅんたちを見て――
「本当だよ……。まぁ、その病気のせいで、僕はこんなドMになってしまったんだけどね」と言って――彼はみゅんみゅん達にこう告げた。
「ぼくはね――軽度の『ロスト・ペイン』なんだ」
□ □
「貴様ら――武神御一行だなっ!?」
涼んでいたところから出ると、じりっと肌を射す熱気。それに耐えながらその涼んでいたところから出ると、その周りには、バトラヴィア兵の人達が佇んでいた。
一人一人が重厚そうな武器や鎧を着て佇んで、その背後には何頭もの馬……、に、見える……。馬のロボット?
それを見て私は目を顰めてよく見ると、本当にロボットだったのだ。
こんなファンタジーの世界には不釣り合いな。ロボットがいたのだ。
よくよく見ると、その兵士が持っている武器も、角ばったそれで、アキにぃのような銃のフォルムではなく、近未来の武器のようなそれだった。
「もう一度問うっ! お前達は――武神御一行だなっ!?」
その声を聞いて、私ははっとする。前を向くと、その人達の前に立った重厚そうな鎧を身に纏い、武器など持っていない七三分けの少し痩せた人――きっと、この隊の隊長さんなのだろう。
その人は私達を見て、少し狂喜の笑みを浮かべながら私達の言葉を待った。
「あの目……、正気じゃないわね」
シェーラちゃんは身構えながら、少し緊張した音色を吐く。
それを聞いて、私は頷くと、それを聞いてヘルナイトさんはこう言った。
「……そうだ。何か御用か? バトラヴィア兵の者よ」
それを聞いて、隊長の人はこう言った。にやりと、口元を歪めながら――
「御用も何も、ここに来た理由を聞きたいのです。ここはバトラヴィアの領地。我が至高なる王の聖地ですぞ? 何の御用があってここに来たのか、理由を問いたいのです」
そっと手を広げて言う隊長さん。
それを見て、キョウヤさんは小さい声で「何言ってるんだ……? 何が至高なる王だよ」と言うと、それを聞いてか……。
笑みを浮かべていた隊長の顔が、無表情の真顔になり、ぐりんっとキョウヤさんのほうを向いた。
まるで人形の様に、ぐりんっと、からくり人形の首の動きをして……。
それを見たキョウヤさんはぎょっとしながら驚き――隊長さんを見ながら「な、なんだよ……」と聞くと、隊長さんは真顔の顔で、こう聞いた。
「今――何と言いましたか?」
「は?」
その言葉に、私も首を傾げ、シェーラちゃんは疑問の表情をしていると、ヘルナイトさんは「う」と唸って、頭を抱える。
それを見た私ははっとして「だ、大丈夫ですか……っ?」と聞くと――ヘルナイトさんはそっとその頭から手を離して……。
「まずい……っ!」
「え?」
ヘルナイトさんの、慌てた音色を聞いた瞬間、私は首を傾げた。
シェーラちゃんもそれを聞いて首を傾げていたけど……、アキにぃはそれを聞いて周りを見て、目を見開いてから……。
「キョウヤ待てっ!」と声を荒げた。
でも……。
「聞きましたよ? 今あなたは――侮辱しましたよね?」
「へ。えっと……」
隊長さんはすっと手を上げて、背後にいる兵士達に合図を出した。
それを見たと同時に、兵士の人達は手に持っていた角ばった銃や、透明な盾に、白い刀身の剣を持ち、構える。
私達を睨みながら武器を構えた。
それを見たアキにぃは舌打ちをしながらライフル銃を構え、シェーラちゃんも剣を引き抜き、ヘルナイトさんも大剣を引き抜く。
キョウヤさんははっとしてすぐに槍を手に取って構えた瞬間……。
隊長さんは――無表情から血走った鬼の形相になり、私達を怒りの眼で捉えながらこう怒鳴った。
「戦闘開始っ! この集団はバトラヴィア王を侮辱した! よって――『バトラヴィア帝国法』に法り! 『国王侮辱罪』及び、バトラヴィア帝国・その領土の者に対して暴力、敵意を見せた『帝国反逆罪』に処す! この場で惨殺刑に処せっ!」
「な、はぁっ!?」
キョウヤさんは驚きながら槍を構える。
アキにぃとシェーラちゃんは、それを聞いて「「んな無茶苦茶なっ!」」と、驚きと怒りを混ぜた顔で怒鳴った。
でも……、きっとキョウヤさんも同じだし、三人の気持ちは、私でもわかる。
キョウヤさんは悪口ではなく、何を言ってるんだと言う感じで言ったのだろう。でも武器に関しては、最初に兵士の人達が構えたから武器を構えた。
言い方の問題があるかもしれないけど、先に武器を構えたのはそっちだろうと言いたい気分だ。
でもバトラヴィアの人達は、そんなことを聞かないで私達を反逆者として処分するつもりだ……。
「っ」
私はナヴィちゃんを抱えながら手をかざす。
すると――
「
兵士達の前列にいた、角ばった銃を持った兵士が前に出て、屈みながらアキにぃと同じように銃を構えた。『ジャキリ』と音を出して、そしてその銃口から赤い光を放ちながら……。それを見て、ヘルナイトさんは私を横抱きにしてその場から避ける。
だんっと、その岩から離れるように。そして――
「離れろっ!」
ヘルナイトさんは叫ぶ。
それを聞いたアキにぃとシェーラちゃん、そしてキョウヤさんはそれを聞いて……。
シェーラちゃんはアキにぃのポンチョを掴んで、キョウヤさんに向けて手を伸ばす。
キョウヤさんはすぐにシェーラちゃんのところに向かって、彼女の腰を抱えてから、しなっている尻尾を地面……、ううん。砂地に叩きつけた。
いつものように飛んではいけなかったけど、ばふぅんっ! っと砂が周りに飛び散る。
それを見て、キョウヤさんはだっと駆け出しながら……。
「マジかよ……っ! 砂地めんどくせーっ!」
と、シェーラちゃんとアキにぃを抱えながら走りだすキョウヤさん。
飛ぶつもりだったみたいだけど、それを聞いてシェーラちゃんは怒りを露にしながら「当り前でしょうがっ!」と、キョウヤさんを見上げて突っ込みを入れていた。アキにぃはゆらゆらと揺れながら引きずられている。
その煙を浴びたバトラヴィアの兵士達はけほけほと咳込んでいると、咳込みながらも目を閉じて、それでも私達を殺すという意思を固めている隊長さんは、目を閉じながらも――
「構うなっ! 撃てぇ! 撃つんだ!」と叫んだ。
それを聞いて、銃を持っていた兵士達は「っは!」と声を上げて、銃を構えてから、もう一度銃口に赤い光をぎゅるぎゅると集めて、大きくしてから……。
一斉に――
――パゥッ! と、弾を、違う。あれは……。
赤い光線っ!?
と、私はそれを見て、驚いている間に――
その光は私達が涼んでいたところに直撃して……。
どぉんっ! っと、爆発音を出しながら、支えていた岩を半壊させた。
それを見て、私とアキにぃ達は言葉を失った。
詠唱でも、スキルでもない……。ましてや魔法でもない。
これは……、科学の力だと、誰もが、ううん……。プレイヤーである私達にしか気付けないそれだった。
銃を撃った後、隊長であるその人は半壊させたそれを見て――舌打ちをしながら「避けたか……。まぁいい」と言い、背後にいる兵士達に向かってこう張り上げた。
「
唱えろっ! 隊長は胸に手を当てて――高らかにこう言った。
「我等の御心は王のためにありっ!」
「「「「「我等は心身ともに――王のために命を燃やすっ!」」」」」
「すべてはバトラヴィア帝国のためにっ!!」
「「「「「バトラヴィア万歳っっ!!」」」」」
誰もが隊長さんと同じ動きと動作をして、胸に当てていた手をぐっと握って、どんっとその心臓がある箇所を拳で叩く。
それはまるで鼓舞しているかのようだけど……、それと同時に、壊れているとしか言いようがない光景だった。
すると、ヘルナイトさんは私を抱えたまま、ふわりと地面に降り立とうとした時――私にしか聞こえない音色でこう言った。
「バトラヴィアの者は、王に心酔しているんだ」
「……心酔?」
ああ、と。ヘルナイトさんは私を抱えながら、砂地に降り立って――そして大剣を構えながらこう言った。
「私達が、サリアフィア様のこと深く崇めているように、彼らにとって、バトラヴィアの帝王こそが、神そのものなんだ」
「……神様、ですか……?」
「すべては王のため。王こそが絶対の王。他の王など仮初、真の王はバトラヴィア。そう言った思想が広まり、今のバトラヴィアが生まれてしまった……」
話をしていると、ヘルナイトさんは大剣を構えて私をぐっと横抱きでしっかりと抱えながら――
「ハンナ。少し荒く動く。振り落とされるな」
「! あ、はい……!」
ヘルナイトさんの声を聞いて私はすぐに頷いた。とたん……。
だっと、ヘルナイトさんは駆け出す。私はその風圧を受けながら声を上げてナヴィちゃんを抱える。
ヘルナイトさんはバトラヴィアの兵士の人達の背後を狙って……、大剣の柄の方を振り上げて、そのまま――大剣の頭を使って……。
がつんっ! と、一人の兵士の首元にそれを打ち付けた。
「あぐっ!」
と、唸り声を上げて、そのままずしゃっと倒れる一人の兵士。
それを見て近くにいた兵士達はぎょっと驚きながらヘルナイトさんを見て、ヘルナイトさんは私を抱えながら凛とした音色で言う。
「戦うつもりはない。この兵士も気絶しただけだ。非礼に関しては私から詫びる。だが彼らは……この地のことを知らない冒険者だ。だから」
と言った瞬間……、隊長さんはバッと手を上げて、鬼気迫るような凶悪な怒りの顔を見せながら叫んだ。
「
その言葉と共に、ヘルナイトさんは何をする気だと思いながら大剣を構えたけど、私はその背後を見てはっと息を呑んで――
「ヘルナイトさんっ! 後ろですっ!」
「きゅきゃーっ!」
「!」
私の声とナヴィちゃんの声を聞いて、ヘルナイトさんははっと気付いて背後を見た。
私とナヴィちゃんはそれをいち早く見ていた。
重厚そうな鎧を身に纏って、武器も何も持たないで飛びかかってきた二人の兵士。
それを見たヘルナイトさんは「……くっ!」と唸って、大剣を振り回さないで一瞬、躊躇った。躊躇した。
「……?」
私はそれを見て首を傾げた。
なぜ、ヘルナイトさんは躊躇ったのだろうと。戻った記憶と関係しているのだろうか。と思いながらそれを見ていると、どんどんとヘルナイトさんに向かって覆い被さろうとしている二人の兵士。
ヘルナイトさんは背後を見、そして正面を見て――攻撃方法を考えていると……。
「っはぁ!」
「おりゃぁ!」
シェーラちゃんとキョウヤさんがその二人の兵士に攻撃を仕掛けたのだ。
シェーラちゃんは剣を鞭のようにしならせた後、ぐるぐるとその兵士の手首にそれを巻きつけて、そのままシェーラちゃんがいるその方向に向けて引っ張る。
キョウヤさんは槍を振り上げて、そのまま一気に兵士の顔面にそれを当てて、砂地に叩きつけた。
どちらからもずしゃりと、砂に落ちる音が聞こえたと同時にシェーラちゃんは剣を突き付けて、キョウヤさんは槍でその人を押さえつけながら、遠くで銃を構えていたアキにぃは――ヘルナイトさんを呼んで……。
「ここは俺達が引き付け……、って! でええっ!?」
ライフル銃を構えながら叫ぶと、突然アキにぃの正面に、重厚そうな鎧を着た兵士が前に立ち塞がった。というか……。ばぁっと地面から這い出てきて、脅かすように現れた。
それを見たアキにぃは驚きながら銃を構えて――
「っ! アキ待てっ!」
「?」
突然、ヘルナイトさんが叫んだけど、それを待たないでアキにぃは――
ばぁんっ! と――発砲した。
それを見て、私ははっと息を呑んで、口を手でふさいだ。
シェーラちゃんやキョウヤさんもそれを見て……。
絶句していた。青ざめながら言葉を失っていた。
なぜって? 簡単であり、人間にして見ればあまりに異常な光景だったから……。
「っ? いいっ!?」
アキにぃは、驚きのあまりに茫然とその光景を見て、そして覚醒して、またそれを見て驚きの声を上げた。当たり前だろう……。
アキにぃが放った銃弾は、兵士の頭――右目に向けられて、放たれた。アキにぃはいつも、頭や致命傷は狙わないようにしていた。でも今回は驚きのあまりに、その銃口を頭に、目に向けてしまったのだ。
それで当たってしまった。
ばしゅんっと――貫通して……。
でもそのあとが問題だった。
アキにぃはそれを見ながら、震える指でその兵士を指さしながら……。
「な、ま、マジかよ……っ!」と、アキにぃは言った。
目に直撃していたにもかかわらず、貫通してしまったにもかかわらず、兵士は何事もないかのように動いていたのだ。アキにぃを取り押さえるために動いていたのだ。直立になり、ふらつきながらアキにぃに近付いて来たのだ。
「ちょっ! まっ!」
「あ、アキ! っ!」
「アキにぃ! キョウヤさんっ!?」
慌てるアキにぃを見て、キョウヤさんが叫ぶと同時に、苦痛に歪んだ顔をした。
驚いた私はそれを見て、キョウヤさんを見ると、キョウヤさんの腕をがしりと掴んで、槍から逃れながらぎりぎりとキョウヤさんの腕を軋ませて握り潰そうとしている兵士。
それを見たキョウヤさんは、「う……、ぐぅ!」と唸りながら、開いた手でその手を掴んで、槍を尻尾で掴みながら――何とか引きはがそうとした時……、また異常な光景が見えた。
兵士はその掴まれた手の肘のところを見て、近くに落ちていた何かを手に取って――
ざしゅっ! ざしゅっと――
キョウヤさんの腕ではなく、己の腕にそれを突き立てた、突き刺したのだ。手に持っていたのは――ナイフだったらしい。
それを何度も、何度も――
何度も、何度も……、己を傷つけたのだ。
「な、なぁっ!?」
驚くキョウヤさん。それを見てヘルナイトさんは叫んだ。
「そいつらに攻撃はするなっ! 最悪死んでも追って来るっ!」
「し、死んで……、え?」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて、私は思わず声を漏らして驚いてしまう。一体何を言っているのだろうと思っていると、シェーラちゃんは後ろに跳びながら「ちぃっ!」と、私達のところに駆け寄る。アキにぃは銃を構えながら、キョウヤさんの腕を掴んでいる兵士の足元に銃を向けて――
ばぁんっ! と撃ったと同時に、ばすんっと砂が少し吹き上がった。
それを見た兵士は首を傾げながらその方向を見て、キョウヤさんはそれを見た隙に、尻尾に持った槍を振り回して、その顔面の横にその槍を叩きつける。
ばぎぃっと、まるで、バットのスイングの様に――
その衝撃で手が緩んだのか、キョウヤさんはそのまま後退して私達のところに戻ってきた。アキにぃも来て、慌てながら立ち上がってヘルナイトさんに聞いた。
「な、なんだあれっ! 怖いったらありゃしないっ!」
「ホラーだな……」
アキにぃ青ざめながら叫ぶと、キョウヤさんは目の当たりにしてしまった光景を思い出して、力なく言うと、それを聞いてヘルナイトさんは――
「あれは――気付いていないだけだ。傷つけられたことを、感じていないだけだ」
と言った。
それを聞いた私達は、ヘルナイトさんを見て、そして……。
「感じていない? それって……」と、私が震える口で聞くと、ヘルナイトさんはぐっと顔を俯かせて、どんどん私達を取り囲んでいく兵士を見ながらヘルナイトさんはこう言った
「あの鎧は、帝国で作られている
「恐怖や、痛覚を……?」
「それって、かなり異常な光景が目に見えそうな気がするけど……?」
キョウヤさんやシェーラちゃんの言葉を聞いて、ヘルナイトさんは言う。
「そうするために作られたからな。恐怖は人の心を揺さぶる。つまりその感情さえなければ、強靭な戦士が出来上がる。恐怖を無くし、痛いという感覚を無くせば――戦争で大いに役立つだろう。何をしてでも起き上がる不死身の兵士達。それがあの鎧……『
ざんっと、すでに囲まれてしまった私達。
それでもヘルナイトさんは言った。
静かに、怒りを燃やしながら目の前にいる狂喜の笑みを浮かべた隊長さんを見てヘルナイトさんは言った。
「こいつらが着ている鎧は――人を人でなくしてしまう鎧だ。それを帝国は、量産している」
それを聞いて、私は言葉を失いながら青ざめてヘルナイトさんの腕の中で聞いていると、隊長さんはにぃっと口元をぐにぃいいっと歪ませて、そして――そっと手を上げて。
「やれぇっ!」と言った瞬間だった。
ばすんっと――隊長さんの上げた手が……、斬られた状態になって砂地に落ちた。
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