PLAYOUT REALPARTⅢ SOUL COPY(急展開)

 この物語をお楽しみにしている方々。


 残念ながら今回は後日談。


 僕――久郷改くごうあらたは現在、自室でとある情報を見て愕然としていた。


 薄暗くてパソコンしかないその部屋で、僕はパソコンに映っているその光景を見て……、本当に愕然として……。


『あれ? ここは現実? 僕は死んで異世界に転生しようとしたけど実はここは現実の世界だった?』


 そんな摩訶不思議なへんてこなことを思い浮かべた僕は、自分の頬を一回強く抓った。


 ――ぐにっ!


「いってっ!」


 痛い。痛みはある。


 よし、夢でもなければ幻でもない。ってことは……。


「ここに書かれていることは……、本当、で、いいんだな……?」


 そう思った僕は、今日起きた濃密にしてハラハラドキドキの一日を振り返ることにした。



 ●     ●



 堀瓜甚太ほりうりじんた


 元老院さん曰く……彼は以前RCに勤めていた人だったという。


 僕と蛇崩さんはその人の情報を足で稼いでどこにいるのかと探していた。でも意外や意外。実は一日で見つかり、その人はなんと……。


 RC仮設住宅にいたのだ。


 RC仮設住宅とは――RCに勤めている人限定の住宅で、主に遠くから来た人を無償で住まわせるというお財布にも優しい場所。


 そのようなことをしているのはRCだけで、他のところでは一切そんなことをしない。ていうかお金の無駄だと僕は思った。


 そこで僕達はその堀瓜さんに会った。


 堀瓜さんは普通の大学生のような風貌で、失礼ながらおいくつなのかと聞くとその人は二十五歳と言っていた。服装は白いパーカーに黒いジャージ。普通の人だったな。


 僕らはその人に話を聞いた。


 あの時起こったRCの集団昏睡の件について……。


 すると堀瓜さんはあっけからんとした顔でこう言った。



「実は、僕――その事件が起こった日にクビにされちゃってて、詳しいことはわからないんです」




「え?」


 それを聞いていた僕らは確かに勤めていたって元老院さんも言っていたから一瞬驚いたそれを顔に出していたけれど、その顔はすぐに消して本題に向けての顔を作った。


 驚くのはまだ早い。その話は事実でも、やめた時期がポイントなんだ。そんなことで驚いている暇なんてない。


 その事件が起こった日。それを聞くと、アップデート更新情報が流れた日だった。


「私達はその事件を追っているものです」

「えええぇぇぇ……、ってことは、刑事……」

「あー。えっと……、その、まぁ何でも屋と言うか」


 蛇崩さんがそう言うと、堀瓜さんは僕等を見て「へぇー。何でも屋なんだね」と言って、腕を組んで納得しながらこう言った。


 てか、納得するのかよ……。僕はそう突っ込んだ記憶がある。


「今の時代はネットとかそういったデジタルが主流なのに。今時アナログなんだねー」

「えぇ。この時代では時代遅れの、ネットが使えない身でして……」

「そうなんだ! あ、でもその方がいいのかな……」


 堀瓜さんは腕を組んだまま少しだけ申し訳なさそうな顔をしてこう言った。


「この時代になって、アプリゲームが主流の時代だったあの時代はなくなって……、今はVRMMOの時代だ。でもそのVRMMOが原因で病気が増えている時代になったもんな……。巷では、そう言ったVRMMO関連の病気を蔓延させたのは……、RCが原因って言っている人も多かったなー……」


 僕はその話を聞いて、思い出したことがあった。


 それは、今では主流となっているVRMMO。


 だがそのVRMMOのやりすぎで、多くの病気が発症した。発症と言うより、依存性が病気化したといった方がいいのかな……? 僕にもよくわからないけど……。


「『メモリ・バンク症候群』や、『ロスト・ペイン』、昔ではそのVRMMOに依存し過ぎて、『混沌病』や『電脳浮遊症候群』も多かったですものね」


 ……蛇崩さんが電脳関係のことを話しているっ!?


 大変失礼ながら僕は内心驚きを隠せなかった。


 しかしそれを聞いていた堀瓜さんは――


「そうなんだよねー。ってか、。俺その二人の空気に付き合いきれなくて、我慢していたんだけど結局やめさせられちゃったんだ。……。心残りだったんだー」


「「ん?」」


 今この人、なんて言った? え? 精神の基盤? え? てか、この人……、もしかして……。


「それで、俺が話せることはあまりないんだけど……、役に立てるならお願いしてもいいかな?」

「何でしょうか?」


 そう蛇崩さんが聞くと、堀瓜さんは僕等に笑みを浮かべて、あまり深く考えていないかのようなそんな顔で笑いながら――彼はこう言った。


「だからさ……、報酬っていうかお金は今無職でないんだけど……、事件のこと追ってんだろ? だったらもうあのデータ使わないと思うから、RCに行って『堀瓜の研究室に用がある』って言ったら、多分入れてくれると思うから、そこに行って――」


 堀瓜さんはテーブルに紙とペンを出して、そのままゴリゴリと書きながら僕達にそれを手渡して、透明なカードも一緒に渡してくれた堀内さんは……、あははっと何も考えていないような顔で、こう言った。


「このデータの削除をしてもらえないかな? もう俺あそこで働けないし、特に俺いらないから……、よかったら有効利用してよ。あ、これ俺の研究室のキーカード。俺が行けばいい話なんだけど……、なぜか会社側から『ここから出るな』って言われているんだよ……。でもなんとなく有意義だからなんも苦はないんだけど。よろしく頼むよー」


 なんら支障はないと思うし。


 堀瓜さんは特に考えていないようにそう言った。


 僕等にとってすれば……、極上コースの喉から出るような高級食材を、無償でくれると言っているかのような、そんな絶好の機会を与えてくれたことと知らずに……。


 それを手にして、僕等はその人のもとを後にして……。


「久郷よ……」

「はい……」


 僕らは初めての……、ハイタッチをして喜びを分かち合い――そして……。



「――早速潜入作戦決行だっ!」

「――はいぃ!」



 僕等は颯爽と、全速力で事務所に戻り、自称『RC潜入大作戦』を決行することにした。


 その日のうちに実行とか……、どこぞの名探偵なんだと思う人もいるだろう……、しかし僕らはこの時、それくらい興奮して、それくらい大喜びしていた。


 それくらい……希望を持っていた。


 堀瓜さんが手渡されていたそれが――玉手箱でなければ宝箱ではない……パンドラの箱だったことも知らずに……。


 そのことのあらましを聞いた元老院さんは頬に手を当てて、ふぅんっと頷いて……。


「なんか胡散臭くなーい? と言うかなんでそんな大事なものをパソコンにしまったまま出て行くのよ」と言うと、蛇崩さんは僕の体を触りながら――


「なんでもねー。突然だったらしいよー。突然クビを言い渡されて、あろうことか荷物まとめられてはい退場だったらしくてねー。そんな情報を消す暇がなかったらしいんだよ」

「それでもおかしいじゃない。会社の極秘、あろうことかVRMMOの基盤となったそれをみすみす放っておく? 私だったらそんなことしないっ! だって危ないじゃない。流用されたりしたら……」

「この久郷でさえも破れなかったセキュリティの壁。そうそうハッカーに襲われることはない。だがいま私たちの手には……」

「マスターキーと……、その敵陣に潜入するスパイがいるって言いたいのね?」

「イエス」


 この二人。僕のこと無視してんな。


 蛇崩さんは僕の服装を見て、「よし!」と言って僕の肩を叩いた後……、蛇崩さんは僕を見てこう言った。


「それじゃ――関係者役よろしく!」

「あらぁ、様になってるぅっ!」


 そう、僕はその関係者として依頼されたスーツに身を包んで、僕単体で……、僕一人でそのRCの内部に潜入することになった。


 なんとも突拍子もない展開だ。でもこんな絶好の機会……逃すわけにはいかない。


 現在僕の姿は……、とあるデータ消去委員に扮装した白いスーツに黒メガネ。


 データ消去委員とは、この時代では何ら不思議ではない職業で、よくパスワードが分からない。データを消去する方法がわからない。そんなときに出るのはデータ消去委員。


 データを消去するだけで金が手に入るんだから、これは楽な仕事でもあった。


 ゆえに僕はそのデータ消去委員としてRCに潜入し、堀内さんのデータを消去するのではなく、そのデータをもっていく。これが一通りの流れだ。


 だけど……。


「それで、僕は一体どうすれば……」


 そう聞くと、え? ――と首を傾げて、蛇崩さんはこう言った。


「あー……データ消去委員っていえばいいんじゃねえの? マスターキーを見せれば入れてくれるって言っていたし……」

「それはそうですけど……。ほら、もっとこう……、具体的な」

「でも頼まれたのは情報の削除じゃんか。相手も出られないって言っているんだし。そこは『自分は堀瓜さんから頼まれてきました』て言えばいいんだって」

「……それこそなんだか不安な気が……」


 あれ? と、僕は思ってしまった。


 なんだか急に有頂天になっていたテンションがダダ下がりになってくるような……。そもそもおかしいではないかと突っ込みを入れればよかったんだ。


 あの堀瓜さんは突然クビを言い渡され、そのまま強行されるかのように仮設住宅の軟禁……? を強いられている。しかも外に出てはいけない。うん。かなり不安になるようなワードが結構な頻度で出ていたね。


 前日からの疲れ、そして急に出てきた情報入手。


 それを聞いてしまった僕と蛇崩さんは、あまり深く考えずに行動してしまったのだ。


 なんでも屋ではあるが、僕等は探偵ではない。だが聞けばよかったのでは……?


 あぁ、さっきまで有頂天でバカ騒ぎしていた過去の僕を殴りとばしたい……っ! 今の僕ならすぐに聞くぞ。そんなこと……っ!


 それを聞いた蛇崩さんも、あまりに嬉しくて忘れていたのか、それとも疲れていたことに関して後悔しているのかわからないけど……。僕の話を聞いた蛇崩さんはすっと立ち上がりながら「わかったよ」と言って……、元老院さんを見た蛇崩さんは――


「ごめん、お店夜だよね……。夜になるまでちょっとここでする番しててくれない?」


 と、蛇崩さんは元老院さんに申し訳なさそうに頼んだ。


 それを聞いた元老院さんはぐっと親指を立ててサムズアップしてからウィンクをして……、うぇ。元老院さんはこう言った。


「任せてっ! 夜までには戻りなさいよ! 二人とも! ここは私が守ってあげるからっ!」


 それを聞いた蛇崩さんは頷いて、そして僕の肩を叩きながらこう言った。


「私はこのまま堀瓜さんのところに行く。お前は一人でなんとかしておけ。お前ならできる。そうでしょ?」

「蛇崩さん……」


 僕は蛇崩さんを見て、そして言った。



「――それ丸投げですよね? 僕を独り危険なところにほっぽって、自分だけ楽な方に向かおうとしていますよね?」



 蛇崩さんはその言葉を聞いて、笑みを浮かべたまま固まったと思ったら、すぐにその場を後にして――ドアを開けて……。


「――任せた!」と言って、ばんっと乱暴に扉を閉めた蛇崩さん……。


 僕はその光景を見て思った……。


 ――帰ったら嘘でもついて僕だけ情報を独り占めしようかな……? と……。



 ●     ●



 それから……、僕は當間市にある大手医療機関……。當間市を作った偉大な人の会社……。


 RCの前に来ていた。


 周りには社員がぞろぞろと入ったり出たりを繰り返して、その社員の多さが会社の運営の良さを物語っていた。上を見上げて、その壮大感に、僕は圧巻されてしまう。


 縦に伸びている楕円形のガラス張りの建物。左右には翼のように大きく湾曲になったオブジェ。それを取り囲むようにアクリルガラスでできた防犯ガラスがまるでドームのように会社を覆って、周りには海。


 見た限りすごい美しい風景でだけど、よくよく見ればここに泥棒に入ろうなんて言う発想が浮かばないような……、強固にして美しいつくりの建物だ。


 これ作ったの確か……橘仁慈っていう、建設業に大きく貢献していた人だったはず……。今は故人だけど……。


「やっべ……、手汗やべぇ……」


 僕は自分の手がべっとりしていることに気が付いた。それくらいRCを生で見るのが初めてで、そしてその自分が今しようとする事の重大さが相まって……、僕は今、緊張しまくっていた。


 僕は今……。ここに入って、そして情報を入手する。一人で。僕だけで……。


 手汗の方は持っていたハンカチで拭くとして、僕はそんな偉大な任務を背負い、必ず完遂するという意思をもって、一歩、前に歩き出す。


 そしてRCのメインホール、つまりは受付があるところ。そこもまたガラス張りにしたおかげでその外の明るさが社内の明るさとなっている。いくつか観葉植物が置かれて、その周りにはスポットライト。今はついていないけど……。それでもその場所をみて写真にでも収めようかなー。そんな風に思ってしまうくらい僕は興奮したけど、今は仕事と思って、受付にいる女性に僕は声をかけた。


「あの……、少々よろしいでしょうか?」

「はい」


 僕は堀瓜さんのキーカードを見せる。それを見た受付さんは「あら?」と首をかしげた。それを見て僕はサングラス越しにこう言う。急ごしらえだけど何枚か作った名刺 (偽)を見せて。


「実はですね……、堀瓜さんと言うお方からデータ消去の依頼を頼まれました。私……、データ消去委員の古市ふるいちと申します」


 古市と言うのは僕が勝手につけた名前で、事実上はいない。


 受付の人は僕を見てこう聞く。


「データ消去ですが……、確かに堀瓜さんは先日お辞めになられたと聞いておりますが……」

「その件で、実はパソコンのデータを消さないで出ていったことを思い出したそうで」

「あー……、うーん……。確かに、堀瓜さんは仕事はすごくできるのですが、少々抜けているところがありますからね……」


 やっぱり。なんとなくだけど僕は察した。あの人は事の重大さを飲み込んでいない。きっとノリでここまでこれたんだ。才能だけでここまでこれたんだ。


 そう思うと、自分の不甲斐ない半生と比べて、僕は内心その人の間抜けた笑顔に政権をぶち込みたい気持ちになった。


「わかりました」


 と、受付の人はにこっと微笑んで僕を見た後……。



「それではみますので」と言った。



 ん? んん? ん! ちょっとっ!


 僕は焦った。それは焦るだろう。なにせ、こんな時期に、あんなことがあった後でデータ消去委員が現れる。当然社長はこう思うだろう。


 データ消去委員に扮したハッカーではないのか? と、事実、最近だけど……。


 データ消去委員がとある大手企業のデータを拡散させた事件があった。あれはただのいたずらでやったと証言しているけど……、とりあえず僕の素性が明かされるのはごめんだっ! 一応こっちは前科持ちのハッカー (僕のことを知りたい人はREALPARTⅠを見てねっ! って宣伝している場合じゃねーっ!) で警察に通報されれば僕の人生はおじゃんっ! そして計画もおじゃんの振り出し戻りっ!


「あ、いや、本人にカードを見せれば入れると聞いていたのですが……っ!?」


 僕は何とか堀瓜さんに言われたことを受付さんに言った。


 いよっし! 我ながらいい流れ! と、自分で自画自賛をした結果……。


「ですが……。データ消去に関しましてですね……。弊社のことを疑っているのではありませんが……、その、社長にお話をして付き添いをするように徹底しているんです。しかもデータを消去し終えたら社員がその確認をするという」

「あ、そうなんですか……」


 受付のお方が申し訳なさそうに言った言葉を聞いて、僕はそう言葉を返した。まぁ当然の結果であり……。


 当然危険は付きまとう結果になった。


「繋げますので、そちらでおかけになって待っててください。お飲み物をご用意いたしますが」

「あ、じゃぁブラックコーヒーで」

「はい」


 そう言われた僕は、近くの応接椅子に腰かけ、入れたてコーヒーを飲みながら待つこと一分後……。


 かつんっと高級そうな靴の音を立ててきたのは……。一人の壮年の男性だった。


 顔は角ばっていて、だが筋肉はあまりない。黒いスーツに黒いワイシャツ、黒い革靴といったオールブラックファッション。皮と骨だけの、少しやせているのでは? と思うような顔で髪はオールバックの少しぼさぼさした黒い髪。耳には今巷で人気に耳にかけるスマホ――『フォークマフォン』をつけている、ダンディでありミステリアスさが見える少し背が高い男性だった。


 その人を見た僕は立ち上がって「初めまして」と手を伸ばす。それを見た男は僕を見て、にこっとミステリアスさを見せるように微笑んで――すっと手を伸ばして……。


「初めまして。私は閏利うるうとしです。よろしく」

「あ、はい……」


 ぎゅっと握って、両手で僕の手を包み込むように握ってきた男性――閏利さん。


 僕はそんなミステリアスさに驚きながら、というか魅入られそうになりながら頷いた。


 それを見て、閏利さんはにこっとまた微笑んで――僕を堀瓜さんの仕事場に案内した。


 堀瓜さんの仕事場は、何と地下でやっていたらしく、地下と言われてもそんなに暗くない。


 むしろ明るくて、近未来のような明るさを保っている場所だった。


 僕は閏利さんの背中を見ながら、ただただついていくだけだった。その間、閏利さんは何も話さない。あまり話さない人なのかな? そう思っていると……。


「ここが堀瓜くんの仕事場です」と言って、とあるドアを手差しした閏利さん。


 閏利さんはそのドアの鍵を開けて中に入ると……、僕はその仕事場を見て、おっと声を漏らしてしまった。


「どうしましたか?」と閏利さんが 僕を見てにこっとミステリアスに微笑むと、僕は首を横に振って「ななんでもないですっ!」と慌てて言った。


 そう。堀内さんの仕事場は、あまりにも整理整頓されてい場所だったのだ。机も研究する机も、何もかもがきれいになっていたのだ。そういえばあの人の家も、かなり整理整頓されていたな……、埃一つもなかったし……。ああ見えて整理整頓が好きなのかな……。


 あの蛇崩さんとは大違いだ。


「こちらが彼のノートPCです」


 閏利さんは僕の肩を叩きながら机に置かれた緑色のノートパソコンを指さした。僕はそれを見て頭を下げてお礼を言った後、僕はさっそくノートパソコンの電源を入れて、閏利さんが目を離した隙にディスク挿入口に空のディスクを挿入した。


 これでコピーした後で消せば……、何とかなるだろう。しかし万が一を思って持ってきていたものが役に立ってよかった……。


 そう思いながら僕はパソコンを操作しながらデータ消去を開始した。


 あの人の優しさを汲み取って……、そして警察庁の依頼を完遂するために……っ!


「そういえば」

「!」


 突然だった。


 閏利さんは僕の背後で、僕が捜査しているパソコンを見ないで、僕の背中をじっと見るように、その人はこう聞いてきた。さっきまでの無口なそれが嘘のように、雄弁にこう聞いてきた。


「その年齢でデータ消去委員になったんですか? 古市さんは」

「え? あ、まぁ」

「でしたら相当プログラムに関しての知識はあるのですか? 私とは大違いの才能を持っているのですね」

「えぇ……、でも僕的には社長とかそういった貢献できる職業の才能を持ちたかったですよ」

「いえいえ。プログラム関連は今の時代なら大いに貢献できるでしょうね」


 そう言いながら、閏利さんは僕の肩に、ぬるりと――手を置いて……、そして舌を舐めるような音色でこう聞いてきた……。


「君……今いくつなんだい?」


「え……」


 僕は一瞬、指を止めてしまった。今コピーをしている最中だけど、それを外のサイトで隠すようにしているので、カモフラージュは完璧だけど……、僕は身震いをした。


 突然背後から肩に手を乗せられて……、あろうことかこの状況でこれだ……。心臓がバクバク言っている。あぁ……、この状況見たことがあるぞ……。これはきっと……。


 殺人か謎の交渉。


「えっと……、に、二十……六歳……、ですね」僕は平静を装って言うと、閏利さんはその言葉を聞いて「へぇ……若いねぇ」と言って――


「でも、知っているかい? 人間は有限の命で生きている。次第にその知識は衰え、そして消えていく……。いやだとは思わないかい? そんな風に命が消えていくのが……。もっともっと生きたいと願ったことはないかい?」

「あー、まぁ……、昔はそう思いましたね……。永遠の命さえあれば、永遠に生きられるって。それで不老不死ならば尚更って」

「そうだよ……、永遠の命は人間が願った夢の中でも、至高にして最も叶うことができない夢」


 そう言いながら、閏利さんは僕から離れて、僕の顔を見て僕に言い聞かせるようにしてこう聞いてきた。


「でも、……、君はどんなことをしたいんだい?」


「は?」


 何を言っているんだこの人は、思わずそんな声が出そうな勢いだったけど、僕はぐっと言葉を飲み込んで、閏利さんに聞いた。


「何言ってるんですか……、そんなことできるわけないでしょうが……」


「いいやできるよ」と言って、閏利さんはすっと、堀瓜さんのパソコンを指さして、にっとミステリアスだけど、どこか恐怖さえしそうな笑みで、彼はこう言った。


「そのパソコンのデータの中にね……、その過程が書かれた資料が残っているんだ。肉体と精神を切り離した時、その精神をデータ化してコピーする。、とある機械で肉体と精神を一回切り離した後で、精神のデータをコピーした後で、そのあと別の体に植え付ける。これが――永遠の命の過程。いうなれば……」 




 魂のコピーだね。




 そう閏利さんは言った。それを聞いた僕は引きつった笑みで――「いやないでしょ」と、少し場違いながらも笑みを零してこう言う。っていうか、僕がしていることがばれているのなら……、先にどうやってこの状況を打破するか……そっちを考える方がいいだろうな……。でも先に言いたいことだけ。


「そうなると、例えば僕の肉体と精神を一回切り離した後、そのあとでほかの別の人間にそれを受け付けるとなると……、人権侵害で告訴されますよ。それに……、そんなことできっこない」

「あぁそうだな。しかしね、私は現実世界でそうするとは一言も言っていないよ? 私が言いたいことは……、。いうなれば……、と言っているんだよ」

「はぁ?」


 一体、何を言っているんだ……? この人は……。


 魂のコピーに仮想世界でコンピューターにその魂のコピーを植え付ける? 一体何を言っているんだこの人は。そう思った僕の考えを読み取ったかのように……、閏利さんはにっとミステリアスに微笑みながらこう言った。


「事実……當間理事長は己の魂のコピーをしている。そしてそれは成功している。現に今まで映像越しで出会った理事長は……偽物だ。本物はどこにいるのかわからない」

「………もうオカルトですね」

「ああ。オカルトで神秘でもあり世紀の第一歩だ」


 そう言って、閏利さんはすっと指をさしてこう言った。笑みを浮かべてこう言ったのだ。


?」

「っ!」


 僕は後ろを振り向くと、そこに出ていたのは削除できましたと言う通知。それを見て、僕はパソコンに目を通しながら、ちらりと閏利さんを見た。閏利さんはにっと微笑みながら「さっきの話は本当です」と言って……。


「今は仮想世界の人間にその魂のコピーを植え付けるという段階で止まっていますが……、最終目標は――」



 



 それが最終目標です。



 そのあと、僕はコピーしたそのデータを持ち帰り、RCを後にして……、事務所に戻らないで自室で焼き付けたデータを見ていた。


 これが今日あった濃密な出来事。


 薄暗い部屋で見て、そこに書かれていたことを見て、聞いて――


 僕は……、頭が混乱していた。


 魂のコピーはすでに何年も前から行われていて……、あろうことか、データ上ではすでに十二人の人魂……、つまりは精神データがそのNPCに埋め込まれているらしい。生身の人間はどうなっているのかわからないけど……、それでもこんな異常な研究をしているRCは、一体何が目的なんだろうか……。


 そしてこの研究の支柱となっている……、というか、きっと被害者の一人なのだろう……、その子のことも書かれていた。その子は今でもカウンセリングを行っていたらしく……、蛇崩さんと話し合ってその子の主治医に会おうと思う。何か情報が掴めるかはわからないけど……。それでも、魂のコピーの件も踏まえて……、突き止めないといけない。


 その子の名前は……。


 姫乃華と言う名前の十七歳。


 この名前は旧姓で、今は……。




 橋本華。






 ●     ●



 これを機に、僕等は大きな渦に巻き込まれていく……。


 その渦はRCの闇であり、それが入り混じった他の闇でもあり、僕等はその渦に巻き込まれながら真相に向かって着々と進んでいた。


 進んでいくと同時に見つかる事実と異常な研究の片鱗。


 そして橋本華。


 この子が一体どんな役割を担っているのか……。


 それは僕にはわからない。だからこそ、明日蛇崩さんに話そうと思った。


 けど……、その次の日……。








 堀瓜さんが失踪した。

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