PLAY51 対面と再会と脱出 ⑤
「てか、どうなってんだよこれ……っ!」
キョウヤさんは私達が今いる光景を見て、驚きながら槍を構えている。
そんなキョウヤさんに対してシェーラちゃんはむすっとした顔のまま二本の剣を鞘から引き抜いて、その剣先をオグトに向ける。
なんだか怒りの音色を出しながら――
「そんなのどうでもいいわ。今はあそこにいるわけのわからないモンスターをぶっ倒すわよ。すぐにぶっ倒して体洗って、ここから出たいの。いい? 時間かけないで狩るわよ」
「狩るとか言うな。ここは倒すでいいだろうが。って言いたいけど……、気持ちはわかる。けどそこで感情を表に出すな」
「うっさい。くさい」
「それはお前もオレもアキもだ。アキもドウドウ。ハンナが襲われそうになったからってそんな狼みたいな顔すんな」
………何だろう。さっきまで私達だけだったけど、アキにぃとキョウヤさん、そしてシェーラちゃんが来たことで一気にこの場が和んだ。そんな気がする。
ピリピリとしていたその空間が落ち着きを取り戻したかのような空気。
それを感じた私は、ほっと胸を撫で下ろしながらその光景を見る。
するとアキにぃは私に向かって――
「ハンナ大丈夫っ!? 何か変なことされていないっ!?」
と、慌てた様子で、冷静にライフル銃を構えながら聞いてきたアキにぃ。
それを聞いていたキョウヤさんは呆れた顔だけど、その目には真剣さが含まれているそれでアキにぃを見降ろしながら小さくこう呟く。
「お前はいつでも通常運転だな」
それを聞いた私は、ここに来てから全然傷ついていないことをアキにぃに言おうとして声を上げる。
「あ、アキにぃ……大丈」と言った瞬間――
オグトは手の出血を押さえながらぎろりとアキにぃ達の方を見て、苛立ちをアキに達に向けて私の言葉を遮りながらこう言った。
「お前らはあああああっ! アルテットミアでオデを虚仮にした蜥蜴と耳長ぃっ!」
「「!」」
オグトのその地獄から這い出るようなその声を聞いたアキにぃとキョウヤさんは、オグトに視線を移しながら……。
「っち。顎を狙っていたはずが……、結構逸れたな……。というか手に穴を開けただけか……しぶとい。っていうかさっさと逃げろって」
「んなこと言っても、素直に『はいわかりました』って感じで逃げるような奴じゃねえだろうが……。こいつは」
と言いながらオグトを見て言う。
アキにぃに至っては嫌な記憶と言うか、会いたくないという気持ちが顔に出ており、アキにぃは無表情の顔でオグトを見た。
と言うか獲物と認識して銃口をオグトの眉間に向けている。
それを見ていたキョウヤさんは、アキにぃを横目で見ながらオグトを見ると……。
シェーラちゃんはそんなオグトを見ながらキョウヤさんを見上げて――
「知り合いなの? この見たこともないモンスターのこと」と聞いてきた。
剣先を指に見立てて指しながらそれを聞いていたキョウヤさんは、突然聞かれたことで少し驚きながら「あ、ああ……」と言って、キョウヤさんはオグトを見ながら武器の警戒を解かないでシェーラちゃんに簡単に説明をした。
「こいつは確かえっと……。『六芒星』が・一角――
「おーが? 聞いたことがないけど、確か孤児院の友達がそんなファンタジーのキャラクターのことを言っていたわね。人を食べてしまう鬼って。あとゴブリンの親戚とか何とか、言っていたような言ってなかったような……。と言うか『六芒星』って、ガザドラと同じだった集団のこと? なんでそんな一角がこんなところに?」
「そうだな……。まぁ前半の言葉が正しいと認識してくれ。そしてその疑問はオレも知りたいと思っていたよ。更に言うと……」
キョウヤさんは槍を構える手に力を入れると、オグトをギッと睨みつけながら続けてこう言う。
「こいつに近付くことはオススメしないぜ」と言った。
それを聞いたシェーラちゃんは辺りを見回して何かを察知したのか――キョウヤさんの言葉に頷いて「わかった」と言って再度剣を構える。
その光景を見ながら私はふと、視界の端に入った虎次郎さんに目が行ってしまった。
虎次郎さんはアキにぃ達の登場と同時に言葉と行動を止めて、そのまま三人をじっと穴が開くくらい凝視していた。頭のてっぺんから足のつま先まで、じっと――何回も上下を往復する。
それを見ていた私は、首を傾げながらどうしたんだろうと思って、虎次郎さんに向かって声を放とうとした瞬間……。
「お前等ぁ……、なんでここにぃ……っ!」
オグトはがくがく震える体に鞭を打ち付けるように。震えながら立ち上がってアキにぃ達を見る。
その言葉を聞いていたアキにぃは「ああ、それね」と頷きながら――ちらりと後ろの、私達が入ってきたところを見ると、アキにぃはその場所を親指で指をさしながら、オグトから目を離さないで――
「目的はたった一つ。ハンナとヘルナイトを探しにここまで来ただけ。俺達が落ちてきた場所に、異様な黒い斑点みたいなシミが地面にこびりついてて、それは道になって続いていたんだ。それを辿ってここまで来たんだよ。いい目印になってくれて本当に助かった」
と言った瞬間、私ははっとして肩に乗っているナヴィちゃんを見る。
ナヴィちゃんは目を点にして、驚きながら「きゅ? きゅ? きぇ?」ときょろきょろと辺りを見回しながら慌てだしたけど、すぐに私の方を見上げて、私を見上げたまま「きゅぅ!?」と、驚きの声を上げた。
その言葉と表情から察すると……、ナヴィちゃん自身も気付かなかったらしい。
でも、私は気付いた。あの時、ナヴィちゃんはドロドロの下水に浸かって、体中ドロドロまみれだった。今のアキにぃ達と同じように。どろどろだった。
ぴょんこぴょんこ跳ねるたびに、地面にその泥がついて、後を作っていた。
それが今――ここでアキにぃ達の道案内となって役に立つとは、誰も思わなかっただろう。
そう思いながら私はくすっと微笑みかけながら――
「ありがとう――ナヴィちゃん」とお礼を述べる。
それを聞いたナヴィちゃんは、「きゃぁ……」と驚いた声と共に、嬉しそうな声を上げながら、ナヴィちゃんはつぶらな瞳をにっこりと微笑むそれに変えて「きゅぅっ!」と、嬉しそうな顔をして鳴いた。
そんな話をしていると――
「と言うか、ガザドラとこの鬼デブは知り合いだったのね。なんで言わなかったのかしら?」
と、シェーラちゃんは今の話を聞きながら首を傾げていた。
それを聞いて私もシェーラちゃん達の方を見て、遠くでジュウゴさんが「鬼デブって……、どストレートのあだ名だねぇ……。あの子のネーミングセンス」と、冷や汗をかきながらジュウゴさんは言う。
頬を指で掻きながら言っていると、それを聞いたオグトは「うううぐううううっっ!」と唸り声を上げながら斬られた腹部と撃たれた手の止血をして、彼はアキにぃ達や私達の方を見て――血走った目をしながらこう言ってきたのだ。
「どいつもこいつも……、オデの邪魔ばかりしやがって……っ! せっかくの復讐もぱぁだ……っ!」
「……復讐?」
アキにぃはその言葉を聞いてぴくりと眉を動かしてから、オグトを見て彼の言葉に耳を傾ける。聞かなくてもいいと判断しての行動だったのだろう……。
なぜなら――オグトは今、頭に血が上っているらしく、ぶつぶつと呟きながら、思い通りに行かないこの状況に嫌気がさしてしまったのか、思ったことが口から出てしまっていたのだ。
ぶつぶつと――呟きながら、オグトは言う。
「オデをこんな風にした魔王族と、天族の女に復讐するために……、いろんなことを考えてきた……っ! 蜥蜴のあいつもあいつだ……っ! オデのことを『傍若無人』とか言って、オデのことを馬鹿にしやがって……っ! 部下なんてただの食料だ……。オデの大事な食料だ……。それをどんなふうに使ってもいいだろうに、あいつはそれを『外道』とか言って、オデのことを馬鹿にしやがった……っ! あいつ、会ったら速攻で喰ってやる。ザッドのことも気に食わない。どいつもこいつもオデのことを見下しやがる……っ! くそっ! 魔王族の男を閉じ込めても結局無駄……、天族の女も、偶然いた死霊族の女を目の前で喰って、聖霊族の魂を使って攻撃したところまではよかったんだ。オデは勝ちを確信していた。だから――精神的に壊してから後でじっくりと食おうと思って、今までずっと試行錯誤してきたのに……、これでは台無しだ……っ! どいつもこいつも、オデに味方しない……、くそ……くそっ!」
オグトはぶつぶつと、視点が定まっていない目で呟きながら自分の世界に入ってしまう。
私達の言葉度忘れているかのように、オグトはそのままぶつぶつと呟きながら、自分の恨みを、妬みを、相手に対する嫌悪感を口からべらべらと吐き出していく……。
口から零れだすもしゃもしゃを見ても、私とヘルナイトさんに対する憎悪と怨恨が異常なくらいの多さで、この迷宮の下水よりも濃くて、どろどろとしているそれを口からつぶやきと共に吐き出していく……。
べちゃ。べちゃっと……。口からこぼれたそれを地面に落としていくオグト。
私にしか見えないからこそ、この状況を見た私は、口に手を当てながら「う」と唸ってしまう。
その話を聞いていたアキにぃ達は、そのオグトの言葉を聞きながら、ここで起きたことを大体理解したようで……。
「……聖霊族と、ネクロマンサーを」
「食って、殺したってのか?」
シェーラちゃん、キョウヤさん、アキにぃはオグトを見て、表情を青くさせながら周りを見て、ヘルナイトさんの方を見て、違うだろうと思いながらその答えを待っている三人。私はそっとヘルナイトさんの方を見て、心配そうに見つめていると、ヘルナイトさんは――少し黙った後……。
ゆっくりと、首を縦に振った……。瞬間だった。
――ぱぁんっっ! と、下水道の空間内に響く銃撃音。と同時に、立ち上がったオグトの頬を抉る様に『しゅっ!』と掠めたそれは、オグトを通り過ぎて『ガッ!』と、彼の背後にある柱に当たる。
「うおっ!」
ジュウゴさんはその光景を目で追いながら見て、その精密さに驚きながら当たった個所を見上げる。
私もその場所を見上げてみると、柱に当たったところに小さな穴が開いてて、その柱にめり込むように銃弾が突き刺さっていた。そしてそのあと、その銃弾を放った方向を目にした瞬間、やっぱりと思ったと同時に、ぎょっとその光景を見て、目を疑いながらも疑念を抱いた。
それを見ていたキョウヤさんとシェーラちゃんは、自分の近くにいるアキにぃを横目で見て、そして青ざめながら見下ろしている。ヘルナイトさんもその光景を見て、普通ではないと思ったのだろう。「む?」と声を出しながらアキにぃを見て驚きを隠せないでいる。
初めて見ている虎次郎さんも、まじまじと見ながら固まってしまい、ジュウゴさんに至っては、冷や汗を流しながら「あらまー」と言って、頬を指の先で掻きながら……。
「もしかして――爆弾だったかな……?」と、小さな声で何かよくわからないことを言っていた。
なぜそんなことを言ったのかはわからないけど、私はアキにぃを見ながら、アキにぃから漏れ出す赤くて轟々と燃えるようなもしゃもしゃを感じながら、獣のように「ふーっ! ふーっ!」と荒い息を吐いているアキにぃを見て――
「あ、アキにぃ……?」と、恐る恐ると声をかけると、アキにぃは……。
「お前……、妹に何したんだ……?」
黒い音色で、ごごごっと吹き上がる赤いもしゃもしゃに、黒いもしゃもしゃまでもが吹き上がってきて、もう大噴火のようなもしゃもしゃを出しながら、アキにぃは目の前で驚いた目をして、頬を掠めて、そこから血を流しているオグトに向かって――低く、そして冷たいような音色でこう言った。
ううん……、多分これは――宣告みたいな言葉を吐いた……。のほうがいいかな……?
「妹を傷つけるようなことをしたんだな……? それって、いじめたってことで、いいんだな……」
「う、ぐぅ……っ!? 何を言って」
「『精神的に壊して』? 『後でじっくり食おう』って……、それってまさか……、お前……っ! 妹に何かしてからじっくり甚振って殺そうとしたのかっ!? それともお前が前にした食事的なあれかぁっ!?」
とうとうアキにぃはブチ切れたような声を上げて、ジャキリと銃口をオグトの心臓に位置に向ける。
その目を見た瞬間、私はアキにぃの本気を察知した。みんな察知しただろう。
それを見ていたジュウゴさんは、少し及び腰になりながらもアキにぃに向かって少し声を張り上げながら――
「お、おーい……。そんなに突っかからなくてもいいんじゃねえの? ここにいるお姫さんもほら、無傷で無事」
「おい……、そこにいる藪医者……!」
「え? ヤブって、俺のこと?」
アキにぃの言葉にぐさりと来てしまったのか、ジュウゴさんは青ざめながらひくりと頬を引きつらせる。
そんなジュウゴさんを横目で睨みつけていたアキにぃは低い声で、なぜか怨念がこもっているような音色で……、ジュウゴさんを見てこう言いだしたのだ。
「お前……、今妹のことを『姫』って言ったな……? どういうことだ? 後でじっくりと話を聞いてやる……っ! だから待っていろよ……っ!」
「え、え、ええええ?」
まるで飛び火が移ったかのような光景。それを受けてしまったジュウゴさんは、青ざめながらアキにぃのその言葉を聞いて愕然としてしまう。
その光景を見ていたキョウヤさんは心底呆れた顔をして――
「おまえ……、こんなシリアスな場面でも、そのシスコンだけはブレねえんだな。それを優先にして動くんだな。お前は……。あと初対面の人に第一印象最悪を植え付けるな。あとでめんどくさいことになる」
と、小さく言う。
それを聞いていたシェーラちゃんは呆れて頷きながら――
「まぁいいわ。こっちもこっちで嫌な思いをしていたんだもの。こいつを殺すなんてことは一ミリも考えていないけど、むかつくやつってことはわかったわ」
と言って、シェーラちゃんは二本の剣を握る力を強めながらシェーラちゃんは胸を張るように息を吐いてから凛々しい声で言う。オグトを睨みつけながら……、シェーラちゃんは言う。
「――待たせているから、速攻で終わらせる」
と言って、シェーラちゃんは即座にすっと目を閉じる。その光景を見ていたオグトは、苛立ちを露にしながらぎりぎりと歯を食いしばりながら、バキンッと、口の中にあった何かを割る音が聞こえたと同時に……、オグトはアキにぃ達に標的を変えて――
「オデに勝つ気なのか――魚もどきめ! オデに勝つなんて言う言葉自体無謀だ! なぜならオデは人食鬼のオグト! オデは――」
腹部と手の怪我をしているオグトは、そのままぐっと足に力を込めてからシェーラちゃんに向かって、どんっと言う音が出るような、地面が割れて抉れるような走り込みをして……、オグトはその大きな口をぐぱりと開けて――
「すべての種族を喰らう鬼だぁ!」
シェーラちゃんを喰う勢いで駆け出していく!
それを見た私は、すぐさま手をかざして、シェーラちゃんを守るようにそのままスキルを放つ。
「! 『
と言った瞬間だった。
ざっ! と、目を閉じているシェーラちゃんも前に誰かが立ち塞がった。
それはアキにぃでもキョウヤさんでもない。ヘルナイトさんでもない。私でもない。ジュウゴさんでもない。
誰でもない――と言うわけではない。この中にいるのはオグトを入れて八人。今あげたのは六人で、まだ名前を言っていないのは一人。その一人とは……。
「「「「「っ!?」」」」」
誰もが、私も、その人物の行動を見て、驚きを隠せなかった。
アキにぃやキョウヤさんに至っては特に驚いてて、その人の姿を初めて見たと思う。
そう――シェーラちゃんの前に立ったのは……、虎次郎さんだ。
しかも刀から手を離して、盾を持ちながらオグトの攻撃を防ごうとしていたのだ。この行動を見ていた私は、驚きながら小さく虎次郎さんの名前を呼んで、スキルの発動を一瞬忘れてしまう。
虎次郎さんはそのまま盾を構えたままシェーラちゃんの前に立って、オグトのその攻撃を見ながら……。
「――『ふろんとがーど』っ!」と言って、その攻撃を盾で受け止めてしまう。
どぉんっという鈍い音と金属音が同時に鳴り響いたかのように聞こえる。そしてぶわりと来た風圧。その衝撃が風圧となって襲い掛かってきたのだろう。私はそれをジュウゴさんの近くで受けながら、「わ」と言う声を出してスカートと帽子を押さえながらその風に耐え……。
って、いたいいたい……っ! ナヴィちゃん飛ばされないようにしているけど、私の髪の毛を何回も噛まないで……、抜けちゃう……っ!
そう思いながら私はナヴィちゃんを抱えようと手を伸ばす。そしてナヴィちゃんを腕の中で抱えて守っていると、風がどんどん治まって、すぐに無風の世界になる。
そのまま私は虎次郎さんとオグトの方を見ると、二人は拮抗を保ったままぎりぎりという研磨音を出しながらオグトは虎次郎さんの縦に噛みつきながら前に進もうと足を動かして、虎次郎さんはその進行を阻止する様にして盾を両手でしっかりと持ちながら、オグトを押しだそうとしている。
アキにぃとキョウヤさんは、その姿を見て驚きを隠せないでいると、シェーラちゃんはその異変に気付いて、そっと目を開けて、虎次郎さんの背中を見た瞬間――
幽霊でも見たかのような驚いた目をして、虎次郎さんの背中を見ていた。
誰もが虎次郎さんの行動を見て驚いている。誰もが一瞬のその姿を見て驚いている。でも、時間が止まったわけじゃない。動いている。だから今もな攻防戦が繰り広げられているんだ。
そのまま刀を引き抜けば、すぐに攻撃できると思っていた私は、虎次郎さんの行動を見て首を傾げていた。でもすぐに、その拮抗が崩れかけていることに気付く。
ずりっと、踏ん張っている足から音が聞こえたのだ。それも、虎次郎さんの足から――シェーラちゃんに向かって押されている音だ。
「っ!」
虎次郎さんはその状態を保ちながら、何とかして押し出そうとしてぐっと腕を前に突き出す。でもオグトはそれ以上の力で、がごごっと噛み付いていた盾に食らいつく。
まるで――その盾を喰おうとしているみたいに。
それを見た私ははっとして、何とか目をくらませる方法を思いながら、すぐに手を伸ばして――魔力の無駄遣いの様な事をしてしまう。
「た……っ! 『
ばしゅぅっとオグトの真下から白い光が噴き出して光り出す。それを見たヘルナイトさんはすぐに現実に戻ってから大剣を構える。そしてその光景を見ていたアキにぃは私を見て慌てながら――
「ハ、ハンナっ! 何しているんだっ!? そんなことをしても――」と言った時……。私はあまりの気の動転に、自分がしてしまったことを後悔してしまう。「あ」と、間の抜けた声を出してしまう。
そう。そんなことをしても――無駄なのだ。
私が使った『
でも私はそれをオグトに使った、あまりに気の動転で、使ってしまった。ダメージなんて与えることなんて、できないそれを、魔力の――MPの無駄遣いをしてしまう形で、終わってしまったのだ。
白い光が消えたと同時に、オグトは血走った目で私を見てからすぐに盾を噛む行為をやめて離れると、オグトは私を見て――怨恨そのものの音色でずんっと、私に向かって一歩、歩みを進める。
「お前……、今何をしたぁ……? まさか……、オデを倒そうとしたのかぁ……っ!? お前のような、お前のような」と言いながら、一歩。また一歩歩みを進めて、私に向かって近付くオグト。
それを見た私は、ナヴィちゃんをぎゅっと抱きしめながら、きゅうっと下唇を噛みしめて――弱々しく、きっとオグトを睨みつけた。
それを見たオグトは、さっき私達を持た時のような怒りの眼で私を睨みつけながら、アキにぃの手によって貫通した手をぎゅりっと握りしめて、その手を振り上げながら――こう叫ぶ。
「屑にオデが負けるかあああああああああああああああああああっっっ!」と言った瞬間だった。
「――『
ヘルナイトさんの声が聞こえたと同時に、振り上げたオグトの手首に水の鞭がしゅるんっと巻き付いた。
「っ!?」
それを受けたオグトは、驚きながらその手首に絡みつき、そして横に引っ張られながらも水の鞭を見て、それを見上げながらもう片方の手でそれをほどこうとがりっ! がりっ! と引っ掻くようにほどこうとする。
「うぅ! うぐぅ! がぁ! なんだこれはぁ!」と言いながら、オグトはいらいらしながらそれをほどこうと苦戦をする。
その水の鞭を見ながら、そっとその鞭の持ち主がいるところに視線を移していくと、私はその持ち主に向かって叫んだ。驚きと安堵のそれが混ざった音色で――
「――ヘルナイトさんっ!」と叫んだ私。それもそうだろう。
ヘルナイトさんは大剣の刃を水の鞭に変えて、その鞭でオグトの手首を縛りあげて引っ張っているのだ。自分の方に引っ張って、隙を作っていたのだ。
「ハンナ――僅かな隙を作ってくれてありがとう。ここからは私達が何とかする。ジュウゴ殿!」と、凛とした音色で言うヘルナイトさん。
それを聞いた私は首を傾げて、後ろにいるジュウゴさんを見ると、ジュウゴさんは口に咥えていたキセルの煙を吸って、それから――ふぅっと、口に溜めていたその煙を――紫の煙をオグトに向けて放つ。
「――もうしているって」
と言いながら、ジュウゴさんはキセルを手に持ちながら言う。
それを聞いたオグトは驚きながらその煙を吸わないように、その煙が入らないように、口をきつく閉じる。
そして拘束を解こうとしていたその手を口にもっていき、鼻ごとそれを吸わないように応急処置をする。
それを見ていたヘルナイトさんは、そのままぐっと鞭を自分のところに引っ張って、オグトの気を逸らそうとしていた。でもオグトはそれでも、口から手を離さない。
どんどん紫の煙がオグトに向かっていく。でもオグトは口と鼻を塞いでいるので、嗅ぐことはない。そこまで頭が悪いわけではないのだ。
もう万事休すか……。そう思った時だった。
「おっさんっ! ちょっとその盾貸して!」と、キョウヤさんは何かを思いついたのか、虎次郎さんに向かって曲がってしまった盾を貸してほしいと頼み込んできた。
それを聞いていたアキにぃは、驚いた顔をして「何言っているんだキョウヤッ!」と、理解できないような顔をしてキョウヤさんを見ると、キョウヤさんはアキにぃの方を振り向きながら――「いいからいいから!」と言って、虎次郎さんを見ると、虎次郎さんは少し混乱しているような顔をして、「よ、よくわからんが、まぁ使えんからのぉ! ほぉれ!」と言って、その盾をキョウヤさんに向けて投げる。
ぐるん、ぐるんと――空中で時計回りに回る盾。それを見たキョウヤさんは、その盾に向けて、槍を構える。刃がついてない方を向けて、そのまま――
「――おらぁ!」
と、声を上げながら、ボッと言う音と共に槍を盾に向けて突く。
突いて、盾にごぉんっと当てて、そのまま盾ごと巻き添えにしながら――キョウヤさんの真正面にいるオグトの背中に向けて、それを――
ごぉん! と、勢いよくそれを当てたのだ。オグトの背中がビキビキと軋むくらいの威力を、オグトに向けたのだ。
「――っ!? っが! っ!?」
オグトはその衝撃に耐えられず、手を離し、そして紫の空気を吸ってしまう。痛みで声を上げて、空気を吸ってしまう。吸ったと同時に、びくりと体を震わせながら唸り声を上げてしまう。唸り声を上げた後さーっと顔中を青ざめ、オグトはびくびくと震えてしまう。
ヘルナイトさんはそれを見て、すぐに水の鞭を解いて元の大剣に戻す。その最中、オグトは誰にも攻撃せず、体の痙攣に驚きながらふらふらとして立ち尽くしている。荒い息使いで、目から流れる涙を拭わずに……。
それを見ていた私は、ジュウゴさんを見上げて「あの……、あれって?」と聞くと、ジュウゴさんは狐特有の笑みを浮かべながら――
「あれね……。ちょっとした神経毒。死なないから安心して」と、意地悪そうに微笑んだ。
それを聞いた私は、少しだけジュウゴさんに対して恐怖心を抱いたのは、ここだけの秘密である。
それを見たアキにぃは、「よし」と小さく言いながら、そのライフル銃をオグトの足元に向けて、ぱぁん! ぱぁん! と二発発砲する。
発砲した瞬間、オグトの足にその銃弾が当たり、貫通する。私には当てないように、アキにぃは相手の動きを封じるように撃ってきた。
それを受けたオグトは、痛みの呻き声を上げながらよろよろと私に向けて、手を伸ばす。それを見た私は、はっとしながら一歩、後ろに下がると――
「ヘルナイト――ハンナをお願い!」
と、シェーラちゃんはすぐにその剣を地面に突き刺して、その剣から冷気を出しながら叫ぶ。
それを聞いたヘルナイトさんは、その言葉を待っていたかのように、私に向かって走っていき、そのまま私とジュウゴさんを抱えてその場から遠のく。その時ジュウゴさんは――小さい声で「男の人に二回も……、」と、半分泣きながら言っていたけど、私はその声を聞きとることができなかった。
ヘルナイトさんに抱えられて、その場から遠のいたと同時に、シェーラちゃんは――
「こゆき! 手伝って!」
と、今までどこにいたのかわからなかったけど、シェーラちゃんの背後から出てきたボルドさんのこゆきちゃんは、ふいっとシェーラちゃんの頭上に現れて、ぐっと体に力を入れてた途端、小さな体から――美しい女性に変身する。
そしてすぅっと息を吸って……。シェーラちゃんと合わせるように……。
「――『
シェーラちゃんが地面に突き刺した剣の冷気と氷結と、こゆきちゃんのその吐息が混ざり合うように下水道の地面が『バキバキ』と凍っていき、そのままその氷結はオグトに向かって突き進んでいく。
ものすごい速さの氷結は、まるで波の様にオグトに迫ってくる。それを見たオグトはびりびりと痺れている体に鞭を打ち付けながら動こうとしたけど、時すでに遅し……。
私はヘルナイトさんに抱えられながらその光景を見て、そして――
「ぐ、ぐ、ぐ……! うううううう! くそがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
叫ぶオグトを横目で見て、彼がその氷結に呑み込まれる瞬間を目に焼き付けた。
バキバキと押し寄せてくるその氷結に呑まれて、オグトはそのままその氷結の中に閉じ込められる。
カチコチの氷の中に閉じ込められたオブジェとなって、戦闘不能になった。
誰もがそれを見てふぅっと息を吐いて終わったことを悟ると、シェーラちゃんはすぐに小さくなってしまったこゆきちゃんを見て、にっと凛々しく微笑みながら――
「サンキュ。とでも言っておくわ」
と、こゆきちゃんの頭を撫でながら言った。
それを聞いて、こゆきちゃんは口元を手で隠しながら「ふぅ!」と照れ隠しをして微笑んでいた。
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