ガーディアン編:上(BC編)

PLAY33 蜥蜴人の集落の魔女 ①

「魔女……ってことは……」


 キョウヤさんが言うとアクアロイア王は「うむ」と頷いて……、私達に向かってこう言った。


「余はこの国に、いくつかのギルドを立ち上げたいと思っている」


 理由はわかるな? と私達に向かって聞くアクアロイア王。


 それを聞いた私達は互いの顔を見合わせて、その言葉に対してアキにぃはこう言った。


「アクアロイアは極端にギルドが少ない。と言う理由が明白ですが……、そもそもなんでこの国にギルドが少ないんですか?」


 そう聞くアキにぃに対して、アクアロイア王は「ふむ」と言ってから、私達にこう説明をした。


「アクアロイアにギルドがない理由は簡単な話だが、『終焉の瘴気』が現れてから、アズールは混乱の渦に呑み込まれていた。対策を練ろうとしても魔女のみんなだけでは歯が立たない。あの『12鬼士』でも勝てなかった存在、サリアフィア様が命を懸けてその瘴気を抑え込んでいるが……、それも時間の問題だった」


 それを聞いてか、ヘルナイトさんとキクリさんは浮かない顔と申し訳なさそうな表情で顔を知らしていた。


 私はそれを見て、ヘルナイトさんの手にそっと触れる。


 大丈夫と言う意思を込めて触れたのだけど……、きっとこれだと気休めにしかならない……。


 でも――


 ヘルナイトさんは私の手の感触を感じたのか、そのまま触れていた手を上げて……そっと私の頭に、ナヴィちゃんを潰さないようにそっと撫でて――


「大丈夫だ。すまないな」と言った。


 それを聞いた私は、なんだかこそばゆさを感じてこくりと頷く。


「あの……、き、キクリさんが悪いわけじゃないですよ……」

「そうね……。なんだかごめんなさい、湿っぽくしちゃって」

「え、い、いいえ……」


 向こうではシイナさんがキクリさんを慰めていたけど、どうやらこっちと同じように気にしないでくれと言われているみたいだ……。


 シイナさんはおどおどしながらも首を横に振っていた。


 それを聞いてか、アクアロイア王は少し申し訳なさそうに――


「すまない。気に障るようなことを言ってしまった」と頭を少し下げて謝った。


 それを聞いていたヘルナイトさんとキクリさんは――


「いいえ――これは事実です」

「成す術もなくやられてしまったのは私達の怠慢のせい。だから怒られても文句は言えないわ」


 自分の不甲斐なさを受け入れているかのように言った。


 それを聞いていたブラドさんは――


「いや……、そこは怒ってもいいんじゃねえの?」と、真剣な目で言った。


 しかしそれをスルーするように、アクアロイア王は続けてこう言う。


 ブラドさんはそれを見て「あれ? 無視した?」と小さく言っていたけど……、あえて話を続けることにしたらしい……、誰も突っ込まなかった。


 あのキョウヤさんでさえも……。


 アクアロイア王は言った。


「その瘴気に対抗すべく、祖先は異国のそなた達冒険者に藁にもすがる思いで願い出た。私たちには魔力など備わっておらん。しかしそなた達には魔力がある。そこを見込んで願い出たのだが……、冒険者も人、異国の王はこう言ったのだ。『もし力が欲しければ、他国の住人を受け入れる場所を設けてほしい』とな。それがギルドができた始まりと言われておる」


「……なんだか欲張りね。異国の王様っていうのは」


 シェーラちゃんはむすっとしながら肩を竦めて、右手を腰に当てて言った。それを聞いていた王はおほんっとえづいた後――こう言った。


「その案に関して、アクアロイアは断ったのだよ。アクアロイアとバトラヴィア帝国は」

「あぁー。だからギルドがないのか」


 キョウヤさんは納得したようにそう言うと、アクアロイア王はうむっと頷いて、続けてこう言った。


「そうだ。バトラヴィア帝国はその力がなくとも『終焉の瘴気』を倒す術を見つけると言って、その受け入れを拒否したのだ。アクアロイアはもしかしたら……、そなた達が関わった件があって、受け入れることを恐れていたのやもしれない……」


 それを聞いて、私はきゅっと口を噤んで俯いてしまう。


 そう……、前のアクアロイア王はリヴァさんを制御するために亜人の郷を襲撃して……、そして魔女の血を使って……、この国を腐らせた。


 私利私欲のために……。


 国の人を惑わせて……、狂いに狂わせて……。


 関係のない人達の人生を……、狂わせた。


 なんだか、むしゃくしゃする……。


「ハンナ」

「っ!」


 ヘルナイトさんの声を聞いた私はバッと顔を上げると、ヘルナイトさんは私を見下ろして、そして頭に手を置きながらこう聞いた。


「どうした?」

「えっと………」


 私は言って、そのむしゃくしゃする気持ちを抑えるように、首を横に振って、控えめに微笑みながらこう言った。


「――大丈夫、です」


 それを聞いたヘルナイトさんは、少し私を見てからそっと手を離してくれた。


 王はそんな私達を見て一言――


「確かに……前王がしたことは異常なことだった。冒険者のそなた達には大変迷惑になってしまった。そのことに関しては余達のせいでもある。怠慢して、前王の愚行をみすみす逃してしまったアズールの責任でもあるし、余達の責任でもある」


 と言って、アクアロイア王は続けてこう言ったのだ。


「ゆえに……変わらなければいけないと、余は思ったのだ。せめてもの罪滅ぼしとして、余を始めとして、アクアロイアを変えてくれ。そう兄上から言われ、余もそうしたいと思い、自らアクアロイア王になろうと志願した。アクアロイアは変わらねばならない。この国も、バトラヴィア帝国も……。ゆえに、最初の懸け橋として――ギルドをいくつか建てることにし、その魔女の招集をかけようと思った」


 それを聞いて、私達は王を見る。そして私達を代表してジルバさんが――


「だから、俺達にその魔女招集を手伝ってほしいってことなんだネー」


 と言いながら腕を組んで飄々として言うと、アクアロイア王は「そうだ」と頷いた。


 すると……、王の後ろから一人の兵士が出てきて、兵士に手には数枚の少し厚みがある何かを持ってきてくれた。


 兵士はがしゃがしゃと私達に歩み寄り、そしてその厚みがあるものを手渡してくれた。


 最初はシェーラちゃんから、そのあとアキにぃ、キョウヤさんと言う順番で手渡されて、最後に私に手渡された。


 手渡されたものは……、少し厚みがあるタブレットだった。電源ボタンのようなところを押してみると……、画面が光りだして映像が現る。その画面には私達の居場所やいろんな所か簡単な図式だけど映っている。


 まるでカーナビのようだ。


 それを見たみんなが、驚きの声を上げていた。


 それを見て、アクアロイア王はこういう。


「バトラヴィアでは魔導液晶地図ヴィジョレット・マップは使えない。ゆえにそれを使え、簡単な地図であるが、ダンジョンにも使えるようにしておいた。バトラヴィアは大きく、ダンジョンも多いところ。魔女のところに行くのだ。地図なしでは心もとない。その道具の名はマースから聞いた異国の情報をもとに……『ナビレット』と呼ぶことにした」


 それは選別である。大事に使ってくれ。と言ったアクアロイア王。


 と言うかそのマースさんから聞いたって……、まさか……っ。私が言った言葉が原因で……。


「~~~~~っ!」


 私は真っ赤になった顔を手で隠して、頭のてっぺんから湯気を出していた……。


 それを見ていたシェーラちゃんは首を傾げながら「あんたどうしたの? 昨日と同じあれ?」と聞いていたけど、私は答えることができなくなっていた……。恥ずかしくて……。


 アクアロイア王は「更に……」と言って、手をすっと上げてもう一人の兵士を呼んだ。タブレットを持っていた兵士は後ろに下がって、もう一人の兵士はとあるものを三つ持ってきた。


 それを見た私達ははっとして、アキにぃはそれを指さしながら……、震える声で、アクアロイア王に向かってこう聞いた……。


「あ、あの……、それって……」


 そう聞くと、アクアロイア王はにっと微笑んで「うむ」と言うと――


「これは王宮の宝物庫にあった――詠唱結合書である。どれが使えるのかはそなた達にしかわからぬ。しかしリヴァイアサンを助けてくれた恩だ。受け取ってくれ」


 と言った。


 それを聞いた私達は、アクアロイア王の寛大な優しさに感謝して、頭を下げてお礼を述べる。


 王は「よいよい……、余はこれしかできんでな」と申し訳なさそうに笑みをこぼす。そして……。


「アムスノームでも世話になったのだ。先の件を頼むのも本当はしたくない。しかし余が離れるわけにはいかないが故……、これは余からの感謝と謝礼として、受け取ってほしい」と、少し申し訳なさそうに言った。


 それを聞いていたアキにぃは首を横に振って慌てながら――


「いやいやいや! 俺達は当然のことをしたまでですからっ!」と手を振っていた。それを聞いてシェーラちゃんはクスッと微笑みながら「へぇ」と言って……。


「あんなに荒んでいたくせに」


 と、少し小馬鹿にするように言うと、アキにぃはそれを聞いて顔を真っ赤にさせながら「ちょっ! それは……っ!」と言葉を濁して慌てだした。シェーラちゃんとキョウヤさんはにやにやしながらアキにぃを見ていたけど……、それを見ていた私はクスッと微笑んで見ていた。


 なんだか……楽しそう身に見えたから……。


 すると、一人の兵士が私達に近付いて、その三つの詠唱結合書を見せてくれた。


「どうぞ」


 と言って見せてくれた兵士は、女の人の声だったけど、みんなはそのことには気にもせず、詠唱結合書に集まりながらその紙筒の紐を見ていた。興奮しながら――


 詠唱結合書は紐が白く光っていたら、その人が使えるという証明になるのだけど、黒かったら使えない。つまり持っていても使えないものなのだ。


 ブラドさんはそれを見ながら興奮した様子でその詠唱結合書を見ていた。


「いよぉしっ! 俺だって詠唱使えるようになりたいしぃ、ここいらで俺の必殺技……………」


 と言ったところで、三つの詠唱結合書を見たブラドさんは、一瞬固まってしまい……。


 その場をゆっくりとした動作で離れながら……、しゅんっとして頭を垂らした。


 ……なぜだろう……。ブラドさんの背景に青ざめたような背景と、『ちーん』と言う音が聞こえそうな悲しい雰囲気が流れ出した……。そんな気がした。


 それを見ていたキョウヤさんは――


「……ありゃなかったんだな」


 と、難儀と言わんばかりに音色でそう言った。


 それを聞いた私はブラドさんを見て……、申し訳なさそうに頭を下げた。キョウヤさんはそんな私を見て、「いや、謝んなくてもいいぞー」と言っていたけど……、なんだかあの光景を見ると……、しょーちゃんを思い出しちゃって……。


「ハンナとキョウヤも見なさいよ。もしかしたらあんたが使える詠唱あるかもしれないし」


 シェーラちゃんは私たちに向かって呼びながらそう言った。それを聞いて、キョウヤさんは私の背を押しながら向かう。ヘルナイトさんたちは私たちの背中を見ながら待っていたけど……、見ないのかな……? それとも、ないってわかっているのかな……?


 そう思いながら私は詠唱を見ると……。


「あ」


 私は声を漏らした。


 その詠唱結合書の中に、一つだけ、白く光っているそれがあったのだ。私の眼から見て……、それを見た私は、それを指さして――


「これ、私使えるかも……」と言うと、それを聞いたアキにぃは「えっ!?」と驚きの声を上げて――私の肩に手を置いて、自分が褒められたかのように大喜びで――


「よかったじゃないかハンナ! これでまた新しい詠唱が使えるってことだな!」


 と言ってくれた。


 それを聞いた私はうんっと頷きながら、その詠唱を手に取り、そして思った。


 これで……、みんなと一緒に戦える。


 そう胸に誓って、きゅっとその詠唱結合書を胸に当てて目をつぶる。


 回復しかできない私には、みんなのサポートしかできない。だからせめて……、そのサポートで一生懸命みんなの役に立ちたい。みんなや色んな人達を……、救けたい。そう私は思った。


 その光景を見ていたヘルナイトさんの気持ちに気づかないで、私はそう心に誓っていた。


 他の詠唱結合書は――シイナさんとロフィーゼさんに当たった。二人は喜びながらそれを手にしていた。


「やったぁ」

「………二個目」


 それを見ていたジルバさんは残念そうだけど、飄々としながら「ザンネン」と首を傾げていた。


 しかしブラドさんは――


「なんで!? ねぇなんでっ!? なんでシイナ二つでロフィにもあたって、俺にはないのっ!? もしかして俺のような存在に見合うような詠唱がないってことっ!? そうなんすか王様ぁ!」


 そう王様に涙を流しながら凄んできたブラドさんを見て、アクアロイア王はぎょっとしながら「あ、それは余にもわからんなぁ……」と青ざめながら言っていた。


 それを聞いていたキョウヤさんは真剣な目で冷たい眼で一言――


「お前は適任ではないって言う証拠だろうか」と言った。それを聞いてブラドさんは頭を抱えて声にならないような叫びを上げていた。


 それを見ながら、私は乾いた笑みを浮かべていると……。


 アクアロイア王は大きな声でこう言った。王様らしい威厳と音色でこう言った。この音色はアムスノームと同じものだった。


「それでは、余からの『極』クエストだが、最初に向かうその『蜥蜴人の集落』はアクアロイアの真後ろにある。道のりは長い。心して受けてほしい!」


 そう言ってまた兵士の人達が来て、手元には五枚の書状と、七つの白い瘴輝石が置かれていた。それを私に見せてきた兵士達を見て、私は困惑しながら王に聞いた。


「えっと……、これは……」


「それは私直筆の書状と、その瘴輝石は『基地帰還アナグラ・リレビト』と言う……、指定の場所に帰れる瘴輝石だ。これを使えばアクアロイアの王宮にすぐ着くのだ。それを魔女の皆に持たせ、予備の二つは、そなた達に一つずつ持たせる。使い方は戻りたい場所の地面のそれをつけ、戻りたい時に唱える。使い方は簡単ではあるが、別の場所につけてしまうと、その場所に上書きされてしまう。そこは注意して使ってくれ」


「……わかりました」


 そう言って、それを受け取ってウエストポーチに書状と瘴輝石を入れた私。そして再度王を見る。


「最初に出会う魔女はザンバート。その者に出会い、書状を渡し、砂の国にいる他の四人の魔女にもこのことを伝えてほしい。それが余の『極』クエストだ」


 ――こうして、私は土のガーディアンを浄化する他に、アクアロイアの革命のためにギルド長候補の五人にその書状を渡すクエストを受けることになったのだ。


 一時期だけど、道が一緒のブラドさん達と一緒に。



 □     □



「――お前らのクエストは、そこにいる正義を愛するおっさんに会いたい人に会わせるっているクエストか?」

「そうだよ。人探しってことだな」


 アクアロイア王の話が終わり、私達はブラドさん達と一緒に『蜥蜴人の集落』に向かって歩みを進めていた。


 集落へと続く道は森林の道で、そよそよと優しい風が吹いていた。歩いてても草木の匂いが鼻を刺す。


 キョウヤさんとブラドさんがそんな話をしていると、それを聞いていたシェーラちゃんがセイントさんを見て――


「なんで逃げようとしたのよ」とそっけなく言うと、セイントさんは「むむ?」と言いながら少し怒った音色で「失敬なっ!」と声を荒げた。それを聞いたシェーラちゃんは驚きながら「冗談に決まっているじゃない」と申し訳なさそうに言うと……。セイントさんはぐっと腕を組みながら――



「逃げているんじゃないっ! そこに向かおうと思っていたのだが、迷ってしまったのだ!」



「迷子かよっ!」


 キョウヤさんが驚きながら突っ込むと、セイントさんは「そうだ!」と頷きながら――


「ゆえにユワコクで出会った君達に『国境の村』へはどこに行けばいいのかと聞きたかったのだが……、なぜか逃げられてな!」

「逃げるんじゃない? 俺なら絶対に逃げる……」


 ジルバさんも呆れながら突っ込んでいた。


 それを聞いてアキにぃは呆れながら「なんだ……案内してほしかったのなら、お風呂場にまで来なくても……」と言って……。


「「「「……え?」」」」


 私とシェーラちゃん、ロフィーゼさんとキクリさんが、アキにぃを見て、そしてセイントさんを見て、シェーラちゃんが私を抱き寄せながら警戒するようにセイントさんから離れた……。


 一体どうしたのだろう……、うむむ?


「うむむ? どうした? 私が一体何をしたというのだ?」

「わん?」


 いつの間にか、セイントさんの肩に乗っていたさくら丸くんもセイントさんと同じように首を傾げていた。頭に疑問符が出そうなそれで、私も頭に疑問符を出していたけど、キョウヤさんがそれを思い出してしまったのか……、青ざめながら――


「あれは悪夢だった……」と、低く、そして吐きそうな音色でそう言った。それを聞いていたシイナさんは汗をたらりと流しながら、「い、一体何が……?」と言いながらキョウヤさんを見ていた。


「こっちもこっちで大変だったけど、お前達の方も大変だったんだなー」


 ブラドさんは腕を組んで、キョウヤさん達のそのことを聞いてドンマイと言わんばかりに頷いていると……。ロフィーゼさんとシイナさん。キクリさんはそんなブラドさんを、冷たくて座った目で見ながら……。


「あれはないと思うわぁ……」

「そうね」


 ロフィーゼさんと筆頭にキクリさんとシイナさんが頷く。それを見てブラドさんはぎょっとしながら――「え? なんで? 俺の苦労もあってここに来れたんだぞ? シイナに至っては俺をごみのように見る目っ! やめて傷つくっ!」と言ってシイナさん達に近付きながらそう言っていた。


 すると――


「ふぅん……、君がネぇ」

「わひゃっ」


 突然ジルバさんが私に近付いて来て、私の顔を見ながら飄々とした笑みでにやにやしながら――


「……君って、意外と」と言ってきた。私はその言葉に首を傾げて、それは一体どういうことなのだろうと思いながらジルバさんを見上げていると……、ジルバさんは私を見て頭に手を置きながら――


「君は物語で言うところの愛されの力を持っている。俺はそう思うヨ。だって君妹みたいな感じがして……、守りたいーって思っちゃうもの。君魔性の女の子なのぉ?」

「? ??」

「自覚なしなんだネ。それはそれで怖いネぇ」


 と言いながら、ジルバさんは私の頭……と言うより、私の両頬に両手を添えて、ふにふにとしながら撫でていた。ジルバさん自身そのフニフニを堪能しているのか、「うりうり~」と言いながら飄々として、にやにやしながら私の頬で遊んでいた。


 私は「ふえええ……」と声を漏らしてわたわたしていたけど……。


「ジルバ殿……。そのくらいにしてほしい。かわいそうだ」


 ヘルナイトさんが私の肩を掴んで、ジルバさんから引き離してくれた。


 それを見て、ジルバさんはにっとしながら立ち上がって「はいはーい」と言いながら手をひらひらさせて先に行ってしまった。


 それを見て、ふと視線を感じた私はその視線がある方を向くと……。


「?」


 首を傾げた。


 視線が合った方がアキにぃ達がいた方で、シイナさんとブラドさん、そしてシェーラちゃんは顔を真っ赤にして私とヘルナイトさんを見て目を点にしていた。


 ロフィーゼさんは目を輝かせて「あらあらぁっ!」と言いながら生き生きとして見ていて……、セイントさんは「うんうん! 青春と言うものか!」と言いながらさくら丸くんの頭を撫でていた。さくら丸君は気持ちよさそうだ……。そしてアキにぃは……。


「ぐぎぎぎぎぎぎぎっ!」

「久し振りだなその声と血涙っ! やめなさいっ! ほれやめんしゃいっ! あーもう誰かヘルプミー!」


 キョウヤさんが目から血を流しているアキにぃを止めていた……。


 本当になんでアキにぃは突然あんな風になるんだろう……。そう思いながら見ていると……。


 ふっと近付いてきた何かに気付いて、上を見上げると……。


「――少しは自粛しなさいよ。団長さん」

「? どういうことだ?」

「はぁ……、ほんと……、なんで正直に何かを言わないとわからないのかしら、この鈍感団長さんは」

「? ??」


 キクリさんの言葉に首を傾げているヘルナイトさん。私もその言葉に対して一体何を言っているのだろうと思っていると……。


「あ。見えてきたヨー」と、先に先行していたジルバさんが指をさして言った。


 その方向を見てみんなが『おぉっ』と声を漏らし、私もその先にある風景を見て――


「あそこが……『蜥蜴人の集落』」と、言葉を零した。


 その先に広がったのは……、浅瀬の沼地に建てられ、木で作られた高床式住居の家が所々にある村のようなところで、中央には一際大きな高床式住居があった。


 そしてそこに住んでいる人達は腕の筋肉が発達して、足の筋肉も発達している体中に鱗がついた、キョウヤさんと同じ尻尾を持っている……。


 ――


 そう。


 その名の通り、そこに住んでいたのはキョウヤさんとは違って、どちらかと言うとブラドさんのマッチョバージョンの人や女の人、そして小さな子供達が遊んで、蜥蜴人が楽しく暮らしていた。

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