PLAY43 とある男の災難な一日 ③

「ダイナマイトォ……?」


 ガルディガルはその言葉を聞いてじろりと標的をティックディックに変え、彼をジトッと見た。


 他の兵士達もティックディックを見て、そして店主や客人はそれを聞いて青ざめながらティックディックを恐怖の対象として見ていた。


 冒険者の三人はティックディックを見て驚いた眼をして彼を見ているが……、白髪の男だけは違った。


 ティックディックを見て、にやりとあくどい笑みを浮かべながら彼を見ていた。


 ティックディックはそんな彼を見て思った。


(この野郎――! 見ていやがったなっ!)


 ティックディックは苛立った顔を仮面で隠しながら白髪の男を睨んでいたが、彼はべっと舌を突き出し、小馬鹿にするようにティックディックを見ていた。


 その顔を見たティックディックは、更に顔を仮面越しで顰めてその光景を見ていると……。


 ――ざっ!


「!」


 ティックディックの周りにいた兵士が道を作るように整列をした。ガルディガルが通る道を作ったのだ。


 その規則正しい整列を見てティックディックは一瞬驚いた眼をしてそれを見ていたが、すぐにガルディガルは声を上げた。


「お前――」

「っ!」


 ティックディックはびくりと体を震わせた。ただ恐怖で震えたのならまずかった。


 しかし彼が震えたのは、その威圧感に驚いただけの震えでもあった。


 内心余裕ではないが、ティックディックはそんな威圧感を見ながらこの状況をどう切り抜けようかと模索し、ガルディガルを見上げて「い、いやー……」と上ずった声を上げて両手を広げながら肩を竦めてこう切り出した。


「なんだかやばいことになったなー。俺そんな物騒なもん持っていないんだけどなー……?」


 しかし……。



「いいえ持っています! 絶対に持っています! この目で見ました!」



(てんめええええええええっっっ!)


 思わず心の中で大声を上げて、その白髪の男に向かって怒声を浴びせてしまったティックディック。


 そんな怒りの顔で白髪の男を見ながら、ティックディックは思った。


(この野郎……っ! ずっとおどおどとしていたのは演技だったってのか……っ!?)


(しかも俺の所持品を見て、何かと使えると思って陥れようとした!)


(役者かってぇの!)


 そんなことを思いながらも、ティックディックは目の前にいるガルディガルに向かって、何とか言葉を繋げてこの場をどうにかしようと頭をフル回転させていた。


「えっと、確かに俺はダイナマイトを持っているよ」

「なにぃ……っ!?」


 ガルディガルはびきっと青筋を浮き上がらせた。


 それを見たティックディックは、やばいと直感したのか、愛想笑いを浮かべながらあははっと笑って、手を振りながら「違う違う」と言ってから――


「別に崇高なるバトラヴィア帝国をぶっ壊そうとは思ってね……っ! いませんよ。このダイナマイトは魔物を狩るために使っているアイテムなんですって」

「アイテム……?」


 ガルディガルは顔を顰めたまま、その言葉を聞いて首を傾げる。


 ティックディックはそれを見て聞いて、内心好機と思いながら、彼は己の荷物からそのダイナマイトを取り出して、彼はそれを見せながら笑みを浮かべてこう言った。


 さながら――テレビで見る買い物番組の様だ。


「このダイナマイトはモンスターにしか使えない代物なんですよ。爆破の範囲も狭いし、何より他の場所、町とか村とか、そういった人がいるところでは使えない代物なんです」

「ふぅ……む」


 ガルディガルがそれを聞いて、顔を顰めてそのダイナマイトを一瞥した。


 ティックディックはそれをみて、内心いい調子と思いながら言葉を考えていた。


 この状況を打開する言葉を、悶々とする思考の中で思案していた。


(これでなんとか『そうか』って感じでまとまらないかな……? てか俺だってこれを町で使ったことねぇし、大惨事になっちまうことだってある)


(つかこんな物騒なもん町とかで使うかっつーの)


(使うとすればあのイカれ野郎だって)


 ティックディックは自分が殺した (ログアウトにした) カイルのことを思い出しながら、ガルディガルを見ながら彼は言う。


 営業のスマイルを仮面越しで見せて、そして声色を何とか明るくさせて、彼は言った。


「だから俺が、こんなものを持っていたらすぐにでもここを爆破しますけどねー? あぁ、俺はそんな気持ち一切合切ないから、ご安心して」

「ぬぅ」


 ガルディガルはその話を聞きながら、顎に手を当てて思案を開始した。


 それを見てティックディックは内心、安堵の息を吐いた。


 そしてその光景を見ていた四人の冒険者は、ごくりと生唾を呑みながら、ティックディックが捕まることを願いながら彼を見ていたが、ティックディックはそんな彼らを見ながら内心――


(んな哀れんだ目で見んじゃねえ)と、毒を吐いた。


(ていうか、お前の生化の一人が俺を嵌めようとした……。じゃねえな。俺を巻き添えにしようとしたじゃねぇか。だが俺はこんなところで奴隷になる運命は辿りたくねぇ)


(なので俺はこのままうまく丸めこんでせかせかととんずらしますわ)


 ティックディックはそんなことを思いながら、手に持っていたダイナマイトを荷物の袋にしまいつつ、彼は笑みの声色を浮かべながら「――それで? 俺の疑いは晴れましたよね?」と言いながら彼は続けてガルディガルに向かってこう述べる。


「俺はあなた方兵士の休息を邪魔していません。ゆえに俺は刑罰に入らない」

「しかし……」


 ガルディガルは顎を撫でながら、考える仕草をして口を開く。


「些か信用できないのも事実。お前が吾輩達バトラヴィアに楯突くための口実やもしれん。口車に乗ってしまえば、国家の危機を見過ごしてしまうことになる」


(んだよ、少しは大雑把に考えろ)と思いながらも、彼は表面上はにこやかな音色を出して、仮面越しに微笑みながら次の言葉を開く。内心――毒だらけの言葉だが……。


「なんなら、このままダイナマイトを押収してもらえれば、俺に対する脅威はなくなるでしょう? そしてあなた達の戦力が大幅にアップの――メリットだらけの条件だと思いますが?」

「ぬぅううう……」


 そんな会話を聞いて見ていたひとりの客人は、その光景を――強いて言うのであれば……、ティックディックを見て目を凝らしながら彼を見て、首を傾げていた。


 その光景を見ていないティックディックは、内心汗を垂らしてガルディガルの言葉を待つ。


 そしてガルディガルは、「ふむ」という声を上げて、ティックディックに向けてずいっと手を差し出す。


 その手は握手のそれではない――己の掌を見せるようなそれで、それを見て、ティックディックはガルディガルを見た。


 そんな彼を見てガルディガルは、やっと考えに至った言葉を口にした。


「――ダイナマイトを没収する。罪に問われていないのであれば、このまますぐにこの場を立ち去れ」

「ほいほいっと」


 ティックディックは内心ほっとしながら、戻したダイナマイトをまた取り出して、それをガルディガルに渡そうとする。


 その最中、四人の冒険者は愕然としながらその光景を見ていたが、ティックディックはそんな彼らを見ながら、内心 (ざまぁみろだ) と思いながら、彼はダイナマイトをそのまま手渡して、このままずらかろうと企てていた。


 しかし大事な攻撃道具を失うのは痛手だが、己の身の安全のため、仕方のない小さな犠牲だ。


 それを考えながら、ティックディックはダイナマイトをガルディガルに渡そうとした。


 その時だった。


「あ! あんた!」


『?』


 とある客人が声を上げて、ティックディックを指さした。


 それを聞いた誰もが、兵士たちが、冒険者の四人が、その客人を見た。


 客は「あ……っ!」と声を上げて、しまったと思ったのだろう。そのまま口を閉ざしてしまったが、そんな彼を見て、ガルディガルは苛立った顔をして、その客人の男性を見て――そのダイナマイトを手にしないまま……。


「どうした?」と、低い音色で聞いた。明らかに不振を抱いた音色だ。


 客人の男性は、その言葉を聞いて、おずおずと、恐怖に押し潰されそうになりながら、震える指先を上げて、その指先を――



 ティックディックに向けた。



「え?」


 思わず指をさされた本人は、目を点にしてその客人を見て、黙りながら彼は思った。


(なんだか……嫌な予感)


 そう思いながらも、彼は男性の言葉を待った。誰もが待った。もしかしたら違うかもしれないと、願いながら彼は待った。


 だが――運命とは時に残酷で、無慈悲。


 そうそう彼の味方になりなど、ありえなかった。


 男は、ティックディックを指さしながら――こう言った。



「そ。そこの男は……、冒険者なんですが……、騙されないでください。その男は、私の従兄弟が住んでいるです……っ! 従兄弟が言っていました……っ! 仮面の男を見たら、すぐに倒してほしいと……っ! きっと、またどこかで牛耳る算段を企てているに違いないと……っ!」



 ◆     ◆



 と言った瞬間、ティックディックは足をフル回転で動かした。


 と同時に、ガルディガルは声を上げようと、ティックディックの手を掴もうとした。掴んで声を上げようとしたのだろう。


 しかし――


 ガルディガルは寸前のところで、ティックディックの手を掴めずに、掠めて空を握ってしまっただけで、ティックディックを掴むことはできなかった。


 否――簡潔に言おう。


 ティックディックは――逃げ出した。ダイナマイトを持って、そのままぼろ布を靡かせながら、全速力で逃げ出したティックディック。


 そして――


「――っマッジかよぉっっっ!!」


 あらんかぎり叫びながら、慣れない走りをして逃げだすティックディック。


 そして彼は叫ぶ。別の言葉を乗せて叫ぶ。




「最悪な一日だっつううのぉおおおっっっ!」




 それを聞いて、空を握った手に力を入れながら、ガルディガルはすぐに兵士に向かって叫んだ。


「彼奴は嘘をついていた! アムスノームの次に、我が崇高なるバトラヴィア帝国を牛耳ろうとした残党だっ! これすなわち『公言詐欺罪』に処するもの也っ! よって――彼奴を見つけ次第……、その場で処刑せよっ!」

『ははっ!』


 そう言われた大半の――冒険者を拘束していない兵士以外はそのまま酒場を出てティックディックを追う。それを見ていた冒険者の四人は、茫然としながらその光景を見ていたが、すぐに現実に引き戻される。


 ぐりっと、床に押し付けられる重厚そうな鎧を着た男。


「うぅっ!」と唸ったのだが、ガルディガルはそんな四人を見て、そしてこう言った。


「しかし、白髪の男――お前はよい働きをした」

「…………っ!」


 白髪の冒険者は、ぱぁっと明るい表情を浮かべて、喜びを噛み締めた。対照的に、苛立ちを募らせる二人の冒険者に、それを見て呆れて何も言えない金髪の冒険者。


 ガルディガルは白髪の冒険者を見て――



「お前を平民の召使に昇格する」



「え?」


 白髪の男は声を漏らした。


 そして思った。愕然としながら、絶望の顔を浮かべながら、彼は思った。


 ――な、なんで……っ!? 聞いた話だと、帝国に貢献する言葉とかを吐けば……、奴隷から下民に昇格できるって聞いたのに……っ!


 そう思いながら、彼が茫然としながらガルディガルを見た。ガルディガルはそんな冒険者の顔を見て、ん? と、疑問の表情を浮かべながら、内情を察したのか……、「あぁ」と声を上げて、にたりと笑みを浮かべながら――


「そうか、帝国に貢献すれば下民に昇格できると思ったのだな?」と聞いた。


 それを聞いて、白髪の冒険者はびくりと体を震わせる。その声色、動きを見て、図星と見たガルディガルは、更に笑みの彫を深くして、彼は狂気に見えるその笑みでこう言ったのだ


「残念だったな。下民になりたくば……、もっともっともぉぉぉぉぉっと、帝国に貢献するようなことをしろ。しかしそれは神である帝王が決めること、そんなちっぽけなことで、昇格などありえんわ」


 それを聞いて、白髪の冒険者は、愕然とした。


 そしてその話を聞いていた女の冒険者達も、耳を疑うような言葉を聞いて、希望と言う言葉が潰えたような、絶望の顔をした。


 ガルディガルは拘束している兵士に「すぐにそいつらを連れていけ!」と言い、そして地面に叩きつけられている兵士を見て、ガルディガルは一人の兵士――と言っても、他の兵士とは違い、棘がついた鎧を全身包むように着ている兵士……、否。この場合は隊長だろう。


 ガルディガルは彼の軍団隊長に向かって――こう命令した。


「吾輩はこのまま罪人を追う! お前はそこで寝ている輩の処刑を済ませろ!」

「わかりました」


 棘の鎧に包まれた隊長は声を上げて、敬礼する。


 それを見て、ガルディガルは下半身のキャタビラをフルスロットルで動かして、そのまま急発進してティックディックを追う。


 それを見送った隊長は、がしゃんっと、重厚そうな鎧を着た冒険者に歩みより、そして手に持っていた剣を手にもって、彼は言った。


「重罪を背負いし罪人よ」

「え?」


 思わず、重厚そうな鎧を着た冒険者は、上ずった声を上げて、ぞっと顔を青く染めながら、彼はその剣を持って、そして己の顔の近くまで来た隊長の足の先を見て、そっと目だけでその上を見ると……、棘の鎧で身を包んだ隊長は、ぶんっと、剣を振り上げながらこう言った。


「己の愚行を――死を持って悔いよ」

「え? あ」


 彼はそれを聞いて、地面に叩きつけられながらも起き上がろうとしたが、そのまま兵士たちに手によって、ぐっと、首元を曝け出すことになる。


 ちゃんと――


 それを受けて、更に慌てて暴れようとした重厚そうな鎧を着た冒険者だったが、すぐに四肢を拘束されて、そのまま首元を晒したまま……、彼は叫びをあげるだけのただの人間になり、許しを乞うように「ごめんなさい」という言葉を、繰り返し……。繰り返し口ずさむ。


 涙と鼻水でぐちゃぎちゃになった顔で、死にたくないと願いながら――


 彼は繰り返し言葉を発した。


 が。




「死とは、慈悲であり幸福であり――救済なりっ!」




 と言った瞬間、びゅっと言う音が聞こえ……。


 ――ザンッ!


 ――ぴしゃっ!


 ――ごろん……。



「「いやあああああああああああああああああっっっっ!」」

「あ、あ、あ、あああああああああああああっっっ!?」



 三人の冒険者の絶望の叫びが酒場を中心に木霊し、彼らの絶望の一日が始まったのだ。


 そして同時刻……。


「はぁっ! はぁっ! ふぅ! ひぃっ! ぜぇ! はぁ! うぇっ! おぉぉっ!」


 ティックディックは、走りながら砂の世界をがむしゃらに走っていた。


 まぁ行く当てがないこともあり、今はいったんアクアロイアに戻って作戦を練りなおそうと目論んだのだ。


 幸い、まだ村の方を血眼で探している兵士のことを思い浮かべながら、彼は走りながらこの後の未来予想図を構想していた。


(ったくぅ! こんなところでアムスノームの傷跡が降りかかるとは思っても見なかったっ!)


(ああああったくぅ! 今日はなんて最悪な日なんだっ! これが本当のなんて日だだっつーっの!)


(つか体力がもう持たねぇ!)と思いながら、彼はすっと背後を見た。


 背後からは誰も来ない。ティックディックはそれを見て、ほっと胸を撫で下ろしながらそっと走っていた足を緩めてスピードを落とした。


 たったった……。と……。靴の中に砂が入る感触を覚えながら、彼はスピードを落としつつ、その光景を見ながら胸を撫で下ろして、思った。


(うまく……、撒けたな)


 なんとか撒けた。何とかなった。そうティックディックは安堵の息を零し、そのまま足を止めようとした瞬間……。



 ――ギャルゥンッッ!



「――?」


 と、彼の視界では背後から。彼の胴体の向きからして前から音が聞こえた。


 その音を聞いたティックディックは、背後を見ていた顔を、元の位置に戻して、前を見た瞬間――


「いぃっ!?」と声を上げて、そのままざざっと進めていた足を止めて、そのまま後ろ向きに尻餅をついてしまう。


 そんな彼の前にいたガルディガルは、「ぐあはははははっ!」と声を上げながら、砂の煙を上げて『ギャルルルッ!』っと音を上げながらエンジンをフルスロットルさせ、彼はティックディックを見下ろしながら豪傑な笑みを浮かべてこう言った。


「なかなかにして狡猾! 村からすでに出てたとはな……! しかも隠れながらではない。吾輩達が他の冒険者達に気を取られている間に、お前は物陰に潜みながらこの窮地を脱した! 狡猾にしてずる賢い知能を持っている罪人だっ!」

「…………物陰に身を隠すことは、常套手段と思ってほしいもんだ」


 と言いながら彼はそっと、指輪を嵌めた右人差し指を己に向けて――


付加強化魔法エンチャントサポート・スペル――『俊足強化スピーダー・アップ』」


 刹那――彼の体に青い靄が覆い始めた。


 それを見たガルディガルは『おぉ!』っと驚いてそれを見ている隙に、ティックディックはそのままガルディガルの脇を掻い潜るように――姿勢を低くしてキャタビラの側面を走るようにして駆け出した。


「っ!」


 ガルディガルはそれを見て、驚いた顔をしてティックディックを目で捉えて見下ろす。


 ティックディックはそのまま駆け出して「悪いね!」と言いながら――


「冒険者ってのは、色んな方法を駆使して窮地を脱するんだよ! 要は頭を使わないといけねえってことだ! その下半身のお車を過大評価し過ぎたな! あばよ! アフロ男さんっ!」


 と言って、彼はそのままそのガルディガルの後ろに向かって駆け出した。


 が――


 ガルディガルはそんな彼を見て、にっと笑いながら――


 下半身のキャタビラから出ている機械の棒を――いつぞやか使ったギアではない別の機械の棒を掴んで、それを――


 がくんっと後ろに引いたと同時に……。


 ――ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッッッ!


 と、下半身のキャタビラが動き出し、そのままの状態で、ただ砂煙を噴き上げるだけのそれを出した。それを横で見ていたティックディックは、 (なんだありゃ)と思いながら、その付加魔法がかかっている間に一気に駆け抜けようとした。


 刹那――




 




「?」


 何か音がした。それもよくドラマで聞いたことがあるような、金属質の何かを取り出すときの音が聞こえたと思った瞬間……。




 ざしゅしゅっ!




「っ!?」


 電流の様に、体中に染み渡る激痛。そして視界の端に映った赤い液体。更に言うとそのままティックディックは、右に倒れてしまう。


「~~~~っっっ!?」


 声にならない叫びを上げて、激痛の中心となっている左足を抱えるようにして掴むと……、ティックディックは己の足を見て――愕然とした。


 激痛があった左足の側面、内側ではなく外側の方だ。そこから大量の血が噴き出して、抉れていた。


 それを見たティックディックは、震える瞳孔と顔をガルディガルに向けると……。

「なっ! あ、お……、はぁ!?」


 と、声にならないような、否――驚きのあまりに言葉を発することができなかったティックディック。しかし今の状況でそれを見てしまえば、当たり前かもしれない。


 なぜって? それは今にわかることだ。


「お、おまえ……、なんだそのキャタビラは……ッ!?」


 と、ティックディックはそれを見て、愕然と声を震わせながら言った。


 ガルディガルはそれを聞いて、「んん?」と、わざとらしく首を傾げながら――彼の下半身のキャタビラの凸凹した部位……、一般的にこの場所は『クローラシュー』という名称なのだが、を見ているティックディックの驚き顔をみて、ガルディガルはにたりと、下衆の笑みを浮かべながらこう言った。


「これか? これは前に思わぬ失態をしてしなったのでな……。少々改造したのよ。と言っても……、吾輩の秘器アーツ猛攻轢殺デストロイヤー・イビルボア』の真の恐ろしさは……、こんなものではないがな」


 しかし貴様は運がいい。


 そう言いながら、キャタビラを起動させて、ティックディックに向かって進みながらガルディガルは言った。


 ティックディックを見下ろし、そのやられざまを嘲笑うように、彼はこう言った。


「本来ならこの攻撃を受けてしまうと、巻き込まれてミンチになってしまうのが関の山だと言っていたのに、貴様はそうならなかった。運がいいな」


(うるせぇ! 今痛くて視界がバチバチして聞いていられねえんだよっ! つーかミンチなんて俺は御免だっ! そして今日の俺の運勢は最悪だよっ!)


 痛みを何とか紛らわそうとして、頭の思考をフル回転させながら、ティックディックはガルディガルを激痛のそれで見上げる。


 ガルディガルはそんなティックディックに近付き、そして大きく太い手をティックディックに向けて、その掌で彼の顔を掴もうとしながら――彼はにたりと笑みを浮かべ、その表情と釣り合うような声色で、狂喜の言葉を言ったのだ。


「これで貴様をこの手で処刑できるというものだ」

「――っ!」


(っだぁーっ! なんでこうなったんだよぉ!)


 ティックディックは、今日あった出来事を回想の様に巻き戻して再生する。しかしどこをどう見ても己の不運でこうなった。そしてアムスノームの一件が重なって、こんな事態に陥っていることしかわからなかった。


 結局のところ――





                運が悪かった。





 それだけ。


(――なんて最悪な日だっつうの!)


 そう思いながら、彼は仮面越しにぎゅっと目を閉じた。


 そんな彼の顔を見ないで、ガルディガルはそのままティックディックの仮面に手を伸ばした。


 その時――


 ジャラララララララッ! と、鎖のような音が聞こえた。


「?」


 ヒュォンッ! という音が聞こえたと同時に……、小さな弾がついたその鎖はティックディックの近くまで来て――そんな彼を通り過ぎて、そのままガルディガルの顔面に向かって……。


 めしゃりと――


 ガルディガルの顔面が凹むくらいの威力で、その鎖は鞭のようにしなったのだ。


「うぎゅぉぅ!」


 ガルディガルは唸りながら、上半身を反らしながら伸ばしていた手を凹んでしまった顔につけて覆う。


 そんな音を聞いたティックディックは、首を傾げながらそれを見て、 (いったい何があったんだ?) と思いながら見上げていると……。


死滅時間操作魔法エクリスター・クロックリースペル――『巻き戻し帰りリヴァイヴァー』」


 と、女の声――しかもまた女性になっていない少女の声だ。


 その声と共にティックディックの足は元通りになった。


 裂かれたズボンも、抉れたところも――きれいさっぱりなくなっていたのだ。


 まるでそんなことがなかったかのような回復具合だ。


 ティックディックはその声を聞いて、起き上がりながら彼は思った。


(今のは、エクリスターの時間操作系のスキルか……?)


 エクリスターの時間操作系のスキル。


 それはいつぞやか話したことがあるかもしれないが、そのスキルはハンナの回復系スキルの亜種と思ってほしい。


 ゲーム説明で説明するのであれば――そのスキルを使うと、エクリスター特有の力によって時間が巻き戻される。その時間は傷にのみ有効であり、体力も少し回復する。と言うもの。


 要はハンナが使う『小治癒キュアラ』のようなものであり、それ以上の威力はない。それ以上もそれ以下もない。ただ体力を少し回復させるだけのスキルである。


 閑話休題。


 ティックディックはそれを見て、 (どうなってんだ?) と思いながら傷があった場所を見ていると……。


 ――ザッ!


「!」


 己の目の前に、ガルディガルの目の前に――彼らの間に入るように三人の人物がガルディガルを見上げていた。


 一人は赤い着物に黄色の稲妻模様が刺繍された着物を着ているが、中に白い服やズボンを着て、右手には黒くて重そうな雰囲気をただ結わせるグローブ。そして黒いブーツを履いている似非の武士と言われてもおかしくない、金髪の髪を一つに縛って、背に身の丈ほどの大きな刀を背負っている――整った顔立ちの陽気な顔をした青年。


 一人は紺色のフードがついた上着に白いワイシャツ。上着の腕のところは肘のところまでまくっており、左手には黒い手袋。右手には指ぬきの黒い手袋をはめて、ズボンはスポーツ用のズボンと黒いソックスと言った――下半身は動きやすい服装。上半身は盗賊めいた服装と言ったファッションセンスを思わせる……腰には大きめのウエストポーチを腰につけている薄紫髪の、耳が獣耳になっている若い男性。


 最後の一人は彼らよりも幼い――黒いショートヘアーの黒と白をベースとしたゴスロリ服を着た少女が前に出ていた。


 ガルディガルはそんな三人を見て、苛立った顔をしてその三人を見下ろしながら――彼は言った。


「き、貴様らはぁ……っ!」


 ガルディガルのその言葉を聞いて――少女はガルディガルを見上げて、睨みつけながらこう言った。


「今日こそ――吐いてもらうからね!」


 情報! と、少女は胸を張りながらそう言った。


 ――ティックディックの災難は……、まだ始まったばかりだ。

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