PLAY43 とある男の災難な一日 ②

 これは――今回災難な目に遭ってしまう不運な男……。


 アバター名:ティックディックのお話である。そして簡単な回想と思って見てほしい。



 ◆     ◆



 ティックディック。


 彼はアムスノームでオヴリヴィオンとして活動していたエンチャンターであるが……、彼は多大なる憎しみを抱えており、その憎しみの矛先であるカイルに――復讐しようと彼に近付いた。


 憎しみの根源――それは彼の恋人がカイルによって殺され……、否――彼と言う存在に関わったせいで身を投げたのだ。


 彼に何をされたのかはここでは明かせないだろう。


 なにせ――カイルはティックディックの彼女に……、この砂の国を支配している王と同じような人権を阻害するようなことをしたのだ。


 たった何日かなら我慢できる? そんなことはなかった。


 ティックディックはそこまで疲弊していった彼女を――支えることができなかった。


 肌の色――彼は黒人で、彼女は白人と言う間柄だったが……、それでも愛し合っていた。


 愛し合っていたのに、結婚を約束していたのに……、彼女は――グレイシアは命を断った。


 現実世界のティックディックはあまりの絶望に頭がおかしくなってしまった。


 最初は自分のせいでこうなった。


 自分の支えの足りなさが浮き彫りになった当然の結果だ。


 俺が彼女を見捨てた。


 俺のせいだ。


 俺のせいで彼女は死んだんだ。


 そう心を痛めてきた。


 最初の一年間の間は地獄と言えるような日々。ぽっかりと穴が開いたかのような虚無感を背負いながら過ごしていた……。


 しかしそれも唐突に、絶望から憎悪に変わっていく。


 なぜグレイシアがカイルに殺されたのか。


 それは簡単な話。彼女の親からのお誘いを受けて、彼女のこと、そしてどんな風だったのかを話し、そして外国では珍しい――遺留品を警察に届けようとしていた時に事件が起こったのだ。


 彼女の遺留品を片付けている時に、ティックディックは彼女のスマホを見つけたのだ。


(あぁ、あいつのスマホ。こんなところに……、そういえば……、あいつスマホ持って行かなかったのか……?)


 彼はその時、何気なくそう思いながらもそのスマホを遺族に渡し、そのデータも警察の役に立つだろうと思い、そのデータを漁って見てみると……。


 遺族は目の色を変え――


「……えっ?」

「なんだ……これは……っ!?」


 驚愕の声を上げて、彼女のスマホを見ていた。


 それを見たティックティックは「一体何があったんですか?」と彼が聞くと、その映像を遺族の肩越しから見た瞬間――言葉を失った。


 その画面は――言葉にできないような仕打ちを受けたグレイシアの画像。


 しかもそれはメールで送られており、しかもそれはリンクタグになっているものだ。その画面の下に向かってスワイプすると……、こんな文字があった。



『この画像を拡散されたくなければ、俺の下僕になれ』



 それを見たティックディックは、思わずそのスマホを乱暴に遺族から奪った。


 そしてそれを見て……、差出人を確認してみると……、そこに書かれていた名前が――




 KAIL。




 カイルだったのだ。


 ティックディックはそれを見て、遺族の声を聞かずにそのスマホを手に持ってその場から立ち去る。


 その重要な証拠を手に持ち……、自分でその情報を漁りながら、カイル・マッカーハーンの履歴を調べに調べ尽くした。これでもかというほど虱潰しに探したのだ。


 事実、彼は親殺しをして、色んな余罪を抱えている。


 いわゆる屑野郎。汚く言えばそんな男。


 そんな男に――グレイシアは心を痛めてまで、服従されていたのか。そう思えば思うほど、悲しさが苦しさに変わり、そして憎悪へと変質していく。


 その時、彼は決意した。


(何が何でも……、俺はこの男に復讐してやる……っ!)


(グレイシアがいない世界なんて、もう生きていても仕方ねえ……っ!)


(グレイシアが苦しんだように、同じ苦しみを味合わせた後で、また苦しめて殺してやるっ!)


(ニホンで聞くコトワザ……、『ヒトヲノロワバアナフタツ』になっちまうけど……、それでもいいっ!)


(そいつに復讐しなければ……、俺の怒りと憎しみは、収まらねぇっ!)


 こうして――ティックディックはカイルと昔関わっていた人物に、今彼はMCOと言うゲームにはまっていることを聞いて、彼はそのゲームをして、そして理事長の理不尽なゲームに巻き込まれて……。


 正直――チャンスと思った。そして理事長に感謝した。


(ここでは、PKができる。違法とされていたPKができる)


(ゲーム世界の殺しは、現実では影響されない)


(よく聞くプレイヤーそのものが死んでしまうと、その現実の体が死んでしまうということが起きない)


(ただRCの実験台にされちまうということだけ)


(つまりは生きているということだ……)


(仮想の影響が、現実に反映されない……ってことになる)


(何よりここで殺したとしても、蘇生薬を使えば、蘇生だってできる。つまりこれは――)


 と思いながら、ティックディックは悪魔の言葉に、耳を傾けながら、彼は思ってしまった。


(ここであいつをどん底まで追いつめて殺せば……、復讐が果たせる。この仮想世界で殺しても、現実には反映されないのだから、事実上殺人は犯していない)


 あぁ、なんてこんな簡単なことをしないのだろう。


(ここで殺して、バングルを破壊した後でも――復讐は完遂されるじゃねえか)


 あぁ、なんて素晴らしいことをしてくれたんだ。理事長。


(これは――チャンスだ)


 あぁ、感謝します。理事長……。


 そして、ティックディックは思い至る。


(この世界でカイルを滅多滅多にして殺せば――あいつをめちゃくちゃにできる。そして、グレイシアの仇が討てる!)


 ……人からしてみれば、こんな状況なんて不条理の緊急事態だ。そしてティックディックを見るにあたって、異常だと思う人が多いだろう……。


 いくら復讐だからと言って、殺してはいけない。これは常人が最初に思い至ることで、普通のこと。


 しかし……、中にはこのような状況を喜ぶ人もいる。


 カイルの様に、ジンジの様に……、そして、ティックディックの様に……。


 普通が壊れてしまった人は……、普通の思考が壊れてしまっているのだ。


 仮想世界だからこうしたらなんにでもできる。その可能性が、彼らを狂わせて行ったのだ……。元から狂っている人は、更に狂っていく。


 ハンナが出会ってきた人達は、誰もがまともな思考だっただけで、世の中にはこのような輩もわんさかといるのだ。


 ティックディックもその一人で、だった人物。


 アムスノームの一件で、彼はロフィーゼの死亡を目にした瞬間――『デス・カウンター』が出た瞬間……、頭が真っ白になり、考えるよりも行動が先に出ていた。


 ティックディックは、カイルの腕を切り落とした。


 その時感じた、カイルの阿鼻叫喚のその顔を見て、彼は思った。


(ああ、呆気ねぇ)と。


 そしてティックディックはライジンの浄化の後――カイルの腕を、バングルがついたそれを手にもって……、思いのたけをぶつけるように……。


 それを破壊した。


 ばきんっと、静かな空間に響くそれを出しながら……。彼は破壊した。


 これで復讐は完遂。しかし――


(やっとあいつに復讐出来た。なのに達成感がねぇ……)


 心の底から湧き上がってこない高揚感。


 逆に湧き上がってくるのは……、喪失感。


 それを感じたティックディックは、アムスノームを後にして、自堕落ではないが、何の目標もない生活をしていき、今に至って――砂の国にいる……。


 ハンドルネーム:ティックディック。現実名:デューク・デイバーストの回想にして彼のその後の物語……、終了。


 そして――開幕。



 ◆     ◆



 砂の国――国境の村とエルフに里のちょうど中間地点にあるとある村。


 そこでティックディックは、ぼろ布を体の纏って、その村の酒場に寄りながら所持品の整理をしていた。現在――彼は一人である。


 酒場は屈強そうなバトラヴィアの鎧を着た兵士達が、朝から酒を飲んでワイワイと騒いでいた。


 それを見ている村の人、酒場の店主は――何も言葉を変返さず、愛想笑いを振りまくだけ。


 そんな光景を見ながら、できるだけ面倒なことは避けようと心に決めているティックディックは、小さな丸いテーブルに置いた所持品兼所持金を調べる。


 そして……。


「うーん……」と、腕を組みながら、仮面越しに顔を顰めるティックディック。


 それもそうだろう……。


 所持品――


 袋に入った三日分の食料――しかし固いパンなど保存食なので、味っけないし飽きるものだらけ。


 装備品でもある『マジックリング』。これは指にはめ込むだけでスキルが使える、杖代わりの装備。しかし攻撃に使うことはできない。


 所持金十万L。最近クエストをこなしていないので、できればここでクエストや魔物を倒して素材を売りたい。しかしエンチャンターなのでできない。ゆえに節約しないとすぐになくなる。


 回復薬と魔力回復薬――上回復薬二本に上魔法回復薬五本というアンバランス。回復薬を買いたいのだが、これまた高いので変えない。強いて言えば蘇生薬が欲しいところだが、これも同じ理由で無理だろう。


 アイテムは身代わりの機械人形。これを使えば敵を引き付けることができ、戦闘から逃げることができる。だが使うことができるのは一回限り。使いまわしなどできない。更に言うとコストもかかる (定価五万L)。


 そしてダイナマイト一つ。これはわかりやすいもので、使うと広範囲にダメージが及ぶそれである。もともと十本入りのそれだったが、今となっては一本しか残ってない。更に言うとコストもかかる(定価二万五千L)。


 以上が、彼の所持品兼所持金である。


 それを見て、ティックディックは――


「はぁ」


 と、頭を抱えながら頭を垂らし、そしてため息を吐いた。


(マジで阿保だったわ俺)


 ティックディックは思った。と言うか……。砂の国に入ったハンナ達とは違う理由だが、彼もまた……。


 後悔していたのだ。


(まさか砂の国にギルドがないだなんて、誰も想像していなかったとおもうぜ?)


(アクアロイアにはギルド一つしかないのはわかった。これならアルテットミアに残ってコツコツと稼いでおけばよかったな……)


(ていうか、あそこにいると……、なんだか後味が悪いというか、居心地が悪いというか……。あそこにもしかしたら、ロフィーゼやコーフィンがいたらたまったもんじゃねぇ)


(アクアロイアでひっそりとしておけばよかったなぁ。あそこでちびちび生活費を稼げばよかったのか……? どっちにしても……、あっちでも稼ぎは少なすぎる)


「くそ……、くそめんどくせぇ……」


 ティックディックは荷物をまとめて酒場から出ようとした時……。


 だぁんっ! と、テーブルを叩く音が聞こえた。


 その音と振動、更にはそのあとに聞こえた怒声を聞いて――彼は肩をびくつかせた。その怒声とは……。



「いい加減にしろってっ!」



「?」


(喧嘩か……? びっくりさせんなって)


 そう毒を吐きながら、ちらりとティックディックはその声がした方向を見る。苛立った表情を仮面で隠しながら、そしてその光景を見て。


(お)と――驚いてその光景を横目で見てしまった。


 その声がしたところにいたのは――とある四人の冒険者だった。


 誰もが右手首につけられた白いバングルを身に着けて――そして互いの顔を見て、己の感情をぶつけながら、声を上げたであろう重厚そうな青い鎧を着たオレンジの短髪の青年が、声を荒げながら、そのテーブルを囲いながら立っている魔導士の服を着た金髪長髪の女性と、ピンク髪のサイドテールが印象的な背中二長剣を背負った女性。そして黒いマントで身を包んだ、一見してみれば吸血鬼と思わせる服装を着ている白髪の男性を見て、彼は怒りのままにこう叫んだ。


「確かになぁ――俺だってここに行こうって言ったのは悪いと思っている。でもお前たちだってここに行こうって賛成しただろうがっ!」

「賛成なんてしていない! 勝手に解釈しないでっ!」


 そう重厚そうな鎧を着た男性に反論したのは――剣を背負った女性だった。


 女性はばんばんっとテーブルを叩きながら続けてこう反論した。


「私は多数決で渋々承諾しただけ! と言うか何リーダーぶってんのよ! リーダーはあ、た、し! でしょうがっ!」

「何リーダーぶってんだよ! 女のくせに調子に乗るなよっ! リーダーっていうのは代々男がするものなんだよっ! 女は黙って男の言うことを聞けって!」

「なのよそれっ! 女だからって男の言うことを聞けですって!? 信じられないっ! 調子こいてんのはお前だろうがこんの屑カスッ!」

「なんつったこの女ぁっ!」


 口論の末、剣を背負った女と重厚そうな女は、とうとうその場で武器を持った喧嘩をしそうな雰囲気を醸け出す。と言うかすでに寸前だ。


 それを見ていた魔導士の女ははぁっとため息を吐きながら、生気のない目をして小さく何かをつぶやいていたが、聞き取れない清涼であったが故、何を言っているのかわからなかった。


 そして黒いマントを身に纏った男はその光景を見ながら……。


「男女差別はわかる……」と、小さい声でつぶやいた瞬間、その言葉を聞いていた剣を持った女は、じろりとその黒いマントを纏った男を睨んで――


「あんたそうやってねちねちして、むかつくんだけどっ! 言いたいことがあるならはっきりと言ってほしいんだけどっ!?」

「っ!」


 それを聞いたマントの男はぎょっとしながら顔を青ざめ、ぐっと唇をきつく噛みしめながら言葉を詰まらせる。


 それを見ていた重厚そうな男は、それを聞いて――


「おい! お前この女の言いなりになって恥ずかしくねえのかっ!? 少しは言ってやれっ! 『屑女はとっとと死ね』ってな!」

「あぁ!? 何言ってるんだこのくそ野郎っ!」

「んだとこらぁ!」


 どんどんと、ドロドロと、じくじくと……。


 酒場の空気が淀んでいく。


 先ほどまで騒いでいた兵士達が、酒を飲む行為を取りやめ、不機嫌な顔のままその冒険者を見、そしてその風景を見ていた酒場の店主や客が、その光景を見ながら言葉を失って、パクパクと口を動かしていた……。


 まぁ仕方ないかもしれない。


 皆がこんなファンタジーの世界を満喫するような度胸などない。大半は帰りたい。出たいという気持ちの者が多いだろう……。


 ハンナの様にクリア目指して頑張ろうなんて人は一握り。


 と言うかひとかけらしかないと思ってもいい。


 殆どの者達は、最初こそ奮起するが、その奮起も冷めて、やがて沈下してしまう。


 飽きるというものではない。しかししいて言えばこうだ。


『誰かがやるだろう。俺達が頑張っても意味ないし。っていうかめんどくさい』


 である。


 しかし帰りたい。でも帰れない。


 自分でなんとかしたいけどできない。早くしろ。


 ………………エトセトラ。エトセトラ。


 結果として何が言いたいのか? 簡単だ。




 他力本願なのである。




 誰かがしてくれるなら自分たちは何もしなくてもいい、でも遅いと困る。


 ティックディックもそう思いながら、怒りで我を忘れているその冒険者もといプレイヤーを見て、彼は思った。


(こいつらも、馬鹿だな)


(他力本願っつってもな……、誰だって一日解決できる奴なんて、物語に登場するキャラクターにしかできないんだよ)


(そうやってぴりっぴりしている暇があるなら……、ちょっとは行動しろっつうの)


 そう呆れながらティックディックは面倒ごとに巻き込まれるのは御免と思い、そっと酒場から出ようと、テーブルにリンズを置いて立ち去ろうとした。


 その時――





 ばぁんっ!





『!!』


(ん?)


 ドアから大きな音……、否、破壊音が聞こえたのだ。


 ティックディックはドアの方向を見て、言葉を失いながらその光景を見た。


 小さな酒場では到底入りきらないような横の長さ。そのドアを壊した張本人は、『ギャギャギャギャッ!』と、機械の音を立てながらドアと壁を壊して酒場に無理やり入る。


 それを見ていた兵士は『オオオオオォォォーッ!』と歓喜の声を上げ。


 酒場にいた客人と亭主は、ざぁっと青ざめながらその光景を見て――


 冒険者達はそれを見て怒りのまま首を傾げ。


 ティックディックはそれを見て、頭を抱えた。


(出るの遅すぎた。なんつう最悪な日……)と、ティックディックは、己の運の悪さを呪いながら頭を抱えて、部屋の片隅に隠れながらひっそりとして逃げる時を待っていた。


 酒場の店主は、冷や汗と涙を溜めながら、入ってきた人物を見て、震える音色で、引き攣った笑みを浮かべながら――


「い、い、ら、いらっひゃいまふぇ……っ!」と、声をかけた。


 その声を聞いていた上半身黄色と銀色が混ざった鎧を着た、下半身がなぜか、『、筋骨隆々で、毛が濃いアフロヘアーの大男が、背後に何人かの兵士を侍らせながら、『ギャギャギャギャ』と、下半身のキャタビラを稼働させて前に向かいながら、亭主に向かって近づく。


 それを見て、さらに震えと恐怖を吹き上げる客人と店主。


 びくっと体を震わせているところを見たティックディックは、不穏な空気を感じながら(そろそろ出よう)思い、酒場の出口に足を向けようとした時……。


 ――ザッ!


「っ!?」


 突然だった。


 突然背後にいた兵士と、そして酒場で飲んでいた兵士が、一斉に冒険者四人とティックディックに、機械の光線の銃を向けていたのだ。


 それを見た四人は、ぎょっと驚きながら「なんだよこいつっ!」や、「なんであたしまでっ!?」や、「早く帰りたい……」などと、色んな言葉を並べながら兵士に向かって抗議しようとしていた。


 しかし兵士は聞く耳を持たないどころか、更に銃口をその冒険者に突きつける。


 それを見た四人は――上ずった声を上げて身を縮こませる。


 ティックディックはそれを見て、なんとなく察したのか、そのままそっと手を上げて黙る。


 逃げることも戦うこともしないで、彼はその場で手を上げていた。


 アフロ男――バトラヴィア帝国掃討軍団団長ガルディガル・ディレイス・グオーガンこと……、ガルディガルは店主を見て、そして懐から取り出したその紙を見せて、こう聞いた。


「貴様――ここに写っている青が視の女を見なかったか?」


 それを見た店主は、首を傾げながらその写真を凝視した。


 ちなみに、写真はバトラヴィア帝国でしか使われていないもので、他のところでは、瘴輝石を使った『写映』や、魔導具のホログラムが使われる。しかしここではそんな魔道具の類は一切ない。すべて異国から取り寄せた機械の技術を使っているのだ。


 武器である秘器アーツは特別な原料を使っているのだが、そこは後日語ることにする。


 それを見た亭主は、首を振りながら「いいえ……」と、大の大人が泣きそうになりながら言葉を発した。それを聞いたガルディガルは、大きくちっと舌打ちをして顰めた顔のまま、背後にいる兵士を見て――


「まだ来ていないようだっ! 直ちにここに野営を立てよっ! ここで待ち伏せて、国にとって危うい輩は早めに摘む! すぐに用意しろっ!」

『っは!』


 と、ガルディガルの言葉を聞いた兵士達は、すぐに敬礼をして返事をする。


 それを聞いたティックディックは胸を撫で下ろしながら内心……、(これでやっと解放される……)と思い、そっとその場から逃げようと足を動かそうとした時……。


 運命は、彼の味方をしなかった。


「団長っ!」

「なんだ?」


 声がしたので、ティックディックはその声がした方を見て、内心首を傾げながらその話を聞いていた。兵士は四人の冒険者を指さして、ガルディガルに向かってこう言った。


「この者達ですが、酒場で休憩をとっていた兵士の邪魔をし、あろうことかこの場所で剣を手に持ったらしいのですが……」


 と言った瞬間、冒険者四人は、首を傾げながら怪訝そうな顔をしてガルディガル達を見ていた。


 ガルディガルはそんな四人を見て、内心苛立った顔をしながら――通告した兵士を見て……、こう言った。



「――ならば、大罪人として帝国に連行する! としてなぁっ!」



「「「「っ!?」」」」


(っ! おいおいおいおいっ!)


 あまりに唐突にして理不尽な言葉に、四人の冒険者とティックディックは言葉を失いながらガルディガルを見た。


 そして――魔導士の女はガルディガルを見て、震える音色で彼女は聞いた。


「な、なんで私達を……? 確かに騒いだことに関しては悪いと思っている……っ! でもそれで奴隷になれって……」

「帝国には、帝国なりの法律がある。その中に……、こんな法律があるのだよ」


 と言いながら、『きゅるきゅるきゅる』と下半身のキャタビラを稼働させて、冒険者四人に近付きながら、ガルディガルはにやりと笑みを浮かべて、狂喜の笑みを浮かべて、彼はこう言った。


「『バトラヴィア帝国法』に法り――兵士の休息を妨害した『妨害罪』に法り……、貴様らを奴隷刑に処す! これはもう決定したのだ。休息をとっている兵士の邪魔をした貴様らは悪いのだ」


 それを聞いていた四人は、ざぁっと青ざめながら、その話を聞いていたが、さっきまでの鬱憤が溜まっていたのか、重厚そうな鎧を着た男が、ガルディガルを指さしながら――


「何が邪魔した罪だ! そんな法律誰が従うかよっ! くそったれっ! こんのくそ帝国の犬がっ! 死ね! しね! シネヤコラァッッッ!」

「ちょっ!」


 魔導士の女はそんな発狂した重厚そうな鎧を着た男を止めようとした時……。


 ガルディガルはそんな四人を見下ろし、そして血走った目と、浮き出た青筋をぶつんっと引きちぎりって――否、ブチ切れて、彼はその四人を指さしながら、怒鳴った。


「変更っ! 『帝国侮辱罪』により! この男をこの場で処刑せよっ! そして他の三人は奴隷層へ即刻連行! 奴隷のイロハを叩きこませろっっ!!」

『っは!』

「「「ひぃっ!」」」

「え?」


 重厚そうな鎧を着た男は呆けた声を出して……、そして肌の色素を失わせながら、その状況を呑んだ。否――飲み込む前に、兵士達に両肩を掴まれながら、男はそのまま『ずたんっ』と岩とコンクリートが敷き詰められた床に叩きつけられる。


「うぎゅっ!」と唸る重厚そうな鎧を着た男。


 そして他の三人は兵士達に捕えられ、手足を拘束されて身動きが取れない状態になる。そんな中。ガルディガルはこう言った。その三人と、この場で処刑にされてしまいそうな男を見下ろし、『きゅるきゅきゅる』と音を立てながら前に向かって進みながら彼はこう言った。



「この場で処刑にするのは惜しいものだ。今ではアクアロイアから補充した奴隷が反旗を翻し、バトラヴィアの奴隷達を見せしめにしている。今ではそのアクアロイアの奴隷たちも処分し、大方片付いたと思うが……、それでも足りない状況だ。ゆえにお前たちで足しにしようという時に、なぜ反抗するのか、しかも……、崇高なる偉大なバトラヴィア帝国を愚弄する発言……っ! あの時と同じだ……っ! 許すまじっ! 許すまじき行為であるっ!」



 ガルディガルがそう言いながら、奴隷になってしまうであろうその三人を見て――彼が品定めをするかのようにじっと……、三人の頭のてっぺんから、つま先まで、目を上下に往復しながらその体を五回見てから、彼は言った。


「よぉし……。白髪は体つきが弱そうだ。ゆえにお前は実験台奴隷だなっ!」

「っ!?」

「桃色の髪の女は平民、貴族達の召使だ! その身を削っておもてなしを心掛けろっ!」

「はぁっ!?」

「金髪! お前はなかなかの美貌だ――お前は王直属の奴隷侍女として王にすべてを捧げろ! 光栄に思えっ!」

「…………っ!」


 それを聞いて、ティックディックは思った。仮面越しに、顔を不快感に歪ませながら……。


(きめぇなぁ……)と思いながらも、その冒険者の自業自得を憐れな目で見て、溜息を吐くと――ティックディックにとって最悪な一日の始まりを告げる言葉が……、彼が少し馬鹿にしてしまった冒険者の方から飛び交った。


 いうなれば――流れ弾だ。


 ふと、白髪の男は震える瞳孔と肩で辺りを見回しながらティックディックを視界に捉え、彼は記憶の箪笥を漁りに漁って、そして――


「そ」


 と、声を上げ、ティックディックを見て彼はこう言った。




――




 誰もがティックディックを視界に捉え、ガルディガルも視界に捉えてティックディックを見た。


 ティックディックは手を上げた状態で――仮面越しに目を点にした状態で……。


「……はい?」と、素っ頓狂な声を上げて目をぱちくりとさせた。


 これが、最悪の一日の始まりだった。

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