PLAY34 『六芒星』幹部・ガザドラ ⑤

 ――ぎぃん!


「っく!」


 シェーラの刺突の攻撃を難なく装甲と化している腕で止め、ガザドラは咆哮を上げながら血走った赤い目でシェーラに向かってその拳を振るう。


 シェーラはそれを見ながら思った。


 くいっと、ガザドラの視界から消えるように右手で振るおうとしたその外側に逃げ、ガザドラの脇の下を通りながら彼女は思った。


 ――なんだか、急に魔法の性質と言うか、動きが変わった……っ!


 ――魔法の性質とかそんなのわからないけど……、それでもこんなのおかしい。


 脇の下を通り、そして背後からガザドラの背骨を狙いつつ、彼女はぐっと持っていた剣を、フェンシングの要領で突くように前にしてから彼女はぐっと足に力を入れて、一気に突きを入れる。


 ひゅんっという音が出るくらいの勢いで。


 しかし……。


 ガザドラは咆哮を上げながら『ぐるんっ』とシェーラがいる背後を振り向き、固い装甲で身を包んだその手を突き出し、ぎぃんっ! と言う金属音を出して、シェーラの刺突の攻撃を止めてしまった。


 それを見たシェーラは冷や汗を流してはいたが、彼女はにっと笑った。


 ガザドラはそれを掌で止めたが、それを狙ってシェーラは、反対の手に持っていた剣を使って、その剣を鞭のように変形してから、彼女はぶんっとそれを大きく振った。


 そのまま――ガザドラの首元に当たるように、刃を向けているので峰内などではない切り裂きを繰り出そうとした。が…………。


 ガザドラの背後を狙って、シェーラを囮にして追撃するブラドとジルバ。


 ガザドラの背後で小さく跳躍し、ブラドはそれを上段切りをするように両手でしっかりと大剣を握り、ジルバはシェーラを囮にしたことに少しだけ心を痛めながら――そのまま握り拳で殴るように、仕込みの剣を出したままその体制で貫こうとする。


 その間に……。


「――『樹の這手フォレスト・ハンド』ッ!」


 ザンバードがガザドラの足元に木で出来た手をずるりと這い出して、そのままガザドラの足を掴む。


 ガザドラはその感触を感じて下を向くと……。


「――『猛吹雪』っ!」


 足元に来た急激な冷気……、否――これは吹雪だ。


 シェーラはそのまま後ろに跳び退きながらガザドラから離れて、剣を元の形に戻す。


 バキバキと、ガザドラの足とザンバードが発動させた樹が凍っていく。


 樹に巻き込まれる形で、ガザドラの足が凍り、そして腰の辺りまで凍ってく。


 それを感じたガザドラは、意識が覚束ない中、その凍った足に向けて、ガンガンっと拳を打ち付ける。しかし体を装甲で覆った鎧でも壊れない。


 その破壊に集中している間に……。凍らせた張本人キクリは背後を横目で見て――


「今!」


 と叫ぶと、だっとキクリの背後から駆け出したセイントとキョウヤ。


 セイントは肩に乗っているさくら丸に「しっかり捕まっていろ」と言うと、さくら丸は鳴きながら尻尾を振った。


 キョウヤはぶぅんっと走りながら槍を振り回し、すでに背後で攻撃を仕掛けているブラドとジルバを見て、自分の尻尾をしならせながら、地面に向けて――


 びたぁんっ! と弾くように叩いて――一気に急接近する。


 ガザドラの視界から一気にいなくなったと同時に、彼の懐に入り込んで、刃を向けてから、彼はぐるんっと一回転をする。狙いは胴体に向けて、一気に横一文字の切り傷を入れようとした。


 セイントも走りながら剣を突き付けて――スキルを発動させようとした。<PBR>

 だが――



「うああああああああああああああっっっ!」



 ガザドラはぐわっと天に向けて咆哮しながら、彼は胸を張りながら叫ぶ。すると――


 にゅっと、


 それを見たキョウヤは、攻撃をやめて――すぐにセイント、ジルバ、ブラドを抱えながら、シェーラがいるところまで尻尾を使って駆け出すと同時に、その威力を使って、素早くシェーラを抱える。


「ぬっ!?」

「あらぁ?」

「うぎゃっ!」

「へっ? またぁっ!?」


 各々が驚くと同時に……。


「ううがああああああああああああっっっ!」


 ガザドラの叫びと呼応しているのか……、彼の体を覆っていた装甲から、。まるでその光景は、ハリネズミの全身バージョンと言った方がいいだろう。


 そのまま前方後方左右に出ては、キョウヤやキクリ、ザンバードを寄せ付けないかのように伸びていく棘。


「っっだーもうっ! これかっ!」


 キョウヤはその光景を見て、苛立った音色で叫ぶと、抱えられているジルバは引きつった笑みで「これで何回目だろうネぇ」と、疲れたような音色と言葉で言う。


 ――さっきから……。と、キョウヤは思った。苛立った表情で、彼はガザドラの行動を見て睨みながら思った。


 ――さっきから俺達が近付くと、遠距離の攻撃を仕掛けてくる。


 ――逆に離れると近距離で攻撃して、追撃されそうになる。


 そう。


 キョウヤの言う通り、言葉通りの戦い方をガザドラは自我を失いつつもそうして、攻撃する隙を与えないようにしているのだ。キョウヤ達はザンバードからガザドラがしたことを聞いていた。


 己の体力や生命を使い、それを魔力に還元している。


 だが、さっきからこの攻撃を繰り返している。それを見てキョウヤは四人を抱えながらザンバードがいるところに戻り、そして聞いた。


「あ、あいつ……っ! 体力を削って魔力を上げているんだろうっ!?」

「あぁ」


 ザンバードは頷く。


 それを聞いていたキクリも思い出したかのように、ザンバードを見ながら――「まさか……、魔術の禁術を使ったの? でもそれを覚えているのは……、何人かしか知らないはず……っ!」と、驚きながら言うと、それを聞いていたザンバードは、小さくこう言葉を零す。


「……、『が教えたんだろう。切り札と言って、あの魔術を教えた。己の命と体力を引き換えに、今あのオスの魔力は、膨れ上がっているだろう」


 キョウヤはジルバ達を下ろしながらその話を神妙そうに聞く。ジルバ達もそれを聞いていると、セイントが戻ってきて、そのガザドラの光景を見ながら、ザンバードにこう聞く。


「体力が減ると同時に、魔力が増えるのであろう……? ならばなぜ、私達の攻撃を受けずにいる……? さっきまで受けていたのが嘘のようだ」


 そう言うと、ザンバードは、ぐっと目を瞑りながら……、しゅんっと装甲の棘を引っ込めたガザドラを見て、彼は重い口を、そっと開けた。



「――……」と――



 それを聞いたシェーラが、目を見開いて、嘘だといわんばかりの驚愕に染まりながら……。彼女はザンバードに向かって声を荒げた。


「僅かって……。まさか、もう――っ!?」


 その言葉に、ザンバードは――頷いた。


 皆がガザドラを見る。ガザドラは血走った血のような目でキョウヤ達を見ていたが、その目と表情は、とても痛々しいもので……、常に泣いているような目で、キョウヤ達を見て、唸っていた。


 それを見て……、ぐっと武器を握っていたみんなだったが……、一人だけ例外がいた。


「まぁ……、それでいなくなってくれるなら、俺はそっちの方がいいかな……?」


 ジルバは首元に手を添えながら、ごきりと首を鳴らす。


 それを聞いていたシェーラたちは、目を疑うようにジルバを見て、言葉を失っていた。その言葉に異常に反応したのは……、セイントだった。セイントはジルバに近付きながら、ぐっと胸倉を掴み上げて、彼はジルバにこう聞いた。静かな怒りを乗せた低い音色で、彼は聞いた。


「いなくなって……? それは、見殺しにするということか……?」


 その言葉にジルバは頷き、胸倉をつかんでいるセイントの手をぐっと掴みながら――真剣な音色で、低くこう言った。


「俺達は死んじゃったら終わりなんだ。誰だって自分の命が最優先。ガザドラと、あの子が例外なんだヨ。部下や俺達を優先にして動くなんて、普通は考えられない。つまるところ……、異常なんだヨ。ゲームで相手が自爆とか相手の誰かを捕食して、敵が一人減る。それでラッキーって思うでしょ? それと同じで、このまま命が尽きるのを待っていれば、いずれ沈下する。それで」



「よくないわ」



 そう言ったのはシェーラで、シェーラの言葉を聞いていたジルバは、そっとシェーラを見下ろす。シェーラは怒りの眼でジルバを睨みつけて――彼女はこう言った。


「そんなの……、弱虫がやることじゃない」

「そうだネぇ」


 と言いながら、ジルバはセイントの手を無理やり掴み上げて離してから、彼はシェーラを見下ろして、そして力ない笑みでこう言った。



「俺――弱虫だもん」



 その言葉を聞いていたキョウヤは、ただただジルバの表情を見ているだけだった。シェーラは苛立った顔をして、セイントと同様にジルバを目の敵にするように見ていた。


 ジルバはそんな二人を見ながら、ただただ笑みを浮かべている。キョウヤはそんな彼を見て……、ふと、こう思って見てしまった。


 ――この人……。


 そう思った瞬間だった。


「うおああああああああああっっっ!」


 ガザドラが叫んだと同時に、キョウヤ達はその声がした方向を見た。すると……、ガザドラはキョウヤ達に向けて、先ほどと同じ構えをとって、ぐっと胸を張っていた。それを見たシェーラは、顔を驚愕に染めながら……、「まさか……っ!」と身構えてしまう。


 その言葉が合図となってしまったのか、ガザドラは咆哮を上げながら……、シェーラ達に向かって、先ほどと同じようにばしゅっとハリネズミのような棘を生やしながら、攻撃をしようとした。


 キクリはそれを見て、すぐに詠唱を放とうとしたが、あまりにも早すぎる。


 ――これだと間に合わないっ!


 そう思った時には、キクリの首元に棘の先が来ていて、今にも彼女の首元を突き刺そうとしていた。それは、キョウヤとジルバ、ブラドとシェーラ、ザンバードも同じで……、その棘が、彼らの喉を抉ろうとした時……。



「――『死出の旅路カース・オブ・リレビト』」



 その声が聞こえた瞬間、ガザドラの足元に出てきた大きな黒い穴。


 その黒い穴にずっぽりと入ってしまったガザドラは体のバランスを崩してしまい、すぐに棘を引っ込めてしまった。


 キクリ達に突き刺さろうとしていた棘がなくなり、キクリは声がした方向を見ると……、そこにいたのは――先ほどガザドラによって倒されていた……。


「っ! 団長さんっ!」


 ヘルナイトと、その背後にシイナの腰に抱き着いているハンナがいた。



 □     □



「シイナさん……大丈夫ですか?」

「………き、き、き、緊張して吐きそう……っ!」

「大丈夫ですよ。きっとうまくいきます。ヘルナイトさんができるって言っていたから」

「き、君……、すごいくらいヘルナイトのことを信頼しているんだね……。お、おれ……、緊張のあまりに体温が低くなっているのに……っ!」

「え……? それはどういった仕組みで……?」


 今現在、私はシイナさんの腰に抱き着きながら話している。


 ヘルナイトさんが建てた作戦をもとに、私達はすぐに行動に移した。


 この作戦の要となるシイナさんのすぐ近くに、私は配置されてしまった。ヘルナイトさん曰く……。


「今回はシイナが要だ、ハンナはそのあとのことを頼む。だから一番安全な術者の近くにいてくれ」


 だった。


 私はシイナさんに早速抱き着きながらシェーラちゃん達を見ると、シェーラちゃん……、と言うかセイントさんとジルバさんが何か揉め始めて、ガザドラが攻撃を仕掛けた瞬間、ヘルナイトさんは詠唱を発動させた。


 キクリさんはヘルナイトさんを見て、驚きながら喜んで――


「無事だったのっ!?」と聞くと、ヘルナイトさんは「ああ」と頷いて――


「少々油断した」と言った。


 それを聞いてヘルナイトさんの姿を認識したキョウヤさんとブラドさん、そしてシェーラちゃんはほっと胸を撫で下ろして……。


「油断って、なんで油断なんてするんだよっ! ったくぅ! こっちの身にもなれってぇ! あとシイナ許さないからなっ! おぼえてろぉ!」

「?」


 すると突然私達の後ろから声がした。私はシイナさんの背後から抱き着いているので、後ろを向くことしかできなかった。みんなが私の背後を見て、私は驚きながらその光景を見て――


「アキにぃ!」と叫んだ。


 アキにぃはガザドラの部下達に銃口を向けて、私達の方を向いて大声を張り上げながら「こっちは何とかする! だからガザドラを頼んだ! そしてシイナ後で覚えていやがれっ!」と言った。


「ブレねぇなぁお前は」


 アキにぃの発言にキョウヤさんは首を振りながら突っ込む。シイナさんはそれを聞いて、びくっと顔を強張らせた。恐怖で……。


 それを聞いていた私は、クスッと微笑みながらシイナさんを見上げて――


「アキにぃもシイナさんを信頼しています。絶対にうまくいきますから、頑張りましょう」と、応援の声を上げた。


「いや、おれなんだが死にそうな雰囲気なんだけど……っ! だ、大丈夫なのかな……!?」


 シイナさんはそれでも顔を青くさせていたけど……、ヘルナイトさんはシェーラちゃんに向かって叫んだ。


「ザンバード殿にキクリ! 二人は離れてくれ! 私に考えがある! 族長殿とロフィーゼの近くにいてくれ!」

「! ええっ!」

「っ!? わ、わかったっ!」


 キクリさんとザンバードさんはその言葉を聞いて、すぐにシャズラーンダさん達がいるところに向かった。


 ロフィーゼさんはその言葉を聞いて、「いったい何をするのぉ?」と首を傾げていると……、ヘルナイトさんは続けてこう言った。


「キョウヤ、ブラド、シェーラ、セイント殿! 四人は互いを長点にするように、菱形の陣形を作ってくれ! ガザドラを取り囲むようにだ! ブラドとセイントは風の力を、その後でキョウヤが打ち込み、私が動きを止める。完全拘束はシェーラ、お前に任せる! いいかっ!?」

「「お、おぅ!」」

「わかったわっ!」

「…………心得たっ!」


 それを聞いた四人がそれぞれ動くと、ヘルナイトさんはジルバさんを見て――


「……少しの間、揺動を頼みたい」


 それだけをジルバさんに言った。ジルバさんはその言葉を聞いて、じっとヘルナイトさんを見た後、私を見た。私はそのジルバさんの眼と、そして青すぎるもしゃもしゃを感じて、私はジルバさんをじっと見た。


 ジルバさんはふぅっと息を吐き――肩を竦めながら……。


「わかったヨ」と言って、鎧から出てくる棘を使って、その穴から脱出したガザドラを見上げて、ジルバさんは姿勢を低くして、走るスタンバイをする。四人も配置について、左右にブラドさんとセイントさん。私から見て上がキョウヤさん、下がシェーラちゃんと言う配置で立っていた。


 それを見たヘルナイトさんは指をパチンッと鳴らすと、黒かった地面が元に戻り、ガザドラはそれを見下ろしてしゅんっと棘を引っ込めた後、どんっと地面に足をつける。ジルバさんはそれを見てだっと駆け出すと、そのガザドラの周りをまわりながら、攻撃を避けつつ避けることに専念する。


 すると……。


「か、風を纏いし大いなるつるぎよ」

「さぁさ凍てつくせ――氷の聖霊よ」

「鼓舞しろ、高鳴らせろ、踊り給え」

聖騎士属性魔法ブレイブ・エレメントスペル――」


 ブラドさんが、シェーラちゃんが、キョウヤさんが、セイントさんが言う中……、ジルバさんは揺動を繰り返しながらトリッキーな動きをしてガザドラを翻弄していた。


 ヘルナイトさんは手をかざしてその時を待つ。


 確実に、ガザドラを殺さないで、かつ止める方法を作るために。


 シイナさんのためにその時を待つ。


「わ、わが刃燐じんりんたる意志の風に乗せ、彼の者にこの調べとともに、風の怒りを与えん」と、少し恥ずかしそうに、棒読みになりながらブラドさんが言う。


 そしてそれと同時に――


「我思うはこの吐息はそなた達の優しき調べと眠りの知らせ。我願う――命与えし原水と対をなす、命のともしび凍らせんその吐息にて……半永劫の眠りを与えん」

「蜥蜴の鋼の意志、蜥蜴の確固たる戦士の魂よ。我思うはこの鼓舞の舞は我らの決意。我願うはこの意志の力を、魂を鎧に変え、我と共に踊り狂わん」


 シェーラちゃんとキョウヤさんがその詠唱を言った後……。ヘルナイトさんはすぅっと息を吸って――ジルバさんに向かって言った。


「今だっ!」それと同時に、ジルバさんはその場から逃げる。そしてそれと重なるように――



「――『竜巻斬スラッシュ・サイクロン』ッ!」

「『エレメントザン』ッ!」



 がんっとブラドさんは風を纏った大剣を振り下ろして、横から出る竜巻を起こした。セイントさんも同じような風を出して、中央にいたガザドラを風の力で動きを止めた。


「あががががっががあああっ!」


 と、ガザドラは叫びながら、その風を受けている。


 するとキョウヤさんは、くるり、くるりと回りながら、まるで槍を持って踊っているかのように、たん……。たん。と。リズムを作りながら回って、そしてキョウヤさんは、ぐるんっと槍を振り回しながら、ガザドラに近付き――



「――『志高き蜥蜴の乱舞踊リザード・ワルツ』」



 と言った瞬間、風を、そしてガザドラの鎧や体を切りつけながら、踊るように攻撃するキョウヤさん。その最中、しゃりんしゃりんしゃりんっ! と、いくつもの音が聞こえる中、キョウヤさんは詠唱が切れたことに気付き、ボロボロと化しているガザドラから離れるように、びたんっと尻尾をしならせながら、その場所から離れる。そしてヘルナイトさんを見ながら――


「ヘルナイトッ!」と言うと、ヘルナイトさんはすっと、指を鳴らすように手を突き出して……。


「――『亡者蜘蛛の糸カース・スパイダーネット』」



 と言った瞬間、ヘルナイトさんは指をパチンッと鳴らした。すると――


 ところどころの影――シェーラちゃん達の影から黒い糸がばしゅっと出てきて、驚くガザドラの体を拘束してぐるぐる巻きにした。


 それを見ていたキョウヤさん達は驚いていたけど……、ヘルナイトさんはシェーラちゃんに向かって頷くと、シェーラちゃんは両方の剣を地面に突き刺して――



「――『氷河の再来リ・アブソリュートゼロ』ッ!」



 と叫んだと同時に、ふわっと冷気が空気中に漂い、そしてばきばきばきと、ガザドラに向かってその冷気が襲い掛かったのだ。そのまま冷気に包まれてしまうガザドラ。


 その光景を見て、キョウヤさん達は呆然としていると――


「は、離れてっ!」と、私は叫んだ。


 それを聞いた四人とジルバさんは、その場から離れて――ヘルナイトさんはシイナさんに向かって……。


「いいぞ。これで……、終わる」


 そう言って、ヘルナイトさんは氷漬けになりかけているガザドラを見て言った。シイナさんは頷いて、そして手に持っていた杖を掲げながら、彼は言った。<PBR>

 ガザドラの上空に浮かんでいる、大きくて、ドロドロとした黒い液体の塊を……、振り落とすように――



「――『大災害の元凶ブラックショーカー・パンデミック』ッ!」 



 その黒い液体を、半分凍っているガザドラに向けて――浮かす力を消した。


 浮かす力がなくなり、黒い液体の塊は重力に従って落ちていく。最初はゆっくりと、そしてどんどん加速して落ちていく。それを見てガザドラは顔と肩だけは凍っていなかった。でも体が凍っていたので……、逃げようとしたけどできない状態だった。


 だから……。


「がああああああああああああああああああああっっっ!!」


 半分怒り、半分絶望。そして微かに見えた驚愕の叫びと共に――


 その液体はガザドラに向かって落ちて……。




 ――ドッパァァンッッッ!




 と、ガザドラがいたところにそれが大きな水音を立てて落ちた。大きさと比例しているのか、落ちた瞬間にその黒い液体は私達に向かって押し寄せてくる。


 キョウヤさんはシェーラちゃんを担いで逃げて、ジルバさんは樹の上でその光景を見て、セイントさんはロフィーゼさんを抱えながら逃げ、キクリさんはシャズラーンダさんとザンバードさんを守りながら、両手をかざして私が使う『盾』のスキルのような、半透明の盾を出して防いでいる。


 ヘルナイトさんは私とシイナさんを抱えて、その場から後退して逃げた。


 ヘルナイトさんの腕の中で、その黒い液体が広がっていく光景を見て……、私はシイナさんを見た。


 シイナさんはそれを見て、こう言った……。


「……あ、あの詠唱……、苦しめてから『石化ペトラアイ』させるものだけど……、大丈夫かな……」


 それを聞いた私は、再度ガザドラがいたところを見た。


 黒い液体はどんどん地面に染み込み、そして最後に残ったガザドラがぶるぶると震えて、パクパクと口を動かしながら、赤い白目になった状態で何かを言っていた。


 その最中――ガザドラの足が石のように固まっていく光景が見えた。


 私も大丈夫なのか……。もしかしたらこれは最悪の……。と思った時、ヘルナイトさんは凛とした音色でこう言った。


「大丈夫だ」


 ヘルナイトさんのその言葉を聞いて、私とシイナさんはヘルナイトさんに顔を向ける。


 ヘルナイトさんはどんどん近くなる地面に何の衝撃もなく、まるで跳んで降り立ったかのように地面に足をつけた後――ヘルナイトさんは私達を下ろしながらこう言った。


「確かに、あの詠唱は『石化ペトラアイ』する詠唱だ。しかしそれは『呪いカース』のようにすぐに殺すものではない。『石化』と言っても、石の皮を被せられるようなものだ。ひどいと思われてもいい。しかしこうするしかなかった。己を傷つけ魔力を上げるのならば……、固めることしかできない。そして――」


 ヘルナイトさんはその背後を振り向く。私達も振り向くと……。


 ガザドラは完全に、石と化して――『


「これしか思いつかなかった。誰も殺さない方法が、これしかなかった」


 そう言うとヘルナイトさんは私の方を見て――凛とした音色でこう言った。


「――ハンナ。『異常回復リフレッシュ』を覚えているだろう? 『石化ペトラアイ』も解けるはずだ」


 それを聞いた私は、ヘルナイトさんを見て「……はい」と頷いた。


 強くて優しいけど、どこか不器用なところがあるヘルナイトさんに向かって――……。



「――てめーら俺のこと忘れてんだろっ! シイナも、もうちっと加減して!」



 ………………命からがらと言う雰囲気で荒い息を整えながら木にしがみついて泣いているブラドさんを見て、シイナさんは「あ」と冷や汗を流しながら顔を引き攣らせていた……。


『六芒星』ガザドラを相手にした戦いは……、無力化と言う形で幕を閉じたのだった……。

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