PLAY34 『六芒星』幹部・ガザドラ ①
『六芒星』ガザドラの登場には、誰もが予想だにしなかっただろう。
誰も予想していない登場を目の当りにしたら、誰だって茫然としてしまう。
誰だって目を疑ってしまうのだ。
蜥蜴族の人達も。
シャズラーンダさんとザンバードさんも。
そして私達も目を疑ってしまった。
その光景を嘲笑う……。いや、違うような気がする……。
私はヘルナイトさんの腕の中で横抱きにされて逃げてきたけど、ガザドラの表情はよく見えていた。
ガザドラはその集落を「ほぅほぅ」と言いながらきょろきょろと見渡し、ガザドラは蜥蜴人の人達を見て、スゥッと口を開いて……。
「なんだなんだぁ! 吾輩が来たにも関わらず、その素っ気なく、湿っぽい対応はなんなのだっ! それでは幸せが逃げてしまうぞ! もっと歓迎したらいいではないかっ!」
と言った。
それを聞いて私達は目を点にした。
蜥蜴人の人達もザンバードさんも……、目を点にしていた。
でも……シャズラーンダさんだけは――そうではなかった。
ガザドラはその光景を見て、背後にいた部下達を見ながらこう聞いた。
大きな声で、陽気な音色で――こう言った。
「皆の者よぉ! このように吾輩達のように、プラス思考でなければいけない。そうだと思うだろうっ!?」
ガザドラがその言葉を言うと、部下達はそれを聞いてこくこくと素早く頷きながら――
「そうです!」
「ガザドラ様の言う通り――常にプラス思考でなければやっていけませんっ!」
「ガザドラ様の言う通りです!」
「私達がこうして歩めたのも……、ガザドラ様のおかげですっ!」
「ガザドラ様万歳です!」
「ガザドラ様万歳っ!」
部下達はその言葉を言いながら、ガザドラに向かって言っていた。
それを聞いていたガザドラはそれを聞いて、「よせよせ! 吾輩だけの成果ではないぞ! 吾輩を過大評価するでないっ! なははははっ!」と照れながら部下達に言っていた。
よく見たら……、部下の人達――全員蜥蜴人だ。
それを見ていたシェーラちゃんは顔をしかめながら……。
「何あれ……、変な集団」と、小さく言った。
……一応この流れで言うと、その小さい声を聞いてこっちに向かって突っかかるのがお約束だとつーちゃんが言っていたけど……。ガザドラは部下達と話しながら和気藹々としていた。
それを見て――ジルバさんは……。
「なんだか……、襲撃とか、そういった悍ましいことじゃないみたいだネ」
と、半分呆れながら、拍子抜けと言わんばかりに言っていた。
「ならよかったわぁ」
とロフィーゼさんも殴鐘を持っていたけど、それを持ちながら肩を竦めていた。シイナさんもほっと胸を撫で下ろしている……。でも……。
私は首を傾げていた。
確かに、あの人は今も和気藹々と部下達と話している。
でも……、心に秘めている感情は正反対で……、さっき感じたような……赤と黒が混ざっているけど、でもそれを抑えているような……、そんなもしゃもしゃを感じていた。
あの時膨張したもしゃもしゃと比べたら……、大きさが違い過ぎた。
セイントさんも首を傾げていた。私と同様に、ガザドラを見ながら……、首を傾げていた。
「? どうしたの?」
「ハンナ……?」
キクリさんとヘルナイトさんが私とセイントさんを見て疑問の声を上げる。その声を聞いて、私はヘルナイトさんを見上げながら話そうとした時……。
「そういえば――」
照れていたガザドラはふっと部下達の方を向いて……、何かをしながらガザドラは聞いた。私達ではなく……。
「集落の者達よ」
と、蜥蜴人の人達に声をかけた。その声は陽気で、さっきと同じ音色だったのだけど……、心の奥底に眠っているもしゃもしゃが、どんどん膨張していた。
それを感じた私は、ヘルナイトさんを見上げて「あの……、ヘルナイトさん……っ!」と言うが、その前にガザドラは聞いた。
さっきとは違った――真剣で、冷たいような音色で……、こう聞いた。
「ここに――シャズラーンダ殿はいらっしゃるか……?」
その言葉を言った瞬間……、ぴりっと空気は張り詰めた。誰もがガザドラのその言葉を聞いて、身構えてしまう。当たり前だ……、まるで一気に空気が重くなったような空気の変わりように、一気に温暖な空気が氷点下の世界に変わったかのような冷たさを纏った空気に、私もその声を聞いて、一気に込み上げてきた不安を押し殺すように、ぎゅっと胸の辺りを握りしめてしまったのだから……。
すると、それを聞いていたのか――シャズラーンダさんが前に出て……、そして――槍を持ったままだんっと、地面のそれを突き立てて、ガザドラに向かって大きな声で叫んだ。
「儂ならここだ! ガザドラ! 久しいな!」
と言った瞬間だった。
ガザドラは、ぐりんっと振り向きながら、手に持っていた鉄の剣を、まるで突き刺すような動作で、シャズラーンダさんにそれを向けた。
でも、その距離は近くない。むしろ遠い場所だ。見た限り三メートルはある。それなのにガザドラは、その剣を持ったまま槍のように突き刺そうとしている。怒りで我を忘れたかのような、血走った目で――狂気の眼でシャズラーンダさんにその刃を向けた瞬間――
「『
鉄の剣はどろりと溶けてしまい、そのままスライムのようにうねった後……、瞬時にいくつもの銀色の槍を形成して、まるで槍の雨のようにシャズラーンダさんに襲い掛かる。
それを見た私は手をかざして――
「危ない……っ! 『
「手を出すでないっ!」
「っ!」
シャズラーンダさんは私の行動を遮るように、声を張り上げて叫んだ。それに驚いて、びくっと体を震わせた私は、そっとシャズラーンダさんを見ると……、その光景を見て、目を疑った……。
シャズラーンダさんは――村の人たちの前に立って、槍を構えながら微動だにしなかった。
それを見て、セイントさんはシャズラーンダさんに向かって叫んだ。
「何をしているっ! 早く」
「否! お前さん達は――皆を安全なところに!」
「っ! ……?」
その言葉を聞いて、セイントさんはおろか、私達も、そして――弟であるザンバードさんもそれを聞いて、驚きながら声を荒げて、シャズラーンダさんに聞いた。
「何を言って――」
「早くしろっ!」
と言った瞬間、シャズラーンダさんはぐっと槍を構えたまま――こう叫ぶ。
「マナ・イグニッション――『
そう言った瞬間、シャズラーンダさんを守るように出た半透明の半球体。ガザドラが放ったそれは真っ直ぐシャズラーンダさんに向かって降り注ぐ。
どがががががががっ!
とシャズラーンダさんに当たる鉄の槍の雨。
シャズラーンダさんはそれを受けながらぐっと声を漏らして、立ち膝になってしまう。
それを見て、ザンバードさんは「兄者……っ!? 一体何が……っ!?」と言ったけど、シャズラーンダさんはそれを無視……、ううん。遮るようにこう言った。
「この『六芒星』の狙いは儂だけだ! 早く皆を連れて逃げろっ! 弟よっ!」
「――っ!」
そう言われ、それを聞いていたザンバードさん。ザンバードさんは兄であるシャズラーンダさんの言葉に逆らえない。それはさっきの試合が行われる前に見たので、それは理解していたつもりだった。でも……、今回は違う。今回は……、もしかしたら、最悪……。
そう思った時だった。
「――今は、避難が優先だヨネぇ」
「!」
ジルバさんはすっと踵を返すようにたっと走ってしまった。
それを見ていたアキにぃはぎょっとしながら見て、それを見ていたシェーラちゃんは声を荒げて、怒りを露にしながら――
「あんたそんなんでいいのっ!? もしかしたら」
「でも――族長様は逃げろって言ったんだ」
「っ」
反論したけど、それを聞いていたジルバさんは飄々としていない音色で、真剣な音色で――彼は私達を見ながら、すっと目を細めてこう言った。
「今は族長の言うことに従おう。全員の避難が済んだら……、俺達の勝手にする。それでいいと、俺は思うヨ?」
逃げている人達の背をさすりながら、一緒に逃げようとするジルバさん。
その言葉を聞いたのか、ザンバードさんはぎゅうっと口を噛みしめて、その口の端から血を流しながら……、彼は叫んだ。村人に向かって――
「――村の近くにある洞窟に向かえっ! 『六芒星』は族長が何とかする! 早く逃げろっ! 命が惜しいものは、すぐに足を動かせ! 急ぐんだ!」と叫んだ。
それを聞いた蜥蜴人の人達は一瞬ざわっとして辺りを見回すと、事の重大さと緊急事態を飲み込んだのか……、蜥蜴人の人達は……。
「「「「「わああああああああああああああああああっっっっ!!」」」」」
叫びながらその場から逃げる。我先にと逃げる。
一人で戦っているシャズラーンダさんを残して――だ。
それを聞いてかシェーラちゃんは頭抱えながら「……っ! あーもうっ!」と言って、近くで『わーんっ!』と泣いている子供の手を引きながら――
「今は避難を優先にしましょうっ!」と、やけくそになりながら叫んだ。
それを聞いていたシイナさんとアキにぃは辺りを見回して「「えーっと、あーっと」」っと言いながら、よろよろと歩いて走っている老人に手を伸ばして……、その場から急いで逃げる。
ロフィーゼさんはシャズラーンダさんの奥さんを説得しながら、キクリさんと一緒に逃げて――
キョウヤさんとブラドさんも、若い集団の人達を連れてその場から逃げる。
確かに……、避難が優先だ。この場合は……。でも……。
ふっと、私はシャズラーンダさんを見ると、未だに激しい戦いを繰り広げている……。
それを見て、その光景を見て……、私はぎゅっと口を噤み、そして未だに攻撃を受けているシャズラーンダさんを見た。
戦っている……。私が手を貸せば、助かるかもしれない。でも……、手を出すなと言った。
その時、シャズラーンダさんのもしゃもしゃが一瞬だけ、見えた……。そのもしゃもしゃは……。
後悔している。
そして止めたいという頑なな意志が込められたような……、そんなもしゃもしゃ。
それを見て私は困惑していた。今だって理解ができなかった。
なんでここにガザドラが来たのか。
なぜガザドラはシャズラーンダさんだけを狙っているのか。
シャズラーンダさんはなんでガザドラのことを知っていて、そして……、意地でも一人で止めたいと、思っているのだろう……?
そう思いながら、私は震える口を開いた。でも……、言葉は紡げなかった。
未だに激しい戦いをしているシャズラーンダさんとガザドラを見て……、不思議とこう思った。
止めてはいけないと――
今は止めてはいけないと。そう直感した。でも止めたい。そんな矛盾が私の頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
すると――
「少女と鬼神よ! 早く向かうぞ!」
「っ!」
「!」
そう言ったのはセイントさんで、セイントさんは私達に向かって、未だに立ち往生している私達に向かってこう言った。セイントさんは私を見ながら――
「少女よ。お前も感じたのだろう? ガザドラと族長殿の今の感情を」と言った。
それを聞いて、私は目を見開いて、セイントさんを見た。セイントさんは頷きながら――「私も天族だ」と言って……。
「だが、これは私達が割りこんで解決することではない。これはきっと、二人の問題なんだ。今は族長殿の言う通り、避難を優先にして動こう。正義のために戦いたいが、私達が今介入しても……、余計なお世話となってしまう」
だから……、今は耐えろ。
そう言ったセイントさん。その言葉を聞いて、私は俯いてしまう。
確かに、セイントさんの言うことも正しい。でも――でもその言葉を汲み取って避難を優先にしたとする……。その避難をしている時、もしかしたらと言う可能性もあるのだ。
最悪の……、可能性。
それが頭をよぎった瞬間……、私は顔を上げてセイントさんに向かって残るという意思を込めたことを言おうとした瞬間だった。
――ぐわんっ!
「ひゃぁっ!」
突然だった。
誰かに持ち上げられたかのような浮遊感。それを感じて上を見上げた瞬間、私を持ち上げた本人はセイントさんを見て――
「……わかった」
ヘルナイトさんは凛とした音色で言った。
それを聞いて頷き、セイントさんと一緒に走って――みんなが逃げた場所に向かう。私は横抱きにされながら――ヘルナイトさんを見上げて、慌てながら言った。
「まって……っ! 待って下さい……っ! このままじゃ……」
と、私は今でも激しい騒音がする集落の方に顔を向けて、ヘルナイトさんに止まってと願った。
でも……、ヘルナイトさんは止まってくれなかった。
むしろぐっと、私を抱く力を強めて――
「今は……、族長の言葉を汲み取ることが――今の私達にできることだ」と言った。
それを聞いた私は理解ができなくなった頭で、そして混乱しながらもヘルナイトさんに小さい声で……「なんで」と言って――
「止めないと……シャズラーンダさんは」と言った瞬間、ヘルナイトさんは凛とした音色で、私を呼び、そしてこう言葉を続けた。
「確かに……助けたい心は悪いことではない。しかし……、時には、自分でやらないといけない時もある。己の過ちで他人を苦しめたのなら……、尚更他人に頼ってはいけない。族長殿はきっと、その意思を持っていたからこそ、ここでけじめをつけたいから……、面と向かって、一対一で話そうと思ったのだろう。あの行動はきっと……」
後悔と罪悪感からくる行動だ。
だから止めてはいけない。
そうヘルナイトさんは言った。
それを聞いた私は、もう一度シャズラーンダさんがいる方向を見る。今もなお……、戦っているようだ。
騒音が轟音となって土煙が立ち込めて、家屋が壊れる音が聞こえる。
それを聞いて私はヘルナイトさんをもう一度見ると、ヘルナイトさんは私をちらりと見てこう言った。
「だからハンナ……。今は耐えるしかない」
「……っ!」
「辛いかもしれない……、だが、今は耐えるしかないんだ……。きっと、手を伸ばす時が来る。すぐに来る。だから今は、村人達を安全な場所に――」
「………わ、わかりました……。ごめんなさい。わがまま言って……」
「いや……。気持ちはわかる。辛いだろが……、今は耐えてほしい。それだけしか、今は言えない」
そうヘルナイトさんは言った。
私はその言葉を汲み取って、未だに騒音が鳴り響いているその集落の方を見て私はぎゅっと口を噤むと、きゅっと胸に手を当てて握る。
そして心を固める。
――避難が済んだら……、すぐに向かおう。
――それまで、待っててください。耐えてください。すぐに、救けに向かいますから。
――シャズラーンダさん。
その思いを胸に、私は今すべきことを優先して動くことを決めた。
◆ ◆
それから少し時間を遡らせる。
集落の蜥蜴人とハンナ達がいなくなった後……、ガザドラとシャズラーンダは相対して、武器を構えながら互いの顔を見ていた。
互いを見る目は、互いに違っていた。
ガザドラはシャズラーンダを――怨恨を込めた目で。
しかし……シャズラーンダはガザドラを懐かしみ、しかし後悔しているような目で……、彼はガザドラを見ていた。
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