PLAY33 蜥蜴人の集落の魔女 ③
シャズラーンダさんの家に着いた私達は……、床に自由な形で座りながらみんなで円になって座り、十二時のところにシャズラーンダさんが胡坐をかきながら尻尾をフリフリとさせて、膝に手をパンッと置いた後……。
「まぁ、豪華なおもてなしは出来んが……、ゆっくりしてくれ」と言った。
それを聞いた私達は頭を下げて「お邪魔します」と言った。
シャズラーンダさんの家は高床式の家で、木で作られた内装はとても綺麗なものだった。
ところどころに敷かれた絨毯に壁に貼られている色鮮やかな布。大きめの壺がいくつも置かれていて、その中から『ちゃぷん』っと何かが水の中から出てくる音が聞こえた。
部屋の数は見た限り二つ。そのうちの部屋の奥からは何か薬品のような臭いと、草木の匂いが混ざったそれが鼻腔を突き刺した。
それを嗅いで、キョウヤさんはうっと唸りそうな顔つきで――
「……なんすか……。この鼻を捻じ曲げるような、その……」
口ごもりながら言うキョウヤさん。
それを聞いてアキにぃはすんっと臭いを嗅ぐけど、あまり匂いがしないのか首を傾げて――
「そんなひどい臭いするかな……?」
と言っていた。
因みに――順番はシャズラーンダさんを十二時の方角で一番最初として……、時計回りにキクリさん、ロフィーゼさん、シイナさん、ジルバさん、セイントさん (さくら丸くんはセイントさんの肩に乗っている)、ブラドさん、キョウヤさん、アキにぃ、シェーラちゃん、私、ヘルナイトさんと言う順番。
それを聞いてシャズラーンダさんは「お?」と言って――
「やはり蜥蜴人には臭いがきついか……。いやな、実はアクアロイアに届ける魔除けの香水を調合していてな……。その臭いを人間や他種族には無臭にし、魔物には刺激臭として捉えるようにして調合しているのだが……、臭ったか、すまんな! かかか!」
と、豪快に笑いながら謝った。
それを見ていたシェーラちゃんは溜息を吐きながら――
「それだと心の底から謝っているのか疑問を抱くわよ……」と、小さい声で言った。
それを聞いていた私は、確かにと思いながら乾いた笑みを浮かべる……。
シイナさんとブラドさんもその臭いを感じてしまったのか、鼻を抓みながらうっと唸る。
それを見てロフィーゼさんが「大丈夫ぅ? 二人共ぉ」と顔を覗き込みながら聞いていた。
私はあまり臭いは感じないけど、シェーラちゃんを見ると……。
微かに顔を歪ませて、我慢しているようにも見えた……。
「シェーラちゃん……、大丈夫?」と聞きながら背中をさする私。シェーラちゃんは口に手を添えながら――「大丈夫……だといいわね」と力なく答えた。
その光景を見て、シャズラーンダさんは少し申し訳なさそうにして「いやぁ。かかか……。すまないな。何分そう言ったことで生計を立てて」と言った瞬間だった。
――ばしぃんっ! と、シャズラーンダさんの右頬に直撃したしなる何か。
それを見た私達は……、と言うかヘルナイトさんはその何かが当たらないように体を少し傾けていたような……。
それはさておいて……、それを見た私達は目を点にして、どんどんキクリさんに向かって倒れていくシャズラーンダさんを見て、驚きを隠せなかった。
キクリさんはそっと倒れて着たシャズラーンダさんを抱え、ヘルナイトさんは元の姿勢に戻ってその姿を見た後……、後ろを見て――
「……お邪魔しています」
と、すっと頭を下げて言ったヘルナイトさん。
それを聞いてシャズラーンダさんの背後を見ると……、そこにいたのは――
「ほんとごめんなさいねぇ! 武神卿さまと巫女卿様に……、あらぁ! いろんな冒険者さん達まで! いらっしゃい!」
と言いながら、シャズラーンダさんと同じ鱗の色をしているけど、肩には少し長めの黄色いショールをかけている女の人の声の蜥蜴人のが、円になっているその中心に乾燥させた小魚が入っている大きなお皿をドンッと乗せて、
てきぱきと簾を上げて、臭いの根源であるその場所に大きめの板を入れながら……。
その人を見た私は、ヘルナイトさんのマントをくいくいっと引っ張って――
「……あの人は?」
先ほどのこともあって私はおずおずとした態度でヘルナイトさんに聞くと、ヘルナイトさんはそれを聞いて「あぁ」と言った後、いつもと変わらない凛とした音色で――
「あのお方は族長殿の奥方だ」と言った。
「ってことは――奥さんってことだヨネ?」
ジルバさんは胡坐をかきながら聞くと、それを聞いた奥さんは「あはは!」と笑いながら――
「そうなんだけどね! ほんとこの人って大雑把で威厳があるとは思えないだろう!? おまけに人様に迷惑が掛かっているっていうのにそうしない、ほんっと手間がかかる旦那だよ!」
と、笑いながらも怒っていて、それでもドアを少し開けて喚起の通りをよくしていた。
それを見ていたキョウヤさんは「手際がいいな……」と、呆気にとられながらも小さく拍手をしていた。
すると奥さんは私を見て、「あら?」と驚いたように私を見た後……
「あらまぁ! 本当にサリアフィア様にそっくりねー! もしかしてあなたの名前って……」
「えっと……、ハンナです」
奥さんは私を見ながらあの老人さんと同じ言葉を口にし、私を見ながらまさかと言う感じで聞くけど、私は首を振って自分の名前を口にした。すると奥さんは目をぱちくりとさせて――
「そうなのかい……? ごめんねぇ驚かせちゃって」
と言って、尻尾を振りながらどこかへ行ってしまった奥さん。
それを見ていた私達だったけど……、セイントさんは私を見てなのか……。ポツリと小さい声で――
「……一体どんなお方なのだ? サリアフィア様と言うお方は」と言った。
それを聞いて、キクリさんの膝に倒れたシャズラーンダさんだったけど、バッと意識が覚醒したかのように起き上がって、すっと立ち上がりながら――近くにあった本棚に手を伸ばし、真っ白で分厚い本を手に取ったシャズラーンダさん。
それをとんっと、自分の前において――そして私達に見えるように見せた。
凝視するように前のめりになってみる私達。
その本の表紙を見た私は……、目を疑った。
その本の表紙は誰かが書いた女の人が描かれており、その絵を見たみんなが、私を見て、そして本のタイトルを見て……、それを何回か繰り返して、何度も見直すように見ていた。
それを見て、私もその本の表紙に描かれている女の人と、そしてタイトルを見て……、驚きを隠せないまま茫然として見ていた。
まぁ、当たり前だろう……。そこに書かれていたのは……。
『サリア教聖書』
つまりは宗教の聖書。
なのだけど……、その本の表紙に描かれている女の人は……、青い髪をうねらせて、白い服装に身を包んだ……清楚で穏やかな笑みが印象的な、背中に翼が生えた女性。でも……、顔は、顔だけは……。
私にそっくりだったのだ。
今の私と……、瓜二つ。
「このお方がサリアフィア様だ、そしてこれはその方を崇拝する宗教の聖書。バトラヴィア帝国やアノウンの大地以外の皆は、この聖書を必ず家に置いているぞ」
そうシャズラーンダさんが言うと、その本を見ていたヘルナイトさんとキクリさんは頭を抱えた。それを見てブラドさんがキクリさんに――
「大丈夫かよ? この本を見て記憶思い出したのか?」
と聞くと、キクリさんは頭を抱えて、無理に笑いながら――
「そうね……。でも安心して――そんな痛い記憶じゃないから」と、手を振りながら心配をかけまいとしてそう言った。
アキにぃもヘルナイトさんを見て――
「思い出したのか?」と聞く。
それを聞いてヘルナイトさんはただ頭を抱えたまま黙ってしまっていた。それを見てシェーラちゃんが首を傾げながら「どうしたのよ?」と聞くと、それを見ていたキクリさんが私を見て、そしてヘルナイトさんを見て少しだけ考えた後……、彼女はこう言った。
私にとって、なぜだかわからないけど……、心臓に刃物が突き刺さるような感じたことがない激痛を感じるような言葉を言ったのだ。
「えっと……、私達『12鬼士』は、アズールを守るための鬼士でもあったけど……、それと同時に、サリアフィア様を守る鬼士でもあったのよ」
――どくん。
「えぇ? 一人のために十二人の騎士が命を懸けたってことかっ!? それはそれですげー画だな……」
――どくん。
「ひ、みんなは一人のために……、って言いますもんね。ブラドさん」
「シイナくぅん。それ多分意味がちがうぅ」
――どくんっ。
なんだろう……、すごく、この先の言葉を聞きたくない気持ちが大きくなってくる。どくどくと心臓がうるさく騒いで……、息が詰まりそう……。
何よりユワコクとは違って……。
頭が、痛くて……、苦しくて……、痛い……っ!
そう思った時……、キクリさんは――とうとう言った。言ってしまった。
私にとって……、聞きたくない言葉を……。
「――その中でも、団長さんは唯一、サリアフィア様の傍でお守りを務める騎士であり……、きっと、互いのことを大切にしていた、と、私は思うわ。サリアフィア様も、団長さんのことをすごく気にかけて、心配して……、まるで、想い人のように見ていたから」
――一瞬、頭が真っ白になった。
それを聞いていたロフィーゼさんは「まぁ!」と口元に手を当てて、顔を赤くしながら驚いていたけど……、シェーラちゃんは顔を真っ赤にさせて――
「……まぁ、あの『六芒星』達も、なんだかんだと言って、ヘルナイトのことを紳士だとか言っていたものね……」
と、少し恥ずかしそうに言って、それを聞いてアキにぃとキョウヤさんは目を点にして「「え? それいつ?」」とシェーラちゃんに聞いていた。
でも、でも……。
私はそんな会話に、割り込む余裕が、割り込めるような心境でも状況でも、さらに言うと……。
どんどんと……青くて大雨のようなもしゃもしゃが、私を襲った。だから、入り込めなかった。話を聞く余裕がなかった。
「確かに! 武神卿は絵にかいたような紳士にして騎士ですからな! 確かにお嬢さんはあのサリアフィア様によく似ている。老いぼれ達が言っていたことに、間違いはなかった。ということでしょうな」
シャズラーンダさんが言うけど……、私はその本を見て、そしてその人の顔を見て、思い出した。
ライジンさんが私を見て、サリアフィア様だといったのは、このことで……。
そしてヘルナイトさんはその時……。
「違います。この子は――サリアフィア様ではありません」
って言っていたけど……、あの時のヘルナイトさんの言葉に対して、疑心を抱いてしまった。記憶がない。だからはっきりとそう言えるけど……、思い出したらその心境でさえも、その思いでさえも変わってしまう。
でも、でも……、もし……、もし……っ!
私がサリアフィア様に似ていたから……、あの時助けたのでは?
サリアフィア様だと思って助けたけど……、私で、私がその詠唱を持っていたから……、仕方なくついて来ていたのなら?
目的を、サリアフィア様を助けたいから……、私にあの言葉を言っていたのなら……?
なんだろう……。そう思うと……、何だろう……。
――胸が、痛い。
すっと、私は立ち上がった。
それを見て驚いて見上げたアキにぃ達。シャズラーンダさんもそれを見て驚いていたけど、私は今の顔を見せないように、俯きながら……、ここから逃げ出したい気持ちを抑えきれずに……。
「ごめんなさい……。ちょっと外の空気を吸っていきます」
と、そそくさとその場を後にして出て行った。アキにぃの声が聞こえたけど……、その声ですら聞こえない素振りを見せて、私は村長の家を出ていく。
この気持ちが落ち着いたら――ヘルナイトさんに聞こう。
でも今は無理だ。
こんなグラグラな状態で聞けるものではない……。だから落ち着いたら聞いてみよう。
ヘルナイトさんに、本当の気持ちを、聞こう。そう私は思った。
◆ ◆
誰もがハンナの行動に驚いていた。
それはヘルナイトも同様で、強いて言うならば……、この状況を飲み込んでいないシャズラーンダは、周りを見ながら「いったいどうしたというのだ?」と言う顔をしていた。
すると、キクリは頭を抱えて珍しく落ち込んだような音色で――
「あぁ……、やっぱり地雷だったか……」と声を零して、また溜息を吐いた。それを聞いていたシイナはハンナが言ってしまった方向を見て――
「な、なんだか……、泣いてましたね……」と、彼もキクリと同じように申し訳なさそうに言った。
「相当ショックだったのかしら……、この世界の神様が、自分のそっくりだったってことに」
シェーラも少し申し訳なさそうな顔をして、珍しく罪悪感を抱いたような顔をした。
この世界と言うのはゲーム上の設定としてのそれで、なぜサリアフィアがハンナと瓜二つなのかはわからない。だがそれを見ていたアキは……、理事長は一体何が目的でこんなことを……。と思いながら、心の奥底から噴き出してくる憤怒を抑えていた……。
「それもあるけどー」と、ジルバは一言言い、そしてシャズラーンダをじっと見ながら頭を抱えるように腕を組んで、少しだけ責めるような顔をしてこう言った。
「キクリの件もあるけど……、きっと女心が傷ついたんだネー。ハンナちゃんって、すごく脆いガラスのハートを持った女の子だし」
シェーラをちらりとニヤついた目で見るジルバ。
それを見たシェーラは内心……、こいつ、マドゥードナのことを思い出して言っているな。と苛立ったが、それを口に出さないで、シェーラは「女心って……、それって、あれ?」と首を傾げながら言った。
それを聞いたロフィーゼはむすっとしながらヘルナイトを見て――
「ちょっと――早く行きなさいな」と、怒りを含んだ音色で言った。それを聞いたヘルナイトは少しだけぎょっとしながら「ど、どうしたんだ……?」と、首を傾げていたが、キョウヤもそれを見てうーんっと、自分の親友達のことを思い出しながら、彼もヘルナイトを見て――
「行って来いって。きっとハンナはお前の言葉を、っていうか……、その本音を聞きたいんじゃねえか?」と言うが、ヘルナイトは更に首を傾げて――
「……、私はいつも、本心を込めて言っているが」と言った瞬間……。
「「「「い、い、か、らっっっ!! 行ってこいっっ!!」」」」」
「奥さんまで参加したっ!」
なぜだろう……。とヘルナイトは思った。
シェーラ、ロフィーゼ、キクリの女集、あろうことかシャズラーンダの奥さんにまでも言われてしまうヘルナイト。
奥さんが入ったことにキョウヤは聞いていたのかっ!? と思いながら突っ込んでいたが……、ヘルナイトはそれを聞いて首を傾げながらもハンナの後を追うことにした。
そんな最強の背中を見て……、ジルバは内心こう思った。
――なるほど。確かに、あの調子だと傷つけそうな性格だネ。
――ああいった鈍感さは、時に人のハートを傷つけてしまう。
――でもネぇ……。初々しいネぇ。
と、彼はその背中を見ながらによによと笑みを零し見ていた。隠れて見ていた。
ブラドとシイナはそんな乙女心の『お』の字も知らない (ブラドに至ってはその心を知りたくもない)ので、なぜこうなってしまったのかをよく理解していなかった。
そして……。ヘルナイトは村長宅を出て辺りを探すと……。
「!」
その階段を下りた近くの小池の近くで体育座りをしている見覚えのある背中。
その背中を見たヘルナイトは、音を立てずに歩みを進める。
なぜ出て行ったのかがわからない彼にとってすれば……、きっと難題を解くほどの問題だろう。
だが……、ヘルナイトはその背中の近くで足を止めて……。
「ハンナ……」と言った。
その声を聞いて、ふっとヘルナイトの方を振り向いたハンナを見てヘルナイトははっと息を呑んだ。
当たり前だろう。簡単な話だ。
彼女が泣いていたから……、ヘルナイトは驚いたのだ。
そんな彼女を見たヘルナイトは初めて感じた感情に混乱していた。まるで心臓を鷲掴みにされるような、苦しい感情を抱いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます