PLAY41 ロスト・ペイン ④

 世界には色んな病気がある。


 それを説明するとなると収まり切れないほど知らない病気があるが、今から語るそれは――この時代からして見れば昔ではない時代に発症が確認された病気であり、奇病であり難病……。



 不治の病としても認定されてしまうかもしれない病気である。





 ◆     ◆



 ロスト・ペイン。



 それは今の時代で言うところの『無痛無汗症』に近いものであるが、この病気は近年発見された新しい病気である。


 人の体には神経線維と言う痛みを感じる神経があり、その神経があることで人は痛みを感じる。『無痛無汗症』の人はそれ長いゆえに痛みも感じない、かゆみを感じない。暑さや寒さも感じないがゆえ、『無痛無汗症』は難病指定されている。


 が――この『ロスト・ペイン』は『無痛無汗症』にあらず。


 痛みを感じる神経線維に異常が起きたことによりこの病気は生まれてしまった。


 今となっては生活習慣病と言われている病気の一つで、VRの普及に伴った病気の一つともいわれているが、昔はそうではなかった。


 この病気が発症した起因――ある時とある病人がこんなことを言ったことが始まりだ。


「体がおかしいんです。なんだか違和感があって……、変なんです」


 曖昧な言葉だが、その言葉を聞いた当時の医者は精密検査をした。


 そして血液検査をしようと、注射を打った時だった。


 普通なら、痛みで顔を歪ませるものが多い注射。たとえ細くても痛いのが注射。そう認識しているであろう。


 しかし――当時の患者は……、歪ませるようなことはしなかった。


 むしろ――


 医者は聞いた。


「どこか――痛いところはあるかね?」


 その言葉に患者は、きょとんっと首を傾げながら――


「ないです」とはっきりとした音色で言ったのだ。


 それを聞いた医者は――彼の体に触れ、抓ったり、叩いたり、そして……、罪悪感を抱きながら、針を刺した。


 だが――患者は何も声を上げなかった。そんな患者の異常なそれを見た医者は、すぐに他の医療機関のこのことを報告した。


 痛みがない。よくよく見れば病気ではない。しかしそれは人間にとって奇病と言われてもおかしくないものだった。


 痛みがない。つまり――体の悲鳴に耳を傾けることができない。信号を出せない。


 医者はその患者の体中を隅々まで調べ……、とあることに気付いたのだ。


 その患者の末梢神経が――ズタボロだったのだ。いわゆる酷使による破損と思ってほしい。


 簡単に説明しよう。通常――人間は痛みを感じる時、その痛みは末梢神経を通って生じるのだ。


 しかしその末梢神経が破損している。つまり、その通り道が塞がってしまったことにより、痛覚を感じなくなってしまったのだ。


 体に傷ができても、その痛みを感じないがため、無理に動こうとする。


 バトラヴィア兵の様に、ティズの様に――


 こう言った病気の中で――汗をかかない、痛みを感じない先天的な遺伝性疾患の病気があるが、それとは違う。本当に、痛みがないのだ。ただそれだけなのだが……、末梢神経が壊れている。すなわち脳の損傷ということだ。


 ロスト・ペインには――三段階のステージがある。


 レベルⅠ――軽度のロスト・ペイン。


 小さな痛みを感じない。しかし切断や大きなけがの認識はできる。ケビンズはそれに該当し、彼をドMへと躍進させた原因ともいえる。


 レベルⅡ――重度のロスト・ペイン。


 大きな外傷を感じない。痛みと共に感情の欠乏も伺える。


 レベルⅢ――警報レベル。


 すべての痛覚、および感覚器官破損。足を踏む感覚や握る感覚でさえなくなってしまう。すべての痛覚がなくなってしまう危険レベル。


 これらをその医者は――『ロスト・ペイン』……。日本名にして『後天性無痛症候群』と名付けた。


 これらの他にも……どんどんとVRが原因の奇病が相次いで発症していく。


 むぃがかかっている――人よりも脳が小さく、その記憶容量が小さい『メモリ・バンク症候群』。


 VRと現実との境界が混沌、混濁とし、精神的に崩壊してしまう『混沌病』。


 そして……、永遠に治らない不治の病――『電脳浮遊症候群』。


 これらはすべて――VRMMOの普及により併発されたものとされ、そしてその原因を作ったのは――



 RCと言う噂も絶たないのも現実である。



 ティズはその――奇病の一つとされている……『ロスト・ペイン』レベルⅡの患者ということである。



 □     □



「ティズくんおつかれっす!」


 たっとティズ君に近付いて駆け寄ってきたインディアの人。


 そして黒コートの人もその傍らにあった大きな緑色のリュックを背負いながら――


「今日も来ましたね。バトラヴィアの人達」


 と、ティズ君に駆け寄りながらニコニコとした顔で言うと、それを見て私ははっと現実に戻って、すっと立ち上がって駆け出す。


「あ、ハンナッ!?」


 アキにぃが驚きながら叫ぶけど、それを聞かないで私は……。



 ――ぱしり。



「?」

「「お?」」


 すぐにティズ君の手を掴んで、おっと驚いて目をぱちくりさせているティズ君を見上げて……、内心年上だと思いながらも、私は少し慌てる気持ちを曝け出すように――


 ティズ君の腕にそっと手をかざした。


 そして……。


「じっとしててください。今回復を」と言って、私はすぐに『小治癒キュアラ』をかけようとした瞬間……。



「どわあああああっっっ!」

「まってくださーいっ!」



 インディアの人とコートの人は慌てながら (コートの人は笑っている顔だけど焦っていた) 私の手をティズ君から遠ざけるように、ぐんっと上にあげたのだ。


 それを見た私は目を点にして二人を見ると、二人は慌てながら笑みを無理に作って……。


「て、ティズ君に回復は命とりっすよっ! それしたら完全完璧に天に召されてしまうっすっ!」


 インディアの人は目をコミカルな白目にして慌てて私に詰め寄りながら言ってきた。私はそれを見て驚きを隠せないでいると……、アキにぃ達が駆け寄りながら――


「お前等……、ハンナの優しさを無駄にしやがて……っ!」


 え? アキにぃ……、何か怒っている……?


 ライフル銃を構えながら黒と赤のもしゃもしゃを出して、怒りを露にしている。


 それを見たインディアの人はぎょっと驚きながら「でぇっ!? なんで怒ってるんすかっ!? って、おおぅ?」と、叫んでから首を傾げているインディアの人と、それを見た黒いコートの人は肩を竦めながらニコニコとした顔で――


「いやー……。ぼく等命の恩人ですよね……? なんで敵意剥き出しにして怒っているんですが? しかも殺気どぱどぱですねー」


 と、呆れているような顔をして言った。


 それを聞いて、キョウヤさんはこくこくと素早く頷きながら、アキにぃを羽交い絞めにしながら……。


「すいません! こいつ重度のシスコンなんですっ! 見境なしなんです! ホレアキドウドウ! ドウドウッたらドウドウッ!」


 慌ててアキにぃを鎮めにかかっていた。


 シェーラちゃんはそれを見て呆れた目をして素通りし、そしてインディアの人達に向かって「助かったわ」と、軽く会釈をしてお礼を述べた。


 ヘルナイトさんも軽く頭を下げて――「すまなかった。手を煩わせてしまって」というと、それを聞いていたコートの人は二人と私、そしてキョウヤさんを見て――


「……大変そうですねー」


 と、キラキラとした笑みを浮かべて言った。アキにぃを見ながら……。


 それを聞いて、私は一体何でだろうと思いながら首を傾げていると……。


「あの……」

「にゃっ!」


 突然声が聞こえたので、私は変な声を上げて肩を震わせ、前を見ると、ティズ君は私の手を見ながら、開いている手で私の手を掴んで、そして引きはがしてから、彼はこう言った。


「俺、回復薬でいいから。大丈夫だよ。スキルは本当にダメなんだ」と、無表情な顔をして私を見て言う。それを聞いた私は首を傾げながら、「どうして?」と聞いて――


「あなた今……けが」


 と言った時、ティズ君は首を傾げて、そして自分の体を見て、傷だらけの、破れた服を見て……。


 一言。




「あ」




「――今更かよっ!」


 ううん……、これは一文字だ。


 そんな呆けた声を聞いて、キョウヤさんはアキにぃを止めながら突っ込みを入れていた。


 それを見ていたコートの人は「すごいですねー。拘束と突っ込みを両立できるだなんて」と、驚きながらぱちぱちと拍手をしていた。


 本当に驚いているようなもしゃもしゃを出して、それを見たキョウヤさんはびきっと青筋を立てながらその人に向かって「こっちはもう喋っているだけで体力限界なんだよっ!」と、突っ込みを入れていた。


 それを聞いて、私はティズ君を見て顔を覗き込んで……。


「本当に、大丈夫……?」と聞くと、ティズ君は「うん」と頷きながら即答した。


 それでも……、体の傷は悲鳴を上げるかのように、どくどくと血を流している。それを見て私は「うーん……」と、納得しない音色を上げると……。


「本人がいいって言ってるんだから、それでいいでしょうが」


 と、シェーラちゃんは私の肩を叩きながら言う。


 それを聞いた私は――少し顔を俯きながらこくりと頷いた。


 それを見て、ヘルナイトさんは私を見て心配そうな顔をしていたことなど、私は知りもしなかった。


 シェーラちゃんは私の前に出て――そのティズ君達を見ながら――


「そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私はシェーラよ。人魚族とマーメイドソルジャーの魔人族。リヴァイヴのソードウィザード」


 と、まだ名乗っていなかった名前を名乗った。


 それを聞いた私ははっとして、慌てながら「ご、ごめんなさい……。まだ名乗っていなくて」と言って、すぐに頭を下げながらこう言った。


「わ、私ハンナって言います。天族のメディックです」


 それを聞いてか、ティズ君は「へー」と無表情に言うと、その顔を見ていたキョウヤさんは、やっとアキにぃを宥め終えたのか、膝に手を乗せながら「ぜーっ! ぜーっ!」と、深呼吸をしながらこう言った。


「オ、オレは……、蜥蜴人と人間の亜人で、ランサーのキョウヤだ……っ! てか、もう少し興味持った音色を出せ……っ!」

「そんな状況になっても突っ込むんすね……」


 キョウヤさんを見ながらインディアの人は驚きを隠せない顔をして目を点にしていた。


 それを聞いてか、オレンジ髪の人もニコニコとしながら「それじゃぁ。自己紹介でもしておきましょうかね」と言って、いつの間にかバトラヴィア兵の人達を拘束していたその人は、最後の隊長を拘束し終えて、すっと立ち上がりながら自身を指さしてこう名乗る。


「ぼくは『カルバノグ』の、人間族のシーフゥー。リンドーです。リアルでもそんな名前なので。リンドーでいいですよ。シェーラちゃんにハンナちゃん、キョウヤくんに」


 と言いながら、すっと細い目でヘルナイトさんを捉えたオレンジ髪の人――リンドーさん。


 リンドーさんはヘルナイトさんを見て、にっと不敵な笑みを浮かべながらこう言う。


「――『12鬼士』にして、地獄の武神さん」


 と言った。


 それを聞いて、私はヘルナイトさんを見ると……。ヘルナイトさんは首を横に振りながら……。


「その名前で呼ばれたのは初めてだが……、私のことはヘルナイトでいいぞ」


 と、凛とした音色で言った。


 それを聞いてリンドーさんは困ったような笑みを浮かべながら肩を竦めて――


「そうじゃないんですけどー……、というか真面目ですねー」


 と、これは参ったと言う感じで両手を上げたリンドーさん。


 それを見て、キョウヤさんはヘルナイトさんを見ながら小声で……。


「やっぱ天然だな……。少しは委縮しろって……」と、表情を強張らせながら言った。


 それを聞いて、ヘルナイトさんは首を傾げながらキョウヤさんを見ていた。


 私はそんなヘルナイトさんを見て、不思議と心が和んでしまい、くすりと微笑んでしまう。


 すると、アキにぃが私達に近付きながら「俺はこのチームのエルフスナイパーのアキです。よろしく」と言いながら、インディアの人に手を差し伸べた。それは握手のそれであり、それを見たインディアの人は、にっと笑みを浮かべながら、アキにぃの手を握って――


「アーチャーのインディアヒュームと人間の亜人――自分はスナッティって言うっす。よろしくっす」と、言ったけど……、何だろう……。


 アキにぃとインディアの人――スナッティさんとの間に、なんだか火花が散っているような……、そんな険悪のもしゃもしゃを見て感じていた……。


 それでも、アキにぃとスナッティさんはニコニコと、黒い笑みを浮かべながら――


「というかこの場合は……『お久しぶり』っすよね。あの時は凄くお世話になったっす。その時ポンチョなんて来ていなかったから見間違えたっす。今よぉく見てみたら、顔見知りでびっくりしたっす」

「そういえばそうだった。お久しぶりですね。あんたもそんな風な紙じゃなかったから見間違えました。今よく見てみたら『あぁ、そういえばこんな人いたなー』って感じで見ていました。そしてその節はどうも……、二年前は確か……、あんた負けていたよね……? 

「お、おいアキ……? おーい」


 なんだろう……、キョウヤさんはその光景を見ながら声をかけているけど、どんどん二人の空気が重くなってきている……。どんどんその空間が黒くなってきている。


 それを見て、私はシェーラちゃんを見て、わたわたとして「と、止めた法がいいかな……?」と聞くと、シェーラちゃんはそれを聞いて、半分呆れながら私を見て「止めれるって自信があるなら止めないけど……、お勧めしないわ」と、はっきりと言った。


 それを聞いて、私は再度アキにぃを見ると……。


「ペーペーは失礼っすよねぇ? っていうかまた思い出したっす。あんた二年前のあの日、降参した逃げのスナイパーさんっすよね? なんで降参したのかは知らないっすけど……、それのせいでこっちは大恥っす」

「大恥ってそっちはそっちの実力で俺に負けたんでしょうが。だったら大恥と言うか常識だよね? 俺は実力で強かっただけだしぃー?」

「まじでむかつくんでやめてくださいっす。自分も切れるときは切れるんす」

「切れてもいいけど? 俺は本気で迎え撃とうと思っているし」

「おおおい落ち着けって! 命の恩人なんだぞっ!? アキやめぃっ! だーっ! 聞こえてねぇっ!」


 キョウヤさんが突っ込みながら言うけど、アキにぃとスナッティさんはその声ですら聞こえていないみたいで、アキにぃとスナッティさんの背後から聞こえる『ゴゴゴゴッ』と言う音を聞きながら、ぎりぎりとお互いの手を握りしめて、折ろうとしているそれを見て……私は思った。


 ――二年前に、一体何があったのだろう……。と……。


 キョウヤさんは呆れて顔に手を当てながら頭を垂らし、「はぁー」と溜息を吐いた後……、ぐるっと私の方を見て、こう言った。


「ハンナ――止めたれ」

「え?」


 と、私は突然の言葉に驚いて、わたわたとしながら「わ、私で大丈夫なんですか……?」と聞くと、それを見ていたシェーラちゃんははっきりと――


「あんたしか止められないわ。行きなさい。時間がない。ここでもちゃもちゃしていたら話数増える」と言った。


「お前もそんなメタな発言するなっ! とりあえずハンナゴーッ!」

「う……」


 と言われて、私はそっと一歩一歩、その黒い空気を出しているアキにぃ達に近付いて、アキにぃを呼ぶ。するとアキにぃはバッと私の顔を見るために、怒りの形相で私を見た。


 そして――私はそんなアキにぃを見ながら驚きはしたけど、意を決して、こう言う。


「あ、あの……、命の恩人なんだから、喧嘩はだめだよ?」と言うと……。


「うんわかった」


 アキにぃはすぐに元の顔に戻ってぱっとスナッティさんから手を離した。


 それを見た私は、目を点にして、後ろにいるキョウヤさん達を見ると、キョウヤさんとシェーラちゃんは、アキにぃを呆れた目で見ながら溜息を零し、ヘルナイトさんはそれを見ながら首を傾げていた。


「んなぁっ!? なんすかそれっ! なに突然キャラを変えたんすかぁ!」

「スナッティご乱心。やめてくださいよー」


 と、すっかり怒りを露にして突っかかろうとするスナッティさんを止めに入るリンドーさん。


 それを見ながら私はおどおどと、アキにぃとスナッティさんを交互に見ていると、アキにぃはふんっと鼻で笑い、腰に手を当ててスナッティさんを見ながらこう言った。


「まぁ余裕のある人はこんな感じでしょうが」

「むがああああああああああああっっっ! やっぱりむかつくっすっ! さっき気付きましたけど……っ! 思い出しただけでむかつくっすうううううっ!」

「……いったい何があったんですか……?」


 と、私はそんなスナッティさんの言葉を聞きながら首を傾げていると……。


「スナッティ――」

「ああああっ!?」

「すげぇカオ」


 ティズ君がスナッティさんに近付きながら口を開いた。


 それを聞いたスナッティさんはぎろっと血走った目でティズ君を睨む。


 それを見たキョウヤさんは鬼を見たかのような顔をして驚いていると――ティズ君は無表情ながらも、申し訳なさそうにしながらこう言った。


「早くに戻ろう。心配していると思うし、回復薬も飲みたい……」と言って、ティズ君は自分の斬れた腕を見て言った。


 それを聞いて、スナッティさんははっと気付いてから少し視線を逸らして、むぐぐっと顔を歪ませてから観念したかのように「わ。わかったっす……っ!」と苦しい音色で言った。


 苦渋の決断をしたかのような顔を見て、シェーラちゃんは「本当にアキと何があったのよ……?」と困惑しながら言った。


 すると――


「? みんなのいるところ? お前達は三人で行動しているのではないのか?」


 と、ヘルナイトさんは疑問の声を上げてリンドーさんに聞くと、リンドーさんは「ええ」と頷きながら『にこっ』と笑みを浮かべてこう言った。


「ぼく達――二チームのパーティーメンバーで徒党を組んでいるんです。で。彼女とティズ君は同じチームなんですけど、ぼくは別なんです。ここに来たのはちょっとした偵察で、偶然あなた達を目撃したんですけど……」


 かなり強いですよね? 皆さん――と、付け足して言うリンドーさん。それを聞いて私は「とある理由?」と聞くと、リンドーさんはとあるところを指さしながら、ニコニコした笑みを浮かべて私達に告げる。


「気になるんでしたら、行ってみますか? ぼく等の野営所へ」



 □     □



 ということで、私達は行く宛てもない。そして情報が欲しいという理由で、リンドーさんの意見を聞いて、リンドーさんとティズ君、そしてアキにぃを見ながら「まぁ大変っすよねぇ。自分達に情報を乞うっていうのも」と、にやにやとしながら勝ち誇った笑みを浮かべるスナッティさん。


 それを見ながら後を追うアキにぃ。ぎりぎりと歯軋りをしながらスナッティさんを睨んでいた。


 私はヘルナイトさんに抱えらえれ、シェーラちゃんも一緒に抱えている。


 理由として――ヘルナイトさんは私達の体力と、シェーラちゃんの暑がりを気にしてか、少しでも体力の温存を確保するために、抱えると言ったのだ。


 それを聞いたシェーラちゃんはむっとしながら「子ども扱いしないで」と言ったけど、結局ヘルナイトさんの言葉に甘えて――現在に至っている。


 なお――隊長や兵士達には足だけに回復のスキルを使ってその場に放置している。


 リンドーさんはいつもそうしているらしく、シェーラちゃんも「その方がいいわ」と納得しながらその場に残して私達は野営所に向かっている。


「……最初からこうするべきだったわね」


 シェーラちゃんはヘルナイトさんの腕の中で、腕を組みながらそんなことを呟いていた……。


 ヘルナイトさんはそんな女の子二人を抱えてリンドーさん達の後を付いて歩き、キョウヤさんはそんなアキにぃを見ながら頭に手を組んで呆れて――こう言った。


「なんでそんなにあのスナッティって人にがっつくんだよ」

「それは……二年前にあったMCOのイベントで」


 と言いながら、アキにぃはそっぽを向きながら小さく言うと、それを聞いていたキョウヤさんは溜息交じりに「何かがあったな。こりゃ。まぁ言いたくなきゃ聞かねえよ。大体さっきの話で予想はついたから」と、言った。


 それを聞きながら、私はアキにぃから感じた青いもしゃもしゃを、一瞬察知した。


 でもすぐにそれは消える。


 なぜなら――


「着きました。あそこが僕らの一時期野営場です」と、リンドーさんはとあるところを指さして言った。


 その場所を見てみると……、その方向にあったのは……。ただの廃墟だった。


 岩で作られた石作の壊れかけた大きな家、その家の周りには、洗濯して干したものや、小さな湯気が立っていた。その近くには気で作られた大きな桶がある。


 それを見て、アキにぃは「あそこか」と、じぃーっと遠くを見る動作をしてみていると、それを聞いてリンドーさんは私達の方を見ながらこう言った。


「あそこに僕等のパーティーメンバーがいます。話せばわかる人達だらけですよ」


 と言いながら、その一時期野営所に向かうリンドーさんとスナッティさん。ティズ君もよろよろとしながら歩みを進めているけど、無表情で何の痛みもないのに、よろけている。


「……痛みがないのに、苦しそう……」

「あんたね。学習能力ないの? さっき手を貸そうとした時、するりと断られたじゃない。忘れたの?」

「……う」


 そう。私はボロボロのティズ君を見て、手を貸そうと駆け寄って「肩貸してあげるよ?」と言うと、ティズ君はすっと、右手の掌を私に見せながらと言うか、断るような手を出して――


「いいよ。大丈夫」


 と言って、無表情で、無表情の断り方をして、すたすたと、少しよろけながら歩みを進めて行ってしまったのだ。


 それを思い出して私は思った……。


 もしかして、信用されていないのかな……? と……、少しだけ、マイナスな思考になってしまう私。


 それを見て、ヘルナイトさんは私を見下ろしながら――


「そこまで気に病むことはない。あれは彼が決めたことなのだろう。それを受け取ることも大事だと、私は思うぞ」

「うぅ……」


 と言われて、私は唸りながら頭を垂らす。


 確かにそれは一理あるのだけど……、なんだろうか……。こう――えっと……。一言でいうのであれば……。


 放っておけない。ティズ君を見て、放っておけない気持ちが募ってしまうのだ。


 きっと、病気だからと言って、傷を作ってまで戦うことはあまり好きではない私にとって、傷をつけながら歩いているティズ君を見るのは、かなり嫌なのだ。


 無理をしているようで、見ていて苦しいのだ。


 そう思っていると――


「お! 近くで見るとかなりの生活感」と、キョウヤさんはその野営所について声を漏らす。


 それを聞いた私はふっとその野営所を見ると、確かにそうだと思った。中は案外広くてインドの家の作りの様に、家の中には絨毯が敷かれている。


 そして少し遠くを見ると、床から突き出した二本の棒――見るからに梯子だろうか……、それが突き出ているのが見えた。


「下にも何かがあるのかな……?」と言いながらアキにぃはドアがないその場所を見て言うと――




 ふっと……、背後から影が現れた。




 違う。これは……。




 背後から人が来た光景だ。




 じりじりと照らされた外だ。そのせいで影が色濃く浮き出ているのですぐにわかった。


 背後に誰かがいるということが。


 私達はそのまま背後を見る。


 そして……、言葉を失った。


 私達の背後には――大きな大きな大柄な男の人が両腕を上げながら私達を見下ろしていたのだ。


 黒い帽子とカーキー色のトレンチコート。黒のカジュアルズボンに黒の男物の編み上げのブーツを履いていた。でもそのコートの中にはなにも着ていない。


 なぜなら胴体と顔、手や腕に巻きつけられた包帯で、顔が見えないどころかその表情が見えないような現代ミイラ男を彷彿とさせる、ヘルナイトさんよりも大きな……、二メートル以上の大きな人が立っていたのだから。


 誰もがそれを見て、絶句し――


 アキにぃとキョウヤさんは武器を構えて、ヘルナイトさんは私達を抱えながら避けようとした。そして包帯の人は私達をじろりと睨みながら……。


 ばっと、その両の手を私とシェーラちゃんに向けた!

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