PLAY35 小さな光、膨張する憎しみ ②
「あ、ハンナちゃ」
「ん? なんでハンナのことをちゃん付け……? まさか君、ハンナのことを気にかけているのかな……? そのポジションは俺だけで充分だから……、君はそのままおどおどキャラとしててほしいなぁっ!」
「えええええ……?」
私とガザドラが来たことでアキにぃとシイナさんが私達に気付いたのか、はっとしてシイナさんが振り向いた時、アキにぃはそれを見て凄みを効かせながら声色も低くして黒い笑みを浮かべて睨みつけていた。
それを見てシイナさんは手でガードをしながら震えてしまっていた。
尻尾と犬の耳がプルプルと震えている。
それを見た私はアキにぃを見て『大丈夫』というと、アキにぃはその言葉に頷こうとした。笑顔で。
しかしガザドラを見た瞬間……、目を見開いて驚きながら――
「っ! お前っ!」
「……っ!」
「ガザドラ様っ!」
「ご無事でっ!」
銃を構えようしたアキにぃに杖を構えようとしたシイナさんだったけど、一塊になって座っていた部下達はガザドラを見て安心と感動の声を出した。
それを聞いたガザドラはすっと私を見るために振り向き、そしてそのまま部下達を見て――アキにぃ達を見てからこう言った。
手を上げながら、彼は何も持っていないという意思表示をしてからガザドラはこう言った。
「吾輩の手元には武器はない。そもそも吾輩は鉄……、今はほとんどの金属を操ることができるが、その素材となるものがないと発動できない仕組み。つまり丸腰は無防備。敵意などないということに値する」
ゆえに吾輩はもう戦わない。
その言葉を聞いたシイナさんとアキにぃは疑いの目をガザドラに向けていたけれど、部下達はその言葉を聞いて「え?」と驚愕のそれを聞いたかのように、呆けた声を出して驚いていた。
私はそんなガザドラのもしゃもしゃを見る。
大丈夫だ。嘘はついていない。当たり前だけど、一応ね……。
私はアキにぃ達を見て、アキにぃ達を呼んでこう言った。
「アキにぃ。シイナさん。大丈夫だよ。ガザドラさんは嘘ついていないから」
と言うと――
「そ、そうなんだ……。でも、なんでそんなことがわかるの……?」
と、シイナさんが私を見て聞く。
それを聞いてか、なぜかアキにぃがぎぎぎぎぎっと歯を食いしばりながら睨んでいた……。
私はそれを聞いてアキにぃを見て大丈夫かなぁと思いながらも、シイナさんを見て控えめに微笑みながらこう言った。
「――私、もしゃもしゃを感じ取ることができるんです」
ここだけなんですけど。と付け加えて言うと、シイナさんは首を傾げながら、目を点にして「もしゃもしゃ?」と言った。
「ハンナのこと……、まさか疑っているわけじゃないよね……?」
「ひぃぃっ! そうじゃなくて、あ、あ、あ、あ、ああのっ!」
アキにぃがそんなシイナさんを見て、疑うようにじろりと睨みを利かせながら、低くそう言うと、シイナさんは泣きそうになりながら、あ。もう泣いている。そんな目でアキにぃを見ながら首が捥げるのではないかと言うくらい首を振っていた。
そんな光景を見ながら、私は乾いた笑みを浮かべて「みゅぅ」と唸ってしまう。
するとガザドラはシイナさんとアキにぃの横を通り過ぎて……、そして部下達の前に立つ。
ガザドラを見て、「おぉ……っ!」という歓喜の声を上げる部下達。
仮面越しでもわかるような期待の眼を輝かせている。それを見て、ガザドラはすぅっと息を吸って――そしてこう言った。
「お前達――すまなかったな」
「…………え?」
ガザドラの言葉に、部下達は首を傾げながら呆けた声を出していた。アキにぃとシイナさんもその言葉を聞いて、喧嘩をやめてガザドラの方を見た。
私はその光景を見る。
見ることしかできないけど……、それがガザドラの願いだったから。
ここに来る途中――ガザドラは私に向かってこう言った。
『吾輩の言葉に、水を差さないで見て、聞いてほしい。それが吾輩の――『六芒星』としての、吾輩の願いだ』
その願いを、聞いてほしい。
それだけ言って、ガザドラはそれ以上の言葉を発しなかった。
私はそれを無言で頷いて、そして今――ガザドラの話を聞く。
ガザドラは部下達を見下ろしながら、そしてそっとしゃがみながら――
「吾輩はお前達に迷惑をかけてばかりだった。自分で敵を討つ。お前達にとって、住みやすい世界を作り上げると言っておいて、結局――吾輩は何もできなかった。怨敵一人倒せない。否――殺せなかった弱い幹部だった。すまなかったな。お前達」
と言った。
そして続けて――
「もう……、吾輩についてこなくてもいい。もっと期待ができる……。オーヴェン殿の配下になれば、きっとお前達の」と言った瞬間だった。
一人の部下がガザドラの言葉に反するように立ち上がって、ガザドラの目を真剣に見ながら――
「――何を仰いますかっ!」
と、叫んだのだ。
「っ!?」
ガザドラはその言葉を聞いた瞬間、目を点にして部下の顔を見て言葉を一瞬詰まらせる。
まるで――ガザドラの言葉を否定しているかのような……。そんな音色と言葉。止まったガザドラのことを見ながら、部下の一人はガザドラことを見ながら続けてこう言った。
「あなた様は、俺達のような蜥蜴人の逸れ者を、里から見限られた蜥蜴人に手を差し伸べ、私達に生きる希望を与えてくださいました! 何が弱い幹部ですか! あなたは誰よりも部下思いのいい幹部です! オグトやザッドのような幹部ではなく、あなた様がいい。そう思い、否――そう運命を感じて、あなたに着いてきたのです! あなた様は弱くありませんっ!」
「そうですよ!」
熱意ある一人の部下の言葉に便乗するように、一人の女の部下が、ガザドラを見てこう声を荒げる。
「蜥蜴人にとって、尻尾がない蜥蜴は奴隷に等しい種族! そんな私達に手を差し伸べ、生きる希望を与えてくださった! あなた様でなければいけない。あなた様はこんな私達を受け入れてくださった。だからこそ……、あなた様のために死ねるのであれば、本望なのですっ! 怨敵を今倒せなかったことで、私達は失望などしませんっ! これからも、世界を変えるために――」
「そのように思ってくれていたのであれば、吾輩は嬉しく思う。しかし――」
吾輩は、もうしない。
そうガザドラが言うと部下達は声を止めて、口を動かすことをやめて――ガザドラを見た。
ガザドラはそんな部下達と面と向かい合いながら、彼はふぅっと息を吐いて、私を見てからもう一度部下達を見て……、自分の決意を、口にする。
「――吾輩は……、これからは一人で行動する。もうお前達に、迷惑をかけたくない。これ以上……、吾輩のわがままで、お前達を振り回したくないのだ。ゆえに……、これから吾輩は、ただのガザドラだ。今日でお前達は自由だ。好きにしろ。吾輩はこれから……、一人の混種の一族として動く」
『六芒星』として、復讐に身を染めるのではなく。
たった一人で、この運命を相手に戦う。
正しい道を、己の手で掴み取って進む。
だから――お前達は来るな。
各々、好きなように――生きろ。
そうガザドラは言った。
それを聞いた部下達は、ただその言葉を聞いて、黙っていた。茫然と、していた……。
ガザドラはそれを言った後、ぐっと口を噤んだ。
きっと、罵詈雑言に備えての構えだろう……。それを見ていた私は、その場で、ただ立ちながらその光景を見ていた。
アキにぃとシイナさんはその光景を見ながら声を揃えて――「「え? なに? どうなっているの?」」と、きょとーんっとしながらその光景を見ていた。
ガザドラはぐっと顎を引いて待つ。
部下達の失望の声を、部下達の怒りの声を、受け止めるために――
しかし……。
「ガザドラ様」
一人の部下がガザドラに向かって、『ガザドラ様』と言って、ガザドラに向かって言った。
それを聞いたガザドラは驚きの目で部下達を見た。そして再度驚く。
アキにぃとシイナさんは、まるで理解ができないような展開に、目を点にして見ていた。私もその光景を見て、驚きを隠せなかったけど、すぐにくすっと微笑んでしまった。
その光景を見た私はこう思った。
すごく上司思いの人達だと。そして……、すごく信頼されていると思った。
そう思った理由は――部下達の行動にあった。
部下達はすっと、頭を垂らしながらガザドラに頭を下げていたのだ。中世の騎士がする膝を立てるそれで。それを見たガザドラは、目を疑うようにして、驚きながら立ち上がり、部下達を見て「お、お前達……」と、震える声で言うと――
「でしたら、まだ『六芒星』ですよね?」
「ガザドラ様の姑息であり、大きな優しさのご命令を踏襲しますことを、お許しください」
「我らもまだ『六芒星』です」
「ゆえに……、命令を――」
お願いします。ガザドラ様。
そう言った部下達。
それを聞いたガザドラは……、ぐっと上を向いて鼻で深呼吸をした後、ずっと鼻を啜り――部下達を見下ろして……、手を広げて、高らかに言った。
「これより――最後の命令を下す!」
「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」
ガザドラの言葉に、部下達は声を張るように返事をすると――ガザドラは幹部としての威厳を持った音色と表情。そして風格をもって――彼はこう言った。
「吾輩ガザドラは、『六芒星』を抜ける! ゆえに貴様らとの縁も、ここで断ち切ることになる!」
「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」
「しかし、今吾輩が貴様らに言えることはいくつかある! 心して聞くがいいっ! 一つ!『六芒星』の吾輩のことは忘れろっ! 吾輩はこれから、ただのガザドラとして生きて戦う! ゆえに吾輩のことを忘れ、戦いのことを忘れろ! そして一つ! 生きろ! 己の思うが儘に――笑って、泣いて、怒って、そして……、吾輩のように復讐に囚われないように、生きるのだっっ! お前達は自由だ! お前達の判断で――生きるのだ! 中途半端で死ぬことは許さんっ! 抗って、精一杯生きるのだ! 以上だ!」
そう言い終わると、くるんっと踵を返して歩みを進めるガザドラ……、さん。
ガザドラさんはそのまま部下達に背を向けて、見ないでその場を後にしようとした。
すると――
『ガザドラ様っ! 我々に手を差し伸べ、そして生きる希望を与えて、あろうことか自由を与えてくださいまして……、ありがとうございます! この恩は――一生忘れませんっ!!』
部下全員が、頭を下げながら声を張り上げて言った。
周りを見ると、一体何なんだといわんばかりに見ている蜥蜴人の人達、そして近くでなぜかロフィーゼさんに殴られているブラドさん。
それを見て私はガザドラさんを見ると……、ガザドラさんは私を見下ろしながら――こう言葉を零す。
「貴様は言っていたな。吾輩が優しいと」
「? はい」
「なぜそう思った」
その言葉に、私はえっとっと言いながら首を傾げて、考える。
でも……、なぜと理由を問われても、それに見合った言葉が思い浮かばなかった。でも私は部下達を見て、ガザドラさんを見上げて――控えめに微笑みながらこう言った。
「あの人達を見て感じたと言った方がいいと思います。でも……、私の直感が囁いたんです。あなたは優しいと」
それを聞いたガザドラさんは、目を点にしてきょとんっとしたけど、すぐに前を向いて――私を見ないでこう言った。
「これで貴様と会うことはない……、と思う」
「そこははっきりとしないですね……」
と、私はあららと言うような表情で言うと、ガザドラさんはにっと笑いながらこう言った。
「それもそうだ。こう言った運命は巡り合うようにできている。吾輩はそう思っている」
「そう思ったのは?」
「吾輩の直感だ。貴様とはもう一度会う。そんな気がした」
にっと笑って言ったガザドラさん。そして――すっと手を伸ばして、私の頭に手を置くと――
「貴様に忠告しておく」
「?」
ガザドラさんはすぐに私の頭から手を離して――そしてこう言った。<PBR>
「その優しさ――時に武器となり、仇となり、そして弱点となる。時に鬼になることを忘れるな」
吾輩からはそうとしか言えない。
その言葉を聞いた私は、そっとおでこのところに人差し指を突き立てて……。
「……、鬼?」
「その鬼だが違うな」
と、冷静に突っ込んだガザドラさんは、私の心臓の位置を指さしてこう言った。
「怒れ。と言っているのだ」
「……………………」
「怒りを見せないことはいいことかもしれない。不安を恐怖を与えないことはいいことだ。しかしそれではだめだ。強くなりたいと願うのであれば……心を鬼にし、怒ることも大事だ。大切なものを守りたいときは――その感情を爆発させろ」
吾輩からの忠告は以上だ。
そう言って、ガザドラさんはその場を後にした。
しかしすぐに足を止めて――
「あぁ! それとだな……」
□ □
とある言葉を言い残して、ガザドラさんはどこかへ行ってしまった。私はガザドラさんから聞いた言葉を思い出す。
怒れ。
それは……、怒るってことだよね?
私は自分の胸に手を当てる。そして思い出す。
みんな、確かに怒ったらすごい力を発揮しているような気がする……。
漫画のようなそれじゃないけど……、誰かが傷ついた時とか、そんな時に怒りを露にして、そしてその感情をぶつけるように戦っていた。
でも、私はできない。
ううん。多分そんなことできないと、ガザドラさんの忠告を無視してしまいそうな申し訳なさを感じた。なぜなら――私は生まれてからずっと……。
怒ったことがないから。
怒りを露にしたことがないから……。
「お嬢ちゃんっ!」
と、どたどたとこっちに駆け寄ってきたシャズラーンダさん。
そして周りを見回しながら私を見て、「ガザドラは……、どうした?」と息を整えながら聞くと、私はふっと振り向きながら――シャズラーンダさんに向かって、こう言った。
「――行ってしまいました」
それを聞いたシャズラーンダさんは、「なに!?」と驚きの声を上げ、ショックを受けたような顔をしてしょぼくれて「そ、そうか……」と、頭を垂らしながら言うと、私はシャズラーンダさんの尻尾をつんつんっと指で突く。
突いた後シャズラーンダさんは私の方を振り向く。
私は言った。
「ガザドラさんから伝言です」
「!」
その言葉を聞いて、シャズラーンダさんは驚いた眼で私を見た。私はそんな目を見ながら、ガザドラさんに言われたことを、そっくりそのまま返す。
「『シャズラーンダよ。今回で貴様との縁を切る。吾輩は金輪際、貴様とは会うことはない。ゆえに残り短い余生を楽しく生きろ。そして――』」
「……………………」
「『突き刺して、ごめんなさい』って、言っていました」
「っ! …………そうか……」
そう言って、シャズラーンダさんは私に向かって、「かかか!」と笑いながら「それでは言伝を頼もう!」と言って、普段と同じ音色でこう言った。
「『待っているぞ小僧! いつでも遊びに来い! 茶でも入れて待っているぞ!』とな」
それを聞いた私は、くすっと微笑みながら、「はい」と頷いた。
部下の人達は、シャズラーンダさんを見て、ひとりの部下の代表がシャズラーンダさんを見てこう言った。
「族長よ。先の件、我々はその意見を呑もうと思う。今はいないガザドラ様の最後の意志だ。命令だ。これは我々が決めたことだ。異論はないよな?」
その言葉にシャズラーンダさんは『にっ』と笑いながら腰に手を当てて……。
「かかか! 素直ではないのぉ! よし! 今日は宴会じゃな!」と、豪快に笑いながら言って、シャズラーンダさんは「それではさっそくじゃが、復興作業を手伝えっ!」と言って、復興作業をしている場所に向かって歩みを進める。
その後を追うように、部下達は仮面を取ってその後をついて行く。
『六芒星』の仮面を捨てないで、腰に差して――
それを見た私は微笑みながらその背中を見る。
こうして――蜥蜴人の集落で起こった事件は、今度こそ幕を閉じたのだ。
…………茂みに隠れていた人間の『六芒星』の部下に気付かないで、私達も復興作業を手伝うことにした。
◆ ◆
そんな出来事の直後――とある場所では……。
「報告します。ガザドラが失脚しました」
「……反旗ではなく、ですね」
「はい。自ら『六芒星』を抜けると言っておりました」
「…………そうですか。ありがとうございます」
とある薄暗いダンジョンの奥で、二つの濃い影は話していた。
一人は先ほど集落の風景を覗き見ていた人物だ。
その人物は目の前にいる男に片膝をついて言うと、目の前にいる男は顎に手を当てながら――『六芒星』が一角にして懐刀――
「これで幹部が四人ですか……。これは少々、焦った方がよろしいでしょうかねぇ……」
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