(172)|三歳《みつとせ》の大剣遣い 著:幼女剣筆フクロマクラ

 ふむ、“毛虫殺けむしごろしの英雄譚えいゆうたん”をたのじゃ。

 しいのぉ~お?

 設定せってい色々いろいろんでおるのに、かせず地味じみいてしもうとる。

 ゆえに、わらわなおしてしんぜよう。

 れを手本てほん精進しょうじんするがい。



1.野生やせい鍛冶幼女爆誕かじようじょばくたんまき


 げるきんいろ

 けるつちてんこえ

 最後さいごそらつらぬきん火柱ひばしらがると、そのちいさなにはおうぎよう幅広はばひろけん二振ふたふり、ほこらしげにかかげられていた。


命名めいめい! 魔剣まけん飛扇ひおうぎ!」


 命名めいめいとは名前なまえけること

 魔剣まけんとはすごけん

 そのすごけんつくせるのが鍛冶師かじし


 すなわち、ここに鍛冶幼女かじようじょ爆誕ばくたんしたのだ!


 その姿すがた丈三尺たけさんしゃくらず、げた魔剣まけん飛扇ひおうぎからだすべてがかくれるちいささ。

 とおあかかみをくるぶしまでばした、齢三歳よわいみつとせおさな子供こども

 名前なまえ気高けだかきディジーリア! たぐまれ鍛冶かじちからちし冒険者ぼうけんしゃ


「さぁ! ためりにいざかん!」


 意気揚々いきようようしたのはまちそと

 そこにはおそろしい魔物まもの闊歩かっぽする、もりひろがっていた。



 丁度ちょうどそのころまち領主様りょうしゅさまをしている将軍様しょうぐんさまが、自宅じたくとりであたまかかえていた。


なんということだ! もり異常いじょうきておる! 魔物まもの大発生だいはっせいして、大氾濫だいはんらんきようとしておるぞ!!」


 そんなことらないディジーリアはもりへとあるく。

 ブンブンまわ二振ふたふりの飛扇ひおうぎあたりにかぜこし、サシャくさのふわふわがちゅうなかを、いそぐでもあるいてく。


 しかし、視点してんすこたかくして、そらたかみから見下みおろせば、サシャくさなかあるくディジーリアのこう、くらやみしずんだもりなかでは、うごめよう魔物まもの行進こうしんはじまっていた。



ひとつ!」


 ディジーリアがさけんで、右手みぎて飛扇ひおうぎるうと、みぎからいて小鬼ゴブリンくびぶ。


ふたつ!」


 ディジーリアがさけんで、左手ひだりて飛扇ひおうぎるうと、ひだりからいて小鬼ゴブリンくびぶ。


みっつ! よっつ! いつつ! むっつ! ななつ! やっつ! ここのつ! とお!」


 ディジーリアがためりにてみれば、つぎからつぎへとあふれんばかりに小鬼共ゴブリンどもあらわれた!

 たおしたじゅう小鬼共ゴブリンどもから距離きょりけて、うごめ十重二十重とえはたえ小鬼共ゴブリンどもみにく姿すがた

 それを睥睨へいげいしていたディジーリア。予兆よちょうなに欠片かけらく、突如右手とつじょみぎて飛扇ひおうぎはなった!


飛扇秘奥義ひおうぎひおうぎヒオウギ☆ブンブン!!」


 すさまじい速度そくど回転かいてんする飛扇ひおうぎんで、じゅう小鬼ゴブリンちがえば、じゅう小鬼ゴブリンくびぶ。

 さらひだり飛扇ひおうぎければ、さらじゅう小鬼ゴブリンくびぶ。


一度打いちどうげたけんを、もう一度造いちどつくるなど容易たやすこと!」


 さらんだディジーリアのそのには、どうやってかさらあたらしい飛扇ひおうぎが!

 さらなる飛扇ひおうぎび、さらなる飛扇ひおうぎがり、じゅう飛扇ひおうぎ十瞬じゅうまたたけば、ひゃく小鬼ゴブリンくびぶ!

 ひゃく飛扇ひおうぎ十瞬じゅうまたたけば、せん小鬼ゴブリンくびぶ!

 さらにそのつぎならば、まんくびが!!!


 到頭とうとう小鬼ゴブリン姿すがたもりなかからえたときくすディジーリアはかえって飛扇ひおうぎ右手みぎて五百ごひゃく左手ひだりて五百ごひゃく、ガシャリとおとててつかまえていわく、


「これにてため完了かんりょう!!」


 こうして鍛冶幼女かじようじょディジーリアは、人知ひとしれず辺境へんきょう危機きき退しりぞけていたのだ!



 ~*~*~ 付録ふろく飛扇ひおうぎあそかた ~*~*~


 ①しめように、つか飛扇ひおうぎをセットするのじゃ!

 ②よういきおつかり、その途中とちゅうでピタリとめよ!

 ③成功せいこうすれば飛扇ひおうぎつかち、そらかってかびがるぞ!




2.たましいめしけんまさしくおのごとし……のまき


 煌々こうこうかがやくはほのお

 かがややいば破魔はまちから

 めっするは鍛冶幼女かじようじょディジーリア!


 鍛冶かじ真髄しんずいとはたましいめてけんげることだとすれば、げたけんには当然とうぜんこととしてたましい宿やどる。

 しかし一日前いちにちまえったけん宿やどたましい一日前いちにちまえたましいだとするならば、今日打きょううったけんにはかなわない。

 ゆえにディジーリアは今日きょうけんつ。


 げたのは三振さんふりの大剣たいけん

 あおかがや大剣たいけんは、正統派せいとうは威厳いげんしめす!

命名めいめい! 正剣せいけん青空あおぞら!」

 にぶかがや幅広剣はばひろけんは、どっしりかまえた重厚じゅうこうさをしめす!

命名めいめい! 重剣じゅうけん黒曜こくよう!」

 あかかがや長剣ちょうけんは、スパリとするどさをしめす!

命名めいめい! 長剣ちょうけん紅炎こうえん!」


 三振さんふりの大剣たいけんほこらしげにかかげると、ディジーリアはいつもの台詞せりふはなつ。


「さぁ! ためりにいざかん!」


 意気揚々いきようようまちそとへとあししたディジーリア、今日きょう大物おおもの場所ばしょ目指めざさんと、かつつくった魔剣まけん飛扇ひおうぎした。

 二振ふたふりの飛扇ひおうぎをそれぞれ左右さゆうばしたって、ディジーリアはそのでぐるぐるまわす!


身剣一体しんけんいったい! 飛扇秘奥義ひおうぎひおうぎヒオウギブンブン!!」


 なんということか!

 ディジーリアのあし地面じめんはなれ、そのからだはブゥゥゥゥンとおとててそらへとがった!

 そらからくならもり深淵しんえん其処そこだ!


「ふははははははは!!!」


 高笑たかわらいをげながら、ディジーリアはそらく!



 丁度ちょうどそのころまち領主様りょうしゅさまをしている将軍様しょうぐんさまが、自宅じたくとりであたまかかえていた。


なんということだ! 以前兆候いぜんちょうこうえた魔物まもの大発生だいはっせいらぬあいだ解決かいけつしていたが、今度こんどこそもり異常いじょうきておる! 魔物まものなかでも上位種じょういしゅ大発生だいはっせいして、大氾濫だいはんらんはじめておる!!」



 そんなことなにらないディジーリア。

 ったもり深淵しんえんで、あたりの様子ようす見渡みわたすと、ひとうなずき、


ため甲斐がいる」


 とくちにした。


 あたりには小鬼ゴブリン大鬼オーガ黒大鬼くろオーガまでが十重二十重とえはたえ

 ディジーリアでければ、絶体絶命ぜったいぜつめい窮地きゅうち恐怖きょうふ魂縛こんばくされる状況じょうきょうだ!


今日きょう主役しゅやく青空あおぞら黒曜こくよう紅炎こうえん三振さんふり。小鬼ゴブリン相手あいてをするのは役不足やくぶそく。ならば飛扇ひおうぎ露払つゆばらい!

 飛扇秘奥義ひおうぎひおうぎヒオウギブンブン!!」


 めぐ飛扇ひおうぎ小鬼相手ゴブリンあいて無双むそうするが、しかし大鬼相手オーガあいてには力不足ちからぶそく黒大鬼くろオーガうまでもし。

 そこにこそ、主役しゅやく三振さんふりの出番有でばんあり。


たましいめしけんまさしくおのごとし。ならばけんける意味無いみなし。身剣一体しんけんいったいおもてうらわり、けんとなりててきつ。これぞ鍛冶奥義表裏かじおうぎひょうりじゅつ!」


 ディジーリアがさけんだ途端とたん、その正剣せいけん青空あおぞらかげかくれ、かとおもえば青空一振あおぞらひとふ飛翔ひしょうして、せま大鬼オーガくびねた。

 地上ちじょうもどった青空あおぞらかげからふたたびディジーリアがあらわれる。


一当ひとあてした感触かんしょくし。

 しかし軍勢ぐんぜいには軍勢ぐんぜいてるべし!

 けんとするならば、けんかずだけり!

 身剣一体しんけんいったい表裏ひょうりじゅつ!」


 ディジーリアが三振さんふりの大剣たいけんほうげると、くるりと裏返うらがえって三人さんにんのディジーリアとなる。

 はじめのディジーリアとわせて全部ぜんぶ四人よにん

 四人よにんのディジーリアがそれぞれ瞬時しゅんじ三振さんふりの大剣たいけんつくげて、ふたたちゅうへとほうげると、それぞれ三人さんにんわせて四人よにんつの十六人じゅうろくにんのディジーリアとなる。


 それは一両銀いちりょうぎん四分銀よんぶぎん、そして十六朱銀じゅうろくしゅぎんとなるように。


「「「「「「「「「「「「「「「「身剣一体しんけんいったい! 表裏ひょうりじゅつ!」」」」」」」」」」」」」」」」


 十六じゅうろく大剣たいけんちゅうび、わずかな時間じかんすべての魔物まものたおした。


「「「「「「「「「「「「「「「「これにてため完了かんりょう!!」」」」」」」」」」」」」」」」


 すべてを見届みとどけた十六人じゅうろくにんのディジーリアは、十六人じゅうろくにん四人よにんに、四人よにん一人ひとりにと集合しゅうごうして、大剣たいけん惨劇さんげき現場げんばからける。

 こうして鍛冶幼女かじようじょディジーリアは、人知ひとしれずふたた辺境へんきょう危機きき退しりぞけていたのだ!



 ~*~*~ 付録ふろく表裏ひょうりあそかた ~*~*~


 ①けんおもて、ディジーリアがうらとなった、かたちおもささもちが三枚さんまいふだ使つかってあそぶのじゃ!

 ②にそれぞれ三枚さんまいふだけんおもてにしてならべ、先攻せんこう後攻こうこうめよ!

  二回勝負にかいしょうぶ先攻せんこう後攻こうこうえるゆえに、有利不利ゆうりふりいぞ!

 ③けんふだち、相手あいてけんふだたたけ、かえして正体しょうたいあばくのじゃ!

 ④正体しょうたいあばかれたふだけんとしては使つかえんぞ!

  交互こうご攻撃こうげきし、さきすべ正体しょうたいあばかれたほうけじゃ!

 ⑤先攻せんこう後攻こうこうえて、再度勝負さいどしょうぶじゃ!

  けをしとするなら、二回連続にかいれんぞくたねば本当ほんとうちにはならんぞ!



 ~※~※~※~



「あら?」


 春風屋を訪れていたその婦人は、思わずその本に目を留めて手に取った。

 表紙には、「三歳の大剣遣い ~1.野生の鍛冶幼女爆誕の巻!~ 著:幼女剣筆フクロマクラ」の題名。隣の山には、副題が「2.魂を込めし剣は正しく己が分け身の如し……の巻!」となっている似た様な本が積まれている。

 それらの本にはそれぞれ小袋が括り付けられているが、何だろうか?


 手に取った本を一頁捲ってみると、現れたのは可愛らしい丸文字ながら、昔ながらの古字体で書かれた前書き。更に捲ると、一頁の半分以上に絵が描かれた、目にも楽しい物語。


「あ、古字体――それで」


 表紙が目に留まったのは、この古字体の美しさからだったかと、そこで漸く婦人は気が付いた。


「これも……でも、う~ん……」


 婦人はつい悩み込んでしまう。

 見兼ねた店主が声を掛けると、悩ましげに彼女の事情を語り始めた。


「うちの娘が、そろそろ文字の勉強をしてもいい頃なのよ」

「ふむ、分かったぜ? 古字体の本を探してたんだな」

「そこまでは期待していなかったけど、でも、初めて文字を憶えるなら古字体でしょ? 刷字体では綴れないし、綺麗な文字を書けるのってやっぱり将来に関わって来るから」

「そこは同感だな! 刷字屋なんてやっていても、出来れば古字体で擦りたいとはずっと思っていたからな!」

「そうなのね? 『ディジーリアの冒険譚』を友達に見せて貰って、今日はそれが目的でお伺いしたけれど、思ったよりも安かったのよねぇ」

「ははは、それでもう一冊をと。いや、古字体を認めて頂けたのは有り難いがね、どれも同じ原版師の持ち込みな物で、期待している様な古字体復興は厳しいんだが、幸いな事にうちには四冊置いてある」

「あら、まだ有るの」

「その隣の『巨きなる者、毛虫を潰す事』がそれだな。子供の教育用になるかは分からんがね。

 『ディジーリアの冒険譚』は一両銀。『三歳の大剣遣い』は各二分銀の二冊で一両銀。『巨きなる者、毛虫を潰す事』は二分銀だ。

 内容の割には高いが、本としては格安だ。買うのは目を通して気に入ってくれたらで構わんよ」


 趣味で店を開いているという気さくな店主はそう告げて、それに甘えて夫人は全ての本に目を通す。

 そして何に気付いたのかすっきりした顔で、最後には『ディジーリアの冒険譚』と『三歳の大剣遣い』シリーズを二冊の、合わせて三冊を購入するのだった。

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