(64)やり残した事は有りませんか?

 冒険者協会デリラ支部の、受付から少し奥まった位置の席で、今日も支部長オルドロスは書類仕事に取り組んでいた。

 鍛錬もすれば受付に立つ事も有るが、支部長としての主な仕事はこうした確認や決裁にある。それを恐ろしく手早く捌いているからこそ、受付に断つ余裕が持てるのだった。

 領地を動かすセンスは無いと自覚している分、冒険者協会の支部長に収まっているが、領主ライクォラスに最後まで渋られたのもまた事実である。


「――ですから、大猪鹿は湖の近辺から奥に掛けて棲息している動物です。見付けられないのは探索能力が足りないのでしょう。幻と言われる生き物ですので、特級クラスの索敵能力が無ければ、見付ける事も適いませんよ」

「そんな事はいいんだよ! 折角俺らが王都からやって来たというのに、ろくな獲物が居ないって言うのはどういう事なんだ!」

「そうだぜ! 俺達が折角こんなど田舎まで来てやったって言うのによお!」


 受付で騒ぐ冒険者の声に、ふとオルドロスは視線をそちらへと向けた。

 どうやら、既に無作法な王都の冒険者が入り込んでいたらしい。

 だがオルドロスは、うちのリダはなまじの冒険者では歯が立たんぞと思いながら、暫し静観する事にしたのだった。


「デリエイラの森は、王都近くの狩場とは趣が違います。魔の領域の入口から、稼ぎを期待出来る深部までは、幾日も野営を重ねる必要が有りますわ。それだけに奥地には巨獣が群れ成す大草原や、金脈を吐き出すクラカド火山と、多種多様な稼ぎ処が在るのです。力自慢なだけで生きていける場所では有りません。頭も必要な大森林です。王都で馴染めなかった冒険者なら寧ろ居心地がいいかも知れませんので、頑張って下さいね?」


 何とも背筋が寒くなるばかりの淑女っぷりだが、それを見て身を震わせるのは地元の冒険者達ばかりである。

 そもそも、王都の冒険者協会でも筋肉達磨共相手に啖呵を切っていたリダを相手に、見たところランク六か七の連中が敵う筈も無い。

 案の定、それでもほたえた王都の冒険者を相手に、裏のリダが顔を覗かせるのだった。


「ああ!? 面倒臭え奴らだなぁ。“門”で残飯漁りして御零れに預かる様な奴らが、行き成りでかい顔出来る場所な訳ねぇだろぉ? 王都みたいに筋肉馬鹿が幅を利かせる場所じゃねぇ。此処は総合力が試される場だぜぇ? だがよ、王都でそんな筋肉馬鹿を相手に、頭じゃ負けてねぇと思っていたなら、遣り甲斐が有る筈だ。何より、此処の産物には食い物が多い。宿に泊まる金は無くても、食い物だけは苦労しねぇよ。空威張りする前に、しっかり勉強して森の対策を立てる事だな。資料室はその奥だぜ」


 リダの口調も相手によって大きく変わるなと思っていると、どうにも様子がおかしかった。

 口調は兎も角、言っている事は真っ当で、寧ろ相手を気遣っている内容だ。発奮するか、頭が悪いなら怒り出すかだろうが、何故か王都の冒険者達は、必要以上に怯えた様子を見せていた。


(何だ、あれは?)


 見れば、リダの頭の両脇から、黒々とした角の様な物が生えている。

 狼狽えて辺りを見回す王都の冒険者に、釣られて周りへと視線を向ければ、詰め寄る地元の冒険者達の頭から、丁度黒い角が伸びてくるところだった。

 何が起きているのかとオルドロスが立ち上がり、表情も険しく受付へと近付くと、そちらへと目を向けた王都の冒険者は到頭その場に手を突いて、赦しを請う事になるのだった。


「「「す、すまねぇ!! そんな角を生やしてまで怒る事は無いだろう!?」」」


 余りの怯えように、オルドロスも自らの頭を手探りするが、特に何の違和感も無い。

 しかし、地元を含めた冒険者達の様子からすると、この頭にも恐らく角が生えて見えるのだろう。

 振り返ったリダも、オルドロスの頭へと目を向けて呆けているのがその証だ。


(何が起きている??)


 その時、冒険者協会の扉がガタンと大きく開かれた。

 暫く王都から姿を消していた、スカラタ運送のラターチャが、開け放たれた扉から入ってくるところだったのだが……。


「おい、ラターチャ。その頭のは何だ?」


 もじゃもじゃの揉上げをしたラターチャの頭に、真っ直ぐに伸びた赤い角が有る。


「この角の赤色は……魔獣共の血の色でやんすよ!」


 見せ付ける様に胸を張るラターチャに、そういう事では無いのだがと、オルドロスは肩を落とすのだった。



~※~※~※~



 はい。出迎え令嬢のディジーリアです。

 何故か今、冒険者協会の裏手で大勢の冒険者達に囲まれて、オルドさんから糾弾されているところなのです。


「あ、あれは私では無いのですよ!? 八百屋のリールアさんのファインプレーなのですよ!」

「何を言っているか分からんぞ!?」

「おめかししてお出迎えするだけでは物足りないと思ったのですよ。それで皆さんに角を生やしてみたのですけど……」

「ああ、今は鬼族が流行だと言われて何の事だと思っていたらな、街の外から帰ってきた八百屋の小母さんに『角無しだなんてどうしたのさね? 今ならこのコラフクを安く譲って上げるよ?』なんて言われて俺も吃驚しちまってな、つい言われるが儘に角に見立てて装備しちまったんだが」

「いやぁ、これがいい感じに角って感じでやしてねぇ。おかしいとは思いつつも楽しんじまったんでやんさぁ」


 紐で頭の両脇に縛り付けているゾーラさんは論外ですけど、盛り盛りの髪の毛から赤い根菜のコラフクの綺麗な細長い円錐を突き出しているスカさんは、丸で元からそういう種族かという似合い具合です。


「こ、こんな美味しい状況を、私が壊すなんて出来なかったのですよぉおお!!」


 髪を振り乱しながら訴えてみたのですけど、返ってきたのは疲れた様なオルドさんの溜息なのでした。


「なぁ、デリラの街がどんどんディジーリア節に侵食されていっているのだが、どう思う?」


 そんな事を言われても、私の知るところでは有りませんよ?



 閑話休題。

 兎に角私は、大量に詰められた魔石の箱と、これまた大量の銀の塊を手に入れました。

 早速とばかりに手に入れた魔石を瑠璃色狼に打ち込んでいくのですけれど、どうにもこの間から瑠璃色狼が饒舌です。

 やれ土が足りないだとか、水が足りないだとか。まぁ、大体土みたいですけどね?

 木々が根を張るには深さが丸で足りなくて、生きた森を作るにはもっと土が要ると言うのですけれど、だからと言って森で大量に土の魔力を集めようとすると、そんなに一箇所から魔力を抜いたら外の森が死ぬと、まぁ煩いのです。

 驚いたのは、大猪鹿の扱いですね。完全に森の敵扱いで、森を殺す元凶だと言うのには、オルドさんと相談する時間を設けなければいけませんでした。まぁ、大猪鹿を狩る事への懸念が晴れましたので、定期的に納品する事になりましたけれど。皆は大猪鹿のお肉が得られて幸せ、私と瑠璃色狼は大猪鹿の魔石を得られて幸せ、なのですよ。


 そう思っていたのですが、実際に大猪鹿を追加で三頭納めてみれば、オルドさんから大猪鹿狩りの自粛だか何だかを求められてしまいましたけれど。


「お前なぁ……物には限度というものが有るだろう!?」

「そんな事を言っても、大猪鹿はまだ何百頭何千頭と居るのですよ!? ちまちま狩っていては半分にも減りませんよ?」

「ええい! 容赦しろ! せめて受け入れ態勢が整うまで待てというのだ!」


 オルドさんに迷惑を掛けるのは本意では有りませんが、だからと言って私には大猪鹿の魔石が必要なのです。

 折衷案として、大猪鹿を殺してしまわない様に、魔石と同じ頭の角と背中の突起を斬り落とす事にしたのですけれど……。


「ぬぁああああ……何だ、この悪夢の連鎖は!?」


 既に半ば完成した研究所の裏で、屯する角無し突起無しの大猪鹿を見て、オルドさんが頭を抱えます。

 一緒に居るのは、誰ですかね?


「ふむ、心配は要らんよ。商売人からしてみれば笑いが止まらんわ! しかし、成功が約束されている所長代理とは、上手い事やったな? んん?」

「はははは、妹が夢中になっている友人の為と名告なのりを上げてみたけれど、どうにも規格外だね。それにしても、忙しくなりそうだよ」

「ファルさんは、この前の御披露目に来て頂いてありがとうございました。大猪鹿は魔石が目当てでしたけれど、こうなると美味しいミルクが搾れそうなのですよ」

「ははは、僕は御馳走にお呼ばれしただけになってしまったけどね。ミルクもとなると実家の食堂にも卸して欲しくなるなぁ」


 そうです。角と突起を落とした大猪鹿は、隠れている事が出来なくなってしまったのです。

 そんな目立つ生き物を森に置いておく事も出来なくて、こっそり研究所の裏手まで運んできて、こっそり使ってもいいと言われていた周辺の草っ原を壁で囲って、こっそり秘密の牧場にしたのですけれど、そのこっそりは全部、下見に訪れていたオルドさんや所長代理候補やその上司に見られていたのがつい先程の出来事でした。


 オルドさんは手に負えないとばかりに頭を抱えていましたけれど、下見に訪れていた他の方々は腕が鳴るとばかりに鼻息を荒くしていましたから、まぁ一安心ですね?

 実際にその言葉通りに、数日する内には商業組合のラルカ婆だとか、牧場主のドリルさんだとかを巻き込んで、飼育方法を確立する研究の為の態勢が整えられました。

 とは言っても、本格的に動くのは研究所に新人が入ってきてからという事で、今はラルカ婆やドリルさんに言われて十分な飼い葉を積んでおいたり、屋根の有る場所を造っておいたりするくらいなんですけどね?

 私が期待するミルクもそうですけれど、数を増やす事が出来る様になれば、デリリア領の新たな産業になる事も期待されている様ですね。

 所長の私はうんうんと頷いて了解するのみで、後は全部所長代理が回してくれるので楽ちんなのですよ?


 因みに、所長代理候補はクルリのお兄さんのファルアンセスさんです。リールアさんの食堂で見掛けた事はそんなに有りませんが、コルリスの酒場でガズンさん達と時々呑んで騒いでいたのや、この前の御披露目に来ていたのが印象に残っています。

 やっぱり全然知らない人よりそういう繋がりの有る人の方が安心出来ますので、即行で所長代理を承認しまして、後は全部お任せなのですよ。


 そんな大猪鹿の魔石も、牧場に放り込んだのが三十頭を過ぎる頃には、瑠璃色狼の今の限界に達してしまいましたので、打ち止めです。

 後は森の魔力を集めるばかりなのですけれど、その前にライラ姫に、私の鍛冶の作品がばれてしまったのです。


 申し訳無さそうに頭を下げるククさんですが、ライラ姫の双剣も魔物素材でしたので、ククさんの弓と短剣と合わせて実験が出来ると思えば願ったりというものです。

 失敗したら、壊れてしまうかも知れませんよと言うのにも、それでいいとの事でしたので、素材の入手はライラ姫に任せてしまう事にしました。

 赤蜂の針剣を造った時に気が付いた事ですが、魔物素材の武具は、同じ素材で強化しないと怖いところが有りますからね。


「ふふふ、これで漸く私の剣もランクを上げられるな」

「多分、ライラ姫は素晴らしく運が無いのではと思うのですよ?」

「ええい! 縁起でも無い事を言うのはこの口か!?」


 ライラ姫は嫌いでは無いのですけれど、どうにもノリが今一つ噛み合いません。

 ゾイさんが居たら、どうしてそうなるのか解説してくれますかね?


 そんな中、黒大鬼くろオーガの死体を運んでくる日取りが決まりました。

 豊緑祭の出し物の一つとしてしまうとの事ですので、十日と少し後になりますね。

 前から打診はしていたそうですけれど、王都の研究者だとか、商都の研究者だとか、隣領なんかの研究者から漸く返事が届いたそうです。王都の研究者達は気も早く既に王都を出発しているみたいですね。


「……王都へ送った大猪鹿は、護衛の手配を含めて商都を経由しているからなぁ。恐らくは知らせも届く前に王都を出たのだろうが、牧場が有る今となってはどちらが貧乏籤を引いたのか分からんな」

「知らせが届く前なら、大挙してこちらに向かっているかも知れませんよ?」

「……むむ、もぬけの殻の王都に大猪鹿の肉が届くかも知れんのか。いや、どうにも豊緑祭でも公開の大猪鹿狩りをしなければならない様な気がしてきたぞ? ……まぁ、準備だけはしておくか」


 何をするにしても、予定を決めておいてくれるなら否やは有りません。森の魔力を集める際に、黒毛虫も森の上空を飛べば直ぐに見つかる事は分かりましたし、大猪鹿は探すまでもなくうじゃうじゃ居ます。今ならノッカーが有りますから、忘れていても大丈夫ですよね? きっとオルドさんが知らせてくれると信じてますよ?


 オルドさんとは日程が決まったら連絡して貰う様に伝えてから数日後、森の魔力も集めきって、瑠璃色狼の最後の仕上げが始まる頃、再びガズンさんが私の家を訪れる様になりました。


「少しはましになっている筈だ。手間を掛けるが宜しく頼む」


 神妙にするガズンさんでしたが、その言葉に嘘はなく、最後の方では体をぷるぷると震わせながらですけれど、何とか三時間少しで魔力を絞りきる事が出来る様になっていました。

 体を震わせているのは、余計な力が入っているからというより、力を入れずに集中を続ける事に慣れていないからでしょうね?

 付き合っている間は私も暇をしていますが、瑠璃色狼を仕上げるのには余所事に気を取られながらは嫌でしたので、応接室に飾った箱庭に、玄関前に据え付ける予定の巨人像のミニチュア像を幾つか作って具合を確かめてみたり、巨人像の形が決まれば、ガズンさんの魔力を輝石に纏めながらも、実際に中庭でサルカムの木を削って巨人像を組み上げたり。

 途中でドルムさんが加わりましたけれど、まぁ、私は構いませんよ? ガズンさんの大剣は一人だけ十日分の魔力には全く足らない状況でしたし、ドルムさんの得物はハンマーと大剣の二本有りますからね。

 ですが、そんな二人の魔力も集め切らないその内に、豊緑祭の日となったのです。

 それは夏の二月二十六日。雨期が迫る暑い夏の盛りの事でした。




 夏の豊緑祭。それは、春の生誕祭、秋の収穫祭と並ぶ三大祭りの一つとされながらも、実際には地味でささやかなお祭りです。

 時期も土地土地でばらばらですので、他の領からの旅行客なんていうのも訪れ易いお祭りかも知れませんね。

 元は、間引きした野菜等の農作物を持ち寄って、暑い夏の気晴らしに始まったのだろうと言われているこのお祭り。日程も精々二日で、始めに領主の挨拶が有る他は、屋台が多く出ているくらいで普通の日と余り変わり有りません。

 デリラの街は、雨期のぎりぎりに豊緑祭を行うので、間引きの時期には遅いですし、多くの物が疾うの昔に間引かれていたりもするのですけれど、それだけに食べられる程度に育った産物も多く出回るお祭りになっています。

 間引いた果物や野菜で作ったジャムが、デリラの街の豊緑祭の目玉でしょうか。他の街では草人形を飾るだけなんていう事も聞くだけに、甘い物が沢山出るデリラの街の豊緑祭は、皆が楽しみにしているのでした。

 多分、この時期に豊緑祭を行うのは、これからの雨期でそういう育ちの悪い果物が腐ってしまうからだとは思いますけどね。


 ですけど、今年の豊緑祭は一味違います。

 まずは隣領の領主のお出迎え。なんと、この領主様が、毎年クラカド火山から金を運び出してくれている、空飛そらとびのアザロードでも有りました。ライクォラス将軍の、学院に入る前からの友人なのだそうです。

 ですがこのアザロードさんが、とんでもないお調子者だったのですよ。


 ――ブブブブブブブブブブーーーー!!


 まずは空の上から、爆音を響かせながら北門のその前へと降り立ちました。

 ……空を飛ぶのに、あんな音は出るものなのでしょうかねぇ?

 そんな疑問を抱いていると、ナイスミドルなその髭の紳士は、にやりとしながら言い放ったのです。


「儂の屁は空をも飛べる屁だぞ? どぉれ、儂の屁を喰らうが良い!」


 くぐもった口調で、ぶぶぶぶと腰をくねらせながら、屁と称する暴風を放つ細身の変態紳士です。放った言葉の衝撃も然る物ですが、放った屁も相当でした。

 何故かライクォラス将軍に連れられて、出迎えの真ん前にいた私ですけど、その小芝居に思わず釣られて、うわぁ~、と宙を十数尋も吹き飛んだ挙げ句に、「臭い」と倒れ伏してみせたのです。

 するとアザロードさん大喜び。

 ブンブブブンブンと屁の爆音を響かせながら、


「ふはは! 見たか儂の屁の威力を! ど~れもう一りだ!」


 そしてまた、ブオー! と屁の暴風を放つのですが、私も同じネタを繰り返すつもりは有りません。


「おならの弱点は種火なのですよ!」


 そう叫んで、倒れたまま幻の小枝を手に擦り合わせると、迸った火花が屁の暴風に着火して、老紳士へと逆流しながら大爆発を起こします。

 爆発の中から顕れたアザロードさんには、煤けた幻も貼り付けておきました。

 ゴホンと一つ咳を打ったので、それに合わせてぽふんと黒い煙も吐き出させて見せたのですよ!


「おのれ儂の一世一代の放屁を見るがいい」


 ぬぬぬと憤ってみせるアザロードさんですけれど、ここでは幻を操る私の方が、場の流れを操れるというものなのです。

 放り出した屁は黄土色と黒に脚色して、大地は腐り、屁煙から這い出した草原猫(幻)は黄土色と黒の斑に染まって、臭い顔で悶死する。

 其処で一発迫真の演技です。


「おならに憎しみを込めたのですか!?」

「なんと! この地獄は儂が創り出した物だったか!」

「憎しみを癒すのは愛! おならへの愛が有るなら、り出したおならを全て吸い込める筈なのです!」

「ふはははは、屁への愛なら誰にも負けぬ。どおれ、ふぉおおおおおお!!」


 初めての相手ですから手探りでぎこちないところは有りますけれど、中々いい即興具合なのですよ?

 そして、地上に落ちた黒雲は、紳士の鼻から吸い込まれ、正装の紳士が屁煙の力で禍々しい鎧姿へと変貌を遂げた時!


「いい加減にせんか!」「失礼な真似はするな!」


 ライクォラス将軍とオルドロス支部長の突っ込みで、観衆を置いてけ堀にした小芝居は終わりを告げたのでした。


「我らが楽しき語らいの邪魔をするとは無粋な」

しかしかり」

「ええい、喧しいわ! ごほん! 妙な出だしに成ってしまったが、これより豊緑祭を執り行おうぞ! 皆、気晴らしに楽しむが良い!」


 そんな済し崩し的に始まった豊緑祭でしたが、皆さんしっかり楽しんでいる様です。

 私は何故かアザロードさんに気に入られて、どうしてか街の案内なんかをしていますけれど。

 このアザロードさん、どうやら空を飛ぶ者同士、気の合う事も有るだろうと、態々領主様が呼んでくれたみたいです。

 確かに物凄く、気は合ったと思いますよ?


「こちらを行くと、見事なくるりんお髭のオドワールさんの美髯屋が有ります。他にダンディーなお髭の方は、コルリスの酒場のマスターが居ますけれど、少し遠いですし、今はまだ準備中ですかねぇ?」

「おいこら、何処を案内しているんだ、何処を!?」

「くくく……酒場のマスターとは槍のフィズィのことか? よもや髭のダンディー仲間扱いされるとはな。まぁよい。報告書は読んだぞ。お主がディジーリアだな。儂の魔術の制御を、それと気付かせずに奪うとは中々のものだ。また見事な幻術よ。魔術の申し子とはお主の事を言うのだろう」

「む、力だって有りますよ! ほら!」

「ふむ」

「!? 痛いですよ! なんで抓むのですか!?」

「くく、ふははははははは!」


 何故かそんな風に気に入られながら、オルドさんとも連れ立って、街の中を一緒に歩いて回ったのです。


 その次の日は、早朝から昏い森で黒毛虫狩りです。序でに大毛虫と普通の毛虫も何体かでしたね。

 数日前からデリラの街に入っている、王都や商都、隣領からの研究者のお目当てでも有る、黒大鬼の御披露目が昼から予定されているのです。

 そこにアザロードさんも同行したのですけれど、空の上を他の人と連れ立って行くのは、何だか妙な感じですね。

 それはアザロードさんも同じだったのか、終始機嫌が良さそうだったのですよ。


「ふむ、お主は定点を定めた後は、そこに魔力でぶら下がっておるのだな。だが、そんな事をするよりも、素直に飛んだ方が楽ではないか?」

「素直にと言っても、ずりずりと這い進む感じで遅いのですよ」

「ふぅ~む……それは定点を動かそうとしている感じだな。定点は動かさず、定点との位置関係で己の体を運ぶ様にすれば良いぞ? こつとしてなら、真っ直ぐ進むだけなら進行方向に定点一つで済むが、自在に飛ぶなら定点は三つ必要だな」


 そんな風に、空を飛ぶ事に関して色々と教えて貰いながら昏い森の奥地を目指したのですけれど、黒毛虫を斃す手際と、その巨体を吊り下げる魔力の強さには、アザロードさんも目を瞠って驚いていたのでした。


 その黒毛虫の死体も、大毛虫や普通の毛虫と一緒に北門の前に運び込んで、一番星張りに幾つかのポージングを繰り返して観衆を沸かせたら、研究所の敷地に運び込んでしまいます。

 解体なんて、住人達に見せるものでは無いですからね。都合良く丁度いい場所が出来たものですよ。


 この時の為に集まった研究者達も、既に完成している研究所の宿舎の一角に泊まり込んで、解体と実験を進める様です。鬼族の死体は直ぐに崩れてしまうので、時間との勝負ですからね。

 その直ぐ裏手に大猪鹿牧場が有るのですけど、それを先に見せてしまうと仕事にならないだろうからと、黒毛虫の研究に一段落付くまでは秘密なのだそうです。結局豊緑祭では公開の大猪鹿狩りもしていませんしね。

 でも、それを言うファルさんが酷く愉し気でしたので、後はお任せしたのです。

 数日後に情報を解禁した時には、何人かの研究者は絶叫して倒れたというのですから、何とも困った所長代理なのですよ。


 その頃になると、ガズンさんの輝石も十分な量が溜まりましたので、メンテナンスと称して彼等の装備に少し手を入れました。

 ガズンさんの大剣には、溜めた輝石を注ぎ込んで、漸く真面な強化が出来ました。

 ドルムさんのハンマーと大剣にも、途中からガズンさんに加わっただけにそこそこの量が有る輝石を足して、後は使い勝手の微調整です。

 ダニールさんには輝石をあしらった装飾品を追加です。杖の宝玉が高出力過ぎるなら、小さな輝石の装飾品から慣れて貰う他有りません。

 ククさんは、弓の強化用に輝石を集めるだけですね。その内ライラ姫がククさんの弓の素材を持ってきたら、一気に強化してしまいましょう。


 そう言えば、光石の作り方も分かりましたよ?

 何の事は有りません。光石になる石を熔かしてそのまま放置しておけば、周りの環境の変化で勝手に層が作られて、ちゃんと光る光石になりました。

 以前に試した時には、一気に冷やそうとしたから駄目だったのですね。効率を求めるのも善し悪しという事です。

 ゆっくり冷える様にして、周りの環境を小刻みに変化させてやれば、より緻密な層の、輝きが強い上に長持ちする光石を作る事も出来ました。形も自由自在ですから、光る何かの像を造ってみるのも一興でしたけれど、作ったのは別の物です。

 中心に、私の赤い輝石の玉を。その周りを光石で覆って、更にその周りを再び私の輝石で覆います。真ん中の輝石を通して私の魔力を放出し、外殻の輝石でその魔力を回収すれば、魔力の消費無く、私の思うが儘に赤光しゃっこうを放つ宝玉の出来上がりです。


 そんな宝玉をまなこに納めた巨人像を、張りぼて館の前に組み上げれば、子供は泣き叫び大人だって腰が砕ける、覇王の館の出来上がりです。

 館を前に、右から睥睨するのは蓬髪の老剣王。左で見下ろすのは、未来の私をイメージした、研ぎ澄まされた細身の女剣士です。

 ぴくりとも動かない只の像ですが、瞳の輝石を介してギシギシと軋む音を魔力で響かせながら、「何用じゃ~」とか重々しく喋らせれば、薄暗い事も相俟って動き出したとしか思えないでしょう。

 張りぼて館に相応しい、素晴らしい張りぼての門番なのですよ。


 実際の門番は、今はもう殆ど使われる事のない秘密基地の中に置いてある、一抱え程も有る私の輝石の要石です。

 これだけ大きければ、王都からだって楽々繋ぐ事が出来ると思うのです。

 そして、繋ぐ事さえ出来れば、魔力を介して大抵の事は出来てしまうのです。

 本当は、防犯短剣一本置いておくなんて事が出来れば良かったのですけれど、言ってみればあれは今なら“黒”の分身であって、“黒”を王都へ連れて行くのに分身だけを残していく訳には行きませんし、お留守番というのも可哀想なのです。

 まぁ、何も手を打っていない訳では有りません。握り拳程の輝石の宝玉は各部屋に仕込んでいます。見た目一番価値が有りそうな宝玉が、警報装置で追跡装置で更に実力行使までするのですから、これはもう罠の様な物ですね。宝玉で無くても、私の家に置かれた価値が有りそうな物には、大抵輝石が埋め込まれていますので、決して逃げられはしないのです。


 そして、瑠璃色狼も完成した夏の三月五日の日。

 到頭このデリラの街に、嵐の先触れがやって来たのでした。


 このデリラの街は、北に広がる湿地帯と同じく、地中からの噴き出す水の噴出口になっています。誰が確かめた訳でも有りませんが、恐らくは地中深くに有る、水の世界に通じる界異点から湧き出した大量の水です。

 そんな溢れる程大量に有る水に、夏の太陽が燦々と照り付ければ、当然の如く雲は湧き立ち大風が地表を吹き荒れる事になるのです。

 始まりを告げるのは、南風です。南風が吹いて数日後に、凪いだと思えば今度は猛烈な北風と叩き付ける様な雨が襲い掛かって来る事に成るのです。

 その南風が、今日、吹いたのです。


「いや、約束じゃから良いのじゃが、一体何をするつもりなんじゃ?」

「そうだぞ? 流石に土砂降りの雨で火が燃え広がるとは思えんが、街で一番風が強い場所だ。何が起こるか分からんのだぞ? せめて何をするつもりかは聞かねばな」


 ……そう言えば、風の事を考えていませんでしたね。

 薪を井桁に積み上げるつもりでしたが、しっかり仕口を作って動かない様に組み上げた方が良さそうですね。それでも飛びそうですから、鉄塊をおもりにでもしましょうか。


「……儀式をするのですから、『儀式魔法』を使う為に決まっていますよ? 『儀式魔法』が普通に使える人には関係の無い話なのですよ」


 珍しく一緒の領主様とライラ姫に、運び込んだ薪の山を加工しながらそう答えましたけれど、この時ばかりは要領を得ない様子で首を捻るお二方が、癪に障って仕方が無かったのですよ。


 それから三日後、あれだけ吹いていた南風が凪ぎました。

 今日からは領城の天辺で泊まり込みです。

 とは雖も、チャンスは初めの一度切りです。それ以上は私が慣れてしまって、神様的存在を其処に感じる事が出来なくなってしまうに違い有りません。豊穣の森での経験から言っても、衝撃的な感動が其処に無ければ、神様魔法は発動しそうに無いのですから。


 でも、何度か発動させる事が出来れば、きっと私でも……!


 日が沈んだ頃から、北風が吹き始めました。

 空が暗くなる直前には、迫り来る壁の様な黒雲が見えました。

 ちっぽけなデリラの街は、あっと言う間に黒雲に呑み込まれました。

 昏い森の様な塗り込められた黒ではない、生きた漆黒の影に包み込まれます。体が飛びそうな突風に、鳴り響く轟音。血が滲みそうに叩き付けてくる雨礫あまつぶて

 魔力で視れば大丈夫だろうと思っていましたけれど、この嵐の中はその魔力迄もが渦巻いて、丸で訳が分からない状態です。

 ですが、そうで無ければなりません。これこそが大自然の猛威。これこそが神の所業というものですよ!!


 今こそ篝火を焚き上げる時ですと、組み上げた薪に一気に「活力」を注ぎ込んで、水気なんて吹き飛ばしてここは盛大に燃……――


 ……組んだ薪には、サルカムの薪も混ぜ込んでいましたので、火が付けば消える事は有りません。

 それでも暴風の中で燃え上がる炎は、上へは伸びずに横に溢れるんですね? 一瞬吃驚してしまったので、迫る炎に服と髪が少しだけ焦げてしまいましたよ?

 ……でも、これでは趣が有りません。儀式の炎は、やっぱり上へ噴き上がっていなければ駄目ですよ? ちょっと趣旨とは外れてしまいますけれど、演出というのも必要な事なのです。


 と、焚火の周りは私の魔力で覆ってしまって、雨と風を防いでしまえば、サルカム混じりの業火が激しく天上へと燃え上がりました。

 そうそう、こうです。こう来なくては!


「風よ吹けーー!! 火よ燃え上がれーー!! 神々よ、我が願いを聞き届け賜えーーーー!!!!」


 ちょっとけちは入ってしまいましたけれど、轟々と燃える業火を見ていると、気分は盛り上がってくるものですね。

 火が無いままでいた時よりも、今の方が乗っている気がしますので、善し悪しというものです。

 ですが、これだけの興奮が有れば、儀式の成功は間違い無しなのです。

 私の願いが叶う時が来たのですよ!


「我に、我の、諸々の『識別』の結果を、教え賜えーーー!!!」


 魔力を放出しながら、私の願いを叫びました。

 途端、辺りを覆い尽くす黒雲に、一筋の裂け目が生じました。裂け目から溢れた金の光が、丁度私を闇の中で照らします。

 私の視界に重なる様に、浮かび上がる幾つもの情報。

 ふぉぉおおお!! これはもう大興奮ですよ!!


 ――ランクB(対鬼族暫定※)【冒険者】ディジーリア=ジール=クラウナー

 ※通常の方法に依らず鬼族界異点の異核を討滅したことに対する暫定ランク。

  鬼族以外に対してはランク一相当。

 『識別』『看破』『集中』『空間把握』『気配察知』『気配操作』『隠形』『直感』『直観』

 『認識阻害』『隠蔽』『偽装』

 『威圧』『魂縛』

 『気力知覚』『気力制御』『身体強化』『気殺』『気弾』『気刃』『気炎』『瞬動』

 『魔力知覚』『魔力制御』『魔力操作』『魔力強化』『魔力同調』『魔力浸透』『魔力視』

 『根源魔術』『治癒魔術』『魔刃』『炎刃』『水刃』『魔炎』『幻術』『幻鳴術』

 『念術』『念話』

 『歪異知覚』『歪異干渉』『歪異創造』

 『座標認識』『空間干渉』『浮遊』『飛行』『断絶』『亜空間倉庫』

 『匠』『魔匠』『開発』

 『鍛冶』『刀鍛冶』『魔鍛冶』『鍛冶打ち』『まぶい打ち』

 『錬金』『鍛冶錬金』

 『裁縫』『服飾』『手芸』『刺繍』『革細工』『金工』『装飾』『宝飾』

 『木工』『什器』『彫刻』『大工』『泥工』『石工』

 『園丁』『調理』『採集』『馴致』『調薬』『調合』『合成』

 『身体運用』『運足』『無音歩行』『受け流し』『軽身』『省力』『仮死』『倍力』『不屈』

 『棒術』『棍術』『杖術』『槍術』

 『大槌術』『鎚術』『打撃』『剛打』『激震』

 『大剣術』『大刀術』『剣術』『刀術』『短剣術』『短刀術』『斬撃』『断鉄』

 『体術』『軽業』『格闘』『蹴撃』

 『針術』『刺突』『刺突貫通』『急所突き』

 『投擲』『暗殺』『隠密』『飛剣術』『索敵』『演舞』『演武』『演芸』『講談』『演劇』

 『耐暑』『常在戦場』『殺陣』『必殺』『確殺』『同調』『花緑』『陽炎』『英雄』『超越』


 ぉぉおおおおお!? 一杯出て来ましたよ?

 ……ただ、どうにもよく分かりませんね?

 使った憶えも無い力も有れば、どういう物なのか意味の分からない力も有ります。

 そう思って注視してみれば、詳細が頭に浮かんできましたけれど……知識系技能とは便利すぎますね!?


 と、一度はそう思ったのですが、どうにも様子がおかしいです。

 「――とは何でしょうか!? 教えてくれ賜えーーー!!!」なんて、何度か神々へ問い合わせしながら確かめた事に依ると、どうにも私が神様技能『儀式魔法』を使えていない事も有って、今迄知られている力の使い方から悉く何かが違っていたりして、はっきりと示す事が出来ていないみたいです。しかも、私が初めての技能も多くて、そういうのはまだ名前も付いていない分、示す事も出来ないのだとか。

 輝石を作る力なんてそもそも示されていませんし、示されている技能にしても神様技能で憶えた人とは使い方も違うのだそうです。技能が有るからその技術を使えるのでは無く、それが出来る技術が有るから技能として認められている、そんな感じですね。

 これが人によると、技能が有る技術ばかりを磨いて他が疎かになっている事が多いから、私はそのまま技能を気にせず気の向くままに腕を磨くが良いとは、神様からの御達しですよ?


 序でに言うなら本来ならば技能には、私のランクを基準にして、即ちレベルBを越える技能に+を付けて、逆にレベルB以下なら表示がされないとの事なのですが……。

 どうも、そんな±が付くのは戦闘系の技能に限った話みたいでして、私の場合は『短剣術』や『短刀術』なんかはそれなりでしか無いのを、補助技能である筈の『魔力制御』とかで引き上げて使っているから、そのルールに従ってしまうと示される技能に戦闘系技能が無くなってしまうから、これはもう特例と主な技能は全て±抜きで示してしまっているのだとか。


 そういう事なら技能に拘る必要は無いですねと、私は冒険者協会の認識証を、裏面が見える様にしっかりと固定してから、少しその場から離れます。


「神々よーーー!!! 冒険者協会と同じ遣り方で、私の冒険者協会の認識証の裏書きに、技能以外の識別結果を『転写』してくれ賜えーーー!!!」


 神に直接願いを奉るなんて初めての事ですので、敬語になっているのか何やら微妙なところですが、再び天より溢れた金の光が、今度は私の認識証を照らし出したのでした。


 ささっと拾い上げれば、其処には暫定ランクBの文字が!


 これも、技能のレベルでは無くて実績でのランクなので、暫定とか何とか付いてしまっているそうですけれど、ちゃんと界異点に侵入して討滅するという手続きを取れば、暫定の文字も取れるそうです。


 そこからも、私が慣れたと感じるまでは、神々との対話を続けます。

 初めは神々の居場所から始まって、何処へ魔力を捧げればいいのかとか、魔力の捧げ方だとか、今答えて貰っている神は誰なのかだとか、そんな事を問い合わせます。

 問い合わせる内に、『儀式魔法』の遣り方も革められ、精度も上がって、捧げる魔力も減ってきました。何処に捧げられているのかを調べる為にも、軽く魔力の綱引きの様な事もしてみて、感覚は充分に掴めたのです。

 そして、最終的に理解した事。神々に捧げる魔力は、色を抜いた魔力にしないと効率が悪いみたいですね。それで私の支配下に置いてなければ、特に捧げようとしなくても必要分の魔力は持っていってくれるみたいです。

 つまり私は、ご自由にお持ち下さい状態の、色を抜いた魔力を用意しておくだけで、神様技能が、『儀式魔法』が、使えてしまう訳なのですよ!

 実際に『魔弾』を上空へ向けて撃ってみたりしましたけれど、ふはははは、魔力の塊が飛んでいきましたよ!


 ……まぁ、実際に『儀式魔法』を使う事は、知識系の技能を使う以外では少ないのでしょうけれど、使える様になったという事はそれだけで大きな進歩なのですよ。


 その頃にはもう夜明けです。

 太陽の光が照り付けた瞬間に、周りを覆っていた雲が、ふわっと上空へと移動します。

 神々へとお礼を告げてから、欠片程しか残らなかった薪の燃え滓を片付けて、幾らでも在る雨水でしっかり綺麗に洗います。

 服の水気を『根源魔術』で分離したら、上げ蓋を開けて砦の中に降りて、覗き見をしたまま眠ってしまったらしいライラ姫の横を摺り抜けて、執務室の在る階にまで降りてくると、領主様の執務室から領主様の気配がします。

 コンコンとノックをすると誰何の声が有りました。


「何じゃ? 気にせず入ってくるがいいぞ?」


 そう言われたので、扉を開けて入ります。


「ディジーリアです。お早いですね。お暇しようとしたところ、気配が有りましたので、ご挨拶に伺いました」

「おお! ディジーリア殿か。徹夜のお主には言われたくないが。ふむ……番をさせていたリアはどうした?」


 む? むむむ!? ……あ、ライラ姫ですね。愛称で呼ばれると、同じリアなだけに吃驚しますね。

 ライラ姫は番だったのですか。それは悪い事をしてしまったかも知れません。


「寝ていましたよ?」

「む、あの馬鹿娘め……。お主はいい顔をしているな。何ぞ掴めたか?」

「『儀式魔法』が使える様になりました!」

「ほう! それは何よりじゃな。では、もう王都へと行ってしまうという事か。寂しくなるが、何時でも帰って来るがいいぞ」

「はい!」


 それにしても気になるのは、今になっても視界にちらつく神々による『識別』結果です。

 『英雄』は大規模な厄災を退けた時に貰える祝福技能らしいですね。共に戦う者達を鼓舞し能力を引き上げるそうですが、私にそれを言われてもと思います。

 『超越』なんて響きは凄いのですけれど、異核の向こうの異世界に居る、侵略者達の大本に甚大な損害を与えた場合に貰える祝福技能です。時間制限付きで自分の能力を引き上げる事が出来るみたいですけれど、多分緊急回避的な感じにしか使いませんね。

 他にも色々、『殺陣』だとか『集中』だとか『花緑』だとか、知らない内に恩恵を受けていそうな物は有りますけれど、一際目を惹くのは『亜空間倉庫』でしょう。


 これから旅立つ私にとって、打って付けの技能ですよ?

 さぁ! 王都への旅の始まりなのです!

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