(32)ランク三冒険者というもの。

 では、ここでガズンガル達の軌跡を見てみる事としよう。


 日付で言うなら二十二日前。酒場でくだを巻いていたディジーリアに、ガズンガルが饅頭を押し当ててみた日の次の日の事だ。

 前日、久々のファルアンセスも交えての宴を楽しんで、ほろ酔い気分も残ったまま、いい気分でガズンガルは待ち合わせの場所へと向かった。

 冒険者協会へと続く坂道を上れば、既に待ち合わせの噴水広場にククラッカが待っているのが見える。飲んでいる時は陽気に騒ぐが、実はどれだけ酔っていても見た目正気を保つ事が出来る男である。

 今も澄まして串肉に齧り付いているが、実のところまだ真面な会話は成り立たない。素面に見えるのは見た目だけなのだ。いつもの通りに言葉少なく佇んでいるから、仲間の他は気が付かないだけの男である。

 そんなククラッカの下を目指して、生ける屍の様にダニールシャが躙り寄っている。その様子は今にも死にそうに見えて、実はククラッカよりも余程頭が働いている。今、何か事件が起こって意見を求めるとするなら確実にダニールシャの方なのに、周りの評判は真逆を行くのが憐れを誘うというものだが、それを気にしないのもまたダニールシャという女だった。

 そこへ合流しようというガズンガルは、飲んでる姿はへべれけでも、一日経てば元通りなので、街の評判で言えばダニールシャ一人が割を食っている状態なのだが……。

 下手に集られても面倒臭いと寧ろ今の状況を歓迎しているダニールシャは、敢えて残念な姿を晒している向きがある。いや、それが残念な姿だと自覚しておきながら晒す事こそが、残念と言われてしまう所以なのだろう。

 見た目はぴんしゃんしている二人の男に、集る様に絡んでいる残念美女。街の住人からどこか呆れた視線を向けられる、街の上位冒険者の姿。だがそれも、その日からまた探索に潜ろうという朝の、何時も通りの光景なのだった。


 森へ赴く冒険者が、酒を酌み交わすとすればいつだろうか。

 或る冒険者は当然の如く、無事に街へ戻った時だと言うかも知れない。

 それは確かに酒場へ行くにはいい動機であり、実際に昔はガズンガル達も探索帰りに酒場へと足を向けていた。

 だが、ガズンガル達のパーティにはダニールシャがいる。幾ら残念美女のダニールシャでも、身嗜みにはそれなりに気を遣う。探索帰りで汗が冷えれば、体も匂えば装備も匂う。直ぐに直接の酒場行きは禁止され、一度湯屋で汗を流してから、酒場へ行くのがルールとなった。

 そうしてみれば、探索帰りの冒険者が、どれだけえぐい匂いを振り撒いているのかを知る事となった。鼻にこびり付いていた自分達の匂いが洗い流されてしまえば、同じ空間は耐えられるものでは無い。冒険者向けの酒場が南地区に固まっているのも、只南門に近いというだけの理由では無いのだと思い知った。


 そこで当時はまだガズンガルのパーティに居たドルムザックが見付けてきたのが、六番目の南門と冒険者協会を結ぶ道の途中に有る、コルリスの酒場だ。

 嘗てはデリリア領主ライクォラスや、冒険者協会支部長のオルドロスと共に王国中を駆け巡った仲間である槍騎士フィズィタールが酒場のマスターを務めるだけあって、訪れる客はそれなりにわきまえている者達ばかりである。

 それをして敷居が高いとも冒険者達からは思われているが、実際に客となってみれば、身嗜みに気を付けて他の客に絡んだりしなければ、多少の騒ぎは大目に見てくれた。

 馬鹿騒ぎをたのしむ店では無いが、酒を愉しむにはいい店だった。


 だが、何度か通う内に、探索帰りの酒場行きは少し拙いと気が付く事になった。

 探索帰りで疲れも有るところに、湯屋など入れば酒も愉しむ前に皆眠りへと落ちる。

 気が付けば、酒場の隅で毛布を掛けられている事が何度も有った。

 そんなこんなで、結局、酒場へ行くのは探索前の壮行会でというのが始まったのである。


 朝、どれだけ酒が残っていても、草原を渡り森へ着くまでには或る程度酒は抜ける。初日はどうせ湖での野営だから、魔物の脅威も大した事は無い。酒の匂いも湖で水浴びをすれば問題ない。

 そんな生活を始めたのがまだランク七の頃だから、初めの内は真面目な先輩冒険者達に渋い顔もされたものだが、ランクも四を超える頃にはそんな声も小さくなった。

 まぁ、気が抜けていても初日だけだと、湖の周りだからと酒盛りしている冒険者とは雲泥の違いだと言えば、今でも気の合う友人達には苛立ち混じりに腰の後ろをど突かれるものでは有るのだが。

 しかし、そんなこんなで、この数年問題は起きていない。

 今日もこのまま森へと向かう筈だった。


「ふむ、ガズンガルか。ザックの奴を見掛けたら、『技能識別』はしておく様にと伝えといてくれんか」


 情報収集に立ち寄った冒険者協会で、支部長のオルドロスにそんな事を言われなければ。


「ああ、支部長さん、何ぞ有ったかね?」

彼奴あやつめ、“裏戸”近くで二百頭近い森犬に歪犬を斃しておきながら、碌な報告に来もしない。そろそろランクも上がっていておかしくは無いからなぁ。いつまでも燻っているのは彼奴あやつの為にもならんだろうよ」


 その言葉に、ククラッカに体重を預けていたダニールシャが口を挟み、ククラッカがそれに続く。


「んあ~……ん、今日は、ドルム狩りにしようぜぇ? ぅぷ」

「嗚呼、奴は図体のでかさに反して『隠形』が高い。追い込むには力を合わせる必要が有るぜ」


 一体、何を何処へ追い込むというのか、ククラッカの表情は真面目腐っていて読む事が出来ない。


「ぅぷ……ガズンも本調子じゃねぇんだし、偶にゃ連れ立って街を彷徨うろつくのも、いいんじゃねぇか、あ?」


 その言葉に、ガズンガルは顔を顰めて胸を押さえた。

 肋骨が邪魔をするその奥に、ザリザリと砂をむ様な嫌な感触と、ゴリゴリとする鈍い痛みが今も続いている。

 今はこれで済んでいても、武技を繰り出そうとすると、この痛みは集中するのに酷く邪魔になる。

 俗に言う魔石病。魔の領域で過ごして、魔石が出来るのは人も同じ。

 それは、ランクA以上に到るには必然とも言える、高ランク冒険者の職業病の様な物だった。


「あー、普通にしていればどうという事は無いが、力を入れるとなぁ……。支部長さん、何ぞいい方法を知らんかね?」

「ん? 俺は魔石病になどなった事は無いから分からんぞ? 俺らはどちらかと言えば魔の領域よりも人界での活動が主だったからなあ。あれは魔の領域で無茶をする奴らが罹るものだ。恩恵も大きいが歪化の危険も有る。ま、休む時には休む事だな」


 魔石病は多くの場合、心臓の近くに結石が出来ている様なものだ。出来初めの細かな破片の状態では酷く痛む。或る程度大きくなり角も丸まれば痛みも無くなり、それどころか魔力や気を練るのにも通りが良くなる恩恵が有るのだが、そこまでが辛い。

 出来る事なら魔の森に入り浸って、とっとと魔石を安定させたいと考えていたガズンガルは、しかし頬を歪ませながらも首肯した。


「まぁ、仕方がねえ。今日は街の探索と行くか!」


 偶の休みだと、そう勢い込んで街へと繰り出した。

 だが、どうにもドルムザックが見つからない。孤児院の子供らに聞くと、街へ戻ってきているのは確かなのに、孤児院の他では噂も聞く事が出来なかった。

 それもその筈、ドルムザックはその頃孤児院近くの果樹園の上で昼寝を愉しんでいたのである。人目に触れなければ、話の種に上る事は無い。


「見付かんねぇなあ~……」


 ファルアンセスの実家で野菜尽くしを食いながら、ガズンガルはそうごちる。

 後の二人は漸く酒が抜けて、野菜の美味さに舌鼓を打っている。


「ガズンさん! お久しぶりです!」


 ファルアンセスの弟の、確かイリシディアルが、きらきらした眼で挨拶に来た。


「よ! お久しさん。――そーだ丁度いい、ドルムの奴を見掛けなかったか?」

「いえ? ドルムさんならしょっちゅう来ますけれど、今日はまだですね」

「そうか……眠れる巨人がそろそろ起きそうだから、もう一度一緒にやっていかないか誘うつもりだったんだがなあ」


 そう言うと、またイリシディアルはきらきらした眼を向けてくるのだった。


 因みに、ドルムザックは気が付いていないが、眠れる巨人と名付けたのはガズンガルだ。

 当時、ガズンガル達のパーティを抜けたドルムザックを、疎んじる様な空気が冒険者達の間に有った。

 その時も、ガズンガル達におもねるように近付いて来た冒険者の一人が、ドルムザックを悪し様に言うのを見兼ねて、ガズンガルが取り成した言葉が発端だ。


『いやいや、彼奴あいつは眠れる巨人だぜ? 俺がいつでも限界以上の力を振り絞っている横を、涼しい顔して付いて来るからなぁ。巨人が目醒めたら、俺なんざ置いてけ堀だな!』


 ねた顔をしていながら、随分と素直な性格だったのか、その男から話は広がり、何時の間にか眠れる巨人との二つ名はすっかりと定着していたのだった。


「ま、居ないもんはしょうがねぇか。改めて明日は森かねぇ?」


 結局の所、その日は三人で馴染みの顔を訪ねては、夜にはまたコルリスの酒場で飯を喰らう。縁起を担ぐ訳でも無いが、控えめながらも酒も飲む。


「あら? 今日は大人しいのね? もう少し行っとく?」


 小悪魔の様に酒瓶を振る給仕のディナに、ガズンガルがわたわたしていると、髭のマスターの朗らかな笑い声が響き渡った。


「ははは! 酒の力が無ければ口説く事も出来ないとは甘ったれめ!」

「そうだぜ! そんな事じゃあ、儂らのディナちゃんはやれんなぁ?」

「剣を振るうだけではのうて、男も上げねばのう!」


 マスターの言葉に続いて、店の馴染みが囃し立てる。

 コルリスの酒場は、その立地から、職人達も良く訪れていた。

 鍛冶屋のラルク爺や建具師のダイカンにいじられて、ガズンガルはテーブルに突っ伏した。

 因みに、ガズンガルの手にする大剣は鍛冶の領分だが、身軽さを身上とするククラッカの得物は大抵魔の森の素材で出来ていて、そういう物を扱うのは魔工師と言われている。他にも木工、錬金、調薬、等々、ランクが高く成れば成る程、頭の上がらない職人は増えてくる。

 そんな悄気返るガズンガルを肴に、ククラッカとダニールシャまでもが笑い声を上げるのだった。



 朝日に照らされながら、豊穣の森の中を湖へと向かって足を進める。


「嗚呼~~……すっきりした頭で歩く朝も、気持ちがイイねぇ! 今度から、打ち上げも盛り上げも、一日空けようぜぇ?」

「……まぁ、昔と違って探索も数日掛かりだ。それもいいかも知れんなぁ」


 おっさんとしか思えないダニールシャの言葉にガズンガルが答えると、ククラッカも、ふ、とニヒルな笑みを浮かべて肯定した。

 今迄それで無事だった事からの験担ぎと言えば聞こえはいいが、本当のところは惰性でしか無いのはお互いに承知の事だった。

 実際に初日から体に怠さを覚えながらの探索というものには疑問を感じないでも無かったのだが、長年の習慣というのは然う然う革まるものでは無い。

 何気無い日々の変化の一つでは有っても、これはいい機会だった。


「ま、あたしゃ、酒なんざ無くてもいいんだがね?」

「ふ、酒が無いと困る奴がいるんだ、仕方が無い」

「おほっ? 呑んでも呑まなくても真っ赤っかってか!? うはははは!」

「喧しいわ! ディナさんも当たりが柔らかくなって来てんだ! もう少しなんだよ!」

「ディナさん!!」「ディナさん!!」

「ええい! その口を閉じやがれぇ!!」


 懐から乾肉を取り出して口へ詰め込もうとするガズンガルから、笑いながら二人が逃げる。

 賑やかな道中だった。


 いつもは一旦休憩を取る湖の畔を素通りして、そのまま昏い森との境界近くの道を、“裏戸”と呼ばれる場所まで進む。並の冒険者なら三日掛かるだろう道も、ランク三のガズンガルを筆頭にランク五のダニールシャと、斥候ながらランク六のククラッカとなれば、夜に成るのを覚悟すれば問題なく辿り着く。

 自分達では歩く気軽さでも、ランク七や八の冒険者からすれば全力疾走に近いのだろう。ククラッカが付いて来れるのは、斥候故の身軽さに外ならない。


「少しばかり、昏い森が騒がしくなかったか?」

「そうかね? そんな日も有るんじゃね?」

「気配は濃かったが……ドルムが斃したのも、昏い森から追い出された群れかも知れんぜ」


 そんな事を話しながらも、今回の探索は豊穣の森でするものと決めていた。

 ドルムザックが撒き散らした森犬を目当てに、極上の狩り場が形成されている筈だった――


 ――のだが……。


「……いねぇなぁ。生真面目なドルムの事だから、死骸の始末までしちまったか?」

「後の奴の事も考えて欲しいもんだねぇ!」

「……まだ痕跡も無いぜ。場所が違うのが正解だぜ」


 そんな事を話しながら三日、“裏戸”を中心に探索を進めてみたが、どうやら目論見が外れたらしいと諦めた頃に、裏戸を大分と外れた場所でそれを見付けたのだった。


 見渡す限りの木の枝から、皮を剥がれて肉を削がれた森犬の死骸が吊されている。

 大地は赤黒く染まり、噎せ返る血臭やら何やらがもの凄く、


「地獄絵図かい!?」


 言った後にダニールシャがけたたましい笑い声を上げ始めたが、それくらい酷い光景が広がっていた。

 言いながらもぶら下げられた肉塊に炎を飛ばそうとするダニールシャを留め、ガズンガル達は肉塊を幾つか山に成るように集めていく。


「うわっぷ……ぅあ~~! 「障壁」が今程有り難いと思った事はねぇな!」

「全く、ダニー様々だぜ」


 見えない空気の壁を作り出す、土系統の『四象魔術』の恩恵を受けながらも、面倒そうにガズンガル達は溢した。

 一つ二つなら問題なくても、何百という死骸が視界を埋める状況では、森の自浄作用も追い付きはしない。立ち籠める臭気だけでも、疫病や蟲禍と、引き起こされる悪い予感には事欠かない。

 吊された蔓を斬り、その蔓を引き摺って死体の山へと投げる。その繰り返し。


「そう言や、あいつは魔術は苦手だったか?」

「剥ぎ取りしてる時点で、苦手も何も無いさね」

「……これは、貸し一だな」

「ああ、高い酒が飲めるぜ!」


 出来た死体の小山には、その都度ダニールシャが炎を投げ付ける。

 死体の処理だけで二日掛かった。

 辺りを見ても、流石に強過ぎる血臭には森の動物も魔物達も忌避の心が走るのか、丸で獣の姿が見えない。蟲達ばかりが飛び交うその一帯を、ガズンガル達も足早に後にするのだった。


「はぁ~……それにしてもさ、ガズンは街に留まる事を決めてんだねぇ」


 嘗て無く獲物の姿の見えない道行きに、道中の雑談も増えてくる。

 そんな時の話題は、此の所決まって冒険者としての進退に関わる内容だ。


「あたしゃどうしようかと、悩みもんさね。狩り場に辿り着くまでにこう何日も掛かられちゃ、ランクだって上がりゃしない。クアドリンジゥルの門も、いざ遙かってね」


 ランク二の異名として良く知られるクアドリンジゥルの門は、デリエイラの森とは真逆、王国の最北に位置する魔の領域を示している。

 大渓谷クアドリンジゥルの入り口に在る、門と呼ばれる大造形は、凡ゆる畏怖の感情を引き起こさずにはいられないものと聞いている。

 荘厳、壮麗、雄大、優美。自然の造形なのかも、人の手に因る物なのかも分からぬクアドリンジゥルの門。

 讃える言葉は数多く有れど、直に門を見た者程言葉を無くすのがクアドリンジゥルの門というものだった。


 しかしここでダニールシャがその名を挙げたのは、それがランク二の異名だからという事ばかりでは無い。

 偉大なるクアドリンジゥル大渓谷は、デリエイラの森とは違って、一日分も入り込めば其処はもうランク一、二の狩り場と聞く。魔物達の数も数え切れない程だとか。

 死がより身近でダンスしている様な環境ながら、上のランクも手の届く所に有るのがクアドリンジゥルの門だった。


 デリエイラの森の場合、森に一日入ったところで其処はまだランク七八の狩場。今ガズンガル達がいる場所は森に四五日入った場所であるが、それでもまだランク六七の狩場。稀にランク四五六の獣も現れるが、それすら注意していれば避けられるものだ。

 その癖、更に二日も南へ行けば、行き成りランク一二の危険地帯が現れる。否、群れを成す巨獣の住処を歩けるのは、実質ランク零以上の冒険者だけだろう。

 デリエイラの森には、ガズンガル達にとっての適正な狩場というものが少なくなっていた。

 その僅かな狩場が昏い森の奥地であり、ほぼ唯一の適正な獲物が黒大鬼ではあったが、狩場に辿り着くだけでガズンガル達の足で三日は掛かる。狩りの成果を携えての帰りは六日は掛かる。如何いかんせん狩り場までが遠い。魔石だけを集めていれば帰りの日数は稼げるのかも知れないが、街で期待して待つ者達の事を考えると、素材も疎かには出来ない。その素材にしても、六日の帰り道ではどうしても質が落ち、それにもまたもどかしい思いを抱える事になるのだ。


 目指すのはデリラの街の英雄。しかしその手段はデリエイラの森には無く、憧れのクアドリンジゥルの門は遙かに遠い。


 確かに手近な場所にも、はぐれの巨獣が居ない訳では無い。そういったはぐれを狩れば、ある程度満足する成果を出す事も出来るだろう。

 しかし、そんな事はもうやり尽くしていた。

 はぐれというだけ有って、その絶対数は少ない。一度狩り尽くせば、回復には長い時間が掛かった。南の危険地帯での縄張り争いに敗れた個体を、幾ら楽に倒せる様に成っても、南の危険地帯を抜けられる訳でも無い。

 つまり、成果は有っても成長は無い。それでは探索者では無く散策者だ。


 今もまた、南の危険地帯の向こうに見えるのは、噴煙を上げる巨大なクラカド火山だ。

 ランク零冒険者のみが辿り着ける、デリラの街の命綱とも言える金鉱山。

 『亜空間倉庫』の祝福技能を持つランク零冒険者で無ければ意味が無い、巨獣の巣を間に挟んだ宝の山。


 目の前に、定期的に訪れるランクA以上のの冒険者に依頼するしか無い、そんな金枝の実が見えているから余計に焦りは募るのだ。

 デリラの街を支えたくて冒険者に成ったのに、肝心な部分は自分達の手で成し遂げられない。自らの不甲斐無さを責める、そんな忸怩たる思いを抱えてしまっている。


 妙な獲物の少なさに首を傾げながらも、適当なはぐれを狩って湖に帰り着いたのが十三日前。ディジーリアが瑠璃色狼を鍛えている頃の事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る